ガンダムビルダーズハイ   作:さくらおにぎり

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3話 立ちはだかる赤き巨壁

 

 平日の朝も休日の朝も、アスノの起きる時間や、やることはあまり変わらない。

 朝は素早く起きてニュースを見流しつつ朝食を作り、朝食が出来たらミカを叩き起こす。

 ミカと一緒に朝食を食べ終えたあとは、軽くだけ片付けを済ませ、平日なら二人とも登校だ。

 

「アスくん、最近なんだか楽しそうねぇ」

 

 アスノが登校の準備を整えていると、ふとミカがそう声をかけた。

 

「そうかな?普通だと思うけど」

 

「んー、アスくんの様子から見るに、新しいお友達でも出来た?」

 

 特に楽しそうな自覚の無かったアスノだが、ミカにはお見通しのようだ。

 

「さ、さすがミカ姉……よく分かったね?」

 

「ふふ、お姉ちゃんはニュータイプだからね。アスくんのことくらいなら、何でもお見通しよ?ついでに言うなら、その新しいお友達って、女の子?」

 

「…………いや、ちょっと待ってミカ姉。そこまで当てられると逆に怖いんだけど」

 

 どうして分かるんだ、とアスノは戦慄する。まさか本当に例の新しいタイプだというのか。

 

「うぅん、今のはカマかけよ。そっかぁ、アスくんにもようやくショウコちゃん以外の、女の子友達が出来たのねぇ」

 

 うんうん、と何故か感慨深げに頷くミカ。

 

「その子は、どんな感じの人?かわいい?」

 

「あー、えーと……すごく綺麗で、かわいい、と思う」

 

 ショウコとはまた違ったタイプの美少女だと、アスノ自身は思っている。

 

「そっかそっか。……頑張れ、男の子♪」

 

 ミカは意味深な言葉を残してから、「それじゃ行ってきまーす」と足早に玄関を潜っていった。

 アスノはミカの後ろ姿を見送りつつ、

 

「頑張れって言われても」

 

 何をどう頑張ればいいんだ、と肩を落としてから一歩遅れるように自分も登校する。

 

 

 

 アスノ、ソウジ、ショウコの三人グループにカンナが加わるようになって数日。

 最近はカンナも朝の待ち合わせに集まるようになり、三人は徒歩圏内だが、カンナだけは電車通学なので、蒼海学園の最寄駅で待ち合わせ、と言う形にシフトしている。

 

 今日も駅前で、三人で雑談しつつカンナが来るのを待つ。

 

「身内戦しようよ!」

 

 今朝の話題はどうしようかと言う時、ショウコのこの一言が始まりだった。

 

「またいきなりだなおい」

 

 考え無しの思い付きのような提案に、ソウジは呆れた。

 

「身内戦って言うと、僕ら四人で……2on2ってこと?」

 

 ここで言うところの身内は、アスノ、ソウジ、ショウコ、カンナの四人のことだ。

 その内から二組に分かれてバトルするのか、とアスノは読み取る。

 

「そうそう。今はまだ五人目がいないから、こう言うのは今の内やっておきたいと思うの」

 

「別に五人目が入ってからでも出来るじゃねぇか」

 

 ソウジにそうツッコまれるものの、当のショウコは「そう言う細かいことはいーの」と頬を膨らませる。

 

「とにかく、今日は身内戦がしたい気分なの!」

 

 けってーい、と勝手に決定するショウコを見やりつつ、ソウジは呆れたようにぼやき、アスノは苦笑するだけだ。

 

「こうなったショウコは人の話を聞かねぇからなぁ……」

 

「あっはは……」

 

 すると、駅のホームに電車が到着し、改札の向こう側からそろそろ見慣れてきた黒髪が見えた。

 

「皆さーん、おはようございますー!」

 

 ぶんぶんと手を振りながら駆け寄ってくるカンナ。

 しかし、

 

「はぅっ!」

 

 ブーッ、と言うブザーと共に改札のドアが閉じられてしまった。

 

「て、定期を通すのを忘れてました……」

 

 どうやら三人の元へ急ぐあまり改札を潜ると言うことが頭から抜けていたらしい。

 改めてカードリーダーに定期をタッチさせて、カンナは改札口から解放(?)される。

 

 カンナが加わってから登校を再開し、ショウコの挙げた『身内戦』の話題になる。

 

「身内戦、ですか……気を引き締めて臨まなければっ」

 

 背筋を伸ばして顔を強張らせるカンナ。

 

「いやいや、そんな緊張しなくてもいいからね、カンナちゃん。もっと気楽に、ね?」

 

 固くなるカンナに、ショウコはその緊張を解そうとするが、

 

