麦わら帽子とぬいぐるみ   作:緋色

4 / 10
初期のコビーって弱虫ですね




☆1

 

 広い海を無謀にも小舟で旅する少年と不思議な動くぬいぐるみ。

 彼らは危機に瀕していた。

 

「はー今日もいい天気だねー」

 

 呑気に語っているのはモンキー・D・ルフィ。

 海賊になるためフーシャ村から飛び出して数日も経ってない少年だ。

 

「ギィギィ!」

 

 抗議するように軋んだ音を鳴らすのはウタ。

 ルフィと共にフーシャ村から飛び出した動くぬいぐるみだ。

 

「こんな気持ちのいい日なのになァ。この船旅はひとまず遭難って事になるな!」

「ギィ!」

「うまい事言ってる場合じゃないって?でもこんな大渦にのまれるとは、うかつだった」

「ギィギィ!」

 

 現在二人の乗る小舟は大型船ですら沈むような大渦の流れに巻き込まれていた。

 小舟を動かすための櫂もこの流れでは太刀打ちできないのは明白だった。

 モンキー・D・ルフィの冒険はこれにて終了。

 

「こんな大渦の場合どうしようもねえよなー。どうすっか?あ、これならうまくいくかもな」

「キィ?」

 

 

☆2

 

 とある島に海賊船が停泊していた。

 どうやらこの海岸は海賊船の拠点のようだ。

 

「……!これは……酒樽?」

 

☆3

 

 真っ暗な中。

 揺れや音を頼りに外を感じる。

 

「くかー……」

 

 寝てる声は無視する。

 激しい揺れが収まったから大渦を脱したのだろう。

 波に揺れるような揺れも収まった。

 ……どこかに流れ着いた?

 

 ガクンと急に動き出す。

 ゴロゴロと転がる動きは先ほどまでのと違い一定で、固い物の上を転がしているようだった。

 陸に着いたのだろう。

 

 動きが止まってからペチペチと呑気に眠るルフィにを叩いて起こす。

 

「あー!よく寝たー!」

 

 樽の蓋を破壊して大きく伸びをするルフィ。

 

「何とか助かったみたいだなァ。目が回って死ぬかと思ったよ!はっはっは!」

「ギィ!」

「笑い事じゃないって?大丈夫だって生きてたんだから!」

 

 ふと見まわすと周りには4人の男。

 どこかの小屋の中のようだ。

 運んできたのはこの男達だろうか?

 

「ん?誰だお前ら」

「てめえが誰だ!いったいどういう状況で樽から人間が出てくるんだ!?」

 

「サボってるんじゃないよ!」

 

 女の声と共に小屋を吹き飛ばすほどの何かが投擲され吹き飛ばされた。

 

「うわっ」

 

 ルフィはとっさにウタを抱えたはいいが樽に入ったままだったのでそのまま転がっていった。

 今日は回転することが多い日だ。

 

☆4

 

 森の中。

 

「あの……大丈夫ですか?怪我は?」

 

 小屋の中にいた一人がいつの間にか近づいていて声をかけてきた。

 

「ああ大丈夫。なんかビックリしたけどな。おれはルフィ。こっちはウタ」

「キィ!」

「え?人形が動いてる!?」

「そーいうもんだ。それにしてもここ何処だ!?」

「え?不思議なんですけど説明ないんですか?いやいいですけど。この海岸は海賊”金棒のアルビダ”様の休息地です。ぼくはそこの海賊船の雑用係コビーといいます」

 

海賊船雑用係

コビー

 

「ふーんそうか。それより小舟とかねェかな?おれのやつ渦巻きにのまれちゃって」

「渦巻!?渦巻にあったんですか!?」

「あー、あれはびっくりしたよマジで」

「ギィ!」

「そーだな。今度は気を付けないとな」

 

 ケラケラと笑うルフィに対してウタは呆れる様に頭を抱えていた。

 

「普通死ぬんですけどね……。小舟ならない事もないですが」

 

 そう言って案内された先にあったのは――

 

「なんだこりゃ?棺桶か?」

「ギィ?」

 

 木を寄せ集めて何とか船の形にしたような小舟だった。

 

「一応…船です。ぼくが作った船です…!2年かけてコツコツと…」

「2年かけて?で…いらねえの?」

「キィ?」

 

 ポテポテと船に近づいて押したりして叩いたりしてるウタは沈むんじゃないかと心配しているようだ。

 

「はい…いりません。この船はここから逃げだしたくて作ったんですが…」

 

 グイッ――パキッ

 キィ!?

