公立蒼海学園。
海岸沿いに面した臨海の中学校であり、一般開放されている屋上ではきらびやかな海が見渡せるため、昼休みや放課後は生徒達の憩いの場にもなっている。
その、ある日の昼休み。
三年A組の教室内で、アスノ、ソウジ、ショウコの三人は……否、三人ではなく、今日からは四人。
「では、お邪魔します」
そう、B組のツキシマ・カンナも加わったのだ。
昨日のあれから互いの連絡先も交換し合い、晴れてカンナも仲間入りを果たした。
今日はその親睦会……と言うよりは、単にショウコが一緒に食べたかっただけである。
「カンナちゃんようこそー!」
昨日から彼女のことを下の名前で呼び始めたショウコは「どんどんぱふぱふー!」と囃し立てる。
「ほら、アスくんとソウくんも、ちゃんとカンナちゃんを歓迎してあげないと」
ショウコは反応の薄い男子二人の肩を叩く。
「え?えぇと、ツキシマさんようこそ……」
アスノは躊躇いがちに、
「えらっさーい、パチパチパチー」
ソウジは棒読みしながらやる気のない拍手をする。
「アスノさん、キタオオジさん、よろしくお願いしますっ」
そして律儀に二人にもお辞儀するカンナ。
ショウコは「二人ともノリわるーい」と不満そうだが、お待ちかねのお弁当タイムである。
「さぁ、カンナちゃんのお弁当はいかがでしょうっ」
「そ、そんな大した物では無いですよ?」
ショウコに急かされて、カンナは謙遜しつつ自分の弁当箱を開く。
元・お嬢様学校のお弁当とは如何に、と期待していたショウコだが、
「……思ったより、普通だね?」
こぢんまりとしたおにぎりがいくつかに、主菜、副菜がバランス良く小綺麗に並べられた、『普通のお弁当』であった。
「あぁ、おせち料理並みに豪勢なものだとばかり思ったぜ」
ソウジもショウコと同じような期待をしていたようだが、微妙に肩透かしを喰らったようだ。
「で、ですから、そんなにすごいお弁当ではないと」
ご期待に応えられなくて申し訳ないですが、とカンナは苦笑する。
が、アスノの見る目だけは違った。
「いや、これ一見普通っぽいけど、中身は会食に用意されるようなモノだよ?例えばこれとか……」
アスノはカンナの弁当に使われている食材――それも高級品質なものばかり――を挙げていく。
「そ、そうなのですか?」
当のカンナすら、その実態は把握していない。
「はぇー、さすが料理が出来る人の目は違うね」
ショウコも、アスノの料理に関する目敏さには感心するばかりだ。
「アスノさんのお弁当は、ご自分で作られているのですか?」
今度はカンナの視線がアスノの弁当箱に向けられている。
「うん、まぁ、昨日の夕食の残り物だったり、朝食作るついでの詰め合わせだけど」
そう言いつつ、アスノは自分の弁当箱を開いて見せる。
見た目は、カンナの物とそう変わらないが、アスノの場合は使っている食材が高品質と言うわけではない、むしろ値引きなどがされて少し品質の落ちたものばかりだ。
「はわぁぁぁ……アスノさんのお弁当も美味しそうです……」
カンナは目を輝かせてアスノの弁当箱を眺める。
そんなに珍しいものじゃないんだけどなぁ、とアスノは苦笑する。
「残り物とか朝ごはんのついでとかで、このクオリティのお弁当が作れるんだから、アスくんはいい主夫さんになれるよねっ」
見慣れているはずだが、ショウコもアスノの弁当に釘付けだ。
「いや、主夫とか言われても。ツキシマさんと同じこと言うけど、本当に大したことはしてないよ?」
「そう言うことを当たり前に出来るのが、アスノのすげぇところだよな」
今日も普通に美味そうだ、とソウジは羨むように、購買で購入してきたおにぎりやパンと、彼らの弁当を見比べる。
「キタオオジさんのは………購買で買ってきたものでしょうか?」
カンナの視線が、ソウジの昼食に向けられる。
「おぅ。今日は人気メニューの焼きそばパンが買えたからな、ラッキーだ。ひでぇ時なんかラスクの小袋しか買えないとかもあるからなぁ」
「そ、そんなに……この学園の購買部は、それほどの激戦区だと……」
ソウジの体験談を聞いて、カンナは戦慄する。
「聖リーブラの購買ってどんな感じなの?」
ショウコが、カンナの前の母校の購買事情を訊ねる。
「私自身は購買のお世話になったことはありませんが……出遅れた人ですらちゃんとした物を買えていた、と聞いたことはあります。キタオオジさんの言うような、お菓子しか残ってなかった、なんて話は聞いたことが無いので……やはり、普通の学園はそれくらいの購買戦争が日常なのでしょうか」
