アスノ達の見えないところで、ジュゲムが一悶着あったところで。
「みんなすごく強いのね。総当たり戦なのに、全戦全勝って」
フードコートで、各々好きなものをオーダーしていく中、ミカは身内贔屓無しにそう称えた。
「そりゃ、俺らは優勝目指して来てますから」
ソウジはさも当たり前のように言ってのける。ミカの前だから『えぇかっこしぃ』をしたいだけだろうが。
「この調子で優勝まで……と言いたいけど、ベスト8まで来ると、楽なバトルにはならないかな」
アスノは、自分達以外のベスト8まで勝ち残ったチームを思い返す。
アズサ達ブルーローズに、ハヤテ達月影はもちろんだが、少なくとも各ブロックの猛者を打倒してきたチームばかりだ。
予選のように、トントン拍子には勝ち進めないだろう、とアスノは睨む。
「まぁまぁ、今ここで考えても仕方ないし、まずはごはんだね!腹が減ってもバトルは出来るけど勝てないって、昔の偉い人も言ってたくらいだし!」
「ショウコさん、それは『腹が減っては戦はできぬ』のことでは?」
的を得ているのかそうでもないようなことを言うショウコにカンナは冷静にツッコミを入れた。
朗らかな笑いが緊張を解すが、ジュゲムだけは、どうにも深刻そうな顔で黙りを決め込んでいた。
「……なんだ?あんたがそんな顔するなんて、らしくねぇの」
ふと、ジュゲムの様子に気付いたソウジが、純粋に疑問に思った。
いつも余裕ありげな笑みを浮かべているこの褐色肌の男が、何故そんな顔をしているのか。
「……あぁ、ちょっと緊張で胃が辛くてね」
「おいおい大丈夫か?いざバトルになって体調不良でしくじるとか、勘弁してくれよ」
「ちょっと薬局で胃薬でも買ってくるよ」
もういつもの飄々とした様子に戻ったジュゲムは、ふらふらとフードコートを後にしていった。
その後ろ姿を見送って、アスノは抱いていた疑念を口にした。
「なんだか今日のジュゲムさん、変じゃないかな?」
「午前に、会場の前にいた時も様子がどことなく妙でしたし……」
それにすぐ理解を示したのはカンナだ。
「さっきお手洗いに行った後もだよね。本人は胃が辛いって言ってたけど……」
ショウコも、ジュゲムの違和感には気付いていた。
「(素直になった方が人生損しないって、人にそう言う割に、てめぇが一番素直じゃねぇのな)」
ソウジは声にこそしなかったが、夏合宿の時にジュゲムに言われた言葉を思い返していた。
「うーん、私はジュゲムさんのことはあまり知らないけど、何か悩みがあるのかしらねぇ」
何気なくミカがそうこぼした。
決勝トーナメントのトーナメント表が公開された。
真っ先に注目されるだろう、シード権によって最初から決勝トーナメントに君臨する、アカバ・ユウイチ率いるチーム・レッドバロン。
その位置は、アスノ達チーム・エストレージャの反対側――つまりは、双方勝ち進めば決勝戦で当たる形だ。
アズサ達チーム・ブルーローズとは、準決勝で当たり、ハヤテ達チーム・月影は、レッドバロンと準決勝でぶつかることになるようだ。
まずは決勝トーナメント、第1試合。
アズサ達チーム・ブルーローズは、『ヘルハウンド』というチームとのバトルを控えていた。
「それじゃ、先に準決勝で待ってるから。負けたりしないでよ、カンナ」
「アズサさんも、ご武運を」
バトルの前にそのようなやり取りがあった、カンナとアズサ。
「ヘルハウンドって強いのかな、聞いたことないチーム名だけど……」
ショウコが何気なくそう言った。
「毎年、打倒アカバ・ユウイチを目指しているチームだよ。そこそこには、強いはずだ」
意外にも、それに答えたのはジュゲムだった。
「それに、リーダーの『イヌイ・シゲル』は狡猾な男だ。ソノダちゃん達も、楽には勝たせてもらえないだろうね」
しかも、敵情にも何やら詳しい。
横からそれを聞いていたソウジは、いつものジュゲム"らしくなさ"に訝しがる。
