個性:クラスターセル 作:鳥松
期末試験の演習試験を終えた翌日、いつも通り雄英へと登校した跳田は何故か気まずそうに机の上で踞っていた。
(…………昨日、私すごい事口走ったような気がする!!)
跳田の言っているすごい事とは昨日の試験を無事クリアし、三人で歩いていた時のことである。
絶望的な状況からクリアできた喜びと疲労でおかしなテンションになっていた跳田は同じペアであった耳郞と口田に対し、愛してると突然言い出したり、下の名前に呼ぶ事を強要したりと、なかなかにおかしな行動を繰り返していたのである。
質が悪いのは酔っ払ったいた時のようにその日の行動を忘れている、なんてことはなくはっきりと覚えていることである。
(あんな……あんな……恥ずかしいことをなんで言ってしまったんだ私は……!!二人とも気にしてないといいけど……)
(いやあんなの普通本気にしないよね!うん、気にしない!大丈夫、大丈夫!よし、そうだいつも通りで大丈夫だ。あの二人なんか気にしなさそうだし!うんうん!)
「桐子?」
「ひゃあ!?」
踞っていた跳田の肩を叩き、自分の世界に入っていた跳田を呼び戻したのは他でもない、件の耳郞であった。
「まーた考え事してんのか」
「あ、いやそういう訳では……ん?あれ?今私のことなんて呼びました……?」
「桐子って呼んだけど?昨日、自分が呼ばせたんでしょ?」
「い、いやあれは…あの時は少しおかしくなってたと言いますか……その場のノリと言いますか……」
「あれー?人に呼ばせたのに自分は呼ばないんだー。ひどいなー。結構勇気出したのになー」
「う…」
「昨日も泣きじゃくってた誰かさんをあやすの大変だったのになー」
「うう…」
「あ!そういえば昨日こんなことも言ってたな。確か………愛して……」
「わー!!だめだめ!言わないでください!」
「じゃあどうすればいいと思う?」
「き、響香……ちゃん…」
「ん、よろしい」
な、なんて恐ろしいことをするんだこの人は……!と、跳田は思い、抗議してやろうかと思ったがそもそも自分が原因だと思い出し、その言葉をそっと自分の胸の中にしまった。
「そ、それで響香ちゃんに聞きたいことがあるんですが…」
「何?敬語止めたら聞いてあげる」
(ななな、なんか急に怖い!?響香ちゃんってこんな感じだったっけ!?)
「きっ、聞きたいんだけど……!」
「よろしい、どうした?」
「あ、あそこの四人は一体何故あんなに落ち込んだ雰囲気なんでしょうか……?」
跳田がこの言葉を言った瞬間、教室全体の雰囲気が変わる。周りの生徒が「やっちまったな…」とでも言うような目で跳田を見つめる。
「あー…そっか桐子は寝てたもんな…あいつらは……」
「イヤミか貴様ッッ!!」
「うわぁ!?びっくりした…急にどうしたんですか上鳴君」
落ち込んでいた四人組の一人である上鳴が突然声を上げて跳田の方に振り返る。
「うるせぇ!俺らが落ち込んでるときに友情育みやがってよぉ!!」
「す、すみません……?」
「そう言ってやんな上鳴…跳田は寝てて知らなかったんだからよ」
「まあ、一応言っとくとこいつらは昨日の試験に合格出来なかったんだ」
「え、あ、す、すみません…知らなかったとは言え、ひどいことを……あ、でもほら相澤先生のことだし、なんかあるかもしれませんよ!前みたいに合理的虚偽とか言って」
「そんなのあるかぁ!緑谷にも同じようなこと言われたわ!同情するならなんかもう色々くれ!」
すると学校全体に予鈴が響く。ということは…
「予鈴がなったら席につけ」
教室の扉を勢いよく開けて入ってきたのは相澤先生だった。いつも思うが予鈴が鳴った瞬間にいつも入ってくるのはすごいと思う。少し早く着いたら教室の前で待ってるんだろうか。
「おはよう。今回の試験だが…残念ながら赤点が出た。したがって……」
「林間合宿には全員行きます」
「「「「どんでん返しだぁ!!!!」」」」
相澤先生が迫真の表情と共に朗報を教室に向けて発した。先程落ち込んでいた四人組は狂喜乱舞し、叫び散らしていた。
「筆記の方はゼロ。実技で切島·上鳴·芦戸·砂藤、あと瀬呂が赤点だ」
「行っていいんすか俺らあ!!」
「うっ…確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな…」
