個性:クラスターセル   作:鳥松

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前回ヒーローネームまで決めると言ったな、あれは嘘だ。


体育祭の終わり

ぼんやりとした意識の中、視界が開け、何かが見えてくる。

 

(女の子…?)

 

こちらが少女の存在に気付くとその少女はこちらに振り向き言った。

 

【嘘つき】

 

少女の顔はなんと跳田自身にそっくりであり、違うのは黒い髪と赤い目だけだった。黒い少女は再び口を開き、言った。

 

 

【お前は決して他人のために戦ってない。先生に恩返しするため?お前がそんなことできるわけがない。】

 

 

「……?それってどういう…?それに君は…」

 

 

【思い出せ…】

 

 

黒い少女がそう言った瞬間、頭のなかに記憶が流れこんでくる。頭に鋭い痛みが走る。

 

「あ"…?」

 

 

その記憶はかなり昔の記憶である、家族と過ごした記憶。まだ幼い子供だった跳田は両親に囲まれ、満面の笑みで笑っていた。

 

 

しかし、

 

 

その黄金の記憶が突如としてひび割れ崩れ去る。

 

 

次に見えた映像は先程とはうってかわって跳田の一生のトラウマである惨劇の夜の記憶だった。両親がヴィランに嬲り弄ばれて殺されていく、両親が見せることなどなかった苦悶の表情、普段の喋る声とはまったく違う悲痛な悲鳴。これらを頭の中で見せられ、跳田のトラウマを一気に刺激した。

 

 

「あっ…あ"あ"あ"っ…これっ……なんっ……やめて……やめて…!…お母さん……お父さん……!」

 

 

体は壊れたように震えが止まらず頭は割れそうなほど痛み、跳田はたまらず頭を両手で抑え苦しむ。

 

 

そんな跳田を気にすることなく記憶の映像は止まらず、最後の記憶を映し出す。それに映っていたのは感情に身をまかせ、個性を発動し、周りの人間や建物も関係なくすべてを破壊する飛蝗と叫んで狂乱する自分自身だった。

 

 

「あ"あ"あ"あ"あぁぁ…わたし…わたし…!…」

 

 

自分の中に永遠にしまっておきたかったその記憶は、跳田の精神にダメージを与えるには十分だった。

 

 

【それはお前の罪、そしてお前の原点。忘れるな。お前は何をしても聖人にはなれない。】

 

 

 

 

ガバッ!

 

 

「あ"あっ…はあっ…はあっ…はあっ…」

 

 

「…!あんた、大丈夫かい!?ひどくうなされてたようだったから心配したよ…!」

 

 

目覚めるとそこは保健室のベッドで隣にはリカバリーガールが座っていた。

 

 

「リカバリーガール…」

 

 

「とりあえず目覚めて安心したよ…とりあえずこれで顔拭きな。」

 

 

リカバリーガールからハンカチを手渡され、涙を拭く。

 

 

「起きれるかい?起きれるなら表彰式に行ってきな。せっかくの晴れ舞台だからね。」

 

 

「そう…ですね…。せっかくですから、行ってきます。」

 

 

 

跳田はベッドから起き上がると表彰式へと向かう。

 

 

 

(関係ない…!あんな夢なんて…関係ないんだ…!私は先生に恩返しをするんだ…!)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「それではこれより!!表彰式に移ります!」

 

 

 

「早速、メダル授与よ!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!」

 

 

 

「私がメダルを持って「我らがヒーロー!オールマイト!!」

 

 

(あ、被った。)

 

 

 

表彰台に立っているのは3位の轟と常闇、2位の爆豪と1位である跳田の3人だった。オールマイトは早速メダル授与をするため3位の二人に近付いた。

 

 

「おめでとう、常闇少年!強いな君は!」

 

 

「もったいないお言葉。」

 

 

「でも相性差を覆すには個性に頼りっきりじゃダメだ。もっと地力を鍛えれば取れる択が増すだろう。」

 

 

「御意。」

 

 

常闇にメダルを渡すと続けて轟のメダル授与に移る。

 

 