「あー……その辺はなんか格差の違いってやつかなぁ……」
大きな学園ともなれば学食や購買のメニューもまた豊富だろう。
そもそも、カンナと同じような弁当持ちと言う生徒も多いのかもしれない。
「まぁまぁ、とりあえず食べようか」
アスノの言葉に、意識が食へ向けられる。
いただきます。
放課後。
帰りのホームルームが終了するなり、ソウジは鞄を手に取ってアスノの席に近付く。
「アスノ、バトルやりに行かね?」
「うん、いいよ。ショウコとツキシマさんも誘う?」
「当然だろ」
男子二人はカンナと、その彼女の席の向かいにいるショウコに話しかける。
「ショウコ、ツキシマ。この後でガンプラバトルしねぇか?」
しかし予想外にも、ショウコは首を横に振った。
「あー、ごめんねソウくん。今日はカンナちゃんと一緒に出掛ける約束しててね」
「ごめんなさいキタオオジさん、今日はショウコさんの方が先着でして……」
どうやら女子二人だけで出掛けるようだ。
「そうか、まぁそう言うこともあるわな」
今日は少しタイミングが悪かったと、ソウジも特に気にしない。
「バトルはまた今度ね。行こっか、カンナちゃん」
「はい。アスノさん、キタオオジさん、また明日です」
要件は済んだとして、ショウコとカンナは教室を後にしていく。
そんなわけで、残されるのは野郎が二人である。
「んー、せっかく俺の新しいガンプラをバトルで披露してやろうと思ったんだけどなぁ」
ソウジは和気藹々と教室を後にしていく女子二人の背中を見送りつつぼやく。
「ソウジって、新作作ったんだ?」
見てみたい、とアスノの方から話しかけてくる。
「おぅ。どうせなら四人いる時にって思ったんだが、まぁいいか。アスノ、今日は気分変えてゲーセンでやるか?」
「うん」
男子二人の放課後の予定も即決定、商店街地下のゲームセンターへ行くことになる。
蒼海学園から徒歩十五分ほどの位置にある、古くも活気溢れる商店街。
その、路地裏から地下へ続く、ちょっとアングラなゲームセンターが、二人の目的地だ。
アングラと言っても、チンピラや不良の駐屯地と化していることもなく、単にこのようなゲームセンターで遊ぶことが年々廃れつつあるだけだ。
罵詈雑言と奇声を唾と共に吐き散らしながら台パンし、時にはリアルファイトに発展していたような、かつての熱狂ぶりは既に過去。
昔ながらの格ゲーやレースゲームの筐体には、その道のプロゲーマーがほんの二、三人いるくらいで、閑古鳥は鳴り止まない。
尤も、そんな輩がいないおかげで、アスノとソウジは快適にガンプラバトルが出来るのだから、皮肉なものである。
「んじゃ、アーケードでやるか?」
スマートフォンアプリのバナパスを読み込ませ、パーソナルデータを更新させつつ、ソウジはプレイモードを選択している。
「いいよ」
アスノも同様に、ガンダムAGE-Iをスキャナーに読み込ませながら頷く。
アーケードモード、コースは『機動戦士ガンダム』だ。
『ファースト』のアニメ劇中で行われた戦闘を、八つのコースで疑似体験しながら進めていくのだ。
最初のステージはもちろん、『サイド7』
リニアカタパルトに再現されたガンプラが乗せられ、オールグリーンを確認、出撃開始だ。
「イチハラ・アスノ、ガンダムAGE-I、行きます!」
「キタオオジ・ソウジ、『ガンダムアスタロトブルーム』、行っとくか!」
ゲートから放たれた両機は、自由落下するように降下していく。
「ソウジの新しいガンプラは、ブルーフレー……厶、じゃない?アスタロト?」
アスノは、ソウジの新機体を一目見て、そのベース機の名前を言い間違えかける。
「ははっ、今ちょっと間違えそうになったろ?」
思っていた反応をしたのか、ソウジの嬉々とした声が届く。
それは有り体に言えば、『"アストレイブルーフレームセカンドL"のカラーリングをした"ガンダムアスタロト"』である。
確かに全身のフレームは青く塗装され、装甲は白や橙色で彩られている辺り、確かにアストレイブルーフレームに似ている。
「腕や脚も左右対称になってるし……あっ、デモリッションナイフもタクティカルアームズっぽく塗装されてる!」
「だろ?これのマスキングがなかなか上手く行かなくてよ……」
「右手のハンドガンは、オリジナル?」
「オリジナルって言うか、ジャンクパーツをいくつか組み合わせて作ったヤツだな」
などと呑気に会話している間にもコロニーの地表が近付いて来ているため、二人は操縦に集中し、着陸させる。
同時に、敵機接近のアラート。