「我々ヴィラン側は生徒に勝ち筋を残しつつ、どう課題と向き合うかを見るよう動いた。でなければ課題云々の前に詰む奴ばかりだったろうからな」
「“赤点取ったら学校に残って補習地獄”とか“本気で叩き潰す”とか仰っていたのは…」
「追い込む為さ。そもそも、この林間合宿は強化合宿だ。赤点取った奴こそ、ここで力をつけてもらわなきゃならん。合理的虚偽ってやつだ」
「ゴーリテキキョギィイーー!!」
尾白君の質問に相澤先生は答える。予想通りどうやら今回も相澤お得意の合理的虚偽だったらしい。
「またしてやられた……!さすが雄英だ!しかし!二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!」
「そうだな、省みるよ。だが、全部嘘って訳じゃ無い。赤点者には別途に補習時間を設けてある。ぶっちゃけ、学校に残っての補習よりキツイから覚悟しろよ。じゃあ合宿のしおりを配るから後ろに回してけ」
「ーーーー!!」
相澤先生の話を聞いた後、さっきまで大喜びしていた四人組の顔が青ざめる。通常の日程プラス、補習があるということは相当つらそうだ。まあ、何はともあれ全員で林間合宿に行けるということで安心した。
「まあ何はともあれ全員で行けて良かったね」
「そうですね、尾白君!とても楽しみです!」
「一週間の強化合宿か!」
「結構な大荷物になるね」
「俺水着とか持ってねーや。色々買わねぇとなあ」
「あ、じゃあさ!明日休みだし、テスト明けだし……ってことでA組皆で買い物行こうよ!」
「おお!良い!何気にそういうの初じゃね!?」
「跳田ちゃんもどう?」
「いいですね、あまり遠出の経験がないのでそういう物が欲しかったところなのでちょうど良かったです!」
◆
「あら、いいじゃない!友達とお買い物なんて初めてじゃないかしら!」
「う…た、確かにそうですね…」
なんかナチュラルに先生に煽られたような気がした。
いやね?別に同級生に接するのが少しやりにくかったとかそういう意味じゃないっていうか恥ずかしいかったというか何というか
「えー!明日お姉ちゃん遊んでくれないのー!?」
「ああ、ごめんね。すぐ帰ってくると思うから、それまで先生の言うことちゃんと聞くんだよ」
「「「はーい!」」」
休日は普段、孤児院の子供たちと遊んで過ごすことが多い。それにプラス、先生の手伝いや学校から出される宿題などで休日というのはすぐに過ぎていく。自由な時間があるとすれば子供たちが寝静まる夜くらいしかない。
「桐子ちゃん、ちょっと手伝ってくれる?」
「あ、はーい」
◆
現在跳田たちが来ているのは県内最多店舗数を誇るとにかくでかいショッピングモール。木郷区ショッピングモールである。A組ほぼ全員で来たのでなかなかに大所帯である。
「こんなに人が多いところ初めてきたかもしれません…!感動です…」
「ここは他より特に大きいからなー、そういえば桐子は何が欲しかったの?」
「そうですね……どこかに泊まるに必要な物がほぼ足りてないような感じですね…」
「アンタ本当にこういう遠出したことなかったんだな…ウチは大きめのボストンバッグ…」
「あら、ではお二人とも一緒に回りましょうか」
「いいんですか、八百万さん!」
「ええ、お任せください。私、旅行の経験は豊富にありますの!ですから、跳田さんのお力になれると思いますわ」
「助かります!」
「よーし!皆の目的バラけってし時間決めて自由行動すっか!」
◆
切島君の提案を元に別れて行動することになって数十分後…遠出に必要な物は意外と早く買い終わり、三人でどうしようかと話し合っていたところだった。
「意外と早く済むものですね…流石ショッピングモールです」
「いやでも流石にこんな遠出をするための物品揃えてる専門店は流石に普通のショッピングモールにはないんじゃないかな……」
「すごいですのね!ショッピングモール!このような専門店があるなんて驚きですわ!」
「そうだ、これからどうしよっか。欲しいもの全部買い終わったし…」
「そうですね…ここから普通にお店を回るっていうのも良いんじゃない…………。!!」
突然感じる肌を刺すような気配。職場体験の時もよく感じていたこれはヴィランがいる前兆だ。いつも感じる時はいつもどこかでヴィランが暴れていた。
(まさかここにヴィランが!?こんな大勢がいるところでヴィランが暴れたら……!)
