「...おい、なぁ。さっきから言っとったろうもん。聞いとらんかったんけ?この耳、飾りか?んん?飾りっちゅーんなら要らんやろ。削ごか?」
「ぎいでまじだ、ごべんなざい。」
厨房には入れたくなかったんだ。だって絶対向いてないから。そもそも労働という概念の外側にいるようなやつだから。だから、せめてホールでサンジに押し付けたかったのに。
案の定皿は割り、客に提供するはずのスイーツを勝手につまみ食いし蕩け顔作り(その反応は素直に嬉しい)、フライパンで火傷してドリンクこぼしてクリームぶちまけるetc...ストレス値マッハなんだけど。イライラしすぎて前世で慣れ親しんだ方言まで出ちゃったよ。びーくーる。
「厨房には入ってくるな。ホールに行って、丁寧に、丁重に、お客様のご注文を聞いてくること。間違ってもルフィ、お前の食べたい物をオーダーするな。よかな?」
「むぁい。」
「よし、行け。」
(((やっぱこえぇぇぇ!!!)))
なんかホールがまた騒がしい。まぁ原因はルフィだろうけど、厨房を追い出してまだ30分も経ってないぞ。あ、そっか。麦わらの一味が勢揃いしてるんだっけ。ゾロとナミとウソップ。みたいなぁ〜。よし、行こ。
「ホール行ってくる。皆時間ずらしつつ適当に休憩とっといて。」
「「「了解です!」」」
ホールについてまず目に入ったのは、爺さんの胸ぐらを掴むサンジだ。あ、一本背負いされた。は?ちょっと待ってよ、テーブルぶっ壊れたんだけど。
麦わら一味が座ってたテーブルだから良かったものの(良くない)、他の客ならシャレにならんかった。どんだけ詫びなきゃいけなかったのやら。
マジでいっぺん説教要るよね。なんで上2人の喧嘩のせいで僕の仕事が増えるの?おかしくない?自分で壊した備品の損失計算とか発注とか自分でやってくれないかな。あと仲裁するのめんどくさいんだけど。無視してたらソラさん止めて下さいよって誰かしらに言われるし。知らねぇよこっちは厨房仕切んので手一杯なんだよ。
「お客様。大変ご迷惑をお掛けいたしました。どうぞあちらの席にご移動頂き、引き続き憩いのひと時をご堪能ください。」
喧嘩を傍観していた3人を視界におさめ内心興奮し、されど表情にはおくびにも出さないよう努めつつ、あくまでお客様として接する僕を誰か褒めた方がいい。ミーハーで悪いか。
「あら、貴方気が利くわね。迷惑ついでに無料にしてくれると嬉しいんだけど?」
「おいここはレストランなんだろ?飯と酒はねぇのか。さっきから甘ぇもんばっかり出てきやがる。」
「良いじゃねぇかたまには!俺は好きだぜ、このケーキなんて最っ高!そしてお前ぇはここぞとばかりに無料で食おうとするなよナミ!」
3人は僕を見て、それぞれ手(1人は頭にものっけてる)に持っていた料理と一緒に席を移動していく。
「お褒め頂き恐縮でございます、お嬢様。本日、すべてのお客様には1品無料で品物をご提供させて頂いております...が、お客様方には特にご迷惑をかけたご様子。お支払いにつきましては、私のできる範囲で対応させて頂きます。どうぞ、他のお客様にはご内密に。」
パチンっ、とウインクひとつ飛ばして、人差し指でしぃーっと。接客は笑顔で愛想良く、基本中の基本だ。間違ってもパティみたいなイカ顔でやっちゃダメ。
一筋縄じゃ行かない客には、貴方にだけとか、内緒で、とかそういった特別な対応をすれば割と簡単に方が着く。
「貴方最高!綺麗な顔してるし!分かってるじゃない、言ってみるもんね!」
よし、1人目はクリア。
「剣士様、ご期待に添えず大変申し訳ございません。本日はスイーツデーとなっております故、多種多様のスイーツをご提供させて頂く日でございます。もし宜しければ、お客様のお望みの品を今からお作りいたしましょうか?少々お時間を頂くことになりますが、如何なさいましょう。」
「へぇ、良いのか?んじゃあ、テキトーに酒とつまみを頼むぜ。」
「かしこまりました。」
はい2人目もクリア。シェフのおまかせ気まぐれおつまみセットね、了解了解。ゾロって甘いもの苦手なんだっけ?塩系スイーツは食べれんのかな?
