ようこそペルソナ的人間模様が繰り広げられる教室へ   作:行天

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感謝:いつも誤字脱字報告をしてくださり誠にありがとうございます。誠に助かっております。

今日は外食をしていて投稿遅くなりました。
また、アンケートへのご協力ありがとうございます。
参考にさせていただき、投稿を続けていければと思います。




似たもの兄妹

 

 自販機のところに着いた。

 心なしか自販機が「おや、今日もかい坊や」と言っているような気がした。

 …………どうやら俺は疲れているらしい。

 さて、何を買おうか。

 

 【盆ジュース】

▶【モンタ】

 【剛健美茶】

 【極甘酒】

 

 ガコンッ

 ゴクッゴクッ

 

 ふう。炭酸が程よく喉を潤してくれる。

 炭酸のシュワシュワとした音を聞くと、いつもよりも耳の通りが良いように感じる。

 

「――――――っ」

 

 ふと、誰かの話し声が聞こえた。

 どうやら自販機の裏手の角の方かららしい。

 気になり、近づいてみることにした。

 

 

 

 

「……ここまで追ってくるとはな」

 

 声の方に近づくと男性特有の低音の声が聞こえてきた。

 静かに覗き見るとどうやら二人いるらしい。

 

「追いつくために来ました……兄さん」

 

 対して、相手の声は女性特有の高音の声で、よく知る人物の声であった。

 鈴音だ。

 

「追いつく、か――」

 

 どうやら鈴音の兄らしき男子は、落胆したようにそう声に出す。

 

「Dクラスか……、お前は未だに自分の欠点に気づいていない、3年前と何も変わらないな」

「それは……、確かに入学した後、自分がDクラスに配属させられたことに不満をもっていました。でも今は、その理由が分かり始めました」

 

 そう答える鈴音の横顔には、強い意思を感じる。

 

「ほう、少しは心境の変化があったようだが、この学校はお前が考えているほど甘いところではない」

 

 バッサリと鈴音の言葉を切り捨てるようにそう男子は話す。

 よく見たら、部活動説明会のときの生徒会会長だ。

 兄妹だったのか。

 

「いえ、必ずAクラスに上がって兄さんに追いつきます。『彼』となら、きっとできる」

「……『彼』だと? まさか、もう交際相手がいるのか……」

 

 生徒会長の声色がさらに低いものに変わる。

 

「ち、ちがいます! 『まだ』彼とはそういう関係では!」

 

 そう言われて、鈴音は慌てたように取り繕うが、生徒会長はメガネをクイッ正す。

 

「『まだ』……だと? そいつは何者だ。お前のような愚妹に近づこうとする者がいるなど耳を疑うな。大方お前の容姿を目当てに近づいているのだろう」

「――っ! ちがうわ! 彼はそんな人じゃありません! いくら兄さんでも聞き捨てなりません!」

 

 鈴音がそう言い返すと、生徒会長はカツカツと鈴音に近づいていく。

 

「……何者だ。名前を教えろ」

「いやです!」

「……聞き分けのない妹だ」

 

 そう言って、生徒会長は鈴音の腕を掴み、建物の壁に押し付ける。

 

「~~~ッッ!」

「昔のように痛い目を見ておくか?」

 

 これはまずい状況だ。

 俺は――、

 

 

▶【生徒会長の腕を掴み上げる】

 【もしもしポリスメン? 婦女暴行の現行犯ですと通報する】

 

 

 俺は物陰から駆け出し、鈴音を抑えつけている生徒会長の腕を掴み上げた。

 

「なんだ貴様は」

「雨宮くん!!」

 

 生徒会長はこちらを睨みつけ、鈴音は驚いている様子だ。

 

「いくら兄妹でも少しやりすぎでは?」

「……盗み聞きとは感心しないな」

 

 鋭い眼光をこちらに向けてくる。

 

「やめて、雨宮くん……」

「堀北さん……」

 

 か細くそう鈴音が言うので、俺は生徒会長から手を離した。

 

「――シッ!」

「ぐっ――!」

 

 離した瞬間に生徒会長が鋭い拳を突き出してくる。

 辛うじて避けることができた。

 

 ドゴッ

「がっ――」

 