「でで、ですがっ、皆さんの前で無様を晒すわけにはいきませんっ」

 

 当のカンナは真剣に臨むつもりだ。

 

「いいんじゃね?気ぃ抜いてポカやらかすよりは、真面目にやった方がマシだろ」

 

 ソウジは緊張感を高めるカンナを止めない。

 

「厳粛なる勝負をっ、お願いします!」

 

「いやツキシマさん、今すぐじゃないから。放課後になってからだよ」

 

 アスノは、深々とソウジに頭を下げるカンナの頭を上げさせる。

 

 三人から四人になって少しだけ騒がしくなったが、悪くない騒がしさだと、アスノは感じていた。

 

 

 

 そうして迎えた放課後。

 ホームルームを終えて、四人は真っ直ぐに『鎚頭』へ向かっていた。

 

「これからこの四人で身内戦……き、緊張しますっ」

 

 カンナは鞄を握り締めながら、まだ始まってもいないバトルを前に固くなる。

 

「ツキシマさん、今日はずっと緊張してたよね」

 

 今朝から今まで、昼休みすら緊張していたカンナに、アスノは苦笑する。

 

「緊張だってしますっ。特に、アスノさんと組んだ時にご迷惑をおかけしないかどうか……」

 

「まだ僕と組むって決まったわけじゃないけど……」

 

 アスノとカンナが仲良さそうに話している、その少し後ろにいるのはソウジとショウコ。

 前の二人に聞こえない程度の声量で、ソウジはショウコに話しかけた。

 

「で、ショウコさんよ。今日は身内戦したいっつぅ、その本音は?」

 

 含み笑いを見せるソウジに、ショウコは少しだけむっとしたように睨み返す。

 

「ソウくん、もしかして……分かってて訊いてる?」

 

「バレバレだからなぁ。気付いてないのは本人ぐらいじゃねぇか?」

 

 本人、と言いつつソウジは、アスノの背中を見やる。

 

「……身内戦したいって言うのは、建前だけじゃないよ?」

 

「そうか。まぁ、気張っていけよ」

 

「そう言う上から目線、ちょっとムカつくかも」

 

「素直じゃねーな」 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ソウジは喉を鳴らして笑う。

 

「……ソ、ソウくんもっ、好きな人出来たら教えてね、応援するからっ」

 

 ふいっとショウコはソウジから視線を逸らして、カンナに話しかけながら然りげ無くアスノの隣につく。

 

「……そりゃ、難しい相談だ」

 

 誰にも聞かれないように、自嘲するようにソウジは独り言を呟いた。

 

 

 

『鎚頭』に入店した四人。

 カウンターにいたアミダ姐さんは、アスノ達を見て愛想よく挨拶してくれる。

 

「おや、アンタ達かい。いらっしゃい」

 

 ショウコが代表として、来店目的を話す。

 

「こんにちは姐さん、今日は四人で身内戦しに来ました。筐体四人分、借りていいですか?」

 

「あぁ、いいよ。今なら空いてるから、遠慮なくどうぞ」

 

 アミダ姐さんが向ける視線の先は、無人のGPVSの筐体がスタンバイモードで待機している。

 

「ありがとうございまーす。んじゃ、早速やろっか」

 

 利用許可を得たところで、四人は筐体を占拠する。

 

「身内戦をするって言っても、チーム分けはどうするんだ?」

 

 肝心なことを聞いていなかった、とアスノはショウコにそれを訊ねる。

 2on2のバトルなのでチーム分けはどう決めるのかと。

 

「ん?普通にグッパで分けるつもりだよ」

 

 ジャンケンの『グー』と『パー』でチーム分けすると言うショウコ。

 四人で輪になり、ショウコが号令を取る。

 

「それじゃいくよー……グッとパーで分かれましょっ!」

 

 アスノ:グー

 ソウジ:パー

 カンナ:グー

 ショウコ:グー

 

「……分かれましょっ!」

 

 アスノ:パー

 ソウジ:グー

 カンナ:グー

 ショウコ:パー

 

「お、ショウコとか」

 

 アスノは、自分と同じ手を出しているショウコを見やる。

 

「やった!よろしくね、アスくん♪」

 

 アスノとショウコ。

 

 そしてもう片方は、ソウジとカンナだ。

 

「ん、ツキシマとか」

 

「よよっ、よろしくお願いいたします、キタオオジさんっ」

 

「アスノじゃなくて悪いがな。ま、気楽にやりますかね」

 

 やはり緊張しているカンナと、気楽そうなソウジが奥側の筐体に並び、その向かい側にアスノとショウコがつく。

 

