とある別世界の魔法使い達   作:雨宮茂

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学園都市

 「うわぁ! すごいすごい!! 猫屋敷さん、風車がいっぱいあるよ」

 

 「はいはーい! みかんさん、はしゃぎ過ぎて迷子にならないで下さいよ」

 

 一歩。『学園都市』の中に入っていつき達は驚かされた。知識だけでは知っていた町並みも、写真や映像に比べたらなんの感慨もない風景だったが、実物は遥かに違った。見たこともない風車、正しくは風力発電機の群れや、小さなドラム缶のような全自動ゴミ掃除機によく見れば、通り過ぎるバスの中には、時々運転手がない。バスもプログラムされ、自動で動いているようだ。

 

 正直、唖然としすぎてみかんの様に素直に感想も述べられない。

 

 他の追随を許さない学園都市の化学技術。中と外では三十年もの技術差があるという話も頷けた。実は今の今までそんなものは与太話程度にいつき捉えていた。メディアの過剰な煽り、この認識が木っ端微塵に粉砕された瞬間だった。

 

 「なんかここ、本当に日本なのかな?」

 

 「ええ、俄かには信じられません。確かこの都市の学校に通うのでしょう?」

 

 「はい、特別来賓。簡単に言えば留学生のような扱いなので、一流や高等教育をする学校に通うということはないでしょう」

 

 魔術結社〈ゲーティア〉の副首領ダフネはアディリシアの問いに淀みなく答え、そこに穂波が疑問をもった。

 

 「なんで、高い水準の学校には行けんの?」

 

 「はい、聞くところによりますと」

 

 ダフネは顔色を変えず鞄の中からきっちりファイリングされたものを取り出し、書かれた重要な所だけを読み上げる。

 

 「学園都市は『超能力』の開発を行なってます。つまり必然的にこの都市の学科には能力についての授業が盛り込まれます。しかし私たちは、能力開発を受けていませんので、名門、一流の学校に通うということは理解も出来てない分野の授業を受けなければなりません。しかも難解です。魔術師でもないのに魔法学校に通うことと同じ意義でしょう」

 

 なるほど、と三人が声を揃えるとダフネはファイルを鞄に戻しついでに時計を確認した。

 

 「詳しい説明は昼食を取りながらで」

 

 「猫屋敷さん! 昼食だって。なにが食べたいですか?」

 

 「ああ、社長! 見てください。ここのペットショップ猫のブラシの種類がこんなに揃ってるんですよ。それにフードだって猫の為に栄養価を調節し猫の為だけに!!」

 

 そこにはペットショップにへばり付く猫屋敷がいた。猫に溺愛した彼にはこの店は神か、それか天国にも見えるのだろう。

 

 隣のみかんも楽しそうにそんな彼を見ている。

 

 「よかったね。玄武、白虎に朱雀に青龍。もしかしたら安くて美味しいご飯になるかもよ?」

 

「 にゃあにゃあにゃあ!!」

 

 合唱し始める猫たちに猫屋敷は綻んだ。

 

 「ええ、もちろん。良いのがあれば買いますよ! しかし、なんといい声なんでしょう。猫の鳴き声は世界の神々さえ魅了するようです」

 

 「いいから、はよ昼食にして学校に行くよ猫屋敷さん」

 

 そう、この六人だけなんで外を歩いているのかと言うと、引越しが急だったので行く学校が決まってない重大事態に陥っていた。主にいつきとアディリシアと穂波とみかん。

 

 そこでダフネが急遽、協会の空挺で学校を手配するため、変な時期に特別客としてやってくる怪しい自分らを入学させてもらえる所をなんとか探し出した。片っ端から電話をするその姿を見て、申し訳なかった。別に自分は悪くないのだが。

 

 「なら帰りに寄りましょう!」

 

 「分かったから。それじゃアディのおごりで」

 

 「ホナミ! なに勝手なこと言ってますの。そのくらい自分たちのお金で払いなさい!」

 

