少年は草原を風のように疾走する。そんな彼の目に映るのは一つ、巨大な体躯のレッドゴブリンだ。ゴブリンは習性で群れを形成する。目視で確認できるのは30体ほど。これなら、十分いける。
「来てくれ!」
彼は右腕を掲げ、云った。彼の右腕には数十もの魔力線が浮かび上がり、瞬間、眩い光と共に巨大な水龍が現れる。神秘の力、魔術。彼、エリルの職業は召喚術師。それはありふれた職業の一つであり、この世界においてこの召喚という魔術は普通である。彼が呼び出した水龍の名はハイドラド。新米の召喚士に与えられる三体の招獣の内の一体だ。ふぉぉぉぉぉぉぉぉという声と共に水龍の口からは水砲が迸る。水泡はゴブリンに見事命中、100メートルほど後方に飛ばされる。今の攻撃で4体が泡を吹き、倒れた。気づくと、ゴブリンは隊列を成し、周囲を取り囲んでいる。丁度いい。スキルの準備は既に出来ている。
「ハイドラド、トレントラッシュだ!」
ハイドラドは応じたように咆哮をすると周囲、ゴブリンのいる地表に次々と水柱を生み出した。水柱は圧縮された水だ。その水に直撃したゴブリンには体には穴が空き、どろりとした血液を吐きながら、地に伏していった。今ので、リーダーだったゴブリンを倒したようで次々に撤退してゆく。ここまでだろう。
ゴブリンが去った後、オレたちは小休憩して目的地である光の洞窟に向け、歩を進める。光の洞窟は初心者向けとして上ランクだ。ここで多くの初心者が命を落としているとも聞いている。原因は招獣と召喚術師の経験が足りていないこと。だが、オレたちは違う。主従契約を結んでいるのはハイドラド一体だが、その分長い時間をオレ達は過ごしてきたのだ。負けるわけがない。
洞窟の前には木製の看板と入るうえでの注意点が記載されていた。念のため、熟読する。トラップが多いのか。と云っても、今はその殆どが発動した後で残るトラップは少ないという。油断せず行けば問題ないだろう。
洞窟に入ると、ひんやりとしていた。水音が聞こえる。湧水が流れ休憩できるところがあるのかもしれない。辺りを確認するが薄暗く見にくい。バッグから松明を取り出し火をつける。多少のリスクはあるものの仕方がない。
こつこつ、と音を鳴らしながら歩を進める。進めると目の前には三本の道が現れた。さて、何処から行こうか。微かにだが、左の道から物音が聞こえる。モンスターがいるのなら倒せばいいだけだ。そう思い、オレは左の道から行くことにした。進めるごとに大きな物音が聞こえる。音は近くなっている。一度隠れることにした。と同時に松明を一度消した。ゆっくりとした足取りでこちらに向かってきたのは数体のイエローゴブリンだった。確認できるのは三体。一番前を歩いているゴブリンは何か持っている。オレはよく注視した。持っていたのは数日前まで生きていたであろうヒトの頭蓋だ。頸の根元から鉈のような物で切断されている。血液はすでに止まっていた。しかし、その頭蓋から放つ匂いでコバエが群がっている。三体程度なら奇襲で簡単に倒せる。
オレは松明を消すと、魔力を瞬時に込め、ハイライドに与える。魔力付与による火力強化と俊敏強化、それよりもスキルブーストにより時間の掛かるスキルも簡単に使用できる。
ただ、魔力付与は探知系の魔獣に対しては奇襲がバレてしまうためリスクはあるが。
ハイライドは周囲に氷柱を出現させ、解き放った。豪速の氷柱はゴブリンの頭蓋、心臓を目掛け放ち、骨の砕ける音と共に命中する。そのまま、氷柱と洞窟の壁に磔になった。当然の行為だろう。壁に近づき、様子を確認する。よし、死んでる。即死だろう。痛みを与えて殺すことも考えたが、他のゴブリンを呼ばれても困るしな。よく見ると、ゴブリンの手にはヒトの頭蓋以外にも持っていた。持っていたのは聖晶石。魔力を圧縮させた鉱物で数少ない希少アイテムだ。聖晶石は松明に照らされて綺麗な輝きを見せていた。冒険者のアイテムだったのだろう。彼らの分まで有効活用しよう。