「轟少年、おめでとう。今まで使わなかった左側を使ったのは何か訳があるのかな?」

 

 

「緑谷と跳田にきっかけをもらってわからなくなってしまいました。あなたがあいつを気に掛けるのもわかる気がします。俺もあなたのようなヒーローになりたかった。ただ…俺が吹っ切れてそれで終わりじゃ、駄目だと思った。精算しなきゃいけないものがまだある。」

 

 

「……顔が以前とはまったく違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと精算できる。」

 

 

轟の首にメダルを掛けたオールマイトは2位の爆豪に近付いた。

 

 

「さて爆豪少年!!伏線回収…とはならなかったな!だが2位は十分誇れる順位だ!」

 

 

「オールマイトォ…こんな順位…何の価値もねェんだよ…世間が認めても俺が認めてなきゃゴミなんだよ!!」

 

 

(顔すげェ…)

 

 

「うむ!相対評価に晒され続けるこの世界で不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。受け取っとけよ!傷として!忘れぬよう!」

 

 

「要らねぇって言ってんだろが!!」

 

 

爆豪はメダルを首に掛けられないように抵抗するが、その抵抗など意味をなさないかのようにオールマイトは爆豪の首にメダルを掛けた。

 

 

「おい!要らねぇって言ってんだろがァ!!結ぶんじゃねぇ!オールマイトォ!!」

 

 

 

「そして…一位おめでとう!跳田少女!」

 

 

メダルを跳田の首に掛けた。

 

 

 

「ありがとうございます…。」

 

 

 

「あれ…?あんまりうれしくない…?」

 

 

体育祭の一位という名誉ある称号を受け取ったのにも関わらず跳田の顔には笑顔はなく、明るい表情などではなかった。

 

 

「い、いえ!う、嬉しいです!もちろん!」

 

 

「そ、そう…?」

 

 

「まあ…寝てた時に少し嫌な夢を見てしまったので…そのせいです。多分。」

 

 

「そ、そっか…それにしても強いな!君は!」

 

 

 

「ただ、今回の体育祭で弱点が浮き彫りになってしまったな!その解決方法も順番に考えていこうな!」

 

 

 

「ははは…うちのクラスには天敵が多くて困ります…」

 

 

 

跳田がそう答えた後オールマイトは跳田に軽いハグをした。すると跳田の頭に懐かしい記憶が過る。

 

 

それは父の記憶。昔自分の父にもこうされたような…。

 

 

 

「跳田少女?」

 

 

 

「はっ!あ、ああ!すみません!少しボーッとしてしまって…」

 

 

「HAHA!君が望むならいくらでもしてあげよう!」

 

 

 

「もう結構です…」

 

 

「あ、そう…?」

 

 

オールマイトがそう言うと生徒の方に振り向き、

 

 

「さァ!今回は彼等だった!しかし、皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!ご覧頂いた通り、競い!高め合い!更に先へと昇っていくその姿!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!てな感じで最後に一言!皆さん、ご唱和下さい!せーの!」

 

 

 

「「「「プルス『お疲れ様でした!』ウル…えっ!?」」」」

 

 

 

「そこはプルスウルトラでしょ!?オールマイト!」

 

 

 

「ああいや…疲れただろうなと思って……」

 

 

最後の最後までユーモアたっぷりのオールマイトだったが、周り観客にはあまり響かなかったようだ。

 

 

その後教室に戻り、指名のことや明日のことについて相澤先生から説明され、その日はそのまま解散となった。跳田が孤児院に帰ると、

 

 

「「「「お姉ちゃん、おかえりー!!」」」」

 

 

「おっと…ただいま、皆。」

 

 

玄関に入ると複数の子供たちが跳田に抱き付いて出迎えた。

 

 

「おかえり、桐子ちゃん!雄英の体育祭で一位なんてすごいじゃない!今夜はご馳走ね!」

 

 

 

「「「「やったー!!」」」」

 

 

 

「ありがとう、先生。」

 

 

子供たちは今夜のことを聞くと喜んで騒ぎ、走り回って、跳田から離れてしまった。

 

 

「元気だなぁ…私もうそんな元気ないや。先生、私部屋にいるね。」

 

