廃品、よろずお引き取り致します。   作:Naoh_Seiju

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以前書いた「廃品、よろずお引き取り致します。(試作)」の、追記改訂版です。


廃品、よろずお引き取り致します。

風吹きすさぶ荒野に、金属同士がぶつかる音が響く。

 

ガシャ…ガチャ…ガランガラン……

 

「ふむ…今日は結構落ちてるな。大規模戦闘でもあったのか」

刃の欠けた剣、砕けたメイス、折れた弓…

傍目からは使い物にならなくなった様にしか見えない、かつて武器だった物が大八車に積まれてゆく。

実際、「通常なら」もう使い物にならない。

このMMORPGのシステム上では、ステータス補正0の「廃品」判定である。

MMO…そう、ゲームの世界で巌(いわお)は…ゴミ同然の物を拾って歩いているのだ。

 

 

技術革新はVR機器の小型化、無線化を促した。

価格も以前に比べると随分お値打ちとなり、ゲーマーを中心に普及してゆく。

あらゆるジャンルのゲームで、VR機器の使用を前提とする物が出始めて来た。

「…俺みたいなオッサンもとうとう改革の時、なのかねぇ?」

巌は、幼少よりゲームを嗜んで来た。

ただ、つい最近までは慣れない仕事に時間が取れず…ゲームは半休業状態であった。

仕事に慣れれば次の仕事、それに慣れれば部下が出来…と、腰を据えるには程遠い日々。

部下も育ち一段落、「ようやくゲームを再開出来る!」とゲームショップを覗くと…別世界であった。

「色々あるな…ほう、MMOもあるのか!てっきり廃れちまったのかと思ってたよ」

『今売れてます!!』POPが付いた什器に並ぶDLカード。

そこには、「ジャンル:MMORPG」の文字が表記されており、懐かしく感じる。

「…よし!思い切って買ってみるか!」

久々のゲーム復帰。敢えて前情報を仕入れずショップに来た判断、吉と出るか凶と出るか…。

 

 

「ふぅ…大漁大漁!」

積載量ギリギリの大八車を引きながら、タウンへの帰路に就く。

 

ギュイィィーーン!シャッ!ズババババ!!

 

「お、やってるな」

派手なスキル発動音とエフェクト光に誘われ、巌はしばし足を止める。

見知らぬPTが狩りを行っているようだ。

このMMOは若い世代にも人気なだけあって、戦闘も派手である。

美男美女が各々の得物を振るい、華麗に戦う。

巌も最初は興奮したものだ。

ただ、巌はこのMMOに別の面白さを見出したので、戦闘は長らく行っていない。

MMOではよくある生産職。

それが「見出した面白さ」であった。

巌は学生時代にもMMOをプレイしていたが、その頃から生産職が好きだった。

素材を掘り、切り出し、拾い集め…加工して売る。

この単純な作業の反復が妙に心地良かったのだ。

このMMOでも、開始した早期から鉱山に篭って鉱石を掘削し、インゴットを大量生産する毎日…。

しかし…ある日、そんな採掘ライフにも転機が訪れる。

 

 