一時間ほど探索をしただろうか、マップを作成しているが一向に洞窟最深部であるボス部屋にはつかない。奥深く入っているとは思うが……。オレは壁に身を預ける。すると、身を預けることなく、肉体は宙を舞うように転がった。気が付くとオレは階段を転げ落ちていたのだろう。まさか、隠し部屋があるとは。辺りを確認する。
「魔獣はいないように見える……が」
ふと、ここの空間に違和感を抱く。洞窟であるにもかかわらず、目の前に広がるのはレンガ造りの壁、床、天井。辺りが人工的なのだ。オレの本能は警鐘を鳴らす。早くここからでなければ。階段のあった方向に振り返る。そこには、ただの壁があった。
「え?」
思わず声を漏らす。これはトラップか……。それも厄介な転移型の。もうマップはあてにならない。そして、松明は先程、落としてしまった。オレは僅かな光を辿りながら進むことにした。
ゆっくりと進むこと30分。左右に蝋燭が飾られている。ここからは恐らく魔獣が数多くいるだろう。オレは意気込み、歩を進めた。
「うん?」
進んで5分、小さな部屋に辿り着いた。その部屋の壁には斧や剣が飾られ、中心には金箔や宝石で装飾された宝箱が一つ。これは当たりか。誰もまだ辿り着いた跡が見られない。開けられた後もないためこれは中身が期待できる。
ただ、その期待は簡単に裏切られた。開けたと同時に周囲は暗闇と化した。次に瞼を開いた時には小さな部屋は巨大な部屋に生まれ変わり、目の前には巨大な竜、黄龍がいた。長く蛇のような印象を与えるが体表は竜らしい硬い鱗に覆われていた。黄龍の出現にオレは逃げる選択を行った。理由は至極簡単なことだ。今のオレ達では勝てない。それ程に黄龍はソロのオレには向いていない魔獣なのだ。だが、逃げた先、つまり先程入ってきたドアは無くなった。周囲を見渡すもドアはない。あの箱はトラップボックスだったのだ。今更気づいても遅い。どうする?オレは思考を停止させることなくフル稼働させ現状打破の一手を考える。しかし、その一手は無かった。黄龍はオレを待つことは無い。黄龍は歩んだ箇所を次々と毒の沼と化した。黄龍のスキル、黄帝の瘴気だ。ハイライドを召喚させると試しに沼目掛け水泡を放つも変化は無かった。つまり、このまま放置すれば毒の沼は拡大し、オレたちの逃げ場は無くなる。なら、黄龍を殺るしかない。
オレはハイドラドに指示する。ハイドラドの周辺には無数の氷柱が出現する。
「放て!」
ふぉぉぉぉぉぉという咆哮とともに黄龍目掛け放たれる。命中した。と同時に命中した箇所は次々に凍り付く。しかし、
「だめだ、この巨体には通用しない」
表面は凍結するも、動きを止めることは出来ない。オレは走り出す。狙いはハイドラドが持つスキルの発動時間を稼ぐためだ。
「さぁ、こっちに来い!黄龍!」
すると、予想通りオレの元に向かってくる黄龍。オレはポケットから火の魔石を取り出し、魔力を込める。その魔石を黄龍目掛け、投げる。瞬間、轟音と共に爆ぜた。爆裂魔術、それがあの魔石に刻まれた能力だった。通常であれば、ゴブリン20体は倒せる。また、大型の魔獣であれ、あの爆裂により周囲の酸素は一酸化炭素に変化され、呼吸をすることが出来ず、巨体程効果は見られる。しかし、白煙が薄くなった時、黄龍は姿を現す。ほぼ、無傷だった。
「うそだろ、結構高いのに……」