 道端で軽い言い争いをする猫屋敷に穂波。そこにアディリシアまで加わって話は猫缶の値段から、猫の素晴らしさと歴史、歴史から猫の魔術的意味。そして魔術がいかに血統を必要にするか、由緒正しいソロモンのお姫様であるアディリシアはその話題に食いつきペットショップの前で議論と意見がぶつかり合う激戦がいつの間にか繰り広げていた。

 

 ついて行けない、いつきは空を眺めながら呟く。

 

 「時間に余裕はありますか?」

 

 「ここは敢えて、『ない』ということにしますかいつき様?」

 

 もう一度、時間を確認したダフネの提案をいつきは快く受け入れた。

 

 「そうですね。帰りを遅くしたら黒羽さんとオルトヴィーン君に悪いし、そうしましょう」

 

 今頃、新しい家に着いたであろう二人を思い浮かべながら、いつきはまだ話を止めない三人に近づく。

 

 「これ以上時間かけたら、お昼ご飯も食べられないよ! ほら、三人とも話を止めて!」

 

 「社長! どの魔術が一番優れとると思う? ウチ的にはやっぱりケルト魔術や!」

 

 穂波の扱うケルト魔術とは、古代ヨーロッパに実在した『樫の木の賢者(ドルイド)』の魔術。この魔術は口伝のみで伝えられ、膨大な量の詩歌や知識をすべて暗記しなければならない。なので一度は失われた魔術であったが、穂波は長い時間をイギリス全土に亘るフィールドワークに費やしこの現世に蘇らせた。

 

 主にヤドリギから呪力を得て、特に月齢六日目、樫の木に生えたヤドリギは最上とされる。

 

 信託や呪歌のほか、神の力を借りて嵐を巻き起こすこともある。

 

 樫の木を聖木にヤドリギを霊草とし、ストーンサークルなども用いて自然の森や岩の力を呪歌で導く自然魔術。

 

 だが、アディリシアは穂波の出した答えを一蹴した。

 

 「何を言うかと思えば、自然環境に左右されることもある魔術にソロモン王の魔術が劣るとでも?」

 

 ソロモン王の魔術

 

 古代イスラエルの王ソロモンを祖とする魔術。大別すると2種類に分けることが出来、ソロモン72柱の魔神と契約・喚起する召喚魔術と、魔神へ影響を及ぼす7惑星の力を利用する護符魔術に分けられる。

 

 一般的に召喚魔術と呼ばれる『ソロモン王の小さな鍵』は、霊的存在を『喚起』または『召喚』する魔術形態である。魔神喚起の魔術特性は『王命の喚起』血脈強制召喚で、その名の通り血統による素質が非常に重要である。喚起の際には五芒星や魔法円などを駆使し魔神を封印した壺を用いる。

 

 一般的に護符魔術と呼ばれる『ソロモン王の大きな鍵』は、7大惑星の惑星霊を支配する。魔術特性は『惑星の喚起』惑星霊の護符により心身の内側と外の世界を繋ぐ、意志の具現化。指輪の形をとった護符を用いて身体機能を強化したり、霊的存在の探査や自分の姿を隠すなど特殊効果を生み出す。

 

 アディリシアが使う魔術は『ソロモン王の小さな鍵』。つまり魔神の召喚なのだ。

 

 使い魔として最高ランクの魔術。しかしだからこそ、猫屋敷は茶々を入れる。

 

 「どうですかね? あまりにも血統に偏った魔術ですし、リスクも大きい。ただ強力というだけで優れているとは限りません。普遍で扱いやすいのもが必ずしも低俗魔術と言う訳じゃありませんよ? 例えば陰陽五行とか」

 

 陰陽五行

 

 陰陽師が用いたとされる、種々の紋様や呪文を記載した護符。俗に セーマン、晴明桔梗・晴明紋・五芒星・ペンタフラマ・ペンタゴンやドーマン・九字格子と呼ばれる図形を記すものも多い。他にも「鎮宅七十二霊符」や「×」・「篭目」・「渦巻」・「六芒星」や、「急急如律令」の呪文を文字で書きつけたものなど数多くの呪符がある。

 

