麦わら帽子とぬいぐるみ 作:緋色
ROMANCE DAWN
☆1
とある小さな港町に海賊船の船首に少年が立っていた。
「おい。ルフィ何する気だ?」
陽気に声を掛ける海賊達はまたいつものかと面白がって眺めており、動くぬいぐるみだけは何かに気付いたように船首に向かおうとして海賊の一人に危ないだろうと捕まっていた。
「おれは遊び半分なんかじゃない!あったまきた!証拠を見せてやる!」
ナイフを片手に宣言するルフィはそのナイフを使い
ブスッ
左眼の下に突き刺した。
「いっっってぇ~~~っ!!」
「ギィ!?」
「バカ野郎!何やってんだぁ!?」
「医者あ!」
☆2
「野郎共乾杯だ!!ルフィの根性と俺たちの大いなる旅に!!」
何はともあれ海賊達は享楽的だ。
少年の根性試しも海賊達には愉快な酒の肴として勝手に宴会を盛り上げる。
「あー。いたくなかった」
「うそつけ!!バカな事するんじゃねえ!」
「ギィギィ!!」
「ほらウタも怒ってるぞ」
「ギィ!」
涙目のルフィを叱る男とペシペシとルフィを叩くウタは面白がる海賊達とは違い真っ当に怒っていた。
「まったくウタが救急箱を真っ先に持って来たから良かったものの」
「ごめんなウタ。びっくりさせちまったか?」
「ギィ!」
「だからごめんって」
ペシペシするウタから逃げるように移動したルフィは改めて男に向かって言う。
「おれは怪我だって全然恐くないんだ!連れてってくれよ!おれだって海賊になりたいんだよ!」
だっはっはっはっは!
「お前なんかが海賊になれるか!カナヅチは海賊にとって致命的だぜ!」
「カナヅチでも船から落ちなきゃいいじゃないか!それにおれは戦っても強いんだ!ちゃんと鍛えてるからおれのパンチは
「キィ?」
「なんでそこで首をかしげるんだよウタ!おれのパンチ見た事ない癖に!」
「キィ~キィ~」
「負け惜しみじゃないやい!」
「キィ!?」
じゃれてる二人?を見てか船員たちも助け船をだす。
「いいじゃねえかお頭。一度くらい連れてっても」「俺もそう思うぜ」「ギィ!」
「じゃあ、代わりに誰か船を降りろ」
「さあ話は終わりだ飲もう!」
助け舟はあっさり沈没した。
「味方じゃないのかよ!」
宴会に戻る船員たちを尻目にシャンクスは笑いながら言う。
「要するにお前はガキ過ぎるんだ。せめて10歳年取ったら考えてやるよ」
「おれはガキじゃない!」
「まァ怒るな。ジュースでも飲め」
「うわ!ありがとう!」
「ほらガキだおもしれえ!」
「きたねえぞ!」
揶揄われるのが嫌になったのか離れていくルフィ。一方でウタはキィキィと背中のオルゴールを鳴らしつつ、シャンクスを見ていた。
「随分懐かれてますね船長さん」
「モテ男はつらいな」
はははと笑いながらポンポンとぬいぐるみを撫でた後料理を平らげに掛かる。
「そんな事言って何かウタちゃんに懐かれる様な事したんじゃないですか?」
「うーん?思い浮かばないな。争いごとの後の事だったからドタバタしてたし気に入られる様な事はなかったと思うが」
「ギィギィ!」
「ははは悪かったって。あ、そうだマキノさん。子供用の家財なんかを降ろしたいんだが欲しがってる人はいないかな?」
「ギィ!?」
「あらお子さんでも?」
「うちに子供はいないさ。船の整理をしてたら一式揃っててね。子供が乗る予定もないから降ろそうかと」
「ギィギィ!」
「じゃあ俺を乗せてくれよ!」
「いやだね」ギィ!
