個性:クラスターセル 作:鳥松
跳田が目覚めた時、視界に写ったのは真っ白で無機質な天井。入院したことはあったので見覚えのある天井だ。ここはどこかの病院の病室なのだろう。跳田の身体はベッドに寝かされている。
「………………」
そして、跳田の頭に過る昨夜の出来事。自分の個性が全てを破壊し、蹂躙した夜のことを。跳田はしっかりと覚えている。怪人脳無3体を無残に殺したことも、周りを更地にしたことも、一般人をこの手に掛けようとしたことも。
いや、この手に掛けずとも既に飛蝗が大勢殺しているだろう。そのようなことを考えていると隣から声が掛けられる。
「…………起きたか」
隣から掛けられた声の正体は、担任である相澤だった。大方、再び暴走したときのことを考えて常に隣にいたのだろう。
「……取り敢えず医師を呼ぶ。来るまでそのまま大人しくしてろよ」
「………はい」
しばらくすると医師や看護士が跳田の元に到着し、身体に異常がないか調べられる。ある一点を除いて異常が無いことを確認した医師は病室を退室した。そして医師と入れ替わる形で相澤とあと三人が部屋に入ってきた。
一人は、根津校長先生だった。こちらはいつもと特段変わらない様子だが、なんとなく、いくらか険しい表情をしているように感じた。校長先生に限った話ではないが、異形型個性の人の表情を読み取るにはそれなりの慣れやコツが必要だ。
そして、他の人たちについては、一切の見覚えがない。
まずもって一際目を引かれたのは、相澤先生の隣に立っている骸骨かミイラのように痩せ細ったボロボロの怪我人だ。なんだか萎れた金髪に加えて目元は落ち窪んで真っ暗だが、その奥に覗く瞳はとても綺麗な青い色。こちらを見る表情は何とも痛ましそうで純粋すぎるほどの心配の気持ちが伝わってくるのだが、彼の方がよっぽど痛ましい姿をしている。
あとの一人はスーツ姿の男。この三人といるということはそれなりの立場にいる人なのだろうが、あまり特徴のない顔と服装をしている。
まず最初に口を開いたのは相澤だった。
「じゃあ、まず俺から事の顛末を……」
「いえ、大丈夫…です。全部知ってますから…」
「…っ、そうか……」
相澤は跳田のことを哀れんで痛みを察するように顔をしかめてそう言った。
「…じゃあ、次は僕が話すよ。僕は警視庁から来た塚内と言う者だ。ここにいる……驚くかもしれないがオールマイトと古い友人だ」
「え……?この人がオールマイト…?」
塚内と名乗る男が指を指したのは骸骨のように痩せ細った男だった。跳田が知るオールマイトとは筋骨隆々で陽気な人だった。跳田が知るオールマイトとこの骸骨のような男とは正反対な男だった。
「……ああ、そうさ。にわかには信じられないだろうけれど、これが私の本来の姿、トゥルーフォーム。今まではなんとか誤魔化してきたが、今回の一件で……力を使い果たしてしまってね」
「そんな……じゃあ………」
「……そうだね、平和の象徴はこれで終わってしまった」
平和の象徴が、オールマイトが終わる……この意味はあまりにも大きく、現代社会にヒビが入るような出来事だった。
まさか…あいつに。という考えが跳田の頭に過る。
なんでこんなことに?あいつが原因?ヒーローがあの場にもっといたら?あいつに会わなかったら?
わたしがヴィランに捕まりなんてしなかったら?
「じゃあ、全部……わたしの、せいじゃ……」
「それは違うんだ、跳田少女!あのヴィラン、オールフォーワンと戦なくても遅かれ早かれ限界は来ていた。だからこれは仕方のないことだったのさ。
君のせいじゃない。オールマイトはそう言った。あなた程の人が言うならそうなのかも知れない。駄目だって。私は……汚くて最低な人間なんだから……自分を、肯定してしまう。
「そろそろいいかな?僕たち警察は君に事情聴取がしたいんだ。ベストジーニストやあの場にいたヒーローの話によると、君は脳無倉庫でオールフォーワンと同じ方向から出てきたと言っていた」
「君はあの場でオールフォーワンに何をされた?」
「っ……!」
跳田が口を開いてあの夜のことをこと細かに話そうとした時だった。跳田はそれを一瞬で後悔し、口をつぐんだ。
(あの事を…?言う?あんなことを………?喋ったら…?)
