器用貧乏な麦わらの一味   作:millseross

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設定集は考えまくってる。...が、出すのは先になりそう。続くかも不明。楽しみます!


イーストブルー編
ヤツが来た!


今日も習慣である日誌を書くために筆を執る。今までも何度となく、僕は俺であった頃のことをこの日誌に書いたことがあった筈だ。こうして定期的に記しておかなければ、僕と俺の記憶の境界線が曖昧になり、いつしか俺の事を忘れてしまうかもしれないという恐怖があった。

 

産まれる前の俺は、■■■■という名前をもって現代社会を生きていた。え?名前が見えないって?問題ない、見えないってことは大して重要じゃないってことだからな(震え)。

 

幼なじみで同級生の角が生えた女の子なんて居るはずもなく、遊園地に一緒に行くような彼女もいなかった。

 

いつものように疲れた身体で会社から帰っていた俺は、犬と散歩をしていた小さな女の子をなんとなしに見て癒されていた。これだけ言うとなんか危ないヤツだな。

 

で、女の子に向かってフラフラと近づいてくる黒いコートを着た男が見えたもんで、あーこりゃコートの下はバカには見えない服を着たド変態野郎とかいうオチかと思って警戒した。

 

流石に小学生になるかならないかくらいのいたいけな女の子に、そんな超ド級のトラウマを植え付ける訳にはいかない。(俺も出来れば見たくないが。)

 

自然体を装いつつ女の子を追い越して、黒コート野郎が女の子の視界に入らないようにしつつ通り過ぎようとした。女の子はキョトンと不思議そうな顔をしたが、俺は笑って誤魔化した。

 

勘違いならそれでいいと、むしろ勘違いであってくれと内心ドキドキしながら歩いてたんだが。やはりと言うべきか、そいつはキチガイ野郎だった。誤算だったのは、コートの下に裸体を隠しているのではなく、包丁という本来は食材を切るための刃を隠していたことだった。

 

咄嗟に女の子に覆いかぶさった俺を滅多刺しにした男は、女の子が連れていた犬(シベリアンハスキー的なめっちゃかっこいい系の犬)が吠えて噛み付いて追い払ってくれた。ありがとう、犬。俺の血がついて綺麗な毛並みが赤く染ったのは正直ごめんと思う。後で家族と一緒にお風呂に入って元のフサフサを取り戻してくれ。

 

女の子がわんわん泣いて、犬もワンワン鳴いて、俺もわんわん泣きたい程痛くて熱くて、でもそんな元気もなくて。そのなき声に気づいた人達が集まってきたのを視認し、大人が集まってきて安心したのかわからんが、そこで俺の意識は途切れた。

 

で、気がついたら、体が縮んでしまっていた。齢3歳のアルビノ美少年に乗り移った俺は、そこから波乱万丈と言う一言では些か足りない気もしないでもないが、まぁ紆余曲折な16年の人生を経て。

 

今、日誌を書くに至る。という訳だ。

 

え?波乱万丈とはなんぞや?紆余曲折を詳しくって?ははは、聞いてもあまり面白くないと思うが、まぁ機会があればいつかは話そう。そりゃもう、語るも涙なカタルシス、聞くも涙なキクルシスな物語だ。キクルシスってなんだ。

 

さて、前置きが長くなった。流石に名前がないってのは不便だから、この世界での僕の名前を紹介しておこう。白に近いプラチナブロンドの艶やかな髪をもつこの色白美青少年の名前はソラという。美しき母親に与えられた名である。一人称も肉体に合うように僕へと変えた。もう15年以上も寄り添ってる肉体と名前だ。流石に慣れた。

 

現代で死んだ俺の肉体はそのままに、魂魄だけが当時3歳だったこの身体に乗り移った。まじで寝て起きたら身体縮んでてやばたにえん。ってなった。一周まわって落ち着いたもん。

 

俺の意識では16年間この身体を使ってソラと名乗っているのだが、俺の意識のない僕が3歳までに培った知識や経験もちゃんと残ってるらしかった。英語なのにちゃんと文字が読めたのはその為だ。閑話休題。

 

そんなこんなで、今日も1日むさ苦しい野郎どもばかりの戦場へと身を投じるのである。それに、今日は月に一度のスイーツデー。即ち、シェフパティシエである僕が厨房のメインを務める日である。

 

