個性:クラスターセル   作:鳥松

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職場体験(4)

 

 

なんだか、頭の中の声がいつもよりうるさい気がする…。

 

ここはどこだろう…さっきまで何をしてたんだっけ……。辺りを見回してみても周りには何もない。

 

なんだろう、こっちから声が聞こえるな……この声は頭の中の聞きなれた煩わしい声。声が聞こえる方向に向かって歩いていく。

 

しばらく声に向かって歩いているとどこか見覚えのある黒髪の少女の姿を見つけた。そして、その奥にあるのはどす黒い何か。禍々しくて、目をそらしたくなるけど、どこか懐かしいような……そんな雰囲気の"何か"。

 

 

『ヴィラン一人では足りないか……お前の怒りと憎しみはどれだけ蓄積されているんだ…このままではこの先、きっと止まれなくなる……』

 

 

『お前の悪意はどうすれば収まるんだ……?』

 

 

この子は何を言ってるんだろう……?この禍々しいのが怒りと憎しみ?一体誰の?何があったんだろう。

 

 

「ねぇ」

 

 

『!?』

 

 

「これは一体誰の、何の憎しみなの?それにこの場所は…?」

 

 

『何故ここにお前が……!?そうか…限界を超える戦闘で入り口が広がってしまったのか……』

 

 

話かけると黒い少女は驚いた様子で反応した。本来ならここには入ることが出来ないようだ。しかし、少女は無理矢理追い出すようなことはせず、すぐに黙り込んでしまった。

 

 

「入り口?そういえばあなたの名前は?」

 

 

『……そんなものはない。好きに呼べ。』

 

 

「ふーん。じゃあ……黒いからクロ!これからクロって呼ぶね!」

 

 

『…………好きにしろ』

 

 

 

黒い少女、クロはそっぽを向いてしまった。でもまだ肝心なことを答えてもらっていない。

 

 

「ねぇ、クロ。この黒いのは何なの?さっきは怒りとか憎しみとか言ってたけど…?」

 

 

『…………これはある人物の悪意、そして復讐心だ。』

 

 

「ある人物?」

 

 

『………………そいつは……かわいそうな奴だよ。友達も親も全部なくして、それを思い出さないように、と鍵を掛けてしまった』

 

 

クロは少し悲しげな声と表情で話す。心底、哀れんでいるような声で。

 

 

「全部………なくした」

 

 

『だが、鍵を掛けた結果がこのどす黒い悪意になってしまった………鍵を掛けてせいで逆に溜まり続けて行き場を失ってしまった』

 

 

「じゃあ……どうしたらこの悪意はなくせるの?」

 

 

『………さあな……その方法を今探しているところだ』

 

 

「………?」

 

 

『………一つ覚えておいてくれないか』

 

 

なんだろう、唐突に私に頼み事?

 

 

『………過去を…忘れないでくれ。つらいかもしれない……けど、過去と向き合って………』

 

 

『■■■え■くれ………き■なら……■っと…………』

 

 

 

 

 

 

あれ……………?意識……………が………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らない天井だ……」

 

 

夢?から覚めて目を開けるとそこには白い天井が広がっていた。

 

 

「さっきの夢って一体なんだったんだろう……?夢なのに変に鮮明に覚えてる……」

 

 

「それにこの場所は……いっつ………!」

 

 

 

仰向けの状態から起き上がるとお腹の辺りに鋭い痛みが走る。反射的にお腹を押さえると包帯のようなものが巻かれており、治療が行われたようだった。

 

 

 

「あっ…そっか私ヴィランと戦ってそのまま眠ちゃったんだっけ……じゃあここは病院か…」

 

 

 

ガラララッ

 

 

 

そんなことを考えていると病室の個室のドアが突然開かれる。そして、ドアを開けた張本人と目が合った。

 

 

 

「お?」

 

 

「あ」

 

 

 

ドアを開けて表れたのはいつものようなヒーローコスチュームではなく私服姿のミルコだった。

 

 

 

「起きてんじゃねぇか、跳田!」

 

 

「あっわっミ、ミルコ…!」

 

 

「なんだよ、医者からは3日は目覚めないって言われてたからまだ寝てると思ってたぜ!」

 

 

 

「み、3日……じゃあ私ってどれくらい寝てたんでしょか……?」

 

 

 

「んー?昨日の夜にお前が運ばれてたから……大体半日ぐらいか?」

 

 

 

「は、半日…!それって大分やばいことなんじゃ……」

 

 

 

