ホビーショップ『鎚頭』
今日も開店しているのだが、肝心のお客は来ない。
何せ今日はGPVSの選手権大会だ、ここに来店する顧客のほとんどは静岡県の会場にいるか、あるいは自宅やネットカフェなどでバトルの中継動画を視聴しているのだから。
閑古鳥が鳴くどころか、閑古鳥すらいないほど来店客はいないが、これ幸いとばかりに名瀬さんもアミダ姐さんもパソコンの動画に釘付けだ。一応、来店客や電話応対はアミダ姐さんが受け持つことになっているが。
「大将同士の一騎討ちになったか」
名瀬さんは、アスノのガンダムAGE-Xと、ユウイチのドムソヴィニオン以外の状況が映らなくなったことで、残されているのはお互いのリーダー機のみだと読み取る。
「どっちが勝つと思う?」
アミダ姐さんは、白と黒のガンダムと、真紅のドムを見比べながら名瀬さんに問い掛ける。
「普通に考えりゃ、アカバだな。いくらこの三ヶ月間頑張っても、年単位での経験値ってのはそう簡単に覆せるモンじゃねぇ」
だが、と名瀬さんの見据える視線の先にいるのは、ガンダムAGE-X。
「アスノ(あいつ)なら、俺の考えなんぞひっくり返してくれちまう……とも、期待しちまうな」
結局、勝負というものは終わるまでは分からないものだ。
それも、どちらがどちらも一進一退の攻防を繰り広げ、奇策珍策を練り込んだ末の真っ向勝負ならなおのこと。
子どものように目を輝かせる名瀬さんに、アミダ姐さんは「これだから男ってのは何歳(いくつ)になっても変わらないねぇ」と優しく微笑んだ。
アクシズ表面に、白と赤の機影が激しく入り乱れる。
カンナの援護が無くなったと言っても、それでアスノの闘志は弱まりはしない。
ドムソヴィニオンのファンネルには、ライフルとサーベルの2タイプのドッズファンネルで対抗し、その数を減らていくものの、ドッズファンネルも片方分が破壊されてしまう。
互いのファンネルがエネルギー供給のために呼び戻されれば、ロングドッズライフルとジャイアントバズが交錯する。
爆薬の炸裂と共に、ガンダムAGE-Xのバイタルパートめがけてジャイアントバズの砲弾が襲い来る。
紙一重でシールドで受けるものの、完成度に見合った弾頭の破壊力を受け止めきれず後方へ吹っ飛ぶ。いくらアスノが手掛けた堅固な盾と言えど表面は半壊しており、次はもうシールドが保たないだろう。
アスノは震動に顔をしかめながらも姿勢制御し直し、アクシズ表面に着地、と同時に踏み込み、両方の衝撃でアクシズの一部が砕け散る。
ドムソヴィニオンの頭上からの渾身の振り降ろし……に見せかけて急制動を掛け、ビームサーベルを突き出したドムソヴィニオンのに懐に飛び込み、右切り上げ、左薙ぎのビームサーベルがドムソヴィニオンのボディを斬り裂くがしかし、寸前で躱されていたのか、そのダメージは浅い。
ビームサーベル同士による光速の剣戟。
迷い無く急所を狙う躊躇いなさ。
何手凌がれても引くことはない。
それら全てが受け流され、払い、逸らし、絡め取られる。
本当に、
『――素晴らしいな、アスノ君』
ドムソヴィニオンがビームサーベルを切り返し、不意に跳ね上げられて機体の重心が持っていかれるガンダムAGE-X。
いくら完成度の高いガンプラといえど、使い手たるバトラーは生身の人間だ。
動きを止めること無く、同時に攻撃や防御、回避を高速で繰り返せば、どこかで必ず集中力が切れ、致命的な隙がうまれる。
一手足りない。
この真紅のリック・ドムの喉元に咬みつき、喰いちぎるには、まだ足りない。
ビームサーベル同士の剣戟の最中、無防備になったガンダムAGE-Xの腹部に、ドムソヴィニオンの重厚な右足が叩き込まれる。
「ぐっ、うぅ……ッ!」
激しい震動に視界がブレる。
直後に発射されたジャイアントバズの砲弾をほぼ無意識にバーニア出力で強引に避け、しかし僅かに右側頭部にぶつかり、信管が作動、爆発。
