個性:クラスターセル 作:鳥松
今までそこにあったはずの建物は残骸に成り果て、そこに寄りかかる形で倒れている跳田は未だ沈黙したままだった。
「………………」
そして瓦礫の中から立ち上がった跳田は自分をここまで吹き飛ばした遥か遠くにいる男を真っ直ぐ見据える。顔は俯いたまま殺意を周りに振り撒くその姿はまるで復讐鬼のようだった。
跳田が男へと飛び出そうとしたその時、跳田の周りから三つの泥が現れる。その泥からは三体の黒い脳無が引き摺り出され外界へと出現した。
◆
「遅かったじゃないかオールマイト。バーからここまで5㎞余り…僕が脳無を送り込んでから優に30秒は経過しての到着。衰えたねオールマイト」
「貴様こそ何だその工業地帯のようなマスクは!?大分無理をしているんじゃないか!?」
オールマイトとマスクの男が互いに見合い相対する。二人は互いに面識があるようで互いにのことを知っているようだった。オールマイトは周りを見て口を開いた。
「……貴様、跳田少女に何をした!」
「大したことはしてないさ。僕はただ彼女の本質を引き出してあげただけだよ。ヴィランとしての彼女をね」
「ヴィラン…!?でたらめを言うのも大概にしろオールフォーワン!」
「でたらめとはひどいじゃないかオールマイト。周りを見なよ、まるで災害が起こった後だ。ああ、いや彼女は蝗害そのものか」
男は少し笑いながら答える。跳田の本質を引き出したとは言ったものの、個性の暴走の元凶は紛れもなくこの男であり、さらに衝撃波で街を破壊したのもこの男である。
「試したいことはもう全て試した。彼女には脳無の機能テストに協力してもらうことにするよ。今回は特別に3体の脳無だ」
「貴様どこまでッ……!!」
◆
突如虚空から出現した三体の脳無は近くにいた鎧を纏った跳田に目をつけ、すぐさま襲いかかる。しかし、そのような状況であるにも関わらず変身した跳田はその場からピクリとも動かず、ただ俯いて足元を見つめるだけだった。
「……………」
そして脳無の攻撃はすぐに跳田に命中すると思った時だった。三体の脳無の攻撃は鋼鉄の壁によって阻まれる。そしてすぐさま飛蝗は三体の脳無の頭上で棘を生成し、脳無にその白銀の凶器を振り下ろす。
血が吹き出す。脳無に命中した棘は飛蝗の思惑通りとは行かず、脳無が攻撃に使用した腕に命中する。しかし、ダメージがない訳ではなく命中した腕は脳無の身体から離れ、千切れてしまった。
そのような隙だらけの状態の脳無を飛蝗たちは見逃さない。予め予測していたかのように脳無が攻撃に怯んで後退した場所へ用意されていた棘が脳無の腕や足、そして心臓に至るまで串刺しにし、脳無の身体を固定する。
「…………」
確実に命中するよう固定をした脳無の頭部を飛蝗は三本の棘で交差するように刺し抜いた。常人なら心臓を貫かれた時点で即死しているが、そんな常識は最早人外である脳無には通用しない。脳無は健在であるもう片方の腕で頭の棘を掴みとり、引き抜こうと抵抗する。
そんな無駄な抵抗を飛蝗は気にもせず、生きていることを確認した飛蝗は脳無の身体を何度も何度も棘で刺し貫く。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も対象が動かなくなるまで、全身を隈無なくまんべんに、動くことがないよう、確実に、確実に。
「……………」
変身した跳田はそれでも仮面に覆われた顔を俯かせ、一言も発さず、ただ機械的に攻撃を続けた。
しばらくするとそこには肉片と血がべっとりと付いた地面しか残っておらず人型の脳無の姿など跡形も残っていなかった。
「ひっ…!」
その光景を目撃していた不運な人間が瓦礫の影から飛び出てくる。足をつまづいてしまったのか手と両膝を地面に着き、涙目で跳田の方を見つめている。
小さく声を発してしまったことで存在に気付いた跳田がゆっくりとその人間へ顔を向ける。まるで獲物を見つけた獣のような殺気を放つ跳田はゆっくりと、顔を俯いて近付いてゆく。
「だ……だれか…ヒーロー…!」
そんな悲鳴は虚しく誰にも届かない。跳田は左手を細く、その肉体を貫けるようすぼめる。恐怖に怯える人間を跳田は目も暮れず残酷に殺す……
はずだった。
跳田が手を下す直前、もう片方の手である右手がピクリと動き、自らの顔を殴ったのである。その後も何度も何度も自分の顔を殴りつけ、ついには顔の仮面の右半分が割れて壊れてしまった。そこからは苦しむ跳田の顔が出現した。
「はあっ、はあっ……!や、めろ…!これ以上…はっ…!う"っぐあああああっ……!」
跳田が抵抗すると体内で蠢く飛蝗は先程より激しく身体中を食い荒らす。そして徐々に抵抗する力を削いでゆく。このまま全てを破壊出来るように。身体中の痛みの他に頭が真っ二つに割れるような痛みが走る。
「頭がああ"っ……!これっ…まさかっ……!」
痛みの中思い出す、マスクの男の言葉。
『これもドクターのチップのおかげだがね』
(まさか…頭の中に…!)