 避けた次の瞬間に生徒会長の前蹴りが俺の腹部を強打した。

 そして、続けて右正拳、左回し蹴りと連打を繰り出してくる。

 ガードをしようとするが、それよりも早く顔面と胴とその他複数箇所に直撃する。この人、とんでもなく強い。

 

「やめて、兄さん!」

 

 そう鈴音が叫んだ瞬間に、生徒会長の左拳が眼前に迫っていたが、一瞬動きが鈍った。

 その瞬間を見逃さずに、生徒会長の上がった左脇から首にかけて腕を差し込み、自分の体を前進させて、左脚後ろを固定し、体制を崩させた。

 生徒会長はそのまま地面に倒れたが、受け身をとって、後方に一回転し、立ち上がる。

 

「ふん。素人かと思えば、なかなか面白い技を使う……何か習っていたのか?」

「……いえ、映画でみた技を見よう見真似でやってみただけです」

 

 そう答えるが、正直体の節々が痛い。

 真っ直ぐ立てているのはやせ我慢だ。

 

「大丈夫、雨宮くん!」

 

 そう言って、鈴音が心配してくれてか近づいてくる。

 そして、こちらの様子を見て、悲しそうな顔をする。

 

「大丈夫だ。心配するな」

「でも……」

 

 痛いは痛いが、我慢できないほどではない。

 心配させないように穏やかに鈴音に声をかけたが、余計に心配させてしまったようだ。

 そして、鈴音は顔をキッとキツめな表情に変えると生徒会長の方を向く。

 

「ひどいです兄さん! 素人相手にあんなに打ち込むなんて! 見損ないました!」

 

 そう鈴音が言うと、一瞬生徒会長の体がピクッと反応する。

 

「鈴音。お前に『友達』がいたとはな。貴様、名前はなんという」

「……1年Dクラスの雨宮蓮です」

「そうか。雨宮か。……名前を覚えておこう」

 

 なんだろう今のやり取りは、全然好意的に名前を聞かれた気がしない。

 

「鈴音。上のクラスに上がりたかったら、死に物狂いで足掻け。それしか方法はない」

 

 そう言って、生徒会長は踵を返し、去っていった。

 俺は安堵し、建物の壁を背に座り込む。

 鈴音が隣に、ひざをついて心配そうにこちらを見てくる。

 

「雨宮くん、ああ、頬が腫れてるわ……。ごめんなさい。あなたを巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」

「大丈夫だ。それよりも鈴音、怪我はないか?」

「――っ。大丈夫よ。こんなときまで人の心配をして……バカなんだから」

「バカはひどいな」

「あ、ち、ちがうのよ。そういう意味じゃなくて」

「ははっ、大丈夫だ。わかってる」

「も、もう! からかわないでちょうだい」

 

 そんなやり取りをしているとさっきまでの緊張した雰囲気が和らいでいく。

 

「それにしても、生徒会長さん相当強いな」

「当然よ。兄さんは、空手5段、合気道4段をもっているから」

「それは……、すごいな」

 

 段位をもつだけでも相当な実力者のはずだが、武道の段位でそれだけもっているのはすごいな。

 あと、学生でそんなに段位を取れるものなのか。今度調べてみよう。

 などと、どうでも良いことを考えていると、鈴音が肩に手を置いてくる。

 

「本当にごめんなさい。まさか兄さんがあんなに手をあげるなんて思わなかったわ」

「鈴音。よかったら、話を聞かせてくれないか。なぜ兄妹なのにあんな言い争いをしていたのか」

「それは、…………、いえ、聞いてくれるかしら」

 

 そう言って、鈴音は語りだした。

 元々生徒会長、いや堀北先輩と鈴音はそこまで仲の悪い兄妹ではなかったらしい。

 そして、鈴音は昔から学力、運動等、人より優れた結果を残してきた兄を尊敬しているとのこと。

 兄の真似をして、兄の後を追って、自分も兄のような人になろうと思ったとのこと。

 しかし、兄が中学に入った頃から、何が原因かもわからないまま、疎遠になっていったらしい。

 それが嫌で、兄に今まで以上に追いつこうと勉強も運動も頑張り、近づこうと努力していたとのこと。

 だが、近づこうとすればするほど、兄はより距離を離そうとして、冷たく接するようになった。

 そして、兄の好みに合わせれば少しは変わるかもしれないと思い、髪を伸ばし始めたりもしたが、関係は変わらず、むしろ悪化していったとのこと。

 兄の後を追って、入学したが、兄は認めてはくれなかったと話した。

 