爆炎は右側頭部と右肩装甲を焼き、右のビームバルカンの使用不可と右肩の損傷をけたたましく伝えてくるコンソール。
ジャイアントバズの弾頭がガンダムAGE-Xのシールドに再び炸裂――の寸前にアスノは咄嗟にシールドと左腕を繋ぐジョイントを切り離し――、破壊され、ロングドッズライフルのビームがドムソヴィニオンのジャイアントバズを掠め、爆破させる。
『チィッ』
メイン武装であるジャイアントバズが失われれば、ドムソヴィニオンは即座に左手から右手にビームサーベルを持ちなおして接近を試みる。
ガンダムAGE-Xも左手のビームサーベルで打ち合うものの、ドムソヴィニオンの返す刀の一閃でロングドッズライフルを斬り裂かれてしまう。
「まだだ!」
ロングドッズライフルを失ったことに動じること無く、アスノは即座にウェポンセレクターを切り替えてビームバルカンを選択、残された左側頭部からビーム弾を速射して、ドムソヴィニオンの頭部のクリアレンズを損傷させる。
『させんよ!』
ドムソヴィニオンはその場で右脚を振り上げてガンダムAGE-Xを蹴り飛ばし、すぐさま左胸部のメガ粒子砲を集束し、照射。
「(追撃が来る!)」
アスノはほぼ直感的な反射で操縦桿を捻ってメガ粒子砲を躱し、残されたもうひとつのドッズファンネルを射出し、それを左腕に装着させる。
ドッズファンネルは遠隔攻撃端末としてだけでなく、直接保持してドッズキャノンとしても使用することも出来るのだ。
姿勢を制御しつつドッズキャノンを連射、ドムソヴィニオン牽制する。
メガ粒子砲の発射の反動で僅かに動きを鈍らせていたドムソヴィニオンだが、最小限の回避のみでビームをやり過ごしていく。
すると、不意にドムソヴィニオンの挙動が止まり、それに応じるようにガンダムAGE-Xもその場で静止する。
『アスノ君。今の私には、少しだけ"恐怖"がある』
「恐怖、ですか?」
互いのビームサーベルが切っ先を向け合い、睨み合う。
『命のやり取りではなく、君とのこの勝負がいつ終わってしまうのか。私にはそれが怖くてならない』
「もっとこのバトルを楽しんでいたい、ってことですか?」
『そうだ。だが勝負とは文字通り、"勝"つ者と"負"ける者を決めること。この楽しい時間はいつまでも続かない』
そして、とドムソヴィニオンのモノアイが力強い輝きを放つ。
『それも、もうそろそろ幕引きだ』
「なら、決めましょう。どっちが、この勝負に幕を下ろすのか」
ガンダムAGE-Xのツインアイもまたそれに呼応するように輝く。
瞬間、加速。
ビームサーベル同士の衝突、刺突、激突。
『やるようになったな、アスノ君!』
ドムソヴィニオンのビームサーベルがドッズキャノンを斬り裂き、ガンダムAGE-Xは即座にドッズファンネルの基部からライフル部分を切り離して誘爆を防ぐ。
「こんっ、のぉッ!」
ドッズファンネルをビームサーベルモードに切り替え、トンファーのように振り下ろしてドムソヴィニオンの左腕を斬り落とす。
『なんとっ!?』
片腕を失い、ドムソヴィニオンは距離を取るために飛び下がる。
ここで初めて、ユウイチが後手に回った。
攻め込むなら今しかない。
右のビームサーベルと、左腕のビームサーベルの変則的な二刀流を以てガンダムAGE-Xは突撃、内部爆発によって分断されていくアクシズを足元にドムソヴィニオンへ追い縋る。
「ここで、決めるッ!」
『なめるな!』
左右のビームサーベルによる連撃で攻め立てるガンダムAGE-Xに対し、ドムソヴィニオンは右のビームサーベルだけで対抗する。
激しく斬り結ぶ最中、アスノは。
「あぁ……本当に良かった」
『何が、だ?』
「実を言うと僕、最初はこの大会に出たいって思わなかったんです。ソウジとショウコに誘われて、その時は記念出場でいいかなって」
『だが、今は違うな?』