「あー?まあ、元気そうだからいいんじゃねぇか?」

 

 

 

「そういう問題じゃなくてですね……」

 

 

 

「わかったわかった、医者呼んでやるよ」

 

 

 

ミルコがナースコールを押すと程なくして看護師さんがやって来た。起きている私を見ると看護師さんは心底驚いていた様子でお医者さんを呼びにいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、身体の精密検査をしてもらったが身体には何の異常もなくすぐにいつも通りに動けるようになるようだ。

 

 

 

「それにしても凄いですね……内臓に大きなダメージがあった筈なのにたった半日で完治している……」

 

 

ミルコに立ち会ってもらって検査の結果を聞き終わった後、お医者さんと少し話していると感心した様子で話した。

 

 

 

「こういうのってよくあることなんですか?」

 

 

 

「もちろん患者さんの個性などで治療が早く終わることはありますが……跳田さんの個性はバッタを出す個性でしたよね?」

 

 

 

「まあ、はい。簡単に言えばですけど…」

 

 

 

「ですので、傷の完治に3日ほどかかると思っていたのですが………」

 

 

 

「それはつまり………」

 

 

 

「もしかすると個性が変化してきている可能性があるということです」

 

 

 

「なんだ?良いことじゃねぇか。傷が早く治るんだろ?俺から見りゃ羨ましいくらいだぞ?」

 

 

 

「そんな単純な話ではないんです。個性が急に変化することで今までとは使用感が変わってしまったり、最悪の場合個性と身体が合わなくなってしまって体調に影響が出てしまうかもしれません」

 

 

 

「そんな………」

 

 

 

「もちろん必ずということではありません。寧ろ身体の成長に合わせて個性が変化しているだけかもしれませんし……」

 

 

「まあ、良いじゃねぇか!取り敢えず今は成長したと思えばよ!」

 

 

 

「というわけでしばらくは個性の使用は様子を見てください。幸い今はインターン期間中らしいのでミルコさんに色々見てもらってください」

 

 

 

「分かりました…」

 

 

 

「というわけでミルコさん。しばらくはヒーロー活動を控えて跳田さんの様子を見てあげてくださいね」

 

 

 

「げっ、マジかよ…!」

 

 

 

「マジです。しっかりお願いしますね。」

 

 

 

「よし、跳田!早くやって早く終わらせるぞ!」

 

 

 

 

「しっかり!お願いしますね」

 

 

 

「うぬぬ…」

 

 

 

そんなミルコとお医者さんの面白いやり取りを聞いてるとお医者さんから今夜は大事をとって明日、退院するよう言われた。ミルコと二人で病室に戻っていると目の前の病室から三人の笑い声が聞こえた。

 

 

「?この声は……もしかして…」

 

 

聞き覚えのある声がしたので病室を覗き込んで見ると、そこにはクラスメイトである緑谷君、轟君、飯田君の三人がいた。

 

 

「やっぱり緑谷君たちだ」

 

 

 

「声かけなくていいのか?クラスメイトだろ?」

 

 

 

「なんか三人で楽しい話をしているみたいですし、ここに私が入るのなんか気まずい気がするので………」

 

 

 

「お前以外とそういうところあるんだな……」

 

 

そう言って三人の病室を後にしようとすると緑谷君の身体が突然ビクリと跳ねる。

 

 

 

「どうした、緑谷」

 

 

「いや、なんか、今話し声が……」

 

 

緑谷君が振り返って病室の入り口をふと見てみると突然叫んで驚いた。突然の出来事に当然その場の全員が驚く。

 

 

「ミ、ミミ、ミルコォォォォ!?」

 

 

「どうしたんだ緑谷君!ここは病院だ!大声は控えたまえ!」

 

 

「ミ、ミルコですよね!?ヒーロー番付No.6のトップヒーローの!!」

 

 

 

「お、おお……ぐいぐい来るなお前……」

 

 

さすがのミルコも緑谷君のオタク具合に呆気取られているようだ。ミルコの横で二人のやり取りを聞いていると病室の奥にいる轟君と飯田君が気付いて話し掛けてきた。

 

 

「君は跳田君じゃないか!どうしたんだいその怪我!?もしかして君も昨日の現場にいたのかい!?」

 

 

 

「あー……昨日はヴィランと戦ってて…それで病院に運ばれまして……」

 

 

 

「お前もヴィランと戦ってたのか」

 

 

 

「"も"?もしかして轟君たちもヴィランと?飯田君もかなりの怪我ですけど、どんなヴィランだったんです?」

 