ギャーギャー騒いでる3人をマキノはニコニコと眺めていた
「ルフィも何か食べてく?」
「ああ、じゃあ『宝払い』で食う」
「でたな『宝払い』!お前そりゃ詐欺だぜ」
「違う!ちゃんとおれは海賊になって宝を見つけたら金を払いに来るんだ!」
「キィー?」
「ホントだぞ!嘘じゃないやい!」
「ふふふ!期待して待ってるわ」
☆3
変な模様の果物を食ようとしているルフィにウタがギィギィと抗議していると。
バキィッ
「邪魔するぜぇ」
必要もないのに扉を蹴り破って入ってきた集団は酒場で騒いでいた海賊達とは別に粗野な印象を受ける男たちだった。
「ほほう…。海賊って輩かい…。初めて見たぜ。間抜けたツラしてやがる」
「俺達は山賊だ。――別に店を荒らしに来たわけじゃねえ。酒を売ってくれ10樽ほど」
山賊達は買い物に来ただけのようだった。
「ごめんなさい。お酒は今ちょうどきらしてるんです」
「んん?おかしな話だな海賊共が何か飲んでる様だが?」
「今、出てるお酒で全部なので」
「これは悪い事をしたなあ。俺達が店の酒飲み尽くしちまったみたいで。すまん。これでよかったらやるよ。まだ栓もあけてない」
バリィン!
「舐めたマネするんじゃねえ。瓶一本じゃ寝酒にもなんねえよ」
「あーあーもったいねえ」
「これを見ろ」
山賊が取り出した紙には
「八百万ベリーが俺の首にかかってる第一級のおたずね者ってわけだ。56人殺したのさ。お前のように生意気な奴をな。わかったら今後気をつけろ。もっとも山と海じゃもう遭う事もなかろうがな」
「悪かったなあ。マキノさん雑巾あるか?」
「キィ!」
「あ…いえ、それは私がやります。ウタちゃんも布巾用意しなくていいから」
ガシャァァン!
その反応が気に入らなかったのか山賊はサーベルを振り回し、食器や酒瓶を叩き割った。
「掃除が好きらしいな。これくらいの方がやりがいがあるだろう」
シャンクスの酒塗れの姿を見て気が済んだのか
「じゃあな腰抜け共」
山賊達は去っていった。
「船長さん大丈夫ですか?」
「あー、大丈夫。問題ない。ウタも怪我はないか?」
「キィ!」
「ならよかった。それにしても――」
ぎゃはははは!
派手にやられたはずのシャンクスも海賊達も何がおかしいのか爆笑し、からかい始めた。しかし……
「なんで笑ってんだよ!あんなのカッコ悪いじゃないか!なんで戦わないんだよ!あいつらが大勢で強そうでも!あんな事されて笑ってるなんて男じゃないぞ!海賊じゃない!」
「気持ちはわからんでもないが怒るほどの事じゃないだろう?」
「しるか!弱虫がうつる!」
シャンクスはそう言って立ち去ろうとするルフィを引き留めるために腕をつかみ。
腕が伸びた。
それは悪魔の実であるゴムゴムの実を食べたことに他ならなかった。
☆4
あれから数週間――。
「もう船長さん達が航海に出て長いわね。そろそろさみしくなってきたんじゃない?」
「ぜんぜん。でもおれよりも……」
ズーン
ルフィの視線の先では泣き疲れたかのように倒れているウタがいた。
「船長さん達の航海に着いていけなかったのがショックだったのかしら?」
「ふんだ!シャンクス達をかいかぶってたよ!もっとかっこいい海賊かと思ってたんだ」
「ギィギィ!」
ウタは先程とはうって変わって起き上がって抗議するように音を鳴らす。
「ウタはシャンクスを庇うなよ!男にはやらなきゃいけねぇ時があるんだ!」
「キィーキィー」
「なんでそこでわかってないなーみたいな反応するんだよウタ!」
微笑ましそうにそれを眺めていたマキノはふと思ったことを口にする。
「前から思ってたけどルフィはウタちゃんと仲がいいのね。まるで会話してるみたい」
「言葉はわかねえけどふいんきで!マキノもなんとなくわかるんじゃないか?」
「ルフィほどはっきりはわからないかな」
「キィ…」
「おれもはっきりわかなんないけど。友達だから大丈夫!」
酒場での他愛もない雑談は珍客によって遮られることになった。
「邪魔するぜぇ」
「げ……」
そこには先日の山賊達がまた立ち寄っていた。
☆5
「くそ!ウタを放せ!そしておれに謝れ!」
「ゴム人間とはおかしな生き物がいるんだろうなァ!」