「はい。本気で優勝を目指そうって決めて、そうしたら今まで見えなかったことも見えるようになって、……好きな人も、出来て。今日までガンプラバトルを続けてきて、本当に良かったです」
『フッ、それは良かった』
正面からぶつかって弾き返すのではない、強い力に対して弱い力を与えてベクトルを逸らすようにして、受け流している。
ガンダムAGE-Xが空振りしたところへ、ドムソヴィニオンは素早い居合斬りのごとくビームサーベルを振るい、その右腕を斬り落とし、間髪無くバーニアの加速によるタックルでガンダムAGE-Xを弾き飛ばす。
『そこだ、ファンネル!』
ドムソヴィニオンは残り二基のファンネルを射出、姿勢制御が出来ていないガンダムAGE-Xにビームが襲い掛かる。
アスノは胴体部への直撃を避けるべく機体を捩らせるが、左脚を撃ち抜かれ、頭部の右半分を抉られてしまう。
視界は半減――しかし怯む理由にはならない、すぐさま反撃の算段を立て直せるものだ。
「……な、ん、とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーッ!!」
損傷によるレッドランプの箇所がコンソールを埋め尽くしてもなお、アスノは己の力を振り絞って操縦桿をフルスロットルで押し出し、爆発的な加速と共に、ガンダムAGE-Xはドムソヴィニオンへと突っ込む。
『ならば、受けて立つまで。ユニバァァァァァァァァァァーーーーース!!』
ドムソヴィニオンもまたビームサーベルを構え直して突撃する。
双方の最大出力のビームサーベルが正面衝突する。
左腕のドッズファンネルの基部から直接ビームサーベルを放ち、全身ごと突っ込ませているガンダムAGE-Xのビームサーベルと、あくまでもマニピュレーターに保持しているドムソヴィニオンのビームサーベル。
力と力の押し比べはやがて――ドムソヴィニオンの手首にスパークが漏電し、グラついていく。
全身ごと突っ込んでいるガンダムAGE-Xと、片腕のパワーだけで支えているドムソヴィニオン、どちらの負担が大きいかは明白。
そして、
「行っけぇぇぇぇぇェェェェェーーーーーッ!!」
ガンダムAGE-Xが、ドムソヴィニオンを押し切った。
ドムソヴィニオンのボディを、ガンダムAGE-Xの左腕が貫く。
――その光景は、プロヴィデンスガンダムの息の根を止めた、フリーダムガンダムの最後の一撃に似た構図であった――
『――見事だ』
ドムソヴィニオンの弱々しくモノアイが点滅し、やがて消失した。
ドムソヴィニオン、撃墜。
――同時に、アクシズを押し上げようとしていたνガンダムから虹色の光があふれだし、アクシズを包み込んで行く。
『Battle ended. Winner.Estrella!』
一瞬の静寂――の瞬間には、会場を揺るがさんほどの拍手と歓声が轟き渡る。
「アスくん!みんな!おめでとうー!」
ミカは座席を立って、アスノ達に祝詞を投げかける。
「ぬおぉぉぉぉぉ!良く戦ったっ、良く戦ったぞチーム・エストレージャ!最高のバトルだったぞぉぉぉぉぉーーーーーッ!!」
滝涙を流して感動しているハヤテの大音量に耳を塞ぎながらも、アズサは「おめでとう、カンナ!」と叫ぶ。
その反対側では、チーム・ヘルハウンドのリーダーであるイヌイ・シゲルは、
「チッ……やるじゃねぇか、トウゴ」
自らの悲願とも言える、打倒アカバ・ユウイチを成し遂げたことに、舌打ちしながらもどこか嬉しそうに呟いた。
一方、ホビーショップ『鎚頭』では。
「はっはっはっ……ついにやりやがったか!」
選手権の様子を中継している動画をパソコンで観ていた名瀬さんは、愉快そうに手を鳴らす。
「フフッ、勝っちまったねぇ」
その後ろからアミダ姐さんも動画を覗いている。
「こりゃ早速宣伝だな。『選手権優勝チームの常連店』ってな」
ちと忙しくなるぜ、と動画を閉じた。