「何だ何だ、あんたが他人のことをそんなに話すなんて、今日は本格的にどうしたんだよ」
「…………ちょっと、お喋りが過ぎたな」
そう溢してから、ジュゲムはこれから始まるバトルに目を向ける。
ランダムフィールドセレクトは『フロンティアⅣ』。
原典は『F91』の冒頭部分に当たり、制圧を目論む『クロスボーン・バンガード』と、駐留する連邦軍が交戦するのだが、兵の士気に加えてMSの性能の差があまりにも大き過ぎたため、連邦軍は抗戦らしい抗戦はほとんど出来ないままに全滅、ハイスクールの生徒達のシーブック・アノーらもそれに巻き込まれてしまう。
GPVS上では、シンプルな市街戦を繰り広げることになる。
バナパスとガンプラを筐体に読み込ませつつ、アズサは静かに闘志を燃やしている。
「(これに勝てば準決勝戦でカンナと戦える……負けるわけにはいかない)」
ヘルハウンドがどこのチームだかは知らないが関係無い、吹き飛ばして勝ち進むまでだ。
出撃準備完了の表示を確認して、アズサは操縦桿を握り締める。
「ソノダ・アズサ、ガンダムアズールカノン、チーム・ブルーローズ、行くわよ!」
勢いよく操縦桿を押し出して、アズサはガンダムアズールカノンを発進させる。
クロスボーン・バンガード側から出撃するチーム・ブルーローズは、コロニーの宇宙港から内部へと進入していく。
コロニー内へ進入、地表へ降下する。
しかし、ここまで来てもまだチーム・ヘルハウンドの動きは見えない。
「罠を張って待ち構えているわね。各機、トラップや狙撃に注意して」
僚機らからの「了解」を確認し、ドライセンが先頭に立って市街地へ進む。
モノアイを世話しなく上下左右させて警戒し――不意に建造物と建造物の隙間から『ハイザック』と『ジンクスⅢ』がビームライフルを覗かせて射撃してきた。
「二機だけ……迂闊に踏み込まないで、この場で応戦する!」
恐らくこの二機は陽動か囮だと見立てを立てたアズサは、深追いせずにこの場で留まる作戦を取った。
追撃を仕掛ければ、向こうの思う壺だろうと判断したアズサだったが、
市街地に踏み込んで来た時点で、彼女らの敗北は必至であった。
遮蔽物を間に挟んだゲリラ戦を続けるハイザックとジンクスⅢに対し、アズサ達は辛抱強くこの場での砲撃戦を継続し――
突如、アズサのコンソールがアラートを告げる。
「狙撃、じゃない……下から!?」
その方向は、自身の足元周りからだった。
視界を下に向けようとするよりも前に、無数の爆発がガンダムアズールカノンを襲った。
それは他の僚機達も同じで、機体のあらゆる方向から爆発が発生し、決してそれは大きなダメージでは無かったが、しかし体勢を崩されてしまい、そこへハイザックとジンクスⅢが躍り出て、ヒートホークやGNビームサーベルでギラ・ドーガとドライセンを切り裂いてしまう。
ギラ・ドーガ、ドライセン、撃墜。
「なにっ、何がっ、起きて……!?」
地雷や機雷の類ではない。
何が起きているかは分からないが、ともかくこの場に留まるのは危険だと察し取ったアズサは、ガンダムアズールカノンを後退させようとして、
その背後から敵機だろう『ウィンダム』と『レギンレイズ』が回り込んで来ており、この場からの離脱を許さない。
「くっ……邪魔よ!」
ガンダムアズールカノンはダブルガトリングガンをウィンダムとレギンレイズに向けて掃射しようとするが、今度はダブルガトリングガン自体が爆発し、弾倉が引火して爆散する。
「ど、どうして……!?」
既にシュヴァルベグレイズも撃破され、残るGバウンサーがどうにかハイザックを撃破したところだが、その隙をジンクスⅢに突かれてビームサーベルを突き立てられてしまう。
Gバウンサー、撃墜。
完全に包囲されてしまったガンダムアズールカノンだが、全てのミサイルとガトリング、ガイアントキャノンまで駆使して事態の打破を嘗みるものの、ヘルハウンドの面々からの一斉掃射が放たれる。