ドンドンドン!とノックと言うには些か強すぎる音が鳴る。ドアを壊す気か。え、蹴ってるんじゃないよね?やめて?戦闘じゃないんだから。

 

「おいソラ!クソジジイがブチ切れ寸前だ早くしろ!」

 

「はいはーい、今行くからそんなに怒鳴るなって。」

 

ったく、そんなに急がなくたって客は逃げないってのに。

 

コック帽をかぶり、身だしなみを整え自室を出る。目の前には兄弟子とも義兄弟とも呼べる相手、サンジが呆れたような顔で立っていた。

 

「何してたんだよこんなギリギリまで。」

 

「日誌書いてた。」

 

「普通そういうのって一日の終わりに書くもんじゃねえか?」

 

「いいのいいの、ただの趣味だから。書きたいと思った時に書くから質のいい日誌になるんだよ。」

 

「質のいい日誌ってなんだよ...、まぁとにかく急げ!今日のメインはソラなんだから!」

 

厨房に足を踏み入れた瞬間に怒号を浴びせられる。このSS物語の主役たる僕に怒鳴り散らすとはなにごとだ。

 

「いつまでチンタラやってやがんだソラぁ!今日はてめぇがメインシェフの日だろうが!」

 

人間らしさを主張する機能美を兼ね備えた義足と三つ編み髭、高すぎて逆にバカっぽいコック帽。この口の悪い爺さんこそが僕の雇い主、オーナーシェフである。

 

サンジと同じこと言ってるよ。仲良いよね、実は。喧嘩するほどってやつ。

 

「まぁまぁ爺さんも落ち着きなよ。そんなに慌てなくても、予定通りの時間なんだからさ。」

 

「こんなにギリギリに来るやつがあるかっ!」

 

5分前行動とか無理なんだよね。料理する時は秒刻みでスケジュール管理してるから、1分でも前後しちゃうと全ての味が崩れちゃう。スイーツ作りは特にそれが顕著なんだ。

 

「みんな集まってるねー。じゃ、やろうか。」

 

調理道具を手に取った瞬間に、身に纏う空気が変化する。それが伝播するように、ここにいる全員の、そして厨房の空気がピリついていく。今からここは、戦場と化す。

 

 

&&&

 

 

「ミルフィーユ完成。誤差1秒未満、完璧だ。4番テーブルまで持ってって。5番のタルトも9割終わってるね、アントルメンティエ、出番だよ。」

 

「はいっす、ソラさん!流石っすね、こんなに手早く1人で1品作り上げるなんて!」

 

「4番テーブルの客はちょっと特別っぽいからね。8番テーブルのパフェはまだ?」

 

「生クリームがまだですっ。」

 

「28秒遅れてるからセカンドグラシエがアシストついてやって。...おいちょっと待てこのラテアート作ったの誰。泡立ち悪くて何描いてるかわかんない。なにこれ、ポメラニアンを描こうとしてティンダロスでも召喚したの?冒涜的だな、やり直し。」

 

「ごめんソラちゃんそれ描いたの俺っ!」

 

「パティかよ。なんでそもそも絵心ないやつが率先してラテアートなんて作ってんのバカなの。余計な仕事増やしてんなよ。サンジに描かせたらいいじゃん。」

 

「あいつ今ホールで美女口説いてるからぁ!」

 

「諸悪の根源かよ。」

 

この忙しい時によくそんなこと出来るな。普通に余裕ないってのに。

 

「つか爺さんは?どこいったの?」

 

「甘い匂いが堪えたそうです!2階の自室で休憩してます!」

 

「クソジジイがよぉ。トップ2人がマイペース過ぎんだろ。だれかこの失敗したラテアート爺さんに持ってってやって。」

 

(((スイーツ作ってる時のソラさん怖ぇぇ!でも優しい!そしてマイペースなのはトップ3人です!!)))

 

喋りながらもみんな手は動かしてる。感心感心、スパルタ教育の賜物だな。最初の頃は使えなさすぎてストレス溜まりまくってたけど。

 

ボカァァァーーーンッ!!!

 

キャァァー!!

 

「...あ?何今の砲弾みたいな音。ホールから悲鳴も聞こえたし。爆発音は2階からか?」

 

ちょっと待った。2階から爆発音?ってことはまさか、ついに原作来ちゃった感じ?