拍手と歓声が響く中、アスノと、仮面を外したユウイチは互いに握手を交わした。
「ありがとうございました、アカバさん!」
「こちらこそ、本当にいいバトルだったよ」
仮面を外したユウイチの素顔は少し汗ばみ、けれど清々しい。
「負けるとは思っていなかったが、不思議と悔しくは無いな。全力を出し切ってなお負けた時、すんなりと受け容れられるというのは本当らしい」
うむ、と満足げに頷くユウイチ。
「おめでとう、アスノ君。私を降した今日この時から、君は最強のバトラーになった」
GPVS最強のカリスマたる、アカバ・ユウイチから認められる。
それは、全バトラーにとっての至高の栄誉とさえ言える。
だが、アスノは首を横に振った。
「いえ……僕は最初、ツキシマさんと二人がかりで戦ってました。もし、最初から最後まで一対一だったら……」
実質、二対一で相手取っていたユウイチの方が消耗は激しかったはずだ。
途中からカンナが抜けたとは言え、消耗具合で言えばアスノはユウイチの半分ほど。
これは対等な条件下とは言い難い、それでユウイチに勝ったと言っても、果たしてそれは本当に彼を超えたと言えるかどうか。
「ならば、今度は最初から一対一で戦おう。今は、私を倒して優勝したことを喜んでほしい」
納得いかないなら納得がいくまで何度でも戦えば良い、しかし勝利の美酒に酔いしれるくらいはいいだろう、とユウイチは言う。
「はい!」
「……と言いたいが、君達は受験生か。来年の冬季選手権大会には、出られないか」
「え。…………ア、ハイ、ソウデス?」
一瞬、来年の高校受験のことが頭から抜け落ちていたアスノは、思い切り次の冬季選手権大会に出場するつもりだったので、カタコトになりながら頷く。
「まぁ、慌てることもあるまい。しっかりと次の準備が出来ると思えばいい。もちろん、勉学も含めてな」
高校受験のことが頭から抜け落ちていたのを見抜いたか、ユウイチは「勉学も」という部分を強調した。
いくらガンプラバトルで鎬を削り合ったと言えど、社会的な大人の正論としてそう言われては、まだ子どもでしかないアスノは強く言えなかった。
この後、チーム・月影とチーム・ヘルハウンドによる三位決定戦が行われ、結果は月影の圧勝という形に収まった。
元々、ヘルハウンドの面々の大会参加目的が『打倒アカバ・ユウイチ』であり、そのチーム・レッドバロンと戦えない以上、彼らにとっては単なる消化試合でしかなかった。
三位決定戦を終えれば、表彰式だ。
優勝:エストレージャ
準優勝:レッドバロン
三位:月影
三チームの代表者――イチハラ・アスノ、アカバ・ユウイチ、ナルカミ・ハヤテの三名が表彰台に乗り、それぞれにRX-78(ガンダム)の胸像を模した金、銀、銅のトロフィーを授与される。
『それでは、見事栄誉を勝ち取った御三方にコメントをいただきましょう。まずは三位のチーム・月影のリーダー、ナルカミ・ハヤテさんからどうぞ!』
アナウンサーからの指示の元、スタッフがマイクを用意し、まずはハヤテへと手渡される。
マイクを受け取ったハヤテは一度咳払いをしてからマイクこスイッチを入れる。
『いやぁ実に熱い戦いの数々!どのチームも優勝を目指して直向きに頑張って来たという想いがヒシヒシと伝わって来てとても喜ばしく嬉しい限りです!今大会に出場したチームの中には俺が教官として直々に指導したバトラーもいてどの試合も目が離せませんでした!我々チーム・月影は三位という結果に収まり今回も優勝することは叶いませんでしたが来年の冬季大会へ臨む闘志は潰えておりませんしむしろ例年よりも熱く燃えています!特に今大会ではぶつかる組み合わせではありませんでしたがチーム・エストレ……』
『あのすみませんナルカミさん、大変熱くて素晴らしいコメントなのですが、次の方も控えておりますので……』