「カンナ……ごめん」
ビームと銃弾が次々に装甲を貫き、ガンダムアズールカノンは崩れ落ちた。
ガンダムアズールカノン、撃墜。
『Battle ended. Winner.Hell hound!!』
会場は不気味な沈黙に包まれた。
当然だろう、どんな手品を使ったのか、ブルーローズのガンプラの各所が突如謎の爆発を起こしたのだから。
「アズサさん……」
観客席からバトルを観戦していたカンナは、筐体を前に項垂れるアズサをただ見ているしか出来なかった。
「おい、何だよ今の……インチキじゃねぇのか?」
ソウジは声に憤りを含ませた。
「今のって、レナート兄弟の『タイムストップ作戦』?」
正体不明の爆破攻撃を見て、ショウコは『ガンダムビルドファイターズ』で行われた特殊攻撃のそれを挙げる。
『ジムスナイパーK9』に搭載された、1/144スケールのジオン兵のフィギュアを飛ばし、相手のガンプラの関節や局所に爆弾を設置し、一定時間後に爆破させる、というものだ。
「いや……あんな砲撃戦の真っ最中にそんなこと出来ないよ?」
しかしその可能性を否定したのはアスノ。
ガンプラサイズから見ても、兵士のフィギュアは非常に小さく、ビームや爆発が飛び交う中で飛ばせば、簡単に吹き飛んでしまう。
「兵士のフィギュアを使うところは間違ってないよ」
そう答えたのは、ジュゲムだった。
「あれは、『兵士のフィギュアに対MS砲を持たせて、遮蔽物の隙間から砲撃を行わせた』んだ。爆弾の設置より確実性は劣るけど、グリスで滑ったりしないし、何より相手の認識を誤らせるという効果が大きいね」
「……んなこと、出来んのか?」
さすがのソウジも耳を疑った。
「不可能じゃないさ。相当の完成度や、緻密な操縦制御は必要だけども、『実際にオレもやったことがある』からね」
見ただけで何故それだと見抜いて、なおかつジュゲム自身もそれを実行したことがあるのか。
「ジュゲムさん、もしかして……」
カンナは、もしやの可能性を口にしようとして、ジュゲムは席を立った。
「後で話そう。それより、次はオレ達のバトルだ」
どの道、このバトルを勝ち抜かなければ、ヘルハウンドと戦うことすら出来ないのだから。
太平洋上空。
原典は『UC』のEpisode:5『黒いユニコーン』に当たる場面で、ミネバ・ザビとバナージ・リンクス、及びユニコーンガンダムを宇宙へ上げるために発進した連邦軍のガルダと、それらの奪還を試みるため追い縋るガランシェールとの、空中戦だ。
フィールドの八割は空中であり、足場と言える足場はガルダとガランシェールのみ。
当然、落ちたらフィールドアウトである。
ガランシェール側から出撃するアスノ達。
彼らの中で唯一空戦に対応出来るのは、ベースジャバーを持ってきていたジュゲムだけであり、他四人はガランシェールを守るような迎撃戦を強いられていた。
対する相手チームも、単独飛行可能な機体や可変機を投入してきており、アスノ達は防戦にならざるを得ない。
「クッソー!何もこんなフィールド選ばなくてもいいだろうが!」
ガランシェールの周囲を飛び回って攻撃して来る『リ・ガズィ・カスタム』にショットガンとロケットランチャーを撃ちまくる、ソウジのガンダムアスタロトブルームⅡ。
「よくよく考えたら私達、空中戦に弱いチームですよね……!」
カンナのガンダムダイアンサスもビームライフルとバルカン砲で、上空を飛び回る『アリオスガンダム』に抵抗する。
「くーっ、『シャイングラスパードラゴン』でも作っておけば良かったよ……っ!」
『フリーダムガンダム』にマギアマシンガンで必死に対空迎撃するショウコのロイヤルプリンセスルージュ。
そこへ敵機の『1.5ガンダム』がアルヴァアロンキャノンを集束し、ガランシェール自体を攻撃して足場を潰そうとしているが、アスノのガンダムAGE-Xのドッズファンネルがそれを阻止してみせる。
