ガンダムビルダーズハイ   作:さくらおにぎり

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14話 竜虎相搏つ

 チーム・月影。

 

 過去数年の選手権大会でも、必ず決勝トーナメントに勝ち残ってきた強豪チーム。

 

 リーダーのナルカミ・ハヤテによる草の根運動で集まった生え抜きかつ叩き上げの実力者が揃い、なおかつハヤテ自身の実力も極めて高く、実質的にGPVSのナンバー2とさえ言える。

 

 ナンバー1は言うまでもなく、アカバ・ユウイチ率いるチーム・レッドバロンだ。

 

 けれどハヤテ自身は、ナンバー1たるユウイチの影を追っているわけではないし、ナンバー2の座に甘んじているわけでもない。

 

 彼は、そんなランクなどに興味は無いからだ。

 

「例えどんな形でも、みんなで楽しく、思いきりガンプラバトルをやって、その上で勝とう」

 

 それは、彼らのポリシー。

 バトルに勝つよりもまず楽しむこと。

 楽しんで、楽しんで、楽しみ抜いたその先に勝つ。

 そうやって、これまでのバトルは勝ち抜き、時には敗北を喫してきた。

 

 今大会も、その心と想いは変わらない。

 

 

 

 ついに来た。

 

 ハヤテは控え室のベンチに腰掛け、今か今かと闘志を静かに、しかし強く滾らせていた。

 

 今年度の冬季大会決勝戦にて、惜敗を喫した相手――レッドバロン。

 

 チームメイト達も同じく、前回の雪辱を果たすべし、でも正々堂々楽しもうと、この半年間を待ちに待ち、気炎を上げている。

 

 残念ながら今回は決勝戦でのバトルではないが、それでもレッドバロン――ひいては、アカバ・ユウイチと戦うことに変わりはない。

 

 そして、この準決勝を勝ち抜いた先に待っているのは、アスノ達エストレージャ。

 

 彼らを鍛え上げた教官として、またナルカミ・ハヤテ個人としても、アスノ達とのバトルは楽しみだった。

 

「(待っていてくれよイチハラ君達、俺たちは必ず決勝へ進んでみせるぞ!)」

 

 ふとそこへ、準決勝第二試合開始のアナウンスが響く。

 

『これより、準決勝第二試合、チーム・レッドバロン対、チーム月影の試合を開始します。出場選手は、出撃準備をどうぞ』

 

 それを聞いて、ハヤテはバッとベンチから立ち上がり、声を張り上げる。

 

「よぉしっ、いよいよ俺達のバトルだ!みんなっ、気合入れていくぞ!勝つのは俺達チーム・月影だ!前回の雪辱を果たすのはもちろん!そして決勝戦ではイチハラ君達も待っている!ぬおぉっ、燃えてきたぞォォォォォォーーーーーッ!!!!!」

 

 ビリビリビリビリと窓ガラスが震えるほどの声量に、チームメイト達は肩を竦めて、「分かったから落ち着け」と苦笑する。

 

 

 

 アスノ達は観客席へ移動して、じきに始まるだろう準決勝第二試合の開始を待ち望んでいた。

 

「出来ることなら、アカバさんとハヤテ教官、どちらにも勝ち残ってほしいところですね」

 

 しれっとアスノの右隣に陣取るカンナは、今回の勝敗について悩ましく思っていた。

 アカバ・ユウイチとこの選手権で戦い、そして優勝することを掲げながらも、彼らにとっての教官役を全力で努めてくれたナルカミ・ハヤテとも戦いたい。

 

「こればっかりは仕方ないって言うのも、わかるけどね」

 

 堂々とアスノの左隣を陣取るショウコは、カンナの言葉に応じる。

 どちらとも戦いたい。

 けれどそんな贅沢な望みは叶えられない。

 ユウイチとハヤテ、両者がぶつかってしまうのなら、どちらかがどちらかを押し通るしかない。

 

「そ、そうだね……はは……」

 

 その女子二人に挟まれて、両手に華状態のアスノは、気まずそうに苦笑するだけ。

 

「おいおい両手に華じゃねぇかアスノ。ヒューッ、モテ期到来だな」

 