「長鼻様、実はその品は私が作らせて頂いております。お客様にご満足頂けたようで、私も大変嬉しく思います。」
「へぇー!お前が作ったのか〜すんげぇなぁ〜。ってぅおい!!誰が長鼻様だよ!?シタテに出りゃいいってもんじゃねぇだろがっ!」
えー、だってその格好じゃ狙撃手なんてわかんないし。せめてパチンコ持っててよ。
「失礼いたしました。お客様に置かれましては、なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」
「よぅしよく聞けぇ!俺こそは狙撃の達人、キャプテーン ンゥウソップ様だ!!さっきも俺の船に砲弾を打ち込んできたバカがいたが、俺様が撃った砲弾で相殺したのさ!」
やってないんだろうけど、実際できるから凄いんだよなぁ。
「それはそれは、お見逸れいたしました。それではウソップ様とお呼びいたします。」
「あ、私のこともナミでいいわよ!」
「ゾロだ。」
「かしこまりました。ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳ございません。私、ソラと申します。以後、お見知り置きを。」
恭しく一礼をば。
さて、あとは身内の問題だな。クルりとターンし、爺さんとサンジを見据える。
「壊した分のテーブル費用、お客様にこ迷惑をかけた分のお詫びのスイーツ1品ずつと、その他お支払いにおける店側の負担額。それぞれ爺さんとサンジの給料から引いておくからそのつもりで。」
「は、おい待てよっ!俺は投げられた被害者だろうが!ソラだって見てたろ!?」
「まてっ!オーナーである俺の給料をお前が決めるのか!?」
「うるさい。じゃれ合いの原因を挙げたらキリないけど、喧嘩両成敗だから。自分がやった事の責任を取るなんて、今どき子どもでも出来ることだよ。それとも、いい年した大人が子どもにできるような事さえ出来ないと言うのであるならば、考えてあげなくもないけれど?」
「「.........。」」
よし、大人しくなったな。こんだけ言われりゃ少しは懲りるだろ。これで僕の仕事も減る。喧嘩の仲裁とか備品の注文とか、現代社会じゃそうそう必要ない業務だし。
「なぁなぁ、あいつ。ソラだっけ?子どもなのにすげぇ肝座ってるよな。イカつい顔の年上相手に啖呵切ってるぜ。菓子もうめぇしよぉ。」
「えぇ、相手はオーナーと副料理長なのに。2人はあの子の尻に敷かれてるのね。それとアレをじゃれ合いって言えるの凄いわ。」
「今日のメインシェフはアイツらしい、菓子作りが得意なんだろ。まぁ俺は酒が飲めりゃ何だっていい。」
そういうのはさ、本人のいない所で言うんだよ、普通はね。あと身長のせいで子どもと思われてるよ。時と場合によってはこの見た目も利用するけど、今後のためにも早めに誤解を解いた方がいいなー。
「恐縮でございます。...が、私はこれでも19ですよ?」
「「えっ!!年上!?!?」」
「...マジか、タメかよ。見えねぇ。」
めっちゃ驚いてる。そんなにビックリすることかな。失礼しちゃうっ、プンプンっ!やめよ、自分で言うと気持ち悪いや。くっ、せめて鏡があれば...(リアルナルシスト)。
「それではゾロ様、ナミ様、ウソップ様。私は厨房に戻らせて頂きます。御用がございましたらベルでお呼びください。ゾロ様、お食事に関しましては、お出しするまで少々お時間を頂きます。ドリンクは白ワインをご用意する予定ですが、直ぐにお持ちいたしますか?お食事と併せてお持ちいたしますか?」
「飯と一緒でいいぜ。テキトーに果物つまんでるからよ。」
「かしこまりました。」
一礼し、厨房へ。四方八方から熱い視線を向けられる。流し目で見て、ニコリと微笑む。あ、撃ち抜かれた人が多数。胸を抑えたり鼻血出したり。それ、床に垂らさないでね?
「魔性ね、彼。」
「「おめぇもな。」」
&&&
「んんっ、コホン。先程は失礼。お詫びにフルーツのマチェドニアを召し上がれ。ご一緒にグランマニエもどうぞ、お姫様。」
「わあっ!ありがとう!優しいのね?」
「そんな。」
受け取ったオーダーを少しでも早く提供できるように。何か問題が起きた場合、直ぐに対応できるように。という建前の理由から、厨房に最も近い席に移動させた麦わらの一味。
え?建前じゃない本当の理由?そりゃあ少しでも近くに彼らの存在を感じていたいからだよ!!原作だよ?ワンシーンたりとも見逃したくないよ!!当たり前だろいい加減にしろ!!
ミーハー根性逞しい?そんなに興奮して厨房で仕事なんて出来るのか?
問題ない、プロだから。伊達に長年バラティエでNo.3やってないんだよ。こうしてる間にもシェフたちに指示を出しつつ、僕は僕でゾロに出す品を作っているのだ。
このお店を開いてから今まで原作キャラは結構な数、来賓したからな。割と慣れてる。まぁ主人公メンバーたちだから、今までで1番嬉しいんだけどね!
ところであのマチェドニアってバラティエ負担なの?サンジのポケットマネーから出てんの?まぁいいや、少なくとも僕に影響はないはず。
「おいっ!俺たちにはなんの詫びもなしか!男女差別だ訴えるぞこのラブコック!!」
「てめぇらにゃ粗茶を出して1品無料でサービスしてやってんだろうが。十分すぎる詫びだぜタコ野郎。むしろ礼を言うべきだろうが!」
「お!?なんだやんのかコラ。手加減しねぇぞ、やっちまえゾロ。」
「てめぇでやれよ...。」
ウソップ の 攻撃 ! 僕 の 腹筋 に 大ダメージ!