『え?あぁすいません。つい熱くなってしまいました。では、最後に一言だけ……』
と、マイクのスイッチを切ると、思い切り息を吸い込み――
「会場のみんなぁ!応援あぁりがとォォォォォぉぉぉぉぉーーーーーッ!!」
最後に、マイクを使わずに感謝を叫んでみせた。
直後に割れるような拍手の嵐。
「ふぅ。はい、以上です」
スタッフに小さく会釈して、マイクを返すハヤテ。
『はい、ナルカミさんありがとうございました!続いては、準優勝のチーム・レッドバロンが主将、アカバ・ユウイチさん、どうぞ!』
次はユウイチがマイクを受け取る。
『ご来場の皆様。今季選手権大会も暖かく、そして熱く見守っていただき、誠にありがとうございました。今季大会は、過去最高の盛り上がりを見せ、開会式にも申し上げた通り、実に楽しくて、思い出に残るバトルとなりました。今回、我々チーム・レッドバロンは惜しくも準優勝という結果になりましたが、皆様の変わらぬ声援にチーム一同、感無量の喜びを感じております。今後ともGPVSという一大コンテンツをご贔屓に、よろしくお願いいたします』
最後に仮面を外して、深く一礼。
ハヤテの時と同様に、盛大な拍手。
『はい、アカバさんありがとうございました!それではトリを飾るのは、今大会の優勝チームのリーダー、イチハラ・アスノ君、どうぞ!』
そして最後にアスノ。
「き、緊張します……」
震える手でマイクを受け取り、数度の深呼吸の後に、マイクのスイッチを入れた。
『えーーーーー……っと。今回が、選手権大会初出場かつ初優勝の、チーム・エストレージャの、イチハラ・アスノです。元々、僕らがこの選手権大会に出場し、優勝を目指そうと決めたのは、中学生活最後の思い出のためでした』
静まり返る会場。
『出場しようと決めてから、この三ヶ月間、色んなこと……本当に色んなことがあって、チームのみんなと一緒に、自分に出来ることを精一杯取り組んできました』
そうだ、とアスノは視線をある方向に向ける。
その視線の先にいるのは、カンナ。
『僕には、好きな人がいます。その人には、この大会で優勝したら告白しようって決めていました。で、こうして優勝することが出来たので……今、この場でその人に想いを伝えようと思います』
ざわざわ、ざわざわと静かにざわめく会場。
「おいおい……アスノの奴、マジか?」
「うん、あれはマジの時の顔だよ」
「確かこれ、テレビ中継もやってるよな?」
「全国のお茶の間に、二人の関係が白日の下に……」
ソウジとショウコが互いに耳打ちする。
「………………」
そのすぐそばにいるカンナはソワソワしっぱなしである。
『僕の好きな人……それは、チームメイトの、ツキシマ・カンナさんです』
アスノは毅然と背筋を伸ばして、カンナを見据える。
『ツキシマさん……僕は、イチハラ・アスノは!君のことが好きです!僕と、恋人として付き合ってください!』
「!!」
真っ直ぐに好意を叩き付けられ、カンナは頬に熱を迸らせて硬直する。
そう言われるのだと予め分かっていても、いざそれが実行に移されるとなれば大違いだ。
しん……と静まり返る会場。
それを見計らったように、ジュゲムはカンナの肩を優しく叩く。
「ほら、ツキシマちゃん。イチハラ君は勇気を出したぞ。次は君の番だろう?」
「は……は、はいッ」
我に返ったカンナは、早歩きで表彰台へ向かう。
そこへ、気を利かせてくれたスタッフがもう一本マイクを用意して、カンナに手渡してくれる。
そして、表彰台に立つアスノと向き合う。
『わ……私も、ずっと、アスノさんのことが好きでした!去年の十一月のあの日、泣いていた私に手を差し伸べてくれた、あの日からずっと!』
ですから、と震える声でカンナはアスノの気持ちを受け入れた。
『ふっ、ふ、ふちゅちゅか者ですがっ、よよっ、よろしくお願い致しまふゅっ……!』
瞬間。