「アスくんったらモテモテねぇ〜」

 

 ショウコの逆隣にいるソウジと、カンナの隣席にいるミカは、そんな羨まけしからん状態のアスノを見て冷やかす。

 

 場内にブザーが鳴り響き、照明が落とされていく。

 

『皆様、大変長らくお待たせ致しました。これより準決勝第二試合、チーム・レッドバロン対、チーム・月影のバトルを開始致します』

 

 アナウンスと共に、歓声が響き渡る。

 両チームが入場、スポットライトが当てられる。

 

 まずはチーム・レッドバロン、アカバ・ユウイチ。

 冷静堂々たるその姿がスポットライトに照らされ、両サイドから勢いよくドライアイスが噴出される。

 中央近くまで来てから軽く手を上げれば、さらに歓声が上がる。

 

 そして逆サイドのチーム・月影、ナルカミ・ハヤテ。

 こちらは威風堂々たる姿で入場し、同じくドライアイスの噴出と共に迎えられる。

 ギャラリー全体が見える位置まで来ると身を翻し、声援に応えるがごとく握り拳を振り上げれば、ユウイチへの歓声に勝るとも劣らない盛り上がりを見せる。

 

 レッドバロンと月影の応援合戦になりかけたところで、ランダムフィールドセレクト。

 

 今回のフィールドは、『ランタオ島』

 

 原典作品は『G』に当たり、第十三回ガンダムファイトの決勝バトルロワイヤルが行われる熾烈な戦場だ。

 

「アカバ・ユウイチ、ドムソヴィニオン、チーム・レッドバロン、出るぞ!」

 

 レッドバロン側は、ユウイチのドムソヴィニオンを筆頭に、予選と同じく、ゲルググJ、ギラーガ、グリムゲルデ、ダリルバルデの四機。

 

「ナルカミ・ハヤテ!黒影丸!チーム・月影……行くぞォォォォォぉぉぉぉぉーーーーーッ!!」

 

 月影側は、ハヤテの黒影丸は同じだが、予選の時とは若干構成が変わり、クロスボーンガンダムX2はそのままだが、残りの機体の登場にギャラリーは驚愕する。

 

 

 

 ズガァンッ、と地響きを起こしながら着地したその巨躯を見て、ユウイチは仮面の内側で驚きを見せながらも、その機体名を口にする。

 

「ほぅ、『サイコガンダム』とは。対我々用の切り札といったところかな?」

 

 一定のサイズを上回るガンプラは、バトラー三人で一機を操縦しなければならないレギュレーションがあり、サイコガンダムはその代表格だ。

 設定全長だけでも40mはあるそれは、SDガンダムである黒影丸と比較すると巨大に見える。

 尤も、大きさばかりではなく、並大抵の攻撃は無傷で跳ね返す重装甲に、強力なIフィールドを備え、ニューホンコンの町を瞬時に火の海に変える恐るべき火力も兼ね備える。

 

「サイコガンダムの強みはIフィールドですが、懐には弱い。ここは私が接近戦を仕掛けます」

 

 この中で唯一、ビーム兵器を持たないグリムゲルデがそう進言するが、ユウイチはそれを採用しない。

 

「焦るなよ。あのサイコガンダムは、謂わば"タンク役"。向こうは短期決戦がお望みなのさ」

 

 大型機故の火力と防御力を全面に押し出して、ヘイトと消耗を誘い、そこを残る黒影丸とクロスボーンガンダムX2が攻め立てる……恐らくはそのような作戦だと読み取る。

 であれば、それに正面から付き合う必要はない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「五番機(ダリルバルデ)はX2をマークだ、可能なら撃墜しても構わん。二番機(ゲルググJ)は私に続いて援護しろ。三番機(ギラーガ)、四番機(グリムゲルデ)はサイコガンダムの陽動を頼む」

 

 A.B.Cマントを着用するクロスボーンガンダムX2には、2タイプのイーシュヴァラで多方向からビーム刃による攻撃を仕掛けられるダリルバルデ、サイコガンダムの陽動には脚の速いギラーガとグリムゲルデで迎え撃ち、そしてユウイチ自身とゲルググJはハヤテの黒影丸と相対する。

 

