ガンダムビルダーズハイ   作:さくらおにぎり

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16話 儚くて、激しくて、偽りない

 アクシズの核パルスエンジンに火が点き、ゆっくりと――地球寒冷化という未曾有の危機へのカウントダウンを開始する。

 

 ――アクシズ、行け。忌まわしい記憶と共に!――

 

 何としてでもアクシズを破壊しなければならないロンド・ベルと、アクシズを守るネオ・ジオンとの熾烈な決戦の背景で。

 

 

 

 アクシズを取り巻く外周辺。

 

 ゲルググJの大型ビームマシンガンと、グリムゲルデのヴァルキュリアライフルに加えて、ギラーガのビームバルカンの波状射撃を前に、ソウジのガンダムアスタロトブルームⅡと、ショウコのロイヤルプリンセスルージュは攻めあぐねている。

 

「チッ、さすがに一筋縄じゃいかねぇってか!」

 

「元々こっちは数的不利だしね!」

 

 でも、とショウコはスロットルを押し上げて、ロイヤルプリンセスルージュを加速させる。

 両肩と背部の大型バーニアの炸裂は、苛烈な弾幕を掻い潜り、全くの無傷とはいかずとも直撃を避けている。

 反撃の隙が見えれば、即座にマギアマシンガンを連射し、相手の連携を止めさせる。

 ショウコの牽制射撃に合わせるように、前衛二人と足並みを揃えつつも後方から援護狙撃を行うのは、ジュゲムのダーティワーカー。

 

「あまり攻め急がないようにね。作戦は、ここからだよ」

 

 ソウジとショウコが熱くなり過ぎないように、適度に冷静な言葉をかけるジュゲム。

 

「わーかってらっ、おらよォ!」

 

 連携射撃が一瞬とは言え弱まったのを見抜き、ガンダムアスタロトブルームⅡはすかさずショットガンを連射し、ゲルググJらを引き下げさせる。

 反撃に怯んだように見えたが、次の瞬間にはダリルバルデはプロペラのようにビームジャベリンを振り回しながら突撃し、その一步後ろからギラーガもギラーガスピアを構えて続く。

 

「俺が行く!」

 

 ソウジは即座にウェポンセレクターを回してデモリッションナイフを選択、ガンダムアスタロトブルームⅡはショットガンをリアスカートに納め、バックパックに折り畳んでいた肉厚の長剣を抜き放ち様に振り降ろす。

 

 瞬間、ダリルバルデのビームジャベリンとデモリッションナイフとが衝突し、力が拮抗し合う。

 

「(向こうの方が『パワーがダンチ』、さすがジェターク系ってわけか!)」

 

 ペイル系が飛行能力と機動性重視を、グラスレー系がバランスと対GUND-ARM特化をそれぞれ売りにしているのなら、ジェターク系の骨頂は重装甲と馬力だ、白兵戦になれば、ベネリットグループ随一と言えるだろう。

 

 鍔迫り合いになる前に、ガンダムアスタロトブルームⅡはビームジャベリンを弾き返し、蹴り飛ばすついでに脚部のハンターエッジでダリルバルデを蹴り裂こうとするが、ダリルバルデは左肩のアンビカーで受け流す。

 

 ガンダムアスタロトブルームⅡとダリルバルデが鎬を削り合う側面から、ギラーガが文字通りギラーガスピアで横槍を入れようと迫るものの、その前にショウコのロイヤルプリンセスルージュが左マニピュレーターにマギアサーベルを抜いてインターセプト、マギアサーベルとギラーガスピアが鍔迫り合う最中に、マギアマシンガンの近距離射撃を敢行しようとするものの、それを嫌ってかギラーガはすぐさま弾かれたように飛び下がる。

 

 人数不利である以上、足を止めているわけにはいかないため、ソウジはダリルバルデとの打ち合いを強引に止め、急速後退。

 ダリルバルデはすぐに距離を詰めようとするものの、ロイヤルプリンセスルージュが後体しながらマギアマシンガンのビーム弾をばら撒いて来るのを見て、一旦引けを取る。

 

「そろそろ、イチハラ君とツキシマちゃんが接敵する頃だ。一度退くよ」

 

 ゲルググJとグリムゲルデを同時に相手取り、防戦一方ながらも持ちこたえていたジュゲムは、作戦プランを進行させる。

 

「あいよ!」

 

「了解でーす!」

 

 ガンダムアスタロトブルームⅡとロイヤルプリンセスルージュはダーティワーカーと合流し、アクシズの表面近くへ向かっていく。

 するとジュゲムの予測通り、レッドバロンの四機はすぐに追撃をしてくる。

 

