さて、今回は前編です。
楽しんでもらえれば幸いです。
今回は画像が多く使われていますので、右上の「閲覧設定」から「挿絵表示」を「有り」にしていただくと、スムーズに呼んでいただけると思いますので、推奨設定です。
よろしければ、設定していない方はしていただけると楽しんでもらえるかと思います。
もちろん強制ではありませんので、リンクが面倒でなければそのままお楽しみいただいても読めるようにはしてますので、ご安心下さい。
ついにこの日がやってきた。
今日の放課後、Cクラスが訴え出た事件の審議が行われる。
これまでの約一週間、今回の事件の解決のため、クラスメイトを始め、色々な人に助けてもらった。
皆の気持ちに報いるためにも今日は気合を入れていこう。
そう思い、ネクタイを正し、部屋を後にした。
帰りのホームルームが終わり、放課後になった。
当事者の俺と健、弁護人として鈴音、目撃者として佐倉さん、そのサポートに桔梗、そして、仲間のクラスメイトたちが席を立った。
俺は集まってくれたクラスメイトたちに向き直り、頭を下げる。
「皆、今日まで本当にありがとう。必ずこの審議、勝ってくる」
そう告げると、皆一同に頷いて、「頑張ってね」「必ず勝ってこいよ」と応援してくれた。
健も改めて頭を下げて、気合を入れている。
「行きましょう。遅れると印象が悪いわ」
今日の審議の話し合いは午後4時から始まる。
残り20分ほど、そろそろ移動を始めるとしよう。
5人で職員室に移動する。
職員室まで移動すると、こちらに向けて手を振ってくる人がいた。
星之宮先生だ。
「やっほ~、Dクラスのみんな~。今日はよろしくね~」
先生は審議の場で証言してくれる予定だが、あまり緊張していないようだ。
過去にも似たようなことがあったのだろうか。
「なんだかすごいことになってるね~。もう学年を超えて、学校で話題の的よ~」
「嬉しくはないですね」
「ふふ。相変わらずクールなんだから~、それより……」
星之宮先生はそう言って、俺の耳元に顔を近づけて、「約束忘れないでね」と俺だけに聞こえる声で言ってきた。
「何を、しているのかしら?」
「何、しているのかな?」
鈴音と桔梗がその様子を見て訝しむように声をかけてきた。
俺が「気にするな」と伝えると同時に、茶柱先生が職員室から出てくる。
「む、そろっているな。では行くとしよう」
「は~い先生」
「お前も教員だろう。あまりふざけるなら叩き出すぞ」
「まあこわい! 早く行きましょみんな」
「………………」
頼むから、審議前から新しい審議を作らないようにしてほしい。
とにかく茶柱先生についていこう。
俺たちは階段を上り、4階にたどり着く。
そして、『生徒会室』のネームプレートが付けられた教室の前に来た。
教室の前には、Bクラスの一之瀬と神埼がいた。
「あ、雨くん。それにみんなも、今日は頑張ってね」
「ああ、一之瀬、それに神埼くんもありがとう」
「気にするな。頑張れよ」
「ああ!」
そうして多くの人に見送られ俺たちは生徒会室に入室した。
生徒会室の中に入ると、ブラウンの木目調の壁に、足元から天井まであるガラス窓、奥の壁には学校の校章が
奥の重厚な木製の机には、小柄な女生徒が座っており、その後ろには鈴音のお兄さんが立っている。
隣にいた鈴音が顔を強張らせたのが見えた。
兄がいることは思いがけなかったのかもしれない。
そして、窓側の長机にはCクラスの小宮・近藤・石崎と担任と思われる男性教師が座っていた。
「遅くなりました」
「まだ予定時刻にはなっていません、気になさらずに」
「お前たち、面識は?」
茶柱先生がそう聞いてくるので、首を横に振った。
「Cクラスの担任、坂上先生だ。それから、彼は堀北学、この学校の生徒会長だ。堀北は兄妹だから説明は不要だったな」
「――っ」
茶柱先生の説明に、鈴音は体を強張らせる。
生徒会長は一礼すると、鈴音の様子には、気にも止めずに、何故か俺を睨みつけるように見てくる。
何かしただろうか。
いや、集中しないとな。
俺たちがCクラスとは対岸の壁側の長机の方に着席した。
「ではこれより、先週に起こった暴力事件について、生徒会及び事件の関係者、担任の先生を交え審議を執り行いたいと思います。進行は、生徒会書紀、橘が務めます」
総宣言があり、橘先輩は事件の概要を双方に分かりやすく説明していく。
「――以上のような経緯を踏まえ、どちらの主張が真実であるかを見極めさせていただきます。それでは両者宣誓をお願いします」
「Dクラス雨宮蓮。この場で話すことに嘘偽りをしないことを誓います」
「Dクラス須藤健。嘘はつかないことを誓うぜ」
「Dクラス堀北鈴音です。本日弁護を行うにあたって虚偽行為を一切しないことを誓います」
こちら側が宣誓すると、Cクラス側も慌てて起立して宣誓を行った。
両者の宣誓が終わると橘先輩は、俺たちの方へ視線を向けた。
「では、まず、小宮くんたちバスケット部2名は、須藤くんに呼び出され特別棟に行った。そこで喧嘩を吹っかけられ、同行していた雨宮くんと須藤くんから殴られたのをきっかけに喧嘩になったと主張していますが、それは本当ですか須藤くん?」
橘先輩の問いに対して、俺は健に「礼儀正しくな」と軽く伝えると、健は頷いてから答えた。
「それは嘘だ、です。俺が呼び出されて、蓮に相談して一緒に来てもらって、特別棟に行ったん、です」
健が不慣れながらも丁寧な言葉遣いを意識してそう答えた。
「では須藤くんにお聞きします。事実を教えていただけますか? 口調は言いづらいのであればいつも通りでも大丈夫です」
「あざっす。……あの日、部活の練習をした後、小宮と近藤に特別棟に呼び出されたんだよ。そのことに引っかかって、蓮に相談したんだ。それで先に呼び出された場所について、その後やってきたこいつらが、蓮を連れてきたことをビビりと言ってきたり、俺がバスケ部でレギュラーになりそうなのが気に入らないとか、俺たちDクラスのことを『不良品』と言ってきたりしてよ、挙句の果てには俺にバスケ部をやめろとか言いやがった」