 鈴音はそこまで話し終えた後、顔を伏せてしまった。

 話を聞きを終わり俺は……、

 

 

 【仲直りできるといいなと慰める】

▶【似たもの兄妹だなと笑う】

 

 

「ははっ。似たもの兄妹だな」

 

 俺はおかしくなって笑ってしまった。

 そんな俺を見て、鈴音はショックを受けたかのようにした後、顔を真っ赤にして怒り出す。

 

「――っ! なにがそんなにおかしいの! ひどいわ雨宮くん!」

「気づいてないのか?」

「なにを言っているの!」

「心配しているんだ。生徒会長は鈴音、お前のことを」

「……な、なにを言っているの」

 

 だって、そうだろう。

 話を聞いている限り、生徒会長は優秀な人だ。

 そんな優秀な人なら、鈴音の歪さに気づかないはずがない。

 

「鈴音は、生徒会長……いや、お兄さんのことを追いかけすぎだ。はっきり言って、少し過剰なほどだ」

「どういうこと……、それの、なにがいけないの? 兄さんは優秀な人よ。尊敬して、そうなりたいと思うことがいけないことなの?」

 

 鈴音は、本当にわけが分からない様子だ。

 だから続ける。

 

「優秀とか、尊敬とか、そんな言葉で偽らなくていいんだ。鈴音……、要はお兄さんのことが大好きなんだろ?」

「――きゅ、急に、な、何を言っているの!?」

「というか、ぶっちゃけブラコンだ」

「~~~~ッ!! そ、そんなわけないでしょ!?」

 

 カァと一瞬で茹でダコ状態に鈴音はなってしまう。

 否定はしているが、この反応では、信ぴょう性は皆無だろう。

 

「そして、お前のお兄さんもシスコンすぎる」

「ど、どういうこと? そんなはずない。兄さんはむしろ、私のことを嫌っているわ」

「そう振る舞っているだけだよきっと」

「何を根拠に言っているの。そんなはずないわ」

 

 何と言っても納得できない様子だ。

 

「考えてみてくれ。お兄さんは誰よりも優秀な人なんだろ?」

「そうよ」

「なら、妹が自分の後を盲目的に追ってくることに危機感を覚えたのだろうな」

「……え」

「妹がまるで自分をなぞらえるように過ごし、自分と同じ道を歩もうとする、まるで狂信的な信徒の如く。お兄さんは鈴音が大事だからこそ、このままでは鈴音の人生を台無しにしてしまうかもしれないと思ったのだろうな。だから敢えて突き放す道を選んだんじゃないかな」

「そんな……、それなら、それならそう話してくれれば」

「信じたのか? お兄さんからそう言われて、頑固なお前なことだ。きっと、最初は受け入れるように振る舞うだろうが、根本的には変えられないんじゃないか?」

「それは……」

 

 鈴音はどこか不安そうにしながらも考えるようにする。

 

「だから、自分から嫌われる道を選んだんじゃないか」

「そんな、ウソよ……、そんな」

「そして、鈴音がより強く追いかけようとすればするほど、より強く拒絶するようにした」

「そんな、兄さん……」

 

 段々と鈴音の声が涙の色をにじませていく。

 

「それに、極めつけは妹が自分の好みに合わせて髪型を変えてくるとか、恐怖以外の何ものでもないだろう」

「……え、え? そ、そうなのかしら?」

「気づいてないのか」

 

 あまりの盲信さに笑ってしまう。

 

「それに、お兄さんも相当シスコンだな。大好きな妹のために自分から嫌われようなんて、並の覚悟じゃない」

「兄さん……」

「それに、さっきの会話を聞いている限り、可愛い妹に男の影が見えて心配しただけだろ」

「そ、それは!」

「しかし、鈴音にそういう関係の男子がいたとは。誰だ? 清隆か? それとも最近良く面倒を見ているし、健か?」

「………………………………」

 

 そう聞くと、鈴音は人でも殺そうかという程の眼光をこちらに向けてくる。

 あれ、ちがうのか。

 などと思っていると、殴られていない方の頬をかなり強めにつねってくる。

 