モンスターの徘徊する危険な鉱山。

そこで採掘を行う為に、二人の護衛を雇ってPTを組んだ時の話である。

「旦那、護衛は任せときな…その分貰うモンはしっかり貰うけどな!」

ガッハッハ!と髭面の山賊の様な戦士が豪快に笑う。

「鉱山に亀の化け物が住み着いて困ってたんです…決して安くない額を支払ったんだ、給料分は働いて下さいよ?」

熱の入ったロールプレイには誠意を持って応える、それが巌のポリシーである。

「最近いい武器ドロップしたんだよね。こいつの切れ味試したいから丁度よかったよ」

「へぇ…いい剣ですね」

「でしょ?コイツがあれば…」

「オイ!構えろ!敵襲だ!!」

「私は隠れます!後はお願いしますよ!」

二人の戦士が、ハンマーを携えた亀の化け物と戦闘に入った。

しかし、力及ばず…二人はモンスターに破れ、その遺体は最終セーブポイントへと飛ばされる。

隠れていた巌は、辛うじてモンスターの目を逃れていた。

「…悪い事したかな。まぁ報酬は先払いだし…いいか」

護衛の一人が自慢していた業物は、死亡した事で所有権が消えて「廃品」となり、地面に転がっている。

プレイヤーがプレイヤーを襲い、アイテムを強奪するプレイヤーキルを防ぐ為に設けられた「絶対の掟」

「廃品」はゴミ同然であり、アイテムスロットを埋めるだけの存在である…ハズであった。

 

ぼおおぅぅ…

 

「何だ?あの廃品…光って見える気が……」

周囲を警戒しつつ、かつて業物であった「廃品」を拾い上げる。

何かが気にかかる巌は、急いで鉱山を離脱した。

タウンの自宅兼工房に駆け込み、工作台に「廃品」を置く。

「何故か気になる…武器を修復する時とは違う、素材から武器を造る時の感覚……まさか…」

思い付きはした。

が、システム的に可能と言う話は…ネットでも聞いた事が無い。

しかし…何かが出来る気がした。やってみる価値は…ある!

巌は愛用の槌を、力一杯振るう!

 

ガン!ガン!ガン!ガン!

 

「生産エフェクトが出た!?やっぱり…!」

「廃品」が…業物であった剣の姿に戻った。

ステータス補正はナマクラ同然に劣化していたが、ただの「廃品」が「剣」に戻ったのだ。

このMMOでは、武器を使い続ける事は基本的には不可能である。

使用による耐久値の「劣化」と、死亡して所有権を失った場合の「廃品」化があるからだ。

極々一部の超高位の武器でもない限り、この掟からは逃れられない。

使用による劣化は、ある程度なら巌の様な鍛冶スキル持ちが修繕する事が可能である。

だが、「廃品」から修繕が可能なんて話は聞いた事が無い。

それが、出来てしまった…。

修繕が成功した理由として思い当たるのは、ほぼ最上位に近い巌の鍛冶スキルである。

聞いた事が無い理由は…生産職が不人気過ぎて、この高みに居るプレイヤーがほぼ皆無。

故にネットで「廃品」修繕に関しての報告が皆無だった…のかもしれない。

ただ、仮に「廃品」修繕が可能だとしても「これで大儲け!」と言うのは、難しいと思われる。

並の武器ならNPCの店から幾らでも購入出来るし、希少な武器が「廃品」になるのは、強敵と戦うであろうダンジョン下層等。

そこまでソロで「廃品」漁りをするのは無謀が過ぎる。

そして、現在の戦闘の主役がモンスターのドロップ品である以上、無くなれば再び拾いに行けばよいのだ。

こういう事情も、「廃品」修繕の検証者が出て来ない要因かもしれない。

しかし、新しく発見した生産手段は巌の好奇心を刺激し、数少ない希少な技術という事が自尊心を満たした。

「これは…発見だ!今はナマクラしか作れんが…修行して、いつの日か完全復元出来る様になってやる!」

その日から、巌の「廃品」回収の日々が始まったのだった。

 

 