だんだん話していて思い出したのかイライラした様子で健がそう話す。
それに対して、
「それが嘘です。僕たちが須藤くんに呼び出されて、気に入らねえと言われて喧嘩を売られたんです」
「ふざけんなよ小宮!」
健は苛立ちのあまり、思わず大声を出してしまう。
「少し落ち着いて下さい須藤くん。今は双方の話を聞いているだけですので。小宮くんも途中で口を挟む行為は慎んで下さい」
「す、すんません」
「すみませんでした」
橘先輩に言われて、双方素直に謝る。
「双方共に呼び出されたと主張しており、食い違っています。ですが共通することもあるようですね。須藤くんと小宮くんに近藤くんの間に揉め事があったんですね?」
橘先輩の質問に対して、小宮が発言する。
「揉め事というより、須藤くんが一方的にからんでくるんです。彼は僕らよりバスケが上手いので、それを自慢してくるんです。僕らも負けないように練習していますが、辟易していたのも事実です。そういう意味では度々ぶつかっていました」
「小宮の言ってることは何一つあってないぜ。こっちが練習に集中しているのに、小宮たちがその邪魔をしてきやがったんだ」
「須藤くんは嘘をついています」
「どっちがだよ」
事実は健の方だが、第三者から見れば平行線の主張になってしまっている。
「両者の言い分がこれでは、今ある証拠で判断していかざるを得ませんね。このことについて、何かありますか?」
俺は…………、
▶【『小宮と近藤の不満』について言及する】
【何もしない】
SET!
▶《小宮と近藤の不満》
「橘先輩、Dクラスから事前に情報提供の証言を提出させていただいていることがあります。小宮と近藤は、以前から部活中に健が、須藤くんがレギュラーになるかもしれないことに対して不満を漏らしていました」
俺がそう言うと、小宮と近藤は一瞬ピクリと反応する。
橘先輩は資料を確認して、頷く。
「確かに、匿名での情報提供として同様の証言があったことが、提出されていますね」
橘先輩の言葉に小宮と近藤は苦い顔をする。
しかし、
そう言ったのは、Cクラスの担任の坂上先生だ。
「情報の提供元は、匿名でしょう? それにどれほどの信憑性があるのでしょうか」
「火のないところに煙は立たないとも言いますが?」
「しかし、それはただの噂にすぎないでしょう。それに校内に貼ってあるポスターですが、有力情報にはポイントを支払うとも書かれていましたね。大方ポイント欲しさに嘘の証言を寄せたのでしょう」
坂上先生は、ニヤついた笑みを浮かべてそう言った。
「Dクラス側はこれについて、他に証言や証拠はありますか?」
「…………いえ、ありません」
「では、坂上先生がおっしゃることにも一理あると考え、異議を認めます」
橘先輩がそう言うと、Cクラス側の表情が明るくなる。
反して健は悔しそうな顔をして、茶柱先生は目をつむり聞きに徹している。そして、鈴音は、顔を伏せている。
……鈴音? まさか、生徒会長がいることで、緊張しているのだろうか。
その様子を見てか、生徒会長が「はぁ」とため息をつく。
そして、そのまま発言をする。
「どうやら議論するまでもなかったようだな。Cクラスは全員負傷しており、Dクラスは負傷1名、無傷1名、どちらがより害したかは一目瞭然だ」
生徒会長の話を聞いて、Cクラスはさらに顔を明るくする。
だが、それに対して俺は、
「生徒会長。いくら何でもそれは暴論です」
「ほう。ならば、何か証拠があるということか」
「はい。それに伴い証言者を一人呼びたいと思います」
SET!
▶《星之宮先生の証言》
そう言って、俺は外で待機している星之宮先生に声をかけ、入室してもらった。
そして、Dクラス、Cクラス、生徒会の丁度中央に座るように促される。
星之宮先生に対して、俺は問いかける。
SET!
▶《蓮の保健室の利用履歴》
「星之宮先生。事件当日の放課後に、意識を失った俺を須藤くんが保健室に運んできた。これは間違いありませんね」
「ええ、そうよ~。あの時はびっくりしちゃったわ。痣だらけの雨宮くんがいきなり運ばれて来たんですもの」
「ありがとうございます。星之宮先生の証言から俺がその日に保健室を利用したことと須藤くんが事の経緯について星之宮先生に話をしています。利用履歴については、すでに提出しているかと思います」
「確かに、提出されています」
橘先輩がそう言うので、さらに俺は続ける。
「では、その日、この場にいる小宮たちは、保健室を利用しましたか?」
「いいえ~。小宮くんたちは利用してないわね~」
「小宮たちに聞きます。なぜ、負傷したのならすぐに手当を行える保健室に行かなかった?」
そう俺に問い詰められ、小宮たちは「それは……」と言いよどむ。
「保健室を利用する必要がなかった。違うか?」
「そ、それは! お前達が使ってると思ったからだ! 暴力を振るわれた相手がいるところに行けるわけ無いだろ!」
「なるほど。つまり、怪我を治療するよりも、俺たちと鉢合わせになるかもしれないという思考ができるぐらいには余裕があったというわけか」
「なっ――! そ、それは……」
「雨宮くんの聞き方には有利になるような誘導的な印象を受けます」
坂上先生がそう発言すると、橘先輩は頷く。
「異議を認めます。雨宮くんは、憶測での物言いはしないようにしてください」
「わかりました。では、小宮たちは、どこで治療をしたんだ?」
俺が橘先輩にそう注意を受けて、改めて問いただす。
「び、病院だ! 次の日、病院に行って治療してもらったんだ!」
それに対して、石崎が答える。
病院か、なら、
SET!
