走る、疾る、奔る。
フランキーと言うやつの子分たちに、ウソップが攫われたらしい。別に海賊なんだから、盗みや喧嘩はよくある事だ。まぁ、それが許せるかと問われたら、絶対に許さないと応えるだろうが。
人だかりが出来ている。その中心に、ボコボコにされて血だらけになって倒れているウソップを見つけた。
傘を広げ、屋根から飛び降りる。気づいた島民がどよめきながら下がって行く。
「ウソップ、ウソップ。聞こえる?返事して、ウソップ。」
「...う、ぁ?ソ、ら...?ソラ...。すまねぇ、面目ねぇ。俺が...。弱ぇもんで、大金全部...盗られちまった...!皆に合わせる顔がねぇよ!!」
お金は良いから、今は喋らないで。
「やっと、メリーを...直してやれる筈だったのによぉ。面目ねぇ...。チキショオ、クソぉ!」
「...っ、うん。大丈夫。大丈夫。」
今ここでメリーのことを言うべきじゃない。とにかく落ち着かせないと。
意識はハッキリとしている。喋っていることに矛盾もなく、きちんと自分の意思を伝えようとしている。虹彩の反射反応も異常なし。不幸中の幸いと言うべきか、頭を打っはいるものの、記憶の混濁等は無いらしい。ただ、とにかく出血が酷い。全身打撲、骨折数箇所、裂傷、火傷。無事なところが見当たらないくらい。酷いやられようだ。
現状、応急処置道具が何も無い。僕だけ船に戻って道具と一緒に戻ってくるか、この状態のウソップを連れて行く必要がある。でも、連れてくったってそう簡単じゃない。これだけボロボロにされてるんだ。動かさない方が良いのは明白。
外野が何か言っているがうるさい、構ってられるか。傘の銃口を空に向け、火の玉を打ち上げる。空中で爆発させ、狼煙の役割を果たす。これで誰かが来てくれるはずだ。
「ウソップ。直ぐに誰かがここに来るから、じっとしてるんだよ。動いちゃダメだからね。僕、船に治療道具とってくるからさ。」
ヒュォオッツ!!
全力で船に向かって跳ぶ。フードをしっかりと押さえつけながら、風を切って疾走する。普段は何も思わないが、全力で走るってなるとこのフード邪魔だ。
「落とし前を、付けさせなきゃな。」
顔も知らないヤツら相手にこんなにムカついたのは初めてだ。
岩場の岬に辿り着き、メリーが見えた。もう僕らを乗せて冒険することが出来ないメリーと、ズタボロにされたウソップを思うと酷く悲しく、悔しい気分になる。ムカつく。その場にいなかった自分に、意味がないと分かっていても酷く憤りを覚えてしまう。
沸騰しそうになる思考。頭を冷やすには、全力で走るくらいが丁度良い。
「っは、はぁっ...はぁ...。」
「おい、どうした。何をそんなに慌ててるんだ。」
「ソラ、何があった。」
「ウソップが、やられた。ボコボコにされて、傷だらけ。道端に棄てられてた。道具を取りに来た。」
「「「!?!?」」」
船にはゾロとサンジ。そしてちょうど良いことに、チョッパーが居た。
ルフィから預かっておいた1億ベリーが入ったトランクを甲板に放る。そしてチョッパーを右腕に抱える。救急箱はチョッパーが持ってくれた。
「ウソップは無事なのか!?」
「命に別状は無い。意識レベルも安全圏。でも急ぐに越したことはないから、チョッパーだけ連れてく。金と傘は置いてくから、よろしく。」
「「任せろ。」」
任せた。
「チョッパー、きついかもだけど。」
ごめんね。
「おれのことは良い!急いでくれ、ソラ!」
うん。分かってる。
来た道を戻り、ウソップが居たはずの場所へ到着した。でも誰も居ない。なんでだよ。往復で10分も経ってないだろ。なんでだよっ。
「ソラ、血だ!地面に血が付いてる!向こうへ移動してるみたいだ。ウソップ、1人でどこかに行ったのかな!?」
っ、あのバカ。
「ぶぇぇええっ!?」
「っ!」
空から降ってきたルフィを片手で受け止める。っぶねぇな。
「あっ、ソラ!チョッパーも!ウソップ居たか!?」
