個性:クラスターセル   作:鳥松

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とても遅れました。難産でした。曇らせって難しいな。


迷い

 

 

あの後、部屋に飛び散った血を出来るだけ拭いてそのまま寝てしまった。流石にカーペットやカーテンにこびりついた血は落とすことが出来なかったが部屋に誰も入れないようにすれば大丈夫だろう。

 

 

そして今日もいつも通りの日常を過ごす。朝はいつも通りに先生の家事を手伝って、お昼は子供たちと遊んで………

 

 

 

 

「アハハ!ほらー!姉ちゃんこっちー!」

 

 

「ちょ、はや……」

 

 

 

現在、跳田は孤児院の庭にて子供たちと遊んでいる。今のマイブームは鬼ごっこだそうでここ最近はしょっちゅう外に駆り出され延々と子供たちを追いかけ走り回っている。子供の鬼ごっことなれば大人は手加減などをするものだがここの子供たちに至ってはそうはいかない。

 

 

「はやすぎだって……」

 

 

「わー!相変わらず速いねー!」

 

 

現在跳田が追い掛けているのは孤児院で一番元気のある男の子である「伊藤竣成」。普通であれば高校生が子供を捕まえるのは容易だがこの個性社会に於いてはそうはいかない。

彼の個性は『高速移動』。高速で動くことが出来るというシンプルだが強力な個性。なので彼は将来の夢はヒーローになることらしい。その件で雄英に通う跳田のことを憧れてくれてはいるのだが、鬼ごっこの時くらい手加減して欲しいものである。

跳田も個性を使えば捕まえるのは簡単かもしれないが大人げないし今は個性はあまり使いたくない。

 

 

「へへー!捕まえてみな!」

 

 

「……こうなっては仕方がない。奥の手を使うか……」

 

 

「お、奥の手…!?」

 

 

周りからも驚きの声が上がる。いつもならここで跳田が降参して鬼ごっこは終わるところだが今日の跳田はいつもと違った。

 

 

「行くよ……」

 

 

「ゴ、ゴクリ……」

 

 

その場にいる全員が固唾を飲む。既に捕まり、観戦している子供たちも事の顛末を緊張感を持って見守る。

 

 

「あっ先生!」

 

 

「えっ!?」

 

 

 

跳田が後方に指を指して叫ぶ。子供騙しにも程があるが相手は子供なので絶大な効果を発揮した。先ほどまで個性で移動し、跳田の手から逃れていた竣成だったが突然のことに完全に足が止まる。

 

 

 

「捕まえたっ!」

 

 

 

その隙に乗じて跳田は少年のもとに近付いてガバッと抱き抱える。

 

 

 

「姉ちゃんズリぃ!ヒキョーだヒキョー!」

 

 

 

「ふふ、環境を利用するのが勝負に勝つコツなのですよ」

 

 

 

跳田がそう言うと竣成はむぐぐ、と頬を膨らませて不満そうに跳田を見つめる。そんな光景が広がっている中孤児院の窓が開いた。

 

 

 

「みんなー!おやつ食べるー?」

 

 

 

「「食べるー!」」

 

 

 

孤児院の窓が開くと先生が顔を出し、外にいる子供たちや跳田に向けて呼び掛ける。先生は休日の時は定期的におやつを手作りする。作るのはクッキーとか様々だがどれも美味しくて評判が高い。

 

跳田が抱き抱えたままの少年も孤児院の中へ入ろうとするが跳田が中々放してくれない。跳田の顔はいつもよりも暗く一緒に遊んでいた先ほどとは全く違う様子だった。

 

 

「姉ちゃん?」

 

 

「……………竣成くんはさ、私のこと怖くない?」

 

 

 

「怖くないよ!」

 

 

 

竣成ははっきりとその答えを跳田に向け即答した。

 

 

 

「………どうして?ニュースで見てたでしょ?私あんなことしたんだよ?」

 

 

 

詰めるように質問する跳田だったが竣成はケロっとした表情でまたしても即答する。

 

 

 

「だって姉ちゃんが俺たちにあんなことするわけないもん!」

 

 

 

その言葉が跳田の心の中に深く、深く突き刺さる。

 

 

 

「それにテレビも言ってたぞ!姉ちゃんは悪くねぇってな!」

 

 

 

 

それは……それはみんなそう言うけど…!けど…………けれど私はっ……!

