ガンダムビルダーズハイ   作:さくらおにぎり

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1話 始まりと再会と

  生か、死か。それは、終わってみなければ分からなかった。

 確かなことは、美しい輝きが一つ起こるたびに、何人か、何百人かの人々が、確実に宇宙の塵となっていくと言う事だ。

 

 

 

 宇宙要塞ソロモン。

 

 ア・バオア・クー、グラナダと三角を成す、ジオン公国軍の宇宙要塞が一角だ。

 ジオンの猛将ドズル・ザビが預かるこの牙城は、サイド3最後の砦であるア・バオア・クーにも劣らぬ防衛能力を備え、艦船やMSもまた相応の数が配備されている。

 

 対する地球連邦軍はそれを上回る数の戦艦と、MSジム、加えて支援ポッド・ボールを無数に並べた物量作戦で数で劣るジオン軍を攻め立てるものの、ジオン軍の抵抗反撃もまさに必死だ。

 

 そんな予断を許さぬ戦況の中、一隻のペガサス級のカタパルトデッキに、一機のMSが立つ。

 

 白を基調として、黒と赤の差し色で彩られた装甲。

 二つのアイカメラと二本の角のようなアンテナを持つそれは、ガンダムタイプと呼ばれるMS。

 

 ――ふと、視界の端の方に"ガンダム顔"をしたボールがいたのは気のせいだろうか?

 

『先行した第一小隊より通信です。「我、敵に包囲され離脱困難。救援を求む」とのことです』

 

 ブリッジクルーのオペレーターからそのような通達を耳にしてガンダムのパイロット――『イチハラ・アスノ』少尉は緊張感を走らせる。

 

「分かりました、すぐに救援に向かいます!」

 

 ノーマルスーツのヘルメットの気密を確認し、コクピットのコンソールを起動させると、それに呼応するようにガンダム翡翠色のアイカメラと、胸部の『A』のアルファベットのようなセンサーライトが輝く。

 

『エアロック閉鎖確認。ハッチ開放、出撃どうぞ』

 

「イチハラ・アスノ、『ガンダムAGE-I』、行きます!」

 

 リニアカタパルトが加速し、身体を襲うGに顔を顰めながらも、アスノはガンダムを発進させ――

 

 すぐ目の前から敵機が急速に接近してくるのをアラートが知らせてくる。

 

 征く先々でサラミス級を沈めながら、他機の三倍の速度で向かってくるのは……

 

 スカート付きのMS――リック・ドム、しかも"赤色"だ。

 

「あ、赤い彗星……!?」

 

 ルウムでの戦いで赤いザクを駆り、戦艦五隻を瞬く間に撃沈してみせた、ジオンの超エース級パイロット。

 その赤く塗られたリック・ドムのモノアイが、ガンダムを捉える。

 

「くっ、来る!?」

 

 反射的に、右マニピュレーターに握るドッズライフルのトリガーを引き絞り、DODS効果を帯びたビームが放たれるが、赤いスカート付きはひらりと機体を翻し、さらに距離を詰めてくる。

 

「わっ、うわっ、うわっ……っ!?」

 

『不慣れなパイロットめ、落とさせてもらう!』

 

 赤い彗星の不敵な声が聞こえたと思った時には、リック・ドムが担ぐビームバズーカの砲口がガンダムに向けられ、激しい光束が放たれる。

 

「あぁぁぁぁぁ!?」

 

 ロックオンされて鳴り響くアラートと、視界に広がる死の閃光を前に――

 

 

 

 

 

 ピピピピピ、ピピピピピ、と言う無機質な電子音が意識に届く。

 

「ぁぁぁぁぁ……あ?」

 

 ビームバズーカのメガ粒子が身体を焼くことはなく、そもそもここはガンダムのコクピット内ですらない。

 見慣れた自分の部屋で、腰を落ち着けているのは自分のベッド。

 先程からの無機質な電子音は、敵機からのロックオンを告げるアラートではなく、目覚まし時計のアラームだ。

 ほぼ条件反射でアラームを押し止めると、

 

「ゆ、夢か……」

 

 イチハラ・アスノは、今の戦いが夢であったことに安堵した。

 

 ガンダムのパイロットとして戦えると言う文字通り夢のような疑似体験だったが、まさか出撃直後に赤い彗星――シャア・アズナブルのリック・ドムに出くわすとは思わなかった。

 

 ソロモンでの戦いに、シャアが専用のリック・ドムに乗って来る……IF展開と"小説版"『機動戦士ガンダム』、ついでに"スカルハート"の『バカがボオルでやって来る!』がごっちゃになった展開を疑問に思わなかったのは、夢の中の設定故か。

 

「っと、起きないとな」

 

 決して今の夢の続きを見たくないからではない。

 勢い良くベッドから降りると、流れるように部屋着を脱ぎ捨てて私服へ着替える。

 

 

 

 フライパンで卵を焼きながらサラダ用のキャベツを刻みつつ、テレビのニュースを聞き流していたアスノだが、今朝のニュースは少しばかり聞き流すわけにはいかなかった。

 

『ガンプラ・バーサス 10周年特集!!』と言うタイトルの内容のニュースに釘付けだ。

 

 ガンプラ・バーサス。

 

 通称、『GPVS』

 

 自分の作ったガンプラを、自らの手で操縦出来るゲーム……数多のガンプラビルダー達が渇望して止まなかったものが、ついに日の目を見るようになった。

 