 

「ちょっと厨房任せるよ。ホールがザワついてるから宥めてくる。今入ってる客と今日これから入る客全員に、お詫びとして1品ずつサービスするからそのつもりで。手休めんなよ。」

 

「「「了解です!!」」」

 

いい返事。さて、ホールは〜っと。ザワザワ...ザワザワ...。ここはいつから賭博場になったのかな。

 

サンジまで驚いた顔でフリーズしてるし。あ、なんか客ともめ始めた。うわボッコボコに蹴りまくってんじゃん。あれ海軍の人だよね。やばくね?てか副料理長なんだから、売られた喧嘩を買うんじゃなくて、まず客を落ち着かせろよ。

 

「ご来賓頂きました紳士淑女の皆様方、お騒がせして大変申し訳ございません。現在騒ぎの原因を調査中でございますので、どうぞお気になさらず、当店自慢のスイーツをご堪能くださいませ。」

 

ホールに入ってきた僕を見た客が、ほっとした様な顔をする。そして僕の顔を見た女性のほとんどが、ぽっと頬を赤らめ顔を背ける。

 

わかるー。この顔、いいよねぇ。まぁ眼帯してるんだけど。それでも分かる顔の良さ、そこにシビれるあこがれるぅ!色白美形はどの世界でも重宝されるからありがてぇ。。

 

ちなみにこの身体、見た目もいいし手先も器用でスペックめちゃくちゃ高いんだよなぁ。身長が小さいのが難点だけど。サンジと20cmくらい差があるんだよ、身体は同い年のはずなのに。

 

え?自己自慢よりもボッコボコにされた海軍の介抱をしろって?見えない見えない。僕には何も見えてないのです。てかこいつそこそこの下っ端じゃなかったっけ?確かフルボディ大尉、とかなんとか。大尉って偉いんだっけ?

 

「ソラ、何があった?」

 

「さぁね。とりあえず原因の特定より、お客様を落ち着かせることを優先すべきだろ?どっかの誰かさんがホールでサボってなきゃ僕が出張る必要もなかったんだけど。」

 

「ぐっ、、悪かったって。」

 

「ごめんくださーい、砲弾ぶち込んだのは俺です!」

 

おぉ、やっぱり来た。つか普通バカ正直に言うかね。確か海軍が打ってきた砲弾を弾き返したんじゃなかったっけ?まぁ海賊捕まえるのが海軍の仕事だから、その行動は間違ってない。間違っているのは仕事中にサボってうちの店に来ることだ。客として来るんなら拒む理由もないけど。

 

「あぁ!?テメェが砲弾をぶち込んだだぁ!?うちの店に手ぇ出してタダですむと思ってんのか!!」

 

輩じゃん。こわぁ、目イッちゃってるよ。まぁ何も知らない状態で、自分の宝ぶっ壊されちゃそりゃ怒るけどなー。

 

「はいはい、とりあえず君の処遇はうちのオーナーが決めるから。一緒に来てもらうよ。」

 

「...ん?お前が店長じゃねぇのか?」

 

「なんでそう思ったのかは知らないけど、僕のお店の立場は上から3番目だよ。ま、どうでもいいから早くきなよ。」

 

「おう!わかった!」

 

「じゃ、サンジ。こいつ爺さんとこ連れてくから、店はよろしく。」

 

「おーおー、殺されないよう祈っとけ、クソ麦わら野郎。」

 

「はっはっは、死んでたまるか!」

 

わざとじゃないとは言え、ちょっとは反省しろっての。はぁーあ、分かっちゃいたけど。これが船長か。

 

まったくもって、面白くなりそうだ。この麦わら帽子の少年に会う為に、遠路はるばるイーストブルーまで来たんだから。随分と時間がかかったけど。

 

ホールを出る際、客に一礼を忘れずに。左手を胸に、右手を腰に隠すように。随分とこの所作にも慣れたもんだな。見てみ?流麗な礼にみんな見とれてるぜ。中身が僕じゃなかったら最高なんだけどなー。

 

あ、ついでにラテアートと救急箱も持ってこ。

 

爺さんの部屋の扉をノックする。返事がない、ただの屍のようだ。もう一度ノックし、ガチャりと扉を開ける。

 

「爺さ〜ん、生きてる〜?え、ちょっと大丈夫?」

 

椅子から派手に落ちた状態の爺さんが居た。所々裂傷や擦り傷が出来てて痛そう。部屋も結構吹き飛んでるし。まぁでも生きててよかった。とりあえず机にカップ置いて、肩を貸して座らせてやらないと。

 

「...それで?こいつはなんだ。」

 