▶《蓮の診断書》
「病院か、なら診断が出たはずだ。どのような診断だったんだ?」
石崎はぐぅと苦虫を噛んだような顔をした後に、「打撲だ、打撲」と投げやりに答える。
それに対して、「全治は?」と聞くと、「い、一ヶ月だ!」と答える。
「一ヶ月? 随分重症だ。では、診断書はあるのか? 俺の診断書は提出されてますよね橘先輩」
「ええ。受理しています」
橘先輩は、俺の問いに首肯する。
「それでお前たちの診断書は?」
「……も、もらい忘れただけだ」
なるほど。苦しい言い訳だ。
「なるほど。では、正確な診断は担当した医師に聞いてみないとわからないな。担当医の名前は?」
「そ、そんなの一回行ったきりで覚えられるかよ!」
「なら、その負傷をどうやって証明するんだ。こちらは星之宮先生の証言と医師の診断書を用意したぞ」
「ぐぐぐ……」
俺の問いに対して、石崎は苦しそうな表情をする。
しかし、坂上先生が挙手をして、それを制する。
「確かに雨宮くんが言うように、石崎くんたちは負傷についての『診断』は証明できないかもしれませんが、明らかに暴行を受けた痕があるではありませんか、見てください石崎くんの顔にできている青タンを。今回の件については、診断があるかどうかではなく、『負傷の有無』が明らかなら十分な証拠になると考えます」
「坂上先生は『負傷の有無』を主張されていますが、それはCクラスの主張の場合にのみ十分な証拠になりえるのであって、Dクラス、こちらの主張の立場であれば、『いつ負傷したのか』が問題になります。そのための証拠をこちらは提出しています。もし、この主張に異議があるのであれば、Cクラスからの証拠提出を求めます」
「ぐぅぅ、ならば、そちらこそ、自分たちで負傷を作ったのではないかね? そちらこそ、喧嘩をしたにしては、保健室の利用履歴や診断書などを用意するなど、随分冷静ではないですか?」
坂上先生がそう言ってくるが、俺は……、
「坂上先生、先程ご自身が言ったように、誘導するような憶測はやめてください。それに、先生の憶測は矛盾しております。そもそも、Cクラスの主張は、こちらが喧嘩をふっかけ、喧嘩をしたという内容です。であれば、多かれ少なかれ負傷をして、保健室に行くことに矛盾はありません。それに診断書については、星之宮先生からの指示で貰ってきたものです。ですよね先生?」
俺がそう聞くと、星之宮先生はニッコリ笑う。
「ええ、そうよ~。通院が必要な負傷があった場合は、後遺症の心配もあるから、生徒の安全管理のために、提出してもらうのよ。……坂上先生も知ってると思いますけど~?」
そう言って星之宮先生は、疑いからかうように坂上先生を見る。
坂上先生はぐうの音も出ない様子で、顔をしかめる。
「雨宮くんの異議を認めます。坂上先生、憶測での発言は控えて下さい」
橘先輩がそう言うと、坂上先生は顔をしかめながら「わかりました」と一言。
「では、Cクラスは、負傷についての証言、証拠の提出はありますか?」
「……ありません」
橘先輩の問いに対して、石崎はそう答えた。
「わかりました。では、他に質疑はありますか? なければ、決議に移りますが」
まだ、こちらの証拠を提示しきれていない。
だが、このまま俺が進めていいのだろうか……、
▶【鈴音の様子が気になるな】
【このまま、証拠を出していこう】
先程から、黙り続けている鈴音が気になる。
ふと、そちらを見ると、先程とは違い、顔を上げて俺の方を見ている。
その目には、不安、期待、焦りなどの複雑な感情の色が見える。
鈴音は生徒会長、兄との予想外の対面で、色々と考えてしまったのだろう。
兄の前で上手くできるのか、ヘマしないだろうかなど。
だからこそ、行動に起こせないのかもしれない。
なら、俺がその理由になってやればいい。
「鈴音」
「え?」
「俺を手伝ってくれ。お前が頼りだ」
「――っ!」
俺がそう伝えると、鈴音は先程とは打って変わって、目に力を宿す。
そして、凛と立ち上がり、堂々とした佇まいで、発言した。
「私から、質問させていただいてもよろしいでしょうか」
鈴音がそう言うと、橘先輩は生徒会長の方を見る。
「構いませんか? 会長」
「許可する。だが、次からはもっと早く答えるように」
許可が降りると、鈴音はCクラスの方を向いて発言を始めた。
「では、先程あなたたちは、須藤くんに呼び出され特別棟に行ったと言いましたが、なぜ呼び出されたと思いますか?」
Cクラス側はまたかと呆れたように答える。
「俺と近藤を呼び出した理由は知りません。ただ、部活が終わって着替えている最中に、今から面を貸せって言われて……。俺たちが気に入らないとか、そんな理由じゃないでしょうか。それがなんだっていうんですか?」
「では、どうして現場には石崎くんもいたのでしょうか」
「それは……用心のためですよ。須藤くんは暴力的な噂がありますし、体格も大きいし、いけませんか」
「つまり、暴力を振るわれるかも知れないと、思ったわけですね」
「そうです」
SET!