「ふぃー…どっこいせ。VRは怖いな…全く身体動かしてないハズなのに、恐ろしく疲れた気分になる。」

人間の視覚から取り入れる情報が精緻過ぎるのか、それとも脳の情報処理が意外に雑なのか。

とにかく、ゲームをプレイしているだけで疲労を感じるのだから…VRは恐ろしい。

「…コレ、実際に運動した事になって腹の肉も落ちねぇかな?」

不毛な事を考えつつ、帰路を往く。

大八車がタウンのゲートを越えて、ほっと一息。

「ここまで来れば安心だな。途中で死んだらまた拾い直し…考えたくないな」

…スキル上げ用の素材の確保も大変なのだ。

「あら、ガンツさん。こんにちは。廃品回収ですか?精が出ますね」

「ああ、ミドリさん。こんにちは。はい、今戻りました」

長いウサギの耳を生やした女性と、小太りの犬獣人がお互いに会釈をする図は、微笑ましい。

ガンツとは、巌のキャラクターネームである。

「ガンツさん、スキル上げの方は如何です?」

「ボチボチですな。時々スキルが微量上がるぐらいで…順調に上がってるのかすら分かりませんが」

「私も、最近はそんな感じですねー」

「お互い大変ですなぁ」

平静を装いながら、ミドリを見つめる巌。

このMMOが若者にも受ける一因として、キャラモデルの美しさがある。

適当にフェイスパーツを組み合わせても、麗しい美男美女が作れるお手軽さがウリだ。

しかし、目の前のミドリはそうではなかった。

恐ろしく「地味」なのだ。

むしろ、あのカスタマイズモードを用いてどうすればこれだけ地味な顔が作れるか、本人に聞いてみたい程である。

だが、それ故に悪目立ちをするわけでなく、その上で印象に残る。

落ち着いた容姿とも言えるし、物腰柔らかで優しい淑女である。

この性格や立ち振る舞いを知ってから顔を思い浮かべると、納得のフェイスという絶妙なデザインでもある。

好意的に想う巌の贔屓が解釈に入っているのも否めないが、そんな素朴さが巌を惹き付けるのであった。

…ちなみに、巌は自分のキャラメイクの類は面倒でしかないタイプである。

企業コラボで追加された、オーバーオールを着た小太りの犬獣人のモデルをそのまま使用している。

色男キャラの使用が照れ臭い巌には、有難い選択肢であった。

「ガンツさん、また今度お茶をお持ちしますね。ささやかではありますが…スキル上昇率が伸びるとか」

「いいですな。…出来ればミドリさんのお手製のクッキーも一緒に頂きたいものです」

「うふふ…ガンツさんお好きですものね。分かりましたわ」

ミドリは調理スキルガン振りの生産職で、巌と同じくスキル上限が見え始めている。

数少ない、希少な生産職仲間であった。

 

 

ヴァーン!ヴァーン!

 

耳をつんざくSEが鳴り響いたと思うと、今まで流れていた穏やかなBGMが、緊張感を煽るBGMへと変更された。

「あらまぁ…」

「強襲イベントですな…どれどれ」

タウンのあちこちに設置されている掲示板を見る。

『南ゲートをビースト級モンスターが強襲中。防衛されたし』

「ビースト級か…最近は初心者が相手にしてくれるぐらい…ですかな」

「ゲートで討伐されそうですねぇ」

序盤のボスが少し強くなったレベルのビースト級は、戦闘報酬も美味しくはない。

戦闘力もそう高くないので、タウンにプレイヤーが不在だとしても、NPCのゲートガードが倒すだろう。

「では私は工房に戻ります。失礼致します。」

「はぁい。スキル上げ、頑張って下さいね」

ミドリに一礼し、再び大八車を引く。

「さて、あと一頑張りだ」

強襲BGMが妙に長く続いている事に、その時は気付かない巌だった。

 

 

工房に到着し、武器のカテゴリや破損程度に分けて「廃品」を仕分ける。

所有者が居なくなれば立ち消える「廃品」も、一度巌が所有すればそれは巌の物である。

もう慌てる必要はないので、落ち着いて仕分けている巌であったが…

「…おかしい。まだ強襲イベントが終わらんのか?」

一向に途切れない強襲BGMを不審に思い、南ゲートまで様子を見に行く。

そこには、ビースト級モンスターを討伐するには、余りにも過剰な数の冒険者達が集っていた。

「よし!こっちはOKだ!合わせろ!」

「了解!」

 

ギュイィィーーン!ダンッ!ズガガガガ!!