 細かな作り込みも逃さず再現する高度な3Dスキャナーや、様々なオリジナル設定を反映させるために常にアップデートを続ける自己学習AIなどなど、日本だけでない世界の最先端技術が惜しみなく注ぎ込まれた、ガンプラビルダー達の夢の完成形。

 

 OVA『模型戦士ガンプラビルダーズ』や、『ガンダムビルドファイターズ』、『ガンダムビルドダイバーズ』と言ったアニメの『ビルドシリーズ』や、ゲーム『ガンダムブレイカー』シリーズとも異なるものだ。

 

 それら番組特集の中で、目元を覆うマスクを被った若い金髪の男性がインタビューに応じている。

 

『遅過ぎると言うことはありません。今日初めてガンダムのことを知った子どもも、ファーストガンダムの頃からのファンだったと言う大人も、今から始められる。それがGPVSです』

 

 インタビューを受けている彼の名は、『アカバ・ユウイチ』

 

 模型雑誌でも毎号その名と顔写真(仮面付き)を載せ、ビルダーとしてもバトラーとしても超一流と言う、まさにガンプラ業界のカリスマ。

 バトルの際は自作したと言うマスクを身につけることから、往年のシャア・アズナブルやゼクス・マーキス、ラウ・ル・クルーゼなどを思わせる、"仮面の男"でもある。

 

「すごいよなぁ……」

 

 ぼんやりとそう呟いて、コトコトと味噌汁を煮込んでいた鍋が蓋を鳴らし始めた音に気づいて、クッキングヒーターを止めると、一旦ダイニングキッチンを出る。

 

 階段を登って二階に上がり、自室とは隣の部屋のドアの前に立つ。

 ドアの向こう側から目覚まし時計の電子音が聴こえているのだが、部屋の主はそれに気付いていないようだ。

 アスノは気持ちやや強めにドアをノックする。

 

「ミカ姉ー、そろそろごはん出来るよー」

 

 しかし呼び掛けても返事はない。

 とは言えこれはいつも通りなので別段不審に思うことなく遠慮なくドアを開ける。

 彼の視線の先にいるのは、毛布の中でもぞもぞしている若い女性。

 目覚まし時計のアラームを止め、カーテンを開けて、アスノは毛布を掴み、

 

「何やってんだミカァァァァァ!!」

 

 気合の入った鉄華団団長の叫びと共に思い切り引っ剥がす。

 

「んひゃっ!?」

 

 大声とともに引っくり返され、女性は情けない声と共に意識を覚醒させた。

 

「あ……あれ、アスくぅん……?お、おはよぅ……」

 

 完全に寝ぼけていたのか、呂律が回っていない。

 彼女はアスノの姉の『イチハラ・ミカ』。決して三日月・オーガスではない。

 

「はいミカ姉おはよう」

 

「んん……?今日って、日曜じゃなかったぁ……?」

 

「今日は休みでも大学に用事があるって、ミカ姉が言ってたんじゃないか。もうごはん出来るから、早く降りてきてよ」

 

「ふぁ〜い……」

 

 欠伸まじりの返事をするミカに、「二度寝しないでよ」と言い残してからアスノはダイニングキッチンへ戻っていく。

 

 

 

 二度寝することもなく、ちゃんと身嗜みを整えてきたミカと朝食を摂るアスノ。

 

「えーっと、アスくんの今日の予定は?」

 

「ん、ソウジとショウコの二人と、『鎚頭』の開店に合わせて行くくらいかな」

 

「はーい」

 

 この家は、中学三年生のアスノと、大学一年生のミカの姉弟二人で暮らしている。

 身内に何か起きたという話ではなく、ただ単に両親が溜まった有給休暇を一気に使って数ヶ月の間、夫婦水入らずの世界旅行に出ていると言うだけ。

 とは言え、姉のミカは生活能力がほぼ皆無に等しいため、家事全般は弟のアスノが引き受けているのが現状なのだが。

 

 

 

 朝食を始めとした朝の支度もおおよそ終えたところで、ミカは時刻を確認し、そろそろ予定時間に差し掛かろうとしていることに気付く。

 

「それじゃアスくん、行ってきまーす」

 

「はいはい、気を付けてね」

 

 アスノに見送られて、ミカは外へと躍り出た。

 

 

 

 ミカを見送った後はのんびり過ごしていたアスノは、約束した待ちあわせ時間に合わせて家を出た。

 

 桜の花びらは全て葉桜へと移り変わった頃。

 暖かな気温は、徐々に"暑さ"を伴うようになる。

 そろそろ衣替えかな、と思いながら、アスノは海沿いの道を往く。

 

 すると、海のよく見えるいつもの待ち合わせ場所に、いつもの待ち人が二人。

 

「アスくん、おはよー」

 

「おせーぞ、アスノ」

 

 一人は、肩ほどまで伸びた明るい茶髪をポニーテールで纏めた女子生徒。

 もう一人は、アスノよりも頭一つ背が高く、顔立ちの良い男子生徒。

 

 それぞれ、幼馴染みの『コニシ・ショウコ』と、悪友の『キタオオジ・ソウジ』だ。

 

「二人ともおはよう。ってかそんなに遅くないと思うけど」

 

 アスノは挨拶を返しつつ、二人の中に混じる。

 三人揃ったところで、移動開始だ。

 

 その移動途中にも話題は事欠かず、最近の話題は『中学生活最後の夏休みの予定』についてだ。

 

「やっぱり一度くらいは、GPVSの選手権に出るべきだと、あたしは主張します!」

 

