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楠木司令による依頼を終えた甚爾はそのまま自らの家へと帰ろうとビルから去ろうとするがそこに千束が待ったを掛けた
「ちょっと甚爾さん!何で帰ろうとするの!?」
「あぁ?依頼が終わったんだ、帰ることの何が問題だってんだ」
「問題大ありだよ!たきなに甚爾さんのことも色々紹介したいし、何より二週間前の約束!忘れたとは言わせないよ!」
「二週間前···あぁ、あれか」
どうやら約束を甚爾は忘れていたらしく、千束の言葉で合点がいったようだ
甚爾は今から丁度二週間前に甚爾は千束から金を貸してもらったという借りがあるのだ
何故未成年である千束に借金をするという何とも大人としてみっともない経緯に至っとのかというと、賭博が趣味だと公言する程に大好きな甚爾はその日は競馬で大穴を狙って全額を注ぎ込んだのだが甚爾は物の見事に大負けを果たし、財布の中身の大半を失ったのだ。
その上で甚爾はそこからパチンコを打ち始めるという愚行を犯した。そこでもとことん運がついていないらしかったようでハズレが何度も続き、とうとう財布の中身が底を尽きた
それでもまだ打ち足りない甚爾は路地裏へと態々入り、千束へと現在位置を送った上でボイスメッセージを送った
『助けてくれ』と
十分程経つと、甚爾の目の前には急いで此方へと向かって来たのが分かるほどに顔を紅潮させ、肩で息をしている千束が立っており、そんな千束に甚爾はイイ笑顔を浮かべながらこう言った
『金貸してくれよ』
『シネ!』
結局、千束は銀行から卸して来た五万円を甚爾へと渡す代わりに時間が合った際に千束の言うことを一回だけ聞くという約束を取り付けて
ちなみに甚爾は一勝も出来ずに五万円を溶かした
「あったなぁ、そんなことも」
「どうせ暇なんでしょ!なら今ここで私との約束を果たしてよ」
「しょうがねぇな。良いぜ、どうせやることもなかったしな」
甚爾がそう言うと千束は破顔し、甚爾の腕を抱き締めた
「やったぁ〜!じゃあ!今日一日はずっと私と一緒ね!」
「マジかよ···まぁ、約束だからな」
諦めたように溜め息を吐いた甚爾とは反対に大変嬉しそうな笑い声を千束は上げた
「昼飯と夜飯はお前が奢れよ」
「調子に乗るな無職!」
「酒ねぇの、酒」
「ある訳ないでしょうがァ!!」
「千束····静かにして下さい。注目されています」
たきながそう言うと激昂し、立ち上がっていた千束は顔を少し赤くしながらまるで慣れているかのように自然な動作で席へと座る
「ごめんね!たきな」
「次から気を付けて下さい。それより、この甚爾さん?という方は一体どういった方なんですか?それにあの動き、あればどういう原理で―――」
「多い、多い!たきなこそ落ち着いて!!先ずは自己紹介から始めようよ!」
「そ、そうですね····すみません、自分でも少し興奮していたみたいです」
では改めてとたきなが前置きを口にする
「セカンドリコリスの井上たきなです。年齢は十六でDAから左遷を言い渡され、今は支部であるリコリコで働かせてもらっています」
「ほぉ〜、斜め前の女は中々····」
「ちょっと!真剣に聞いてよ!!」
「んぁ?あぁ、聞いてる聞いてる。名前は伊井野あきなだろ?」
「全然聞いてないじゃん!!」
「コイツを揶揄うのも飽きた頃だし、真面目にやるとするか」
「揶揄ってたの!?」
「千束。静かにして下さい」
「どうして私なのぉ」
千束はテーブルにビタりとくっついた
「井上たきな、まさかお前が機関銃を乱射して左遷されたリコリスだとはな···中々にイカれてるな」
「そうですか。貴方程ではないと思いますが···まぁ、そこは良いとしましょう」
「そうだな。お前が知りたいのは別なことだろ?」
「···分かっていましたか。では単刀直入に聞かせて貰いますが貴方は一体どういった立場の人なんでしょうか?楠木司令という名前が出てきたということはDAに協力する人ということでしょうか?」
「少し違ぇな。俺は楠木から依頼を受けているに過ぎねぇ。協力関係なんてもんはねぇよ」
「成程····雇用関係に似たようなものでしょうか?」
「まぁ、雇用関係と言えるかもしれねぇな···ま、
「なっ、リコリスを殺す!?ッ!」
たきなは思わず驚いた声を上げてしまうが直ぐに正気に戻り、周りをキョロキョロと見渡すがどうやら誰も気にしていないらしく、たきなはホッと息を吐いた
「り、リコリスを殺すって····殺したことはあるんですか?」
「ねぇよ。楠木と契約をしてるし、楠木は金の羽振りも良いし、何より安定感があるから優先してる」
甚爾がそう言うとたきなは安心したように柄にもなく背もたれへと体を預け、安心したように深く深呼吸をした
甚爾の実力を実際に見る前ならば、例え甚爾が敵対しても対処すれば良いと考えていただろう。だが、たきなは目にしてしまった、史上最強のリコリスである千束を越える甚爾の異常とも言える身体能力を。
そして、理解してしまった。甚爾に敵対するということは死を意味しており、それが例え複数人であろうとも、DAであろうとも、そして国であろうとも甚爾はその全てを壊してしまうと
故に安堵した。甚爾がDAに敵対をしていなくて、DAの崩壊は即ち日本という国全てが無法地帯になるということを意味しているから