▶《石崎の中学時代の噂》
「なるほど。それで中学時代、喧嘩が強かったという石崎くんを用心棒代わりとして連れて行ったんですね」
「自分の身を守るためですよ。それだけです。石崎くんが喧嘩が強いなんて噂は知りませんでした。ただ、頼りになる友だちなので連れて行っただけです」
小宮はまるで用意された回答のようにスラスラと応答していく。
「それに、こちらが石崎くんを連れてきたというなら、そちらも雨宮くんを連れてきたじゃないですか」
「ええ、そうですね。しかし、そちらが2人に対して、須藤くんがもう一人連れてくるのは、自然な流れだと思います。ですが、そちらは須藤くん一人に対して、三人を連れ立ってきた。いくら須藤くんが喧嘩が強いと仮定しても、過剰な戦力だと考えます」
「ぐっ……、しかし! それはこちらに喧嘩の意志が無かったからです! 数で対応すれば、須藤くんが不用意に暴力を振るわないだろうと考えたからです!」
「その供述には矛盾があります。喧嘩の意志がなかったのなら、なぜ雨宮くんだけが負傷しているのでしょうか」
「そ、それは、雨宮くんが先に仕掛けてきたからです。それを仕方なくやり返したに過ぎません。正当防衛です!」
「それは、おかしいと考えます。雨宮くんが提出した診断書には、複数箇所の打撲と軽度の筋挫傷が認められています。正当防衛と主張するにはいささか過剰防衛だと考えます。それに須藤くんが無傷なのもCクラスの主張ではおかしいと考えます。雨宮くんがこれほどの負傷を負っているのに、須藤くんは無傷です。双方が喧嘩をしたとして、須藤くんだけが何の負傷も負っていないのは、Dクラスの主張通り、こちらこそが喧嘩の意志がなかったからに他なりません」
「ぐぐ……」
鈴音が状況整理をし、質疑を進めると、小宮は渋い顔をした後、「ああああ!」と大きく叫んだ。
「何度も言ってるだろ! 須藤は喧嘩っぱやくて! 俺たちが被害者だ! 一方的にそっちから喧嘩を吹っかけてきたんだよ!」
小宮の豹変っぷりに隣の近藤が「小宮!?」と驚きの声を上げる。
それとは対象的に鈴音は冷静に言葉運びを行う。
「では、なぜ須藤くんは、あなたたちを特別棟なんて場所に呼び出したんでしょうか?」
「そんなの決まってんだろ! あそこは
SET!
▶《特別棟には監視カメラがない》
「小宮くん。どうしてあなたは、特別棟は人気がなくて、監視カメラがないと知っているんですか?」
鈴音がそう問い詰めると、小宮は「ぐげっ」と変な声を出し、油汗を垂らしながら答える。
「そ、それは、放課後特別棟は使われない、のと、監視カメラが、ないことは、有名だからだ!」
「それはどうでしょうか。私たち1年生はまだ特別棟を使うような授業はほとんど行われていません。それに、監視カメラがないことが有名と言いましたが、私たちがそれを知ったのは、この事件がCクラスに訴えられてからです。それほど、有名とは思えません」
「有名だろ! 有名! 有名なんだよ!」
「落ちついて下さい小宮くん。冷静に堀北さんの質疑に対して答えて下さい」
橘先輩が見かねてか、たしなめるようにそう伝える。
小宮はそう言われて、少し落ち着きを取り戻す。
しかし、顔は挑戦的に歪めて鈴音に向けて言葉を放つ。
「と、とにかく! そちらが何を主張しようが、こっちは三人怪我をして、そっちは一人。明らかにこちらの方が被害を被っているだろ!」
それに対して、鈴音は動揺せずに、冷静に答える。
「つまり、あくまでCクラスは、自分たちが被害者でこちらが加害者と主張するのね」
「そ、そうだ!」
「わかりました。では、Cクラスの主張に虚偽があることを証明します。橘先輩。もう一人、証言をしてくれる目撃者を呼んでもよろしいでしょうか」
「わかりました。認めます」
鈴音は一礼を返し、ドアの向こうで待機している佐倉さんを呼びに行った。
SET!
▶《佐倉愛里の証言》
「では、証言者はお名前を教えてください」
「は、はい。1年Dクラス、佐倉、愛里です」
佐倉さんは緊張しているのか。少し歯切れが悪い。
そして、佐倉さんが自分の名前を述べると、坂上先生が挑発的に「目撃者というので何事かと思いましたが、Dクラスの生徒ですか」と失笑した。
「何か問題がありますか? 坂上先生」
「いえいえ、どうぞ進めて下さい」
あくまでも余裕を見せるように、坂上先生は立ち振る舞う。
鈴音は坂上先生に一瞥をくれると、佐倉さんに向き直る。
「では、証言をお願いしてもいいかしら、佐倉さん」
「は、はい……、あの、私は…………」
そして、場が静寂する。
10秒、20秒と時間が経ち、佐倉さんは自分の手をぎゅっと胸元で結び、何かを発しようと口は開いているが、声が出ない様子だ。
頑張れと俺は心の中で佐倉さんを応援する。
しかし、佐倉さんは緊張のあまり、肩で呼吸をして、目をぎゅっと閉じて、辛そうにしている。
「どうやら、彼女は目撃者ではなかったようですね。これ以上は時間の無駄です」
坂上先生が挑発的にそう言う。
それに対して、鈴音は「まだ、何も彼女は発していません。坂上先生、証言中の割り込みはやめて下さい」と伝えると、坂上先生は苛立った表情になる。
「なら、なぜ彼女は黙り込んでいるのですか? 大方、クラスのために担ぎ出されたといったところでしょう。こちらはそのような茶番に付き合う時間はないのですよ。本当に目撃したというならさっさと証言したらどうだね。どうせ、ありもしないことを言うのだろう」
「橘先輩。今の坂上先生の発言は、証言者を侮辱する内容を含んでいます。即刻注意の促しを求めます」
「なっ!?」
俺が坂上先生の言葉に対して即座に異論を唱えると、坂上先生は驚いたような表情をする。
「わかりました。坂上先生、発言する内容は慎重に選ばれるようにしてください」
「ぐっ……わかりました」
坂上先生は橘先輩の言葉を受けて、苦虫を噛んだような顔をする。
俺は佐倉さんの方に向き直り、語りかけるようにして話す。
「佐倉さん」
「…………」
佐倉さんは、緊張した様子でこちらを見る。