 

「畜生!もうMPねーぞ!」

「こっちもだ!薬品も全部切れた!」

巌は、目を疑った。

強襲して来たのは、強敵とは言い難いビースト級モンスターである。

ダメージログを見ても、手慣れた冒険者であろうプレイヤー達の攻撃は、確かにヤツのHPを削っている。

本来であればもう30回以上は討伐出来ているダメージ量だ。

しかし、ビースト級モンスターは…倒れない。

(ダメージが無効化されているわけでもないのに、どうして…)

「おぉーい!皆ぁ!運営の告知を見てみろ!」

どこからか響いた声に反応し、運営のサイトを見た巌は…唖然となる。

『本日、13番サーバーにて不具合が発生しております。不具合内容:強襲イベントでモンスターのHPが減少しない』

「そりゃ倒せないハズだ。しかしそうなると…」

何時まで経ってもビースト級モンスターを倒せないなら…タウンはヤツに蹂躙され、モンスターの勢力下に飲まれる。

タウンが陥落すれば、奪還するまでかなりの長期間…不自由な生活を余儀なくされる。

(俺の工房もゼロから建て直し…何よりミドリさんのお店も……)

だが、生産一筋で長らく武器を振るった覚えのない巌が、この状況で一体何の役に立つと言うのだろうか…。

 

パキィィィン!

 

水晶が砕けるような音が、辺りに響いた。

「お…俺のクリスタルブレード+5がぁああ!!」

歴戦の冒険者のレア武器が、劣化によって砕けた様だった。

戦場となったゲートの周囲をよくよく見れば、折れた槍、砕けた斧…劣化破損した武器が少しずつ増えている。

(マズイ…武器がなければどれだけ歴戦の猛者であろうと……そうか!俺にも出来る事がまだある!)

「皆!武器は俺が用意する!少し…耐えてくれ!」

巌は力一杯叫び、工房へと引き返す。

 

 

「金策の為に売らなくてよかった…さぁ!急ぐぞ!」

巌は、大八車に積めるだけ武器を積み始める。

「廃品」修繕のスキル上げで作成した大量の武器である。

「廃品」修繕にのめり込んでからと言うもの、修繕の成功率も上がり、稀にだがHQ品(高品質品)も出来る様になっていた。

修繕した全ての武器が全て万全ではないが、かと言って今から店売り品をちまちま買い漁っている時間は無い。

積載限界まで積み上げると、巌は戦場へと戻る。

「皆!武器を持ってきたぞ!今日は特別大サービス!ロハだ!持ってけドロボー!!」

「…武器だって!?」

「ありがてぇ!俺の剣も折れちまいそうだったんだ!」

大八車に冒険者が殺到し、思い思いの武器を掴むと、再びビースト級モンスターに切り掛かる。

ビースト級モンスターはHPが減らない為、倒れない。

ただ、ダメージ相応の怯みや気絶が発生するので、全く無意味な行為ではない。

何より、戦わなければタウンは…陥落する。

「たぁーー!」

冒険者の一人が大上段で大きく振りかぶり、ビースト級モンスターの尾を切り落とす。

「おぉ!凄ぇなアンタ!スキルも使わずに一刀両断なんて!」

「いや…まさかブッた切れるとは……これ、店売りのスチールブレードだよな?何でこんなに切れるんだ?」

剛弓で支援を担当していた冒険者が、ビースト級モンスターのウィークポイントを狙撃する。

「…は?確かに相手はビースト級だけど…全貫通……だと?マジかよ…」

HQ品の「当たり」武器を引いた冒険者は、八面六臂の大活躍だった。

「…そうか、これがHQ品ってヤツなのか!」

「俺が使ってたドロップ武器より使い易いぜ!威力は劣るけど…当てやすいからクリティカルが出る!」

職人が減り、金策のうま味も金額的に皆無なので、通常武器のHQ品はほぼ出回らなくなっていた。

HQ品は職人の作り上げた逸品か、恐ろしく確率の低いドロップ武器にしか存在しない。

故にHQ品を握った事のある冒険者も、かなり少なくなっていたのが現状らしい。

「…え?HQ品ってそんなに珍しいのか?「廃品」修繕なら別だが…鍛冶スキル上げでゴロゴロ出来るぞ?」

作った本人である巌が、その事実に一番驚いていた。

 