「いひゃいんだが」

「なにか言ったかしら?」

「いへ、なひも」

 

 あれ、怖い。

 とりあえず、話も途中だったので、そっとつねってくる手を離させる。

 

「まあ、とにかく。お互い不器用な上、本心は隠したがり、照れ隠しに叩いてきて、そしてお互いに大事に思っている、似たもの兄妹だな」

「……本当に、そう、なのかしら……」

 

 先程よりも不安はないようだが、どこかまだ不安を残している様子に見える。

 そんな様子を見て自然と鈴音の頭に手が伸びる。

 そして、ポンと手を置いて、優しく撫でる。

 

「大丈夫だ鈴音。きっとこれから、お前が自分らしく、『堀北鈴音らしく』あろうとすれば、きっとお兄さんも認めてくれるさ」

「雨宮くん……」

「言っただろ? 力を貸すって。一人で頑張る必要はない。俺やクラスの皆と一緒に高め合えばいい。大変なら力を貸す。困ることがあれば手伝おう。悲しいことがあれば胸を貸そう。辛いことがあるなら相談しろ。そして、そういうのもひっくるめて、一緒に楽しもう。それが『仲間』だ」

 

 大丈夫。ひとりじゃない。

 しっかりと先程よりは力を入れて頭を撫でる。

 そして、俺が伝えると、鈴音は自分の額をこちらの胸においてくる。

 

「ごめんなさい。少しだけこうさせて……」

「ああ」

 

 くぐもった声で鈴音がそう言うので、大人しく胸を貸すことにした。

 きっともう大丈夫だろう。

 これから鈴音はしっかりと自分のことを考えるだろう。

 だから、いつかこの不器用な似たもの兄妹のわだかまりもなくなるだろう。

 そう思い、頑張れ頑張れと思いを込めて、彼女の綺麗で滑りの良い頭をなで続けた。

 

 

 

 RANK UP!

《『女教皇』のコープのランクが3に上がった!》

 

 

 

 

 

 その後、寮で別れる前に、怪我の治療をすると鈴音が言ってきたが、大丈夫だと伝え、納得行かない様子だったが、彼女の部屋まで送ったあと、自分の部屋に戻った。

 シャワーが少し傷に染みたが、思ったより痣が目立たなかったのは、生徒会長が本気ではなかったからもしれない。

 そう思いながら、今日はもう寝ようと思い、床についた。

 

 

 

♪♪♪

《蓮の度胸が磨かれた!》

 

♪♪♪

《蓮の優しさが磨かれた!》

 

 

 

 

 

 

~~堀北鈴音side~~

 

 部屋に戻ってから、私はベッドにそのまま身を投げた。

 疲れているはずなのに、妙に体が軽く感じる。

 それに胸の内がとても軽い。

 先程別れた後、彼は大丈夫だっただろうか。

 怪我したところをちゃんと手当しただろうか。

 あのような怪我をしているのに、どうして彼は人にあんなにも優しくできるのだろうか。

 彼のことを考え始めると安らいでいた胸の鼓動が速くなってくる。

 

 最初は、よく知りもしない相手の容姿を安易に褒めるような軽薄な人だと思った。

 次に、私をからかってきて、ふざけたことをする人だと思った。

 そして、彼と関わる内に、私は彼とのやり取りを少なからず楽しんでいた。

 

 彼は不思議な人だ。

 まるで、気にしないといった様子でズケズケとこちらに関わってこようとする。

 そして、かき乱したかと思えば、その後に甘い、甘露のような、かけてほしい言葉をかけてくる。

 

 これまで、私は、兄さんに追いつくために、あらゆる無駄を排除してきた。

 自分自身を高めることにだけ心血を注いできた。

 でも兄さんは離れていくばかり。

 そして、……私の周りには誰もいなくなった。

 別に誰かと仲良くなりたいとか、つながりを持ちたいとかは思っていなかった。

 兄さんさえ、私を見てくれれば。

 

