The Back Rooms Story 〜Fanmade〜 作:犬社長
人は己の理解の及ばないモノと相対した時、どの様な行動を取るのが正解だろうか。
しかし、
明確な殺意を持っていたら?
ならば答えはただ一つ。
「「「逃げろぉぉっ!!!!」」」
脱兎の如く逃げるのみだ。
『オオオオオオォォォォイッッッッッッ!!!』
鼓膜を揺らす悪魔の如き絶叫にジョン達は、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「何なんですかアレ!!何なんですかァァッ?!!」
「知るかぁッッッッ!!!だが、歓迎されてねぇのは確かだッッ!!!」
皆、脇目も振らずに走り続ける。しかし、自分たちを追いかける足音はみるみる迫ってくる。
「ダメだ!!速すぎる!!追いつかれるぞっ?!」
「歩幅が人間と違いすぎる!狭いところを通れ!!!」
叫びながらジョンは後ろを振り返って自分たちを追いかけて居るナニかの正体を見ようとした。
ソレは今まで見て来たどんな生き物と一致しない姿のまさに異形の怪物だった。
針金が絡み合って出来たかのような異常なまでに細長い四肢。
顔の部分は真っ黒で目も鼻も口も見えない。
そしてソレは巨大だった。おそらく身長は3mぐらいだろう。
「ッッ!!…なんだよアレ…生き物なのか!?」
戦慄が走る。アレに追いつかれた時一体どんな運命が待っているのかなんて、考えたくは無かった。
そんな呟きを聞いたベックが怒鳴る。
「とにかく走れ!!アレが何にせよ追いつかれた終わりだッッ!!」
「……!!畜生ッ!!」
そうだ、考えるのは後だ。今はただ、この状況を打破するのが先だ。
ジョンは走り続ける。体が洒落にならないぐらい重い。バックルームを長時間彷徨い続けた疲労が全員の体力を奪っていた。
後ろの怪物が細い手を伸ばす。驚く事にその手は異常な程長く伸びた。
『オァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!』
そしてその手は一番後ろを走っていたフィンを掴む。
「フィン!!」
「しまっ……。」
『ォォォォオ……。』
怪物がフィンを掴んだ手を振り上げた。ふわりと彼の体が宙を浮く。
そしてそのまま……
「あ、」
彼を床に叩きつけた。
ボグッと重い音が響き、フィンが叩きつけられたカーペットが千切れて宙を舞う。叩きつけは一回では終わらない。
ドガッ、フィンの腰あたりが九十度外側に向かって折れ曲がる。
バキッ、彼の防護マスクが顔から外れ血と一緒に宙を舞う。
メキッ、ボロ雑巾のようにフィンが叩きつけられ、床に放射状のひび割れが入る。
そして、ポイッとフィン
「嘘だろ…………。」
ジョンが呟く。
怪物は、黄色のボロ雑巾となったフィンにもう見向きもしない。そして、フィンはもうピクリとも動かなかった。
「いや、…そんな…そんなコト…。」
フィンが…死んだ?フィンが…フィ…フ…ーーーーーーーーアレ?
ふと感じる違和感。
あれ?
「おい!何立ち止まってんだ!!Mr.ジョン!!」
いつの間にか立ち止まってしまっていたのだろう。ベックの叫び声で我に帰る。
「
「あ、ああ分かった!!」
そうベックに返事を返してジョンはピーターと走り始める。
(……?なんだか大事な事を忘れている気がする…。)
走りながらも凄まじい違和感を頭が感じていたが、生きるか死ぬかの瀬戸際に忘れたことを思い出そうとしてる場合じゃない、とジョンは頭を切り替える事にした。
怪物は未だ自分達を追いかけ続けている。ジョン達三人は化け物が通りにくそうな狭い場所を選んで逃げ続けた。
肺が痛い、苦しい、足が熱い。それでも走り続ける。
(こんな所で…こんな所で訳わかんない死に方してたまるか!