ウソップのこのキャラやばいよね。何がやばいって、顔芸も言葉のチョイスも三下感も全部やばい。愛されるバカってこんなキャラを言うんだろうね。でも血筋的には戦闘的潜在能力が高杉問題。
「お待たせいたしました。ゾロ様にはこちら、''海老とホタテのカルトッチョ 魚卵ソース仕立て''をご用意させて頂きました。白ワインと一緒にお召し上がりください。」
「へぇ、こりゃあいい!美味そうだな。」
「ウソップ様には僭越ながら''スフレパンケーキ 王乳クリームを添えて''をご用意させて頂きました。こちらはアッサムティーをベースにしたミルクティーと一緒にお召し上がりください。」
「うぉぉまじか、サンキューソラ!!ラブコックとはえれぇ違いだな!!」
あー、まぁサンジは美人な女性に弱いから。あの年頃だから仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。行き過ぎてるとは思うけど、まぁサンジだし。なんなら今もナミに手玉に取られてるし。ナミの分は無料じゃないよ、サンジが払うだけで。
あとさっきからルフィが席についてお茶飲んでるのは何?こんなに堂々としたサボりってあるの?かかと落とし食らってるし。うける。
&&&
数日たったある日の昼時。客の出入りも激しくなり、忙しさもピークに差し迫る時間帯。そんな中、何やらホールが騒がしい。なんか半死人の大男をギンが持ってきた。あれ?ホールが騒がしいってココ最近で何回思った?つか、騒がしくない時、あったっけ?あれれー?おかしいぞぉ〜?
と、某眼鏡死神少年の真似をしてみたものの。事件は過ぎ去ってくれない訳で。どうせ最弱の海の覇者さん(笑)だろ?ギンに連れてこいって言ったもんねー。律儀にちゃんと約束守ってくれるところ、良い奴だよなギンって。
さて手を洗って、ある程度拭ったら、食事を持ってホールへ向かいましょ。
「おねがいじまず...!残飯でも、なんでもいいですから...!!」
「いらっしゃいませ、お客様。こちら、''カルボナーラ風ホワイトソース&チーズリゾット''でございます。赤ワインと一緒にお召し上がりください。熱いので十分にお気を付けて。」
「「「...な!!?」」」
「...すまんっ!!」
「何やってるんですかっ、ソラさん!!」
「今すぐに飯を取り上げねぇとっ!」
「いやっ、その前にソラちゃんを厨房に戻さねぇと!ここにいちゃ不味い、狙われちまうっ!」
おうおう、なんだいなんだい。皆して。金を持って、腹を空かせてやって来た。つまりは客だろ?そいつがどんな人間だろうと、例え人間じゃなかろうと。僕が客と認めたんだ。客に料理を振る舞うのは当たり前だ。
あ、なんか腕伸ばされてる。やっべ死ぬかも。ちょっと後悔〜。
「うぐぅ...!」
僕氏、現在進行形でゴリラに首を掴まれてるの巻。次回!ソラ、死す!デュエルスタンバイっ!じゃねぇんだわ。いやちょ、待って。まじ苦しいんだけど、そろそろ離して?長くない?手洗うんじゃなかったよぉ。目ぇイっちゃってるってこいつ。やばいよ、こいつさっきリゾット手づかみで食べてたやん。あっ、意識したら首がちょっと変な感触してる気がする。もーいや。
「「「あぁっ!ソラさん!」」」
「てめぇっ!!その手を離しやがれクソゴリラァ!!!」
向かってくるサンジに向かって僕を投げつけるクソゴリラクリーク。こいつ、僕の首の外周丸々掴んでやがったぞ。やばたにえん。もう捕まらんとこ。きちゃないし。
「おいソラっ、無事か!?」
「けほっ、けほ。んんっ、うん。割と平気。」
首んとこ跡残るかもしれへん。やんだぁ、爺さんに心配かけちゃう。心配ってか殺気立ってるんだけど。やば、ちょ、一旦落ちケツ。いや落ち着け。
「話が違うぞドン・クリークっ!!この店には手を出さないって条件であんたをここへ案内したんだ!!!あの人は俺たちの命の恩人なんだぞ!!!」
「あぁ、美味かったよ。生き返った気分だぜ。」
「ギャァァぁーー!!」
「ギンっ!!手ぇ離せお前ぇ!!」
おぉ、ルフィが吠えた。友達とか仲間に優しいもんね、ルフィは。あれ?僕への心配は???あ、なんか目から汗が。おかしいな。
「いいレストランだ、この船を貰う。ついでだ、お前も俺のコックにしてやる。喜べ。」
「...え?」
え?