「居た。けど、多分1人で敵のアジトに向かった。血痕が続いてるから。」
「ルフィも一緒に行こう!!急がなきゃ!!」
「あぁ、分かった!」
&&&
「ルフィ!!ソラ、チョッパーも!!良かった、それ救急箱よね!?お願い、急いでウソップを手当して!!!」
「「「...。」」」
ナミが泣きそうになりながら叫んでいる。ウソップの怪我が、明らかに酷くなってる。やっぱり1人で挑んだんだな。
「チョッパー、息はあるか。」
「死んじゃいない!大丈夫、助かるよ!完全に気を失ってるけど。」
「私もたった今ここに来たの!それで、ウソップはもうこの状態で倒れて。とにかくお願い、急いで!」
ウソップがここに来て、またボコボコにされて。ナミは僕らと同じように血痕を辿って来たってことか。全ての歯車が噛み合わなかった結果だな。
あぁ、全く。
「待ってろよ、ウソップ。あのふざけた家、吹き飛ばして来るからよォ...!!!」
「チョッパーはウソップの治療を。ナミもここで待機。電伝虫を渡しとくから、必要なら船に連絡して。ゾロとサンジを待機させてる。」
「ソラ、あんた傘は!?大丈夫なの、日差しが...!」
マントあるから大丈夫だよ、ナミ。心配してくれてるんだろうけど。
「来ないでね。ちょっと今、余裕無いから。」
フランキーハウスと書かれた家から、楽しげな叫び声や歌い声なんかが聞こえてくる。その外観、その笑い声、その雰囲気、その気配。全てが神経を逆撫でされている気分だ。
「やるぞ、ソラ。」
「うん。」
「「ぶっ潰す...!」」
扉を開けて出てきた大男をぶん殴って吹き飛ばすルフィ。扉も壁も一緒にぶっ飛んだ。
「ん~誰だテメェら!!?」
「あれは...麦わらのルフィだ!!」
「ガハハハハ、たった2人で何しに来たってんだ!!こっちの人数見やがれ!!」
「しかも片方はガキだぜ!!こんな奴が5,900万ベリーかよ!?儲け儲け〜!!ぎゃははは!!...は?」
ーーー”魚人空手・人技
ーーー”ゴムゴムの
「グボェエエエッ!?!?!?」
「ギャァアアアアアッ!!!?」
「なっ、なっ、巨大アーマーを...ぶっ壊したァァァァアッ!?!?」
吠えんなよクソ共。そのイラつく声をこれ以上聞きたくない。
「うっ、撃てぇっ!!!」
「イヤッホーーイ!!」
「”
ドカァァァァァァァァン!!!
「ギャーーッ!?なんだ今のレーザー!?」
「てっ、鉄が融けてるぅぅうううっ!?!?」
「”ゴムゴムのぉ...花火ぃいいっ”!!!」
「「「うわぁぁああああっ!!!?」」」
何人かが裏口や窓から逃げ出そうとするが、それも無駄だ。
「なっ、なんだぁ!?外に人型の炎が!!?」
「こ、こいつら外に出たら襲ってくる!!ギャーー!!!」
「ぐわぁああっ!?あっ!?あちぃぃいい!!」
ーーー”
建物の中に居る奴らは僕とルフィが1人残らず潰し。外に1歩でも足を踏み出せば、
「ちょっ、ちょちょちょちょっと待て待て待てよお前らっ!!!金、金だろ3億ベリーだろ!?!?あの3億ベリーは兄貴が持って出かけたんだよ!!!だからいくら此処で暴れたってもう戻ってこねゴパァッ!!!?」
だから、吠えるなって言ってんだろ。どうでも良いんだよ、お前らの言い分なんて。
「もう、そう言う話じゃねぇ。お前ら骨も残らねぇと思えよ...!!」
「お前たちは罪を犯した。罪には罰が必要だ。僕らと違ってお前たちは、法の下で生きてんだから。当然だ。」
「1人も逃す気は無ぇ...!」「逃がす訳無いだろ。」
惨めに這いつくばってろ蛆ども。
「ひっ、怯むなぁ!!相手はたったの2人だぞ!!?見せてやれ、”ナンデモ
言葉通り、爆弾に刃物、食器や食べ物まで撃ってきやがった。あー、クソがマジで癪に障るなぁ...!!料理人に向かって食材を撃ち付けるなんて万死に値するんだって、身をもってわからせてやるよ。
「”
「げぇえええっ!?ぜっ、全部ぅ!?融かしやがったぁぁあ!!!」
「くっ、来るぞぉおお!!!」
「”ゴムゴムのぉ...