「ここまでは順調か……」

 

 敵の動きを注視しながら、ジュゲムは自分に言い聞かせるように呟く。

 勝ち筋はいくつかのパターンに分岐しているし、その過程も頭に入っている。

 問題なのは、勝ち筋を崩してくる不確定要素がどこに潜んでいるかであり、その不確定要素を一つずつ確実に潰し、勝ち筋から出来るだけ逸れないルートを作っていくかにかかっている。

 

 ふと、アクシズの表面から光が見えた。

 

 

 

 数分前。

 出撃してすぐに、アスノのガンダムAGE-Xと、カンナのガンダムダイアンサスは歩調を合わせつつ、アクシズ表面へ接近しながらも、ドムソヴィニオンの姿を索敵する。

 ジュゲムの戦術予測通りなら、アカバ・ユウイチは単独でアスノと戦うはずだと。

 

 すると不意に、二人のコンソールに多方向からのアラートがけたたましく鳴り響く。

 

「多方向!?」

 

「ファンネルです!」

 

 咄嗟にアスノとカンナはその場を離れ、0.5秒後に二人がいた空間を高出力のビームが通り過ぎた。

 それは、どこからか放たれてきた、六基のファンネル。

 

『ほぅ、避けたか』

 

 ファンネルが呼び戻される先には、アクシズから姿を現した、赤いリック・ドム――ドムソヴィニオン。

 

 ファンネルがバックパックのコンテナに納まると、悠然とジャイアントバズを構える。

 

『さぁ、雌雄を決しよう、アスノ君』

 

「……行きます!」

 

 瞬間、ロングドッズライフルのビームと、ジャイアントバズの砲弾が交錯し、双方とも回避する。

 

 同時に、ガンダムダイアンサスがビームライフルを連射し、ドムソヴィニオンの動きを阻害しようとするものの、ドムソヴィニオンは瞬時に加速してその場を離脱し、イニシアティブを保つ。

 

「ドッズファンネル!」

 

 アスノはウェポンセレクターを開き、ファンネルのアイコンが表示された項目をダブルセレクト、リアスカートのドッズファンネルが切り離される。

 ドッズファンネルと、ロングドッズライフルの三つ、さらにガンダムダイアンサスのビームライフルによる射撃が、ドムソヴィニオンに不規則な波状射撃を仕掛ける。

 

『甘いな』

 

 しかしドムソヴィニオンは、機体各部のバーニアを細かく駆使し、鋭くも滑らかな軌道を描いてビーム射撃を掻い潜りながらもジャイアントバズを撃ち返してくる。

 飛来するロケット弾頭に対して、アスノは素早くウェポンセレクターを切り替え、頭部両側面のビームバルカンを速射して迎撃、ジャイアントバズの砲弾が撃ち抜かれて派手な爆発を起こす。

 この爆煙をブラインドにして、アスノは操縦桿を押し出してガンダムAGE-Xを前進させる。

 

 爆煙を突き抜け――た、そのすぐ目前に、ドムソヴィニオンのモノアイがドアップで現れる。

 

 

 

「『!」』

 

 

 

 銃火器によるゼロ距離射撃か、ビームサーベルを抜いての接近戦か。

 

 どちらがどう仕掛けるのか――否、このまま突っ込む!

 

 ガァンッ、とガンダムAGE-Xとドムソヴィニオンが、互いに頭突きをするように正面衝突し、互いに弾き飛ばされた。

 

『――ファンネル!』

 

 ドムソヴィニオンは即座に姿勢制御しながらも、ファンネルをコンテナから射出、まだ姿勢制御が出来ていないガンダムAGE-Xにビームが降り注ぐ。

 

「くっ……!」

 

 アスノは操縦桿を大きく引き寄せ、ガンダムAGE-Xを飛び下がらせてファンネルからのビームを躱す。

 

「アスノさん!」

 

 回避に徹するガンダムAGE-Xを見て、カンナは注意を引こうとビームライフルと頭部バルカンをドムソヴィニオンへ向けて連射する。

 するとドムソヴィニオンは突如加速、ビームは避け、バルカンの銃弾は装甲の厚い部分で受けつつも、ガンダムダイアンサスへ急激に肉迫し、左マニピュレーターにビームサーベルを抜き放った。

 

 対するカンナもすぐにウェポンセレクターを切り替えて、ビームライフルを納めて、代わりにリアスカートにマウントしているヒートナギナタを抜いて迎え撃つ。

 

 瞬間、ヒートナギナタの刃とビームサーベルがぶつかり合い、両者の間に閃光を撒き散らす。

 