「「「「了解!」」」」

 

 ユウイチからの指示を受け、レッドバロンの面々は散開し、各々相手すべき敵機をマークしていく。

 

 

 

 ランタオ島の、原典で言うところのガンダムヘブンズソードが現れる地点で、ハヤテはレッドバロンの面々の動きを見て、「そうきたか」と呟く。

 

「よぉしっ、プランB2だ。そっちは任せたぞ!」

 

 すると黒影丸はサイコガンダムのそばから離れ、そのままドムソヴィニオンとゲルググJを引き離していく。

 サイコガンダムとクロスボーンガンダムX2が固まって動き、残る三機を引き付けるのだ。

 

 サイコガンダムは両腕のマニピュレーターの指先のビーム砲と、胴体部の拡散メガ粒子砲を一斉掃射、それに合わせるようにクロスボーンガンダムX2がザンバスターとショットランサーのヘビーマシンガンを撃ちまくり、ダリルバルデ、グリムゲルデ、ギラーガの三機を寄せ付けまいと弾幕を張る。

 

 対するレッドバロンの面々も当初の作戦通りに、ダリルバルデが二種類のイーシュヴァラを展開し、クロスボーンガンダムX2のA.B.Cマントを斬り裂こうと攻撃を開始するが、そのクロスボーンガンダムX2はすぐに飛び下がり、代わりにサイコガンダムの全身のビーム砲がメガ粒子の雨を降らせる。

 

 イーシュヴァラを破壊されるわけにはいかないため、ダリルバルデも迂闊には踏み込めず、肩部のドローンシールド『アンビカー』でイーシュヴァラを守るがサイコガンダムの火力は凄まじく、僅か数発でアンビカーが破壊されてしまう。

 

 であれば、とギラーガが双刃の槍である『ギラーガスピア』を手にサイコガンダムの懐へ飛び込もうとするが、その前にクロスボーンガンダムX2が割り込み、ザンバスターとヘビーマシンガンを連射して近付けさせない。

 

 さらにダリルバルデを牽制しつつもサイコガンダムは片手のビーム砲でギラーガを撃ち抜こうとするが、そこへグリムゲルデが割り込んで、ヴァルキュリアシールドで指先のビームを受ける。

 

 しかしナノラミネートアーマーに守られたグリムゲルデのヴァルキュリアシールドと言えど、サイコガンダムのビームの出力を防ぎ切ることは出来ず、一瞬で表面のナノラミネートが剥がされてしまう。もう一発受ければ、腕もろとも貫かれるだろう。

 

 

 

 サイコガンダムとクロスボーンガンダムX2が善戦してくれている内に、ハヤテの黒影丸は、ユウイチのドムソヴィニオン、及び彼の僚機たるゲルググJを相手に、原作で言うところのグランドガンダムが待ち受ける渓谷で対峙する。

 

「現れたか……」

 

 ハヤテはウェポンセレクターを回し、黒影丸は無明閃を両手に構える。

 それに合わせるように、ドムソヴィニオンはジャイアントバズを、ゲルググJは大型ビームマシンガンを構える。

 

『半年前の雪辱を果たす、と言ったところかな?』

 

 オープン回線で、ユウイチの声が届く。

 

「そうですとも。……けど、それは目的半分。俺達は、ガンプラバトルを楽しみに今日、このステージに立っているんですよ」

 

『フッ、そうだったな。君達のチームとは、そういうものだった』

 

「……さて、前哨戦はここまでにしましょうか」

 

 黒影丸はスッと静かに身を沈めると、

 

「吶喊!!」

 

 瞬間、ドムソヴィニオンとゲルググJの視界から、黒影丸が"消える"。

 

 消えたと言っても、ハイパージャマーやミラージュコロイドのようなステルス機能を使用したわけではない。

 目視では追い切れないほどの素早さで、渓谷を駆け回る黒影丸。

 まるでトランザムシステムを起動しているかのように、その機動に残像が尾を引く。

 

『さらに速くなったか、さすがはナルカミ君』

 

