「お帰り、大我!」
「ただいま、無事に戻ってきたぜ。雫はどうだ?スキルや新しい刀には慣れたか?」
「ええ。次の大迷宮からは私も攻略に参加するわよ!」
アンカジに戻ってきたら、雫が出迎えに来てくれた。遅れて後ろから白崎さんとミュウちゃんもハジメの元へ向かい……白崎さんはユエさんに吹き飛ばされた。恐ろしく速い風魔法、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「治療も無事終わったし、オアシスの水もあと数日あれば元の水質にまで戻ると思うわ。」
「早めに戻して、次の大迷宮に向かおう。行き先は……多分エリセンになるだろうな。ここから近いし、ミュウちゃんの母親がそこにいるってナグえもんが言っていたしな。」
「その南雲くんなんだけど、確認しに行かなくていいの?」
「雫、俺は自殺志願者じゃないんだ。あんな危険地帯行けるわけ無いだろ。」
因みにハジメは今、
「ハジメは私の物。バカオリに渡す気は無い。」
「渡す気も何も、私のものなんだから!」
「シア、ティオ、助けてくれ!八重樫、読原、目を逸らすな!」
……ハジメ、君のことは忘れない。
そう言い残し俺達はその場から退散したのだった。
そして。
「テメェら、よくも昨日は見捨ててくれやがったな?」「恋人とイチャつける
「漢字違わなかったか?」
「イエソンナコトハナイデス。」
出発の準備中にハジメと一悶着あったが、オアシスの水は無事浄化に成功(ハジメの浄水器とか真似とか色々使って時間を短縮)し、アンカジを出発することに。ビィズさんとランズィさんを始め国中の人が見送ってくれた。
次なる目的地は海上都市エリセン。大迷宮攻略のため、そしてミュウちゃんを母親の元まで送り届けるために俺達は道を急ぐのだった。と言ってもそこまで急いで進む訳ではなく、偶に寄り道とか花見とかをしていたのだが。
だがその花見で一悶着あったようで……というのもその時の記憶が一部無くて、後から南雲に聞いた話なんだが。良ければ聞いていってくれませんかね?つうか聞け(命令)。
事の発端はミュウちゃんの一言だった。
「パパ、パパ!お花見するの!」
「え?えぇ、マジか?別に木の下で飯食って適当に雑談するだけだぞ?」
「それでもいいの!してみたいの!」
旅の道中で桜に似た木(以下桜モドキ)を見かけた南雲が「桃色の花の木、か。……桜を思い出すな。」と何気なしに呟いた。そしてそれを聞いた、白崎さんを除く
「……ん。いいと思う、お花の下でピクニック。丁度時間もお昼だし。」
少しして戦闘から戻ってきたユエさん(辛勝)の発言で南雲も花見をする気になったようだ。エリセンに到着してしまえばそこでミュウちゃんとはお別れだから、それまでに思い出を作ってやろうという考えも元からあったのだろう、「オッケー、準備するわ。皆手伝ってくれ。」と言って支度し始めた。シアさんはいつもより手の込んだ料理を作り、ティオがその手伝いにまわる。俺と南雲、それからミュウちゃんは桜モドキの近くで会場設置に勤しむ。ユエさんと白崎さん?ユエさんが先程の発言のあと「何より、ハジメと香織だけが共有する思い出なんて、あってはならない」と言ってしまったために戦闘を再開している。綺麗な雷竜だな……あっ、真っ二つに切り裂かれた。誰樫雫さんが切ったのだろうか……。
約三十分程で桜モドキの木の下にはふかふかの大きなシートとテーブル、そしてその上に所狭しと料理が並ぶ。
戦闘を終えたユエさん(今回は敗北)が指をぴんっと伸ばして言霊を囁くと風が発生し、桜モドキの花が空を舞う。素敵な演出しますねぇ。
「わぁ、きれいなの〜!」
ミュウちゃんの素直な感嘆の声。そんなミュウちゃんの鼻先に一枚の花びらが落ちてきた。あわあわしながら、しかし花びらを落とさぬよう視線だけ泳がしていて、皆がほっこりした一幕もあった。
〈南雲side〉
ホッコリとしていたあの時から約一時間後。俺、南雲ハジメは頭を抱えずにはいられなかった。
「ちょっとハジメさん!私はですねっ、今、とっても真面目にゃ話をしているんれすよ!そもそもハジメさんはれすねえ……」
「ご主人様よ、お主の側は心地よいの。なぁ、もう少しだけ側によっても良いかな?」
「……ハジメぇ、どうして視線を逸らすのっ。こっち見てぇ、ぎゅってしてぇ!」