 

「はぁ~い。」

 

 

夕飯の支度をしながら先生は答えた。そのまま跳田は夕飯まで部屋で寝てしまっていた。夜以外は滅多に眠ろうとしない跳田がぐっすり寝ていたので、夕飯で呼びにきた先生は驚いた。先生が部屋に入ったことで起きた跳田は子供たちと一緒に先生が作ったご馳走を食べた。

 

 

跳田も子供たちも既に風呂に入り、皆寝静まった頃。跳田の頭にはいつもより騒がしい声が響いていた。

 

 

 

「眠れない…」

 

 

跳田は今日のことを思い出し、なかなか寝付けないでいた。時計を見ると時刻は12時になっており、いつもならとっくに寝ている時間帯だった。

 

 

「のど…乾いた…」

 

 

自分の部屋を出て一階の台所に向かう。誰もいないと思っていたがリビングにはまだ明かりがついていた。

 

 

 

「先生?まだ起きてたの?」

 

 

 

「桐子ちゃん?こんな夜遅くにどうしたの?」

 

 

 

「ちょっと…眠れなくて…」

 

 

先生は色々な書類の整理をしているようだった。

 

 

「そうなの?なら、おいで。」

 

 

先生は跳田を迎えるように両手を広げた。

 

 

「い、いやさすがにそれは恥ずかしいって言うか…。」

 

 

「えー?オールマイトにはしてたじゃない。」

 

 

「それは話が違うし…」

 

 

「いいから。眠れないんでしょ?こうすれば多分眠れるわ。」

 

 

「多分って…」

 

 

跳田は少し不満そうだったが、縋るように先生の包容を受け入れた。

 

 

「あったかい…」

 

 

「別にこうするの初めてじゃないでしょ~」

 

 

「……何かあった?」

 

 

先生は少し溜めて跳田に聞いた。

 

 

「…別に…ちょっと昔を思い出しちゃっただけ…」

 

 

「桐子ちゃんのお母さんとお父さんのこと?」

 

 

「うん…実は…もうどんな性格だったとかもあんまり覚えてないんだ。さっき思い出したって言ったけど、楽しい思い出とか…」

 

 

「………嫌な記憶とか。」

 

 

跳田は先生の胸に顔をうずめていて見えなかった。そして跳田は言うのを躊躇うかのように少しの間沈黙していたが満を持してその質問をした。

 

 

「…………ねぇ、先生。私のお母さんとお父さんっていい人だったかな……?私のこと愛してくれてたかな……?」

 

 

 

「………もちろん。あったんでしょ?楽しい記憶。あなたにとって幸せな日々があったならご両親はあなたを愛してたと思うわ。」

 

 

 

「そう…かな…。」

 

 

「それに、あなたのご両親はきっといい人よ。」

 

 

「なんで……そんなこと…言えるの……?」

 

 

「あなたがこんなに優しいんだからあなたのご両親も、きっといい人よ。」

 

 

「そう言うものかな……?」

 

 

「そう言うもの!わかったらそんな暗い顔してないで!」

 

 

「ぷ」

 

 

先生は跳田を抱いていた腕を解き、空いた両手で跳田の両頬を掴んだ。

 

 

「笑って!ほら、辛い時こそニッコリ笑うの!笑えば辛いことも吹き飛ぶから!」

 

 

先生は親指で跳田の口角を上げて笑顔を作った。先生の勢いに釣られて跳田も小さく笑いを溢す。

 

 

「ふふっ。」

 

 

「先生、私、頑張ってヒーローになるよ。ここの皆を笑顔に出来るように。」

 

 

「うん!顔が晴れた!ほら、ヒーローになるなら夜更かしはいけないよ!めんどくさい書類仕事は任せてあなたは安心して眠りなさい!」

 

 

 

「…うん!おやすみ!先生!」

 

 

 




投稿が遅くなり申してすみませぬ。

先生に初めて長い会話話してもらった。跳田ちゃんには自分の過去に向き合ってもらう!頑張れ!跳田ちゃん!

過去のお話はたまにやります。
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