 しかし、とドムソヴィニオンは急速にバックホバーしつつ、地面に向かってジャイアントバズを発射、弾頭は地面に炸裂すると、砂煙を巻き上げる。

 ゲルググJも同様にバックホバーしつつ、油断なく大型ビームマシンガンを構え、黒影丸を迎え撃つ。

 いくら素早くとも、砂煙の中を突っ切ろうものなら、気流に変化が生じる。

 しかしジャイアントバズが巻き起こした砂煙に気流の変化は見られず――その一秒後に、砂煙を切り裂くように現れたのは、大型手裏剣の颶風刃。

 

 ドムソヴィニオンとゲルググJはその大型手裏剣を躱し、

 

「そぉりゃぁぁぁぁぁッ!!」

 

 半歩遅れて黒影丸が砂煙から飛び出し、無明閃からビーム弾を、その上から頭部のバルカン砲を撃ちまくりながら突撃してくる。

 颶風刃を躱すというワンクッションを置いた連撃だ、ドムソヴィニオンもゲルググJもすぐさま反撃には移れない。

 しかしユウイチの反応も早く、即座にウェポンセレクターを回す。

 

『ファンネル!』

 

 ドムソヴィニオンのバックパックからファンネルが射出され、無明閃のビーム弾を撃ち落とすようにビームを降らせる。

 

 ――既に放たれているビーム弾をファンネルのビームで相殺させるという、人間離れした絶技を平然と行っているのだが――

 

 突撃する黒影丸の右側面――ハヤテの利き腕側へ回り込んだゲルググJはすかさず大型ビームマシンガンを連射し、ドムソヴィニオンの援護に回る。

 側面からの射撃に対し、ハヤテは即座に反応し、操縦桿を弾くように振るえば、それに呼応するように黒影丸は横っ跳びしてビーム弾を躱し、そのまま渓谷の壁に蹴りつけ、壁キックするような三角跳びでドムソヴィニオンの斜め上を取る。

 

『そこ!』

 

 ファンネルを呼び戻しつつ、ドムソヴィニオンはジャイアントバズを発射、黒影丸を撃ち落とさんと360mmの弾頭が迫る。

 

「なんのっ!」

 

 瞬時、無明閃を一閃し、ジャイアントバズの弾丸を斬り捨てて直撃を避け、左の無明閃を背部に納め、颶風刃を抜き放ち――ドムソヴィニオンの方を向いたまま、ゲルググJへ投擲した。

 注意が自分から外れていると思っていたゲルググJは大型ビームマシンガンで狙撃しようと構えていたが、飛来してくる巨大な手裏剣を見て、すぐに回避する。

 風を斬り裂く颶風刃をやり過ごし――たと思った瞬間には、目の前に無明閃を両逆手に構えた黒影丸が、SDガンダム特有の"瞳"を睨ませていた。

 

「ガラ空きだぁぁぁぁぁッ!!」

 

 一二三四閃。

 黒影丸がゲルググJの脇を潜り抜けたと思った瞬間には、既にゲルググJはバラバラに四散していた。

 

 ゲルググJ、撃墜。

 

「さぁ、これで一対一(タイマン)。フェアプレーの精神で行きましょう!」

 

『やるな、ナルカミ君。ならば私も、遠慮なくいかせてもらおう』

 

 ドムソヴィニオンはモノアイを一際強く輝かせると、黒影丸へ突進する。

 

 

 

 戦況は現在、二極に別れている。

 

 ひとつはユウイチのドムソヴィニオンと、ハヤテの黒影丸の疑似タイマン。

 

 もうひとつは、レッドバロンのギラーガ、グリムゲルデ、ダリルバルデの三機と、月影のクロスボーンガンダムX2とサイコガンダム。

 

 先手を取ったのは月影。

 

「今のところは、教官達の方が優勢っぽいけど……」

 

 ショウコは目を細めながら、モニターに映る戦いを見つめる。

 

「アカバさんとハヤテ教官の疑似タイマンになるってんなら、優勢とも言えねぇな」

 

 ソウジは、激しく斬り結ぶドムソヴィニオンと黒影丸の姿ではなく、もう片方の、サイコガンダムが大映しになっているモニターを見やる。

 それを補足するようにジュゲムが自身の考えを口にする。

 