「大丈夫だ。俺たちが側にいる」
「――っ!」
俺が一言そう伝えると、佐倉さんは、スーッと大きく深呼吸をして、次の瞬間、目を大きく開く。
「わ、私は見ました! Cクラスの人たちが、雨宮くんに暴行するところを!」
そして、大きくそう言って切り出す。
「最初に、Cクラスの人が雨宮くんに殴りかかりました! その後に、他の人も一緒になって雨宮くんを殴っていました! 私が見ていた限り、雨宮くんはやり返したりなんかしていません!」
さっきとは打って変わった様子に、場の参加者たちは圧倒される。
そして、力強いその言葉は、本当に目撃していたことを裏付けるような気迫だ。
しかし、それに対して、坂上先生が挙手をする。
「どうしました坂上先生」
「一つ彼女に質問をしたいのですが」
「許可します」
そう許可が出ると坂上先生は眼鏡をくいっと上げる。
「佐倉くんと言ったね。先程は失礼をした。だが、一つ君に尋ねたい。君は目撃者として名乗り出たのが随分と遅かったようだが、それはどうしてかな? 本当に見たのなら、もっと早く名乗り出るべきだったはずだ」
「そ、それは……、ま、巻き込まれたくないと思ったからです」
「巻き込まれたくない? なるほど。ではどうして今になって、名乗り出たのですか?」
坂上先生の追求に対して、佐倉さんは言いよどみそうになる。
そして、鈴音がその点をフォローしようとした矢先、佐倉さんが立ち上がる。
「最初は、最初は巻き込まれたくないと思いました。昔から、私は、人と話すのが苦手だから……、目撃者として名乗り出ても、みんなから問い詰められて、きっと、上手く説明できないって、それでもっと嫌われたり、目立って、嫌味を言われたらどうしようって、……でも、でもクラスのみんなが! ……雨宮くんたちのために、頑張っているのを見て、……私も、私も力になりたいと思ったんです!」
佐倉さんは力強く、ただ、本当に思ったその素直な決意を堂々と告げた。
その一人の少女の真摯な発言に、この場に誰もが耳を傾けている。
だが、坂上先生は冷や汗をかきながらも、反論をする。
「し、しかしだね。状況的に名乗り出たのが遅かったということは、Dクラスで口裏を合わせていたと勘繰られても仕方ないのではないかね? もし、違うというのであれば、君がその場所にいたという証拠を見せてもらわねば」
「証拠ならあります!」
「なぁ!?」
佐倉さんは、一枚のSDカードを取り出して、生徒会の方に提出をした。
渡された橘先輩は、生徒会長に頼み、PCにSDカードを差し込んだ後、何らかの操作をして、生徒会室に備え付けのスクリーンを天井から降ろした。
そして、唯一あったフォルダを操作すると、そこにはいくつかの写真が入っていた。
「私は、写真を撮るのが好きで、いつも人気のない場所で撮っています」
佐倉さんがそう言うのと同時に、写真がアップされる。
そこには、自撮りと思われる姿で、眼鏡を外し、髪をおろした、笑顔で写真に映っている佐倉さんがいた。
隣りに座っている健が「かわいい……」と思わず呟いてしまうような、可憐な写り姿であった。
そして、しばらく写真を次に次にと進めていると、特別棟の入口で撮られたであろう写真が映っていた。
日付は事件当日と同じ日付だ。
「佐倉さんがこの日に特別棟にいたことは、この写真からも明白かと思います」
鈴音がそう言うと、坂上先生は顔をしかめながらも、
「これは何で撮影したものだね?」
「で、デジタルカメラです」
「確かデジカメは容易に機械内の日付の変更ができたはずだ。事件後にこの写真を撮った可能性もあるはずです」
「……しかし、坂上先生。この写真は違うと思いますが?」
生徒会長がそう坂上先生に告げると、一枚の写真がスクリーンに写りだされる。
「こ、これはっ――!?」
そこに写っていたのは、自撮りをして顔が写っている佐倉さんと、奥の方で、まさに俺が石崎に殴られている瞬間の写真だった。
「これで……私がそこにいたことを、信じてもらえたと思います!」
「ぐうぅぅぅ」
坂上先生は、辛酸でも舐めさせられたかのような表情をする。
「ありがとう、佐倉さん」
鈴音が佐倉さんにそう声をかけると、佐倉さんは力強く頷いて返す。
「ご覧の通り、佐倉さんが事件当日、目撃をしていたことを証明できたかと思います」
「確かに。生徒会としてもこれだけの証拠があれば、佐倉さんの証言には妥当性があると判断できます」
鈴音の発言に、橘先輩も同意を示す。
坂上先生がそう言って立ち上がる。
「坂上先生……、どこに異議を唱えるところがあるのですか?」
鈴音がそう言うと、坂上先生は、少し髪が乱れながらも、眼鏡をクイッと上げる。
「確かに、佐倉くんが事件当日に現場にいたことは認めましょう。しかし!」
そう言って、坂上先生は写りだされた写真を指差す。
「先程、佐倉くんはCクラスの生徒から殴りかかったのを見たと証言しましたが、この写真を見る限り、彼女は自分を被写体に写真を撮っている。つまり、彼女は殴りかかったときを見ていないことに他なりません!」
確かに、写真を見る限り、この瞬間を佐倉さんは見ていないことになる。
「これは証言が不正に行われていると考えます」
「坂上先生、お言葉ですが、それはいささか無理があるのではないですか?」
「いいえ、彼女が殴りかかった方を見ていないのであれば、この写真はやり返した際の写真とも考えられます。つまり、どちらが手を出したかの証拠にはなりません」
「そ、それは……」
坂上先生は間髪入れずに続ける。
「それに、先程の佐倉くんの証言にも疑問があります。あなたは、『私が見ていた限り』と言いましたが、一部始終すべて見ていたのですか?」
「そ、れは、その……」
「どうなのですか?」
「ぜ、全部は見ていません。途中で、怖くなって、巻き込まれたくなくて、逃げてしまったので」
それ聞いて、坂上先生は眼鏡をクイッとさらに上げる。
「では、こうとも考えられます。まず、殴りかかってきたのは、雨宮くんで、その後、石崎くんがやり返した。佐倉くんの視点からは雨宮くんが一方的にやられているように見えましたが、佐倉くんがいなくなった後に、須藤くんが加勢して、こちらの生徒に危害を加えたとも」