 ビシッと右手を挙げて意見を述べるのはショウコ。

 GPVSの選手権大会は年に二回、夏と冬に一度ずつ開催される。

 その内の、夏大会に出場しようとショウコは言うのだ。

 

「あたし達、今年は受験生でしょ?夏休みが終わったら、本腰入れて受験勉強しなきゃだし、この三人でGPVSの選手権に出るとしたら、今しかない!」

 

 力強く頷くショウコに対して男子二人は。

 

「僕ら三人が出場したところで、記念出場で終わりそうだけど」

 

「いいじゃねーか、記念出場上等だ」

 

 アスノはやや消極的に、ソウジは斜め前向きだ。

 

「いや、やるからには優勝目指そうよ……」

 

 男子二人の微妙な反応に、ショウコはジト目になる。

 GPVSの選手権は、対戦人数別に別れており、1on1、3on3、5on5の三部が存在する。

 その内の、3on3の部に出ようとショウコは言うのだ。

 

「まぁとにかく、ショウコは夏休みにGPVSの選手権に出ようって意見を挙げたわけだ。他に何もなけりゃ、選手権に参加する方向だな」

 

 ソウジは既に選手権に参加するつもりでいる。

 

「よし!ソウくんは賛成として、アスくんは?」

 

 ショウコの視線がアスノに向けられ、アスノは困ったように眉の端を下げる。

 

「……まぁ、参加するだけならいいか」

 

「うーん……アスくんってさ、あんなにクオリティ高いガンプラ作れるんだし、バトルも強いと思うんだよね」

 

「製作の方ならともかく、バトルに関してはソウジとショウコの方が強いじゃないか」

 

 この三人、ことガンプラバトルに関しては妙にバランスが取れているのだ。

 

 アスノはバトルの腕は今ひとつだが、ガンプラ面はクオリティの高さから基本性能は非常に高い。

 

 ソウジはアスノとは真逆で、バトルセンスに優れている反面、ガンプラのクオリティは高くない。

 

 ショウコはそんな間を取り持つように、ビルダーとしてもバトラーとしてもそつなくこなせるが、どちらかと言えばバトラー寄りだ。

 

「アスノは操縦が慎重過ぎんだよ。もっとグイグイ動かせば機体もそれに合わせてくれるぞ?」

 

「そうかもしれないけど……」

 

 やはりバトルに関しては消極的なアスノ。

 どうしたもんかと軽く頭を掻くソウジだが、そこへショウコがぱんっと手を鳴らす。

 

「まぁ、エントリーの締切にはまだ時間があるし、ゆっくり考えようよ。アスくんがどうしても嫌なら、他の案を考えればいいだけだし」

 

 夏休みの予定に関しては一度切り上げて、三人は目的地に到着する。

 

 

 

 ホビーショップ『鎚頭(ハンマーヘッド)』

 

 アスノ、ソウジ、ショウコの三人が通い詰めている、この地区では数少ないホビーショップだ。

 ちょうど開店時間に差し掛かる頃だったか、『白スーツ姿に黒髪を長く伸ばした伊達男』のような人物がシャッターを上げているところだった。

 

「名瀬さん、おはようございます」

 

「おはよーございまーす!」

 

「どもっす、兄貴」

 

 三人は、『名瀬さん』と言うらしい白スーツの伊達男に三者三様の挨拶をする。

 

 ここ、ホビーショップ・鎚頭は、店長とその奥さんが、それぞれ『名瀬・タービン』『アミダ・アルカ』にそっくりで、常連客達からは敬意を込めて「名瀬さん」「アミダ姐さん」と呼ばれている。ちなみに、ソウジは名瀬さんに随分世話になった過去があるらしく、敬称として「兄貴」と呼んでいる。

 

 まことしやかな噂では、名瀬さんは昔、極道組織の幹部を務めていたとか、単に運送業をしていたとか、アミダ姐さんは雇われの用心棒をしていたとか、ピンクの『百錬』使いのトップバトラーだったとか、様々な憶測が飛び交っているのだが、本人達はそれを黙秘している。

 

「おぅ、おはようさん。ちょいと待っててくれよ、すぐ開けるから、なっと!」

 

 ガラガラと勢い良くシャッターが上げられる。

 ホビーショップ・鎚頭、開店だ。

 

「あいよお待たせ。大会のエントリーは、カウンターでやってくれよ」

 

「「「大会?」」」

 

 大会と聞いて、何のことかと疑問符を浮かべる三人。

 その反応を見て、名瀬さんは呆れたように溜息をついた。

 

「なんだお前ら、知らなかったのか?今日はウチでGPVSの大会やるって、一週間前から告知してたぞ?……って、ここ一週間で三人とも来てなかったか」

 

「そりゃ聞いてねぇですって兄貴!大会……ルールは?」

 

 ソウジが慌てて名瀬さんに大会のルールを訊ねる。

 

「前がタイマン形式だったからな。今回は2on2だ。三人じゃ一人ハブられちまうが……まぁ今から形式を変えるわけにもいかないし、悪く思わんでくれや」

 

 無情にも告げられる大会ルール。 

 しかも彼ら三人の背後からは、大会出場に来たのだろうお客が続々と押し寄せてきている。

 思案の末、アスノが意見を挙げた。

 

「ソウジとショウコで組んでいいよ。僕は観客になるから」

 

 バトルが上手くない自分が出るよりは、自分よりも上手い二人に出てもらう方がいいと判断してのことだ。

 

「あー……悪ぃ、アスノ」

 

「ごめんね、アスくん」

 