 

 

 

跳田はその言葉を聞いた後少し黙っていたがその考えを放棄するかのようにか細く口を開いた。

 

 

 

「……そう、だね…。ありがとう、竣成くん」

 

 

 

「おう!早く中入ろうぜ、姉ちゃん!」

 

 

 

相澤先生や他の大人にも言われたが跳田の罪を少しでも庇おうとするその言葉はなぜかは跳田の罪の意識をより強めていく。

 

 

 

(こんなこと初めてだな……人の善意がこんなにもいやになるなんて……)

 

 

 

そんな跳田の様子を窓から見る先生がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が桐子ちゃんを預かったとき彼女の顔は希望を失い、暗い顔をしていた。それにあの時の彼女には何か喪失感があった。でもそれは親でも友人でも失ったような喪失感でもない。しかしそれは彼女にとって重要な何かを夜の惨劇で失ったようだった。

 

 

私は彼女の心を救うためそれにつけこむかのように、その心に空いた穴を埋めれるようにその失ったものの代わりになろうとした。結果、彼女は私に心を開きヒーローになりたいという夢を話すようにもなった。雄英高校に合格した彼女はその夢に向かい跳んでゆくはずだった。

 

 

でもいまあの子はその羽を折られてしまっている。大人のミスや過ちの責任をあの子は一人で抱え込んで跳ぶことが出来なくなってしまっている。ならば過ちを犯した大人があの子を再び跳べるようにしなくては。それが大人の責任だ。

 

 

 

そう思った先生は早速行動に移すため跳田の部屋へ向かった。

 

 

 

(部屋にいるかしら……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠い。昼寝なんて日常的にしていなかったのに最近はよく眠気に襲われる。そのくせ夜は全く眠れない。そのせいで朝鏡を見てみると目にうっすらと隈が出来ていた。今も自分の部屋のベッドに寝転がって寝る体勢へと移行している。

 

 

自分を襲う眠気を必死に耐えながら部屋を見回す。そしてその中で一際目立つのはカーテンとカーペットにこびりつく自分の血飛沫。

 

昨夜、私は逃げた。自分の罪に向き合うのを放棄し、自らの命を断つことでそれから逃げようとした。

でもそれは出来なかった。仮面の男、オールフォーワンはこのことすら読んでいたかのように私に『超再生』を与えた。私はまるでオールフォーワンの掌の上に乗せられる小さな羽虫のようだった。

 

 

 

「うっ、ああ…………うああ…」

 

 

 

それが悔しくて、惨めで情けなくて涙が流れる。もう生きていける自信がないというのに個性が終わることを許してくれない。

 

 

 

「もう……やだ……」

 

 

 

そしてネガティブな考えを無理やり途切れさせるように強烈な眠気が跳田を襲う。そして自然と瞼が閉じて眠りへと誘い、跳田はそのまま眠りについた。

そしてある人物が跳田の部屋のドアの前に立ち、そのまま部屋に入室した。

 

 

 

「桐子ちゃん。今いいかな…?」

 

 

 

先生が跳田の部屋へ入るとまずベッドで寝ている跳田が目に入る。

 

 

 

「寝てる…のかな…?じゃあまた後で……」

 

 

 

「!?」

 

 

 

次に目に入るのはカーテンとカーペットにこびりつく血飛沫だった。それを見た先生は絶句。それと同時進行でここで行われたことについて必死に考える。

 

 

 

「まさか……桐子ちゃんが……!?」

 

 

 

先生は一つの結論にたどり着く。それは考えうる限り最悪な結論。跳田が自らの意思で自分の身体に行った自傷。つまり自殺をしようとしたという結論にたどり着いた。

 

 

 

「んん……?せんせ…?」

 

 

 

「桐子ちゃん……!」

 

 

 

 

そしてその瞬間跳田が目覚める。跳田は寝ぼけ眼で、先生は心底絶望したような目でお互いを見つめた。

 

 

 

 

 




次回は家庭訪問と言いましたが先に跳田を立ち直らせておきたいなと思い、あと一話くらい挟みたいと思います。全然話が進んでないと思いますが次回はちょっと進むと思います。頑張れ先生。


今回の補足

·伊藤竣成
オリキャラ。両親を亡くしたことで孤児院で暮らすことになった。個性が強い。名前を考えるのが苦手過ぎてめちゃめちゃ普通の名前になった。先生の名前がまだ作中で明かされてないのは考えるのが苦手だから。


·鬼ごっこ
遊ぶときの跳田は結構普通に接してますが、実際は結構精神的に限界。「ここいる?」と思いながら書いてた。


·個性への恐怖
暴走を恐れて個性の使用を拒んでいる。しばらく引っ張る予定。


·昼に寝る
精神的ストレッサーというらしい。ストレスを感じると睡眠抑制ホルモンが働き、寝付きが悪くなったり、夜に寝れなくなってしまう事が増えるという症状。他の小説から引用した情報なので本当かどうかは知らない。



はい、という訳で今回はここまでです。難産だっただけあって少し短かったですね。次回もこのくらいの長さになると思います。
感想や評価などくれると作者は裸で大笑いしながら喜びます。
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