とか書いていながら、最初は学園都市のターン。これが結構続く予感
世界とは、一つではない。今、『自分』がいる世界が唯一の世界ではないのだ。
魔術が発展した世界―――
科学が発展した世界―――
どちらにも属さない、摩訶不思議なチカラが発展した世界がこの世のどこかに存在する。それを知っていれば世界はとてつもなく広く広大で、それを知らない者には、狭く閉塞した世界だろう。
たった一つの概念と価値観が支配する。大衆の意見とは即ち世界そのもの。
そして、世界は『科学文明』を限りなく押し進めていた。現代科学の前に、魔術とは脆弱でしかない。科学が太陽の光なら、魔術や神の力と言った神秘は蝋燭の灯火のような扱いだ。特にこの閉鎖された学園都市では―――――
どこかの国で、二人の女が話し合っていた。一人は何処までも白く、純粋で潔白な美しい少女。頭に真っ白な茨の冠を被り、目の前の少女に友好的な笑みを向けていた。
「まさか、この世とは別の世界がありけるとわ。しかも同じような末路」
「科学が世界を統一したなら、私達〈
そう言って真っ白で無垢な少女は向こうが透けて見えた。
まるで幽霊。
しかしその認識は誤りではない。事実彼女は人間ではなく
純粋な呪力で出来た彼女は同じ運命を辿るであろう、彼女に微笑む。
科学により駆逐される神の神秘。即ち魔法を存続させるも同士、思うところは一緒らしい。
「その賭け。私は乗るわ。アレイスターに一泡吹かせる最高の素材。〈紅い種〉をくれるのでありければ」
「うん、上げるよ。この世界は素晴らしい魔法使いが居るのに、消されてしまうのは残念だもの。私の大事な仲間を殺した世界を棄ててここまで来た意味、なくなっちゃうからね」
純粋無垢に笑う白すぎる彼女。法衣も額に巻いた茨の冠に透きとおるような純白の肌。名は、タブラ・ラサ。魔法使いの願いの具現として生を受けた少女。その瞳には科学と自らの覇道を邪魔した者共に向けた確かな憎しみが宿っていた。まるで瞳だけが、この世のどんな闇よりも暗い色をしているように見えた。純白なはずなのに。
ころり、と真っ白な手から赤く紅い奇跡の種が零れ落ちる。世界さえも創り変える〈生命の実〉は確かに、イギリス清教
世界は常に動き続ける。タブラ・ラサの願いにより歪み、交差した決して交わることのない世界同士が同調し渦巻く。その危険も自らのプランに組み込もうとする者は、既に手を打っていた。
そう、学園都市統括理事長アレイスター・クローリー。
彼は手始めに、とある魔術集団を学園都市に招いたのだ。
その名を〈アストラル〉
魔術結社にしては珍しく、魔術系統を揃えるのが暗黙の前提でありながらあえてそろえず、それでいて、魔術業界から一目を置かれる逸材を取り揃えた極東の小さい結社。
そして、極めつけの異常とも言えるのがその営業内容だ。
魔術師ならび魔法使いとは、己を一番最初に考える者達が大半だと言っていい。そうでもしなければ魔術なんて異端などは、見に付かないのだから。魔術だけに特化した、魔術師、魔法使いという新たな人種はそうして脈々と古き言い伝え、伝説、神話、神秘を伝えてきた。ただ魔術の為に、魔術を存続させるために。それだけに心血を注ぐ。
つまり、自分勝手で周りを見ようともしない。
だが〈アストラル〉は、魔術で魔法で人を助けるために奔走する結社。
切磋琢磨と磨いてきた技術は誰かの為に――――
その想いの全ては、今まで個人と自分の結社だけを優先してきた魔術業界にどれほどの激震と異質な存在を誇示しただろうか。
この狭く閉塞した世界に多くの白波を立ててきた魔術結社〈アストラル〉
その会社、及び深く関係する結社は一部慌しく引越しの身支度をしていた。
「オルトヴィーン君どうして会社ごと移動するって前もって教えてくれないのさ!」
「うるさい
鋭い牙をむき出しにして吼えるオルトヴィーン・グラウツにすっかり萎縮した〈アストラル〉社長 伊庭いつきはひたすら謝る。
「ご、ごめん! だけどこれっていきなりきまったんでしょ!? ねぇ影崎さん?」
「えぇ、そうです。協会からの命令で、〈アストラル〉及び〈ゲーティア〉に拒否権はありません。この移動が決まったのもつい先ほどです」
助けを求められ答えたのは、特徴と言う特徴を削ぎ落としたような全てが平均的な男だった。目の形にしても、皺の彫り、鼻梁の高さ口の形にしても、どこにも特徴はない。世界そのものに溶け込んだ、そう感じてしまう男。