「アスくんは、AGE-I?」

 

「うん。ショウコは……今日は?」

 

「実は……このショウコさん、今回は新作を用意したのです」

 

 得意気な顔を浮かべながら、ショウコは鞄のケースから自分の新作ガンプラを見せる。

 リアルスケールのものと比べても頭身が低いそれはSDガンダムのそれだ。

 

「これは……孫尚香ストライクルージュがベースに、……ん?あっ、これナイトストライクの軽装?」

 

「あったりー!孫尚香ストライクルージュとナイトストライクを組み合わせたの」

 

 アスノが言い当ててみせたように、ショウコのそのガンプラは、孫尚香ストライクルージュとナイトストライクガンダムを組み合わせた機体だ。

 

「ナイトストライクに妹がいたら……って感じの設定で作ったの」

 

「妹……そうか、ストライクの妹だからルージュなんだね」

 

 孫尚香ストライクルージュの頭部の、"頭髪"に当たる部分が金色に塗装されているのも、カガリ・ユラ・アスハ(ストライクルージュのパイロット)をイメージしたのだろう。

 

 

 

 オフラインマッチングで設定され、ランダムステージセレクト。

 

 今回選ばれたステージは『シベリア収監所』

 

 原典は『G』からで、ネオロシアによって拘束されていたドモン・カッシュが脱出してシャイニングガンダムに乗り込んだ時、ネオロシアのガンダムファイターであるアルゴ・ガルスキーもまた自機のボルトガンダムに乗り込み、凍り付いた海の上でガンダムファイトを繰り広げた。

 今回のステージはその再現であり、文字通り凍結した海上での戦闘になるため足元は滑りやすく、しかも熱や衝撃を与えると氷が割れて足場が崩れて海中へ、と言う意外と難易度の高いステージである。

 

 出撃準備、完了。

 

「イチハラ・アスノ、ガンダムAGE-I、行きます!」

 

「コニシ・ショウコ、『プリンセスルージュ』、レッツゴー!」

 

 アスノのガンダムAGE-Iと、ショウコの新たな愛機――プリンセスルージュが、凍て付いた空間へと飛び込む。

 

 

 

 アスノ達四人がそれぞれチーム分けをしてローディングを待っている間。

 

 ふらりと、金髪碧眼の若い男性が『鎚頭』に来店した。

 

 来店に気付いたアミダ姐さんは「いらっしゃいませ」と言いかけて、

 

「あら……久しぶりじゃないの」

 

 見知った顔、それも特別なお客だったことに、アミダ姐さんは懐かしそうに目を見開く。

 

「最近は時間の余裕が無いもので。店長は……」

 

「俺を呼んだか?」

 

 彼が呼ぶよりも先に、名瀬さんがカウンターの奥から出てきた。

 名瀬さんはその男を見てから、次にアミダ姐さんに視線を向け、

 

「はいよ」

 

 アミダ姐さんはそれだけ告げて、カウンターの奥へ入れ替わる。

 

「よ、久しぶり」

 

「お久しぶりです」

 

 まずは互いに久しぶりの挨拶を交わす。

 

「今日はどうした?」

 

「少し余裕が出来たので、たまの挨拶にと。……ん?」

 

 ふと、金髪碧眼の男の視線が、GPVSの中継モニターに向けられる。

 

「そりゃちょうどいい。これから面白ぇもんが観られるぞ」

 

 名瀬さんは愉快そうに笑う。

 

「ほぅ、面白いものとな」

 

「あぁ、今年のGPVSの選手権優勝を目指すって意気込んでる奴らだ。俺から見ても、筋は悪くねぇと思うがね」

 

「あなたにそれほど言わせるとは……」

 

 男の碧眼が、ローディングが完了したモニターに釘付けられる。

 

 

 

 夜の内にシベリア収監所周辺の海域が凍結し、その翌朝にドモン・カッシュとアルゴ・ガルスキーが脱走した時の劇中に合わせ、フィールドには朝焼けが差し込み、凍結面に照り返して暖かな輝きを放つ。

 

「えーと、ショウコのガンプラはナイト系の機体だから、前衛?いや、ライフルはあるな……それ、ビームライフル?」

 

 アスノは、プリンセスルージュの外観を見ながら、どう立ち回るべきかをショウコと相談する。

 プリンセスルージュの右マニピュレーターには、ナイト系のSDガンダムには少し不似合いなライフルが持たされている。

 

「えっとね、これはビームじゃなくて、魔法弾を発射するって設定なの。判定はビーム扱いだけどね」

 

 名付けて『マギアライフル』だよ、とショウコは言う。

 