「”
「「「ギャァアアアアアッ!!!?」」」
上から迫る拳の雨と、下から這い昇る炎の龍での挟撃。逃げ場は作らない。
ぶん殴られて気絶したやつ。燃えてこんがり煤だらけになったやつ。元々あったバカみたいな建物は、見るも無惨に灰と化している。
外に出ると、サンジも来ていた。この場にいないのはゾロとロビンだけだ。ゾロは船番してるんだろうけど、そういや見てないなロビン。何処に居るんだろう。
「ったく、お前ら2人でやりやがって。来るまで待っとけっての。」
「悪ぃな、我慢できなかった。」
僕もごめん。頭に血が登っちゃってて。冷静じゃなかった。
「一旦船に戻ろう!ウソップを担架で運ぶから、手伝ってくれ!」
「俺が運ぶぞ、チョッパー。そのくらいさせろよ、何もしてねぇんだから。」
「あぁ、ありがとう!」
そうだなぁ。ここで待ってても金が戻ってくる訳じゃないし。フランキーって奴が戻ってくるまで、ここでたむろしてる訳にもいかないしな。そもそもいつ帰ってくるかも分からん。
「船よォ...、決めたよ。ゴーイングメリー号とは、ここで別れよう。」
「「「!!!」」」
そっ、か。良かった、決断できたんだな。悩んだだろうに、よく頑張ったよ、ルフィは。肩をポンポン、と叩いて労ってやる。
お疲れ様、船長。
&&&
ロビンを探すためにまた街中を飛び跳ねている。
もう何時間も探したのにも関わらず、見つけることが出来なかった。気配も感じとれない。なんだろう、この胸騒ぎ。何か嫌な予感がする。
「あれ、ウソップ?なんでこんな所に...ウソップ?」
「...。」
え、ちょ、ちょっと、何で無視するの。
「ウソップ、どうしたの?もうアイツらは潰したから、どこにも行く必要なんて「お前が言ったんだってな。」
「...、?」
「お前がルフィに言ったんだろ、メリーはもう直せねぇって。だからお前の言葉を信じたルフィが、メリーを棄てると言い出したんだ。」
あぁ、そう、そうか。聞いたんだな。皆気持ちは同じなんだ。でも必要な決断だから、堪えて前を見なきゃならない。
「うん。メリーとは、此処でお別れだ。もうこの先の海を一緒に冒険することは出来ないから。」
「っテメェ!!!」
「っ!?」
いっ、たぁ...くは無いけどびっくりした。ちょっと、退いてくれないかな。
「ウソップ重いよ。あと手も放して?ただでさえ怪我が酷いのに、悪化しちゃう。」
「よくそんなことが言えるな!!?今までずっと一緒に冒険してきた仲間を、ここで見捨てるなんてよく言える!!!所詮お前はバラティエで一味に入った身だっ!メリー号にだって、大した思い入れもねぇんだろ!!?」
あぁ、ウソップは誰よりもメリー号を大事にしてたから。別れたくないって思いは、人一倍強いよな。
「みんな悲しいよ。みんな悔しい。僕がルフィに伝えた時も、同じように怒ってた。でも、厳しいようだけど、これが現実だから。辛くても、苦しくても、受け入れなきゃならないんだ。」
「お前がそうだと言ったから、アイツらみんなそうだと言うんだ!お前は信用されてるもんな!信頼されてる!!金の番も出来ない俺と違って!!そりゃそうさ!!なんてったってお前は強くて!いつでも冷静で!なんでも出来る副船長で!!新世界にだって行ったことがあるんだから!!だからそれがどんなに有り得ないことだって!!歯切れの良い年寄りじみた考えだって!!ルフィも信じちまうんだよ!!!」