 でも、彼が私の目を見て、私の努力は無駄じゃない。私が頑張ろうとするなら力を貸すと、何の見返りも求めずそう言ってくれたとき、私はこれまでにない感情が芽生えた。

 これが何かはわからなかった。

 でも、けして嫌悪するようなものではなかった。

 不思議と彼とのやり取りがそれまで以上に、心地よく感じた。

 彼が他の誰かと仲良くしていると羨ましいと感じた。

 彼が、……他の女子と親密にしていると怒りが湧いた。

 この感情を何と呼べばいいのだろうと私は見てみぬふりをした。

 

 だけど、極めつけは今日の出来事。

 いつも通り、兄さんから拒絶される。

 納得はいつまでもできなかったが、また、こうなるだろうとどこかで思っていた。

 しかし、また、彼が来てくれた。

 どうしてこの人はこうタイミングよく現れるのだろう。

 そして、兄さんに叩きのめされる彼を見て、初めて自分の兄に対して怒りが湧いた。

 どうしてそう思ったのかは自分でもその時はわからなかった。

 

 壁に寄り掛かり座る彼を見て、私は申し訳無さで胸がいっぱいになった。

 でも、彼は逆にこちらを気遣ってくる。

 どうして、こんなにも他人のために行動できるのか。

 そして、彼は私と兄さんの話を聞いてきた。

 私はどこか、心の中で、彼ならわかってくれるかも知れないと思い、話した。

 けれど、返ってきた答えは、私の考えとはまるでちがうものだった。

 それに対して、苛立ちを感じた。

 でも、そんなことは気にもせず、彼は私を見てしっかりと自分の考えを話してくれた。

 私が兄を追おうとする理由。

 最初はそんなはずないと思った。

 正直、ブラコンだと言われたときは、殴ってやろうかと思った。

 でも、彼は、私たち兄妹は似たもの同士だと、兄さんも私を大事に思ってくれていると言ってくれた。

 信じられない私の心を、彼は私に語りかけることで、まるで絡み合った糸を一つずつ解いていくように、ほぐしていった。

 

 ああ、これが『優しさ』なんだ。

 誰かのためを想い、行動できる。

 誰かのためを想い、言葉を伝えられる。

 私は、家族以外に、……いえ、誰よりも私に彼から向けられたこの大きな『優しさ』に心が満たされ、彼に抱きついてしまった。

 彼が撫でてくれる手が優しくて好き。

 彼がかけてくれる声が優しくて好き。

 彼の真っ直ぐ私を見てくれる目が優しくて好き。

 私の心は彼の優しさで満たされていく……。

 

 そして、彼との別れ際に、どうしてあれだけの話で、私や兄さんの関係が伝わったのかが不思議で、聞いてみたら、「鈴音のお兄さんを想う気持ちが伝わってきたからな。なら、お兄さんだって鈴音を大切にしているはずだと思ったから」と答えた。

 

 好き。

 いつもの私なら、こんな歯の浮くような台詞に何も感じることはない。

 でも、

 もう、

 だめ。

 雨宮蓮くん。

 彼のことを想うと頭が彼のことしか考えられなくなる。

 きっと、もう私は、どこにいても彼のことを考えてしまう。

 だから、

 きっと、

 これがいわゆる『恋』というもの。

 

 ベッドから身を起こして、スマホでメールを打つ。

『怪我は大丈夫?』

 もっと気の利く文面が思いつかないものかと思いながら私は送信する。

 …………。

 ………。

 ……。

 …。

 返信がこない。

 どうしたのだろうか。

 寝てしまったのかしら?

 まさか、怪我で倒れてる?

 それとも、嫌われた?

 返信が来ない時間が長くなれば、長くなるほど悪い方向に考えてしまう。

 しかし、どこかで、それだけはないと確証めいたものがしっかりと私の中にある。

 そして、次第に眠くなり、私は着替えてすぐに寝てしまった。

 

 

 

 翌朝、目が覚めると、スマホの画面にメールが届いていることが知らされていた。

 急いでメールを開くと。

『ごめん。寝ていて気づかなかった。怪我は大丈夫だ。ちゃんと寝れたか?』

 と私の粗末な文面に対して、淡白だけど、彼の優しさを感じられる返信だった。

 卑怯だ。

 タイミングが本当に卑怯だと思うわ。

 朝から幸福感がすごいことになってしまった。

 私はすぐに返信し、昨日入り忘れたので、シャワーを浴びることにした。

 今日、学校に行ったら、彼の顔をちゃんと見れるか心配になる。

 でも彼ならきっといつもの優しい笑顔で接してくれる。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 思い出した。

