ガンダムビルダーズハイ   作:さくらおにぎり

13 / 17
13話 電光雷轟、神算鬼謀

 チーム・ヘルハウンドとのバトルに臨む、チーム・エストレージャの面々。

 間もなく試合開始につき、両チームスタンバイの、その少し前。

 

「あぁ、ここにいたのね、カンナ」

 

 ジュゲムの"昔話"と作戦会議を終えたところで、先ほどにヘルハウンドに敗北したアズサが、カンナに話しかけてきた。その表情には、幾分かの消沈が見られた。

 

「アズサさん……その、」

 

「仇は取る、なんて殊勝なこと言わないでいいわよ」

 

 カンナが何を言おうとしたのか、アズサはその先を遮る。

 

「私達は負けた、それだけよ。あなた達に雪辱を果たせなかったのは残念だけどね」

 

 アズサの視線が、カンナの後ろにいる面々にいる向けられる。

 

「これから私が言うことは、ただの独り言なんだけど……」

 

 独り言を言いますとわざわざ前置きを置くアズサ。

 

「実際に戦ってみた私個人の感想。あのチーム、ゲリラ戦が得意なのは間違いなさそうだけど……なんとなく、『足並みが揃い切れてない』ようにも見えたわ。隙があるとすれば、多分そこよ」

 

「…………さぁ皆さん、行きましょうか」

 

 確かにそれを聞いたカンナは、敢えて返事をしなかった。

 これはアズサの独り言なのだ、それに一々反応するのもおかしな話だから。

 

 

 

『これより、準決勝第一試合、チーム・エストレージャと、チーム・ヘルハウンドとのバトルを開始します。両チーム、出撃準備をどうぞ』

 

 アナウンスに従い、両チームの面々は筐体にバナパスとガンプラを読み込ませていく。

 

 そんな最中、ヘルハウンドのリーダーたる、イヌイ・シゲルはジュゲムに敵意の視線を向けていた。

 対するジュゲムは、そんなシゲルの視線に気付いているのかそうでないのか――いいや気付いているだろう。気づいていて敢えて無視しているのだ。

 お前など眼中に無いと言われているようで、シゲルとしては少し面白く無かった。

 

「(トウゴ……てめぇが何を企んでるか知らねぇが、俺の邪魔をするってんなら、昔の仲間だろうが容赦はしねぇ)」

 

 無能だと謗った男が、今度は自分の敵になって立ち塞がる。

 何かの因果のようなものは感じるが、そのようなジンクスなど知ったことではない。

 

 全機のガンプラが読み込まれたところで、ランダムフィールドセレクトは『サンダーボルト宙域』を選択する。

 

 原典は『サンダーボルト』に当たり、破壊されたコロニーや、撃沈された戦艦の残骸が無数に漂う暗礁宙域で、それら残骸がぶつかり合い帯電したデブリによって、稲妻が閃くような発光現象が絶えないことから、連邦、ジオンの双方から『サンダーボルト宙域』と呼ばれている。

 

 GPVS上では、障害物であるデブリが非常に多い上に、不定間隔で強いフラッシュが発生し、運が悪いとその稲妻に巻き込まれてダメージを受けるという、非常に危険なフィールドである。

 

「サンダーボルト宙域か……各機、稲妻には注意して立ち回れよ」

 

「「「「了解」」」」

 

 僚機らからの応答を確認したところで、出撃開始だ。

 

「イヌイ・シゲル、ガンダムファラクト……チーム・ヘルハウンド、喰らい尽くす!」

 

 リニアカタパルトから打ち出されるシゲルのガンプラは、漆黒の装甲にひょろ長い四肢、バックパックから伸びる肩の大型ブースターと長銃身のライフルが特徴的な、『ガンダムファラクト』。

『水星の魔女』に登場するペイル・テクノロジーズが開発した、高い機動性と優れた射撃能力が売りの、GUND-ARM搭載型MSだ。

 ガンダムファラクトを先頭に、ハイザック、ジンクスⅢ、ウィンダム、レギンレイズが続く。

 

 

 