コロニーの斜面を滑るように降下してくる、二機のザクⅡ。
原作通り、デニムとジーンの二人だ。
演出のためか、キャラクターボイスが流れる。
『デニム曹長!敵のMSが、動き始めました!』
『なに?部品ばかりだと思っていたが、完成品もあったのか』
『ですが、まだよく動けんようです。やります!』
『よせっ、ジーン!』
その内、一機がザクマシンガンを構えて突出してくる。こちらがジーン機だ。
「俺がジーンをやる。アスノはデニムを頼むわ」
「了解」
ソウジのガンダムアスタロトブルームがジーン機を迎え撃ち
、アスノのガンダムAGE-Iは回り込みながらデニム機にターゲットロックする。
ジーン機のザクⅡはザクマシンガンを連射、120mmの弾丸が立て続けに放たれるが、ソウジは巧妙に操縦桿を捻り、ザクマシンガンの射撃を掻い潜りつつも距離を縮めていく。
ある程度の距離を踏み込んだところで、ガンダムアスタロトブルームはハンドガンを連射、ジーン機のザクマシンガンを破壊する。
射撃武器を失い、ヒートホークを抜き放とうとするが、そこは既にガンダムアスタロトブルームの間合いだ。
ザクマシンガンを破壊した時点で加速していたガンダムアスタロトブルームは、サイドスカートのブーストアーマーからナイフを抜き放ち、
「よっと」
一突きで、ジーン機のバイタルバートを貫いた。
『うっ、うわぁぁぁぁぁ!』
コクピットを正確に狙った一撃は、核融合炉の暴発を起こすことなく、ジーン機は沈黙する。
ザクⅡ【ジーン機】撃墜。
『おのれ!よくもジーンを!』
原作通り、ジーンを殺された怒りによって突撃してくるデニム機。
ガンダムアスタロトブルームへ、ショルダースパイクによる体当たりを仕掛けようとするが、
「そこっ」
狙い澄ましていた、アスノのガンダムAGE-Iのドッズライフルの一撃によって、脇腹から脇腹を撃ち抜かれて、爆散した。
ザクⅡ【デニム機】、撃墜。
ジーンとデニムの二機を撃破して、その数秒後。
『見せてもらおうか、連邦軍のMSの性能とやらを』
ゲーム進行の都合から、コロニー内に赤いザクⅡ――シャア専用ザクと、スレンダー機のザクⅡが現れる。
『少佐!自分はあの武器を見ておりません!』
『当たらなければどうと言うことはない、援護しろ』
原作通りの台詞のやり取りの後、シャア専用ザクは一気に接近してくる。
「っと来た来た……シャアは俺が相手するから、アスノは先にスレンダーを倒して、そっから2対1に持ち込むぞ」
「分かった!」
先程と同じく、突出してくる方をソウジが迎え撃ち、後詰めの方をアスノが仕留める戦法だ。
『MSの性能の違いが、戦力の決定的差ではないと言うことを、教えてやる!』
高速で接近してくるシャア専用ザクに、ガンダムアスタロトブルームはハンドガンを連射して迎撃するが、通常のザクⅡとは比較にならない機動性で銃弾を掻い潜ってくる。
構わずハンドガンを撃ちながら、左マニピュレーターのナイフで格闘戦を仕掛けようとするソウジだが、そのナイフの間合いに踏み込もうとする寸前に、シャア専用ザクは突如反転し――スレンダー機の相手をしようとしていた、アスノのガンダムAGE-Iの死角から迫ろうとしていた。
「ヤバいッ、アスノ!シャアがそっちに行ったぞ!」
「えっ!?」
それと同時に、アスノのコンソールもアラートを鳴り響かせ、振り向いた時には既にシャア専用ザクのモノアイが目の前で妖しく輝き、
『遅い!』
――直後、アスノの視界が激しく震動した。
「うわっ……!」
ガンダムAGE-Iの腹部に、シャア専用ザクの強烈な飛び蹴りが炸裂した。
蹴り飛ばされた拍子に、スレンダー機のザクⅡの目の前まで転がってしまう。
スレンダー機は、無防備なガンダムAGE-Iへザクマシンガンを浴びせ付けようと銃口を向けようとするが、
「させるかよ!」
ソウジのガンダムアスタロトブルームは左マニピュレーターのナイフを投擲、スレンダー機の右肩装甲に突き刺さる。
被弾によって怯むスレンダー機へ一気に接近するガンダムアスタロトブルーム。
「アスノ!シャアは頼む!」
「う、うん!」
今度はソウジがスレンダー機を相手にして、アスノがシャア専用ザクの足止めだ。
ヒートホークを抜き放って斬りかかってくるシャア専用ザクに、アスノもビームサーベルを抜いて応戦する。
その間にも、ソウジは機体を加速させながらもウェポンセレクターを回し、デモリッションナイフを選択。
