器用貧乏な麦わらの一味   作:millseross

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キルシュトルテはランチの後で

「いててて...。」

 

「つぅ、クソったれがぁ。おいソラ、無事か。あーあーなんてこった、俺の店の天井が。」

 

「.......。」

 

いてぇ。こうなることを知っててちょっと離れたところに立ってたのに。びっくりしたからなのかなんなのか知らないけど、わざわざ腕伸ばして僕の美脚を掴んできやがったぞ、このゴム人間。ありえないんだけど。もぅまぢ無理マリカしょ。。。

 

「とりあえず、僕の脚から手を離して。」

 

「あ、わりぃ。咄嗟に掴んじまった。」

 

ったくもー、どうすんだよこれ。見栄え最悪超目立つし。一流レストランの天井に穴が空いてるなんて。客の心象も悪くなっちゃうよ。信頼ガタ落ち〜。

 

「てめぇのせいだ小僧!!」

 

「おっさんが悪いんだろ!?」

 

「そんなことよりオーナー!ソラさん!サンジの奴を止めてください!」

 

うわ、その件は僕に振らないで欲しい。せっかく知らないフリしてたのに。見えてなかったのに。というか、そんなことよりってなんだ。店の天井より大事なことなんてそうそうないぞ(いっぱいある)。

 

「おいサンジ、てめぇまた店で暴れてやがんのか...!」

 

「うるせぇなクソジジイ。こいつがボロ雑巾みてぇに床に倒れてんのは、こいつの自業自得だ。俺がどれだけ偉いだの、この店を潰すだの...。しまいにゃ出した皿にケチつけやがった。」

 

「黙りやがれっ!俺のレストランを潰す気かぁ!!」

 

「ぐっ!!」

 

あーあー。また傷こさえてら、サンジのやつ。毎日毎日蹴り合いとあっちゃ、生傷が絶えるはずも無いけど。誰が手当すると思ってんのかねぇ。

 

「誰が出した皿にケチつけようがてめぇの勝手だがな、勘違い野郎...!今日この日、てめぇに出した皿だけは!!堕とされるのは我慢ならねぇんだよ!!」

 

「...4番テーブル。チッ!テメェもさっさと出ていかねぇかっ!!!」

 

「ぎゃあっっ!!」

 

見てない見てない。なんにも見てない。オーナーシェフが客の海軍に脚を上げたなんて僕は知らない。見えてない。

 

「なーなー。あの大砲男、なんであんなに血塗れなんだ?それに、アイツらなんであんなに怒ってんだろうなー?」

 

「血塗れなのは、サンジがボコボコにしちゃったからだよ。さっき会ったでしょ、あの金髪の。サンジと爺さんが怒ってる理由は、僕らが作った料理にケチをつけられたからだよ。」

 

プロってのはどんな職種であれ、自分の仕事に誇りと責任を持っている。常に自分に厳しく、常に上を目指す生き物だ。だからこそ、自分か認めたモノにケチつけられるのは我慢ならないんだろう。ケチをつけた相手が素人なら尚更さ。

 

「ふーん。そんなに美味ぇのか?ここの料理。」

 

「あぁ、美味いよ。」

 

海上レストランバラティエは、爺さんとサンジと僕が作り上げた一流の店だ。美味いかと問われたら、10人中10人が美味いと即答するレベル。

 

でも一流レストランで料理の質がいいのなんて当たり前。だから、目を掛けるべきは料理以外の部分。それは従業員の質であったり(間違っても客に暴力をふるってはいけない)、店の外観や内装であったり(天井ぇぇ...)など、料理以外のサービスや対応の質を重視する。

 

「うんめへへへへー...。なんだこれゲロうま!もっと食いてぇ!なんて言うケーキだ!?」

 

「それミルフィーユって言うんだよ。ん?え、それそっちの海軍さんに出したヤツじゃ...。」

 

「「てめぇは何勝手に店の料理に口つけてんだぁぁー!!!!」」

 

「ぶへぇぇーー!」

 

またコントやってるよ。赫足と黒足(未来)のダブルキックなんてそうそうお目にかかれないぞ。すんごい貴重なシーンだ。脳内永久保存決定だな。

 

「たっ大変です!フルボディ大尉!!」

 

なんか外に死にそうな気配の人間が居るなぁ。しかも銃持ってるし。撃ちそうだし。

 

「申し訳ありません...船の檻から逃げられました!!海賊クリークの手下を!!!」

 

「ばかなっ!どこにそんな体力がある!?捕まえた3日前には既に餓死寸前だった!以降何も食わせちゃいねぇんだぞ!!」

 

うへぇ、終わりのない飢餓状態なんて、想像したくもないね。酷いことをするなぁ。海賊の末路なんてそんなもんだって言われたら何も言えないんだけど。

 

パァンっ!