「マギアライフル……あぁ、"魔法銃"ってことか。なんか納得できる。でも、基本は接近戦の方が得意だよね?」

 

「うん、前衛はあたしに任せて。アスくんは援護をお願いね」

 

「了解。……っと来たか」

 

 両者の前方からアラートが鳴り響く。

 ソウジのガンダムアスタロトブルームと、カンナのライジングガンダムだ。

 ガンダムアスタロトブルームは以前と少しだけ異なり、リアスカート部に『カラミティガンダム』のバズーカ砲である『トーデスブロック』を改造したオリジナルのロケットランチャーを装備している。

 

『ショウコさんのガンプラ……あれは初めて見ますね、ナイト系のSDガンダムでしょうか』

 

『ありゃ、孫尚香ストライクルージュがベースか?』

 

 プリンセスルージュを視界に捉えたカンナとソウジが、第一印象を呟く。

 正面から距離を縮めていく両チームだが、その中で真っ先にアスノが動いた。

 

「まずは牽制だ」

 

 ガンダムAGE-Iはドッズライフルを構え、ガンダムアスタロトブルームへ発射し、プリンセスルージュもマギアライフルで魔法(ビー厶)弾を放つ。

 まだ距離がある内の牽制射撃だ、ソウジはビームを容易く躱し、

 

「はい隙ありっ!」

 

 それを狙っていたのか、即座にショウコのプリンセスルージュが飛び出し、マギアライフルを背中に納め、双剣『ワルキューレサーベル』を抜き放つなりガンダムアスタロトブルームへ斬りかかる。

 

『んーなわけあるか、よっ!』

 

 けれど、そこにショウコが飛び込んでくるのはソウジの想定内であったのか、ガンダムアスタロトブルームは瞬時にハンドガンを放り捨てて、ブーストアーマーからナイフを両手に抜いていた。

 ワルキューレサーベルとナイフが互いに打ち、合する都度に火花が舞い散る。

 

『ショウコさん、覚悟!』

 

 プリンセスルージュとガンダムアスタロトブルームが競り合う側面から、ショウコへ攻撃すべくカンナのライジングガンダムがビームガンを向けてトリガーを引き絞るが、

 

「そうはさせない」

 

 そこへアスノのガンダムAGE-Iがシールドを構えながら割り込み、ビーム弾を防いで見せる。

 ビーム弾を凌ぎ、すぐにドッズライフルを撃ち返す。

 反撃のビームに、カンナは慌てて操縦桿を捻ってやり過ごす。

 

『射撃戦はさすがに……ですが、格闘ならばっ』

 

 ライジングガンダムはビームガンをサイドスカートに納め、背中のヒートナギナタを抜き放ち、ガンダムAGE-Iへ斬り掛かる。

 だが、ガンダムAGE-Iはその場から飛び退いてヒートナギナタの間合いから逃れる。

 

「さすがに、MF相手に格闘戦じゃ勝てないからね」

 

 何せ向こうは"異種格闘技戦を行うガンダム"だ、正面からの斬り合い殴り合いになれば無類の強さを発揮する。

 それを理解しているアスノは、ライジングガンダムの格闘の間合いには近付かず、中距離での射撃戦に持ち込む。

 飛び退くガンダムAGE-Iへ、ライジングガンダムはすぐに振り返って頭部のバルカン砲を速射してくるが、アスノは慌てずにシールドでバルカン砲の銃弾を防いでいく。

 

「(よし、このままツキシマさんを引き寄せる)」

 

 ショウコとソウジの擬似タイマンを継続させるのがアスノの目的だ。

 その彼の思惑に乗せられるように、カンナのライジングガンダムはガンダムAGE-Iへ追い縋る。

 

 

 

 ナイフとワルキューレサーベルとの激しい斬り合いもしばし続いていたが、ふと両者は動きを止めて睨み合う。

 

『あれ?呑気に止まってていいわけ?』

 

 ソウジはガンダムアスタロトブルームのナイフをクイクイと動かしてみせ、ショウコを挑発する。

 

「ふっふっふっ……それはあたしのセリフだね、ソウくん」

 

 しかしその程度の挑発に動じるショウコではない。

 相手がソウジだからこそ、この挑発には"裏"があると見ているし、だから挑発を返す。

 

『ぁんだと?』

 

「今、あたしとソウくん、アスくんとカンナちゃんがそれぞれで擬似タイマン状態になっています」

 

『だからどうした?』

 

 来ねぇならこっちから……とソウジは操縦桿を押し上げようとするが、

 

「アスくんとカンナちゃん、一対一で戦ったなら、きっと勝つのはアスくんの方だよ。そうしたらソウくんは二対一って不利な状況になっちゃう」

 