「そ、そんなことありません! 確かにCクラスの人が雨宮くんに暴行を加えていました!」
「ええ、佐倉くんが見たように喧嘩ですから、当然こちらの生徒もやり返したことでしょう。しかし、それなら、なぜ、君は証言で『石崎くんから殴りかかったのを見た』と嘘の証言をしたのですか?」
「う、嘘なんかついていません! 確かにこの写真の時は見ていなかったかもしれませんが、その後のことに間違いはありません!」
「ならば君は最初から『殴りかかったのはどちらか分からない』としっかりと話してから証言をするべきであった。違いますか?」
「そんな、私、嘘なんて、ついて、いません……」
そう言って、佐倉さんは泣きそうになってしまう。
俺はそれを見て、胸の奥から今にも溢れ出しそうな感情を、手をきつく握りしめることで我慢する。
健も鈴音も坂上先生の言い分に食って掛かりたい気持ちだろうが、我慢しているようだ。
そして、坂上先生は続ける。
「一つ和解の提案があります。確かにDクラスから多くの証言、証拠は出ましたが、Dクラスの一方的にやったというには決定打がないと考えられます。ここは、双方痛み分けということで、こちらのCクラスの生徒は三名は、やり返したとは言え、暴力は暴力、停学を一週間、そちらのDクラスの生徒二名も停学を一週間としませんか。こちらのほうが、一名多い分こちらのほうが損害は大きいですが、そこは飲みましょう。プライベートポイントもクラスポイントの変動もない良い提案だと思うのですが、いかがですか茶柱先生?」
そう坂上先生に問われ、一向に沈黙をしていた茶柱先生はここに来て口を開く。
「私としては、クラスポイントに変動がないのであれば、その提案を断る理由はありません」
「先生!?」
「どういうことだよ!?」
茶柱先生の言葉に鈴音と健がいよいよ我慢できずに食いかかる。
「須藤、目上の者には敬語を使えと何度も言ったはずだ。学校側もこれまでのお前の素行については、確認が取れている。決定的な証拠がない分、坂上先生の提案は間違っていないぞ。普段からの素行がこうした場で不利になることを学べ」
「ぐっ! でもよ! 俺は、そうかもしれねえが! 蓮は違うだろ!」
「ならば、決定的な証拠を用意するんだな」
「……ちくしょう」
そうして、健は項垂れる。
その様子を見て、審議の場に静寂が訪れる。
そして、数秒後、橘先輩が発言する。
「では、両者もう証言・証拠の提示はありませんか? 無いのであれば、決議に移りたいと思います」
その発言を聞いて、Cクラスの生徒はホッとした様子であり、反してこちらは、悔しさが隠しきれない。
これで本当にいいのか?
まだ、できることはないのか?
ピロン
その瞬間に電子音がなった。
音の出処は俺のスマホからだった。
「すみません。俺のです」
そう言って、スマホを確認すると、メッセージが1件入っていた。
送り主は、外村くんだ。
そして、内容を確認すると、………………俺は目に力を宿した。
「……それでは、提示はないようですので、これで――」
「どうしましたか雨宮くん?」
「……もう一つ、今、証拠の提出をしたいと思います」
その発言に、Cクラスだけではなく、他の参加者にも動揺が走った。
「わ、わかりました。では提示をお願いします」
「はい。生徒会長、俺のスマホをPCにつなぐことはできますか?」
「……いいだろう。貸せ」
俺は生徒会長にスマホを手渡して、PCに繋いでもらう。
そして、外村から来たメッセージに添付してあった映像を再生してもらった。
SET!
▶《外村くんから送られてきた動画データ》
映像が再生され始めると、まず最初に、「SOTOMURA PRESENTS」という謎のロゴが現れ、次に、「Cクラス暴行事件! ノーカット版!」という謎の文言が現れた。
そして、映像は特別棟の階段からCクラスの三人が上がってくるところから始まった。
『おい須藤! てめえ一人で来いって言ったよな!』
『んだよ小宮。なんで俺がてめえらの言う事聞かねえといけねえんだ!』
『っは! 大方ビビって助けて~って泣きついたんだろ? マジで見かけ倒しだな!』
『んだとこら!』
『健。安い挑発だ。のるな』
『っち、そうだった。悪りぃ蓮』
『大丈夫だ。気にするな』
事件の日の鮮明なやり取りがその映像から窺える。
ここまでの再生で、Cクラスの小宮、近藤、石崎が慌てだす。
「おい! なんだこの映像はよ!」
「ふざけんな! 偽物だ!」
「さっさと消せよ!」
三者三様に焦りを露わにする。
「映像は途中だ。Cクラスは静かにしろ」
生徒会長がそう告げると、気圧されて、Cクラスの三人は口を閉じる。
『ってかお前誰だよ。部外者が勝手に割り込んできてんじゃねえよ』
『俺らの問題なんだけど、帰ってくんない?』
『Dクラスの雨宮蓮だ。悪いがお前たちの要求は飲めないな』
『はあ? 意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ』
『健は俺の友だ。友のために俺はここにいる。だから部外者ではない』
『頭……イカれてんのか?』
『なんとでも言え』
『はっ。やっぱりDクラスだな。話が通じねえや』
『どうでも良いがもうすぐ下校時間だ。いい加減、要件を話してくれ』
「ふむ。ここまではDクラスの証言通りだな」
「ええ、そうですね」
生徒会長と橘先輩がそう言いながら、見守っている。
『っち。まあいい。おい須藤!』
『……んだよ』
『Dクラスのてめえがバスケ部でレギュラーに選ばれるなんて、どんな卑怯な手を使ったんだよ?』
『あ? 何いってんだ?』
『お前みたいな「不良品」が、バスケ部にいるとこっちも評判が落ちるって言ってんだよ!』
『……ふざけてんのか?』
『だからよバスケ部辞めろよ? 不良品は不良品同士で勝手によろしくしてろよ』
「ふむ。須藤の証言と一致したな」
「はい」
生徒会長と橘先輩はしっかりと状況を確認してくれている。