「ごめん、二人で回ってて!」
「あっ、おいどうした!?」
「跳田さん!?」
二人には申し訳ないが気配の方へと走り出す。騒ぎ等が起こってないことからまだ行動は起こしてないようだ。だがなにもしてないにも関わらずこの気配は相当ヤバい。以前、気配を感じた時は全て既にヴィランは暴れていた。
(一体何が……!)
気配は一階から感じられる。場所は距離的に皆で最初に集まっていたところだろうか。しばらく移動していると見えるのは緑毛のモジャモジャ頭とその人と肩を組んでいるフードを被った人物だった。
(あの頭はもしや緑谷君…!?まさか何かされてるんじゃ…!?)
だとしたら緑谷君が危ない。すぐさま一匹の飛蝗を二人の元へ飛ばし、視覚共有で様子を確認する。
確認すると緑谷君の首にはもう一人の人物の手が握られており、命を握られているような状態だった。
早く二人を引き剥がさなければ危険だ。
思い立った跳田はすぐさまヴィランと思われる方の腕を掴んで緑谷から引き離す。
「何…やってるんですか…!」
「あっ、何でもないよ!大丈夫!だから!来ちゃ駄目…」
緑谷君は苦しそうな表情で涙目だった。明らかに大丈夫な表情ではない。
「連れがいたのか。ごめんごめん」
「あっ、ちょっ」
ヴィランと思われる人物は掴んでいた腕をいとも簡単に振りほどき、パアッと表情を明るくして謝った。
「じゃあ行くわ。追ってきたりしたらわかるよな?」
「緑谷君!」
「ゲホッ……!ゲホッ……!待て……死柄木……"オールフォーワン"は何が目的なんだ…!」
「死柄木ってまさか……!」
「…………知らないな。それより気をつけとけな次会うときは殺すと決めた時だろうから」
そう言うと死柄木は人混みの中へと消えてゆく。先程まで感じていた気配も少しずつ消えていき完全に分からなくなった。
「あれ……?どうしたの二人共?」
「麗日さん、良いところに!今すぐ警察呼んで!死柄木がいた!」
「え、死柄木ってまさか…!」
「くそ!見失った!なんでこんなところにいたんだ……!」
死柄木もその悪意も消えてゆく……大きな謎ばかり残して…
◆
麗日さんの通報によりショッピングモールは一時的に封鎖。緑谷君は警察に連れられ、事情聴取を受けるらしい。他に来ていたメンバーもその場で帰ることとなり、跳田も予定より早く孤児院へと帰ることとなった。
「あれー!お姉ちゃん早ーい!遊ぼー!」
「あー…ちょっと待ってて先生と話すことあるから」
「えー!なんで~!」
「ごめんごめん。先生どこにいるかわかる?」
「部屋にいるよー!」
「うん、ありがと。じゃあ待っててね」
先生の部屋に行くと先生は机で作業している最中だった。
「先生」
「あれ、どうしたの?桐子ちゃん。随分と早かったわね?」
「それが……」
先生に今日あった出来事を話す。ショッピングモールにいたヴィランが死柄木である、ということは先生には話さなかった。先生に余計な心配はさせたくなかったからである。
「えぇ!?大丈夫だった!?怪我とかしてない!?」
「私は大丈夫。でも同じクラスの人が…」
「そう…怖かったでしょ?」
「怖くなんかないよ、この前もヴィランと戦ってたんだから」
「……そうね、あなたは強いから大丈夫だったわね」
「もちろん!ここにヴィランが襲ってきたら私が絶対守るから!」
「あら、心強いね。ありがとう。でも林間合宿前だから余計心配だわ……何も起こらないといいけど…」
「大丈夫だって!何も起こらないよ!学校だってちゃんと守ってくれるよ!」
「……そうね、それなら安心ね……」
何も起こらない(大嘘)
というわけで次回から林間合宿編です。そろそろ本小説のメインが近づいて参りましたね。覚悟の準備をしておいてください!
今回の補足
·耳郞響香
なんかキャラが掴めなかった…なんかすごいコレジャナイ感がある…。この小説ではこの感じってことで…。まあ、なんとかなるか!
·専門店
そこだけで欲しいもの全部買えるとか絶対便利じゃん…
·悪意センサー
久しぶりに出したと思ったけどそんなこともなかった。
·名前呼び
正直あんまり意味ないと思うけど呼ばせたかった
今回はこのくらいですかね。評価や感想などをくれると作者は泣きながら三点倒立して喜びます。