 

「ヒーロー殺しさ。」

 

 

「ヒーロー殺し!?ヒーロー殺しと戦ってたんですか!?それはその重症具合にも納得ですね……」

 

 

「ああ……強かった」

 

 

「あのヒーロー殺しに勝つなんて三人ともさすがだね」

 

 

 

「……いや、勝ってはいないんだ。………僕らはエンデヴァーに助けられたからね」

 

 

 

「ああ…そうだな……助けられた」

 

 

 

「……?そうなんですか…?」

 

 

 

二人の言葉に違和感を感じながらも話を聞いていると、ミルコから話し掛けられる。どうやら未だにヒーローのことについて語っている緑谷君から逃げたいようだ。

 

 

「ヴィランと言えばお前も"紅"を倒してんじゃねぇか!大したもんだぜ!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「それは本当かい!?跳田君!?君こそ凄いじゃないか!紅と言えば最近よくニュースによく出ている凶悪なヴィランじゃないか!それは倒すとは……さすがだ…跳田君!」

 

 

 

「凄いね、跳田さん!紅と言えば今まで多くのヒーローが捕まえることができなかったヴィランなのに!」

 

 

 

ミルコからの話が出た瞬間緑谷君がミルコの話題から逸れてこちらに話を向けて来た。

 

 

 

「い、いやあ……私も結局最後はミルコに助けられましたし……」

 

 

そうやって真っ直ぐに褒められると少し照れる。私も最後はミルコに助けられてるからあまり褒められるのは気乗りしないがそれでも少し嬉しかった。

 

 

 

「バカ言え!あいつはほぼ満身創痍だったからあんなにすんなり攻撃出来たんだ、いつも通りならああはならねえよ」

 

 

 

「私もその時死にかけてましたけどね……」

 

 

 

「もうほぼ治ってるから良いじゃねぇか。もう痛いところとかないだろ?」

 

 

 

 

「そうですけど……」

 

 

 

 

「え!?跳田さんもう怪我治ってるの!?死にかけてんじゃないの!?」

 

 

 

緑谷君が驚愕した声を上げる。さっき死にかけてたとか私が言ったので当然である。かくいう私も自分が元気なことに驚いている

 

 

「それは……なんかお医者さんが言うにはなんか個性が変化してきているとかなんとか……」

 

 

 

「そんなことあるんだな…」

 

 

 

個性の変化などがあるのはこの社会でも頻繁に起こることではないが、基本的には幼少期に起こることが多いとされている。私の年で個性の変化が起こるのは稀なのである。

 

 

 

「大きなダメージに反応したとかなのだろうか……」

 

 

 

「あー…確かにUSJのときもリカバリーガールが目が覚めるのが早かったとか言ってましたからあるかもしれませんね…」

 

 

 

「ま、深いことを考えるのは今じゃなくていいだろ。そろそろ帰るぞ跳田。こいつらはお前みたいに絶好調じゃないんだ」

 

 

「そうですね。では、そろそろ行きます。学校でまた会いましょう」

 

 

 

「うん、また学校で!」

 

 

 

「ああ!」

 

 

 

「じゃあな」

 

 

三人の病室を後にする。自分の病室に戻ると、その中には犬の頭の警察の人が中で待っていた。私は昨日の紅の件で何かいけないことをしてしまったのかと思い、少しビクついていると、警察の人は私を叱るのではなく昨夜のことについてお礼をしてくれただけだった。

 

 

ヒーロー免許を持っていない者が他人に危害を加えるのは確かに犯罪だが、今回は一応責任者であるミルコから許可が出ていたため、今回の一件はセーフらしい。警察の人はもう一度お礼を言うとそのまま病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警察の人が帰った後、少し落ち着くタイミングが出来た。

 

 

 

「あっ、そういえばテレビ着けてみろよ!ニュースなんかは昨日の事件のことしかやってねぇぞ」

 

 

 

「そうですね、ヒーロー殺しのこととか知りたいことがたくさんあるので見てみますか。どれどれ…」

 

 

 

そう言われてテレビをつけて見ると……

 

 

 

「な、なんですかこれ………」

 

 

 

テレビには驚愕の映像が流れており、他のチャンネルに変えてみてもそのことしかやっていない。

 

 

 

「なんで私のことしかやってないんですかーー!?」

 

 

どのチャンネルを見ても昨日の私の戦っている映像が流れたニュースしかやっていない。期待の新人だの、小さな女の子を救ったヒーローだの、色々言われているが中でもヤバかったのは私の個性の情報だったり、更にはその弱点までご丁寧に晒されていることだった。