 

「結局、僕にはそんな勇気ないし…どうせ一生雑用の運命なんです。…一応、本当はやりたいこともあるんですけど」

「じゃあ逃げればいいじゃないか」

「ム…ムリですよ!もしアルビダ様に見つかったらって考えると足がすくんで…!恐くてとても…!」

 

 グイグイ――パキパキ

 ……ギィ…

 

「ウタ。どうだ?この船でいけそうか?」

「ギ!?――ギィ!」

 

 腕でXをして無理だとアピールする。

 

「ははは!そりゃ参ったな!」

「聞いてませんね……。あれから2年殺されない代わりに航海士兼雑用係として働けと…!」

「お前ドジでバカだなー。そのうえ根性無さそうだしなー。おれ、お前嫌いだなー」

「ギィーギィー」

「ウタも嫌いだってよ」

「え…えへへへ」

 

 愛想笑いで諦めているコビーは見ていて気持ちがいいものではなかった。

 

「でも…その通りです…。僕にもタルで海を漂流するくらいの度胸があれば……」

 

 あれは度胸なのだろうか?と首を傾げるウタ。

 当事者と傍から見た印象は違うのだろう。

 

「……あのルフィさんはそこまでして海に出て何をするんですか?」

 

 ふと気づいたように聞いてくるコビーに対してにいっと笑ってルフィは答える。

 

「おれは海賊王になるんだ!」

「キィ!」

 

「え…か!海賊王っていうのはこの世の全てを手に入れたものの称号ですよ!?」

 

「つまり富と名声と力の『ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)』を目指すって事ですよ!?」

「キィ?」

「死にますよ!?世界中の海賊がその宝を狙ってるんです!」

「おれも狙う」

「……ム…ムリです!無理無理!!無理に決まってますよ!」

 

 ガツン

 

「痛い!ど……どうして殴るんですか!」

「なんとなくだ!」

「キィ!?」

 

 明らかに無理と言われて怒っていた。……いや今までのコビーの態度も含めてやる前から諦めてる姿が気にくわなかったのだろう。

 

「……でもいいや……慣れてるから……」

「おれは死んでもいいんだ!」

「え?」

「おれがなるって決めたんだから、そのために戦って死ぬんなら別にいい」

 

 それは覚悟の差だった。

 

「……!し…死んでもいい……!?」

「それにおれはやれそうな気がするんだけどなー。やっぱ難しいのかなー」

「キィキィ!」

「そうだな!ウタもいるし、やってみなきゃわかんねえよな!」

 

 その光景は酷く遠いものに見えた。

 でも立ち上がれば近づくものだと、踏み出すものに必要なのは勇気だと。

 

「……僕にも……やれるでしょうか……!し……死ぬ気なら……」

「ん?何が?」

「キィ?」

「ぼくでも……海軍に入れるでしょうか……!」

「海軍?」

「ルフィさんとは敵ですけど!海軍に入って偉くなって悪い奴を取り締まるのが僕の夢なんです!小さい頃からの!」

 

 夢を語る姿は汗っかきで涙も流した酷い顔だった。

 

「やれるでしょうか!?」

 

 でもその顔は一歩踏み出した男の顔だった。

 

「そんなの知らねえよ」「キィ?」

「いえ!やりますよ!どうせこのまま雑用で一生を終えるくらいなら!海軍に入るため命を懸けてここから逃げだすんです!そしてアルビダ様…アルビダだって捕まえてやるんです!」

 

「誰を捕まえるって!?コビー!」

 

 ドカン!