 今回のフィールドがサンダーボルト宙域だと見るなり、ジュゲムはすぐにチームメイト達に通信を飛ばす。

 

「ラッキーだ。これは……面白いことになりそうだ」

 

「面白いこと、ですか?」

 

 何のことかとアスノが訊ねると。

 

「作戦プランをちょっと修正する。各員、よぉく聞いてくれよ……」

 

 ジュゲムの作戦とは、如何なるものか。

 

 雷鳴轟く暗礁宙域に、五芒星は輝くのか。

 

 

 

 いち早くデブリに取り付いたヘルハウンドの面々は、即座に行動を開始していく。

 

「よぉし、向こうはまだ動いてねぇ。プラン4で誘い出すぞ」

 

 了解の応答を返し、作戦を展開していく。

 デブリの陰から、シゲルはウェポンセレクターを開き、ロングライフル『ビームアルケビュース』を選択する。

 

 やがて、サンダーボルト宙域に、チーム・エストレージャのガンプラが現れる。

 しかし、その構成にシゲルは疑念を抱いた。

 

「アスタロトに孫尚香ルージュ、ライジン、Ez8……、……AGE-1はどこ行った?」

 

 見えたのは、ガンダムアスタロトブルームⅡ、ロイヤルプリンセスルージュ、ガンダムダイアンサス、ダーティワーカーの四機だけで、リーダー機たるガンダムAGE-Xの姿は見えない。

 

「まぁいい……どうせどこかに潜んでいる。このまま作戦通りに行くぞ」

 

 元々、ジュゲムのダーティワーカーが最初に姿を見せないものだと想定はしていたが、それがガンダムAGE-Xに代わっただけのことだと、シゲルは作戦を継続する。

 

 しかし捕捉できている四機が、トラップの類などまるで警戒しようともせずにフラフラとデブリベルトに突入していくのを見て、ハイザックが嘲笑う。

 

「バカが、真っ直ぐ来やがった」

 

 十分踏み込んできたところで、トラップを起動させようとしたハイザックだが、

 

「ん……いや、ちょっと待て!」

 

 シゲルは咄嗟に待ったを呼びかけた。

 敵はこちらの素性を知っているトウゴ(ジュゲム)が指揮を執っているはずなのに、あまりにも迂闊過ぎるのだ。

 まるでこちらのトラップの起動を待っているかのように……

 

 けれどその制止の声は既に遅く、僚機らは作戦通りにトラップを起動させると、『一部のデブリが破裂して、網が飛び出した』。

 これは、ダミー隕石の中にネットを仕込んだものだ。

 ただのデブリだと思って通過しようと思ったらまんまと網に掛かって機体を絡め取られる……はずだった。

 

 目に見える敵機はネットが絡みついても、慌てるどころか無抵抗に仰け反るだけ。

 

「お、おい、なんかおかしくないか?」

 

「よく見ろバカ!こいつらはダミーバルーンだ!連中、『俺達と同じ手』をぶつけて来やがった!」

 

 ダミーバルーンだというシゲルの声に、僚機らはすぐにカメラを拡大させ、よく見ると『それっぽい色と形をした風船人形』だった。

 同時に、ネットが絡み付いたダミーバルーンが次々に破裂すると、煙と共に無数の光の粒が飛び散る。

 

「なんだ、スモーク?」

 

「ちが……通信……!?」

 

 目眩ましのスモークかと思えば、次々に僚機達からの通信が途絶していく。

 

「落ち着け!こいつは『ナノミラーチャフ』だ……クソッ、通信が途絶してやがる!」

 

『鉄血のオルフェンズ』に登場する撹乱物質だと気付いたシゲルだが、それを口にしても僚機達には届かず、その様子のモニタリングも砂嵐になる。

 

「ビームでも何でも打てば吹っ飛ぶってのに!気付けよ!」

 

 ナノミラーチャフは熱に弱く、ビームやミサイルの爆風で簡単に消失してしまうのだが、虚を突かれたせいでそのことに気づけない僚機に、シゲルは声を荒げる。

 ビームアルケビュースを撃ってナノミラーチャフを吹き飛ばそうと考えたが、下手に撃つと自機の位置を気取られてしまう。

 