 

「続報だ!あと二時間でメンテに入る!それまでタウンを守り切れば…俺らの勝ちだ!」

「武器屋のおっちゃん!追加の武器があるならガンガン持って来てくれ!俺達が守り切る!」

ゴールが見えた事で、冒険者達はにわかに活気付く。

「よし、待ってろ!今持って来てやるからな!」

空になった大八車を引いて…駆ける、駆ける。

工房に転がり込み、慌てて残りの武器を積み込む。

その時、工房の扉が開け放たれた。

 

バタン!

 

「ガンツさん!」

「ミドリさん!?今回はただの強襲イベントじゃない!急いでログアウトを!」

大荷物を持って駆け込むミドリに、巌は回線を切る様に促した。

「不具合の話は知っていますし、ゲートで皆が戦っている事も知っています!」

「だったら…」

 

ドスン!

 

ミドリは、背負っていた荷物を大八車に乗せて、凛とした表情で巌を見据える。

「職人は職人に出来る方法でタウンを守ります!…コレは必ず必要になります。」

「………分かりました。行きましょう!」

巌が引く大八車をミドリが押し、南ゲートへ急行する。

 

 

「はぁ…はぁ…後…何分だ?」

「まだ一時間以上残っています!」

「マジかよ…リアルのプレイヤーはともかく、ゲーム上のキャラのスタミナが持たねぇ…」

ビースト級モンスターの攻撃パターンが読めて来たので、少数PTで交代しながらの対応が可能にはなった。

だが、それは冒険者達が延々と戦い続けられれば…の話である。

このままでは、その内ビースト級モンスターにすり潰されてしまう。

「皆!武器のお替りだぞ!」

「おっちゃん…ありがてぇ!…でも……武器を振るう気力が無ぇや…」

最序盤から大剣を振るっていた冒険者は、もう戦えそうに無い。

「やっぱり、そうなりますよねぇ…持って来て正解でした」

「ミドリ…さん?」

ミドリは大八車の荷物を開くと、休憩中の冒険者に声を掛ける。

「さぁ、私も大盤振る舞いです!どんどん食べて、元気を出して下さいね♡」

その瞬間、四方八方から冒険者達の手が伸びた。

「ガッガッ…この串焼き…旨ぇ!!」

「これ…ただ焼いただけの肉だろ?何でこんなに美味いんだよォ!?」

「何だこのジュースの味…すっぱ苦……うぉ!MPがモリモリ回復していく!!」

「寿司も美味かったぞ!…何だ?ヤツの動きが少し遅くなった様に見えるんだが…」

「ふぅー…食った食った。よし!交代だ!お前らも飯にしろ!」

折れかかっていた冒険者達の心に火が点き、みるみる活気付いていく。

「うふふ。私もHQ品のお料理を溜め込んでおいて、よかったです!」

(ミドリさんの手料理…羨ましい!俺も…食いたい!)

非常時で無ければどさくさに紛れて手を伸ばしていたかもしれない。

だが、今は有事。

前線で戦う冒険者達にたらふく食べて貰わねば。

 

 

ミドリの食事により活気付いたが、その実、一進一退にすら届かなかった。

ビースト級モンスターの攻撃力や命中率、そして防御力や回避率はそう大したものではない。

だが、バグによって体力は無尽蔵で…倒れる事を知らない。

冒険者達は士気を削られ、スタミナを削られ…武器を振るう腕は重くなる一方であった。

食事によるドーピング効果だけで巻き返すのは、流石に厳しいと言わざるを得ない。

「出来る事はしたとは言え、見ているだけと言うのは辛いな…」

何か役に立てないかとゲートを見回していると…巌を同じく歯噛みしている冒険者が居た。

あの装束は…ビーストテイマーだろうか?