 元来中国で用いられていたものが伝来したものと考えられるが、日本における護符の歴史は未だ解明されていない部分が多く、古くは藤原京跡などから「急々如律令」の呪句を書き付けた呪符木簡等が出土しており、奈良時代にはすでに活用されていたらしい。

 

 つまり多種多様な護符を駆使し、平安時代にはかの有名な陰陽師安部晴明がその道を極めていた。

 

 日本に限らずアジア圏に絶大な歴史、原点を残す陰陽道ほど普遍でリスクも少ない強力な呪術は類を見ないだろう。そういった意味では確かに優れた魔術だ。

 

「それなら神道だって負けてないよ!」

 

 そこに名乗りを上げたのは葛城みかん。

 

 日本の魔術結社トップクラスの名門。その正体は禊ぎにより穢れを祓い清めたり御霊を祭り・慰め・浄化などを行う魔術の他に、武術としての神楽、剣や弓などの呪具を用いた魔術もある。前者の魔術特性は「禊ぎ」あらゆる穢れを祓い除く絶対結界。玉串などの呪具や祝詞、神楽などの舞を用いるもので、戦闘時の性質としては「守り」に特化している。比較して後者は攻撃的であるが、これは主を周囲の者が守護するという体制的なものに由来する場合や、あるいは祭る神の性質に由来する場合など様々である。

 

 そして、神の名のもと、一切の穢れを祓い穢れは近づく事さえ許されない。

 

 ある意味においては、一番苛烈な特性の魔術である。

 

 そして三つ巴ならぬ、四つ巴も魔術議論はどこまでも平行線を辿り、最終的に行き着いた先は――――――

 

 「社長!」

 

 「イツキ!」

 

 「伊庭社長」

 

 「お兄ちゃん社長!!」

 

 四人と四匹の猫の計十六もの瞳が一人の少年に突き刺さる。

 

 「え、えぇぇぇ!!?」

 

 急に名を呼ばれ慌てふためくいつきに四人の魔術師は音を揃えた。

 

 「どの魔法が一番優れてるか――――」

 

 「言って!」

 

 「言って下さい!」

 

 「言ってもらいましょう」

 

 「言ってほしいな!!」

 

 予想はしていたが、いざ問われるともの凄く悩む。特に伊庭いつきは特殊で特別な瞳を持っていた。

 

 その瞳は、妖精眼(グラムサイト)。いつきの右目にある妖精眼は神代の魔法使い達が持っていたとされる伝説の魔眼で、魔物の『全て』を見ることができ、強力すぎるその能力は所持者を蝕むと伝えられている。いつきが魔法使いではないにもかかわらず魔術的な存在を知覚できるのは、妖精眼を持っているためである。

 

 故に魔術の本質を見極める瞳を持つ少年の意見は、どんな検証よりも正確だろう。

 

 まぁ、本人に魔術的知識が欠乏しているので、多少頼りないが。本人曰く、最初は全くの一般人だからしょうがない、とのこと。確かにしょうがない。

 

 「僕は……」

 

 そんな彼が紡ぐ言葉を四人は今か今かと待ち望んでいた。

 

 「僕は全ての魔術は素晴らしいものだと思うよ」

 

「 え……?」

 

 提示された答えが理解できず、勢いを挫かれた四人にいつきは続ける。

 

 「例えばだけどさ、穂波のケルト魔術は確かに凄いけど、みかんちゃんみたいに祓ったり清めたりなんて出来ないよね?」

 

 「そんなもん当たり前や」

 

 今更なにを、という穂波。

 

 「猫屋敷さんだとアディリシアさんみたいに、血筋の魔術は使えない。魔術としても特色も違うのに優劣を競うのは、変じゃないかな? 僕が『視た』限り何がよくて何が駄目なのか決められない。むしろ全ての魔法は在るだけで意味がある。優れたところもある。勿論、反対の事だって。だから――――全ての魔術は魔術というだけで優れていて、素晴らしいんだ」

 

 「…………」

 

 少年のただただ真摯なその言葉に、場が水を打った。それは仄暗い沈黙というより、忘れていたなにかを思い出し、その意味をもう一度理解するための余韻を感じる静寂。

 

