こちら府中市トレセン学園前派出所   作:風祭将太

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エアグルーヴと部長が似ていると思ってしまったので初投稿です。


第1話 馬とウマ娘 の巻

 

ここは葛飾区、坊主から泥棒まで忙しい12月のある日。

 

「両~~~津~~~!!!」

 

亀有公園前では、北風に負けない勢いで、今朝も派出所の窓ガラスが吹き飛んでいた。

 

「またお前がパトロール中に馬券を買っていたと市民から通報があったぞ!!!」

「仕方ないじゃないですか!!!()()()()()()()()()()()なんだから!!!」

 

いま、世界の競馬界は、未曽有の大事件により急速に衰退していた。

原因はまったくの不明だが、世界中の牧場で馬がほとんど産まれなくなり、レースの開催が難しくなってしまったのだ。

日本も例外ではなく、最後まで残っていた国内の古馬たちは、中山競馬場・船橋競馬場のある船橋市に集められ細々と競走していたが、とうとうそれも限界に。

この冬、これもなんとか最後まで残されていた()()()()()()をもって、競馬の歴史は幕を下ろすこととなったのである。

 

「だからではない!!まったく貴様はいつになったら警察官として自覚ある行動をとれるようになるんだ!!」

「痛てててててて!!部長痛い!!耳引っ張らないで!!」

 

そしていま、世界中のあらゆる場所が、もうひとつの大事件に揺れていた。

馬が絶滅に向かうのとは反対に、ウマ娘なる謎の種族が地球上に現れ、急激に数を増やしていたのだ。

ヒトは彼女たちとどう付き合うべきか、共に生きるにはどうすればよいのか、誰もが悩み、行動を迫られていた。

 

「この馬鹿への説教も続けたいが、しかし、まずは皆に重要な連絡がある。近年、消防や自衛隊がウマ娘の採用を強化しているのは知っているだろう」

「まだまだ謎の多い種族ですが、やはりあの身体能力は代えがたいでしょうからねえ」

派出所でもっとも「普通」に近い男・寺井が、これもごく普通の相槌を打つ。

 

「そこで一定の成果が上がっているとのことで、警察でも採用の強化が検討されていてな。さしあたり、トレセン学園のウマ娘への宣伝を強化するとのことだ」

「いいですね。もはやウマ娘との共生は避けられない以上、行政のほうから積極的に歩み寄るほうが、彼女たちが種族として社会になじむのに役立つでしょうし」

世界的大企業の御曹司としての顔を持つ中川が、大きな視点から賛意を示した。

 

「ここからが本題だが、宣伝も兼ねて府中市のトレセン学園前に派出所を新設し、府中署以外からも応援で人を送ることになったそうだ」

「宣伝と派出所の新設、どうも結びつかないわ。それもこんな急に?」

「麗子君の疑問ももっともだ。実はこのところ、有名選手への盗撮や過熱取材をはじめとして、現役のウマ娘を標的とする事件やトラブルが激増しているそうでな。警視庁にも学園からたびたび相談があったらしい」

 

「まあ見た目はいいし、ヒトのスポーツ界と同じようなもんだな、中川」

「両津、まさか加担してはいないだろうな?」

「そんなわけないじゃないですか部長!言いがかりはよしてくださいよ!」

 

「部長。たしかにニュースでもよく見かけますが、そこまで事態が深刻なんでしょうか?」

「もちろん普通であれば、せいぜい警戒を強化するくらいで、派出所を新設するという話にはならんだろうがな。さきほど中川が自分で指摘したように、ウマ娘との共生を図るという政治的な観点もあり、上層部は思い切った判断をしたそうだ」

 

ひとまず納得した様子の一同。

 

「そして、問題となる応援人員だが。警視庁広しといえど、ウマ娘の身体能力にまともについていける人間は残念ながらこいつしかおらん。もしかするとヒトではないのかもしれないが」