『……揺さぶりかけてるつもりか?』

 

 カンナとて全くの素人ではない、何もできないままアスノに敗れるはずがない、とソウジは思い込みつつ、僚機画面のカンナのライジングガンダムの状態を確認する。

 ガンダムAGE-Iと、中近距離で付かず離れずの戦いを継続しているようだ。少し危なっかしいが、今すぐに撃墜されるようなことは無い――

 

 不意に意識の外から敵機接近のアラートが鳴り響いた。

 

『っておい!?』

 

 ほんの少し意識をカンナのライジングガンダムに向けていた、その隙を狙っていたのか、いつの間にかプリンセスルージュが迫り来ていた。

 ソウジも半ば反射的に操縦桿を振るい、ワルキューレサーベルをナイフで弾き返す。

 

『ショウコ!おまっ、騙しやがったな!?』

 

「敵の目の前でよそ見する方が悪いんですー!」

 

 先程までは互角であったが、不意を突かれた今のソウジは防戦一方であり、勢いに乗ったショウコの猛攻を凌ぐのが精一杯だ。

 だからこそ――それ以外のことに意識が回らなくなる。

 

 体勢を整えようと、ソウジはガンダムアスタロトブルームのブーストアーマーを噴かし――スラスターの蒼炎が足元の薄氷を溶かし、その部分が崩れ沈んだ。

 

『うぉっなんだ!?足場がっ!?』

 

 一度脆くなった薄氷は瞬く間に砕け、ガンダムアスタロトブルームを氷海へと引き摺り込む。

 

「もらったよ、ソウくん!」

 

 下半身が完全に嵌ってしまって身動きが取れないガンダムアスタロトブルームを仕留めるべく、ショウコはプリンセスルージュを加速させる。

 ワルキューレサーベルを突き出し、ガンダムアスタロトブルームのボディを貫かんと迫り――

 

『逆転の発想、ってな!』

 

 その寸前、ガンダムアスタロトブルームは両手のナイフで薄氷を叩き割り、自機を完全に氷海へ潜らせてしまう。

 

「っとそう来る!?」

 

 勝負あったと確信出来た一撃を躱され、ショウコは反応が遅れてしまう。

 慌ててプリンセスルージュを反転させ、レーダーでガンダムアスタロトブルームの動きを追う。

 

 その狙いは――ガンダムAGE-Iだ。

 

 

 

 ドッズライフルとビームガンが交錯し、ビームサーベルとヒートナギナタが打ち付け合い、時折シールドランチャーとバルカン砲が互いを相殺する。

 

『やりますね、アスノさん』

 

「ツキシマさんも、ねっ」

 

 ガンダムAGE-Iの振り降ろすビームサーベルを、ライジングガンダムはヒートナギナタで受け、弾き返す。

 

『えぇぃッ!』

 

 返す刀で踏み込みつつヒートナギナタを薙ぐライジングガンダムだが、アスノは操縦桿を引き下げてガンダムAGE-Iをバックステップさせてその一閃を躱す。

 

 両者の間合いが再び開いた、その時。

 

「んっ?真下から!?」

 

 自身の真下からと言う思いがけない方向からの接近警報に、アスノは目を見開く。

 慌ててガンダムAGE-Iを飛び退かせると、0.5秒前までいたところの薄氷が下から叩き割られ、デモリッションナイフを振り上げたガンダムアスタロトブルームが、海飛沫と共に現れた。

 

『不意打ち上等!』

 

 海面から現れたついでに飛び上がり、ガンダムアスタロトブルームはデモリッションナイフを振り上げ、ガンダムAGE-I目掛けて勢い良く振り降ろす。

 

「な、なんで海からソウジが……うわっ」

 

 アスノは再度操縦桿を捻らせ、間一髪のところでデモリッションナイフの一撃を躱し――叩き付けられた部分を中心に薄氷が叩き割られる。

 

 そのままバックホバーさせつつ、アスノは戦況を確認していく。

 自機の近くに、敵対反応が二つ。

 僚機――ショウコの反応は少し離れているが、真っ直ぐこちらに向かってきている。

 恐らくソウジが、ショウコとの戦闘中に氷海へと潜航し、下から不意打ちを仕掛けるつもりだったのだろう(ソウジが氷海へ潜り込んだのは偶発的なものだったが)。

 まずはショウコと合流したいが、さすがに二対一の状況を長く保たせられる自信はアスノには無かった。

 そうこうしている内に、ライジングガンダムがビームガンを、ガンダムアスタロトブルームがハンドガンを、それぞれ構えて発砲してくる。

 アスノは操縦桿を握り締めて、

 