1.5ガンダム、撃墜。
「ようやく一機か……ジュゲムさん!1.5ガンダムは何とか倒せましたよ!」
四人が対空迎撃をしている一方で、ジュゲムのダーティワーカーは慎重にビームスナイパーライフルのスコープを覗いていた。
「ありがとさん。ならオレも、仕事の時間だ」
照準の先にいるのは、ガランシェールの艦艇に取り付こうとしているインフィニットジャスティスガンダム。
シュペールラケルタ・ビームサーベルを引き出そうとしているところを、一射。
いざガランシェールを攻撃しようとしていたインフィニットジャスティスガンダムはその狙撃への反応が遅れ、横腹を突き破られる。
インフィニットジャスティスガンダム、撃墜。
「次」
ジュゲムはベースジャバーを移動させ、ガンダムアスタロトブルームを攻め立てているリ・ガズィ・カスタムに照準を合わせ、まだロックオンしない。
ガンダムアスタロトブルームⅡはショットガンを連射してリ・ガズィ・カスタムをどうにか取り付かせないように抵抗しているが、いくら弾数を増やしているとはいえ、限度はある。
「(もう弾がねぇ……!)」
あと一、二回引き金を引けば、ショットガンは残弾ゼロになるだろうところで、偶然にも散弾の数発がリ・ガズィ・カスタムにぶつかり、ほんの僅か動きを鈍らせ、
「そこだ」
リ・ガズィ・カスタムが動きを鈍らせた瞬間ロックオン、ダーティワーカーからのビームスナイパーライフルがリ・ガズィ・カスタムの背部ユニットを貫いた。
まともな推力を失ったリ・ガズィ・カスタムはフラフラと高度を落としていき、フィールドアウトしていった。
リ・ガズィ・カスタム、離脱。
形振り構わなくなったか、アリオスガンダムはトランザムを起動し、狙撃をして回っているダーティワーカーを狙おうと迫る。
「ジュゲムさんっ、トランザムのアリオスがそっちに!」
ショウコの注意喚起を受け、ジュゲムは「問題ないよ、こっちで対処する」と返す。
トランザムの上からMA形態という超高速形態でGNツインビームライフルを連射してくるアリオスガンダム。
MS一機を乗せたベースジャバーの旋回性では振り切れず、粒子ビームがベースジャバーのバーニアを撃ち抜く。
バランスが崩れる中、ダーティワーカーはビームスナイパーライフルを捨てて、脚部からビームサーベルを抜き放ち、間髪無くアリオスガンダムは機首のGNビームシールド発生機を開き、クワガタムシのごとくダーティワーカーを挟み込んだ。
しかし、これは既にジュゲムの計算の内だ。
「倍返しだ」
挟み込まれたそのゼロ距離で、ダーティワーカーは頭部バルカンと腹部の歩兵バルカンを撃ちまくり、さらにビームサーベルを突き立てる。
ヒリング・ケアのガラッゾの時のような苦し紛れの反撃とは違う、確実にアリオスガンダムの急所――GNドライヴを覆う装甲の薄い部分を狙った攻撃だ。
アリオスガンダムは爆散、しかし爆風がダーティワーカーを下方へ吹き飛ばしてしまう。
アリオスガンダム、撃墜。
ダーティワーカー、離脱。
同時に、残る一機になっていたフリーダムガンダムが無謀にもラケルタ・ビームサーベルによる接近戦を仕掛けようとしたところを、ガンダムダイアンサスのビームボウが貫いた。
フリーダムガンダム、撃墜。
『Battle ended.Winner.Estrera!』
不利な戦況すらも奮戦して勝利したエストレージャに、歓声は上がる。
「やれやれ、何とかなったねぇ」
一番大立ち回りを演じたジュゲムは、涼しい顔をしながらそう宣った。
「全くだぜ……これ、大西洋とかダーダネルス海峡とかでの戦闘でも俺らキツくね?」
疲れたようにソウジはぼやく。
今回は僅かな足場を除けばほとんどが空中であったが、フィールド全体が海洋でも厳しい戦いを強いられるだろう。
「まぁ、勝てたからいいじゃん」
それよりさ、とショウコはジュゲムに訝しげな視線を向けると。