「ええ、まあ……」

「寺井てめえ!」

「やめてよ両さん!」

「スポーツ用でもない自転車で犯人の車に追いつくくらいですからね、先輩は」

「ぐぬぬ……中川まで……」

 

「そして両津を派遣するとなるとお目付け役が必要だ。差し支えなければ、プライベートでもウマ娘との接点が多そうな中川か麗子君に頼みたいところだが」

「僕もパーティーでモデルのウマ娘と話すくらいで、あまり彼女たちに詳しいわけではありませんが、それでもよろしければ……」

モデルのウマ娘と話す、のあたりから両津がげんなりして、寺井の胸ぐらをつかむのをやめた。

 

「私は地域課じゃないし*1、圭ちゃんのほうが良いのかしらね」

「では、中川に頼むとしよう。種族が違うとはいえ、未成年のこどもたちばかり相手にすることになる。両津の恥ずかしい行動を野放しにしないよう、くれぐれもよろしく頼む。今朝の連絡は以上だ」

両津はげんなりした顔のままだが、部長は気にせず話をまとめた。

 

 

・ U ・ U ・ U ・

 

 

「部長はああ言ったが、宣伝とか共生とか、そんなことより重要な理由があるとわしは思うぞ」

「というのは?」

「とにかくウマ娘は謎が多い。謎しかないと言ってもいい。基本的には馬よりも友好的とか言われているが、ウマ娘が起こした事故や事件が少ないわけじゃない。お偉いさんとしては情報が欲しいだろ」

 

明らかにヒト並みの知能があるウマ娘だが、本能に振り回されたり、その力を持て余して物を壊したりするのは珍しくない。

性格もヒトに近いため、ヒトという種族そのものへの悪意はないとしても、個人に恨みを抱いたり、脅しに屈して犯罪の片棒を担いでしまうこともあるのだ。

 

「つまりウマ娘という種族の調査、観察、ですか……」

「もちろん公開されてる情報もあるがな。ものの考え方の傾向とか、どういう状況で注意力散漫になってやらかすとか、そういうのは詳細が出てこないだろ」

「それもそうね、警察としては必要だけれど、内容次第でウマ娘への差別に結びつきかねないわ」

もっともな懸念を麗子が述べる。

 

「もちろん現場で働くわしらは、目の前の事件と関係者がすべてだがな。ウマ娘だろうが宇宙人だろうが。さて、と」

「先輩、なんですかそれ」

話は終わったとばかりに両津が取り出した何かに、中川の好奇心が刺激された。

 

「聞いて驚け中川。ただのスマホバッテリーのようにも見えるが、実はスピーカーだ。特殊な音波の出し方で、音の聴こえる方向を完璧にコントロールする逸品だ」

「似たようなコンセプトのスピーカーは増えていますが、こんな形のものはめずらしいですね」

「イヤホンだと競馬実況を聞いているのが部長にばれるからな。今月のレースはひとつも聞き逃すわけにはいかん、万全を期して用意したわけだ。さて初期設定を、と」

 

「ほほう、それはどう設定するんだ?」

「それはまず、このスイッチを……げっ!!!部長!!!」

「馬券を買っていた件の説教の続きをしようと思えば……貴様というやつは……この馬鹿者が~~~!!!」

 

ふたたび吹き飛ぶ派出所の窓ガラス。破片がきらめいている(ト ウ ィ ン ク ル)のは、トレセン学園と警察の未来への、ささやかな祝福なのかもしれない。

 

「中川!その機械は隠しておけ!!わしはこれから奥でこいつの性根をたたき直す!!!」

「あーっ!!今日のレースがーっ!!」

 

…………祝福なのかもしれない。

*1
実は別の部署(交通課)からの応援人員であり、正式に派出所(地域課)に所属しているわけではない。




府中に行かない部長・麗子・寺井も、レギュラーではありませんが、ゲスト的に登場する予定はあります。
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