 

 

 

「な、な、なな、なんでこんなに色んな情報が外に漏れて……!?」

 

 

 

「ああ、俺がインタビューで言ったからな」

 

 

 

「何してくれてるんですか!?」

 

 

 

「どうせ、有名になったら全部バレるんだからいいだろ」

 

 

 

「そういう問題じゃないんですけど!!」

 

 

 

全く悪びれていないミルコの様子に怒りを覚える。何をケロッとしているんだこの人は。

 

 

 

「というかなんで私の戦ってるところが映像で残ってるですか!」

 

 

 

「逃げ遅れたやつが撮ってたらしいぞ。全くバカだよなー早く逃げればいいのによ」

 

 

 

「なんですかそれ!意味わかんないんですけど!なんで早く逃げないんですか!そんなの気にする余裕もなかったから下手したら死んでたのに!」

 

 

 

「というか私がマンホール投げたところまでなんかしっかり写ってるからマンホールヒーローとかいう最低なあだ名まで付いてるし!!」

 

 

 

いきなり飛び込んできた驚愕の情報が多すぎて思わず、カッとなって癇癪を起こす。自分でもおかしいことを言っていることが分かるが、それよりもイライラが勝って抑えられない。

 

 

 

「あー!もう!いいです!もう寝ます!さようなら!ミルコ!明日からまたよろしくお願いします!」

 

 

 

「あーあー、落ち着け落ち着け…明日なんか食わせてやるから…許してくれよ?な?」

 

 

 

「………………………………人参」

 

 

 

「あ?」

 

 

 

「昨日の人参…………おいしかったので……また食べさせて、ください……………」

 

 

 

「…分かったよ、準備しておくから明日ちゃんと来いよ」

 

 

 

「………分かりました」

 

 

 

「じゃ、また明日な!」

 

 

 

「…はい」

 

 

 

ミルコはそのまま病室を後にして帰っていった。

 

 

 

「ひどいこと言っちゃったかな……明日謝ろ…」

 

 

 

ベッドで目を摘むって今日のことについて考える。

 

 

 

(今日の朝の映像は夢………なのかな。でもあの女の子……クロって言うようにしたんだっけ…)

 

 

(クロが言ってたことって私のことなのかな…じゃああの黒い悪意も……私の?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「忘れるどころか……俺たちのほうがオマケ扱いか……」

 

 

 

「それに……!なんでムカつくヒーロー殺しと女のガキのことしかやってねぇんだよ……!」

 

 

 

薄暗い隠れ家のようなバーでヴィラン連合の死柄木弔がイラついた口調で不満を爆発させていた。すると突然、近くのモニターがついて音声が発せられる。

 

 

 

「土台作りのためさ弔……彼女は君の目的を果たすためのいい起爆剤になる…」

 

 

 

「起爆剤?」

 

 

 

「そう、彼女の本質はね、弔。僕らヴィランと同じ、悪意しかないのさ」

 

 

 

「俺らと同じ…?じゃああいつをここに入れるのか?俺はいやだぞ」

 

 

 

「間違いではないね、だが彼女がどのような選択をしようとヒーロー社会に悪影響しか及ぼさない。彼女はまるで…」

 

 

 

「ヒーローにとっての癌細胞なんだよ弔」

 

 

 

「………まあ、楽しみにしておくぜ、先生……」

 

 

 

 

 

悪意が膨れ上がり……そして一つに集まっていく…………跳田に少しずつ、そして確実に悪意の魔の手が迫ろうとしていた。

 

 

 




なんかあんまり話進んでないのにすごく長くなってしまった……。今回は伏線回ですので気になるところは後々やります。


今回の補足

·冒頭の跳田
いつもより少し幼い感じの口調。

·クロ
見た目は跳田の2Pカラー。正体については近々…

·個性の変化
音という弱点を追加し、傷の治りが早いという強みを追加。傷の治りが多少早いだけで"再生"ほどの強さはない。
この変化はゼロワンのあるフォームに由来している。

·人参
ミルコの部屋で食べた時にハマった。そもそも飛蝗は穀物や草を食べる草食らしいので跳田は元から野菜が好きだったりする。

·テレビの映像。
逃げ遅れた一般人ではなく、ある人物が依頼したヴィランが撮影している。一人ではなく複数人で行われている。
目的は跳田を強く印象付けるため。



今回はこんなところでしょうか。
読んでくれてありがとうございます。感想や評価お待ちしております。
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