 しかしドムソヴィニオンの方から強引にヒートナギナタを弾き返し、返す刀の回し蹴りがガンダムダイアンサスの腹部を蹴り飛ばす。

 

「あぅっ……!」

 

 ドム特有の大柄な脚部による蹴脚は想像以上に重く、ガンダムダイアンサスは大きく吹き飛ばされてしまう。

 吹き飛んだガンダムダイアンサスへジャイアントバズを発射しようとするドムソヴィニオンだが、それよりも先に体勢を立て直したガンダムAGE-Xのドッズファンネルのビーム射撃がそれを阻害する。

 

『ムッ』

 

 即座に機体を翻して、螺旋状に放たれるビームを躱すドムソヴィニオン。

 ファンネルも追従し、ドッズファンネルを撃ち落とさんと射撃を開始するが、ドッズファンネルはすぐに本体たるガンダムAGE-Xのリアスカートにあるプラットフォームに引っ込んでしまう。

 同時に、ガンダムAGE-Xはシールド裏からドッズキャノンを連射しつつロングドッズライフルを納め、右マニピュレーターにビームサーベルを抜く。

 

 激突――ビーム刃同士が干渉しあい、鍔迫り合う。

 

 以前――身内戦の最中に乱入された時には全く勝負にならなかったがあの時とは違う。

 改造改修を経たガンダムAGE-Xのビームサーベルもまた強化され、ドムソヴィニオンにもパワー負けしない。

 

『パワー負けしないか。この三ヶ月でよくここまで強くなった』

 

 接触通信から、ユウイチの感心するような声が届く。

 

「あなたに追い付きたいって、みんなで一緒に優勝したいって、必死でしたからね!」

 

 一撃、二撃、三撃、とビームサーベルが交錯し、

 不意にドムソヴィニオンの左胸部のメガ粒子砲のエネルギーが集束するのを見て、ガンダムAGE-Xは急速離脱、その0.5秒後に激しいメガ粒子砲が吐き出される。

 メガ粒子砲の余波は凄まじく、掠めたガンダムAGE-Xのシールドの表面が焼け爛れてしまう。

 しかし、エネルギーの消耗と反動もあって、メガ粒子砲の照射直後に僅かだけ無防備な瞬間がある。

 

「そこです!」

 

 そこへ、体勢を立て直したガンダムダイアンサスがビームライフルを撃つものの、ドムソヴィニオンはその場でビームサーベルを振るい、ビームライフルの火線を斬り弾く。

 

『面白い……!』

 

 

 

 観客席では、ミカとソノダ・アズサ、ナルカミ・ハヤテが三人並んだ席に着いていた。

 一人はエストレージャの保護者で、一人はエストレージャのライバル、そしてその彼らを鍛え上げた教官。

 共通の話題があり、波長が合えば、意気投合もすぐだった。

 

「ソウジくん達が先に動いたわね……ナルカミ教官、今の状況の解説をお願いしまーす」

 

 ガンダム作品知識にも戦術にも疎いミカは、アクシズ表面方向へ移動していくガンダムアスタロトブルームⅡ、ロイヤルプリンセスルージュ、ダーティワーカーの三機を見て、戦況はどうかとハヤテに訊ねる。

 

「ふむ……真っ向勝負では太刀打ち出来ないのは、イチハラ君達も分かっているでしょう。ジュゲム君が事前にいくつか策を仕込んでいたとしても、そもそもの地力の差が大きいから、策を看破される可能性も高いですね」

 

 ハヤテは腕を組みながら、二局に頒かたれた戦況を見据える。

 

「今のところは両者の力が拮抗しているように見えますが、その実、イチハラ君達の方は綱渡りをなんとか渡っているだけです」

 

 ほんの僅かでも踏み外せば、あるいは綱にほんの僅かに綻びがあれば、即座に敗北が決まるような、そんな危うい均衡の元にこのバトルは続いているというハヤテ。

 

「このままだと、彼らは負けると?」

 

 仮にも彼らの教官のつもりなら擁護しろと、ミカの反対側にいるアズサもそうは言えない。彼女も同じようなことを考えていたから。

 

「このままなら、ね」

 

 途端に、ハヤテの目がイキイキと子どものように輝く。

 

「だが!そんな逆境でも覆してみせるのがエストレージャというチームだ!きっとこの会場の誰もが驚くような逆転劇を見せてくれるさ!!」

 

「は、はぁ……」

 