「翔べっ、AGE-I!!」

 

 思い切り押し込んだ。

 すると、ガンダムAGE-Iは各部のスラスターユニットを炸裂させ、一気に飛び上がってビーム弾と銃弾を躱す。

 それだけに留まらず、ぐんぐん高度を上げて高空へと舞い上がる。

 ガンダムAGE-I自体に飛行能力は無い。

 だが、機体の完成度の高さが為せる推進力の強さが、高高度のハイジャンプを可能にする。

 ここまでの高度なら、スナイパーライフル並みの射程で無ければ届かない。

 

「ショウコっ、こっちだ!」

 

「アスくんっ?了解!」

 

 アスノの通信に反応し、ショウコはプリンセスルージュをガンダムAGE-Iの着地点へ急がせる。

 しかし、その長距離を狙える攻撃手段を、ライジングガンダムは持っている。

 

『この距離なら……』

 

 ライジングガンダムはシールドを切り離して、ビームボウの弓を展開し、ビームの弦を引き絞る。

 カンナのロックオンカーソルが捉えるのは、プリンセスルージュの背後。

 ライジングガンダムがその構えを見せ、ショウコがそれに気付いていないと悟ったアスノは、ほぼ咄嗟に操縦桿を押し出して機体を加速させていた。

 

『当てて、みせますッ!』

 

 放たれるは、ライジングアロー。

 輝くビームの矢が、プリンセスルージュへと迫り――

 

「ショウコッ!」

 

「えっ、きゃっ!?」

 

 ガンダムAGE-Iが、シールドを構えながらプリンセスルージュを突き飛ばし――ライジングアローがシールドの上半分を突き破り、さらにガンダムAGE-Iの左肩を抉った。

 

 モニターの左半分が激しく震動し、左肩の損傷を告げるアラートが鳴り響く。

 

「アスくんっ、大丈夫!?」

 

 左肩からスパークが漏れるガンダムAGE-Iの元に、プリンセスルージュが駆け寄ってくる。

 

「だ、大丈夫。シールドが半分吹っ飛んだだけ」

 

 まだ十分戦えるよ、とアスノは気丈に振る舞う。

 

「ごめん、あたし全然気付いてなかった」

 

「僕も迂闊だった。ライジングアローの射程を見誤ってたよ」

 

 普通に狙撃出来るくらいはあるよ、とアスノは感心したようにぼやく。

 

『アスノの奴、あの咄嗟で最小限のダメージで抑えやがった』

 

 ソウジは、先程のライジングアローでショウコのプリンセスルージュは撃墜されると、確信していた。

 が、蓋を開けてみればガンダムAGE-Iがプリンセスルージュを守り、その上で被害を最小限に抑えてみせた。

 シールドは半壊したが、まだ脅威であるドッズライフルは普通に撃ってこれる。

 本来なら、プリンセスルージュの代わりにガンダムAGE-Iが撃墜されてもおかしくはなかったのだ。

 身代わりになってなお生きているアスノの悪運強さ……否、恐らく彼はこれも意図的に行ったのだと思い、ソウジは薄ら寒い感覚を覚える。

 

『さすがアスノさん……と言いたいですけど、今はあまり嬉しくないですね』

 

 カンナはライジングガンダムのビームボウを閉じて、ビームガンを持たせ直す。

 

 戦局はソウジ・カンナチームに傾いたが、アスノ・ショウコチームの挽回の目も十分残されている。

 

「アスくんに守ってもらったぶん、あたしも頑張らないと!」

 

「だからって突っ込み過ぎると援護も難しいけどね」

 

 戦意を高揚させるショウコだが、アスノがそれを諫める。

 バトルはまだまだこれからだ。

 

 

 

 モニターでアスノ達のバトルを眺めていた金髪の男性はふと立ち上がって、バトルブースの方へ足を向ける。

 

「どうしたんだい?」

 

 アミダ姐さんはその背中に声を掛ける。

 

「バトラーの血が騒いだ、ということにしていただきたい」

 

 背中越しにそう答えながら、彼は懐から『銀色のマスク』を取り出した。

 

 

 

 ガンダムAGE-Iのドッズライフルが貫き、ライジングガンダムのビームガンが放たれ、プリンセスルージュのワルキューレサーベルが閃き、ガンダムアスタロトブルームのデモリッションナイフが振り抜かれる。

 

 凍結した氷海も徐々に崩れ始めており、足場もその数を減らされていた。

 

 跳躍してドッズライフルの火線を躱したカンナのライジングガンダムは、着地しようとして、

 

『えっ!?』

 