決勝戦の決着が着いた時以上の拍手が、祝福となって二人を包み込んだ――。
続いて閉会式。
閉会を締めくくるのはアカバ・ユウイチであったが、その直前に起きた『一大告白』のインパクトが大き過ぎて、閉会式どころではなかった。
それでもユウイチは形式的な閉会の言葉を告げ終えて、粛々と、そしてざわざわと閉会式は終了。
これにて、第23回GPVS選手権大会は幕を閉じた――。
その後日。
「ハイッというわけで!あたし達チーム・エストレージャの選手権大会優勝と、アスくんとカンナちゃんお付き合いおめでとうの会を兼ねた、祝勝会をおっ始めまーす!」
合宿の宿泊先でもあった、ツキシマ家の別荘にて、ショウコは音頭を取っていた。
「ひゃっほーっ!」
「いぇーい!」
ソウジとミカはテンション高く応じ、
「やったぜ、成し遂げたぜ」
ジュゲムはニコニコしながら頷き、
「あの、私この席にいていいのかしら……?」
何故かチーム・ブルーローズを代表としてアズサと、
「うおぉぉぉぉぉっ、イチハラ君とツキシマさんっ!おめでとおぉぉぉぉぉォォォォォーーーーーッ!!」
彼らの教官たるハヤテも、この席に着いていた。周囲への騒音を気にすることもないので、最初からテンション超一撃だ。
そして、
「「………………」」
今回の祝勝会の主役である、アスノとカンナの二人は、隣合って縮こまっていた。
実のところ。
この"祝勝会"とは名ばかりの二人の冷やかし会の前に、アスノはカンナのご両親に呼び出されていた。
お茶の間に堂々と放送された一大告白。
当然それは、娘と、その彼女が作り上げたガンプラの勇姿を視聴していたカンナの両親の目と耳にするところにあった。
衆人環視の中でも臆すること無く想いを告げる好青年、というイメージは先行していたが、蝶よ花よと育ててきた娘の彼氏たる少年がどのような男なのか、対面したくてしょうがなかったのだ。
アスノは緊張しつつも失礼の無い丁寧な物腰で、「お付き合いさせていただくことになりました」と深々と頭を下げるその様子は、これから結婚でもするのかと思うほどのものであった。
そこからは、自身のことを根掘り葉掘り訊かれ、ついでに娘のどこを好きになったのかも根掘り葉掘りと訊かれ、隣でカンナが頭から湯気を出しそうになるほど真っ赤になりつつも、結果として交際は認められた。
……一応、あちらからは「自分達の見ていないところで"ナニ"をしようとも構わないが、無責任なことは許さない」と釘を刺されたのだが。
ツキシマ家に仕えるコックやパティシエの手により、普通ならば手を出すことすら躊躇うほどの高級料理やスイーツが惜しみなくテーブルに運び込まれていく。人数があるとは言え、明らかに夏合宿の時よりもメニューが豪華である。
主役二人をそっちのけで遠慮なく食べていくソウジとショウコとハヤテ、遠慮しがちながらもスイーツが気になるアズサとミカ、の二局を前に、アスノの隣からカンナが「アスノさん」とちょんちょんと突く。
「ん?」
「本当に、ありがとうございます」
「ど、どうしたの、急に?」
唐突に感謝を告げるカンナに、アスノは戸惑う。
「これまでの、色んなことです」
去年の十一月に、運命的な邂逅を果たしたこと。
新学年になって転入、『鎚頭』で再会できたこと。
選手権大会出場のため、チームに受け入れてくれたこと。
二人きりで出かけた時に、運命の日を思い出してくれたこと。
一緒にテスト勉強を頑張ったこと。
夏合宿、ここで寝食を共にしたこと。
選手権大会を勝ち抜き、そして最後に告白してくれたこと。
「とても短かったようで、とても長かった三ヶ月でした。どれもこれも、私の思い出として強く焼き付いています。だから、アスノさん。私にこんなにもたくさんの、素敵な思い出を、ありがとうございます」
「それは……ちょっと違うんじゃないかな」
「違う、のですか?」
違うと言うアスノに、カンナは意外そうに小首をかしげる。