何言ってんの、?信用とか信頼とか、ウソップだってみんなから頼りにされてるよ。そこに優劣なんて無い。僕の海賊理論が年寄りじみてるのは仕方ないことだ。だって、教えてくれた人が年寄りだったんだから。
「メリー号は仲間なんだ...!傷ついてるんなら、治してやるのが俺たちのやることなんじゃねぇのか...!お前が一言、治そうって言や済む話だろう!?なぁ、頼むよっソラ!」
...。
「それは無理だ。これは気持ちとか、根性とか、そういった精神論じゃどうしようも無い事なんだよ。頑張ればできることならみんなそうするさ。僕だって全力で治すことに尽力しよう。でも、そういう問題じゃない。」
物理的に、技術的に。無理なんだ。分かって。
「...はっ。はははっ、あぁそうかよ。どこまでも冷静だな。そうだよなぁ、お前はそう言うやつさ...っみんなお前に騙されてるんだっ!!!そのせいでルフィと喧嘩して!!!おれはっ...おれは一味をやめたんだっ!!!!」
「............は?」
一味を、やめた?え、?なに、それ、どういう...。なんでそんな話になるの。
「っ...!!じゃあなっ...!おれはもう、お前の仲間じゃっ...!!もうっ、話しかけるなっ!うぅ...っ!!」
ちょ、っと。待ってよ。まって。そんな身体で、そんな傷で。そんな顔して、一味をやめたなんて、言わないでよ。
思わずウソップの手を掴む。
「触るなっ!!俺とお前はもうっ...もう仲間じゃない!!」
「っ。」
なんで、動かないんだよ、足。なんで動けないんだよ。手ぇ伸ばすくらいなら追いかけろよ。なんで
冷静になれ。冷静になれない時だからこそ、冷静にならなきゃいけないんだ。
引けよ、涙。
あぁ、だめだ。頭ごちゃごちゃして、何も分からない。
&&&
泣いて、泣いて、泣いて、泣いて。周りなんて気にしてられる訳も無くて。途中で誰かに話しかけられたり、頭を撫でられたような気もするけど。それが誰なのかも分からなくて。
空は白んでいるらしい。朝焼けの中。目は腫れてるだろう。喉もかれた。ガラガラだ。でも、少しだけ頭の整理が着いた。
「ソラ、落ち着いたか?」
「あ...れ、チョッパー?どうしたの、こんな所で。」
そりゃチョッパーのセリフだな、などと思いつつ。
「ウソップの怪我を治療しようと思って。でも、追い返されちゃったから戻ろうとした。それで、ソラが泣いてるの見つけて...。ウソップと、会ったのか?」
うん、会った。
「ウソップに、何か言われたのかもしれないけどっ!違うからな!?ホントはウソップ、悲しいだけなんだっ。メリー号と別れたくなくて、ついカッとなって...!」
「うん。うん、分かってる。分かってるよ、チョッパー。」
ルフィもそうだったから。今は視野が狭くなってるだけだから。
「ウソップ、10時に岬に来てる筈なんだ。ルフィと決闘して、勝ったらメリーを貰っていくって言ってた。」
「け...、っとう。10時って、昨日の晩?そんなの、もうとっくに...。」
こくり、と。チョッパーが頷く。過ぎてる。もう、終わってしまったんだろうか。行かなきゃ。ごめんね、チョッパー。ずっと待っててくれたんだよね。
チョッパーを両手で抱き抱える。ギューッと。ポンポンと、肩を叩いて慰めてくれる。優しいなぁ、チョッパーは。
「行こっか。」
「うん。」