「あのサイコガンダムはタンク役。X2と連携してどうにか向こうの三機を釘付けているけど、サイコガンダムが倒れれば三機分の戦力が一気に削られるんだ。そうなれば、数的不利は必至」

 

「つまり、サイコガンダムとX2が戦力を釘付けしている内に、ハヤテ教官がアカバさんを倒すことを期待する……という作戦でしょうか?」

 

 ジュゲムの補足に、カンナがハヤテ達の作戦の思惑を読み取る。

 

「超エース級には超エース級をぶつけるのがいい。オレが思いつけるだけ、という枕詞がついた最善最良の作戦だけどね。多分そうだろうさ」

 

 さてどう来るかな、とジュゲムは刮目する。

 

「アカバさん……ハヤテ教官……」

 

 アスノは、赤と黒の両雄を見据える。

 

 まさに、竜虎相搏つ。

 

 古来より、竜が"権威"を、虎が"勇猛"としてそれぞれ讃えられてきたのなら、ユウイチが権威たる"竜"、ハヤテが勇猛たる"虎"と見えるだろう。

 

 

 

 ドムソヴィニオンと黒影丸は、互いに中近距離でのミドルレンジで戦い続けている。

 戦いの最中にグランドガンダムの渓谷を抜け、復活したデビルガンダムが現れる、ランタオ島の中心へと移動していた。

 

『フッ!』

 

「うおぉぉぉッ!」

 

 ドムソヴィニオンのビームサーベルと、黒影丸の無明閃による、激しい斬り合い。

 二刀流で攻め立てるハヤテに、ユウイチはビームサーベル一丁で互角に渡り合う。

 

「向こうも長くは保たない……決着は早めに着けさせていただく!」

 

 ハヤテはウェポンセレクターを回し、カタナのアイコンが表示されたそれを入力した。

 

 無明閃を二つとも納め、リアスカートの忍刀を抜き放つ。

 

「『妖刀【ナイトロ】』……抜刀!!」

 

 解き放たれた刃は、鬼火のような蒼焔を纏う。

 才蔵デルタカイの演者は、『ガンダムデルタカイ』――即ち、『n_i_t_r_o』システムの搭載機。

 ひとつの武装として組み込んだそれは、得物の寿命を喰らうことで絶大な破壊力を纏わせる、禁忌の業。

 その切り札を躊躇いなく切るハヤテに、ユウイチは口角を上げる。

 

『ほぅ、ナイトロシステムの転用技か。面白い!』

 

 即座、ドムソヴィニオンはファンネルを展開し、自身の周囲に展開すると、フルバーストのように広範囲を薙ぎ払う。

 しかし黒影丸は薙ぎ払われるビームの隙間を抜け、急速にドムソヴィニオンへ接近する。

 これに対してドムソヴィニオンはあくまでも冷静に、バックホバーと蛇行を不規則に繰り返しつつファンネルのビームで牽制し、黒影丸とのイニシアティブを保つ。

 

「喰らえ!」

 

 黒影丸が妖刀【ナイトロ】を、居合斬りのごとく振るえば、鬼火がソニックブームのように放たれ、ドムソヴィニオンを焼き払わんと迫る。

 

「そぉらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらぁぁぁぁぁッ!!」

 

 一撃だけではない、何発もの鬼火の乱舞が、ドムソヴィニオンを攻め立てる。

 鬼火の威力は凄まじく、直撃ですらない、掠めただけでドムソヴィニオンのサーモンピンク(シャアレッド)と黒の装甲が焼け爛れる。

 

『チィッ』

 

 今大会において、ドムソヴィニオンが初めて被弾した。

 

「まだまだァァァァァッ!」

 

 それに喜ぶことなく、ハヤテはこの機を逃さぬと言わんばかりに勢いづく。

 

 被弾によって歯噛みしたユウイチだが、焦りはしない。

 

『さすれば!』

 

 ドムソヴィニオンは左胸部のメガ粒子砲にエネルギーを集束させ、それを足元の地面に向けて照射した。

 ジェネレーター直結型のその出力は凄まじく、ランタオ島の大地を容易くえぐり飛ばす。

 