 学校には彼を慕う人たちがいる。

 特に最近、櫛田さんが顕著な変わりようね。

 彼女と何かあったようだけど、雨宮くんは答えてくれない。

 知りたいと思うけど、知りたくもない。

 でも一つ間違いないのは、櫛田さん。

 彼女だけには譲れないわ。

 まずは、関係性をはっきりとさせないといけないわね。

 そういえば、彼女は彼のことを名前で呼んでいたわね。

 

「……蓮、くん」

 

 そうつぶやくと、シャワーが熱く感じる。

 これまでの人生で、男性のことを家族も含め名前で呼んだことはない。

 抵抗はあるけど、嫌な感じはなく、むしろ、鼓動が速くなる。

 これでいきましょう。

 まずは、同じ土俵に立たなければ、始まらない。

 彼にも、名前で私のことを呼んでもらうことにしよう。

 そう考えを決めて、私は、登校する準備を始めた。

 

~~side out~~

 

 

 

 

 

 

 翌日、登校した俺の治療した頬を見て、驚いた様子で桔梗が話しかけてきたので、なんと説明してよいやらと考えていると、教室の扉から鈴音が姿を表した。

 

「おはよう」

 

 これは俺に言ったわけではなく、廊下の近くに席のある健に向けて言った。

 しかし、この行動は一瞬でクラス中に衝撃を与える。

 それもそのはずで、鈴音はこれまで自分から挨拶なんてしてこなかったのだから。

 健も驚きのあまり、「お、おう」と生返事になってしまっている。

 そして、鈴音はツカツカと一直線にこちらに向かってくる。

 そして、

 

「おはよう。蓮くん」

 

 第二の衝撃がクラス中に響き渡る。

 急に呼び名が変わったことに驚いたが、挨拶を返すことにした。

 

「おはよう堀北さん」

「鈴音でいいわよ」

「え?」

「鈴音でいいわよ」

「え、えっと……」

「鈴音と呼びなさい」

「……はい。おはようございます鈴音」

「よろしい。それよりも傷は大丈夫? 心配だわ」

 

 そう言って、鈴音は俺の頬に手を当てようとしてくる。

 なぜか、強い圧力を感じたので、大人しく従うことにした。

 まあ、呼び方については、これまでも心の内では名前呼びだったし、問題ないだろう。

 そんなことを考えていると、隣で聞いていた桔梗が苦虫を噛んだような表情で鈴音に相対する。

 

「ど、どうしたのかな堀北さん。きゅ、急に蓮くんを名前で呼ぶなんて」

「あら、櫛田さん。別に不思議なことじゃないわ。私と蓮くんの関係を考えればね」

「ふ、ふ~ん。それに蓮くん怪我をしてるみたいだけど、堀北さんは何か知っているの? どういうことかな?」

「いえ、あなたには『関係のない』ことよ櫛田さん」

「――っ! どういう意味かな!? 蓮くん!?」

 

 桔梗がすごい剣幕でこちらに聞いてくるが、昨日のことはさすがにプライバシー的な意味で言えないだろう。

 

「ご、ごめん。それは言えない」

「どういうことかな!? き、気になるな~~私」

「ふっ。見苦しいわよ櫛田さん」

「んん? 何が? どのあたりが見苦しいのかな堀北さん?」

「いえ、なんでもないわ。気にしないで」

 

 

 バチバチバチ

 

 

 二人の間で火花が散らされているような幻影が見える。

 どうして、いきなり二人がこんな一触即発しそうな雰囲気になったんだ?

 俺は助けを求めたくなり、周囲を見回す。

 しかし、誰も彼も目をそらしてしまう。

 だ、だれか!

 そう思い、清隆を見ると、目があった。

 清隆!

 期待を胸にヘルプサインを送る。

 すると、ゆっくりと清隆は、手を上げて…………、

 

 

 

 

 合掌された。

 

 

 

 ……清隆ァァァ!!

 

 

 

 その後、朝のホームルームが始まるまで、鈴音も桔梗も俺の席から離れようとしなかった。

 

 どうしてこうなった!?

