ルフィが島に漂着してから一週間が経った。
ウタとルフィは会えなかった空白の日々を埋めるようにして話し、歌った。
最初の頃にあった不安定さも収まり、今では笑顔が絶えない。
ずっと彼がここにいてくれれば、とゴードンは思う。だが決して口には出さない。ウタがそれを切り出さないのだ。自分がそんなことを言うわけにはいかない。
そもそも、束縛を嫌う彼のことだ。この島での生活を今は楽しんでくれているが、それも仲間が来るまでのこと。
ウタは未だにこの島であったシャンクスたちとのことを話していないようだ。
踏ん切りがつかないのか、口をゴモゴモとさせて何かを発しようとするも、それを飲み込む場面を何度も見た。
・・・本当によいのだろうか。このまま嘘をつき続けて。
彼と交わした約束を無下にしたいわけではないが、大好きな家族のことを恨み続ける彼女は辛そうで見ていられない。
だが、この島を滅ぼしたのが自分だと知ってしまえば、ようやく笑顔を取り戻したにもかかわらず自責の念に押し潰されてしまう。
悪いのは彼女ではないというのに。
そうして悩み続けるゴードンの耳にルフィの大きな声が届いてきた。波の音もあるというのに、本当によく響く。
たくさん食べるルフィにつられてついつい食が進んでしまい、今日はバーベキューにでもしようと外に出したコンロの火を眺めていた時のことだった。
そのまま声は止まず、むしろ大きくなる。どうやら知らない声も混じっていそうだ。楽しげに聞こえる声の調子に、もう来てしまったのか、とゴードンは陰りを見せた。
駆け足気味にやってきたのはウタとルフィ、そしておそらく、ルフィの待ち望んでいた彼の仲間たちだった。
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「うーむ、ま〜だ来ねーのか?」
海岸から海に向かって目を細めルフィは呟く。
「ルフィの仲間だよね?そんなに簡単に来れるとは思わないけど・・」
待ち遠しそうにするルフィにくっつくように寄り添うウタがルフィの呟きに拗ねるように答えた。
仲間と早く会いたい気持ちはわかるけど、今は私がいるのに、と心の中で一人ごちる。
「いーっや。そろそろ来ると思うんだよなぁ、あいつら。」
「何を根拠にしてるのよ?」
「勘」
あっけからんと勘だと言い切るルフィはいっそ清々しい。
そろそろ戻ろうと岩から腰を上げて袖を引っ張り連れて行こうとした、その時。
ルフィが勢いよく立ち上がった。
「っキター!!!メリー号だ!ウタ、見えるか?あれだよ!俺らの船!!おーい、ここだぞ〜。」
まさか、本当に来たの?
「ねえルフィ、本当にルフィの船なの?」
ウタに目にはまだ小さな粒のようにしか見えない。
「ホントだって!!見てみろよあのマーク!」
だんだんと近づきその全容が見えてきた。
話に聞いたルフィの特等席だという羊の頭。小麦色の麦わら帽子を被ったはためくドクロのマーク。
間違いなくルフィの船だ。
ルフィの仲間達と会いたい気持ちはもちろんある。私の知らない彼を知る人たちだ。たくさんお話ししたい。
でも、それとこれとは話が別で。
「・・・もう、行っちゃうの?ルフィ。」
「ん?」
「仲間が来たから、もうこの島から行っちゃうの?」
楽しかったこの日々。もう手放すなんて考えられない。でも、彼を縛ることはしたくない。でも行って欲しくもない。ようやく会えたのだから。
相反する思いに、思わず涙で目が潤んでしまう。
「また、私を、置いて行くの?」
あの日のことが重なる。
そんなウタになんでもないようにルフィは言う。
「え?ウタ一緒に来ねーのか?」
「・・・・・え?」
余りの衝撃に涙も引っ込んだ。
当たり前のように仲間として誘ってくれていることに気づくのに数秒を要した。
仲間になる、か。それはきっとすばらしいことだろう。大好きな彼と共にずっといられるのだから。
でも・・・
「・・・ごめん、すぐには決められないよ。ここまで育ててくれたゴードンを一人置いてくわけにもいかないし。」
そう。私は決して一人ぼっちではなかった。
