少し遡り、その頃メリー号ではルフィの懸命な捜索が行われていた。
「おーい!サンジ!どうだ!」
ウソップが手すりから身を乗り出して海に叫ぶ。
「まったく手掛かりなしだ!どうする?もう少し範囲を広げるか?」
「もういいわ!サンジくん、上がってきて!」
ナミが声を張り、船上に戻るように指示を出す。
錨を下ろして船を一時的に止め、辺りを捜索しているが、ただでさえ頭数が少ないのだからそうそう結果の見込めるような方法でもない。
分かってはいたがやらないわけにはいかないとサンジは海を潜り続けたのだ。
船の上で顔を突き合わせて話合う麦わらの一味。
ああでもない、こうでもないと意見が出ては消えていく。
まだ一味に仲間入りして日の浅いロビンは、船長が生きていることを欠片も疑わない彼らの姿に目を細め、眩しいものでも見るかのようにする。
「ロビンは何か意見とかない?なんでもいいんだけど。」
一言も発さないロビンに話を振るナミ。この船の中で最も俯瞰的に物事を眺め論理的に思考ができるのはロビンだ、という信頼からの言葉でもあった。
話を振られたロビンは思考を切り替え、考え出す。
そして、ふとこのあたりで昔話題になったことを思い出した。
「・・・この状況をどうにか出来るようなことかは分からないけど、思い出したことがあるわ。」
「思い出したこと?」
「ええ。確かこのあたりには、今記録指針ログポースが示している島とは別の島が目と鼻の先にあるはずよ。もし船長さんが海に沈むことなく流されているのだとすれば、その島にたどり着いている可能性がある。」
「どんな島なの?」
「かつてこの偉大なる航路グランドラインで名を馳せた、愛と平和と音楽の国、エレジアがあった場所よ。十年程前にその国は突如として滅びたんだけどね。」
「滅びた?なんでだ?」
国が滅びたと聞き、チョッパーが耳をひくつかせながら疑問を抱くが、遮るようにゾロが厳かに口を開く。
「どうやって国がなくなったかは今はいい。それで?その島にはどう行けばいい。」
「向かう気?本当にいるかなんて分からないのに。いいえ、いるはずがないと言ってもいい位の確率よ。」
そんなロビンの忠告に、ゾロは鼻で笑って答えた。
「関係ねぇよ。手掛かりもろくに無いんだ。船長を探すのは当然として、手当たり次第でもなんでもするしかないだろ。あの馬鹿がこんなことで死ぬとは思えねえしな。」
不敵にニヤッと口角を上げる。
言葉の節々に信頼が見て取れるのがロビンには手に取るように分かった。
「・・・まず、このまま真っ直ぐその島に行くことはできない。」
「ん?なんでだ?さっき目と鼻の先って言ってたじゃねーか。」
ウソップが先のセリフとの矛盾を指摘する。
「ここは偉大なる航路よ。航海士さんも聞いておいて!たとえその目に島を写したとしても、記録指針がその方向を向いていないのならばまず疑いなさい。島だと思っていたら超大型海王類だった、だとか蜃気楼によって見せられたただの幻で実際には何千キロも離れたところにあった、なんてことこの海にはザラにあることなのだから。」
「まあ、あの船長さんなら、『あの島目掛けて真っ直ぐ進めー!』なんて言うんでしょうけど。」
くすりと笑いながら頭に浮かんだ船長の姿を口にする。絆されてはならないと思ってはいるのだが、どうもこの船のクルー達は気が良く気を許してしまいそうになる。
「で、ロビンちゃん。結局その元エレジアに行くにはどうすればいいんだい?永久指針エターナルポースがあるわけでもないし・・」
そう。現状記録指針がその島を指していない以上、ロビンの話では向かう手段がないと言うことになる。
そう聞かれることも織り込み済みだったのだろう。悩む素振りもなくロビンは答える。
「永久指針を使う。」
「どうやって?サンジが言った通り手元にないぞ?」
「そうね。だからこれから取りに行くのよ。これは一種の賭けだけど、記録指針が今指す島もあと数刻もあれば着く場所にあるはず。ねぇ航海士さん?」
「確かに、もう島がそろそろ見えてくる頃のはずだけど・・」
突然航海士として尋ねられたナミはこれまた淀みなく答える。
「私の記憶が正しければ、次の島は偉大なる航路でも珍しい、指針の街と知られるガイド島よ。その名の通り、一般的な記録指針はもちろん各地の永久指針も集まってくるのだとか。十年も前に滅んだ国を目指す永久指針があるかは分からないけど、こんなに今の状況にうってつけの場所もないでしょ?」
ロビンの話を聞き、誰とも言わずに目を合わせあい深く頷く面々。
ウソップが、いないルフィの代わりを果たすように次なる島の名を叫ぶ。副船長としてうんぬんかんぬんと聞いてもいないことをペラペラと話すのもご愛嬌。
心なしか皆の顔も明るく見える。
夕陽の沈む方向へと、
目指す針路の定まったメリー号は真っ直ぐと次の島へと向かっていった。
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「見つけた!見つけたわよー!」
息を切らしながらオレンジ色の髪を揺らしナミが船へと駆け込んできた。
「街はずれの骨董屋で売られてた。これでエレジアに行けるわね!」
「でかしたナミ!」
「さっすがナミさん!ってかウソップ!?てんめ〜ナミさんとなんて羨ましいことを!!!!」
探し求めていたものを手に入れ上機嫌なままナミとウソップはハイタッチし、そのままの勢いでひしと抱きしめあった。
自分がいの一番にナミさんの元に駆けつけていれば、と血涙を流してウソップを睨みつけるサンジ。
いつもの調子が戻ってきたと、チョッパーはワイワイと騒ぐ三人を見て顔を綻ばせた。
同じく島を探し回っていたゾロとロビンも合流する。
本人は監視のつもりで着いて行ったのだが、それが功をなし迷子にならずに済んだのだ。いつのまにかいなくなっていたゾロを探すのに幾ばくか時間を要すると思っていたのだが、無駄な時間を使わずに済んだことにゾロ以外が胸を撫で下ろした。
早速全員乗り込み持ち場につく。いないことなんて誰も考えてなんていなかった。急ぎ準備を整えて船を出す。
目指すは、かつて音楽の島と謳われた音楽の聖地。
遂に舞台に役者はそろう。
全てを失い灰色になったその世界に、一体何が響くのか。
流れる涙は喜びか、それとも絶望か。
歌と詠は切っても切り離せない。
止まった時もいつかは動く。
この物語の果ては、まだ誰にも分からない。