 それを目の前でされたハヤテからすれば、岩石と土砂の津波が迫りくるようなものだ。

 けれどハヤテはその場で意図的に目を閉じ――それに呼応するように黒影丸もまた"目"を閉じ――、カッと見開く。

 

「一 刀 両 断 ッ ! !」

 

 最上段の構えから妖刀【ナイトロ】を振り下ろし、巨大な鬼火の斬撃が、岩石と土砂の津波を真っ二つにしてみせた。

 

『ほぅ、これも凌ぐか』

 

 だが、とユウイチは仮面の目元のフィルター越しに、黒影丸の妖刀【ナイトロ】の刀身を見やる。

 

『どうやら、時間切れのようだ』

 

 妖刀【ナイトロ】はその蒼炎を消し、刀身はボロボロに焼け爛れている。

 鬼火の破壊力は絶大だが、その代償として刀の寿命を喰らい、なおかつそれはごく僅かな時間で喰い尽くしてしまう。

 

「(……仕留めきれなかったか)」

 

 ハヤテは素早く僚機の確認画面を見る。

 

 レッドバロンのギラーガとダリルバルデは撃破してくれたようだが、相打ちにサイコガンダムは撃破され、残るクロスボーンガンダムX2も、グリムゲルデを相手に決死の反撃を試みている。

 

 仮にここでドムソヴィニオンを撃破することが出来たとしても、クロスボーンガンダムX2の援護を行えるだけの余力は残らない。それは向こうも同じだ。

 

「元より余力なんて残すつもりは無いけどね……!」

 

 ハヤテはウェポンセレクターを回し、妖刀【ナイトロ】の『SP』のコマンドを切り、その隣りにあるもうひとつの『SP』コマンドを打ち込む。

 

「この俺の全身全霊全力全開全知全能、受けていただくッ!」

 

 黒影丸は無明閃を抜き放ち様に水平に構え、駒のように高速回転を始め――やがて黒い竜巻そのものと化す。

 

 

 

「秘技・無影旋風斬ッ!受けてみろォォォォォォぉぉぉぉぉーーーーーッ!!」

 

 

 

 全てを巻き込み呑み込む巨大な竜巻は前方に傾くと、そのまま突撃を始めた。

 

 それはさながら流派・東方不敗の、『超級覇王電影弾』のごとし。

 

 ドムソヴィニオンは回避運動を取ること無く、正面から見据える。

 

『君のその全て、正面から受けてみせよう』

 

 左胸部のメガ粒子砲にエネルギーを集束し――さらに集束し、さらに集束させ――バチバチと赫いスパークが迸る。

 

『エネルギー最大出力……『バーストソニックキャノン』、発射!!』

 

 震脚をするがごとく、ドムソヴィニオンの重厚な脚部が地面にめり込み、暴発寸前まで集束された赫い超高エネルギー体が、一点へ向けて吐き出された。

 反動もまた凄まじく、深くめり込んだドムソヴィニオンの脚部がガリガリと削られる。

 

 黒影丸の無影旋風斬と、ドムソヴィニオンのバーストソニックキャノンが、正面衝突する。

 

 

 

 グリムゲルデのヴァルキュリアブレードが、ついにクロスボーンガンダムX2のボディを貫いた。

 グリムゲルデ自身も、右肩装甲にショットランサーの穂先が突き刺さり、装甲はビームザンバーによって灼かれ、フレームも軋みを上げているが、どうにか倒すことが出来た。

 

『あとは、敵リーダー……』

 

 ショットランサーの穂先を無理矢理引き抜き、使い物にならないヴァルキュリアシールドを腕部から切り離し、まともに動かせる左マニピュレーターにヴァルキュリアブレードを握り直す。

 ユウイチを除いて、レッドバロンの中で残っているはグリムゲルデだけだ。

 早くリーダーを援護に向かわなくては、とグリムゲルデは機体を引きずるようにして、ドムソヴィニオンの反応方向に向き直ると。

 

『は?』

 

 凄まじい衝撃波が目の前に広がっている、と思った瞬間には、グリムゲルデは衝撃波をまともに受け、機体が四散した。

 

 グリムゲルデ、撃墜。

 

 

 

 両者の最大の必殺技同士の激突は、凄まじい余波を生み、知らぬ間にレッドバロンのグリムゲルデを撃破していた。

 