「そう、ですか····」
「そうだな。てか、もうそろそろ昼飯食わねぇか?折角レストランに来たんだからよ、話しをするだけってのは勿体ねぇだろ」
「!待ってました!!」
昼飯という言葉にいち早くテーブルに沈んでいた千束が反応し、テーブルの横にかけてあったメニュー表を手に取って目を輝かせてそれを眺め始める。それを横目に甚爾もメニュー表を二つ手に取り、たきなへと手渡す
「ほらよ」
「あっ···ありがとうございます」
「別にいい。それより、ここは千束の奢りだから沢山食えよ」
「ちょっとぉ!?勝手なこと言わないでよ!!」
「いえ、これ以上千束に恩を貰う訳にもいきませんし····ここは私が二人の分も払います」
「たきな····」
「お、じゃあこの後によパチンコ行きたいからそれも頼むわ」
「·····」
「あの·····流石にそれは」
唐突に三人の場に沈黙が走り、甚爾のメニュー表を捲る音がその場を支配する。千束は少し居心地が悪そうに、たきなは申し訳なさそうに、甚爾は酒がないかを確認している
「あのさ、別に奢ってもらわなくてもいいし、今日は私が二人の分を奢るよ」
「それは千束に申し訳ないです!!ここは私が!」
「なぁ、酒ないから別なとこにしようぜ」
「別に良いよ!!それに代わりと言ったらなんだけどさ、今度買い物に行こうよ」
「買い物、ですか?」
「そう!それがたきなの私への恩返し!それで良いでしょ!!」
「····千束は狡いですね。分かりました、また暇がある時に買い物へ行きましょう」
「なぁ」
「うん!そうしよう!!」
「新手の苛めか?」
どうやら二人の間では甚爾の声が聞こえていないのな、意図的に無視をしているのかは分からないが、今回は千束が奢り、その代わりにたきなは千束の買い物に付き合うということで終わった
「甚爾さんは荷物持ちね!」
「おい、お前ら俺のこと虐めてたんだから急に俺を巻き込むな」
急に甚爾へと話し掛ける千束に甚爾は溜め息を吐いた
「予定が空いてたら考えてやるよ」
「!!ありがとう甚爾さん!大好き!!」
「そうかよ」
甚爾の腕を抱いて、ニコニコ笑う千束に甚爾は呆れたように溜め息を吐いたが別にそこまで嫌そうではなかった
「仲が良いんですね」
「当然ッ!!」
「何でもいいが、もうそろそろ頼まねぇと流石に叩き出されるぞ。店員がこっち見てんぞ」
甚爾がそう言うと二人は叩き出されないように急いでメニュー表に目を走らせた
「今日は楽しかった!ありがとね甚爾さん!」
「そうかい」
辺りはすっかり暗くなり、帰ろうとする甚爾を千束は見送ろうと一緒に外へ出ていた
「ねぇ、甚爾さん」
「何だ」
「どうして甚爾さんは人を殺すの····?」
「あ?昼にも言っただろ、面倒くせぇんだよ」
「それもあるけど他にも理由があるんじゃないの?」
「そんな訳ねぇだろ」
甚爾が首を掻きながらそう言うと、千束は確信したように嘘付いてるでしょ?と言う
「はぁ?」
「だって甚爾さん図星の時、首を掻く癖があるもん」
「チッ」
千束のその言葉に甚爾は手を引っ込めるが時すでに遅し、千束は甚爾さんと何時もとは違い、真剣な様子で甚爾へと問い掛ける。それに誤魔化すことは不可能だと察したのか甚爾は諦めたように口を開いた
「いざという時に、戸惑わないようにする為だ」
「戸惑う?」
「そうだ。確かにお前が言うことは正しいだろうよ世間一般的ではよ。だが、
「人の死が当たり前のようにある俺達の日常は一瞬での戸惑いが死に直結する時もある。お前のそれは自らの手を鈍らせる重しでしかない」
「俺は自分の一番大事なもんを守るのに精一杯なんだよ。それ以外に手を伸ばした結果、一番大事なもんを失うなんてのは
「それに殺せという
「何それ、そんなの――――」
「逆に言わせてもらうが、どうしてお前は殺さねぇ。お前の力は人を生かすもんじゃねぇ、殺すもんだろ」
「····」
千束は図星なのか先程までとは違って黙り込んでしまうが、甚爾は止まることなく言葉を続ける
「お前の命を大事にするっていうのは素晴らしいもんだよ。ましてや命の価値があやふやになるこの世界では」
「だが、それは毒だ」
「その毒はお前自身をも侵す猛毒だ。軈てそれはお前の体を侵し、お前をも殺すことになる」
「お前も分かってるんじゃないか?」
二人に沈黙が走った
「そう、だね。私も分かってるよ」
観念したように千束がそう言うと甚爾は少し食い気味に口を開いた
「ならどうし「憧れたんだよ」····」
甚爾は口を閉ざした
「命を助けてくれたあの人の横顔に、先生のように誰かの力になれるような生き方に」
「誰かの救世主になってみせるなんて
「私は、憧れたんだよ。そうなりたいって、なってみせるって」
甚爾は目を見開いた
「例え、その
千束は宣誓するように大きく口を開いた
「だって、私がそう生きると決めたから!!私は!絶対に後悔なんてしない!!」
「····そうか」
甚爾は千束へと振り返り、口を開いた。甚爾のその目は僅かに哀愁があった
「例え、お前が
「それってどう言う―――」
千束が言い終わる前に甚爾は姿を消していた
「ねぇ、甚爾さん。貴方は一体、何を知ってるの···?」
千束のそんな呟きは夜空に吸い込まれ、消えた