前回からの続きです。
あらすじ
同じバスケ部の小宮と近藤に呼び出された須藤。
須藤をサポートをするために、蓮は須藤と一緒に特別棟へ向かうのであった。
健と特別棟に入り、小宮たちが呼び出した場所まで来た。
どうやらまだ、小宮たちは来ていないらしい。
「っち、あいつら呼び出しておいて、いねえのかよ」
「健。気持ちは分かるがあまりイライラするなよ」
「分かってるよ」
「もう一度言っておくが、健は手を出すなよ」
「おう。俺の鋼の意思を見せてやるぜ」
本当に大丈夫だろうかと思いつつ、健のスポーツマンとしての矜持を信じることにした。
そして、しばらくしても来ないため、スマホで時刻を確認する。
17時50分。
そろそろ、日も暮れ始める時間だ。
これは、健がからかわれたか?
それとも巌流島の戦いのようにあえて遅れて苛立たせる作戦か?
などと考えていると、階段を誰かが上がってくる音がする。
俺は手に持ったスマホを胸ポケットにしまう。
ピッ
シュゥゥゥ――
ん?今何か音がしたような……。
というかクロトが帰っていった。
これで満足したのだろうか。
まあ、細かいことは今は気にしないでおこう。
そう思った矢先、階段から男子生徒が3人上がってきた。
小宮と近藤だけではないのか。
こちらに向かってくる相手を観察していると、こちらに近づきながら、一人が叫んできた。
「おい須藤! てめえ一人で来いって言ったよな!」
「んだよ小宮。なんで俺がてめえらの言う事聞かねえといけねえんだ!」
「っは! 大方ビビって助けて~って泣きついたんだろ? マジで見かけ倒しだな!」
「んだとこら!」
小宮と呼ばれた生徒は、健に対して、開幕から挑発的な物言いをしてくる。
俺は健の前に立ち、腕を上げて言う。
「健。安い挑発だ。のるな」
「っち、そうだった。悪りぃ蓮」
「大丈夫だ。気にするな」
どうやら健は冷静さを取り戻したようだ。
3人はこちらに近づき、立ち止まる。
「ってかお前誰だよ。部外者が勝手に割り込んできてんじゃねえよ」
「俺らの問題なんだけど、帰ってくんない?」
小宮と近藤が横柄な態度でそう言ってくる。
「Dクラスの雨宮蓮だ。悪いがお前たちの要求は飲めないな」
「はあ? 意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ」
「健は俺の友だ。友のために俺はここにいる。だから部外者ではない」
「頭……イカれてんのか?」
「なんとでも言え」
俺は腕を組み、対峙する。
その様子を見て、目の前の小宮と近藤はこちらを睨みつけてくる。
「はっ。やっぱりDクラスだな。話が通じねえや」
「どうでも良いがもうすぐ下校時間だ。いい加減、要件を話してくれ」
「っち。まあいい。おい須藤!」
「……んだよ」
小宮が一歩前に出てくる。
健は冷静にその場から動かず相対する。
「Dクラスのてめえがバスケ部でレギュラーに選ばれるなんて、どんな卑怯な手を使ったんだよ?」
「あ? 何いってんだ?」
「お前みたいな『不良品』が、バスケ部にいるとこっちも評判が落ちるって言ってんだよ!」
「……ふざけてんのか?」
「だからよバスケ部辞めろよ? 不良品は不良品同士で勝手によろしくしてろよ」
小宮が小馬鹿にするようにそう言うと、健が拳を強く握りしめ、「……てめぇ」と前かがみになる。
「おっ? やんのかよ? いいぜバスケ部辞めねえって言うなら、そう思えるようにしてるよ。なあ、石崎」
小宮がそう言うと、それまでこちらを挑発するようにニヤついていた背は高くないが、がっしりとした体とガラの悪そうな着こなしをしている男が返事をする。
「ああ、いいぜ。こいつらはバカだから、痛い目見ねえと分かんないだろ」
そう言って、ゴキゴキと指を鳴らして、前に出てくる。
それを見て、俺は…………、
【いいだろかかってこい。ただし、その頃にはお前は八つ裂きになっているだろうがな】
▶【さっきから何を言っているんだ?】
「お前らはさっきから何を言っているんだ?」
「あ?」
「俺達は話し合いに来たんだ。それがさっきから、Dクラスだからレギュラーになるのが気に食わないとか、Dクラスだから部活を辞めろとか、挙句の果てには、ケンカを仕掛けてくる。さっきからお前らがやってることは、まるで論理が破綻している。散々うちのクラスのことをバカにしているが、お前らも相当なものだぞ」
「んだと!?」