 反省したかのように猫屋敷が首裏を叩いた。

 

 「すっかり忘れてましたよ。確かに、みかんさんの〈禊〉に救われたことなんて沢山あるのに」

 

 「そ、それは私もだよ。……ごめんなさい」

 

 うなだれたみかんの頭を猫屋敷の大きく少しだけ冷たい手が撫でた。

 

 「………ま、確かにアディにはアディしか出来へんこと、あるもんね。魔神での破壊活動とか」

 

 「それは貴女もでしょう。私は箒で空は飛べませんもの」

 

 そこを褒めるのか? とツッコミたくなったが、これがこの二人なりのやり方だ。素直ではないが、それも小学生から一緒に居る二人の絆がその言葉だけで想いを繋げる。

 

 強敵と書いて友と読む間がらな穂波とアディリシアは、実のところお互いをお互いが一番理解していた。

 

 円満に事が片付いたいつきは胸を撫で下ろすと、後ろから女性の声がした。

 

 「無事に終わったみたいですね」

 

 「あ、ダフネさん!」

 

 白い髪を揺らし、ダフネは道路を挟んだ向こう側にあるファミリーレストランを指差した。

 

 「討論している間に、予約を入れてきましたので、どうぞ」

 

 「ありがとうございます。本当にすみません」

 

 「いえ、これも仕事の一つです」

 

 頭を下げるいつきにダフネはさも当然のことをしたまでと言う。ダフネはアディリシア付きのメイド長(本人は家令と呼ぶよう強く主張している)であり〈ゲーティア〉の副首領としてアディリシアのサポートは確かに当然の仕事だ。

 

 皆を促しファミレスに入ると、涼やかな空気が流れ込んできた。冷房が効いている店内にいつきは癒される。

 

 「涼しい」

 

 「七月だもんね。今日から夏休みだし、学校のやつ終わったら遊びに行こう!」

 

 「それは一度家に行ってからね。部屋とか確認しないと」

 

 やんわりと制すいつきにみかんは思い出したように手を打った。引越ししたことを、あの討論ですっかり忘れていたらしい。

 

 店員が誰かの名前を呼んだ。

 

 「伊庭様! テーブルが空きましたよ」

 

 そこには受け答えをするダフネがいた。

 

 「あれ? なんで僕の名前?」

 

 「勝手に使って申し訳ありません。一番まともな名前だったので」

 

 どこか納得したいつき達だった。猫屋敷なんて恥ずかしい名前で呼ばれたくないし、だからと言って葛城(かつらぎ)と読める人は少ない。そして西洋圏の名前を持つ、穂波にアディリシア、言うまでもなくダフネもそうだが、日本だとなんだか書きにくい。ここには極端に外人が少なく、好奇な眼差しで見られることがあるからだ。

 

 辺り触りのない名前といえば、もう伊庭いつきしか居ないだろう。

 

 しかしそれも外人のダフネが『伊庭』と言う名で返事しては意味がないのだが。

 

 案内され、いつきとアディリシアが向かい合うように一番奥に座る。次に穂波がいつきの隣に座り、みかんと向かい合う形になった。大人組みの二人は一番外側、つまり通路に近い座席に腰を下ろす。

 

 「さて、なにを頼みましょうか?」

 

 「あの、お客様大変失礼ながら店内ペット持込は禁止なんです……」

 

 やっと昼食だと意気込んだみかんだったが思わぬ歯止めを喰らった。注意されたのは猫屋敷だが。

 

 そして猫屋敷の目の前でダフネがしまった。と顔色を悪くした。

 

 「ああ、大丈夫ですよダフネさん。すみません、よろしければペットと一緒にご飯が食べられるところ知りませんか?」

 

 「ええっと」

 

 見た目が二十代後半の好青年な猫屋敷は丁寧にそういうと、店員もそれ以上なにも言えず近辺の事を思い浮かべる。そしてはきはきと答えた。

 

 「たしか向こう側の大きなペットショップ、ご存知ですか?」

 