「畜生…俺がもっと用心していれば……」

「あんた、非戦闘員なら下がった方がいい!ここはマズい!」

肩を叩き、避難を呼びかける。

「いや、ここに居させてくれ。皆に合わせる顔が無い…」

「…どうしたって言うんだ?」

「それは………いや、懺悔代わりだ。聞いてくれ…この間抜け野郎の話を」

彼はポツリポツリと口を開き、語り出す。

 

 

その冒険者は、手練れのビーストテイマーだった。

敵であるモンスターを魅了し、使役する。

全身に施したCHRブースト装備、そしてレア武器である「神獣捕縛の鎖」により、高LVモンスターも彼の言いなりであった。

そんな彼が、決して倒れぬビースト級モンスターと遭遇する。

「ボスモンスターが使役不可能なのはシステム的に無理だからか、それともただ確率が低いだけでシステム的には可能なのか」

以前から持っていた疑問を検証するチャンスだった。

何せ、相手は倒れない。

何度でもテイムを試みる事が可能だ。

いつしか、彼は目前のビースト級モンスターよりも、自分の調教用スキルのリキャストタイム表示ばかりを見ていた。

そして、自分にターゲットが向いている事に気付くのに…遅れてしまった。

運悪くクリティカルヒットを貰い、一撃で葬られ…遺体は最終セーブポイントである南ゲート、つまりここへ戻って来た。

彼が心血注いで得たレア武器は…「廃品」と化した。

 

 

「あの時…余計な事を考えずに、ヤツの行動を縛る事に徹していれば…皆はここまで追い詰められなくても…済んだんだ」

「システムに挑戦する好奇心…私はそれに対して、人様にとやかく文句を言える資格は無い」

巌自身にも覚えがあるので、猶更である。

「廃品」を修繕するというシステムへの疑問に対する挑戦……

(…待てよ?…コレは……)

「ふむ…。なぁあんた、武器さえあれば…ヤツの行動を縛れるのか?」

「あぁ。だがビーストテイマーの使う鞭系の武器はレア度が高い。タウンでは手に入らない…」

「あんたは…どの辺りで倒れた?」

「あのガードハウスの前だが…何故そんな事を聞くんだ?」

「何、私に出来る事を思い付いただけだ。そして…もしかしたらあんたが出来る事も、な」

「…?」

 

 

巌はガードハウスへ向かい、戦闘のあった痕跡を調べる。

「廃品」になった武器は、主有権が無いまま放置されると一定時間でこの世界から消失する。

無駄なデータはサーバーの負担になるからだ。

つまり、急がねばならない。

「初めて業物を見つけた時の様に…レア度が高いなら「廃品」も目立つかもしれん…」

逸る心を抑えつつ、入念にチェックをしていると…

 

ぼおおぅぅ…

 

「あった!」

戦闘前までは鎖の束であった「廃品」を拾い上げると、工房へ急ぐ。

「頼むぞ…しくじったら後が…無い!」

工房の工作台へ「廃品」を据えて、精神を集中させる。

「南無三…!」

巌は愛用の槌を、力一杯振るう!

 

ガン!ガン!ガン!ガン!