「ハジメくんの馬鹿ぁ!どうして女の子ばっかりに囲まれてるの!私はこんなに想ってるのにぃ!うわぁああああんっ!!」
顔を真っ赤にしてウサミミをピンと立てたシアが桜モドキに向かって延々と説教をし、普段からは想像できないほどしっとりとしているティオが甘えてくる。そんな彼女達に目を向けると、さっきからひっつき虫となっているユエが涙目で駄々をこね、香織は号泣しながら杖による高速の突きを繰り出す。原因はその辺に転がる何本もの空の酒瓶。
「これは酷いな……というか流石に予想できねーよ……」
本来は消毒用のはずだった度数の高い上物の酒を折角だからと飲んだところ想像以上に美味しくて皆飲みすぎてしまい、皆が悪酔いしてしまった。勿論
「そういえば八重樫と読原は……?」
彼等も実は酒を飲んでない。委員長気質で真面目な雫は「アルコールは……まだ未成年だから。」と断り、読原は「雫が飲まないなら俺も辞めておくよ。」と拒否した。自分だけ酒を飲んで楽しむことをしないというのは八重樫のことを大切に思っていることなのかなと思い感動した、のだが。読原がどこからともなく取り出したのは琥珀色の液体で満たされた瓶。「アルコール度数/Zero!だけど酔った気分が楽しめる!異世界産謎飲料!こんな事もあろうかと買っておきました。雫、飲んだことあるんだろ?じゃあ問題ないね!」
とだけ言って飲み始めた。さっきの感動返せ。雫も「す、少しだけ飲もうかしら。」とか言って飲み始めた。真面目どこいった。
その後は特に気にかけていなかったのだが、今はどうなっているのだろうか。ミュウの教育に悪いことをしないでほしいんだが……と思った次の瞬間、ドガンッ!と爆音が響いた。音の鳴った方を見ると……
「アッハハハハハハハハ!!汚え花火だ!綺麗だが!爆発は芸術だぁ!」
「しずく、もっとおっきいのみたい!やってやって!」
友人が山を爆発させ、その彼女が幼児退行していた。もう辛い。頼むから助けてくれ。メルド団長でも畑山先生でも天之河でもかまわない、助けてくれ……。とそんなことを考えていると読原の姿が変わった。学生のような見た目……誰を真似たかはよくわからないけど物凄く嫌な予感がする。
「喰らえ知らねぇ山ぁ!!マテリアル……」
「やめろォ!!」「バーストォ!!」
慌てて走り出すも彼を止めることはできず、その瞬間山の頂上を起点に大爆発が起こり、目の前が閃光で真っ白に染まる。閃光が収まり目を開くと、山があったはずの場所は平地になっていた。
「ハ、ハハ、ハハハ、ハハハハ、ハハハハハ、ハハハハハハ、ハハハハハハハ!!素ッ晴らしい!!アッハハハハハ!!」
「何やってんだテメェ!?」
「ナグモンよ素晴らしいだろこれが芸術だ!」
「芸術じゃなくて環境破壊だ!」
読原を止めるためクロスビットを総動員させ動けぬように封じ込んだが、それでも笑い声が止むことはなかった。
そして読原を止めに動いたということは他のところに手が回らなくなるというわけで……
「ハジメェ、こっち来てぇ!」
吸血鬼の威厳とかイメージとかそういうのを壊しかねないぐらい情けなくその場で駄々を捏ねジタバタするユエ。
「うわぁあああん!ハジメくんの馬鹿ぁ!!」
まるで新選組一番隊の某隊長みたいな三段突きを繰り出す香織。
「ハジメしゃんはそんにゃことしちゃらめなことぐらい分かりましゅよにぇ?まったく……」
妄想の世界でひたすらハジメ(実際は桜モドキ)に説教するシア。
「ご主人と既成事実だけでも作れれば……」
不穏な発言とともに服を脱ぎだすティオ。
「ハハハハハハハハハハハハ‼」
「しずくもっとみたい!!ねーえ、もっとおっきいばくはつやってぇ!!」
狂ったように笑い続ける読原と未だ幼児退行したままの雫。
「パパぁ〜、お姉ちゃん達がぁ〜!」
「ミュウ、覚えとけ。酒は飲んでも飲まれるな。お姉ちゃん達みたいになっちゃだめだぞ!」
「分かったの〜!でも飲ませていたのはパパだと思うの〜〜!」
「そのとおりだ、ごめんなさい!」
このあと彼女達を落ち着かせて片付けるのに物凄く時間をかけた。ミュウの応援がなきゃ心が折れていたかもしれない。こうして花見は酷い終わり方をしたのだった。
魔法科高校の劣等生ファンの人すみません。
原作によると南雲は酒を毒耐性で無効化するので酔わないらしいです。帝国編で記述がありました。
一応言っておきますが、未成年の飲酒は日本では違法です。