 ナノミラーチャフに混乱している内にも、戦況は動く。

 

 

 

 ナノミラーチャフの散布と同時に、ソウジのガンダムアスタロトブルームⅡは敵中堂々と突撃する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「おぉらぁぁぁぁぁッ!!」

 

 レギンレイズに狙いをつけると、デモリッションナイフを抜いてフルスイング。

 ガンダムアスタロトブルームⅡの接近に気付いたレギンレイズは、130mmライフルのソードユニットでデモリッションナイフを受けるが、弾き飛ばされて体勢を崩してしまう。

 

「格闘の間合いにさえ踏み込めりゃ、十分なんだよ!」

 

 ナノミラーチャフの効果を吹き飛ばさないように、あくまでも格闘戦で攻め立てるソウジ。

 

 その逆サイドからは、カンナのガンダムダイアンサスがヒートナギナタを手にジンクスⅢへ躍り掛る。

 

「せぇいッ!」

 

 振り抜かれるヒートナギナタに、ジンクスⅢはGNビームシールドを展開し、ガンダムダイアンサスの斬撃を凌ごうとしている。

 

「トゥトゥヘヤァーッ!モゥヤメルンダ!」

 

 さらに(アスラン・ザラの格闘攻撃時のボイスを真似しながら)ショウコのロイヤルプリンセスルージュが、マギアサーベルを抜いて、ウィンダムへと攻めかかる。

 

 通信が途絶しているのは彼らも同じだが、予めジュゲムから「ナノミラーチャフを使う」と教えられているため、混乱することなく、状況を確かめながら立ち回っている。

 

 現在フリーなのはハイザックだけだが、そのハイザックは持ち場を離れてでも僚機の援護を行うべきなのか、それともあくまで作戦プランを継続するべきなのかを測りかねて、モノアイを右往左往させている。

 シゲルからの指示が無く、しかもその彼からは独自判断を許されていないので、結局最初のプラン通りに動くしかないはず……とジュゲムは、そう作戦会議で言っていた。

 

 

 

 イヌイ・シゲルという男は、基本的にはワンマン気質だ。

 自分の判断力に自信を持ち、事実彼の判断力もあって、チーム・ヘルハウンドはそこそこの実力を持つことが出来て、こうして決勝トーナメント戦にまで勝ち上がっている。

 

 けれど、他人からの意見を聞き入れるかどうかはまた別の話だ。

 彼にとっては、自分が正しいと思っていることを遠回しに否定されているも同然なのだから。

 故に、クロサキ・トウゴとは作戦会議の場で意見が反り合わないこともあり、彼をチームから追放した時は清々したものだ。

 邪魔者を排除したことで、今度こそアカバ・ユウイチをその天上から引きずり下ろすと意気込んで臨んだこの大会。

 けれどそこで待っていたのは、何故か「ジュゲム」と名乗るトウゴが、中学生チームの作戦参謀を気取る姿。

 

「(どこまでも俺の邪魔をしやがって……!)」

 

 ナノミラーチャフの効果は脆くも絶大だった。

 ちょっと作戦プランを乱されたぐらいで、あぁも簡単に翻弄されて。

 

「クソがァ!」

 

 ついに痺れを切らしたシゲルは、ガンダムファラクトをデブリの隙間から乗り出させ、ビームアルケビュースを連射し、ナノミラーチャフを焼き払い、ようやく通信回線が回復した。

 

「ナノミラーチャフなんざに惑わされてんじゃねぇ!」

 

 すると、ガンダムファラクトの姿を発見したのか、ダークグリーンのガンダムEz8こと、ダーティワーカーがデブリの隙間から飛び出し、ガンダムファラクト目掛けて100mmマシンガンを連射しながら突撃してくる。

 

「来やがったか、トウゴ……パーメットスコア3!」

 

 シゲルはウェポンセレクターから『GUND-ARM』の項目を選択し、その段階数値を上げた。

 機体とパイロットとの同調率が上がり、ガンダムファラクトの各部が紅く発光する。

 

「行けよ、『コラキ』!」

 