もはや、声すら出せずジョンは心の中で叫んだ。
ーーーーーーーーしかし、現実は何処までも残酷である。
次の怪物の餌食となったのは、ピーターだった。
「えっ。」
ゴムのように伸びた漆黒の細い腕にピーターが絡め取られる。
「ッッッッ!?ダメだ!!ピーターッ!!!!」
後ろに引き寄せられて行くピーターに手を伸ばすが届かない。
「ジョン…助け……。」
伸ばした手の先で、ピーターが残像が残る程勢いよく壁に投げ飛ばされる。
そしてそのまま、
「ピーターァァァァァッ!!?」
思わず、ピーターが消えた壁に向かって駆け寄ろうとするジョン。しかし、彼の腕をベックが掴んで引き戻した。
「よせ!お前まで死ぬ気かッ!?」
「……ッ!…ああっ!くそッ!!」
ベックに引き摺られるようにしてジョンは走る。怪物はピーターが消えた壁を少しの間不思議そうに眺めていたが、すぐに此方に顔を向けた。
『オオオオオオオオオオオォォオオオン!!!!』
轟く絶叫。
只々、二人は逃げる。部屋を横切り、廊下を渡り怪物から逃げ続ける。
そうして逃げ続けている内に一本の長い廊下に辿り着いた。しかし、その廊下の突き当たりには、人一人がやっと通り抜けられるような隙間があるだけでそこ以外には逃げ道がない。
「……ベック、この道狭いぞ!道って言うよりかただの隙間だ!!」
「でも、ここ以外に行き場所がねぇ!!お前が先に行け!」
「それじゃあ、アンタが追いつかれる!!」
「二人纏めてくたばるよりかはマシだろ!」
そう言ったベックはジョンをその隙間に押し込む。
「ベック………良いのか?!」
「……今は黙っていてくれ、Mr.ジョン。」
「………!」
しかし、太り気味の体はなかなか隙間を進んでくれない。そうしている内に怪物の迫りくる足音が二人の耳に聞こえて来た。あの細い脚で立てているとは到底思えない地響きの様な音だ。
「不味いぞベック!!すぐ後ろまで来てる!!」
「分かってる!!先に行け!!」
そう叫んだベックが力を込めてジョンを隙間の向こうに押し出す。
ドサリと押し出されて床に転がるジョン。隙間の反対側からベックが息を切らしながら言う。
「はぁ、はぁ……次会う時までに……絶対痩せとけよ。」
ベックの真後ろで黒い怪物が手を振り上げた。
「ダメだ!!ベックッッッッ!!」
ーーーーーーードスッ!!
ベックが胸を怪物の手で刺し貫かれるのを、ジョンはただ見ることしかできなかった。
「…何でだよ……三人で一緒にって……思ってたのに…どうして、こんな…!」
手で顔を覆いヨロヨロと後ずさる。
(ピーターもベックも……
また、一瞬頭に霧がかかったような気がした。
(
ジョンはまた一つ、大事な事を忘れてしまった。しかし、彼にその自覚はない。もう、思い出すことはないだろう。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
「……これから、どうすれば………ん?」
遂に一人になってしまったジョンが顔を上げると、すぐそばの壁に見慣れた物があった。
古ぼけては居るが…確かにそれは今まで何度も見て来た物でーーーーー。
「………これってエレベーター?」
そう、黄色い壁にこれまた不釣り合いな色合いの銀色のドアを持ち、存在を主張するモノ。エレベーターだ。
近付いてみると錆び付いた下向きの矢印がついたボタンが一個付いている。どうやら、このエレベーターは下にしか行かないようだ。
(何でも良い…ここから離れられるのなら…。)
もう、あんな怪物のいる場所には居たくない。そう思ったジョンはそのボタンを押した。
微かな音ともに扉が開く。それにジョンが乗ると扉は独りでに閉まった。
(一体、これは何処に行くのだろう。)
そんな疑問を抱いたジョン。エレベーターは降下を開始する。黄色い部屋が扉の窓からフェードアウトしていく。
しばらく窓の外には暗闇が続いた。
(ピーター……。)
壁にもたれ掛かりジョンは今日の日の事を思い返していた。
(それにしても、さっきから何か忘れて居る気がするが…まぁいいか。)
何かが頭にずっと引っ掛かって居るものの、それにはジョンはほとんど気に留めなかった。
(……しかし、だいぶと長い時間下に降りて居る気がするな)
ジョンがそう思った時、エレベーターが小さく揺れて止まった。
外にもう暗闇は広がっていない。そこは明るい蛍光灯の明かりに照らされていた。
ポーーーンと軽やかな音と共にエレベーターの扉が開く。
階層を示す電光盤にはこんな文字が表示されていた。
Level 1 <Habitable zone>
次回、トム・マクフライ編開始!!!