「健がバスケでレギュラーを取りそうなのは、誰よりも練習して、真摯にバスケに打ち込んだからだ。部活はそもそもクラスは関係ないし、そこにクラスの評価を持ち込んでいるのはそちらの身勝手な誤認だろ。お前らがやっていることは、自分が努力しないことを棚に上げて、気に入らないという自分勝手な言い分にすぎない。話があるなら、もっとまともな話をしてくれ」
おそらく適当な理由をつけてふっかけてきているだけだとは思うが、それにしても、もう少しまともな理由を持ち出してほしいものだ。
俺がそう言うと、あからさまに目の前の3人は怒気を高める。
そして、石崎がさらに一歩近づいてきて、
「ごちゃごちゃうるせえんだよ!」
バキッ
俺の顔に一発入れてきた。
「はっ! これで目が覚めただろ」
「てめぇ!」
石崎がいやらしく笑うのと同時に、健は怒りを露わに叫ぶ。
「やめろ健」
「蓮! でもよ!」
「俺との約束、……忘れたか?」
「――っ」
健は噛み締めるように黙り込む。
その様子を見て、俺は目の前でしたり顔をしている石崎に向き直る。そして、
【目には目を、歯に歯を、一発には一発だと殴り返す】
▶【蚊に刺されたようなものだと平然とする】
「蚊に刺されたようなものだ」
「あんだと!?」
「こんな意思も信念も何もこもっていない拳は、俺には通じない」
「…………いいぜ、ならどこまで耐えられるか、試してやるよ!」
バキッ
さらに一撃加えてくる。
それがどうしたと云わんばかりに俺は構える。
その様子を見て、石崎はカッと額を赤くする。
「舐めてんじゃねえぞ! おらぁ!」
今度はボディに一撃を入れてくる。
痛い。
だが、痛いだけだ。
来るとわかっているなら、力を込め、構えればいい。
ここでやり返せば、こいつらの思い通りだろう。
なら、好きなだけ殴らせてやる。
だが、ただで済むと思うなよ?
「いい加減っぶっ倒れろ!」
そう言って、石崎が顔を目掛けて殴ってくる。
それに合わせて、自分の額を下げ、構える。
ベキッ
「があああ! 痛っつ!」
「なんだ。自分から殴っておいて軟な拳だな」
「ぶっ殺す! 小宮! 近藤! お前らも手伝え!」
「お、おう!」
「死ねや!」
石崎に言われて、小宮と近藤も加わってくるようだ。
それを見て、健が我慢できないといった様子で「いい加減に……「やめろ健」」前に出ようとしたのを俺は止めた。
「どうしてだよ蓮!」
「お前はプロを目指すんだろ? なら、ここは絶対にこらえろ。もし手を出すなら、俺の覚悟を無駄にするなら、例え健でも俺は許さないぞ」
「蓮……、けどよう……、けどよう!」
悲痛そうな顔をして、健はこちらを見てくる。
大丈夫だ健。こんなくだらないことで、お前の夢の足を引っ張らせないさ。
「カッコつけてんじゃねえよ!」
「さっさとくたばれ!」
小宮と近藤が殴りかかってくる。
流石に同時は流せない。
2つの衝撃に少し足が、ふらつく。
「ぐぅ!」
「おら! まだ終わんねえぞ!」
「――っこい」
「ぅらあ!」
そして、3人に囲まれ俺は殴られ、蹴られていく。
いいだろう。
付き合ってもらうぞ。
さあ、俺と『我慢比べ』の始まりだ……。
「はっー。はっー。な、何なんだ、こいつは」
「マジ、……かよ……」
5分、10分、20分、いや、どのぐらいたっただろうか……。
小宮、近藤、石崎に殴られ、蹴られ続け、すでに体のあちこちが痛む。
口には血が滲み、視界も少しぼやけている。足もおぼつかない。
だが、それだけだ。
俺の膝は未だに折れていない、手は地についていない。心は折れていない。
それに頭はとてもクリアだ。
そしてどうだ。
目の前の3人は、息も絶え絶えだ。
「痛てぇ、もう手が痛てぇよ……」
「なんだよ……何なんだよ――コイツは、マジでよお!」
すでにこいつらの心は折れかけている。
なら、ここだ。
俺は身構えるのを止めて、ふらつく足に力を入れ、曲がりそうな背を伸ばし、心を奮い立たせ、目に力を宿す。
そして、一歩、一歩とこいつらに近づく。
「……、どうした? 俺は、まだ、立って、いるぞ? もう、終わりか?」
一歩、一歩と、足が、背が、曲がらないように力を入れて近づいていく。
「く、くるな! 来るんじゃねえよ!」
「キモいんだよ!」
小宮たちは、後退りながらその表情に得体の知れないものを見るような恐怖の色を浮かべる。
そんなこいつらに俺は言ってやる。
「……もう、暴力は、終わりか? なら、……対話の、時間、だな。話し合おう。……ほら、どう、したら、もう、こんなバカなことを、しない。……お前らは、……誰に言われて、こんな、ことをしている? なにを、している? ほら、しゃべって、みろ。聞いて、やる」