「い、言えません………」
「言えない、とは?」
「言えません…あんなこと…言っちゃいけないんです……ごめんなさい……」
跳田は消え入りそうな声で発した。
(言わなきゃいけないことはわかってる……でも、でもあんなことが他人に知られてしまうのは一番いやなんだ)
「なぜ、かな。僕たちとしては捜査に協力して欲しいだけなのだが」
「………言えません。絶対に」
「跳田少女、君は……」
「無理に言わせるわけにもいかないね。また、話したくなったらいつでも言ってくれ」
そう言って塚内さんは優しく微笑んで言った。本来なら怒鳴っても可笑しくない状況なのに、塚内さんは優しくこちらを労るように言った。
(ああ……私は一体何をしているんだろう……自分の個性で大勢人を殺して、挙げ句捜査に協力すらしないなんて。人の優しさにつけこんで…自分の都合のいいことばっかり)
「…………跳田。あまり気負いすぎるな、あの夜のことは
(また…)
跳田の胸にズクンと言葉が重く突き刺さる。まるで自らの罪の責任を追及するかのように、自らを責めるように。
「………そう、ですね…ありがとうございます」
◆
あの後少し話をして4人は去っていった。そして少し校長先生と話した。なんでも雄英はこれから全寮制へと変更するらしい。表向きは生徒の安全を守る、としているが多分それは私のことを監視するためだろう。
例えば人は人間を食らう可能性のある獣を檻から外界へと解き放つだろうか。そしてそれをそのままにしておくだろうか。否、そんなことあるはずない。人は未知が嫌いだ。人はそれを放っては置けず制御しようとする。
今の私もそれと同じだろう。
ベッドに横たわりながら昨日のことを思い出す。私にとってあのオールフォーワンというヴィランから明かされた事実より個性の暴走で町を破壊してしまったことのほうが衝撃が大きかった。自分の身体が飛蝗に覆われた後の映像は最悪なことに全て見えていた。飛蝗が町を破壊し、人を殺し、脳無を八つ裂きにしたこと、全部、全部見えていた。
今も聞こえる頭の中の声が今は自分を責めるように聞こえる。
お前のせいだ!お前がいなければこんなこと!死んでしまえ!死ね!くたばれ!全部お前のせいだ!
声が、私を責める声が、責任が、罪が、徒党を組んで襲いかかる。いっそ死んでしまえばいいと思ってしまいそうになる。だが私はそれでも最低な最悪な人間で、自分を傷付けて死ぬのが人並みに恐怖を感じてしまうようだ。私は自分が嫌いだ。
体育祭で優勝して、ヴィランを倒して、皆に感謝されて褒められて。勘違いしていた。強くなった気になっていた。でも違った実際は全部あの男の手のひらの上だった。
ああ、なんてーーー
哀れだろうか。
◆
「お帰り桐子ちゃん。ごめんね、お見舞い行けなくて……」
「いいんですよ、先生。先生もあの後大変だったでしょ?」
「いいのよ私のことは。それよりも中に入ってゆっくり休んで。あの子たちも心配してるんだから」
「………そうですね。分かりました」
孤児院へと帰ってきて、子供たちと一緒に遊んだり、話したり、いつもと同じように過ごした。皆いつもと変わらず接してくれる。私を配慮していつもと同じように過ごしてくれるのがわかる。けどそれが私には何故か良いように受け取れなかった。
夜。普段遅くまで起きている先生も寝たぐらい夜更けの頃。私はおもむろに部屋を出る。向かう場所は台所。そして手に取るのは普段料理に使う大きな出刃包丁。それを取って私はすぐさま部屋に戻る。
そして部屋のドアの鍵を締めると包丁の刃の部分を自分の首元へと運ぶ。そして勢いよく包丁を引く。
首から血が一気に噴き出す。自分から流れた穢れた血が床や壁、カーテンを汚していく。そして身体に力が入らなくなり、徐々に意識が失くなり、そのまま死んでいく……………はずだった。
「え……………?」
何故か血は止まり、意識が遠のく感覚も全くない。それどころか首の傷もどんどん塞がってゆく。
「あ…ああ……」
なぜ忘れていたのだろう。あの男の忌まわしき贈り物のことを。自分が既に逃げ場をなくされていることを。
誰か、誰か助けてくれと心の中で何度も願う。逃げ場を無くされ、死ぬことすら許されない。もういやだと心の中で願ったとき、先生の言葉が思い浮かんだ。
『笑って!ほら、辛い時こそニッコリ笑うの!笑えば辛いことも吹き飛ぶから!』
荒んだ心を捨て置き、無理矢理笑顔を作って笑おうとする。
「は、ははっ………」
笑えない、笑えないよ先生。私はこれからどうすれば……
よしよし曇ってきたな。
今回の補足
·黙秘
自分のことを話したくなかっただけ。まあ単純に自分が黒幕に力を与えられて人殺したんです、とか言いたくないよね。
·全寮制
跳田を監視する意味もありますが、本質的には跳田を守るためです。再び暴走しても相澤先生がいる雄英なら被害は最小限に抑えられるので雄英にいたほうが都合が良いのです。
·自殺未遂
『超再生』があるお陰で未遂で終わる。これで死ぬという逃げ場は無くされました。
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