 同時に、ガンダムファラクトのブラストブースターに設置されていたそれらが蠢くと、二対ずつになって自律機動し、その隙間に紅いビームを発振させる。

 これはガンダムファラクト特有のビット兵器であり、このビーム自体に攻撃力は無いが、『接触した部位の機能を一時的に麻痺させる』という効果を持つ。

 

 コラキによってスタンさせたところを、必殺のビームアルケビュースで狙い撃つ、というのがガンダムファラクトの基本戦術だ。

 

 するとダーティワーカーはコラキによるスタンを警戒し、そこで接近を止める。

 

 ガンダムファラクトは一度ビームアルケビュースを納めると、袖口からビームサーベルを抜き、脚部のビーム砲『ビークフット』を撃ちながらダーティワーカーへ迫る。

 対するダーティワーカーも左マニピュレーターにビームサーベルを抜き放って迎え撃つ。

 

 瞬間、双方のビーム刃が激突し、サンダーボルト宙域に激しい閃光を撒き散らす。

 

「司令塔が自ら出てくるとは、戦いの基本がなっちゃねぇなぁ、トウゴ!」

 

『……』

 

 接触通信に対する相手は何も答えない。

 鍔迫り合いをしている最中にも、ダーティワーカーの背後からコラキが回り込み、迫る。

 ダーティワーカーは強引にガンダムファラクトを弾き返し、コラキのビームを躱すべく下方へ逃れる。

 しかしそれはガンダムファラクトとの距離を離すことになり、すぐに再びビークフットからのビームが襲い来る。

 

「(ナノミラーチャフの効果は切れたのに、AGE-1の姿はまだ見えねぇ……わざと数的不利になってんのか?)」

 

 ジュゲムが立案しただろう作戦があまりに不可解で、読みきれない。

 事実、連携を取り戻した僚機四機は、数的優位を活かすように立ち回り、敵チームの三機を追い込んでいるにも関わらず、まだリーダー機のガンダムAGE-Xは現れないのだ。

 狙撃を狙っているのかもしれないが……しかしこと長距離狙撃ならばダーティワーカーの方が適任だろう。

 シゲルが憶測を立てている内にも、ダーティワーカーはコラキを振り切って再びガンダムファラクトへ100mmマシンガンを連射しながら迫りくる。

 

「「お前だけはオレが討つ」ってか?ハッ、お仲間はそのための捨て駒か!」

 

 ジュゲムが何らかの感情を含ませているのは分かっているのだ。

 その感情とはおそらくは、自身を追放したシゲルに対する復讐。

 だから、狙撃の役割を他人に任せてまでこうして自分に執着するのだと、シゲルはそう見て取った。

 

 瞬間、どこかで帯電したデブリが激しく発光し、稲光が宇宙を切り裂き――ハイザックの撃墜が通知された。

 

「……バカが、サンダーボルトに巻き込まれやがったのか」

 

 運の悪いことだ、とシゲルは吐き捨てて、ダーティワーカーに注意を向け直す。

 

 ――その"決めつけ"が、自身の首を真綿で絞めていることに気付くはずもなく。

 

 

 

 ハイザックを『撃墜した』ことで数的差が無くなり、ガンダムダイアンサスとロイヤルプリンセスルージュは、背中合わせに立ち回りながら、ジンクスⅢとウィンダムを相手取っている。

 

「上手く引き付けているようですね」

 

 ガンダムダイアンサスのビームライフルとバルカン砲でウィンダムを牽制しつつ、カンナはショウコに接触通信を行う。

 

「今のところはね。ほんと、直前になってとんでもないこと考えたよねぇ、ジュゲムさん」

 

 同じく、ロイヤルプリンセスルージュのマギアマシンガンと、左肩の110mm機関砲を連射してジンクスⅢを寄せ付けないショウコ。

 

 二人の視線の先にいるのは、ガンダムファラクトを追うダーティワーカーの姿。

 

 とは言え、ジンクスⅢとウィンダムの連携もなかなかのものだ、カンナとショウコは徐々に追い込まれつつある。

 

「『次の雷』はまだなのぉ!?」

 