「もう三ヶ月経ったけど。でも、まだ三ヶ月なんだ。そりゃ、僕たちはそろそろ本格的に受験に備えなきゃいけないから、これまでみたいな、"楽しい思い出"はそんなに作れないと思うけど……」
でもさ、と続ける。
「僕は、これからのことだって楽しみなんだ。ツキシマさんはどこの高校に上がるんだろう、僕もそこに行きたいな、とか。ツキシマさんと二人なら受験勉強だって楽しくなるかな、とか。受験が終わったらツキシマさんと何して過ごそうかな、とか……」
「アスノさん」
ふと、カンナは遮った。ちょっとだけ、不満そうに頬を膨らませて。
「カンナ、です」
「え?」
「いつまで私のことをツキシマさんと呼ぶのですか。私達は、その……こ、こいびとどうし、ですから」
そこまで言われて、ようやくアスノにも合点が入った。
「あっ、そうか。ごめん」
名字ではなく、名前で呼んでくれと。
「じゃぁ……カンナさん」
「さん付けもいらないですよ?」
「その、これは単なる自己満なんだけど。カンナさんのことを大切にしたいって気持ちを込めて、さんを付けたいんだ」
「たっ、大切にににににっ……!」
アスノの無自覚かつ予想外の反撃に、カンナは声を裏返す。
「だから……これからもよろしく、カンナさん」
「よよっ、よろしくお願いしますっ、アスノさんっ!」
しかし二人とも迂闊である。
この場にいるのは、二人だけではないのだ。
「へっへっへっ〜、なんだかお二人さん、イイ雰囲気じゃないすか〜?」
炭酸ジュースを片手に、酔っ払ったつもりなのかショウコがニヤニヤしながら絡んできた。
「人前で堂々とイチャつきやかってなぁ。おいアスノ、そのまま押し倒してぶちゅーっといっちまえよ」
便乗するのはソウジ。
「おっ、押し倒……!?そっ、それはダメ!不良で不潔で不健全よ!!」
何故か全く無関係なアズサが飛び火を受けている。
「いいわね〜。青春青春、アオハルだわ〜」
「まだ学生なんだから、ハメを外し過ぎないようにね」
青春を羨むミカに、大人としての正論を忠告するハヤテ。
ツキシマ家の使用人達もこの様子を見守っており、「あらあらうふふ」「あ〜、尻が痒い……」などと言っている。
……先程の思い出語りも全て聞かれていただろう。
それに気付いた瞬間、カンナは
「……〜〜〜〜〜ッッッッッ!!」
沸騰して音を鳴らす薬缶のごとく真っ赤になっていく。
そして、
「きゅ〜……」
と可愛い鳴き声と共に気絶してしまった。
「ちょっ、カ、カンナさん!?」
アスノは慌ててカンナを介抱しつつも、
この楽しくて仕方ない時間と、カンナと共に歩むこれからの未来に、期待と希望を膨らませるのだった――。
――そして、月日が流れて。
アスノとカンナ、ソウジ、ショウコ、ジュゲムはそれぞれの進路を進みつつも、連絡は頻繁に取り合っていた。
中学生らの受験のためにパスしていた冬季選手権大会。
次の夏季大会になってようやく、チーム・エストレージャは再び舞台に立つ時が来た。
『さぁっ、今大会の注目チーム!前年の夏季大会にて、レッドバロンを打ち破った優勝チーム、エストレージャの登場です!!』
スポットライトと派手なドライアイスの噴射と共に、五芒星は現れる。
「行こうか、カンナさん」
「はい、アスノさん」
各々、この一年でさらに改修を加えた愛機を読み込ませ、ランダムフィールドセレクトは『インダストリアル7』を選択する。
「キタオオジ・ソウジ!」
青いフレームのガンダムアスタロト。
「コニシ・ショウコ!」
ナイト風の孫尚香ストライクルージュ。
「ジュゲム」
ミリタリーテイストなガンダムEz8。
「ツキシマ・カンナ!」
大和撫子を思わせるライジングガンダム。
そして、
「イチハラ・アスノ!チーム・エストレージャ、行きます!!」
無駄なく洗練されたガンダムAGE-1が、翔び立つ――。
FIN