そこじゃないだろ、と自分でツッコミを入れてしまう。だが、まだ終わりじゃない。ハイドラドのスキル、トレントラッシュだ。魔力は十分溜まり、それは大気を震わせるほどの威力となり放たれた。あの威力であればあの分厚い鱗も破壊できるはず。だが、その結末にはならなかった。黄龍の周辺には透明な膜、バリアが形成されその水泡、水柱は難なく弾かれ黄龍の後方に流れた、と同時に黄龍は狙いを変え、ハイドラドに向かう。
「逃げろ、ハイドラド!」
その声はハイドラドには届くことは無かった。黄龍の巨大な尾に打ち付けられ、肉体は飛ばされ、壁にぶちあたる。壁はその威力に耐えられず、破壊。衝撃と共に崩れ落ちた。ハイドラドの肉体には裂傷や壁の破片が刺さっていた。弱っている。だが、ハイドラドはまだ、倒れていなかった。オレはただ、茫然と眺めていた。ハイドラドの目にはまだ、強い意志が見れらた。
だから、オレは
「行け!」
ゆっくりと動き、周囲一帯を凍らせた。先程放った水を瞬間的に凍らせたのだ。その対象は黄龍にも及んだ。黄龍の肉体は白く染まり凍り付いた。だが、黄龍は毒砲を放ち、それはハイドラドに直撃、肉体はゆっくりと溶けだし左腕からは骨も伺えた。オレは駆け付けようとするも、毒で近づけない。オレは毒を無視し、ハイライドの元に駆け付けようとする。
「ふぉおおおおおおん」
ハイライドはオレに向かって、威嚇した。来るな、とその目は訴えていた。
「オレを一人にするな!そんな沼、早く抜け出せよ!」
ハイライドはゆっくりと瞼を閉じ、横に倒れた。オレはただ、茫然と立ち尽くしている。ハイライドの最後の表情は最初に出会った時を思い出させるものだった。
あの日は雨だった。オレは迷いの森を歩いていた。理由は分からない。何故なら、記憶を失っているからだ。今でもそれ以前の記憶を持っていない。歩き続け、ようやく着いたのは、一つの古民家だった。横には滝があり、やや風が吹いていた。オレはその古民家にノックをする。反応は無かった。だから、オレはドアを開け、借りることにした。オレは腹が空いたため森の中に入ることにした。
森を歩いていた時に出会ったのがハイドラドだった。ハイドラドは森にいるような魔獣ではない。つまり、本来契約した術死からはぐれた、または棄てられた魔獣だったのだ。ただ、棄てられた割によく人間に懐いていた。オレはハイドラと自分が似ているようにも思えて、行動を共にすることにした。正確にはハイドラドが付いてきたのだが。
それから、一年間オレはハイドラドと共にあの古民家で過ごした。時には情けないことに食べ物をめぐりよく喧嘩した。濃密な時間だった。ただ、それだけの話だ。
オレが召喚術師として、活動する理由は自らの記憶を得るため、ハイドラドはそんなオレと契約を交わしてくれた。
一年半、オレとハイドラドは共に助け合いながら、行動してきた。だが、オレのミスでハイドラドを失った。
「オレのせいだ、オレのせいだ、オレのせいだ……」
何度もオレは後悔する。ただ、そんな時間はすぐに終わった。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ」
黄龍はゆっくりと、動き始める。
「うそだろ、もうオレには……」
倒せない。戦友を失った。
「もう、だめだ。やるなら、やれ」
あぁ、これでお前のところに行ける。今までがあっという間だった。記憶なんてどうでもいい。ハイドラドに比べれば優先することでもないのだ。
ゆっくりと、こちらに向かってくる黄龍。黄龍は大きく口を開き、あの毒を解き放つ。
そんなとき、オレはあの顔を思い出す。あの満足げな顔。なんで、なんで、あんな表情が出来るんだ?