「辛抱ですよ、ショウコさん……っ!」

 

 ガンダムダイアンサスがシールドで、ウィンダムからのビームを防ぎ、ロイヤルプリンセスルージュもマギアサーベルを高速回転させてビームシールドのようにしてジンクスⅢからのGNビームライフルを跳ね返す。

 

 そしてその瞬間――帯電したデブリ同士の衝突による、"落雷"が発生、激しいフラッシュがサンダーボルト宙域を照らす。

 

 同時に、一筋のビームが閃光の中を横切り――ウィンダムの背後を貫いた。

 

 ウィンダム、撃墜。

 

 しかし同時に、

 

「…………わりぃ、しくじった」

 

 ソウジのガンダムアスタロトブルームⅡの撃墜通知が届いた。

 

 ガンダムアスタロトブルームⅡ、撃墜。

 

 

 

 デブリに身を潜め直していたシゲルのガンダムファラクトだったが、再びサンダーボルト宙域に落雷が襲った。

 

 そのフラッシュが終わると同時に、今度はウィンダムが撃墜されたのを見て、シゲルは声を荒らげた。

 

「ハァ!?また巻き込まれやがったのか!?」

 

 一度なら偶然だと思えるが、二度も同じことが起きれば、さすがに「何かおかしいぞ?」とシゲルの中で疑念が浮かぶ。

 

 しかし同時に、青いガンダムアスタロト――ガンダムアスタロトブルームⅡが撃破されたことも通知される。

 

「(これでやっと一機……っても数的不利には変わりねぇ。敵のリーダー機は一体何を企んでやがる?)」

 

 ここまで戦況が動いても、ガンダムAGE-Xはまだ姿を見せない。

 しかしそれを考えている暇はない、ガンダムファラクトを発見したダーティワーカーが再び距離を詰めてくる。

 

「クソっ、考える余裕もねぇ!」

 

 シゲルは操縦桿を引き下げ、ブラストブースターを加速させてガンダムファラクトはダーティワーカーとのイニシアティブを保つ。

 

 ビークフットのビーム砲と100mmマシンガンの銃弾が交錯しつつ、再び互いのビームサーベルが衝突する。

 

「トウゴ!テメーいい加減しつけぇんだよ!」

 

『……』

 

 されど通信先から返ってくる声はない。

 

 ハイザックとウィンダムが撃墜された今、僚機のジンクスⅢとレギンレイズの二機は合流して足並みを揃えようとしている。

 とはいえ、ガンダムダイアンサスとロイヤルプリンセスルージュもなかなかに粘るようで、互いに連携しつつも、ジンクスⅢとレギンレイズを合流させないように立ち回っている。

 

 シゲルは独断を決意する。

 

 本来なら僚機と連携して発動するトラップを、単独で使おうとするのだ。

 眼前にいるダーティワーカーさえ排除出来れば、自分も前線に出ることで数的優位によって押し切れる。

 

 そう高を括ったシゲルは、ビークフットのビーム砲でダーティワーカーを牽制しつつも、誘い出す。

 

「(そうだろうよ、お前なら俺を仕留めたくて追ってくるはずだ)」

 

 怨敵を自分の手で倒したいだろうジュゲムなら、この誘いに乗ってくるだろうし、仮に追ってこなければビームアルケビュースで背後から狙い撃ちにするだけだ。

 

 すると狙い通り、ダーティワーカーはガンダムファラクトを追ってくる。

 

「(よぉしいいぞ、てめぇならそう判断するはずだ、俺を逃したくないならな!)」

 

 100mmマシンガンの銃弾を避けながら、デブリとデブリの間を縫うように潜り抜けていく。

 

 そうこうしていく内に、ジンクスⅢがロイヤルプリンセスルージュを撃墜し――また宙域に激しい稲妻が迸り――一拍置いてジンクスⅢも撃墜される。

 

 けれどシゲルはもう僚機の撃墜を気にしない、いいや気にしている場合ではない。

 迫りくるダーティワーカーを確実に仕留めるためには、一時たりとも集中力を途切らせてはならないのだから。

 

 そして、ダーティワーカーがついにそのポイントに踏み込んだ。

 