「ジュゲムさん、あのヘルハウンドってチームのこと、なんか知ってるでしょ?」
彼女のその言葉に、アスノとカンナも頷く。
「そうだね、……でもちょっと場所を変えてからね」
あまり他人に聞かれたくない話をするのだろう、ジュゲムは声のトーンを下げた。
会場の外に出て、日陰のある場所まで移動してから、ジュゲムは"昔話"を始めた。
――もうお察しの通りだろうけど、オレは半年前……去年の冬季選手権まで、チーム・ヘルハウンドに所属していたんだ。
それより以前はまぁ、それなりに仲良くやれていた方だと思うけどね。
さっきも言った通り、『打倒、アカバ・ユウイチ』を目標にして選手権に臨んでいたっていうのは、その時から変わらないんだけど。
で、ひとつ前の選手権、去年の冬季選手権にも出場していて、あと一戦勝てば予選リーグを突破できるところで、そこそこ強いチームと当たってね。
オレ達はその時、対チーム・レッドバロンに備えて、戦力の温存……本命とは違うガンプラで勝ち抜いていたんだけど、オレはそこで作戦立案の時に意見したんだ。
「出し惜しみはここまでだ、切り札を切ろう」ってね。
でも、リーダーのシゲル……イヌイ・シゲルは、それを聞いてくれなかった。
「レッドバロンと当たるまでは温存だ」と。
そうだと決定したんなら、出し惜しみしたままでやるしかなかった。
足りない分は、知恵と工夫でなんとかしようとはしたんだけど、やっぱりダメだった。
出し惜しみするあまり、本命を切る前に敗退してちゃ世話ないってわけだね。
負けてからオレはシゲルに「やっぱり出し惜しみなんてするべきじゃなかった」と言ったんだけど、その時にそいつ、なんて言ったと思う?
「負けたのはお前が立てた作戦のせいだ」ってね。
その通りと言い切ってしまえばそうでしかないんだけど、出し惜しみした上での作戦を要求したのはあいつだ。
そしたらまぁ、大喧嘩になってね。
終いには、「お前みたいな無能はいらねぇ、消えろ」だ。
いやぁ、ひどい言いぐさだね、人の意見は無視しておいて"無能"呼ばわりって。
オレはシゲルのお望み通り、ヘルハウンドを抜けて、ある一つの誓いを立てた。
「オレのやり方で、オレを否定したあいつらを否定し返してやる」と。
「あの時正しかったのは、お前じゃなくてオレだったんだぞ」と言ってやる一心で、この半年間をガンプラの製作とバトルの技術、策を練ることに費やした。
……言ってみれば、暗い"復讐心"だよ。
だからオレは、自分の『クロサキ・トウゴ』の名を隠して、ネット上で追跡されないようにハンドルネーム『ジュゲム』になった。
キャスバル・レム・ダイクンが、復讐のために仮面を被ってシャア・アズナブルになったようにね。
ガンプラもそうだよ、復讐と言う汚れ仕事を遂行するための機体……だから汚れ仕事人(ダーティワーカー)なんだ。
ジムスナイパーカスタムと似たようなカラーリングにしてるのも、『同胞を撃ち殺す』って言う皮肉を込めたものさ。
そこで、チームを組もうとしていた君達を見かけたのは僥倖だったよ。名瀬さんの提案を聞いてやるという建前の下でね。
そうして、君達を利用して復讐を成し遂げるために、この大会に臨んだ――。
「で、だ。オレには対ヘルハウンド戦を想定した、作戦プランがあるんだけど……」
"昔話"をそこで終えたジュゲムは、次の準決勝で戦うことになるヘルハウンド戦に備えた作戦を明かそうとするが、彼は少しだけ躊躇した。
「……これは、完全にオレの私情だけで立てた作戦。最終的には勝てる算段だけど、君達は決していい思いはしないだろう。オレのわがまま勝手のために、君達を駒にして、使い潰すための、とんでもない作戦だ。けれど、君達が掲げる『選手権の優勝』のためには避けて通れない戦いだ。勝つためだから仕方ない、そう思わせるために……」
「前置きが長ぇ」
躊躇しながらも言葉を続けるジュゲムを前に、唐突にソウジが口を挟む。