 アスノを差し置いて自分達二人だけ出場することに、ソウジとショウコは頭を下げた。

 

 

 

 店内のショーケースには、百錬や百里、漏影、獅電、辟邪と言ったテイワズ系のガンプラが中心に並んでおり、中でも名瀬さん力作の、1/144スケールの強襲装甲艦『ハンマーヘッド』のフルスクラッチモデルが鎮座しているところだろう。

 

 それらを背景にして、大会参加者は順調に増えていき、あと一組でエントリーが締め切られる頃だ。

 

「参加枠、残り1チームだよ!誰かいないかい?」

 

 名瀬さんの奥さんであるアミダ姐さんが、よく通る声で残り一枠をアナウンスする。

 

「(まぁ、今から野良と組むって言うのもね……)」

 

 もう少し待てば勝手に埋まるだろう、と傍観していたアスノだったが、

 ここで事態は転換を告げることになる。

 

「ん?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ふと、視界の中にいた人物に目が向く。

 美しく長い黒髪は、店内の照明を照り返して艷やかに輝く。

 一目見て分かる品のある佇まいは、育ちの良さを思わせる。

 

 紛うことなき、美少女だ。

 

 ちらりと周囲を見やれば、何人もの男が彼女に振り向いている。

 そんな中、美少女はアスノの方を向いた。

 

「あ、あの……ペアに溢れてしまったのですか?」

 

「え、あ、うん。友達二人と来てたんだけど、今日が大会って知らなかったんだ」

 

 美少女に声を掛けられて緊張しながらも、アスノは自分がペアから溢れたと言う。

 

「そ、それなら……私とペアを組んでいただけませんか?」

 

「えっ……僕、バトルはそんなに強いわけじゃないんだけど、いいの?」

 

「か、構いません!むしろ、私と組んでください!」

 

 どこか必死そうな美少女の空気に圧されて、アスノは思わず「わ、分かった」と頷いてしまった。

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 深々と頭を下げて感謝する美少女。

 

「いや、そんなに畏まらなくていいから……」

 

 周囲の視線を気にしつつも、アスノは美少女を連れて最後のエントリーに向かう。

 

 エントリーナンバー40の紙に、それぞれの名前を記入したところで、エントリーが締切られる。

 

「そう言えば、名前まだ聞いてなかったか。僕は……」

 

 美少女に対して名乗ろうとするアスノだが、

 

「イチハラ・アスノさん、ですよね?」

 

 意外にも、美少女はアスノのフルネームを知っていた。

 

「あれ、前にどこかで会った?」

 

 これほど見目麗しい美少女なら、そう簡単に忘れるはずがないとアスノは記憶を掘り起こそうとするが、やはり思い出せない。

 

「やはり、覚えていませんか……」

 

 覚えがないと言うアスノに、美少女は肩を落とす。

 

「いや、その、本当に分からないんだ。ごめん」

 

「いいえ。あんな一瞬の出来事でしたから、覚えていないのも無理もないです」

 

 だから気にしないでください、と美少女は柔かく、しかしどこか寂しげに微笑む。

 

「あ、すみません。私、『ツキシマ・カンナ』と申します。よろしくお願いしますね、アスノさん」

 

「う、うん。よろしく、ツキシマさん」

 

 早速下の名前で呼ばれて、アスノは落ち着かない内心をどうにか抑えつける。

 

 シャッフルによってトーナメント表が作成されていく中、ソウジとショウコがアスノの元へやって来る。

 

「お、アスノ。野良のバトラー見つけ、……」

 

 ソウジが先に声をかけようとして絶句して、その後で続いてショウコも絶句する。

 アスノを見たから、ではない。

 正確にはアスノの隣りにいる人を見たから、だ。

 

「え、えぇと……アスくん?その人って……」

 

 ショウコが恐る恐る訊ねるが、対するアスノは何をそんなに恐れているのかと目を丸くしている。

 

「うん、さっき一緒に組んでくれませんかって。ツキシマ・カンナさんって人なんだけど……」

 

 アスノは何気なく彼女のことを紹介したつもりだったが、ソウジは目をかっ開いて迫る。

 

「やっぱりそうじゃねーか!ツキシマ・カンナって言ったら、『聖リーブラ女学院』から蒼海学園(ウチ)に転校してきたって超絶お嬢様だろうが!?」

 

「えっえっ、そうなの?」

 

「かーーーーーっ、これだからお前はガンプラバカなんだよ!」

 

 手で目を覆って天を仰ぐソウジ。

 

「B組の転校生だって結構噂になってるはずだけど……アスくん、ホントに知らなかったんだ」

 

 ショウコは呆れとも軽蔑ともとれるジト目でアスノを睨む。

 

「わ、私、そんなに噂になっているのでしょうか……?」

 

 どうしたものかと苦笑しているカンナに、ショウコは向き直って自己紹介する。

 

「っと、あたしは蒼海学園三年A組の、コニシ・ショウコ。よろしくね、ツキシマさん」

 

 一歩遅れてソウジも続く。

 

「同じくA組のキタオオジ・ソウジ。アスノやショウコとは、昔馴染みって奴だ」

 

 二人が名乗ってから、カンナも改めて名乗ったところで、大会のトーナメントが開催された。

 

 

 

 一足先にソウジとショウコがバトルに赴いている間に、アスノとカンナは軽く打ち合わせだ。

 打ち合わせと言っても、互いのガンプラを見せ合って、作戦はどうするかを簡単に決めるだけだが。

 

「アスノさんは、どんなガンプラを使っているのですか?」

 

