海賊の唄   作:たまごかけ

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晩餐

 

 

 

 スゥースゥー、と静かな寝息がルフィの胸元から聞こえる。

泣き疲れて眠ってしまったのだろう。

 

頬には流した涙の跡が残っている。十年もの間決して見せまいと影で泣き、声を上げることなどしていなかったのだ。思う存分に今までの分まで涙を流した彼女は、安心しきった顔で眠っており、実の年齢よりもいささか幼く見える。

 

そんな表情とは裏腹に、両腕は決して離すまいとがっちりと固定している。なんとか離そうと力を込めてみるルフィだが、びくともしない。

 

これ以上力を入れればウタを怪我させてしまうかもしれない、そう思いウタからの脱出は諦め、どうにか抱き上げて、まるで抱っこするような格好をとった。

 

それにしても、とんでもない偶然もあったものだ。

たまたま運良く辿り着いた島に幼馴染がいるなんて。と、らしくないことを考えるルフィ。

 

そのままウタを連れ、いい匂いのする方へ歩き始める。夕飯を作ってくれるって言ってたなぁ、とぼんやり考えながら、何度も同じ道を巡っていたのが嘘のように真っ直ぐとダイニングへと向かうのだった。

 

 

 

 

ダイニングにはすでにゴードンが腕によりをかけ、いつもより多めに作ったホカホカの料理が並べられていた。

 

 

「おっさん。ウタ連れてきたんだけど、どうしても離れねーんだ。どうしよう?」

 

せっかくの客人だとデザートを準備していたゴードンの前に現れたのは、なぜか、会ったばかりとは思えない程に密着する二人だった。

いや、密着どころか、ウタに関しては抱き抱えられ自らの足で歩いてさえいない。

 

理解しきれない状態に思わずフリーズしてしまうゴードンだが、スヤスヤと眠るウタに気づき声を抑えて尋ねる。

 

「・・・ルフィくん、ウタはどうしたんだい?随分と仲がいいようだが、二人は会ったばかりだろう?」

 

「会ったばっかじゃねーよ。ウタとはずっと友達だった!幼馴染ってやつだな。」

 

「友達、幼馴染・・・!!いや、そんなまさか・・・・本当に?そうか、まさか君がそうだったのか!何ということだ!こんな奇跡が!運命はウタを見捨ててはいなかった!!」

 

突然宙を仰ぎボロボロと涙を流して膝をつくゴードン。うわ言のようにありがとうと口にしながらルフィの足に縋り付く。

 

ついに一歩も動けなくなってしまったルフィ。

 

「おい、おっさん。離れてくれよ、飯食えねーじゃんか。なぁウタも起きろって。飯だぞ!メシ〜!!」

 

ルフィの言葉も虚しく二人が離れることはなく、目の前で料理が冷めていくのただ眺めることしかできない。

 

結局、ウタが目を覚ますまで動くことは出来なかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 しばらくしてウタが目を覚まし、ようやくルフィの待ち望んだ食事がやってきた。

 

美味しそうに料理を頬張るルフィと、先程までの自分を思い返して少し顔を赤らめるウタ。そして、そんな二人を微笑ましげにみるゴードンという三者三様な夕食の場が展開されている。

 

恥ずかしがってばかりではいられない、とウタは気持ちを切り替えるようにして話題を出す。

 

「ねえ、ルフィは今何をしてるの?」

 

スパゲッティをツルツルと喉に滑らせていたルフィが手を止めることなく答える。

 

「そりゃおめー、海賊に決まってるだろ!」

 

思わず顔を顰めてしまうウタ。そんなウタに気づかずにさらに進めるルフィ。

 

「俺、海賊王になるんだ!仲間も船もできたし、それにスッゲー強くなったんだぞ俺!」

にっこりと両手にフォークを持って胸を張って言う。

 

「・・・そっか、海賊、か。夢、叶えたんだね・・ルフィは。・・・フーシャ村のみんなは元気にしてる?」

話を逸らそうとするウタ。

 

「おう、みんな元気だぞ。つっても俺も海に出ちまったから今はわかんねーけど。・・そうだ!昔はウタの自慢話を聞くだけだったからな。今度は俺の冒険話を聞かせてやる!」

 

「い、いや、私はいいよ・・遠慮しとく・・・」

 

「何でだよ!楽しいぞ〜!」

 

「いいよ本当に」

 

「ええ〜、聞けよ〜!」

 

しばらく同様の問答を繰り返し、次第にウタもイライラしだした。

 

「ッいいって言ってるでしょ!しつこいってば!海賊の話なんて聞きたくない!!!」

 

賑やかだった食事場がシーンとなる。

自分が何を言ったのかはじめ分かっていなかったのだろう。興奮した様子だったウタだが、次第に発言の意味を理解して慌て出す。

 

「ち、違うのルフィ!今のは、今のはルフィを悪く言ったわけじゃなくて、その、・・・戦いとか略奪とかを、ルフィから聞きたくなかったっていうか・・、だから、ルフィが嫌いなわけじゃないから、ごめん。お願いだから嫌いにならないで・・」

目を潤ませて声のトーンを落としながらすがりつく。

 

「?なんで俺がウタを嫌いになるんだ?そんなわけないだろ。そもそも、海賊だから戦うことはそりゃあったけど奪ったりなんかしねーよ。」

 