「昔のジュゲムさんがどうだったか、なんて今は大事じゃないんだし、そんな堅苦しいのはいいから、早く作戦を教えてくださいよ」
ショウコは挑戦的な目を向けて息を巻いている。
「コニシちゃん?いやしかし、オレはね……」
まだ躊躇するジュゲムに、カンナも続く。
「私達は今まで、ジュゲムさんの立てた作戦と指揮のおかげで勝ち抜いてこれました。私達が嫌な思いをするからなんて理由で、ご自分の為したいことを諦めないでください」
「……ツキシマちゃんまで」
さらにはチームリーダーたるアスノまでもが同調する。
「大丈夫。例えどんなに無茶苦茶な作戦でも、僕達はジュゲムさんを信じて従うだけですから。どんと来い、です」
アスノの言葉に、カンナとショウコは苦笑しながら頷き、総意である事を示す。
そんなクラスメート達を頼もしく思いながら、なおも踏ん切りの付かない様子のジュゲムに、ソウジは最後の一押しを押す。
「いいから言っちまえよ。あんたが無茶苦茶なことを言うなんざ、俺ら全員慣れてんだ。ほら、さっさと作戦立てねぇと時間が無くなっちまうだろ」
珍しく驚いた表情を見せるジュゲムに、ソウジは堂々と言い切った。
「『あんたが俺らを利用するってんなら、俺らもあんたを利用すりゃぁおあいこだ』。違うか?」
第三試合。
チーム・レッドバロンの、今季の初陣だ。
仮面を身に着けた、堂々たるその姿が会場に現れれば、観客席は一気に沸き立つ。
ランダムフィールドセレクトは『ガルナハン・ローエングリンゲート』
原典は『SEED DESTINY』に当たり、強力なローエングリン砲と、強固な陽電子リフレクターを持つMA『ゲルズゲー』が立ち塞がる、地球連合軍の要塞だ。
高低差の激しい崖が特徴的なフィールドだが、原作再現のためか、小型のガンプラであれば地下空洞を通ることが出来たりもする。
ユウイチの愛機、ドムソヴィニオンがリニアカタパルトに立ち、モノアイを力強く輝かせる。
「アカバ・ユウイチ、ドムソヴィニオン、チーム・レッドバロン、出るぞ!」
地球連合軍側から出撃する、レッドバロンの面々。
彼のドムソヴィニオンの他には、『ゲルググJ』『ギラーガ』『グリムゲルデ』『ダリルバルデ』と言った、"赤い"機体が続く。
対するザフト軍側から出撃してくるのは、五機とも『デスティニーガンダム』だ。
しかしそれぞれ、カラーリングの変更と、一部カスタムが施されているそれらは、設定上のみ存在する、七騎のデスティニーガンダムで構成された部隊『コンクルーダーズ』のそれのようだ。
七騎のデスティニーガンダムの内、その内二機はオリジナルの『シン・アスカ』機、オレンジ色の『ハイネ・ヴェステンフルス』機(設定上のみ)が公式化されているため、ちょうど五機空いている概算だ。
緑色、赤色、白色、黒色、ピンク色という構成から、ザフト軍の軍服の色と、『ミーア・キャンベル』のライブザクウォーリアを模したものだろう。
全機がデスティニーガンダムのみの、チー厶・『コンクルーダーズ』は、一斉に上空から左翼ウェポンラックから高エネルギー長射程ビーム砲を展開すると、ローエングリンゲート全体を薙ぎ払うように一斉射してくる。
けれどユウイチ達は何ら慌てることなく散開して高エネルギーを躱し、即座に対空迎撃を撃ち返す。
ゲルググJの大型ビームマシンガンと、ギラーガのビームバスターに貫かれ、ピンク色と緑色のデスティニーガンダムが早くも撃墜される。
残る内、指揮官だろう黒いデスティニーガンダムは高エネルギービームライフルで射撃を継続し、残る赤と白のデスティニーガンダムが光の翼を広げて突撃する。
高速で迫りくる二機のデスティニーガンダムに対して、ドムソヴィニオンは真っ先に突撃し――その二機の間をすり抜けて、黒い指揮官機のデスティニーガンダムを狙う。