そして影崎は〈アストラル〉の人間ではなく、協会からの指令で〈アストラル〉と〈ゲーティア〉に特別な指令をもってきた者だった。だが彼も〈アストラル〉の必要最低限の荷物の運び出しを手伝っているのは、急な依頼なので少しは自分も手伝おう、とのことらしい。
「はぁ、布留部を離れなきゃいけないのか………、えっと、行き先は」
「学園都市、だよお兄ちゃん社長!」
「そうだったね。学園都市か、またどうして『魔術業界』の協会が『科学社会』の学園都市に移転しろだなんて」
顔の半分を覆った黒い眼帯が特徴的な少年、伊庭いつきは小学生の女の子の頭を撫でる。女の子、葛城みかんは神道課の契約社員だ。明るく元気なツインテールが特徴で、家柄のせいか巫女服を着て引越しのお手伝いをしてくれている。
お兄ちゃん社長と言っているが実の妹ではなく、なぜかみかんはいつきをそう呼ぶ。
「ほんま、協会やからって結社の移動命令を好き勝手にせんでほしいわ。おかげでこっちは土地から住むところから、学校まで大忙しや」
なまりのある独特な発音。その声音全て、悪意を隠すことなく語りかけてきたアイスブルーの瞳。そこに居た二名は声を揃えて彼女の名を呼んだ。
「あ、穂波!!」
「穂波お姉ちゃん! もう引越しの手続き終わったの?」
「一通りは。まぁ協会が直々に手配してくれただけはある。
次の言葉を躊躇する穂波と打って変わって淀みなく後を引き継いだのは影崎だった。
「その豪邸には〈ゲーティア〉の皆様と同居して頂きます。AAAの階級を持つ〈ゲーティア〉に資金提供して貰ったので当たり前でしょう。あちら側も極力出費は抑えたいでしょうし」
「ふぇぇ!? ア、アディリシアさん達と!!」
新事実に狼狽えるいつきの耳に透き通る凜、とした声が鼓膜を震わせた。
「イツキ別に変な思惑はありませんわ。ただ、下手に散らばるのはこちらの資金に響きます。九割、あなた方の出費を援助して上げてるのですから。それに学園都市だとマンションやアパートが一般的で一軒家、それも魔法使いが満足できる物を買うとなるとかなりの浪費ですわ」
見る者を魅了する黄金の縦ロールを靡かせ、アディリシアが事務室から出てきた。その斜め後ろには真っ白な髪と肌、
ダフネの容姿は、自身は殊更白く、そして身に纏う男性用ダークスーツの黒が彼女をモノクロの世界から抜き出されたように見せる。
その奇妙な見栄えで思わず目が向くだろうが、彼女はとことん黙秘を貫き、存在が感じられない。
「だいたい、何ですの? あの腹黒陰陽師。こちらに更に払わせようとして」
「資金ぶりには弱小〈アストラル〉や、貰えるもんとか特になりそうならとことん粘るよ」
憤るアディリシアとは反対に穂波はもうやけくそ状態だった。きっと先ほどの話し合いでボロボロにされたのだろう。土地代、物件の値段、場所について発言権が劣勢な〈アストラル〉だ。〈ゲーティア〉の意向に逆らえず終わったのだろう。
「はぁ、学園都市。……うちの魔術に必要な森があらへんし、最悪や! ヤドリギの木を育てて実らすの大変やったとに!!」
アイスブルーの瞳に栗色の髪をした彼女は目に見えて落ち込んでいた。穂波・高瀬・アンブラーはケルト魔術。森や大自然を扱う魔術師で故に緑のない学園都市では死活問題とも言える一大事。
そんな彼女の肩に優しく手が置かれた。
「元気出して下さい。穂波さん。それに一時的移動ならまた帰ってこれますよ」
「まなみ……うん。そやね。またみんなでここに帰ってくればいいんや」
突如現れた彼女、黒羽まなみ。彼女は宙に浮いており、少し透けた存在。彼女は死んだ者らしく、霊体として活動していた。
そんな彼女は中世ヨーロッパのメイド服を着て、
その微妙な空気を裂いて、一人の青年がやってきた。
「にゃ」
「にゃあ」
「うにゃあ」
「に~~~~~~~~ゃああ」
猫の合唱を引き連れ最後に事務室から出て来たのは、白い青年だった。
壮漢な佇まいなのだが、取り巻く猫達がその雰囲気をなし崩す。
「さて無事に話し合いも終わりましたし、皆さん良かったですね」
「なにが無事ですか」
ぼやくアディリシアをあえて無視した猫屋敷蓮は書類を影崎に渡す。
「確かに、預かりました。では、皆さん。協会の飛行艇で送ります」
交わらない物語が交差するとき――――新たな歴史が生まれる