 悲観的になるのは良くないが、期待しすぎるのもどうなのか。

 だからといってこの、真っ赤に燃えて勝利を掴めと轟き叫ぶ爆熱教官は聞かないだろう。

 

 アズサはこの、あまり人の話を聞いてくれなさそうな教官から意識を外し、戦況の変動を見据える。

 

「頑張って、みんな……!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ミカは彼らの奮戦を期待するしかなかった。

 

 ――ちょうど、ロンド・ベル艦隊から第六波、本命の核ミサイルがアクシズ目掛けて殺到するものの、シャアのサザビーのファンネルによって迎撃され、アクシズ表面近くを眩い爆発が多発する。

 

 

 

 ジュゲムの作戦通り、アスノとカンナが戦っているアクシズ表面へ近付いていくソウジ、ショウコ、ジュゲムの三人。

 乱戦に持ち込ませるものかと、それに追いかけて来るレッドバロンの四機。

 だがそれこそがジュゲムの目論見通りであり、突然振り返って反撃を繰り出そうとした、その時。

 

 ギラーガは途中で足を止め――方向転換し、アクシズの裏側へ迂回するように移動、意図に気付いたのかダリルバルデもそれに続く。

 

「チッ、こっちの動きを読まれたか」

 

 舌打ちこそすれど、ジュゲムは焦らない。

 この場で作戦プランを修正すれば済む――それを戦闘中に出来る人間は存外少ないのだが――のだから。

 

「キタオオジ君とコニシちゃんは、迂回した敵の追撃に向かってくれ。絶対にアカバ氏と合流させるな」

 

 ジュゲムは即座にソウジとショウコに指示を与える。

 

「あんたはどうするつもりだ?」

 

 ここで二人とも抜けたら、残るゲルググJとグリムゲルデを一人で相手にすることになるぞ、とソウジは言う。

 

「なんとかするさ。……幸い、まだ打てる手はある」

 

 なんとかする。

 ジュゲムのその言い方に、ソウジはどこか引っ掛かるものがあったが、ショウコの声に意識を引き戻される。

 

「ソウくん、『ここはオレに任せて行け』ってヤツだよ!ほら、あたし達は空気読んで今の二機を追い掛けるよ!」

 

「それフラグだろうが。……フリじゃねぇけど、やられんなよ」

 

「あぁ、そっちは任せたよ」

 

 ガンダムアスタロトブルームⅡとロイヤルプリンセスルージュが方向転換するのを尻目に、ジュゲムは通信を切り、ゲルググJとグリムゲルデの相手に集中する。

 

「やれやれ、分の悪い賭けだな、これは……」

 

 三人で敵四機を足止めしつつ、アスノとカンナがユウイチを撃破、そうして士気の下がった相手を各個撃破する、というのがジュゲムの作戦プランだったが、策を見抜かれてしまい、突然修正を強いられてしまった。

 打てる手があるのは嘘ではないが、恐らくそれは決定打にはなるまい。

 

 だが、やるしかない。

 ジュゲムは腹を据えて相対する二機を見やる。

 

「さてさて。オレの実力、どこまで通じるか……いざ勝負といこうか」

 

 もちろん、真っ向勝負なんてしてやるつもりはないが。

 右にビームスナイパーライフル、左に100mmマシンガンをそれぞれ備えて、ダーティワーカーは己が仕事を全うするのみ。

 

 

 

 アクシズの裏側から表面へ向かう敵機を追う、ガンダムアスタロトブルームⅡとロイヤルプリンセスルージュ。

 するとギラーガとダリルバルデは追手に気付いたか、踵を返して対峙する。

 ギラーガはXトランスミッターからギラーガビットを放ち、ダリルバルデは背部一対のイーシュヴァラBを射出し、迎撃を開始、多方向からの攻撃にソウジとショウコは迂闊に近付けず、ガンダムアスタロトブルームⅡとロイヤルプリンセスルージュは背中合わせに立ち回る。

 

「クソッ、数的不利じゃねぇってのによ!」

 

 ソウジは悪態を付きながら、ショットガンとハンドガンを撃ちまくってギラーガビットを相殺し、イーシュヴァラBを弾き返す。

 

 これでもまだ互角ではない。

 如何にしてどう、勝ち目をもぎ取るか。

 

「平気平気!これくらいなんとでもなるしっ!」

 

 ショウコはまだ気丈に振る舞いつつ、マギアマシンガンと110mm機関砲を撃ちまくる。

 どうにかギラーガビットを全て撃ち落としたが、イーシュヴァラBのビームサーベルが斬り裂こうと迫る。

 

「ショウコ!援護は任せる!」

 