 「ええ、ここに来る途中見ましたよ」

 

 その目の前で議論していた身として、はっきり覚えている。

 

 「そこでは一緒にご飯が食べられますよ」

 

 「ならそこに移動しようか」

 

 立ち上がったいつきを猫屋敷は片手で座るように促し、自分だけ立ち上がった。

 

 「ここまで来て帰るのは失礼でしょう社長? ですので自分だけで行きますよ」

 

 「でも一人にするのはちょっと」

 

 罪悪感があるのか穂波が渋る。ダフネが自分の責任だからと猫屋敷に付き添うとしたが、彼はそれを丁寧に断る。ダフネはアディリシアの副官だ。傍を離れてまで来なくともよい。その代わり。

 

 「みかんさん、一緒に来てくれますか?」

 

 「うんいいよ。玄武に朱雀に白虎に青龍行くよ!!」

 

 「にあ」

 

 「にゃあ」

 

 「うにゃあ」

 

 「にぃ~~~~~~~~あ」

 

 それぞれが変わった鳴き声を上げて出口に走り出し、みかんが追いかける。その様子に慌てた猫屋敷も足早に店から出て行った。

 

 「すみません。配慮が行き届かず」

 

 「そんなことあらへん。まあ、ある意味慣れとるもん。ねぇ社長」

 

 「うん、そうですよ。だから深く考えないで下さい。僕ドリンクバーに行ってきますから」

 

 すかさずダフネが立ち上がり、アディリシアは迷わず注文した。

 

 「ダフネ、紅茶をお願いしますわ。イツキとホナミはなににします?」

 

 部下思いというか、アディリシアはダフネの気が済むようわざと仕事を与えるため注文する。二人は苦笑しながら、ウーロン茶と緑茶を頼んだ。

 

 ダフネは頷くとドリンクバーの方に行った。きっと戻って来るのは早いだろう。仕事自体真面目にこなす器用な人なのだから。失敗が許せないのかもしれない。

 

 「ちょっといいかな?」

 

 「どうしたん社長?」

 

 こんな場所で言うのは恥ずかしいのでこそっと答えた。

 

 「ごめん、お手洗い」

 

 「行ってらっしゃい」

 

 穂波は退けて、いつきがトイレに向かうとまた座りなおした。

 

 「さてアディ、なんで協会がここに連れてきたのか知っとるん?」

 

 「いいえ、知っていたらもう少し準備しましたわ」

 

 そう、とだけ穂波は答えると学園都市の風景を見渡す。

 

 学生の街、科学の街。色んな名称があるが穂波やアディリシアにはここが一つの大きな牢獄に見えた。塀で囲まれ、入れば強制的に頭を弄らされる。子供なので参政権がないから大人の都合、あずかり知らぬところで勝手に決められる法。

 

 ここに自由はないのだろう。

 

 学園都市。閉鎖された街。

 

 あの少年が言ってくれた『魔法』は在るだけで意味がある。なら『超能力』は意味があるのだろうか?

 

 結論は、分からない。意味として存在するのではなく、もっと別の事柄で存在意義があるように思えてならない。

 

 「お待たせしました」

 

 ダフネが計四つのコップを運んできた。どうやったのか分からないが、普通ならできないだろう。流石はメイド長。

 

 ここで穂波は一旦思考を打ち切り、メニュー表を手に取る。

 

 「メニュー決めよっか」

 

 穂波たちがメニュー表を開いている時、お手洗いを終えたいつきはドリンクバーの近くを通り過ぎようとして気がついた。

 

 長い金髪の女の子がコップを四つ運べなくて苦戦していた。なんとなくほっとけなくて驚かさないように声をかける。

 

 「大丈夫?」

 

 「んー、ちょっと大丈夫そうじゃない訳よ」

 

 振り返った女の子は困り顔でそう言った。

 

 「なら二つ持って上げる。席はどこかな?」

 

 「いいの?それは助かる訳よ。あ、フレンダっていうのよろしく」

 

 「僕は伊庭いつき。よろしくねフレンダさん」

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