じり、じりと歩みを進める。
「くるな! くるんじゃねえええ!」
耐えきれなかったのか石崎が殴りかかってくる。
俺は再び、額に合わせ、構える。
「――ふっ!」
「があああ! ぐがあ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛――」
石崎は自分が振るった手を抑え、目尻に涙を浮かべ悶え苦しむ。
俺は気にせずに、歩みを止めない。
そして、恐ろしいものを見ているような表情の3人を見下ろして、言ってやる。
「二度とするな」
声に力を込め、強く意思を込めて、そう言うと、3人は「ひっ!」「か、帰るぞ!」「やってられっか!」と思い思いに言い残して、逃げ走り去った。
その様子を見て、俺は体から力が抜けた。
ようやく、終わったか。
そのまま床に寝てしまおうかとすると、後ろから駆け寄ってきた健に支えられた。
「蓮! お前ってやつは! 無茶しやがって――」
今にも泣きそうな顔で健がこちらを見てくる。
「ふっ。なんて顔してるんだ」
「うるせえ! なんでだよ。いくらダチだからって、ここまでする必要はねえだろ!」
「そうか?」
「そうだろ! 自分だけこんなになっちまってよぉ。……すまねえ。すまねえ」
「……謝るな健」
俺は健を真っ直ぐ見ながら伝える。
「俺が、こうしたいと思ったんだ。こんなくだらないことで、お前の夢を邪魔されるのが許せなかったんだ。頑張っているやつの邪魔をするあいつらにムカついたんだ。それだけだ」
「蓮。お前ってやつは、本当によぉ。本当によぉ」
「情けない声を出すな。この我慢比べ。俺達の勝ちだ。胸を張って帰ろう」
「おう……、おう。あんがとな。マジであんがとな」
そう伝えると、健はいよいよ涙を流し始める。
「泣くな健。勝者の凱旋だぞ」
「馬鹿野郎……、これは嬉し涙だっつの」
「そうか。なら仕方ないな」
そんなことを言いつつ、健に肩を貸してもらいながら歩く。
もう、日は暮れて、俺達が歩く音がやけに廊下に響いた。
RANK UP!
《『戦車』のコープのランクが2に上がった!》
NEW ABILITY!
《『戦車』のコープから『超我慢』のアビリティを手に入れた!》
テキスト『他者から受けるどのような苦痛に対しても超人的な忍耐力を発揮できる。しかし、我慢できるだけで、痛みがないわけではない。「我慢すべきことは我慢する。自然環境に優しい生活をする。そういうことをね、一人一人が少しずつ心がけていけば、未来はきっと素晴らしい地球、人になります」』
平素より、お気に入り登録、感想・評価、誤字脱字報告、ここ好き!等々誠にありがとうございます。
ここまでお読みいただいた方も気に入っていただければ、お気に入り登録、感想・評価、ここ好き!等、何卒よろしくお願いいたします。
はい。ということで、暴力事件前日譚でした。
最近、アビリティを覚えさせることが楽しくなりすぎて多用しすぎている感がありますが、主人公が強くなることは良いことだよね!(迫真)
さあ、まだコープランク2ですが、須藤との関係性が濃密になりすぎたかなと思いつつ、この展開しか頭で妄想できませんでした汗。
実はもう少し文章表現は濃密にしようと思ったのですが、いざ書こうとすると難しいものですね。
頭の中では、シチュエーションは全く違いますが、ドラえもんが未来に帰ってしまう時の、のび太くんがジャイアンに立ち向かうイメージを思い浮かべながら、楽しく書けましたw
超我慢のテキストは、「時をかける少女」(実写)などを手掛けた映画監督の大林宣彦さんの映画祭のときの名言を使わせていただきました。
何かいい感じの名言ないかなと探していたらあったので、使わせていただきました。
さて、次回か次次回はちょっと個人的に楽しい展開を考えていますが、あいも変わらずゆっくり書いてますのでお許しを。
では、いつもの。
もしも選択肢のコーナー(妄想です)
【いいだろかかってこい。ただし、その頃にはお前は八つ裂きになっているだろうがな】
【さっきから何を言っているんだ?】
かかってこいを選ぶと、刀語の虚刀流ばりの格闘術を使ってしまいます。
本当に八つ裂きになってしまうので、後の展開で不利になってしまいます。
【目には目を、歯に歯を、一発には一発だと殴り返す】
【蚊に刺されたようなものだと平然とする】
殴り返すを選ぶと、原作に近い展開になります。
ただ、一発やられたら、一発とパンクラチオン(日没までに勝負が決まらないと順番に一発ずつ殴り合うルール)ばりに、ある意味面白いバトルが見れます。
以上です。