 ソウジはそう言うなり、左の操縦桿を弾くように押し引いた。

 

「そらよ!」

 

 するとガンダムアスタロトブルームⅡはハンドガンを投げ捨てて――イーシュヴァラBに向けて投げられたそれはビームサーベルに破壊されるがしかし、弾倉がビームに引火して爆発、イーシュヴァラBもろとも破壊した。

 これを警戒したか、ダリルバルデはもうひとつのイーシュヴァラBをバックパックに呼び戻し――それを狙っていたガンダムアスタロトブルームⅡはショットガンを撃ち尽くす勢いで連射、ダリルバルデを牽制しつつもショットガンを捨てて、デモリッションナイフを抜いて接近戦に持ち込む。

 

「うらぁッ!」

 

 勢いよく振り抜かれたデモリッションナイフとビームジャベリンが再び激突、力比べへと縺れ込む。

 ダリルバルデは力比べの姿勢のまま、胴体部のビームバルカンを速射、ガンダムアスタロトブルームⅡを怯ませようとするが、低出力のビーム弾ではナノラミネートアーマーに対してほぼ無力だ。

 不意に、ガンダムアスタロトブルームⅡの方から鍔迫り合いを止め、ダリルバルデはビームジャベリンを空振りする。

 空振りしたところに、デモリッションナイフを叩き込もうとフルスイングするソウジ。

 即座にダリルバルデの左のアンビカーが肩から切り離され、デモリッションナイフの一撃を受けるものの、勢いの乗った重撃はそれすらも粉砕する。

 

 デモリッションナイフとビームジャベリンが打ち合うその背後を、ロイヤルプリンセスルージュとギラーガが中距離射撃で互いを制し合う。

 マギアマシンガンと110mm機関砲の弾幕に対して、ギラーガはギラーガスピアを高速回転させ、即席のビームシールドのようにして防ぎ、それが止むや否や胸部のビームバスターを照射、薙ぎ払って来る。

 

 そう来るだろうと思っていたショウコは操縦を捻り返しつつウェポンセレクターを開き、左マニピュレーターにマギアサーベルを抜き放ち、ビームバスターを照射していた反動で動きを止めているギラーガへ躍りかかる。

 対するギラーガは左手首のビームバルカンの砲口からビームサーベルを発振させ、ロイヤルプリンセスルージュの攻撃を食い止める。

 

「いただき!」

 

 ビーム刃の鍔迫り合いを繰り広げる最中、マギアマシンガンの近距離射撃を敢行しようとするショウコ。

 しかしギラーガは不意に鍔迫り合いを強引に打ち切り、その場でサマーソルトするように機体を翻し――膂部に備えている多節鞭――『ギラーガテイル』を振るい、マギアマシンガンを斬り裂いた。

 

「うっそ!?エヴィンじゃないけど、うわっ……!」

 

(余計なことを口走りつつ)ショウコは慌ててマギアマシンガンを手放して、爆風から逃れるロイヤルプリンセスルージュ。

 間髪入れず、ギラーガは反撃にギラーガスピアを突き出す。

 咄嗟にショウコが回避を取ったが、ロイヤルプリンセスルージュの右頬と金髪の頭部装甲、肩口付近を焼き斬る。

 

「なめんな、しっ!」

 

 損傷警告を無視しながら、ショウコは操縦桿を捻り出す。

 即座、空いた右マニピュレーターで突き出されたギラーガスピアの柄を掴み、それを支点に鉄棒のようにぐるんと機体を翻し、強烈な回し蹴りをギラーガの頭部に叩き込み、ついでにその手に持っていたギラーガスピアも奪い取る。

 

「(損傷率42%……まだイケる!)」

 

 半壊寸前だが、まだ十分に機体は動くなら問題はないはず、とショウコは110mm機関砲を連射しながらイニシアティブを取

り直していく。

 

 次第に、ガンダムアスタロトブルームⅡとロイヤルプリンセスルージュが再び背中合わせになるように立ち回り、ダリルバルデとギラーガは前後から挟撃せんと動きを変えるが――

 

「ソウくんっ、"スイッチ"!」

 

「おぅ!」

 

 ショウコの合図にソウジが応じると、背中合わせになっていた二機はぐるりと互いの前後を"入れ替える"。

 

 すると、今度はガンダムアスタロトブルームⅡがギラーガを、ロイヤルプリンセスルージュがダリルバルデを、それぞれ相手することになる。

 

 突如としてマークしていた相手が変わったことに、ギラーガとダリルバルデは警戒から身構えようとする。

 