殴り掛かるルフィをあしらいつつ、頬や身体を引っ張って確かめる山賊の頭は珍獣を見ているようだった。
「この動く人形も含めて新種発見だ。見世物小屋にでも売り飛ばしたら結構な金になりそうだ」
「ギィギィ!」
「はは!暴れんなってぶっ壊すぞ?」
「ギ……!」
「ははは!いい子にしてるんだなァ!」
脅し文句に動けなくなるウタに気を良くしたのか高笑いを上げる山賊の頭に対し、近くにあった棒を持ってルフィは殴り掛かる。
「うわああ~~~!!」
「しつこいぞガキ」
だが、大人と子供あっけなく踏み潰されてしまう。
「人が気持ちよく酒飲んで語らってたってのに…。何かお前の気にさわる事でも言ったかい?」
「…言った!謝れ!ちくしょう!」
「足をどけろ!山賊!その子を放してくれ!頼む!」
そこに横から声を出したのはこの村の村長だった。
「ルフィが何やったかは知らんしあんた達と争う気もない!失礼でなければ金は払う!その子を助けてくれ!」
頭を下げて頼み込む。世の中の弱者は強者に逆らおうなどとは思わない。ただ恥も外聞もなく請うしかないのだ。嵐が過ぎるまで。
「流石は年寄り世の中の渡り方を知っている。だが駄目だ!もうこいつは助からねえ!こんな軟弱なゴム小僧にたてつかれたとあっちゃあ!不愉快極まりねえ!」
「悪いのはお前らだ!この山ざる!」
「よし。
「ギィ!?」
山賊の頭はサーベルを引き抜いて
「港に誰も迎えがないんで何事かと思えば…。いつかの山賊じゃないか」
狙ったかのようなタイミングで赤髪のシャンクスが帰ってきた。
「キィー!」
「大丈夫かウタ?ルフィ!お前のパンチは銃のように強いんじゃなかったのか?」
「……!うるせえ!」
「海賊ゥ…。何しに来たか知らんが怪我せんうちに逃げ出しな。それ以上近づくと撃ち殺すぜ。腰抜け」
部下の一人が嗤って銃を構える。
「聞こえなかったか?それ以上近づくな。頭吹き飛ばすぞ!」
「銃を抜いたからには命を懸けろよ。そいつは脅しの道具じゃねえ」
ドンッ!
銃を構えてた部下は頭を撃ち抜かれて倒れる。
「キィ!?」
火薬と共に人が倒れる。
流れてる血はもう助からない事を示している。
それは今まで見てきた彼らとは印象が違った。
彼らの凶暴な面は今まで見たことがなかった。
「や…やりやがったなてめえ!卑怯な奴らだ!」
「卑怯?甘え事言ってんじゃねえ聖者でも相手にしてるつもりか」
山賊の言葉に対して彼らは答える。
「お前らの目の前にいるのは海賊だぜ」
「いいか山賊…。おれは酒や食い物を頭からぶっかけられようが。唾を吐きかけられようが大抵の事は笑って見過ごしてやる。……だが、どんな理由があろうと!おれは友達を傷つける奴は許さない!」
「はっはっは!許さねえだと!?ぶっ殺しちまえ野郎共!」
雄叫びを上げて襲う十数人の山賊は、海賊一人に壊滅させられた。
「うぬぼれるなよ山賊。ウチと一戦やりたきゃ軍艦でも引っ張ってくるんだな」
残ったのは山賊の頭ただ一人。
そして一瞬で部下を倒すのが下っ端だと仮定した場合、あれ以上の戦力が控えてることになる。
ならば取れる手段は一つしかない。
「ちっ!」
いざという時の為に取って置いたのか煙幕で視界を晦ませ、山賊の頭は逃げた。
煙が晴れた時に、残っていたのは倒された山賊達だけ。
――ルフィとウタはいなかった。
☆6
「まんまと逃げてやったぜ!山賊が海に逃げたとは思うまい!」
小舟の上で山賊が嗤う。
「手下共は全滅したようだが、この動く人形を売れば十分な金になるだろうからなあ。しばらくは雲隠れだ」
「ギィギィ!」
「ウタを離せ!」
ルフィの拳を軽く避け、山賊は人形を片手に嘲笑う。
「人質として連れてきたが……もう用はねえ。――あばよ」
ルフィを小舟から蹴り落とし、これからの算段を立てる。
「ギィギィ!」
「暴れるんじゃねえよ!破れたら価値が下がるかもしれねえじゃねえか!」
「ギィ!」
「うっぜえ!そんなにあのガキが大切なら一緒に沈んじまえ!」
せいせいしたと山賊の高笑いが海へと響く。
だが、山賊は知らなかった。この海に住み着いた獣の存在を。
一人の小舟で海に出る無謀さを知っていれば、もしかしたら逃亡は成功したかもしれない。
