サイレンススズカが総受けで愛されて止まない話   作:┗┻━( ・`ω・´)┻┛

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エアグルーヴ→サイレンススズカ⑴

 ばっと掛けていた布団を持ち上げて身体を起こす。窓の外は未だに暗く、枕元の目覚まし時計は電池が切れてしまったのか針が止まっている。同室のファインモーションは私に背中を向けて寝息を立てていた。

 

 嫌な夢を見た。その上、寝汗が酷くベタベタとする。もう一寝入りする気にもなれなかった私はルームメイトを起こさないように静かに起き上がり、汗を拭いてトレーニング用のジャージに着替える。

 本来は朝5時30分までは外出禁止だが、門限を破って外を走る不届き者を取り締まるのも生徒会副会長たる私の役目だろう。部屋をそっと後にした私は足音を立てない様に——耳の良いウマ娘たちが集中し易い様に学園の施設はある程度の防音だが——静かに暗い廊下を抜けて、誰もいない化粧品で最低限の化粧を施して少しばかり肌寒い外へと出た。

 日の出まではまだ一時間以上あるが、学園敷地内や周辺は照明が等間隔に設置されている。もしも人が居ればすぐ見つかるはずだし、整備された道路はいつもと変わらず走り易い。ウォームアップ代わりに、この間スズカに教えて貰ったコースを軽く走る。

 

「ふッ!」

 

 身体が温まってくれば少しずつ速度を上げる。しかし、朝食前だからか身体が重い。あるいは、この前のレースでの疲れが抜けきっていないのかも知れない。我がトレーナーと敬愛する会長から、それぞれ休みを貰ったとはいえ怠けて身体を衰えさせる気はなかった。

 身体が十分に熱くなって、ウマ娘としての本能が目覚めてくる。コースを辿り河川敷をずっと走ったその先に、ふと()()()()を見かけた。

 

「ッ!スズカッ!!」

 

 私はその影を追ってギアを上げる————だが、どれだけ走ってもその影は踏めない。ふと気がついた時にはその影は、遥か先へと消え去ってしまった。

 どれだけ走ったのか検討もつかない。気がつけば日が昇り始めているからには相当走っていたのだろう。ゆっくりとペースを落としてから、脚を止める。幸いなことに、昔にスズカを追いかけて走った道と全く同じだったから迷ったということはなさそうだった。私は、私の目の前から消えた影を追うのを止めて学園へと引き返した。

 

————

————————

 

 学園へと戻り、寮のシャワールームで汗を流す。走るのに熱中していたからか朝食をゆっくりと食べる時間はなさそうだ。昨晩のうちに今日の準備をしておいたのは正解だった。荷物を取りに寮室へと戻ると準備を整えたファインモーションがベットに腰掛けて窓の外を見ていた。

 

「あっ、グルーヴさん。おはよう……大丈夫?」

「あぁ、おはよう。大丈夫、とは?」

 

 ファインが起きる前に出ていたからか、朝の挨拶から始まる。ただ彼女らしい元気さは形を潜めている。私の顔色を伺う様に見つめられると、何やら居心地の悪さを感じて顔を背けてしまった。

 

 

「起きたらもう居なかったから……大丈夫なら良いの」

 

 何かを誤魔化す様に曖昧に笑うファインは、自分の荷物を持って「そろそろ行かないと遅刻しちゃうね。また後で」と言って部屋を先に出る。彼女ならしくなさに、私は何も言えずに背中を見送る。少ししてから自分の荷物を確認して寮を出た。

 寮から校舎へと向かう道のりで、すれ違う生徒たちと挨拶を交わす。特に早い者と特に遅い者を除けば今の時間帯が登校のボリュームゾーンだ。校門前では駿川理事長秘書がいつものように努めて挨拶をしている。そして玄関口では風化委員長のバンブーメモリーと委員長のサクラバクシンオーが朝から挨拶運動をしている。空に響き渡るくらいの声量で挨拶を行う二人に挨拶を返す生徒たち、熱量の差は大きくてどこか空回ってる気がする。

 

 学園内は外に比べればよほど静かだ。先ほどのサクラバクシンオーが校内を駆け回るでもなく、シンコウウィンディやゴールドシップが悪戯をするわけでもない。数人で一グループのいわゆる仲良しなグループごとに固まって何かを話している。

 同じクラスのBNWの三人もそのうちの一つだった。教室に入ると三人のうち、ビワハヤビテが気づいて挨拶をする。それに続いて残りの二人や私が挨拶を返す。こうやって挨拶をしていると少しだけ心が軽くなる気がする。

 

「エアグルーヴ君……大丈夫か?目元に薄らと隈があるが」

「あーっ!本当だ!無理しちゃ駄目だよ!」

 

 ハヤヒデが目を細めてさらに私を呼び止めた。そこに続いてチケットの普通にしていても大きな声が響く。教室内の視線がここに集まる気がした。

 

「あぁ何……夢見が悪くてな。心配をかけて済まない」

 

 タイシンは何を言うまでもなく、苦々しそうに話している私たちを見ていた。そんな時に私にとって都合よく予鈴が鳴り、みんなが授業のために自分の席に着く。時間になったら担任が短いホームルームを行なって、続けて必修の授業に移った。

 寝不足だからか、空腹からか。私はその日の放課後までをぼんやりと過ごしてしまった。幸いにも失態として見咎められることはなかった。しかしながら、女帝としてあるまじきことには違いない。

 

 放課後、人が疎になった教室から校庭を見下ろす。練習場の一つとして使われる場所だけあって、熱心に走り込みをする生徒からそれを見守るトレーナーや教官が目についた。そしてその中に、私はまたしても緑の影を見る。

 

 認めよう。私はサイレンススズカを一人の女性として愛している。ある時はスズカの影を探し、またある時はスズカの声を思い出す。授業に集中しきれないくらいには頭の中をサイレンススズカが埋めていた。

 

「スズカ……」

 

 私の中の埋めようのない寂寥感から溢れた小さな呟き。その声を拾う者はいなかった。

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