(これが原因…!?私自身の…悪意を…利用してるっ…のか…!ならっ自制しろ!自分の悪意が原因ならそれを抑えるのもっ…出来るはず!)
「うう"っう"う"う"う"う"!!」
跳田は自らの個性の飛蝗を制御しようと感情を抑制する。自らの悪意が今の惨状を作り出してしまったのなら感情を抑え、これ以上被害を拡大させないよう動くしかない。
エラー。結論の修正を推奨。前提を書き換え結論を予測し直した。
「あ"っ…………!?」
瞬間、先程まで体内や身体中に纏わせ広がっていた飛蝗が一気に体外へと放出される。跳田は先程までもう自分の身体が自分とは異なる意志で動かないよう抵抗していたが、ならばと飛蝗は作戦を変更し、今度は飛蝗だけで攻めるようにやり方を変えた。
跳田は頭や身体の痛みから解放される。だが、同時に先程起こった惨劇や今から起こる惨劇をより鮮明に見ることとなる。
「ああ……だめだめ…やめて…………もう、やめてよ……わたしは………」
白銀の飛蝗が周りを飲み込み更地にしていく。それは建物はもちろん、例え人間でさえも。全て平等に奪ってゆく。そしてその魔の手は当然先程近くにいた人間にも。
「ひっ…あ、ああ…誰か…助けて……」
「あっ…!?待って…やめてやめて!やめてってばぁ!駄目だってぇ…!言うこと聞いてよぉ!なんで…違う、こんな……こんなこと………!」
その人間の命を奪おうと、飛蝗が近付いたその時だった。
『ヘルカーテイン!』
無数の飛蝗は巨大な炎の壁に阻まれ、燃え尽きていく。巨大な炎の壁を瞬時に作り出す火力の持ち主はこの辺りでは一人しかいない。
「オールマイトに言われて来てみたが…この状況は……」
「え、エンデヴァー…」
「ここは危険だ。早く離れるがいい」
「は、はい…!」
近くにいた人間はエンデヴァーに言われ、目の前の恐怖から離れて逃げる。
「エンデヴァー!これはどういう……!!?」
後からやってきたプロヒーローのエッジショットが周りを見渡し、状況を確認する。そこに広がる想像を絶する光景にエッジショットは絶句する。辺りは更地になっており、その中心には事の張本人と思われる救助対象の跳田桐子がいた。
先程まで抵抗を続けていた跳田だったが、トップヒーローが二人という頼もしい面子に跳田は少し安心して抵抗の手を少し、ほんの少し緩めてしまった。
「あっあ"あ"あっ!に、逃げて…ください…!も、もう…抑えきれない…!」
一瞬の隙をつき、跳田の抵抗を振り切った飛蝗は再び跳田に纏わりつき、変身する。
「エンデヴァー!」
「分かっている!」
この時二人は苦しみ悶える跳田を見て個性の暴走、または操られていると仮定した。本人の意志を全く無視していることから説得などでは効果が薄い。ならば少し乱暴ではあるが跳田を気絶させて止めようと結論づけた二人は跳田に向け走りだす。いや、エンデヴァーだけは足に炎の力を貯め、跳田の懐へと潜り込む。
『赫灼熱拳、ジェットバーン!』
エンデヴァーは炎を纏わせた拳で跳田の腹部に一撃喰らわせる。いや、そのように見えた。
「!?」
跳田は衝撃の直前、盾を作り出して辛うじてその攻撃を防いだ。
(防いだ!?俺の最高速度を見切るか!だがこのまま押しきる!)