 ギラーガスピアを奪われたままのギラーガは、右マニピュレーターにギラーガテイルを抜き放ち、ガンダムアスタロトブルームに向けて鞭のように振るう。

 これに対してソウジは敢えてデモリッションナイフを突き出し、刀身にギラーガテイルを絡み付かせ、

 

「技をパクるぜ、教官!」

 

 ハヤテとの個人指導で覚えた、『デモリッションナイフを防御や回避に転用する技能』。

 ギラーガテイルが絡みついた状態で、ソウジは強引にデモリッションナイフを折り畳んだ。

 当然ギラーガテイルが挟まってしまうため、完全に折り畳むことは出来ないのだが、不意にギラーガテイルを引き込まれた形になるため、ギラーガは右腕から無防備に引き寄せられてしまう。

 ほぼゼロ距離の間合いにまで引き寄せたソウジは、デモリッションを捨ててギラーガに組み付くと、サイドスカートのブーストアーマーからナイフを抜き放ち、

 

「こいつでっ、どうよ!」

 

 ギラーガのバイタルパート目掛けて思い切り突き込み、内部を抉り出した。

 

 ギラーガ、撃墜。

 

「よっしゃっ、まずはひと……っ!?」

 

 ギラーガの撃破を喜ぶ間もなく、ソウジは視界に入った光景に声を詰まらせた。

 

 ロイヤルプリンセスルージュの動きが明らかに鈍っており、ダリルバルデのイーシュヴァラA――ビームジャベリンを分離したビームアンカーとビームクナイをそれぞれ持たせた前腕――と、もうひとつのイーシュヴァラBの三つのドローン武装に追い立てられている。

 

 

 

 損傷率42%――不吉な数値だった。

 42――死に――という数値を見た瞬間そう思ったショウコだったが、そんな奇妙なジンクスなど気にしている場合ではないと、ダリルバルデを挑み掛かったまでは良かった。

 

 イーシュヴァラAの波状攻撃を、こちらも――ギラーガから奪った――ギラーガスピアを分離させて対抗し、弾き返しつつも接近戦を仕掛けようとするが、ダリルバルデは接近されるのを嫌って胴体部のビームバルカンを速射してくる。

 接近したい側のショウコは、ビームバルカンの直撃を避けるようにして最短で接近を試みようとして、

 

 ビームバルカンのビーム弾が二発ほど右肩を掠めた瞬間、ロイヤルプリンセスルージュの右の肩口付近がショートし、内部から爆発した。

 

「えっ!?」

 

 何故急に、とショウコの動揺を突くかのようにダリルバルデはもうひとつのイーシュヴァラBも展開し、一気に攻めたててくる。

 右腕を肩から失ったロイヤルプリンセスルージュ――肩部の大型バーニアは機動性の要だ、それを失えば一気に機動性が低下する。

 

「ちょっ、やっ、やばいって……!?」

 

 フラフラと不安定な機動で、どうにかイーシュヴァラによるビーム刃を回避していくものの、長くは保たない、次の瞬間にはやられる。

 

 三基のイーシュヴァラがロイヤルプリンセスルージュを取り囲み、ズタズタに引き裂かんと襲い掛かる。

 

「(あ、これ、やられちゃうヤツ……)」

 

 どう躱してもイーシュヴァラのどれかを直撃し、動きが止まった瞬間に確実に仕留めてくる。

 ショウコの中で諦めが脳裏を過――

 

 

 

「俺のショウコにっ、手ぇ出すなァァァァァッ!!」

 

 

 

 突如、イーシュヴァラが牙を剥くその中をガンダムアスタロトブルームⅡが飛び掛かり、ロイヤルプリンセスルージュを掴み、自機の後方へ投げ飛ばす。

 

「ソウくっ……!?」

 

 結果、ロイヤルプリンセスルージュは撃墜されなかったが――その身代わりに、ガンダムアスタロトブルームⅡに三基のイーシュヴァラが襲いかかった。

 

 右肩に、左脚に、胴体に。

 

「ソウくん……っ、なんでっ!?」

 

 撃墜寸前だった自分のことなど放っておけば良かったのに、とショウコは声を荒げる。

 しかし応じられたノイズ混じりの通信の、ソウジの声は柔らかいものだった。

 

「へっ……男ってのは、好きな女の前じゃ、『えぇかっこしぃ』をしていたいんだよ」

 

 バジジッ、とビームサーベルが突き刺さった胴体部がスパークを漏らし――

 

「悪ぃ、あと頼むわ」

 

 小爆発。

 ガンダムアスタロトブルームⅡはツインアイの光を消し、撃墜判定を受けた。

 