 ズル、と接地がズレた。

 凍結した表面が溶けて滑りやすくなっており、これまでと同じように着地時ようとしたライジングガンダムは、スリップしてしまったのだ。

 尻もちをついてしまうライジングガンダムに、プリンセスルージュが飛び掛かった。

 

「カンナちゃん覚悟!」

 

 突き出されたワルキューレサーベルは、ライジングガンダムのバイタルバートを貫いた。

 

『うぅっ、ごめんなさいキタオオジさん……』

 

 ライジングガンダム、撃墜。

 

『マジかっ、こっから二対一はキツいな!?』

 

 ソウジはガンダムアスタロトブルームのハンドガンを連射してガンダムAGE-Iを牽制するが、保守的な立ち回りに切り替えたアスノは、付かず離れずの間合いを維持しながらも、ドッズライフルによる射撃をチラつかせてくる。

 

 このままショウコと連携してソウジを追い込んでいけば……

 

 そう思った時だった。

 

 

 

 ライジングガンダムが撃墜されて、自分のモニターがフィールドを俯瞰するような視点に切り替わったのを見て、カンナはちょっと落ち込む。

 だが、その落ち込みは別の驚きに変わることになる。

 

「お嬢さん、少々失礼する」

 

「えっ?」

 

 ふと、カンナに声をかける男性の声。

 カンナはパッと振り返ると、そこにいたのは銀色のマスクで目元を覆う金髪の男性。

 

「……えっ、あっ、あなたはもしかして……ッ!?」

 

 半信半疑と驚愕に絶句するカンナを尻目に、仮面の男はコンソールを操作しながら自分のバナパスとガンプラを読み込ませていく。

 

 

 

 突如、三人のモニターに『WARNING!!』の赤いテロップが横切る。

 

「なんだ?」

 

「えっ、乱入!?」

 

 アスノとショウコはすぐに辺りを見回して警戒する。

 

『おいおい、バトってる最中に乱入とかいい度きょ……』

 

 ソウジは自分が使っている筐体の隣――ついさっきまでカンナが使っていた筐体にいる人物を見て、

 

『…………へッ!?』

 

 間抜けな声を漏らした。

 

 数秒の後、彼方から雪煙を巻き上げながら高速で接近してくる、何者かの機体。

 

 シャア専用機のサーモンピンクを基調に彩られた体躯はずんぐりとしていて、特に脚部が太く重々しい。

 それは、ジオン軍の重MS『ドム』をベースにしたガンプラであるが……

 

「えっ……あのドムって、まさか!?」

 

 アスノは、自分の目に映るそのドムが、何かの見間違いではないかと疑った。

 見間違いではないとしたら、だが、

 

 だとしたら。

 

 雪煙が晴れ、その全貌が明らかになる。

 

 ドムをベースに、機体各部にバーニアや装甲、武装を増設し、それでいて無駄なく洗練されたその姿。

 

 そして何より、オープン回線にて流れてくるその声に、聞き覚えがありすぎた。

 

 

 

『見せてもらおうか。君のガンプラの性能とやらを』

 

 

 

 GPVS最強のバトラー――アカバ・ユウイチ。

 

 そして、その彼の愛機――『ドムソヴィニオン』。

 

 それが、アスノの前に現れたのだ。

 

「あ、あのー……もしかしなくても、アカバ・ユウイチさん、だったり……?」

 

 ショウコのプリンセスルージュが右マニピュレーターで挙手した。

 

『いかにも。私の名はアカバ・ユウイチ。ご覧の通りGPVSバトラーだ』

 

 セリフのひとつひとつが、シャア・アズナブルを彷彿させる。

 間違いない、なりすましではない本人そのものだ。

 

『突然乱入したことは謝罪しよう。だが、私は我慢弱い。どうしても確かめたいことがあってな』

 

 それは、とドムソヴィニオンのモノアイが、アスノのガンダムAGE-Iへと向けられる。

 

『イチハラ・アスノ君。私とバトルしてもらおう』

 

 アスノは一瞬、ユウイチから何を言われたのか理解できなかった。否、理解は出来ても自意識が思考に追い付いていなかった。

 

「……はっ?えぇっ!?僕ですか!?」

 

『そうだ』

 

「いや、その、なんで、待って、……えーっと、どうして僕なんですか?」

 

 あのアカバ・ユウイチから名指しで指名されると言う、嬉しさと畏れ多さと驚愕と混乱が綯い交ぜになり、アスノは頭の中ではぐるぐると渦巻いている。

 

『君のそのAGE-1、それと君自身に興味を持った。それ以上はあるかもしれないが、それ以下はない』

 

