サイレンススズカが総受けで愛されて止まない話   作:┗┻━( ・`ω・´)┻┛

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スペシャルウィーク→サイレンススズカ⑴

 スズカさんのトレーナーさんはズルいと思う。

 

「スペちゃん」

 

 スズカさんのトレーナーさんは卑怯だと思う。

 

「おーい、スーペちゃん」

 

 スズカさんのトレーナーさんは————

 

「スペちゃんってばぁ!!」

「わぁっ!?」

 

 いつの間にか横に立っていたセイちゃんが、私の耳元で大声を出すから驚いてしまいました。気がつけば目の前には食べ終わったドンブリが積み上がっていて、手元には空のドンブリから虚無を口に運んでいた箸をガリっと噛んでしまいます。

 

「驚きすぎでしょ、そろそろ食堂閉まっちゃうよ?」

 

 セイちゃんも私が出したであろう素っ頓狂な声に驚いたのか、尻尾と耳をピンと立てていました。ただすぐにへにゃりとした笑みを浮かべては時計を指差して時間を教えてくれます。夕食の時間の終わり頃、周りを見渡すと人は疎で閑散としていています。

 

「あ,あれぇ……?食べるのに夢中になっちゃってたかなぁ……?」

 

 つい先ほどまで脳内を占めていた悪感情を締め出す様に、私は立ち上がって食器の片付けを始めました。セイちゃんは呆れた様に、仕方ないなぁなんて言って机の上の片付けと食器運びを()()()()()()()()()()

 

「うぅ〜セイちゃんごめんね。ありがとうっ!」

「いえいえ〜見かけた時はびっくりしちゃったよ〜」

 

 セイちゃんはいつもの様に隠れて夜の自主練習へと行くのかジャージを着て綺麗なタオルを持っていました。トレーニングに行くには、食堂を通るのは不思議な気がしたけれど。それを聞くまでもなくセイちゃんは「私はこれで〜疲れちゃったや」と背中を向けて去ってしまいました。

 私は一人、ぽつんと取り残されてしまって様で一人でとぼとぼと寮へと帰るのです。足取りは極めて重く、叶うなら部屋に戻りたくないなと思いながら。

 

————————

————

 

 翌日、トレーナーさんと二人でトレーニングに励みます。お昼ご飯の後だけどトレセン学園のみんなは熱心で、練習だと言うのに鬼気迫る気迫でグラスちゃんとエルちゃんが並走していました。

 私はと言うと今週末の菊花賞に向けてウッドチップコースで調整です。私の走りとタイムを見るトレーナーさんの表情は険しくて、前はいつもニコニコとしていたトレーナーさんはここ最近、調子が悪そうに見えます。タイムだけを見れば十分勝ち負けが出来るとトレーナーさんは言うけれど、やっぱり私も不安になってしまってトレーニング後の自主練習に乗り出そうとコースに残ることにしました。

 

「……あらスペシャルウィークさんご機嫌よう」

「キングちゃんは、自主練?」

「えぇ、次の菊花賞こそ私が勝ってみせるんだから」

 

 一人でストレッチをしているところで、通りがかりに声を掛けてきたのは同じクラスのキングちゃんでした。オーホッホッホッと高らかに笑ってみせるキングちゃんは、笑ってるけど目が本気です。いや、キングちゃんもセイちゃんもいつでも本気でした。

 私みたいに食べすぎたり思い悩んだりと言うのが見えないくらいにストイックで輝いてる一流のウマ娘。彼女は一流であることを証明すると言っていたけれど、その姿は私にはあまりにも眩しくて。

 

「そっか、私は今から上がりなんだ。がんばってね!」

 

 私は逃げてしまいました。

 

————————

————

 

『一着はセイウンスカイ!二着はスペシャルウィーク!——』

 

 クラシック三冠が終わった、一着に三馬身は離されての二着でした。

 セイちゃんは敗者たちに振り返りもせずウィナーズサークルへと向かいます。私よりも後にゴール板を超えた子たちはみんなそれぞれだで、肩で息をする者や膝を突き、ターフを殴りつける子までいます。観客は三冠の決着に熱狂していて、歓声がレース場に鳴り響いていました。