「もらったァッ!」

 

 その時を待ちに待っていたシゲルはウェポンセレクターを押し込む。

 

 瞬間、ダーティワーカーが通過しようとした時、突如として何発もの爆発が襲い掛かった。

 

 ブルーローズとのバトルでも使った、対MS砲を持たせたフィギュアの兵士達による砲撃だ。

 

 本来なら他の僚機と連携して、さらに多数の砲撃を喰らわせるつもりだったが、ダーティワーカー一機を仕留めるだけならこれだけで十分だった。

 

 対MS砲による砲撃で全身のバーニアを破壊され、もうダーティワーカーはまともに動くことさえ出来ない。

 

「残念だったなぁ、トウゴ!」

 

 ガンダムファラクトはビームアルケビュースを構え、その銃口をダーティワーカーのボディへ向ける。

 

「てめぇの……負けだァ!」

 

 引き絞られるトリガー。

 放たれるビームは、ダーティワーカーのボディを貫き、爆散させた。

 

 ダーティワーカー、撃墜。

 

「あとは……ライジンとAGE-1」

 

 随分手こずらせてくれたが、あとは僚機のレギンレイズと連携すれば、ガンダムダイアンサスもリーダー機のガンダムAGE-Xも倒せるはずだと、シゲルは読む。

 

 レギンレイズの位置をレーダーで確認し、その方向へ向かおうとして、

 

「……は!?」

 

 

 

『撃墜したはずのダーティワーカーが、何故かビームスナイパーライフルを向けてガンダムファラクトを睨んでいた』。

 

 

 予想出来ていなかった突然の事に、シゲルの思考が一瞬フリーズした。

 

 即座、ダーティワーカーがビームスナイパーライフルを発射、しかし咄嗟の挙動でガンダムファラクトを回避させたが、ブラストブースターの片方もろとも右腕を肩から撃ち抜かれてしまった。

 主武装のビームアルケビュースと、高機動の生命線であるブラストブースターの片方を失い、ガンダムファラクトの戦闘力は激減する。

 

「な、な、な……なんで、生きて……!?」

 

 まるで幽霊を見ているような気分だ。

 しかし攻撃されてダメージを受けた以上、眼の前にいるダーティワーカーは幽霊ではない。

 

『分からないかい?』

 

 ダーティワーカーは再度ビームスナイパーライフルを構え直し、ピタリとガンダムファラクトのボディへ向ける。

 

『どうして敵のリーダー機が見当たらないのか、とか考えたんじゃないかな?』

 

 その声――ジュゲムの声がオープン回線で届く。

 

 撃墜したはずの相手が何故そこにいるのか。

 何故敵のリーダー機であるガンダムAGE-Xが見当たらないのか。

 加えて、サンダーボルトが発生する度に限って僚機が撃墜され、敵機も撃墜するのか。

 

 一見、何の関連性もないように見えるが、それらを繋ぎ合わせてみると……

 

「まさか……『Ez8は最初から二機いた』のか!?」

 

 恐らくは、ダーティワーカーが二機いるのとを悟られないように、サンダーボルトの発生という眼が引く瞬間に合わせて狙撃することで、敵を撃破していたのだろう。

 

『ご明察だよ、シゲル』

 

 他ならぬ、ジュゲムが肯定した。

 つまり、ガンダムAGE-Xはそもそもこのフィールドにはおらず、敵リーダーは予備機のダーティワーカーを使っていたと云うことだ。

 

 全てが全て、ジュゲムの手のひらの上で踊らされていた。

 

 その事実が、シゲルのプライドを逆撫でした。

 

「…………………………トォゴォォォォォォ!!」

 

 左マニピュレーターにビームサーベルを抜いて斬りかかるガンダムファラクト。

 けれど馬鹿正直に真っ直ぐ突っ込んでくる相手をダーティワーカーが見逃すはずがなく、もう一射。

 

 ガンダムファラクトのバイタルパートを容赦なく貫いた。

 

 ガンダムファラクト、撃墜。

 

 

 

 種を明かせばなんのことはない。

 