 

 

 

 

 




 平素より、お気に入り登録、感想・評価、誤字脱字報告等々誠にありがとうございます。

 ここまでお読みいただいた方も気に入っていただければ、お気に入り登録、感想・評価等、何卒よろしくお願いいたします。


 はい。ということで、堀北さんの回でした。

 この展開に賛否両論あると思いますが、まあまずは私の説明(言い訳)を聞いてください(2回目)。

 まず、私が原作を読んでいて思った堀北さんの印象は「ヤバいブラコン」だと思いました。
 こちらの二次創作にも書かせていただきましたが、お兄ちゃんの好みに合わせて髪を伸ばすとか……もう、ね。
 また、原作やアニメの方でも兄の暴力に対して無抵抗とかマジヤバイなこの子と思いました。
 ただ、堀北さんの少しずつ成長する姿は好感が持てたし、綾小路に良いように使われてつつも、彼の行動や思考を参照し、ペーパーシャッフルのときなんかは櫛田さんを出し抜いてましたしね。

 そして、堀北鈴音というキャラクターを考察していくうちに、彼女の初期の行動原理の中に、「尊敬する人物をなぞらえる、もしくは模倣する」といったものがあるなあと思いました。
 そして、ちょっとこの子、盲目的な性格していないかと思い、タイミングを間違えるとカルトっぽいのにハマる可能性あるなと思い、あ、つまり櫛田さんが自覚する異常性なら、堀北さんは無自覚な異常性を持つ子なのかも!!と思いました。
 
 そこまで考え、1巻の兄に盲目的になって追いつこうする状態に雨宮蓮という人物との関わりを混ぜ混ぜしたらあのイベントはどうなるかなと思った結果が今日の話です。
 少し掘北兄がシスコン感出してしまったのはご愛嬌ということで汗。

 本文には描写しませんでしたが、コープ3状態の堀北さんは主人公に恋をしていると表現しましたが、筆者としては、この状態は主人公に父性ならぬ兄性を感じて意識して暴走している状態だと考えています。
 なので、これ以降は暴走してきますが、そのうちコープがあがることで、原作にも負けない成長を遂げてくれると期待しています。(←なぜか上から目線)


 はい。ということで言い訳終了。
 つまり、何が言いたかったかというと、
『普段ツンツンしているのに、優しくするとデレデレしちゃう堀北鈴音ちゃんみたいな妹が欲しかった』

 ということです。
 よう実のキャラクターたちへの愛(盲愛)が止められない!



 次回、20話ということで、いい加減に原作1巻の期間を終わらせようとしたのですが、ガイヤが私に囁いたため、とある人物の話となります。
 明日をお楽しみに!


 ○アンケートご協力への感謝○
 アンケートへのご協力ありがとうございます。
 基本的には今ぐらいの文章量で3,4日ぐらいの期間で投稿できるようにしていき、ちょっとコープの特殊演出が入るような回は、もう少しお時間をいただくかもしれません。
 今後とも宜しくお願いします。



 それでは、
 もしも選択肢のコーナー(妄想です)


 【盆ジュース】
 【モンタ】
 【剛健美茶】
 【極甘酒】

 個々では、櫛田さんの回のときのようにスッキリしそうな飲み物を選ぶと、堀北兄妹の会話に気づくことができます。
 そのため、モンタか剛健美茶が正解となります。


 【生徒会長の腕を掴み上げる】
 【もしもしポリスメン? 婦女暴行の現行犯ですと通報する】

 警察に通報しようとしますが、学内は警察ではなく、警備員さんのハズなので意味がありません。
 残念ながら、学校支給の学生端末(スマホ)には緊急通報番号は適用されないため、110番をしても警備システムに行くか、そもそも繋がらないです。
 そのため、結局、堀北兄にボコされます。


 【仲直りできるといいなと慰める】
 【似たもの兄妹だなと笑う】

 ここは仲直りできるといいなを選択すると、結局、他人事のように扱われるため、堀北さんのコープは上がりません。
 ですが、原作のように、その後の特別試験などの選択肢を通して、コープレベルがあがっていくのが正規ルートだとすれば、今回ハーレムENDを目指しているため、ある意味急速に仲良くなる必要があります。
 そのため、一見選択しないような選択肢が、ある意味正解のときもあるのです。



これで、異常です(筆者の堀北さんを妹にしたい願望が)

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