『……てめぇ』
『おっ? やんのかよ? いいぜバスケ部辞めねえって言うなら、そう思えるようにしてるよ。なあ、石崎』
『ああ、いいぜ。こいつらはバカだから、痛い目見ねえと分かんないだろ』
映像に映し出される石崎は余裕綽々な表情だが、今目の前にいる石崎は真っ青な表情をしている。
『お前らはさっきから何を言っているんだ?』
『あ?』
『俺達は話し合いに来たんだ。それがさっきから、Dクラスだからレギュラーになるのが気に食わないとか、Dクラスだから部活を辞めろとか、挙句の果てには、ケンカを仕掛けてくる。さっきからお前らがやってることは、まるで論理が破綻している。散々うちのクラスのことをバカにしているが、お前らも相当なものだぞ』
『んだと!?』
『健がバスケでレギュラーを取りそうなのは、誰よりも練習して、真摯にバスケに打ち込んだからだ。部活はそもそもクラスは関係ないし、そこにクラスの評価を持ち込んでいるのはそちらの身勝手な誤認だろ。お前らがやっていることは、自分が努力しないことを棚に上げて、気に入らないという自分勝手な言い分にすぎない。話があるなら、もっとまともな話をしてくれ』
なんだか改めて自分の台詞を自分で聞き返すと、……とても恥ずかしくなってきた。
それとは反して、健は嬉しそうに、鈴音と佐倉さんは、おおっ!と羨望するように見ているし、茶柱先生もさっきまでの無関心はどこへやらといった感じで食い入るように見ている。
そして、
『ごちゃごちゃうるせえんだよ!』
「きゃっ!」
石崎が映像の中で近づいてきて、拳を振り上げ、殴り掛かり、殴られたと判断できるような殴打音が入った。
思わず、佐倉さんが目をつぶってしまうほどの迫力の映像は、石崎から殴りかかってきた決定的な証拠だ。
「……ふむ」
「これは……」
生徒会の二人がそうつぶやくのを余所に映像は続く。
『やめろ健』
『蓮! でもよ!』
『俺との約束、……忘れたか?』
『――っ』
『蚊に刺されたようなものだ』
『あんだと!?』
『こんな意思も信念も何もこもっていない拳は、俺には通じない』
……は、恥ずかしいいぃぃ!!
なんだこの時の俺は!
俺が羞恥に悶えていると、鈴音は「……素敵っ」、佐倉さんは「カッコいいです」、健は「さすが蓮だぜ!」とほぼ同時につぶやく。
俺は生徒会長に、「も、もう、どちらが先に仕掛けたか分かってもらえたかと思いますので、映像を「却下だ」ぉぉぉ……」
と一蹴された。
映像は続く。
『…………いいぜ、ならどこまで耐えられるか、試してやるよ!』
『バキッ』
『舐めてんじゃねえぞ! おらぁ!』
『ドゴッ』
『いい加減っぶっ倒れろ!『ベキッ』――があああ! 痛っつ!』
『なんだ。自分から殴っておいて軟な拳だな』
『ぶっ殺す! 小宮! 近藤! お前らも手伝え!』
『お、おう!』
『死ねや!』
『いい加減に……『やめろ健』』
『どうしてだよ蓮!』
『お前はプロを目指すんだろ? なら、ここは絶対にこらえろ。もし手を出すなら、俺の覚悟を無駄にするなら、例え健でも俺は許さないぞ』
『蓮……、けどよう……、けどよう!』
「蓮くん……」「うお、やべえ、涙が……」「す、すごいです」と鈴音と健と佐倉さんがつぶやく。
も、もう許して……、
『カッコつけてんじゃねえよ!』
『さっさとくたばれ!』
『ぐぅ!』
『おら! まだ終わんねえぞ!』
『――っこい』
『ぅらあ!』
その後、あまりにも一方的な暴行の映像が、10分ほど流れる。
映像中、佐倉さんはあまりの映像に手で顔を伏せて、鈴音も見てられないと云わんばかりに痛々しい顔を映像から背け、生徒会の橘先輩もしっかりとは見ていられないといった様子だった。
それに反して、生徒会長と茶柱先生は映像をしっかりと見つめ、健はすでに男泣きを始めている。
そして、
『はっー。はっー。な、何なんだ、こいつは』
『マジ、……かよ……』
『痛てぇ、もう手が痛てぇよ……』
『なんだよ……何なんだよ――コイツは、マジでよお!』
『……、どうした? 俺は、まだ、立って、いるぞ? もう、終わりか?』
『く、くるな! 来るんじゃねえよ!』
『キモいんだよ!』
『……もう、暴力は、終わりか? なら、……対話の、時間、だな。話し合おう。……ほら、どう、したら、もう、こんなバカなことを、しない。……お前らは、……誰に言われて、こんな、ことをしている? なにを、している? ほら、しゃべって、みろ。聞いて、やる』
『くるな! くるんじゃねえええ!』
『――ふっ!』
『があああ! ぐがあ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛――』
映像はフラフラと揺られていて、とても見づらいが、はっきりとCクラスの連中を映している。
『二度とするな』
『ひっ!』
『か、帰るぞ!』
『やってられっか!』
そして、逃げ去るCクラスの連中が映って、これで終わり『蓮!』じゃないだとぉおおお!
『お前ってやつは! 無茶しやがって――』
『ふっ。なんて顔してるんだ』
『うるせえ! なんでだよ。いくらダチだからって、ここまでする必要はねえだろ!』
『そうか?』
『そうだろ! 自分だけこんなになっちまってよぉ。……すまねえ。すまねえ』
『……謝るな健』
や、やめ、それ以上は、やめ、
『俺が、こうしたいと思ったんだ。こんなくだらないことで、お前の夢を邪魔されるのが許せなかったんだ。頑張っているやつの邪魔をするあいつらにムカついたんだ。それだけだ』
『蓮。お前ってやつは、本当によぉ。本当によぉ』
『情けない声を出すな。この我慢比べ。俺達の勝ちだ。胸を張って帰ろう』
『おう……、おう。あんがとな。マジであんがとな』
『泣くな健。勝者の凱旋だぞ』
『馬鹿野郎……、これは嬉し涙だっつの』
『そうか。なら仕方ないな』
そして、映像はなぜかエンディングクレジットが始まり、ほどほどに雰囲気の良いBGMが流れ始める。
………………
…………
……
(ああああああああああああああああ!!!!)