ハンドガンをリアスカートに懸架させると、背部のアームが回転し、それへと右マニピュレーターを伸ばして抜き放った。
抜き放ち、折り畳まれていた刀身が展開、ガンダムアスタロトブルームの全長を上回る長大な両手剣が姿を顕す。
対するスレンダー機もヒートホークを抜いて接近戦に持ち込もうとするが、
「オラァッ!」
振り下ろされたデモリッションナイフは、受け止めようとしたヒートホークを粉砕し、その勢いのままスレンダー機のザクⅡを頭部から叩き斬ってみせる。
『シ、シャア少佐っ、うわぁぁぁ!?』
ザクⅡ【スレンダー機】、撃墜。
撃破を確認したソウジはすぐに機体を反転させ、どうにかシャア専用ザクに喰い下がっているアスノのガンダムAGE-Iの援護に向かう。
2対1ともなればさすがに苦戦はしない、すぐに巻き返してシャア専用ザクも撃墜して、まずはこのステージをクリアだ。
ステージをひとつクリアする毎に、機体は万全の状態にされてから出撃になるため、いくら消耗しようとも突破さえすれば次に進めるのだ。
『ジオン公国にっ、栄光あれェェェェェ!!』
ニューヤーク市街地にてガルマ・ザビのガウ攻撃空母を撃沈し、
『見事だ!だが自分の力で勝ったのではないぞ!そのMSの性能のおかげだと言うことを忘れるな!』
タクラマカン砂漠にてランバ・ラルのグフを撃破し、
『おっ、俺を踏み台にしたァ!?』
黒海にてガイア、オルテガ、マッシュの三名からなる黒い三連星――三機のドムを全滅させ、
……と順調にクリアしつつあるアスノとソウジの二人。
さて次はジャブローでの戦闘だと意気込んでいると、不意に画面から『WARNING!!』のテロップが表示された。
「あっ……ソウジ、ひょっとして」
「おぅ、向こうの筐体からだな」
これは、乱入だ。
アーケードモードを始める前に、乱入を受け付けるかブロックするかは選択できるのだが、ソウジは乱入を受け付ける設定にしていたのだ。
二人が使用している筐体とは向かいにある空きの筐体にバトラーが入ってきたのだ。
どうやら向こうも同じく二人組。
ローディング画面に切り替わる。
「大丈夫かな……」
勝てるかどうか、とアスノは少し不安になるが、ソウジは「大丈夫だろ」と笑い飛ばす。
「俺とアスノのコンビだ、余裕だぜ」
「だったらいいけど」
やがてローディングが終了し、ランダムステージセレクト。
選択されたステージは『ユニウスセブン【C.E.73】』
C.E.(コズミック・イラ)における、核攻撃によって破壊された農業プラントであり、各所に土木作業機のメテオブレイカーが配置されている辺り、『DESTINY』劇中時のようだ。
宇宙ステージではあるが、ユニウスセブン地表に着地は可能なため、一応地上戦は可能である。
出撃準備完了となり、二人は再度出撃する。
「イチハラ・アスノ、ガンダムAGE-I、行きます!」
「キタオオジ・ソウジ、ガンダムアスタロトブルーム、行っとくか!」
リニアカタパルトから射出されて、二機は崩壊した巨大な砂時計状の建造物の地表近くに到着する。
「ディアッカの台詞じゃないけど、やっぱりプラントも大きいんだな」
「こんなもんが地球に落ちるんだ。実際に起きたらとんでもねぇことになるだろうな」
などとのんきそうに言葉を交わしているが、アラートの反応と同時に意識を切り替える二人。
デブリの陰から姿を見せるのは、『シャルドールローグ』が一機のみ。
「シャルドールローグと、もう一機は?」
アスノは視界を上下左右させるが、それらしい姿は見えない。
「もう片方はイモスナかもな。狙撃に注意しながら、シャルドールローグから倒すぞ」
「了解」
すると、シャルドールローグは左腕に装備したドッズバスターを撃ちながら、右マニピュレーターのビームアックスを手に躍りかかってくる。
『だっしゃオラァ!』
ガンダムAGE-Iとガンダムアスタロトブルームは散開しつつ、アスノが射撃、ソウジが格闘を担当する。
「そっちから来るんなら、話は早ぇ!」
ソウジは迷わずにウェポンセレクターを回し、ハンドガンを納めてデモリッションナイフを選択、シャルドールローグへいきなり接近戦に挑む。
その間にアスノのガンダムAGE-Iは、デモリッションナイフとビームアックスが打ち合う側面へ回り込み、ドッズライフルをシャルドールローグへ向けようとして、ふとその姿を見つける。
「(もう一機か!)」
彼の視界に見えたのは、デブリの陰から対艦ライフルを装備した『ヅダ』
デブリに寝そべるような形で対艦ライフルを構えており、その銃口はガンダムアスタロトブルームを狙っている。