 ジュゲムは、自分の愛機とは別にもう一機、ダーティワーカーを用意していた。

 

 アスノにそれを使わせて、シゲルのガンダムファラクトと立ち会わせることで、「ジュゲムは自分の手でシゲルを倒すつもりだ」と相手に思わせる。

 

 そうしてダーティワーカーという『ジュゲムの機体』が見えやすいように立ち回らせ、ジュゲム自身のダーティワーカーは後方のデブリベルト内に潜む。

 

 さらに、フィールドがサンダーボルト宙域であることも利用し、宙域に発生する稲妻に合わせて狙撃をすることで、あたかも『稲妻に巻き込まれて撃破された』と思い込ませて誤認させる。

 

 そして、シゲルがアスノのダーティワーカーを撃破することで、「ジュゲムを倒した」と油断させ、そこで勝ちの決まった盤を引っくり返す。

 

 残されたレギンレイズも、カンナが粘り強く戦ってくれていたおかげでジュゲムが背後を取って狙撃、スラスターを潰されたところをガンダムダイアンサスのヒートナギナタで斬り裂かれて撃破された。

 

『Battle ended.Winner.Estrella!!』

 

 瞬間、会場に歓声が轟いた。

 

「勝った」

 

 ジュゲムはリザルト画面を前に、静かにそう呟いた。

 

 無能だと罵られた自分の策を以て、無能だと罵った相手の策を覆した。

 復讐を成し遂げ、勝利を掴み取ったという達成感。

 しかし、ジュゲムの心はどこか空虚だった。

 

「……復讐を成し遂げても、虚しいだけっていうのは、本当なんだな」

 

 復讐を成し遂げ、相手の無様を見て、嘲笑う。

 

 その果てに待っていたのは、言葉にできない虚無感だった。

 

 何故、こんなことにムキになっていたのかと、自分で自分をバカバカしく思う。

 

 そして、その理由は、自分でも分かっていた。

 

「やりましたね、ジュゲムさん!」

 

「一時はどうなるかとヒヤヒヤしたぜ……」

 

「心臓に悪い綱渡りでした……!」

 

「ジュゲムさんの神算鬼謀は世界一ィ!」

 

 アスノ、ソウジ、カンナ、ショウコが、口々に自分を称えてくれる。

 捨て駒同然の作戦に乗り、乗機を撃破されて思うところもあったはずなのに。

 

「(あぁ……オレは彼らと一緒に優勝したいんだ)」

 

 打倒アカバ・ユウイチなど、過ぎた夢。

 優勝のために、ひたむきになって頑張り、壁にぶつかって倒れても、立ち上がってみせる。

 そんな彼らの"熱"に、自分も当てられて、熱くなっていた。

 

「……トウゴ」

 

 勝利の余韻に浸っていたところで、向かいの筐体からシゲルが声をかけてきた。

 それを見てソウジが舌打ちし、シゲルに対して肩を怒らせるが、ジュゲムはそっと制止し、毅然としてシゲルに向き直る。

 

「て、てめぇの力は、よく分かった。今から、これからだって遅くはねぇ。来年の冬季大会、もう一度俺達のチームに……」

 

「断る」

 

 シゲルの勧誘を、秒で断るジュゲム。

 

「な、何言ってんだ!てめぇのその力がありゃ、打倒アカバ・ユウイチだって夢じゃ……」

 

「オレにそんな稚拙(チャチ)な目標なんていらない」

 

 ジュゲムは踵を返した。

 彼との決別を意味するように。

 

「オレの目標は、彼らと優勝することだからね」

 

 そうしてジュゲムは"チームメイト"の元へ戻っていき、シゲルは悔しげに歯噛みする。

 

 ジュゲム(トウゴ)を無能だと決め付けて追放したのが仇になり、牙をむかれ、食いちぎられたのだと。

 後悔したところでもう遅い、足取り重く、彼らは会場を後にしていった。

 

 

 

 準決勝第一試合は、これにて終了。

 

 続く第二試合は、チーム・レッドバロンVSチーム・月影。

 

 今年の冬季大会のファイナリストとセミファイナリストが、ここに激突する――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。