恥ずかしすぎて、死んでしまいそうだ!
改めて、自分の言動見せられて、俺は言葉もなく、内心で悶え苦しむ。
しかし、それに反して、鈴音、佐倉さん、橘先輩はどこからかハンカチを取り出して涙を拭いているし、健はボロボロと男泣きが止まらない様子。茶柱先生も顔は背けているが、目尻に涙が見える。
「ぶえええん。れんぐ~ん」
「ぶえええん。あめぐ~ん」
そして、何故か、桔梗に、一之瀬、それに神埼がいつの間にかいて、退出したはずの星之宮先生が、「男同士の友情ね! いいもの見たわ~」と感極まっている。
「い、いつのまに!」
「あ、いや、生徒会室から物騒な声が聞こえてきたからな。何事かと思ってな」
俺の驚愕の声に、神崎が冷静に答える。
え、じゃあ、一部始終見られていたのか、この恥ずかしい謎編集された映像を……、あががががが……。
坂上先生が慌てて立ち上がる。
「このような映像を偶然録画したとでも言うのですか? 用意周到すぎます! これは罠に違いない! そして、なぜこのタイミングでなんですか! もっと早く提出できたはずだ」
俺は立ち上がり、坂上先生に指をさす。
「この映像は俺が操作を誤って偶然撮れたものです。その証拠に、外村くんからメッセージの文面を読めば、動画サイズが大きすぎて、リサイズに時間がかかったことと、必要があれば、元の動画、スマホのストレージが一杯になるまでの動画を提出する用意があります」
「たしかに、外村という生徒からのメッセージの文面にはそう書かれている」
「ぐぅぅ! なら、このような編集を加えられた動画は証拠としては認められるか! 先程の映像も編集が加えられたに違いない!
鈴音が立ち上がり、坂上先生に指をさす。
「確かに編集はされていますが、この短期間で、小宮くんたちの映像や音声をこれほどまでに編集できるとは思えません。それに蓮く、雨宮くんが言った通り、元の動画データを見れば済む話です」
「確かにその通りだ。だが、その必要はないと生徒会は考える」
「そ、そんな証拠不十分での決議など認められません!」
その言葉に、俺と鈴音はお互いに目を合わせ、頷き合う。
そして、坂上先生に指をさす。
「坂上先生。証拠不十分とおっしゃいますが」
「そちらのCクラスは全く証拠を出していない」
「こちらが提示した証拠に対して、先程から先生は色々とご指摘されていますが」
「この場で最も不誠実で、辻褄があっていないのはそちらの方だ、坂上先生」
そして、俺たちは声を重ねる。
「「あなたの論理は破綻している!!」」
俺たちがそう宣言すると、「がああああああああ!!ぁぁぁ……」と言って、坂上先生から眼鏡はずり落ち、ネクタイは緩み、髪の毛は散り散りになった。
もう、立ち上がる気力もないだろう。
それを見てか、生徒会長が全体を見回して告げる。
「さて、結論は出たようだな」
生徒会長がそう告げると、Cクラス側はすでに真っ青を通り越して、真っ白になっている。
そして、この場にいる誰もが、生徒会長の言葉に頷き返す。
「では橘。後は進行のお前に任せる」
「はい。……それでは、今回のCクラスから訴えがあった暴行事件について――」
誰もが予想だにしない声が上がる。
声の主は石崎だ。
石崎は立ち上がる。
「どうしました石崎くん。これ以上の審議は必要ないかと思いますが」
橘先輩が少し侮蔑の色を込めた声でそう告げると、石崎は神妙な面持ちで、こう宣言した。
「俺たちは、現時点を持って、今回の件の訴えを取り下げます!」
…………なんだと?
To be contiued……
平素より、お気に入り登録、感想・評価、誤字脱字報告、ここ好き!等々誠にありがとうございます。
ここまでお読みいただいた方も気に入っていただければ、お気に入り登録、感想・評価、ここ好き!等、何卒よろしくお願いいたします。
ふう、ということで、暴行事件審議パートでした。
頑張りすぎて、過去最高文字数になってしまいました汗。
知らない方のために、使っている画像は、『逆転裁判』シリーズがモチーフのフリー素材を使っております。
逆転裁判シリーズを最近dアニメストアで視聴して、それよりかは、はっちゃけてはいませんが、かなりオマージュとなっていますw
一応タグにクロスオーバーついてるから、許されてほしいw
一応、今回は、堀北さんを審議のパートナーとしての色を強く見せることと、佐倉さんが原作よりちょっと頑張ってるように表現してみました。
蓮くんによるバフが掛かっていると思っていただければ幸いです。
さて、次回は、自分たちから審議を取り下げた石崎くんたちがどのようにして、主人公たちに立ちはだかるのか。
一応結末は決めていますが、娯楽で書いてるものなので、あまり整合性とかリアリティとかは言わないでもらえると嬉しいです汗。
では、もしも選択肢のコーナー
【『小宮と近藤の不満』について言及する】
【何もしない】
一件、悪手のように見えますが、この選択肢をすることで、主人公が掘北さんの様子に気づき、生徒会長が堀北さんに活を入れる意味で、審議を早々に終わらせようと焦らせます。
しかし、主人公が対抗することになります。
何もしないと、そのまま、次の議題に進むだけです。
【鈴音の様子が気になるな】
【このまま、証拠を出していこう】
証拠を出していくと、堀北さんの代わりに蓮が進めていきます。
しかし、実は、外村くんのメッセージのタイミングはとある人物が指示しており、蓮が進めてしまうと、審議が終わった後にピロンとしてしまいます。
とても重要な選択肢です。
辛そうにしているヒロインを放っておくような不届き者主人公には制裁をという制作側の強い意図を感じます。
以上です。
©ニコニココモンズ 作者860652様よりお借りしました。