 

「がっ...!」

 

キャーーー!!!

 

あぁ、今日は厄日だ。店に砲弾はぶち込まれ、爺さんは怪我をして、天井に穴が空き、海軍の人の血が流れる。床に血が着いちゃうよぉ...血って落ちにくいんだよな...。

 

「お客様、1名入りやしたァ。」

 

お前はもっとテンション上げて接客しろパティ。まだ客じゃないと決まったわけじゃないだろ。

 

「また俺の店で暴れようって輩じゃねぇだろうな。」

 

そう言わなかったらワンチャンあったかもしれないねー。いや、ねぇな。ルフィがいる所には厄介事が舞い降りるんだ。某死神メガネ小僧のように。

 

「ふぅーー。」

 

タバコっておいしいの?

 

コッコッコッ。

 

「なんでもいい。飯を持ってこい。ここは...レストランだろう!」

 

「いらっしゃいませ、イカ野郎。」

 

笑顔下手か。どっちかと言うとパティの方がイカっぽい顔してる気がする。気のせいかな?

 

「もう一度だけ言ってやる。よく聞け。俺は客だ、料理を持ってこい!」

 

人の頭に銃口を突きつけながら客だなんて。やれやれ、物騒だな(某病弱死神風に)。

 

「代金はお持ちで?」

 

「鉛でいいか?あぁ!?」

 

「金はなぃんですね?」

 

あ、殴った。椅子も砕けた。爺さんが唸ってる。うける。さぁパティ選手の猛攻が止まりません!うずくまった痩せ身の男に、ガタイのいいイカ顔が襲いかかる!イカ臭くなってしまいそうだ!!えーんがちょ。

 

パティによって追い出されたクリークの手下、まぁギンなんだけど。サンジが追ってったし、何か食べさせてあげるんだろうな。

 

でも今日さ、スイーツデーなんだよ。いつも出してる料理全く作ってないんだけど、大丈夫そ?

 

...まっ、いっか!なんでもいいって言ってたし!サンジが何を持ってくかは知らないけど、僕もカロリー爆上げ生クリームマシマシのシュバルツベルダーキルシュトルテでも作って持っていってあげよ〜!餓死寸前の顔色悪いおっさんがケーキ爆食いしてるのちょっとみたい、なんて思ってないよホントだよ。

 

 

&&&

 

 

「ほらよ、食え。今日はろくな材料残ってなくてな、簡単なチャーハンくらいしか作れなかったけど。」

 

「...ごきゅっ。んぐっ、んぐっ!...ううぅ、面目ねぇ、面目ねぇ...!!こんなにうまい飯、俺ぁ初めて食った...!!死ぬかと思った、もう、もうダメかと!」

 

「クソうめぇだろ。」

 

「やっほー。食後に紅茶と甘いものは如何かな、海賊くん?」

 

「「っ!!」」

 

おや、なんでそんなにびっくりしてるのかな。ま、いいや。とりまゆっくり食べなよ〜。

 

「あ、あんた誰だ...?」

 

「え?あぁ、マント着てるから分かんないのか。僕だよ、君の生き別れた弟さ!」

 

「は?」

 

「嘘ついてんじゃねぇよソラ。」

 

ばれちった。僕ってアルビノだから直射日光にめっぽう弱くて、外で歩く時は絶対に外套必須なんだよね。買い物とかする時は日除け傘も使ってるんだ〜。この黒い外套はお気に入り。裏地は紅でリバーシブルなんだ。

 

「ソッコーでばらすじゃん。いいけど。ほら、チャーハンだけじゃ喉に詰まらせるかもしれないし、かと言って今からスープを作ろうにもねぇ、ってことで紅茶とケーキ持ってきたよ。」

 

食べる?あ、食べるんだ、良かった良かった。なんか上からめっちゃ視線感じるけど。これは君に作ったわけじゃないから上げられなーい。

 

「ソラ、なんでここに。」

 

「なんでって。サンジならきっとこうするんだろうなーって思ったから。せっかく食べて貰うなら、少しでも満足して欲しいじゃん?まぁドリンクも無しとは思わなかったけど。まだまだ詰めが甘いよね。」

 