「やらせない……!」
アスノは即座に照準をシャルドールローグから外して、まだロックオン距離外にいるヅダへ向け、ドッズライフルを発射する。
『チッ、見つかってしまったか』
自分が狙われていると察知したか、ヅダは狙撃を止めて急速離脱、ドッズライフルからのビームを躱す。
「ソウジ、もう一機が見つかった!対艦ライフル装備のヅダ!」
「ヅダか!なかなかいいセンスして……ぐぉっ!?」
アスノの敵機発見の報を耳にしたソウジだが、一瞬とはいえ意識をそちらへ向けてしまったため、不意をつかれてシャルドールローグに蹴り飛ばされてしまった。
「ソウジ!」
体勢を崩したガンダムアスタロトブルームを仕留めようと接近するシャルドールローグ。
『終わりじゃオラァ!』
『鉄血のオルフェンズ』系の機体には、ビーム兵器の攻撃を無効化するナノラミネートアーマーがあるが、GPVSでは無効化まではしてくれず、ダメージを軽減する程度しかないため、ビームアックスを直撃すれば撃破されてしまう。
アスノはそれを阻止するためにドッズライフルをシャルドールローグへ向けようとして、
このポジショニングは、ガンダムアスタロトブルームとの間にシャルドールローグを挟むような位置だった。
ドッズライフルを撃ってシャルドールローグを撃破出来るだろうが、貫通してソウジまでフレンドリーファイアで撃墜してしまう。
「な、ら、こっちだ!」
アスノはウェポンセレクターを回し、ドッズライフルとは別の射撃武装を選択すると同時に放った。
それは、ガンダムAGE-Iのシールド裏に取り付けられたミサイル――シールドランチャーだ。
Gエグゼスのグレネードランチャーを改造したそれは、今にもビームアックスを振り下ろそうとしているシャルドールローグの背部を捉え、炸裂。
『うおぉぉぉ!?』
バックパックを破壊されたシャルドールローグは明後日の方向へ吹き飛ばされていく。
『そこだ』
同時に――ガンダムAGE-Iのボディに対艦ライフルの砲弾が炸裂した。
「ぐぅぅぅっ!?」
ヅダからの狙撃を受けて、モニターが激しく震動し、表示の数々がレッドアラートを告げてくる。
機体の完成度が高かったために、耐弾性もそれに比例して即死はしなかったものの、甚大なダメージは受けてしまった。
バルカンの一発でも喰らえば撃墜判定を受けるだろう。
「アスノ!?野郎、やりやがったな!」
ソウジは操縦桿を押し上げて、シャルドールローグへ機体を加速させると、デモリッションナイフを勢いよく振り下ろした。
ビームアックスで防御しようとするシャルドールローグだが、シャア専用ザクと同じようにビームアックスもろとも装甲を叩き斬られてしまった。
『チクショォー!』
シャルドールローグ、撃墜。
「アスノ、動けるか?」
シャルドールローグの撃破を流し見つつ、ソウジはアスノの機体状況を確認する。
「動けるけど、あと何か一発受けたらやられるかも……」
「無理すんな、あとは俺に任せろ」
ガンダムフレーム機特有のデュアルアイがヅダを捕捉する。
一度デモリッションナイフを折り畳み、左腕マニピュレーターにハンドガンに持たせ直すと、ソウジはヅダ目掛けて突撃する。
対するヅダは中近距離戦になると判断したのか、対艦ライフルを放棄すると、ザクマシンガンを構えてガンダムアスタロトブルームへ連射する。
襲い来る120mmの銃弾に対し、ソウジは巧妙に操縦桿を回し、漂うデブリを盾にしながら確実にヅダとの距離を詰めていく。
ハンドガンの射程にまで踏み込めばソウジの方からも反撃し、中距離での射撃戦になる。
しかし、相手のヅダもまた上手くガンダムアスタロトブルームの射撃をやり過ごし、土星エンジンを駆使した機動性で格闘戦へ持ち込ませない。
近付こうとするガンダムアスタロトブルームと、それを近づかせないヅダ。
ハンドガンとザクマシンガンの銃弾が交錯を繰り返し――先に弾切れを起こしたのは前者の方だった。
カキン、と空撃ちしたのを見て、ソウジは舌打ちした。
「チッ、弾切れか。向こうの残弾は……」
見やれば、ヅダはデブリの陰でザクマシンガンのドラムマガジンを交換しようとしているところだった。
これでまたヅダは十分に弾幕を張れる。
なんとか耐え凌ぐしかねぇか、とソウジは目を細め――不意にDODS効果を帯びたビームが彼方から放たれ、ヅダが隠れていたデブリを粉砕した。
「アスノか?」
「援護するくらいなら出来るよ、ソウジ」
ガンダムAGE-Iのドッズライフルによる射撃だ。
