波の音が響き渡る。
いや、正確に言うのならば波の音『しか』響かないというべきか。
海から目をずらして振り返れば荒れ果てた廃墟が広がっている。鳥の囀りさえも聞こえないこの島が、かつて、美しい楽器の音色と歌声の聞こえぬ日のなかったあの音楽大国『エレジア』であったとは誰も思うまい。
静かに揺れる波を、小高い丘から眺める彼女。
この滅んだ国で生きるたった二人の生き残りの片割れだ。まだまだ幼く、本来ならば遊びたい盛りで、野を駆け、山を駆け、被った泥を笑い飛ばすような快活な少女なのだが、その瞳は光を写していないかのように暗く沈んでいる。
脳裏によぎるのは、楽しかった家族との思い出ばかり。
自分をここを置いて行ってしまった、身勝手で非道な彼ら。
私を裏切って、行ってしまった彼ら。
いつだって楽しそうにして私の歌を聴いてくれたみんなのことを、私は未だに恨みきれずにいる。
もう戻ってなんか来ないのに。
ゴードンは私に良くしてくれている。
元気が出せない私に、どうにか笑顔になってほしいと、美味しい料理や素敵な音楽で励ましてくれる。
彼にとって、国を滅ぼした仇の娘だというのに。
それでも、何をしても、気は晴れない。
何を目に入れても、どうしても、仲間だったみんなとの思い出が私を襲う。
船の上で育てられて九年。今更ながら、私には赤髪海賊団での思い出が私を作る全てなんだと知った。
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この島での生活にも慣れてきた頃。月日は巡り、ウタは齢十を超えた。
何をしても思い出してしまう、かつての仲間との思い出から目を背けるようにして過ごしてきた。
それでも、少しばかりの余裕ができたからだろうか。
ウタは懐かしいあの日を思い出していた。
少し遠くに海を眺められる背の高い建物の中から、海さえも橙色に染め上げる美しい夕陽を眺める。
思い出すのは、唯一の友と眺めたあの景色。
元気にしているだろうか。
突然いなくなって怒ってるだろうな。
....会いたいな。
わんぱくで、負けず嫌いで、二歳も年上の私に勝とうと背伸びをする、私の、私だけの大切な友達。
一度想い始めればもう止まらない。抑えきれずに窓から身を乗り出して、感情のままに歌を歌う。
どうか届いて欲しい。この歌が。
私はここにいるよ。寂しいよ。お願い。またあの日みたいに遊びたいよ。
どうか、どうか、私を見つけて。
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あの、夕陽に向かって歌った日から、ふとした瞬間にルフィのことを考えるようになってしまった。
一度意識してしまえばもう無理だった。
寝ても覚めても、私の中の夢の世界でも、実際に出てくるわけでも無しに、彼のことばかりが頭に浮かんでくる。
その想いは日を追うごとに強くなっていった。
普通の女の子ならきっと白馬に乗った王子様でも想像するのだろう。
でも、私が思い浮かべてしまうのは、大きな船に乗って立派な船長になった彼の姿だけだった。
いつからか、私が私を保つのは、そんなあり得ないような妄想になってしまった。
大きくなって、立派な海賊になった彼が歌姫になった私を攫いに来てくれる。そんな都合のいい夢物語。
ありえないなんてわかってる。
馬鹿げてるなんてわかってる。
でも、そうでもしないと耐えられないんだ。
彼に対する感情が、大きく、強くなっていく。
年が経って、記憶の中の姿でないことなんてわかってるのに、した覚えの無い約束をした気になって海の向こうくる彼の船を待っている。
きっとおかしくなってしまってるんだろう。
居場所を知らせるようにして、毎日歌う私は。
これはただの醜い依存だ。楽しかった過去に縋るだけの。
それでも、もう止められない。私の中にあるのは、ルフィと赤髪海賊団だけだから。
だったらもうルフィだけしかいないじゃんか。
今日も私は歌う。遠い海の向こう側。ダイスキな彼を想って。
「待ってるからね。ルフィ。」