「まぁ、そこまで大したものじゃないんだけど」

 

 そう言いつつアスノは、ポーチからガンプラを収めたケースを取り出し、その中身をカンナに見せた。

 

 白と黒のツートーンを基調としたリアル寄りのカラーリング。

 胸部に輝く『A』のアルファベットに似たセンサーライトが特徴的なそのガンプラを見て、カンナは目を見張る。

 

「エゥーゴカラーのAGE-1……一部のパーツを『アデル』に取り替えているようですけど、でも、この完成度はすごいです」

 

「うん。これが僕のガンプラ、『ガンダムAGE-I(アイン)』」

 

 製作したアスノが言うには、「AGE-1をRX-78に見立て、ガンダムMK-Ⅱとしての役目をウェアユニットとして組み込んでいる。最終的にフリットがAGE-1フラットを搭乗機として選んだため、実戦投入はされなかった」と言う独自設定もある。

 

「ツキシマさんのは?」

 

「その、まだ始めたばかりなので、アスノさんほど上手なものでは無いのですけど……」

 

 ちょっと恥ずかしそうに、カンナはバッグからビニールクッションに包まれたそれを取り出して見せる。

 

 1/144スケールのガンプラとしてはやや小柄で、鎧武者のような装甲を雅やかな紅白で彩った姿を、アスノは興味深そうに見つめる。

 

「『ライジングガンダム』か。無改造みたいだけど、始めたばかりでこの完成度……ツキシマさんこそすごいじゃないか」

 

「そ、そんな、褒めすぎですっ」

 

 あわあわと謙遜するカンナに、着眼点を見つける度にすごいすごいと頷くアスノ。

 その空間だけ桃色の空気が漂っているのに気付いていないのは、本人達二人だけである。

 

 

 

 やがて順番が回って来るのを見て、アスノとカンナはGPVSの筐体の前に立つ。

 スマートフォン内のGPVSのアプリをパーソナルデータを読み込ませ、筐体下部に備えられたスキャナーにガンプラをセット。

 精密に走査されたガンプラは、そのデータを反映させていく。

 それも完了したところで、ランダムステージセレクトが決定される。

 

 今回のステージは『インダストリアル7』

 

『UC』の始まりの地であるコロニーで、ロンド・ベル及びエコーズと、ガランシェール隊のクシャトリヤとの戦闘を再現するため、夜の市街戦になる。

 

 二人のガンプラがモニター内に構成され、カタパルトへと乗り込んでいく。

 演出によるものか、レッドランプが次々に切り替わり、オールグリーンを示す。

 出撃だ。

 

「大丈夫、出来るはずだ……イチハラ・アスノ、ガンダムAGE-I、行きます!」

 

「ツキシマ・カンナ、ライジングガンダム、参ります!」

 

 共にカタパルトから射出され、二機は戦火に包まれるコロニー内へと飛び立つ。

 

 

 

 アスノのガンダムAGE-Iとカンナのライジングガンダムが出撃完了する様子を、ソウジとショウコは近くのモニターから観戦する。

 

「アスくんのAGE-1、また完成度上がってるなぁ……ツキシマさんのライジンも、なかなか強そうだし」

 

 こりゃ強敵になるかもだね、とショウコは気楽そうにそう言うが、一方のソウジの表情はどこか優れない。

 

「どうしたのソウくん、疲れちゃった?」

 

「……いや、何でツキシマは蒼海学園に転校してきたのか、と思ってよ」

 

 だってそうだろ、とソウジは続ける。

 

「聖リーブラって言やぁ、何人もの有名人を輩出してるっつーくらいの名門女子校だ。そんなところからいきなり共学に転校なんざ、余程のことでも無きゃあり得ねーだろ」

 

「んー?言われてみれば確かにそうだけど……でもそう言うのに限って、案外単純な理由かもよ?」

 

「ほー、例えばどんな理由だ?」

 

 その理由とは何かとソウジが問えば、ショウコは自信満々に頷く。

 

「ズバリ、ツキシマさんは、アスくんを追い掛けて来たんだよ!」

 

「はぁ?んなわけ……無くもないな。アスノのお人好しのバーゲンセールに、コロッとオチたお嬢様の一人や二人、いても不思議じゃねーか」

 

 知らない内に誑かしていたのかもな、とソウジは苦笑する。

 

 

 

 アスノとカンナは、それぞれガンダムAGE-Iとライジングガンダムをインダストリアル7の市街地内に着陸させて、短く作戦会議。

 

「僕もツキシマさんも、基本的にバランス型……いやライジングガンダムはどっちかと言えば格闘機に近い?」

 

「いえ、私は格闘よりは射撃の方が得意ですから、バランス型だと思います」

 

「そっか。まぁ、初めて組むわけだし、お互いフォローしあいつつで戦おうか」

 

「はい」

 

 お互いの傾向や癖などはまだ把握出来ていないので、無理せずに無難に戦うべきだと進言するアスノ。

 

 作戦:いのちだいじに。

 

 それも終わって一呼吸の合間を置いてから、逆サイドから敵機の反応が近付いてくるのを見て、アスノは敵機の機体名を言い当てる。

 

「見えた。敵は……『ギャン』と『AEUイナクト』の、デモカラーだ」

 

 前者は『ファースト』のマ・クベが搭乗した試作機、後者は『00』ファーストシーズンの一話でのパトリック・コーラサワーの搭乗機だ。

 接近戦に長けるギャンが前衛、足も速く単独飛行も可能なAEUイナクトが後衛、と来るだろう。

 