「・・奪わないの?海賊なのに?」

 

「そんなのホントの海賊じゃねー!ホントの海賊ってのは、仲間と歌って、騒いで、宴をして、そんでもって誰よりも自由に海をいくやつのことだ!ウタの言う奪うことしかできねー奴はホンモノじゃねー。ウタだって分かってるだろ?」

 

やっぱり、ルフィはルフィだった。何年経っても変わらずにいてくれる。誰よりも海賊と海へ憧れていたあの頃のままだ。

 

「ごめんルフィ。誤解しちゃって。よければ、聞かせてくれる?冒険のお話。」

 

「おう!いいぞ!まずはーーー」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 それから沢山の話を聞いた。

 

二十年も宝箱に詰まったままの人と出会ったこと。

 

東の海から偉大なる航路に入るために登った不思議山。

 

山と見間違う程の大きなクジラとの誓い。

 

巨人の誇り高い決闘。

 

仲間との出会い。

 

あまり話上手と言うわけではなかったが、どれだけ自分がワクワクしたのかということを身振り手振りも使って伝えてくれる。

 

そんな嘘のような話を聞いて分かったのは、ルフィは心の底から今の航海を楽しんでいること。

そして、・・・悔しいけど、仲間達のことが大好きなんだってこと。

 

この時『ウソップ』がこんなことをしてさ〜、『サンジのメシはうめェ〜んだ!『ゾロ』はホント馬鹿だ。『ナミ』はおっかなくって、『チョッパー』なんて七段変形できるぞ!『ロビン』は頭がいいんだ!

 

楽しそうに語る彼の姿に、今しがた名前を知ったばかりの彼の仲間達に嫉妬してしまう。

彼らは私の知らないルフィを知ってるんだと思うとどうしようもなくモヤモヤする。

 

でも、今だけはルフィは私のものだ。仲間が迎えに来るまで、なんて言ってるけどそれがどれだけ難しいことかルフィはわかってるんだろうか。

今も頭をウンウン悩ませてここにいることをどうやって知らせるかを考えている。

いっそのことイカダを作るのはどうだ!と私たちに尋ねてくる。

 

「なあ、どう思う?隣の島くらいいけねえかな。」

 

「ルフィ海舐めてるの?ここに来たのも嵐にあったからって言ってたじゃんか!もし私とゴードンが手伝ったとしても無理だよ!ルフィどうせ泳げないでしょう!三人中二人が能力者な上にそれって・・・絶対無理だよ!」

 

「私も無謀だと思うぞ。このあたりは比較的波がおとなしいとはいえ、専門家でないものが集まっても大したものは作れないし・・、いくら航海術があっても死ににいくようなものだ。」

 

「おっさん航海術まであんのか!」

 

「いや、私は海を渡る術を持っていないが、ルフィが持っているのではないのか?船長なのだろう。」

 

「いんや。俺は全くだ。地図も海図も読めねェ」

 

「「じゃあ絶対無理だ!」」

 

他にもたくさん話をした。

 

 

 

 

 

「バラバラ実のバラバラ人間に煙人間?すごい。そんな能力もあるんだ。」

 

外には私の知らないことがたくさんある。それをルフィに教わるのはなんだか複雑だけど・・・

 

一番驚いたのは、ルフィも能力者になってたことだ。

ゴムゴムの実を食べちゃってゴム人間になったんだと。すごくほっぺが伸びるのを見せてくれた。

 

夜遅く、虫さえも眠る時間まで私たちは話続けた。

 

そうやって話している最中、ゴードンが立ち上がった。

 

「もうそろそろ私は眠ることにするよ。君たちももう寝なさい。積もる話はまた明日でもできる。」

 

「うん。俺もねみーからもう寝るわ。」

 

眠る。こう聞いた時、どうしようもなくウタは不安を覚えた。

もしまた目を覚ました時、私を置いて行ってしまったら?そんな考えが頭をよぎる。

 

「ルフィ・・お願い。私と一緒に寝て。」

 

「何でだよ?部屋もベッドも自分のあるんだろう?俺は適当なとこで寝るし「お願い!」」

 

「お願い・・一緒が嫌なら、同じ部屋で寝るだけでもいいから、だから・・・」

 

勇気を振り絞りウタはルフィに頼み込む。

無いなんて分かっているが、どうしても不安なのだ。一人の乙女としてどうかと思いもしたが、想い人ならば問題もあるまい、と自分に言い聞かせる。

 

「う〜ん?よく分からんけど、一緒に寝たいんなら別にイイぞ。一緒に寝るか!」

 

「う、うん!じゃあねゴードンおやすみ!」

 

顔を出来るだけ見られないようにしてルフィの手をひき、部屋へ向かう。真っ赤になっているのを見られたく無いのだ。

 

部屋はいつも綺麗にしてあるのでそのままルフィを連れ込み、ベッドへ入る。

 

とても同年代の女の子と同じベッドにいるとは思えないスピードで眠りに入るルフィ。

そんなルフィになんともいえない表情を浮かべるが、まあルフィだし、と思い直し、そんなルフィを精一杯抱きしめてウタもまた夢へと旅立った。

 

 

今度こそこの温もりを決して離さないようにして。

 

 

 

 

 

 

 

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