「仕方ねぇだろ、ろくな材料が残ってなかったんだから。つか、なんで紅茶なんだ?コーヒーもあったろ。」

 

そりゃーもちろん。

 

「このキルシュトルテには紅茶の方が合うから。」

 

に決まってるじゃん。え?チャーハンのことを考えろ?チャーハンにコーヒーも合わないだろいい加減にしろ。食後のドリンクなんだからいいじゃん、お口直しにさ(良くねぇ)。

 

「で、どうどう?美味しい?」

 

「...あぁ。凄く美味い。こんなに美味い飯も、ケーキも、食ったことがねぇ。ありがとう、ありがとう、お二人さん。」

 

「そ、良かった。」

 

「俺らの料理が美味ぇのは当然だ。」

 

あ、なんか上からロックオンされた。いいコック見つけた、とでも言ってるんだろうなぁ。サンジ、頑張れ。無駄な抵抗だろうけど。

 

「...っ!?な、なんだ?なんか悪寒が。」

 

「誰かに噂でもされてるんじゃない?」

 

「うわさぁ?はっ!そうか!さっき店に来てた麗しのレディが俺を呼んでるってことか!!」

 

麗しのレディから噂されて悪寒感じてるのやばくない?恋はいつでもハリケーン、だったっけ。盲目ハリケーンだね、分かるとも。

 

「良かったなぁーー!お前っ!飯食わせてもらえてよ!!死ぬとこだったもんなーあっはっは。おいそこのコック2人!!俺の仲間になれよ、海賊船のコックに!」

 

...あれ、なんか僕まで勧誘されてる。え、待ってめっちゃ嬉しい。え?(困惑)嬉しい(確定)。でもなんで?

 

「「あぁ!?」」

 

いや君らガラ悪いなほんとに。うける。

 

「へぇ、お前海賊なのか。なんだってこの店に大砲撃ったりしたんだよ。」

 

「あぁあれはな、事故なんだ。正当防衛の流れ弾ってやつだ。」

 

「まぁ正当防衛だろうが不当防衛だろうが損害を被ったことに変わりはないからね。ちゃんと費用請求させてもらうけど。」

 

「えーーっ。」

 

えーじゃねぇ。まぁ多分ルフィにこんなこと言っても意味ないんだろうけど。

 

「なんにせよ、この店に妙な真似はしねぇこった。ここのオーナーは元々名のある海賊団の船長であり、コックを務めてたのさ。」

 

「そーそー。赫足、って呼ばれてたんだよ。」

 

「あのおっさん海賊だったのか。道理で蹴りがすげえ筈だ。」

 

あー、ボロくそ蹴られてたもんね。そのせいで天井も壊れたし。

 

「そのクソジジイにとってこのレストランは宝みてぇなもんだ。」

 

爺さんにとってもだけど、サンジにとってもだよなぁ。ジジイと一緒に海上レストランを作るんだって嬉しそうに話してたの、今でもハッキリ覚えてる。あの頃のサンジはそりゃもう可愛かった。純粋無垢って感じで。

 

「この店の従業員もイカつい顔した連中ばっかりでしょ?爺さんに憧れて頼み込んで雇ってもらってるヤツらばかりなんだよ。だからみーんな腕っ節には自信があるみたいだよ。」

 

「へぇー。んじゃ、お前らもか?」

 

「僕らは、まぁそこそこ。あの爺さんが親代わりだし。」

 

サンジは特に、爺さんと毎日やり合ってるからなぁ。あの足技を身体で覚えて鍛えてるんだから、そりゃ強くもなるよね。

 

ちなみに僕もそこそこやるけど、爺さんから教わった(見て盗んだとも言う)技は少ないかなぁ。

 

「暴力沙汰なんて日常以外の何でもねぇ。根性無しどもはすぐに辞めていきやがる。まぁ、誰かさんのお陰で最近辞めるやつはめっきり減ったがな。」

 

いやぁ、一般人にこの環境は相当無理あるって。流石に。マジでアフターフォロー全開でいかないとバイトいなくなっちゃうから。本当に感謝してほしい。

 

「いやー、俺も1年雑用しろって言われて困ってんだよな。なっはっは。ま、いいや。なぁ仲間になってくれよ、お前ら。」

 

「それは断る。俺はこの店で働かなきゃならねぇ理由があるんだ。」

 

「いやだ!!!断る!!!」

 

「...な、何がだ。」

 

「お前が断ることを俺が断る!!お前はいいコックだから、一緒に海賊やろう!!」

 

草生える。無表情で耐えてるけど腹筋ネジ切れそう。理不尽の権化極まれりだな。

 