「まだ距離がある内に……」

 

 アスノはコンソールのウェポンセレクターからドッズライフル、それも精密射撃モードで選択する。

 ドッズライフルの銃身が90度回転し、側部からフォアグリップが引き出され、ガンダムAGE-Iの左マニピュレーターを握らせる。

 

「よく狙って……」

 

 ジリジリとターゲットロックをギャンに合わせて、ロックオン。

 

「……当たってくれっ」

 

 ガンダムAGE-Iはドッズライフルのトリガーを引き絞り、より高出力のDODS効果を帯びたビームが放たれる。

 だが、既に捕捉されている状態で、なおかつ『相手が自分を狙っている』と認識されていては、いくら射撃が正確でも簡単に避けられてしまう。

 

『はっ、攻撃するから避けてくれって言ってるようなものだろ!』

 

 ビームを回避したギャンは、お返しとばかりシールドからニードルミサイルを連射、多数の針状のミサイルがガンダムAGE-Iへ襲い掛かる。

 

「うわっ……」

 

 アスノは慌ててシールドを構えさせてニードルミサイルの群れを防ぐものの、着弾と炸裂の連続にシールドが見る内に損傷して行く。

 

「アスノさん!」

 

 彼をカバーすべく、カンナはライジングガンダムのビームガンをギャンに向けようとするものの、

 

『相方の邪魔はさせんよ』

 

 それよりも先に上空からの銃弾がそれを阻害する。

 見上げれば、AEUイナクトが空中からリニアライフルを連射して、カンナの動きを阻害している。

 ギャンにガンダムAGE-Iを仕留めさせるつもりのようだ。

 

 そうこうしている内に、とうとうギャンはビームサーベルの間合いに踏み込み、ガンダムAGE-Iへ接近戦を仕掛けてくる。

 

「来る……っ!」

 

 アスノは再びウェポンセレクターを開いてビームサーベルを選択、左マニピュレーターにそれを持たせる。

 

『そんな動きじゃなぁ!』

 

 ギャンはビームサーベルをフェンシングのごとく素早い刺突で振るい、ガンダムAGE-Iも必死に抗するものの、装甲のあちこちがビーム刃に焼き切られ、シールドも上半分を斬り落とされてしまう。

 

「こ、この……!」

 

 やぶれかぶれにビームサーベルを振り下ろそうとするガンダムAGE-Iだが、ギャンは瞬時にシールドバッシュでその左腕を殴り付けて吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた拍子にビームサーベルを取りこぼし、背中から地面に倒れてしまうガンダムAGE-I。

 

「(や、やっぱり僕じゃ無理か……?)」

 

 多少完成度が高いくらいで勝てるほどGPVSは簡単なものではないと理解していた。

 カンナと言う美少女の前で良いところを見せよう、と言う気持ちが無くもなかったが、それどころか無様を晒すだけだった。

 

 ギャンはビームサーベルを突き刺そうと迫りくるが、

 

「アスノさんは、やらせません!」

 

 リニアライフルの銃弾に機体を損傷されながらも、カンナのライジングガンダムが、ヒートナギナタでギャンに横槍を入れようとしている。

 

『あぁ?邪魔だ!』

 

 ギャンのモノアイがライジングガンダムを捉えると、シールド内から機雷――『ハイドボンブ』を射出し、真っ直ぐ突っ込んできたライジングガンダムは機雷にぶつかり、爆発をまともに受けてしまう。

 

「あうぅっ!」

 

 爆発に吹き飛ばされて倒れてしまうライジングガンダム。

 

『ふん、楽勝だな』

 

 近づいて仕留めるつもりか、AEUイナクトは左マニピュレーターにプラズマソードを抜いて、ライジングガンダムへ止めを刺そうと迫る。

 

「(ダメだ、僕のせいでツキシマさんまで……)」

 

 せっかくカンナが声を掛けてくれたのに、自分の不甲斐無さのせいで一回戦負けと言う情けない結果に終わってしまう。

 

 もはや諦めが脳裏をよぎりかけた時、

 

「まだだよアスくん!!」

 

「しれっと諦めてんじゃねーぞアスノ!!」

 

 ギャラリー達の中から、ショウコとソウジの声が届いた。

 

 

 

 いつも、そうだった。

 

 アスノが諦めかけた時、二人はいつだって「諦めるな」と叫んでくれた。

 ソウジがアスノを引っ張り、ショウコがその横についてくれた。

 そうして諦めずに取り組んで、成功したことだってたくさんあり、それでもダメだったこともあった。

 

 それにカンナも、劣勢だからと言ってアスノを見捨てたりせずに、自機の損傷すら厭わずに助けようとしてくれた。

 彼女もまた、諦めていないのだ。

 

 ならば、このバトルもそうだ。

 

「(ダメだったら……その時はその時だ!)」

 

 アスノの瞳に戦意の火が再び灯され、ガンダムAGE-Iを立ち上がらせる。

 諦めないと決めたなら、次はどうする。

 

『終わりだ!』

 

 今度こそ突き出されるギャンのビームサーベル。

 ビームの切っ先がコクピットを貫くその寸前に、

 

「行っけェーッ!!」

 

 アスノは思い切り操縦桿を押し上げた。

 機体各部のバーニアを炸裂させ、機体の完成度に見合った爆発的な加速と共にガンダムAGE-Iはギャンを躱し――そのままAEUイナクトの方へ突撃する。

 

『なっ』

 