 ガンダムアスタロトブルームⅡ、撃墜。

 

 敵機の撃破を確認したダリルバルデはイーシュヴァラをガンダムアスタロトブルームⅡから引き抜こうと制御し、

 

「――よっく、もぉぉぉぉぉっ!!」

 

 瞬間、ロイヤルプリンセスルージュは残されたバーニアをフルスロットルで開き、一直線にダリルバルデへ突撃する。

 神風特攻とも言える突撃に、ダリルバルデは虚を突かれたように一瞬動きを止めるが、すぐさま蹴り出すように右脚のシャクルクロウを射出、ワイヤークローと化したそれがロイヤルプリンセスルージュに咬み付き、高圧電流を流し込む。

 

「んっ、ぐっ、ぎいぃ……ッ!」

 

 高圧電流に機体が内部から焼かれるものの、ショウコは構わずにさらにスロットルを強引に押し上げ――もはや、不退転。

 損傷が重なった所へ高圧電流が重なり、ロイヤルプリンセスルージュのバーニアが爆発していくが、なおも止まらない、否、もう止まらなくなった。

 そのままダリルバルデの腹部へ頭突きをするように突っ込み、残された右腕でシャクルクロウのワイヤーを掴み、それを無理矢理ダリルバルデの胴体へ押し付ける。

 高圧電流でボイルされたロイヤルプリンセスルージュに加えて、シャクルクロウの電撃を逆流され、ダリルバルデにまでそれが及ぶ。

 

「――あ」

 

 しかし耐えきれなくなった機体は内部から爆散し、ロイヤルプリンセスルージュは粉々に砕け散った。

 

 ロイヤルプリンセスルージュ、撃墜。

 

 しかし、高圧電流を流している最中のシャクルクロウのワイヤーはダリルバルデに触れたまま。

 ダリルバルデは覚束なくなりつつある制御でシャクルクロウのワイヤーを取り除こうとするものの、そのためにはイーシュヴァラAを呼び戻さなければならないのだが、機体がこんな状態ではドローンの制御などしようが無く――ついにダリルバルデの耐電性を越え、機体が内側から爆発した。

 

 ダリルバルデ、撃墜。

 

 

 

 ソウジとショウコが自らの機体を犠牲にして、ギラーガとダリルバルデを道連れに撃破した頃。

 

 ジュゲムのダーティワーカーは、ゲルググJとグリムゲルデの波状攻撃を前に、どうにか撃墜されないように立ち回るので手一杯だ。

 

 格上相手――それも二対一で持ち堪えていられるのは、ジュゲムの実力があってこそだが、防戦一方であることに変わりはない。

 

 グリムゲルデが二刀のヴァルキュリアブレードをシールド裏から展開して猛然と斬り掛かり、その後ろからはゲルググJが大型ビームマシンガンのスコープ越しに睨んでおり、僅かでも隙が見えれば即座に狙い撃ってくる。

 

 それでもジュゲムは功を焦ることなく冷静に攻撃を捌き凌いでいくが、やはり地力の差があるせいか、徐々に追い詰められてしまう。

 

「(キタオオジ君とコニシちゃんがやられたが、向こうも二機失った……二人とも相討ちに持ち込んだか)」

 

 ソウジかショウコのどちらかでも生きていれば、こちらの援護に来てもらいたいところだったが、そう都合良くはいかないらしい。

 

 ドムソヴィニオンと戦っているアスノとカンナはまだ健在。

 

 ここまでは順調……とはいかずとも、想定の範囲内ではある。

 

 自機のダーティワーカーも、防御と回避を優先して立ち回っているが、損傷度は深まりつつある。

 

「……本当に分の悪い賭けだな、これは」

 

 小さくそう呟くや否や、ジュゲムはウェポンセレクターを回し、ダミーバルーンのそれを選択、多数のダーティワーカーに似せたダミーバルーンを膨らませ、向かって来るグリムゲルデに向かって射出すると、全速力でその場を離脱する。

 

 突然敵機の反応が増えたことに一瞬挙動を乱したグリムゲルデだが、しょせんは子供騙し、とヴァルキュリアブレードでダミーバルーンのひとつを斬り裂き――爆発した。

 

 これは、『ポケットの中の戦争』劇中で披露された、『バルーンの中にハンドグレネードを仕込んだ即席のトラップ』、その応用だ。

 

 仕込んでいたグレネードのサイズの問題から、グリムゲルデの装甲を破壊するには至らなかったものの、爆風で体勢を崩し、何よりも『乗り手を瞬間でも動揺させる』という副次効果が大きい。

 