 

「生産エフェクト…出たな!!よし!来い!!」

結果はNQ(ノーマルクオリティ)品で、従来のレア度を完全再現す事は出来なかった。

それでも俄然優秀な補正値を持ち、何よりも…タウンに現存する唯一の「鞭」である。

「これで…勝てる!」

全く同じ場所で打ちひしがれているビーストテイマーに、声を掛ける。

「私は出来る事をした…次はあんたの番だ!コレを…使ってくれ!」

「神獣捕縛の鎖!?どうして…?いや、今は……」

「あぁ、皆の為に時間を稼いでくれ。」

「任せろ!…ありがとな、おっさん!」

「頼んだぞ!」

 

 

「誰か!ヤツのタゲを取ってくれ!三分ほどヤツを縛り上げる!!」

ビーストテイマーが前線に躍り出ると、彼のPTメンバーが声を掛ける。

「お前…それ「廃品」になったんじゃあ…?」

「俺も分かんねぇ!でも、現にここにあるんだ!…ヤツを縛る!タゲを頼む!」

「…分かった!任せろ!」

大柄な重武装の戦士が、ビースト級モンスターの前に立ち塞がる。

「ヘッヘッヘ…しばらく俺と付き合って貰おうか!」

 

ガオォォォォオオン!!

 

雄叫びを上げ、戦士を睨み付け…飛び掛かる!

しかし…

戦士にターゲットを向けたビースト級モンスターの背後に、鎖の束が迫る。

「縛れ!神獣捕縛の鎖!!」

意志を持った様に鎖がのたうち回り、ビースト級モンスターの首や手足、胴を縛り上げて行く。

 

ジャララララ…ギリリリリ……

 

「ビースト級が相手なら、これで三分は持つ!リキャストが五分だから、残り二分だけ防いでくれれば…縛り続けられる!」

「…どうにかなりそうだな。ナイスだぜ!」

「いや、最初の俺の不手際さえなければ…とにかくこれで、勝ちは見えた!」

 

 

ゲートがビースト級モンスターの体液でぬかるみ、武器も料理もカンバン、冒険者の気力も限界…。

もしもビーストテイマーと神獣捕縛の鎖が揃わなければ…押し切られていたかもしれない。

だが…ようやく終わりが見えた。

『緊急メンテナンスに入ります。五分以内にログアウトして下さい』

「「「やったぁぁぁぁぁあ!!!」」」

「やりましたよ!ミドリさん!」

「はい、皆様のお陰です!」

「貴方も、ですよ。ありがとうございます」

「そうですね。ガンツさんも、お疲れさまでした」

生産職の二人は、前線より離れた位置で戦闘を眺めていた。

つまり…今は二人きりである。

(せめてログアウトまではミドリさんと二人で…)

そう願った巌の願いは、あっさりと破れた。

前線で武器は振るわなかったものの、戦線を支えた立役者に冒険者達が駆け寄って来たからだ。

「おっちゃん!俺…店売り武器だって舐めてたわ!凄いんだなコレ!メッチャ使い易い!」

「ねーちゃん!あの飯もHQ品なんだって?今度買いに行っていい?」

「…神獣捕縛の鎖のお陰で時間が稼げたよ。マジで…ありがとな、おっさん!」

冒険者達に囲まれながら、二人は微笑む。

「職人の戦い方…出来ましたね」

「そうですな。全く…廃品回収にハマってなければどうなったか…」

好奇心から始まった、ただの趣味がタウンを救った…。

無論自分だけの力ではないのだが、とても誇らしく感じた。

 

 

タウンに平和が戻った。

ミドリの店はかなり繁盛しているらしい。

それ自体は喜ばしいが、より多くの人にミドリの良さが広まるかと思うと気が気でない巌だった。

そんな巌の工房にも、時折客が訪れる様になる。

珍しく主が居れば…HQ品の武器を買える可能性はある。

だが、毎度の「廃品」回収の為、大体は留守であり…武器購入は空振りに終わる事だろう。

そんな工房の扉には、こう記してあった。

 

『廃品、よろずお引き取り致します。  ガンツ』




投稿後に気になった
・「廃品」修繕能力が有効活用されていないのでは?
 →ビーストテイマーの下りを追記
・死んだら武器防具全ロストは酷過ぎる
 →武器のみに変更
・ミドリさんの表記が雑過ぎない?
 →足しました
この辺りと、その他諸々を修繕致しました。
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