 メガ粒子の照射を終えたドムソヴィニオンは、左胸部のメガ粒子砲の砲口から黒煙を噴出している。

 

 対する黒影丸は吹き飛ばされ、全身からスパークを漏電させながらも、立ち上がる。

 

「まだだ……まだ、勝負はついていない……ッ!」

 

 片方だけ、それも半ばから折れた無明閃を握り、ドムソヴィニオンを見据える。

 

『ふむ……幾度傷付き倒れようとも、闘志ある限り立ち上がる、その粋やよし』

 

 だが、とユウイチはウェポンセレクターを回し、ファンネルを選択、一基だけがバックパックから放たれ、黒影丸に向かう。

 

『私に勝つのは、まだ早かったようだな』

 

 瞬間、ファンネルからのビームが、黒影丸のボディを貫いた。

 コクピットに当たる部位を貫かれ、黒影丸は立ったまま、その"瞳"を閉じた。

 

「……いやはや、さすがとしか」

 

 黒影丸、撃墜。

 

『Battle ended.Winner.Red baron!!』

 

 

 

 直後、会場に爆発的な歓声と拍手が響き渡る。

 レッドバロンの勝利を喜ぶ者、月影の善戦を称えるもの、様々ではあったが、両者の戦いがこの歓声を呼んだ。

 

 歓声の中、黒影丸を筐体から回収しながらも、ハヤテは一息つく。

 

「(また、届かなかったなぁ……)」

 

 今年も、後一歩及ばなかった。

 悔しいけれど、後悔はない。

 あらゆる手と策を尽くしてなお、アカバ・ユウイチという壁は高かったのだ。

 

 すると、向かい側からユウイチが歩み寄ってくると、右手を差し出してきた。

 

「今回も良いバトルだった。ありがとう」

 

 ハヤテもすぐに頷いて、握手に応える。

 

「こちらこそ。まだまだ自分の力不足だと、痛感するばかりです」

 

「喉元まで迫られると言う危機感を与えてくれるのは、今のところは君達だけだ。私達のチームにとっても、毎度良い刺激になる」

 

「ははっ、そう言われるとまた来年の冬こそはと意気込みたくなりますね」

 

「フッ、それは楽しみだ」

 

 ハヤテとユウイチだけではない、レッドバロンと月影の綿は達も、互いに握手を交わしている。

 

「次の決勝戦……チーム・エストレージャは、俺が鍛え上げた子達です。そう簡単には勝てませんよ?」

 

「ほぅ、君が手ずから鍛えたと。それも楽しみだな」

 

「さて……」

 

 ハヤテはユウイチとの握手を終えると、すぐにその手首を取って、ユウイチの勝利を称えるために天高く突き上げさせる。

 

「会場のみんな!応援ありがとおォォォォォォぉぉぉぉぉーーーーーッ!!!!!」

 

 そうしてまた、会場は歓声と拍手に包まれた。

 

 

 

 その中で、ソウジは腕組みしながら、ユウイチを見据える。

 

「やっぱ、勝ち残ってくるのはレッドバロンだったな」

 

「ですけど、ハヤテ教官達の戦いぶりも素晴らしいものでした。どちらが勝つのか分からないくらいに」

 

 月影のフォローをするわけではない、率直な意見をカンナは述べた。

 

「オレ個人としては、レッドバロンが勝ち残ってくれたほうが都合が良かったけどね。対月影用の作戦プランは考えていなかったから」

 

 ある意味で、月影が勝ち残ってしまっていたら勝ち筋が見えないまま戦うところだった、とジュゲムは苦笑する。

 

「でも、これであたし達の最後の相手はアカバさん達になった。正直、一番キツいよね」

 

 予想していたこととは言え、ショウコの声に緊張が走る。

 

「でも、今更ここで逃げるわけにもいかない。この大会を優勝することが、僕達が掲げた目標だから」

 

 決意を胸に、アスノは最後の戦いに臨む。

 

 

 

 いよいよ、決勝戦。

 

 チーム・レッドバロンVSチーム・エストレージャ

 

 全勝無敗の王者と、今大会初出場のチャレンジャーが今、激突する――。

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