 ライジングガンダムを仕留めるつもりだったAEUイナクトは、猛スピードで飛んで来るガンダムAGE-Iへの反応が遅れ、そのタックルをまともに受けて吹き飛ばされてしまう。

 

 体勢を崩したAEUイナクトへ向けて、ドッズライフルを撃ちまくる。

 

 一発、二発、三発、四発と、ややオーバーキル気味にAEUイナクトを撃破する。

 

 AEUイナクト、撃墜。

 

「や、やれたのか……?」

 

 身内以外の対人戦で、初めて敵機を撃破した。

 だが、それを喜んでいる暇はない、まだバトルは続いている。

 

「ツキシマさん、動ける?」

 

「あ、アスノさん……大丈夫です、ありがとうございます」

 

 ハイドボンブの爆発をまともに受けても、ライジングガンダムは立ち上がる。

 

『こいつ、やってくれたな!』

 

 敵を仕留め損ねた上に僚機を撃墜されたギャンは、今度こそ止めを刺そうと再びガンダムAGE-Iへ突進する。

 アスノはドッズライフルをその場で捨てると、残るもう片方のビームサーベルを右マニピュレーターに抜き放たせる。

 

「僕がギャンを食い止める」

 

 短くカンナにそう言うと、敢えてギャンの間合いへ踏み込むようにガンダムAGE-Iを前進させるアスノ。

 ギャンの繰り出すビームサーベルの連撃を、同じくビームサーベルと半壊したシールドで凌ごうとするものの、瞬く間にシールドごと左腕を斬り落とされてしまう。

 その勢いのままに攻め立てようと踏み込んでくるギャンだが、ガンダムAGE-Iは横っ飛びするようにギャンの左側へ回り込む。

 当然追い縋るべくギャンはモノアイを左側へ回転させ――

 

「今だ、ツキシマさん!」

 

「はい!」

 

 アスノの声に応じるように、カンナは頷いた。

 ライジングガンダムは左腕のシールドを切り離し、その盾下から、"弓"を展開する。

 ライジングガンダム特有の、ビームの矢を射る武器『ビームボウ』だ。

 

 ライジングガンダムはその弦――線状の指向性粒子を引いて弓をしならせ、砲口にビームが集束していく。

 

「必殺必中!ライジングアローッ!!」

 

 カンナの凛とした烈帛と共に放たれた"矢"は、真っ直ぐにギャンのボディへと向かう。

 

 ライジングアローに気付いたギャンは、シールドで身を守ろうとするが、文字通りの光速の一矢を見切れるはずもなく、コクピットブロックを貫かれた。

 

 ギャン、撃墜。

 

 同時に、アスノとカンナのモニターに『WIN!!』のテロップが表示された。

 

「……勝てた」

 

 バトルが終了し、リザルト画面が流れる前で、アスノは安堵に息を吐いた。

 彼にとっては、ソウジもショウコもいないバトルで、初めての勝利だった。

 

「アスノさん」

 

 隣にいたカンナが、柔らかく微笑んでいた。

 

「お疲れさまです」

 

「う、うん、こちらこそ」

 

 スキャンさせていたガンプラを手に取り、二人は筐体から離れた。

 

 自分にとっての、初勝利。

 これを機に、アスノの心はある事に傾きつつあった。

 

 

 

 一回戦こそどうにか勝ち抜けたアスノ・カンナペアだったが、そう何度も上手く行くことはなかったか、二回戦目で負けてしまった。

 もうひとつの、ソウジ・ショウコペアも二回戦まで勝ち抜いたものの、三回戦で今回の優勝候補ペアに当たり、善戦するに留まった。

 

 決勝戦の勝敗まで見届けた後、アスノ、ソウジ、ショウコにカンナを加えた四人で、スーパーマーケットのフードコートで昼食を兼ねた"残念会"をすることになったのだ。

 

「アスくんって、追い詰められないと実力発揮出来ないタイプだよねぇ」

 

 紙容器のドリンクを一口啜って、ショウコがアスノをそう評した。

 

「いや、追い詰められたって言うか。あそこでソウジとショウコが諦めるなって言ってくれなきゃ、多分諦めてたと思う」

 

 だからありがとう、とアスノは二人に礼を言う。

 

「そんな大した理由で言ったんじゃねーけどな」 

 

 それよりも、とソウジはカンナに目を向けた。

 

「ツキシマ。あんた、聖リーブラから転校してきたんだってな」

 

「はい、そうですが……そう言う情報ってどこから流れてくるのでしょうか?」

 

「聖リーブラはそんだけ有名な学校ってことだろ。そんなとこから、ウチみたいなド田舎学園にやって来たら、噂のひとつやふたつくらい漏れるだろうさ」

 

 それで、と続ける。

 

「一体何があってこっちに来たんだ?よほどのことでも無きゃ、聖リーブラから転校するなんてまずありえねーぞ」

 

 それを訊ねられ、カンナは少し遠い目をした。

 

「聖リーブラも楽しくて、お友達もたくさんいましたし、色んなことを一緒に成し遂げて来ました。でも、そう過ごしている内に、なんとなく『違和感』も感じていました」

 

 違和感?と聞き手の三人は声を重ねた。

 

「言ってしまえば……そうですね、"息苦しさ"でしょうか。それが辛いとか、嫌だとか、そう言うわけはなくて。私の学生生活はこれでいいのか、と疑問を覚えるようになったんです」

 

 そこでショウコが口を開く。

 

「大筋、読めてきたね……つまりツキシマさんは、男の子の友達が欲しかったと」

 