盾に防がれたエンデヴァーの拳はさらに温度を上げ、盾を突き破ろうとしていく。エンデヴァーの熱のせいか跳田の盾は赤くそして熱くなっていく。跳田もただ無抵抗でそれを眺めているわけではない。バネで強化した腕の拳を握りしめ、エンデヴァーを攻撃しようとするが、跳田は熱のせいで動きが鈍る。しかしなんとか攻撃しようとすると拳を振り上げるが………
「させない!」
エッジショットが繊維と化した身体で跳田の腕で巻き付いて攻撃を止める。エッジショットもエンデヴァーの熱をもろに受けるがエッジショットはそんな熱をものともせず耐える。
「おおおおおっ!!」
エンデヴァーは拳の熱を上げ続けそしてついには鋼鉄の盾を突き破ることに成功した。
『ジェットバーン!!!』
エンデヴァーの熱拳は跳田の腹部に命中し、そのまま跳田が纏う装甲すら突き破って腹部を焼いた。跳田は衝撃で大きく吹き飛ぶ。並の人間なら意識を失い、さらに傷が残るであろう攻撃だった。
しかし、
跳田はまだ動いている。身体の装甲を軋ませながら、操り人形のようにふらふらとした足取りで。
「エッジショットォ!!」
『忍法·千枚通し!』
エンデヴァーが開けた跳田の装甲の穴をエッジショットが通り抜け、跳田の身体の中に侵入する。すると跳田は突然電池が切れたかのように倒れてしまった。
「終わったか……?」
「ああ、そのようだな」
「この惨状を跳田がやったというのか…?まだ15の少女が…?」
「いや跳田ではない…あれは、別の何かだ」
先程まで聞こえていた戦闘音がなくなり辺りが静まりかえる。どうやらオールマイトの方も決着が着いたようだ。オールマイトが勝利を納め、なんとかヒーロー側の勝利となった今夜の出来事。しかし、今夜ヒーローが得たものと失ったものでは失った物のほうが多かった。
それは無論、跳田も同じである。
◆
以下は神野におけるヴィラン連合掃討作戦の報告書の跳田に関して書かれた文章の内容である。
脳無倉庫へベストジーニスト他、十名のヒーローが突入。その後3分後に制圧完了。
しかし、制圧後救助対象である跳田桐子の悲鳴が聴こえ、ベストジーニストらが更に奥へ侵入しようとすると、突然無数の飛蝗が複数のヒーローに向け、攻撃した。ベストジーニストの活躍により、命に別状はなかったもののその場にいたヒーローの全てが行動不能へ陥った。攻撃の方法やその後の目撃情報などから攻撃を行ったのは救助対象である跳田桐子だと見られ、オールマイトの証言から首魁であるオールフォーワンに操られていたものと思われる。
その後、オールフォーワンに遠くに飛ばされた跳田桐子は怪人脳無3体と交戦。
そして救援に駆け付けたエンデヴァー、エッジショットの二人により、救出され無事保護された。
更なる究明のため、セントラルにて入院していた跳田桐子に事情聴取を行ったが、跳田桐子はなぜか
以上のことから跳田桐子が内通者である可能性や再び暴走をする危険性があるため、監視を行うことを公安は決定した。
これで神野編は終わりです。やりたいことは大体出来ました。
今回の補足
·脳無
かませ役です。取り敢えず三体出した感じです。ランクは全員上位で全員再生持ちです。
·チップ
不破さんみたいに強い意志であれば乗り切れる。因みに外部から取り出すことはできない。
·エンデヴァー
無理矢理盾を突破させたせいですごい強い感じになってしまった。ナンバーワンだから出来るよね。
·エッジショット
エンデヴァーが鎧をぶっ壊し、そこからエッジショットが気絶させる。
·報告書
改竄されてる部分が多々ある。あと跳田が何故か黙秘している。理由については次回くらいに。
今回はこれくらいで。次回は立ち直り回だと思います。やっぱり曇らせたら晴れたほうがいいよね。次回も多分曇らせがあると思います。
評価やコメント、いつもありがとうございます。とても励みになります。