射撃を当てに行くような距離まで近付くわけにはいかないが、こうした障害物の排除くらいなら出来る、とアスノは言う。
ちょうど新しいドラムマガジンを銃身にセットしようとしていたヅダだったが、その寸前にデブリがビームによって破壊されたため慌ててしまい、ドラムマガジンを取りこぼしてしまう。
『しまっ……!?』
急いで拾いにいこうとするものの、
「よぉ、何してんだ?」
その前に、ガンダムアスタロトブルームがドラムマガジンを蹴り飛ばしてしまった。
そしてその両マニピュレーターには、ナイフが抜かれている。
『くっ、この……!』
すかさず突き出されるナイフに、ヅダは咄嗟にシールドクローを展開して弾き返す。
「ここは俺の距離だ、ってな!」
されどソウジは怯まずにガンダムアスタロトブルームを前進させ、果敢にヅダへナイフの連撃を繰り出す。
「オラオラオラァッ!」
ザクマシンガンを破壊し、シールドクローを斬り返し、ヅダの装甲を斬り裂いていく。
『まだだ!』
ヅダは空いた右マニピュレーターにヒートホークを抜き放ち、なおもガンダムアスタロトブルームと激しく斬り合う。
そこへ――
「ソウジ!避けてくれ!」
不意にアスノの通信がソウジの耳に届き、彼は咄嗟にガンダムアスタロトブルームを下方向へ機動させる。
ヅダもそれに追い縋ろうとするが、鳴り響くアラートに反応にし――
ヅダのモノアイに見えたのは、自身が放棄した対艦ライフルを構えているガンダムAGE-Iの姿だった。
それに気付いた時には既に遅く、対艦ライフルのマズルフラッシュと共に、ヅダのボディは撃ち抜かれてしまった。
ヅダ、撃墜。
「おっしゃぁ!ナイス援護アスノ!」
「ソウジも、ナイスガッツだよ!」
リザルト画面の前でハイタッチを交わす二人。
「ドッズライフルでデブリを壊すとかもそうだけどよ、敵さんが捨てた武器を拾って利用するってな、なかなか思い付かねぇぞ?」
ソウジは、バトル中にアスノが見せた行動を思い返す。
「いや、あれは僕なりにソウジを援護しようって考えた結果だよ。やろうと思えば誰だって出来る程度だし」
「それを戦闘中に思い付けるのがすげぇんだって。……っと、アーケードはまだ続きだったな」
リザルト画面が終了すれば、今度こそジャブローのステージが始まる。
「さて、ここからは後半戦だ。アスノ、気合い入れていけよ!」
「うん!」
アスノとソウジがアーケードモードを進めている、その一方で。
カンナとショウコは、ショッピングモールでウィンドウショッピングに励みつつ、女子トークに勤しんでいた。
「うーん……」
しかし、ショウコは時折表情を険しくしてしまう。
「ショウコさん?悩み事ですか?」
カンナはその険しい表情を見て、悩み事があるのかと訊ねるが、ショウコは「うぅん、違うよ」と首を横に振る。
「以前に一回、あたしとアスくん、ソウくんの三人で一緒にいた時に、カンナちゃんと出会ったんだよね?」
「はい、そうですよ」
「それがどうしても思い出せないんだよね……」
ショウコは、カンナと出会った時の事を思い出せないのをもどかしく感じているのだ。
一番記憶に残っていそうなアスノですら、全く記憶にないと言う。
「ねっ、ヒント!ヒントだけ教えて!」
カンナはそれを「乙女の秘密」として教えてくれないので、ヒントは無いかとショウコは縋る。
「ヒントですか?そうですねぇ……」
考えるように視線を泳がせるカンナ。
「去年の、11月頃ですね」
「えぇっ、半年も前ぇ!?そんなの余計に分かんないって!」
「半年も前って言いますけど、これはけっこうなヒントですよ?」
「うーん、うーん……去年の11月って、何してたっけ……?」
ショウコは今ひとつ不鮮明な記憶を辿り、カンナと出会った時の記憶を思い出そうとするものの、
「あーもーっ、無理!思い出せませーん!」
早々に諦めた。
「ふふっ♪その時のことは、また追々話しましょう」
「その追々って、いつなのぉ……?」
楽しげに微笑むカンナに、ショウコはぷくー、と頬を膨らませる。
「んー、でも……」
ふと、ショウコは膨らませていた頬を萎ませる。
「カンナちゃんは、その時アスくんに良くしてもらったから、蒼海学園に転校しようって思ったんだよね?」
「それだけ、と言うわけではありませんが……あの日の出来事が、私にとっての人生のターニングポイントだったことに変わりありません」
足を止めて、その場で会話する二人。