僕に手当されながら、カップを手に取りラテを微妙な顔でじっと見つめ、そのまま啜る爺さん。髭に泡ついてら。はいハンカチ。てかそれ飲むの手当て終わってからにしてくんない?微妙にやりずらいんだけど。

 

「俺はルフィ!海賊王になる男だ!」

 

おぉ!生で聴きたいセリフ上位がこんなところで聴けるとは!うへへ、幸せ〜。表情には出さないけど。

 

「海賊王だぁ?おいソラ、なんだってこんな奴を俺の部屋に連れてきやがったんだ。こっちは休憩中に砲弾くらってそれどころじゃねぇんだよ。いっつ、おいもうちっと優しくしねぇか。」

 

「うるさい、そもそも勝手に休憩なんてしなきゃ怪我もしなかったんだよ。ったく、明日っからどうすんのさ。それと、このルフィ?が砲弾ぶち込んだ犯人なんだって。さっき自首してきた。」

 

「...そうかテメェが「ぎぃゃぁあ〜!!脚がぶっ飛んでるぅぅー!!?」...やかましいわ!!」

 

あー爺さん片方義足だから。まぁ原作みたいな木の棒で作った簡易義足なんかじゃなく、僕が設計した高性能義足なんだけどね!耐寒性、耐熱性、対腐食性、耐衝撃性、防錆性を有した超硬義足だ。ちゃんと人の足を模してあるけど、さすがに肌の質感とか色とかは素材の関係上表現出来なかった。それでも、パッと見は義足に見えない様な材質を使ってるんだけどな。よく気づいたなぁルフィ。

 

ちなみにこの義足、いつもお世話になってるからって誕生日にプレゼントしたら、ちょっと泣きそうな顔してたんだよね。サンジがそれを指摘して半殺しにされてたんだっけ。うける。

 

「いや、その足は前からだから。ルフィが原因じゃないよ。そこは気にしなくていい。」

 

「なぁーんだ!あっはっは、よかった!」

 

「「よくねぇよ。」」

 

「大人気海上レストランバラティエのオーナーシェフに怪我をさせたことへの医療費。破壊された船の修繕費。本日いらっしゃったお客様へ不安を抱かせたことのメンタルヘルスケア費用に、お詫びとして1人1品ずつサービスしたスイーツの料金。〆て...」

 

「1年の、雑用タダ働き。それで手を打ってやる。」

 

うわぁ、輩がここにも居たぁ。まぁ元海賊だし間違いじゃないけど、ふっかけるなぁ。んでも、1年間もルフィに雑用されちゃ多分この店崩壊するわ。ちゃんと原作通りに最弱の海での最強(笑)が来てくれないと困るな〜。まぁ来るんだろうけど。よし、手当終わり!

 

「1年!?バカじゃねぇの、おっさん。」

 

「バカとは何事だぁ!!料理長ハイパー義足キィーーック!!!」

 

「ぎゃぁあああ!!!」

 

「何バカやってんの。」

 

 

&&&

 

 

「1週間にまけてくれ。」

 

「おい舐めんなよ、さっきのソラの話を聞いてなかったとは言わせねぇぞ。てめぇごときが1週間タダ働きしたくれぇで、雀の涙ほどの落とし前もつくめぇよ。」

 

いや、むしろ1週間もいてもらっちゃ困るのはこっちなんだけど。3日間でも大損失だと予想してる。

 

「いやだ!!1年も冒険出来ないなんて耐えられるわけがねぇ!よし、決めたっ。1週間で許してもらうと俺が決めた!!」

 

「決めたじゃねぇんだよボケナスがァ!!料理長ハイパー義足かかと落としぃぃーーー!!」

 

「ぐぇーーっ!?」

 

とりあえずゴタゴタが落ち着くまでは置物に徹しておこう。巻き込み事故、ダメ、ゼッタイ。

 

にしてもよくもまぁこんなコントみたいなことを素で出るよね。2人のテンションが高すぎてついていけないよ。精神年齢はいい歳だからねぇ、僕。あれ、それでも爺さんより下だ。なにやってんの、爺さん。

 

あ、待ってなんか床がミシミシ言ってる。これ、やばくない?下はホールに直結してるんだけど。

 

「ねぇ、ちょっとお二人さん。その辺りで...。」

 

「料理長ハイパードロップキィーーック!!!」

 

「ぎゃーー!!!」

 

あ、床抜けた。

 


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