「ショウコ、茶化すなよ」

 

 こいつは真剣だぞ、とソウジは窘める。

 

「あはは……まぁ、それもあります」

 

 でもですね、とカンナは三人に改めて視線を向ける。

 

「それに……私をここへ導いてくれたのは、他でもないアスノさん……いえ、皆さんなんですよ?」

 

 ここへ――蒼海学園への転校を決意させたのは、アスノ、ソウジ、ショウコの三人だというカンナ。

 

 それはどう言うことかと、アスノが問えば……

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 

「「「えぇぇぇぇぇーーーーーっ!?」」」

 

 フードコートに三人の絶叫が響く。

 他のお客が何事かと奇異の目を向けるが、そんなことは誰も気にしてなかった。

 

 カンナが言うには、「実は以前にもアスノ達三人と会ったことがある」とのこと。

 アスノ自身は、記憶に無いがどこかでカンナと会ったことがあるのだろう、とは思っていたが、それがまさか三人でいる時とは思っていなかった。

 

「え、いつ、どこで?あたし達三人と会ったの?」

 

 捲したてるように訊き返すショウコだが、「それは乙女の秘密です♪」とはぐらかされてしまう。

 

「特にアスノさんには、良くしていただいて……」

 

「そ、そんな印象に残るようなことだったの?」

 

 それこそ記憶に無いんだけど、とアスノは慌てる。

 

「アスくん、覚えてないの?」

 

「……残念ながら」

 

 ショウコが非難するような目をアスノに向けるが、覚えていないのだからどうしようもない。

 

「やっぱり、アスノのお人好しのバーゲンセールにコロッとオチてたのか……」

 

 呆れたように深々と溜息混じりにぼやくソウジ。

 

「だからなんだよそのバーゲンセールは……」

 

 確かにその人がツキシマ・カンナと知らずに何か親切にしたかもしれないが、誰でも彼でも安売りしているような物言いはアスノにとって不本意だった。

 

「アスノさん、転校してきた私にこれっぽっちも気付いてくれないんですよ?ちょっと泣きそうになりました……」

 

「そっか……ごめん」

 

 ぷぅ、と可愛らしく頬をふくらませるカンナに、アスノはただ謝るしかない。

 

「とにかく、皆さんとの出会いが、私の背中を押してくれたんです」

 

 清々しくそう言ってのけるカンナには、眩しささえある。

 

「いや、ツキシマさんってば、本当にアスくんを追い掛けてここまで来たんだね」

 

 罪な男だねぇ、とショウコはアスノへニヤニヤした表情を向ける。

 

「罪な男って言われても……あ、そうだソウジ、ショウコ」

 

 ふと、アスノはある事を思い出す。

 

「さっきさ、今年の夏休みはGPVSの選手権に出ようって言ってたよね。今日のバトルで、決心がついた」

 

 一度呼吸を入れ替えてから、ハッキリと宣言するように。

 

「出よう、選手権に。記念出場とかじゃなくて、優勝を目指して」

 

 全力で取り組むと言う、意思表明だ。

 

「アスくん……」

 

「アスノ……」

 

 ショウコとソウジは声を重ねた。

 

「あ、あの!もしよろしければ、私も仲間入りをさせていただけませんかっ!」

 

 そこへ、カンナも続いた。

 やる気になったアスノと、仲間入りをさせてほしいと言うカンナに、ショウコは弾けるような笑顔を見せた。

 

「んよーし!アスくんもやる気なってくれたし、ツキシマさんも加わった!これは優勝待ったなしだね!!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 仲間入りを果たしたことへの感謝に、カンナはぶんぶんと首を立てに振る。

 

「……」

 

 しかし、そのショウコとは対象的に、ソウジの表情は浮かないものだ。

 

「どうしたのソウくん、せっかくアスくんやツキシマさんがやる気になってくれたのに」

 

「いや……アスノがやる気になるのも、ツキシマが仲間に入ってくれるのも、それはいいんだよ」

 

 けどな、とソウジは浮かないその理由を話す。

 

「俺達は元々、3on3の部に出ようとしてただろ?ツキシマが加わったら、一人余るだろ?」

 

「「あっ」」

 

 アスノとショウコが「しまった」と言う顔をした。

 

「5on5の部もあるけど、あと一人がいねーだろ。その辺、どうするかって思ったんだよ」

 

「「「……」」」

 

 

 同じチームとして登録していれば、3on3の部でも選手を入れ替えてバトルを行うことは出来るが、それは少し違うだろうともソウジは言う。

 

「あの……やっぱり私、辞退しましょうか……?」

 

 横から割り込んできた身であるカンナは、おずおずと辞退しようとするが、

 

「あーあー!大丈夫大丈夫!ツキシマさんはもうあたし達の仲間だから!」

 

 慌ててショウコがカンナを思い留まらせる。

 

「……と言うことは、選手権までにあと一人を見つけるべきってことか」

 

「まぁ、それは何とかなるだろ。今日のところは、ツキシマの仲間入りを祝おうじゃねーか。ほらみんな、飲み物持ってくれ」

 

 問題点を言おうとするアスノだが、それは一旦棚上げするようにソウジは率先して音頭を取る。

 

「よーし……んじゃ、新しい仲間との出会いを祝して、乾杯!」

 

「「「かんぱーい!」」」

 

 四人はそれぞれの紙容器を擦り合わせた。

 

 

 

 中学生活最後の夏休みを懸けた少年少女の青春は、今ここから始まる――。




 次回更新は未定になります。
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