 

 金棒を振り下ろし船を粉々にして現れたのは、太った女海賊。

 

「このアタシから逃げられると思ってのかい!?」

 

女海賊

金棒のアルビダ

 

 子分を引き連れており、いつの間にか囲まれていた。

 

「そいつかい。お前の雇った賞金稼ぎってのは…。最期に聞いてやろうか…。この海で一番美しいものはなんだい……?コビー!」

「……!え……えへへ。そ……それは勿論「誰だこのイカついおばさん」

 

 ブチギレるアルビダ。

 

「こいつ……何て事……!」

 

 それを見て怯える子分たち。

 力関係は明白だった。

 

「ルフィさん!訂正してください!この方はこの海で一番……」

 

 焦ったようにルフィを揺するコビーは途中で何かに気が付いたように叫ぶ。

 

「一番……一番イカついクソババアです!」

 

「あっはっはっは!」

「キィキィ♪」

 

 笑う二人を他所にアルビダは悪口を言ったコビーに吠える。

 

「このガキャァー!」

「っァァァーーーー!!」

 

「よく言った下がってな。ウタ!コビーを頼む!」

「キィ!」

「ルフィさん!?」

 

 庇う様に前に出たルフィに対し、金棒を振りかぶるアルビダ。

 

「同じ事さ!二人共生かしちゃおかないよ!」

 

 振り下ろされた金棒は人間の頭蓋骨ぐらいは砕く威力ではあった。

 だが、

 

 にぃっ

 

「効かないねえ!ゴムだから」

「バカな!あたしの金棒が!」

「嘘だろ!?」

 

 ルフィはゴム人間。打撃の類は愛ある拳以外は効果がない。

 

「ゴムゴムの(ピストル)

 

 ゴムのように伸びた左腕は女海賊を殴り飛ばし、たった一撃で沈めた。

 実力の差は明白で部下たちは動揺して向かってくる気配はない。

 

「お頭!」「アルビダ様が負けた!」「化け物だ!」

 

 決着はついた。

 

「コビーに一隻小舟をやれ!こいつは海軍に入るんだ!黙って行かせろ!」

「は…はい」

「しししし!」

「キィー♪」

「ルフィさん……」

 

☆4

 

 手に入れた小舟でコビーと共に海に出た二人。

 

「ルフィさん『ワンピース』を目指すって事は『偉大なる航路(グランドライン)』へ入るって事ですよね」

「ああ」

「あそこは海賊の墓場とも呼ばれる場所で…」

「うん。だから強い仲間が要るんだ。おれとウタだけじゃ心もとないからな」

「キィーキィー」

「ちゃんとした船も欲しいなあ。どうすっかな!」

 

 金もねえしなと笑うルフィは呑気なものである。

 

「これからお前が行く海軍基地に捕まってる奴…」

「ああ…ロロノア・ゾロですか?」

「いいやつだったら仲間にしようと思って!」

「キィ!?」

「えー!また無茶苦茶な事をォー!無理ですよ無理無理無理。あいつは魔獣のような奴なんですよ!?」

「キィー?」

「どうだろうなー。たぶん鬣は生えてないと思うなー」

「聞いてます!?というか会話出来てるんです!?」

「なんとなく雰囲気で」

「キィ!」

 

船はゆく

海軍基地へ




「――コンパスや六分儀、海図を使用して航海していくわけです。天体観測やその地域の生物相は知識で何とかなりますが、風向・海流などは知識があっても経験がなければそれとはわかりませんし、適切な対応も難しいものです。こればっかりは経験でしょうね…」
「キィ…」
コビー君を海軍基地に届ける間の航海中は、航海術を習うことにした。
「うーん。わからん」
「ギィギィ!」
「いやー。こういうの苦手で…」
まさか、海賊になるために船で出航したのに航海術を習得してなかったとは…。
思い返すと山でずっと技の修行かサバイバルで肝心の航海に関しては何もしてなかった…。
「ルフィさん。何も知識なしで海に出るなんて無謀すぎますよ。よく生きてましたね」
「いやー。大渦に呑まれたり死ぬかと思ったな!」
肝心のルフィがこれである。
私がしっかりしないと!
「キィ!」
3人の珍道中はもう少しだけ続く…。
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