気が狂いそうになることもあったし、寂しくて泣いたことなんて何百回もある。その度にルフィのことを想ってきたし、確かに連れて行って欲しいと心から思うけど、それでもゴードンは私にとって師であり親なのだ。
「そっか・・、じゃあ、ちゃんと決まるまでここにいるよ俺」
船を見ながらルフィは静かに言った。
「俺、ウタの歌好きだからさ。できればウタとは一緒に冒険してぇ。俺の船の音楽家になって欲しい!今は赤髪海賊団の音楽家は休業中だろ?絶対無理だって言うならしょうがねーけど、そうじゃないみたいだし。だったら仲間になるにしろ、ここに残るにしろ腹決まるまで待ってやるよ!」
もう船が着陸する。船の上からこちらが見えているのだろう。ルフィの仲間が手を大きく振りこちらに何かを言っている。おそらく、迎えに来たぞ!とか、ほんとにいた!だとかだと思うけど、今のウタの耳には何も入っていなかった。
あぁ、やっぱりルフィはカッコいいな。
欲しい言葉をこんなに簡単にくれちゃうんだから。
すぐそこまで来ている彼らを尻目に、人目も憚らずウタは強くルフィを抱きしめた。
ルフィもまた抱きしめ返す。
今までの苦労が全て報われたような、そんな気がした。
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「紹介するぞ!ウチの音楽家候補のウタだ!」
いるかも分からずにただ運に任せるようにしてこの島へ船を進めてきた仲間達に対して、ルフィは感謝の言葉もそこそこに突然見知らぬ少女を紹介し始めた。
「はじめまして。ウタだよ!よろしくね、みんな!」
「こいつ、俺の幼馴染でよ。昔いきなりいなくなっちまったと思ったらここで会ってさぁ。すっげ〜歌がうまいんだ!まだ船に乗るかは決められねぇから、それが決まるまでここにいたいんだけど、いいよな?」
マシンガンのように情報を叩きつけてくる船長にクルー達は面食らってしまう。
何よりも驚くべきなのは、彼女への対応だろう。脅迫まがいに仲間になれと迫られたゾロを筆頭に、他のクルーも持ち前の勢いで連れ去るように仲間にしてきた彼が、根気強く待つと言う。
それだけルフィにとって大事な者なのだろう、と全員が察した。
サンジが誰よりも早くそんな船長に答える。
「そりゃーもう!こんなお綺麗なレディを船に迎えられるってんなら、たとえここが地獄だろうと何十年でも待ってやるよ。よろしくねーー!!ウッタちゃーん!!!!」
いや、船長に答えると言うよりは初めて目にする美しい女性にと言うべきだったか。
他の面々の反応も色良い。
ルフィの幼馴染だというのも効いているのだろう。幼い頃からの仲だというのならいつになく上機嫌なのも頷ける。
ナミやウソップは、彼女こそがルフィの歌好きの原因だと見抜き顔を見合わせて笑う。
まさかあの朴念仁にも女の影があろうとは、と酒の肴ができたとばかりに悪い顔で。
「・・・船長の決めたことだ。文句はねぇよ。だが、しばらくここにいるってんだ。見極めさせてもらうぐらいはするぞ。いいな。」
せめて自分は警戒しなくてはとゾロは一応釘を刺す。
他のクルーからブーイングと共に「マリモ、迷子剣士、腹巻お化け、バーカ」とこの機にとばかりにまったく関係がない言葉までが飛んでくる。
青筋を額に浮かばせるゾロに、ルフィはいつも通りにニッコリと笑う。
「おう!しっかり見ててくれ!」
若干一名怖い人はいるが、好意的に受け入れられていることに気を良くするウタ。
このままここで一曲歌おうかと思ったが、ふと振り返って立ち上る煙を見て思い出す。
「ルフィ!もうご飯できてるんじゃない?みんなも連れて戻ろうよ!」
ご飯、という言葉を聞いて慌てたように城の方を振り返るルフィ。
「ほんとだ、メシだ!メシの匂いがする!よーしヤロー共!とりあえずおっさんのとこ行って、今日は宴だ!」
一目さんに駆けていくルフィ。
「あ!待ってよルフィ!」
それを追うウタ。
おっさん?とルフィの口から出た新キャラに首を傾げるも、さっさと行ってしまった二人を見て、置いていかれてたまるかと結局全員が走り出した。
最後尾で走るロビンは一人、島の荒れ方に疑問を抱いていた。