 私は憎らしいくらいに晴れ渡った青空を見上げました。歓声は耳を素通りして、今の私の中には走り切った余韻だけが胸を支配していました。叶うならスズカさんが見ている前で勝って誇りたかったけれど、実力で負けたのだから悔いはないはずです。大きく息を吸って、目に溜まってしまった汗を腕で拭いました。

 

 地下バ道を一人歩いていると少し向こうにトレーナーさんが立っています。トレーナーさんは一人で百面相をしてから、少しだけ困ったように笑うのです。

 

「スペ、おかえり」

「トレーナーさん……ごめんなさい」

 

 私はトレーナーさんへとゆっくり近寄って、今の気持ちを絞り出しましす。私の声は震えていました。トレーナーさんは何も言わずに肩をぽんと叩いて、私が歩くのを促します。

 

「ただいま、だろう?ライブまでにはシャンとしろよ」

 

 私は上手く喋れなくて、一度頷くしか出来ませんでした。しっかりとトレーナーと話さないといけないのに、誰かに吐き出してしまいたいのに。どこにも吐き出し先がないから息苦しくなってしまっています。走るのをやめた途端、澱みが胸の中に溜まるのを感じます。控え室に戻って深呼吸をして、笑顔でライブを踊って。それでも心の底に溜まったスズカさんへの恋慕を隠すことは出来ても、晴れることはありませんでした。

 

 

 トレセン学園へと帰った頃は食堂、カフェテリアや浴場に生徒が詰めかける時間帯です。食事を後にまわして、熱心に自主練習に励む生徒たちを尻目に寮へと入り、人の気配もしない寮の廊下を通って寮室に入ります。当然かもしれませんがスズカさんは部屋にいなくて、真っ暗な部屋に挨拶をすることもなく荷物を置いて、私は部屋を後にしました。

 そして私は赤いジャージ姿で外に出るのです。トレーナーさんにはレース後だからよく休むようにと言い含められていたけれど、身体が休まったところで心が休まらなければ意味がないと思うからです。

 

 レースの後だからか思ったようには身体が動きませんが、ゆっくりと私は学園を出て幾つもある外周コースのうちの一つを走り出しました。いつもスズカさんが好んで走る道です。堤防沿いまで出て遠くまで見渡せる道を一心不乱に走ります。都会は色んなものがあって、都会には色んな人がいて、スズカさんがいました。でも走っていて、彼方を見上げると故郷のように星は見えません。仮に遮蔽物がなかったとしても、星が見当たらないのです。

 

「ハッ……ハッ……」

 

 ウマ娘が全力で運動をすれば汗が蒸発し蒸気になりますが、今の私にはそこまでのエネルギーがありませんでした。それでも走って、走って。誰もいない河川敷の原っぱまでやって来る頃には人並みに脚が遅くなって、そこでエネルギーが尽きたのか脚が縺れて転んでしまいました。めちゃくちゃにスピードが遅かったけれど、それでも転ぶのは結構痛くて。

 私は起き上がる気にもならず仰向けになりました。

 

「スズカさん……」

 

 頭に浮かぶのはスズカさんのことばかりです。スズカさんならどう走るか、スズカさんならどこを走るか、スズカさんなら何を食べるか、スズカさんならなんて言うか。スズカさんスズカさん。想うほどにドツボにハマると分かっているのに、脳はスズカさんのことを勝手に考えます。そして、スズカさんの近くにいたスズカさんのトレーナーさんへの嫌な感情も——八つ当たりだと分かってるけれど——湧き上がってきます。

 走ってるとき以外は、ううん、走っている時でさえスズカさんのことを考えてしまう自分がとても嫌で嫌で仕方なくて、きっとセイちゃんにもキングちゃん、トレーナーさんにも隠しているこれを見透かされている気もして何だか私は立ち上がれる気がしなくなってしまいました。

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