しかし海を知らない山賊の憂さ晴らしの高笑いが奴に居場所を知らせる目印となり、
「な、なんだこの怪物は!」
近海の主と呼ばれる怪物は小舟ごと人を丸のみにするくらいは容易い生物だった。
ゆえに大の大人一人では満福にはならず、故にもう一人のか弱き生き物に矛先が向くのは当然の事だった。
なぜか投げ飛ばされたらしい小さな友人を必死に掴んだはいいが、悪魔の実の能力者は海に嫌われて泳げなくなるという。
ルフィは抱きしめたウタと共に沈みながらその事を思い返してた。
近海の主の大口が近付いてくる。
そこに割って入ったのは赤髪の男だった。
「……!シャンクス!」
「失せろ」
シャンクスが睨み、怯えた近海の主は去っていった。
迎えに来たらしい船を遠目にシャンクスは話す。
「恩にきるよルフィ。マキノさんから全部聞いたぞ?おれ達の為、ウタを守るために戦ってくれたんだってな」
言葉を聞いてもルフィの涙は止まらない。
ウタも軋むような音を鳴らし続ける。
「おい泣くな男だろ?」
「ギィ……!」
「…だってよ!ジャングズ…!!」
「腕が!!」
赤髪のシャンクスの左腕は近海の主に齧られて失われていた。
「安いもんだ。腕の一本くらい……。無事でよかった」
海の過酷さ
己の非力さ
シャンクスという男の偉大さ
それを慟哭の中、初めて知った。
☆7
ある日の港。
本日はいつにも増して騒がしいが、それは旅立ちの前の忙しさによるものだった。
「この船出で、もうここへ帰って来ないって本当!?」
「随分長い拠点だった。ついにお別れだな。悲しいだろ」
「キィ…」
ウタは嘆くようにうつむいていた。
わかっていたことだ。
ここを拠点とした冒険でルフィと同じように航海には連れて行ってもらえなかったからこそ。――ここでお別れなんだと。
「うん。悲しいけどね。もう連れてけなんて言わねえよ!自分でなる事にしたんだ海賊には」
「どうせ連れてってやんねーよ。ウタ。悲しいのもわかるが笑顔で見送ってくれ」
「キィ…」
顔を上げたウタに微笑んでシャンクスはルフィに向き直る。
「お前なんかが海賊になれるか!」
「なる!おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて!世界一の財宝見つけて!海賊王になってやる!」
少年の大きな夢。普通なら一笑に付されるそれを海賊たちは誰も笑わなかった。
「ほう…!おれ達を越えるのか」
一瞬、懐かしい何かを追いかけたシャンクスは帽子を脱ぎ
「この帽子をお前に預ける」
少年に被せた。
「おれの大切な帽子だ。いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな」
少年の涙は帽子の陰になって大人達には見えなかっただろう。
しかし、小さな友人はそれを見ていた。
「錨を上げろォ!帆を張れ!出発だ!」
海賊たちは鬨の声を上げ、勇ましく去っていった。
まるで振り返らない事を決めたかの如く。
☆8
――10年後
とある小さな港町。
本日は村人に見送られ小舟は出航した。小舟に乗っているのは麦わら帽子の青年とオルゴールのようなものを背負ったぬいぐるみだった。
「やー、今日は船出日和だなー」
「キィ!」
「大丈夫だって
声に惹かれたか小舟をみて得物だと判断したのか近海の主は顔を出す。
「相手が悪かったな。おれの技をみろ!」
ゴムゴムの
近海の主を殴り飛ばし、にっとルフィは笑う。
「まずは仲間集めだ10人は欲しいな!そして海賊旗!」
「ギィ!」
「ウタも仲間だ!おれの最初のな!」
「キィ~」
照れたのかクネクネするウタを肩に乗せ、大いなる旅の始まりを告げる。
「海賊王に俺はなる!」
「キィ!」
『歌が好きなのか!なら名前はウタだ!』
わたしの事を覚えてないのはわかっている。
あの後何度も何度も覚えてる限りの事はやった。
でも奇跡は何度も起きなかった。
「行っちまったなぁ。シャンクス達」
キィ……
シャンクス達はフーシャ村から旅立った。そこに私の居場所はなく、私はここに残る事にした。
「一緒に立派な海賊になって見返してやろうぜ。ウタ」
キィ!
奇跡は何度も起きないと私は知っている。
でも私は奇跡をずっと待っている。