続くのはダリルバルデだが、ダリルバルデは背部一対のドローンユニット『イーシュヴァラB』を射出、ビームサーベルを発振させて赤いデスティニーガンダムを迎え撃ち、自身はビームジャベリンを手に白いデスティニーを相手取る。
イーシュヴァラBに足止めをされる赤いデスティニーガンダムに、素早い機動でグリムゲルデが接近し、振り下ろされるアロンダイトの一撃を受け流すと、瞬時にシールド裏からヴァルキュリアブレードを回転させて突き出し、VPS装甲のそれすらも容易く斬り裂いてみせた。
ダリルバルデのビームジャベリンと白いデスティニーガンダムのアロンダイトが激しく打たれ合う中、不意にダリルバルデはぐるりと身を翻し、脚部の『シャクルクロウ』を射出、白いデスティニーガンダムの右腕に組み付くと、ワイヤー越しに電流を流し込み、間接攻撃を行う。
白いデスティニーガンダムは左マニピュレーターのパルマフィオキーナでシャクルクロウのワイヤーを焼き切り、電撃から解放され――背後からのアラートが鳴り響いたと思った瞬間には、二分割されたビームジャベリン――ビームアンカーとビームクナイを握る『イーシュヴァラA』が、白いデスティニーガンダムを斬り裂いていた。
残る黒い指揮官機のデスティニーガンダ厶に、ドムソヴィニオンが迫る。
両肩のビームブーメラン『フラッシュエッジ2』を投げ放つが、ドムソヴィニオンはファンネルを展開、三基一対のそれらを制御して瞬時にフラッシュエッジ2を撃ち落とす。
続いてジャイアントバズを発射、黒いデスティニーガンダムは左手首からビームシールド『ソリドゥス・フルゴール』を発振させて砲弾を防ぐ。
砲弾の爆煙が立ち昇る中、ドムソヴィニオンは構わずにそのまま二発、三発とジャイアントバズを連射、立て続けに黒いデスティニーガンダムを爆煙が包む。
すると爆煙から現れた黒いデスティニーガンダムは、左腕を失っていた。
いくらビームシールド越しとはいえ、いくらVPS装甲とはいえ、立て続けに攻撃を受けては無傷ではすまない。
やぶれかぶれにアロンダイトを抜き放って突撃してくる黒いデスティニーガンダムだが、ドムソヴィニオンもビームサーベルを抜き放ち、振り抜かれるレーザー対艦刀の一閃をひらりと躱し、すり抜け様にビームサーベルで黒いデスティニーガンダムのボディを斬り裂いてみせた。
デスティニーガンダム、撃墜。
『Battle ended. Winner.Red baron!!』
レッドバロンの圧勝というある種の予定調和、しかし観客席の興奮は凄まじく、さらにユウイチがギャラリーに向かって会釈してみせればもう最高潮。
続く第四試合は、ハヤテ達チーム・月影のバトルだ。
レッドバロンほどの圧勝ではないにしろ、前大会セミファイナリストチームは伊達ではない。
ラグランジュ5『エクリプス』にて、早くも相手チームを追い詰めており、ハヤテの黒影丸は敵リーダー機のΞガンダムの前に躍り出る。
30m近い巨躯のΞガンダムとSDの黒影丸を比較すると、そのサイズ差はまさに巨人と小人。
無数のファンネルミサイルが黒影丸を取り囲むが、即座に両手の無明閃を連射、ファンネルミサイルを次々に撃ち落としていく。
埒が明かないとビームサーベルを引き抜いて接近戦に持ち込むΞガンダムだが、
「秘技・無影旋風斬!受けてみろォォォォォーーーーーッ!!」
黒影丸は無明閃を水平に構えて高速回転を開始し、黒い竜巻そのものとなってΞガンダムを呑み込み、ズタズタに斬り裂いた。
Ξガンダム、撃墜。
『Battle ended. Winner.Tsukikage!!』
チーム・月影も無事に勝ち抜き、準決勝にてレッドバロンと当たる。
ここまで勝ち残ってきたベスト4が激突する。
この熾烈な準決勝を勝ち抜いた者同士が、決勝への舞台に立つことを許される。
準決勝第一試合 エストレージャVSヘルハウンド
仄暗い復讐心を乗せた五芒星(ペンタゴン)と、血に飢えた地獄の猟犬(ヘルハウンド)が、静かに冷たく対峙する――。