「勝ったな」

 

 この賭けは、自分の勝ちだ。

 

 振り向きざまにビームスナイパーライフルを構え、ほとんど狙いも付けないマニュアル制御で発射。

 

 高出力のビームはナノラミネートアーマーすらぶち抜き、グリムゲルデのコクピットを貫いた。

 

 グリムゲルデ、撃墜。

 

 だが、ビームスナイパーライフルを発射した、その反動。

 

 ほんの僅か、けれどそれはゲルググJの反撃を許すには十分過ぎた。

 

 即座、大型ビームマシンガンのビーム弾がダーティワーカーに襲い掛かった。

 

 腕を、脚を、頭部を、スラスターを、センサーを、ビームスナイパーライフルを撃ち抜かれ、機体のあらゆる部位がレッドランプをがなり立てる最中、ジュゲムはもうひとつの"賭け"に出た。

 

「気付いてくれよ、ツキシマちゃん」

 

 撃墜の寸前、最後にキーを押し込み――

 

 ダーティワーカー、撃墜。

 

 

 

 ユウイチのドムソヴィニオンとの激しい戦いを繰り広げる、アスノとカンナ。

 不意に、ガンダムダイアンサスのセンサーが、ごく微弱な発信を捉えた。

 集中していなければ気付くことすら出来なかっただろう。

 

「……?」

 

 識別信号は、味方からのもの。

 その内容は短文のメッセージだ。

 

『HES−88方向より、敵機接近。注意されたし』

 

「(これは……)」

 

 方角から見るに、恐らくはジュゲムが足止めしていた相手、ゲルググJかグリムゲルデだ。

 

「アスノさん、敵が一機こちらに向かってくるようです。私が迎撃します」

 

「分かったっ!」

 

 一時たりともドムソヴィニオンから目を離してはならないアスノは、カンナを信じて頷く。

 カンナはガンダムダイアンサスを反転させ、メッセージの指定した方角へ向かっていく。

 

 コンソールを打ち込み、センサーの感度範囲を広げ――彼方よりとても小さい、しかし確実にそこにいる、敵対反応を発見する。

 あちらはまだこちらを捕捉出来ていない。

 

 ならば、とカンナはウェポンセレクターを回し、『SP』のそれを開いた。

 

 ビームライフルを納め、シールドも左腕のコネクタから切り離し、バックパックに折り畳んでいるビームボウを抜く。

 

 "弓"が展開すると、同時に指向性の粒子線が発振される。

 

 半身の姿勢を取り、右マニピュレーターが"弦"を引き絞る。

 

 ビームの矢が形成され、さらに集束・増幅していく。

 

 バチバチと弓と弦からスパークが弾け迸る。

 

 既に敵機の位置は見えている。しかしまだ射ない。

 今ここで射たところで、恐らくは躱される。

 だから、確実に一矢で仕留める。

 

 ビームボウのエネルギーはとっくに臨界――否、暴発寸前だ。

 

 まだだ、向こうがこちらを捕捉して意識を向けるまでは。

 

 近付きつつある敵対反応を、目視で捕捉、大型ビームマシンガンを抱えたゲルググJを発見する。

 

 同時に、ゲルググJのモノアイがガンダムダイアンサスへと向けられ――今だ!

 

「『必勝必携 アロー・オブ・ダイアンサス』ッ!!」

 

 極限まで引き絞られた粒子線を放ち――自然災害の稲妻そのものを投射したかのような、凄まじい閃光の奔流が放たれた。

 

 光の速さで放たれた閃光の矢、ゲルググJもガンダムダイアンサスが何かを発射したという認識は出来たものの、それに対して回避するか大型ビームマシンガンで迎え撃つかの判断が僅かに遅れ――奔流がゲルググJを呑み込み、消滅させた。

 

 ゲルググJ、撃墜。

 

 しかしその代償も大きかった。

 あまりの反動にガンダムダイアンサスは左肩の関節が胴体から吹き飛んでいた。

 加えて、今のエネルギーの大半を費やしてしまったので、ビームライフルを撃つことも難しいだろう。

 

 ソウジ、ショウコ、ジュゲムが撃墜され、カンナももう動けない。

 

 あとは、大将同士の一騎討ちだ。

 

「勝って、勝って私に告白してくださいね、アスノさん」

 

 その彼に聞こえないように、カンナは小さく呟いた。

 

 ――同じ頃、ロンド・ベルのブライト・ノア率いる内部工作隊がアクシズ内部の爆破に成功し、アクシズは真っ二つに分断されていくのが見えた。




 次回、最終回予定です。
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