「あの後、熟考に熟考を重ねて、何日も何日も考え抜いて、そうして至った結論が転校でした。当然、お友達は残念がっていましたし、何人かは引き留めようともしてくれました。聖リーブラへの入学を奨めてくださったお父さんへの説得も、一朝一夕で成し得ませんでした。それでも、それでも私は自分の意思決定を取り消したくなかったんです」
「……そうまでして、『アスくんに会いたかった』の?」
「はい」
カンナの是正を見て、ショウコは――
「そっか」
ただ、そう頷いた。
「(これは、とんでもないライバルが出てきちゃったなぁ……)」
自分とカンナの心の矢印は、同じ方向を向いているのだと確信して。
ジャブロー、ソロモン、コンペイトウ暗礁宙域とクリアし、最終ステージはもちろん『ア・バオア・クー』だ。
ザクⅡやリック・ドム、ゲルググが目白押しの戦線を突破し、迎撃に現れるシャアのジオングを撃破すればクリアだ。
しかし最終ステージだけあって難易度も高く、アスノとソウジはジオングの猛攻の前に攻めあぐねている。
『見えるぞ、私にも敵が視える!』
シャアのボイスと共に、ジオングは両腕を切り離すと、有線サイコミュとなって、多方向からのビーム射撃が二人を窮地へ追い込んでいく。
「ぐおぉっ……よくよく考えたら、一年戦争時にジオングみたいな全身ビーム砲な機体って、色々頭おかしくね!?」
回避とデモリッションナイフを盾にしての防御を駆使してビームの嵐を凌いでいくソウジ。
「単純な出力で言えば火力お化けのZZを上回ってるから……ねっ!」
そのガンダムアスタロトブルームと背中合わせに立ち回りつつ、ジオングの猛攻をやり過ごすアスノ。
機体設定に関する雑談を交えつつの二人だが、実はかなり切迫している。
翻弄されつつも、ドッズライフルやハンドガンで反撃を試みるものの、ジオングのスカート裏は多数のバーニアで構成されているため、(宇宙空間に限れば)機動性も非常に高い。
自由自在に空間を機動するジオングは、さらに複雑に腕部メガ粒子砲を展開する。
「行けるか……?いやっ、やるしかない!」
アスノはウェポンセレクターを回して、ドッズライフルからビームサーベルを選択し、
「そこだ!」
ビーム砲を放つジオングの右腕目掛けてビームサーベルを投げ付けた。
それに反応したジオングの右腕は、光輪を描いて放たれるビームサーベルを躱すものの――伸び切った腕部のケーブルを焼き切られてしまった。
接続を絶たれたジオングの右腕は沈黙する。
「おぉっ、やるなアスノ!」
ジオングの腕そのものではなく、本体とを繋ぐケーブルを狙った攻撃を敢行したアスノに、ソウジは気炎を上げる。
これでジオングの手数は大きく減らされた。
対するジオングも、腰部のメガ粒子砲や残る左腕のビーム砲で二人を近付けさせまいとするが、手数が減った今、アスノとソウジは一気呵成に攻めかかる。
ガンダムAGE-Iがジオングの左腕へドッズライフルを連射して攻撃を防ぎ、ガンダムアスタロトブルームがジオング本体へ接近する。
ジオングは腰部と頭部のメガ粒子砲を連射、ガンダムアスタロトブルームを迎え撃つものの、ソウジは大胆にもそのメガ粒子とメガ粒子の間をすり抜けてみせ――
「オルァッ!」
兜割りの要領でデモリッションナイフを振り下ろし、ジオングの脱出を防ぐように、頭部から叩き付けた。
『ララァ……私にも、刻が……!』
コクピットの破壊判定により、ジオングは小爆発を繰り返して爆散していった。
ジオング、撃墜。
『Mission complete!! 』
最終ステージのリザルト画面を見送ると、輝かしいテロップと共にミッションコンプリートが告げられる。
「っしゃー、クリアクリア!」
ソウジは心地好い達成感と共に背伸びし、
「何とかなったね」
アスノはアーケードモードのクリアに安堵する。
「どうするよアスノ。次はゼータのステージやるか?」
「いや、途中で乱入もあったし、ちょっと疲れたかな」
目がチカチカするよ、と目を擦るアスノを見て、ソウジは「まぁしょうがねぇか」と頷く。
読み込ませていたガンプラを回収してから、二人はゲームセンターを後にしていく。
商店街の隅の方で、自販機で購入したドリンクを片手に壁を背にするアスノとソウジ。
「やっぱりなぁ、アスノは操縦が慎重過ぎると思うんだよ」
コーラを一口啜ってから、ソウジはアスノの操縦に関する指摘をする。
「実際、慎重にやってるんだよ。僕はソウジやショウコみたいに反応が早くないから」
「何だそりゃ。まるで俺が何も考えずに、反射神経だけでバトルしてるみたいな言い方だな?」