そう思ったら、まだ死ねない気がした。足掻いて、足掻いて、足掻き続けて、ハイドラドの分まで生きなければ、でなければ、あの表情をしたハイドラドにもう一度会えない。
だから、オレはポケットから聖晶石を取り出し、呟いた。
「数多の英雄よ、我の声に従い、参上せよ」
オレの魔力全て、使う。触媒は聖晶石。右腕には魔力線が浮かび上がる。もう、既に右腕は魔力に耐えきれず感覚がマヒしている。だが、いける。魔術式が床に出現する。オレは聖晶石を強く握りしめた。目の前には毒砲が迫っている。
今だ!
虹色に輝く稲光と眩い閃光が辺りを鮮明に照らした。どぉぉん、と銃声が大きな空間に鳴り響いた。
どぉぉんとした銃声音が大きな空間に鳴り響いていた。オレは瞼を開く。閃光に目をやられ、ピントが合わない。だが、ゆっくりと合ってそして、目の前には少女がいた。髪は黒髪のショートボブで表情はこちら側では分からない。白を基調とした制服とも云える服装。少女は小柄の割に巨大な銃砲を二丁携えていた。
「だいじょうぶ?……マスター」
「あぁ、君がオレの…」
「そう、主従契約を行った従者だよ……」
彼女はこちらを向く。向いた時の表情はとても綺麗だった。そんなことを思った途端、ジト目をされた。何故?
「マスター指示を…」
「分かった、あれ、黄龍を倒してくれ。殺れるか?」
彼女は頷く。そして、彼女は手に携えた二丁の銃砲を黄龍に向け、放つ。迸る蒼い火花。死神のように命を刈り取ろうと突きつけられた弾丸は黄龍の頸筋に直撃する。だが、またしても寸前で透明なバリアで弾かれる。しかし、そのバリアは同時に硝子のように砕け、散った。
「これで封じた……あとはマスター次第だよ」
「マスター次第?そうか、君のスキルか」
「そんなとこ、だからちょうだい。マスターの魔力」
オレは今持てる魔力を既に使い果たしている。だから、
「すまない魔力は…もうない」
彼女は銃砲から弾丸を放ちながら、云う。
「魔力が無くても方法はあるよ」
「え?」
「何かを代償にすれば、魔力は生成できる」
何かを代償にする?オレに今出せるものは……ある。記憶だ。だが、ハイドラドとの一年半の記憶だ。消せるところなんてない。あとは……
「オレの命でどうだ?」
正確には命の中でも生の時間、寿命だ。
「できるよ。それで本当にいいの?」
「ああ、構わない」
「分かった。じゃあ、お願い」
オレはいつも通り、麻痺した右腕に再び力を込め、魔力線を浮かばせる。だが、神秘のような輝きは失われ、消えかけている。だから、オレはただ、祈る。そして、唱える。
「魔力変換:生命、1年指定、変換開始。魔力供給開始」
次々に構成される変換術式、線は次々と描かれ、半径三メートル程の巨大な術式が構築された。そして、温かく太陽のような光がオレの魂に注がれ、満たされてゆく。気づけば、右腕には再び光が戻っていた。なら、もうやれる。
オレは右腕を掲げる。次々と魔力線は右腕から伝う。全身に伝い、それは彼女に繋がる。同期する。と共に断片的な何かがオレに伝わった。だが、それは一瞬にして消えた。同期と共に周囲の大気は上昇した。彼女の銃砲には複数の術式が展開される。
「装填完了:ばーすと」
莫大な魔力が込められた弾丸。打ち放たれた弾丸は黄龍の心臓部に命中し、貫通する。と共にその風穴には巨大な氷柱が出来ていた。これが、彼女の力なのか。
「おしまい」
「君は……」
彼女はオレのほうに体を向け云った。
「私はオラージュ。貴方のマスター。」
初の二次創作、連載作品です。誤字脱字、その他要望等あれば感想等で書き込んでもらえたらと思います。また、この作品を読んでサモンズボードに興味が湧きましたら、ぜひプレイしていただければと思います。
この作品を作るきっかけはサモンズボードにはストーリーが無いため、プレイ中時々、
この世界ではこんな物語があるのではないか、と考え出したことです。
次は9中旬か、下旬に投稿させていただきます。以上です。読んでいただきありがとうございます。次の話も読んでいただければと思います。