海賊の唄   作:たまごかけ

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漂着

 

 

 波が今日も静かに揺れている。

 

海岸を一人歩いているのはかつて音楽の国で王であった男、ゴードンだ。

今となってはそんな肩書きはなんの意味も持たないのだが。

 

この島にウタと二人きりになってから十年。

実の娘のように愛する彼女へ嘘をつき続けていることに胸を痛めている、心優しくされど優柔不断と言わざるを得ない人だ。

 

自分の前では元気な姿で居ようと健気に笑いながら、一人になれば静かに涙を流していたウタだが、数年前から次第に目に光が戻りつつあった。

 

その頃から、あの子は夕陽に向かって歌うことを日課とし始めた。

目に宿り始めた光が薄暗いナニカを孕んでいることにも薄々気づきながらも、あの子が笑ってくれるならと正面から向き合うことを恐れる自分が本当に嫌になる。

 

歪な形で己を保つウタと、それに気づきながらも何もすることができずに自らを責めるゴードン。

 

ウタが日課に向かった後、久しく見ていないなと一人海を眺めに来ていた。

ウタほど海に思い入れがあるわけでは無いがやはりいいものだと赤らんできた太陽と共に眺める。

 

しばらく海辺におり、そろそろ夕食の準備に取り掛かろうかと来た道を戻ろうとした時。

 

 

やけに目につく『赤』が目に写った。

 

 

 

 

 右腕で弱々しく朽ちかけている木につかまり、左手で見覚えのある麦わら帽子を握っている少年が海岸に打ち上げられていた。

 

 

 

 

 

「大丈夫かね⁉︎少年⁉︎生きているか!?・・・外傷は、掠り傷がいくつかあるが、....何があったか知らないが、とにかく一度運ばなくては危険だ。」

 

 

 

どれだけ海を流れていたのかは分からないが、あまり長く身を海に浸し続けるのは体温や体力的にも危険だ。

そう判断したゴードンは、漂流者を背負い、今度こそきた道を歩き始めた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「いや〜!死ぬかと思った!助けてくれてありがとうな、おっさん!治療までしてもらっちまって。」

 

元エレジア城の一室。 

先程までぐったりとして気絶していた者のものとは思えないような元気な声が響く。

 

「いやなに、気にしないでくれ。治療といっても軽く消毒と、包帯を巻いて寝かしただけさ。それよりもーーー」

 

          ぐぅ〜〜

大きな腹の音が少年からなった。

 

「あ、わりー。腹減っちまってよ。なんか食いもんねえか?」

 

「手頃なものしか無いが、持ってこよう。」

 

そのまま食べられる果物やジャーキーをいくつか見繕い持ってくる。

 

「食いもんまでくれるなんて、おっさんほんとイイヤツだなぁ!」

 

パクパクとテンポ良く口の中に放り込み、美味しそうに食べていく。名も知らぬ場所に漂流してきたとは思えないような楽天気さだ。

手を止めさせるのも、と思いそのまま話を進めようと口を開く。

 

「君は、一体何者だ?この偉大なる航路で船の転覆などそう珍しいことでは無いが、どこからどう来たかは分かるかい?」

 

「ん?俺か?俺はルフィ!海賊だ!でっけ〜嵐にぶつかっちまってよ。帽子が落ちそうになったから手伸ばしたら、そのまま落っこっちまって!咄嗟に風船になって飛んでなかったらそこで死んでたかもな!」

 

風船のくだりなどところどころよく分からないところがあったが、ひとまず名前は知れた。

海賊だと胸を張って名乗っているが、とても一目見てそうだとは思えない。

 

「ルフィくん、というのか。しかし、無事でよかった。食欲もあるようだし衰弱の心配は無さそうだ。」

 

「おう!元気だぞ〜俺は!.......ところで、おっさん誰だ?」

 

「まだ名乗っていなかったか?私はゴードン。かつてこのエレジアを治めていた者だ。」

 

「おっさん王様なのか?」

 

「元、だがね。今この島には私を含め二人しかいない。」

 

「へー、二人か。そりゃ大変だな。じゃあ船とかもねえか?この島。」

 

「ああ。偉大なる航路を渡れるほどのものはこの島には無いよ。島から出るには海軍が二月に一度来てくれる支給船に乗せてもらうしか無いな。といっても、つい数日前に来たばかりだし、そもそも君は海賊なのだろう?頼りにすることはできないな。」

 

そう聞くとルフィは腕を組みウンウンと悩み始めた。

しばらくそうして頭を抱え、

 

「まあ、大丈夫だろ。あいつらが迎えに来てくれるさ!」

と、快活に笑った。

 

「そうか。ならしばらくこの島にいるということでいいのかね?先程にも言ったが、この島には現在二人しかいない。いろいろと手伝ってもらうことになってしまうが、それでもいいのなら私は君を歓迎するよ。」

 

「いいのか?俺海賊だぞ?」

 

「これでも人を見る目はあるつもりだ。君が非道な者でないことはわかる。そもそも、この島には私たちを騙してまで得られる物は何も無い。」

 

「じゃあ、お言葉に甘えてお世話んなります。」

 

ベッドの上でペコリと頭を下げるルフィ。素直に頭を下げることができる彼の姿に、やはり略奪を良しとするものではないのだと改めて思うゴードン。

 

「さてそれでは、君のことをまずあの子に伝えねばな。」

 

「あの子?おっさんともう一人のやつか?」

 

「そうだ。申し訳無いが、彼女には君が海賊であることを隠しておいて欲しいのだ。詳しくは話せないがあの子は海賊にあまり良い印象を持っていなくてね。」

 

「ん〜〜、まぁ分かった。隠しとく。・・・けどもったいねぇなー。海賊楽しいのに。」

 

口を尖らせ渋々ゴードンからの頼みを了承するルフィ。海賊であることを誇ってさえいるルフィではあるが、世話になる以上いつもの自分勝手さを抑え大人しくすることを決めた。

 

「それでは私は夕食の準備をしてくるよ。ルフィくんはどうする?仮にも長い間海を彷徨っていたんだ。食事ができあがれば呼びに来るから寝ていてもいいが。」

 

「いんや。もう眠くねえし、俺はこの島見て回りてえ。」

 

「しかしもう暗くなるぞ?あの子もすぐに帰ってくるし......、代わりと言ってはなんだが、この建物は元は城だったからな。相当に広い。島内はまた明日にして城の中を探索してみてはどうかね?仲間と会う目処が立つまでここに住むことになるんだ。それに、あの子が帰って来れば案内もしてもらえる。」

 

「そっか。分かった。じゃあお城探検してくる!」

 

言うが早いか、ルフィはベッドから飛び降りて部屋を駆け出ていった。

 

一人残されたゴードンは、そんなルフィに軽く圧倒されながらも、あの少年との出会いがウタを変えてくれれば良いのだが、と考えていた。

 

 

 

ルフィという名を聞いた時にわずかに感じた聞き覚えは既に忘れてしまっていた。

 

 

 

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