「そ、そうとは言ってないだろ?反応の早さと反射神経は別だよ」
「そんなもんかね」
まぁそれはいいか、とソウジは流して、
「今年の選手権。5on5の部に出るならもう一人必要って話だけど、実際問題どうするよ?」
「どうするよって言われてもなぁ。他にガンプラバトルやってる友達とかいないし」
「『鎚頭』でガンプラバトルやってる奴に手当り次第声かける、ぐらいしか思い付かねぇ」
「地道な草の根運動だけど、そうするしか無いかなぁ……」
「っても、ちゃんと選手権で優勝する気がある奴をチームに入れたいよな」
本気で声掛け運動していれば、一人くらいは勧誘出来るかもしれないが、頭数だけ揃えたところで選手権を勝ち抜こうと思う気概も無い者をチームに加入しても仕方無いのだ。
アスノは紙パックのリンゴジュースを飲み干し、ソウジもコーラを飲み干してダストボックスへ押し込む。ポイ捨てダメ絶対。
「んじゃ、帰るか」
「うん」
鞄を担ぎ直して、アスノとソウジは商店街を抜けて、自分達の住宅街への帰路につく。
その日の夜。
コミュニケーションツールである『RINE(ライン)』を起動させたアスノは、ソウジとショウコとの三人のグループラインを開いて、『カンナさんが参加しました』と言う通知を見つける。
「おっ、ツキシマさんが入ってきた」
きっと、今日のショウコ辺りが招待したのだろう。
既に三人ともトークに勤しんでいるようで、何十件も未読メッセージが溜まっているのを見て、アスノは慌ててトークの内容を読み取っていく。
ショウコ『お、既読が3になった』
ソウジ『やっとアスノが来たな』
カンナ『アスノさん、こんばんは』
既読数が増えたのを見て、アスノがトークに混ざってきたと三人が迎えてくれる。
アスノ『ごめん、待たせた』
ショウコ『今日のアスくんとソウくんの名コンビバトル、見させていただきました!』
未読メッセージ内にソウジが動画を投稿していたが、今日のシャルドールローグとヅダとの対人戦のことだろう。
しかもご丁寧に、アスノ視点とソウジ視点との二つに分けて用意されている。
カンナ『キタオオジさんの操縦テクと、アスノさんの機転、感服致しました!』
アスノ『機転って言っても、たまたま成功しただけだよ』
ソウジ『とか言ってるが、狙ってなきゃ出来ないことを平然とやるのがアスノスタイル』
ショウコ『ほら、やっぱりアスくんも強い!』
「(強いって言われてもなぁ……)」
アスノにとっては、ソウジと組んでいたからこそ成し得たことであって、見知らぬ他人と組んだ時や、自分一人で戦うことになった時に、同じようなことが出来る自信は無い。
カンナ『アスノさんはあまりご自分に自信が無いようですけど、もっと胸を張ってもいいと思います』
そんなアスノの心境を読んだのか、カンナがそのメッセージをおくってきた。
ショウコ『そう!アスくんに足りないのは自信だね!』
ソウジ『ビルドファイターズのセイみたいな感じだな』
アスノ『僕はセイほど完成度の高いガンプラは作れないけど、選手権のためにも頑張って自信をつけようと思う』
ショウコ『その意気だよアスくん!』
ソウジ『さすがアスノだ、何ともないぜ』
カンナ『アスノさんの自信のために、及ばずながら私もお手伝いします!』
自信をつける。
まずはそれが第一目標か、とアスノは自分に頷いた。
アスノ『ありがとう。そろそろ風呂に入るから、一旦ログアウトする』
ショウコ『あたしもお風呂ー♪』
ソウジ『俺もログアウトするわ』
カンナ『では皆さん、また明日です』
トークの区切りをつけて、アスノはスマートフォンの画面を閉じて、入浴することにした。
グループでのトークが終了してもなお、ソウジは自分のスマートフォンの画面を眺めていた。
眺めているのはトークの内容ではなく、ただ画面をそのままにしているだけ。
「………………」
アスノとショウコ、そしてカンナ。
「アスノとツキシマ、か」
経緯はどうであれ、アスノがカンナを呼び寄せたのは僥倖であった。
GPVSの選手権出場はもちろんだが、それ以外にも理由があった。
それは――
「……クソッ」
一瞬、『自分にとって都合の良い展開』を考えてしまったことに自己嫌悪し、スマートフォンをベッドの上に放った。
「なに余計なこと考えてんだ、俺は……」
少なくとも、それは今考えることではない。
今は、今年の夏に開催されるGPVSのことを考えるべきだ。
ソウジはそんな自己嫌悪を飲み込み、電灯を消して床についた。
今夜は少し嫌な夢を見るかもな、とぼやきながら。