「おめぇは?一緒にやろう、海賊!楽しいぞ、なんてったって海賊は歌うんだ!」

 

歌。海賊じゃなくてもそれは出来る。って言う正論は効果なし。知ってる。

 

「僕も爺さんのことが心配だし、サンジが断るなら行かないよ。」

 

「えーっなんでだよ!!あのおっさん強いんだろ?」

 

「うん、強いよ。でも定期的に足のメンテナンスしなきゃだし。あの義足作ったの僕だから。」

 

「ぶーぶー。」

 

口でぶーぶー言うやつ初めて見た。まぁあの義足の設計図とメンテナンスの手順書は爺さんに渡してあるから、僕がやることなんて無いんだけど。

 

「話しわってすまねぇ。おれはクリーク海賊団のギンって者なんだが。あんた、海賊なんだろう?目的はあんのかい?」

 

「俺はワンピースを目指してる!グランドラインに入るんだ!!」

 

太陽を連想とする笑顔でそう言い放つルフィ。直射日光は苦手なのに、この無垢な笑顔の直射日光を浴びてしまった。感無量でござる。

 

「...コックを探してるくらいだ。人数はあんまり揃っちゃいねぇんだろ?」

 

「今こいつらで5,6人目だ!」

 

「「いや、やらねぇって。」」

 

ハモった。

 

「忠告しとく...。グランドラインだけは、やめときな。」

 

あぁ、そっか。クリーク海賊団は一応グランドラインに入ってたんだっけ。

 

「グランドラインについて何か知ってるのか?」

 

「いや知らねぇ、何もわからねぇ...!だからこそ怖いんだ!」

 

50隻の船群をたった1人に斬られておめおめと逃げ帰ってきたグランドラインの落ち武者か。まぁ世界最強と謳われるあの人に相対して生きて帰れるだけ儲けものだと思うんだけど。

 

ま、情報収集不足と運の悪さが露呈した結果だな。どんまい!

 

「あのクリークの手下ともあろう者が随分な弱気だな。」

 

「クリークって?」

 

...、情報ぇぇぇ。

 

なんやかんや話してたら、ギンが自分の船に戻るって言い出した。優しいサンジは船を用意してあげて(船代はサンジの給料から引いといていいのかな?)ギンはそれに感謝しながら帰って行く。

 

「それじゃあな、サンジさん。ソラさんも。あんたらは俺の命の恩人だ、本当にありがとう。飯、最高に美味かったよ。...また、食いに来てもいいか?」

 

うんうん、少しは元気が出たみたいで良かったね。やっぱり美味しい料理は人を笑顔にすることが出来るんだ。食べてもらって美味しいって笑って貰えたら、料理人にとってこれ以上の幸せはないよ。

 

「いつでも来いよ。」

 

「今度は仲間と一緒に来なよ、歓迎するから。但しその時はしっかり代金を支払ってもらうけど。」

 

「ははは、肝に銘じとくよ。」

 

あ、2階から爺さんが出てきた。

 

「おいコラ雑用小僧ここに居たのか!!雑用の分際でサボるとは何事だ!!!」

 

「げぇっ!おっさん!」

 

爺さんが置いてある皿を見て色々と察したらしい。でも何も言わない。優しいよね、素直じゃないけど。

 

「悪ぃな、あんたら。怒られるんだろう。」

 

おっと、このままだとサンジが食器を海に捨てちゃうな。ただでさえ備品はよく壊されて出費が痛いんだ。一芝居打とう。

 

「じゃーね〜、海賊のお兄さーん!つぎ目の前で美味しそうに飯食われたくなかったら、ちゃんと金持って客として来なよ〜!」

 

「...何っちゅう性格悪い設定だよ、それ。空腹のやつ目の前にして自分だけ飯食うなんざ鬼か。」

 

「いーのいーの。」

 

食器の為なら僕の犠牲も厭わない。一流レストランは食器さえも一流なのだ。高いんだぞ。

 

あれ、なんかみんな微妙な顔してる?ギンも想像したのかな。ばっかでー、ホントにするわけないじゃんそんなの。うける。

 

「ふんっ。サンジ!雑用!!テメェらさっさと働かねぇかっ!!ソラ!!テメェがメインだって何度言わせる気ださっさと来い!!」

 

「はーい。そんなに怒鳴ると血圧上がっちゃうよ?大丈夫そ?」

 

「誰のせいだっ!!」

 

サンジとルフィのせい。

 

「「おめーもだよ。」」


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