 アスノとユウイチの対話を、傍から聞いていたショウコとソウジは、戸惑うアスノに発破をかける。

 

『見ろよアスノ、あのアカバ・ユウイチさんのお眼鏡に叶ったんだろ!ほれ、一発かましてこいよ!』

 

「アカバ・ユウイチさんと戦えるなんて、選手権で決勝まで勝ち抜くくらいしか出来ないんだから!アスくん、ガンバ!」

 

 言いたいことだけ言ってから、プリンセスルージュとガンダムアスタロトブルームはその場から離れる。

 

「うっ、ぐっ……わ、分かった、頑張る……ッ」

 

 緊張を生唾と共に腹の底へ飲み込み、操縦桿を握り締め直す。

 

「イチハラ・アスノ、ガンダムAGE-I……行きます!」

 

『アカバ・ユウイチ、ドムソヴィニオン、出るぞ』

 

 瞬間、何かが爆発したかのような轟音と共に、ドムソヴィニオンが一直線に突撃してくる。前傾姿勢で地表を"滑空"する様は、まるでケンプファーのようだ。

 

「はっ、速っ……!?」

 

 半ば反射でドッズライフルを撃つアスノだが、ドムソヴィニオンは速度と姿勢をそのままに、往なすようにドッズライフルのビームを躱す。

 

『当ててみるがいい。当てられるものならな』

 

 往なすと同時に抱え込むように構えたジャイアントバズを発射、一直線にガンダムAGE-Iへ飛んでくる。

 対するガンダムAGE-Iも、シールドランチャーを発射してジャイアントバズにぶつけて相殺爆破させ、

 

「当たってくれっ!」

 

 ジャイアントバズとシールドランチャーが巻き起こした爆煙を目隠しに、ドッズライフルを放つ。

 文字通り爆煙を突き破るビーム。

 

 だが、その先にドムソヴィニオンの姿はない。

 

「どこにっ?」

 

 アスノは慌ててレーダーを確認しようとして、

 

 正面にいなかったはずのドムソヴィニオンがいつの間にか目の前にいた。

 

「ぃぇっ!?」

 

『前方不注意だぞ、アスノ君』

 

 ドムソヴィニオンは再度ジャイアントバズを発射、先程よりも縮まった距離では、シールドランチャーによる迎撃も間に合わず、ガンダムAGE-Iは咄嗟にシールドで受ける。

 けれど既に半壊し、損傷も嵩んだシールドではジャイアントバズの弾頭の炸裂は防ぎきれず、シールドもろとも左腕が吹き飛んだ。

 

「うっ、くそっ!」

 

 肩口から吹き飛んだ左腕の損傷のアラートを見流しつつ、アスノは操縦桿を引き戻してドムソヴィニオンとの距離を置きつつ、ドッズライフルを捨ててビームサーベルを抜き放つ。

 

『ほぅ、敢えてライフルを捨てたか』

 

 ならば私も応えよう、とユウイチはウェポンセレクターを回す。

 ドムソヴィニオンはジャイアントバズを放り投げ、背部からビームサーベルを抜き放つ。本来ならばヒートサーベルであるそれを改造したものだ。

 滑空の姿勢のまま突撃してくるドムソヴィニオンに、ガンダムAGE-Iは真っ向勝負を仕掛ける。

 

 激突、ピンクとイエローのビーム刃同士の干渉が蒼白のスパークを迸らせる。

 

 だが、ビームサーベルの出力差があまりにも大き過ぎる。

 

「ぐっ……!?」

 

『サーベルのパワーはこちらが勝っているぞ?』

 

 彼が意図したかは不明だが、シャアの「サーベルのパワーが負けている!?」と言うセリフへの意趣返しともとれるような挑発だ。

 このままでは、ビームサーベルごと押し切られて機体を斬り裂かれてしまう。

 

「サーベルがパワー負けしてるなら……っ」

 

 アスノはウェポンセレクターを打ち込み、

 

「敢えて押し負ける!」

 

 不意にビームサーベルの通電を切り、同時に機体を屈ませる。

 当然、反発が無くなったドムソヴィニオンのビームサーベルは振り抜かれ、空振りに終わる。

 

『ほぅ』

 

「で、もう一度ッ!」

 

 再度ビームサーベルを出力させて、ドムソヴィニオンの右腕を斬り裂こうと振り上げ――

 それよりも先にドムソヴィニオンは真上へ上昇していた。

 

『甘いな』

 

 不敵な声がアスノに届いた時には、ドムソヴィニオンは急降下、ガンダムAGE-Iを上から踏み潰すように踵落としを叩き込んだ。

 

「ッ!?」

 

 ガンダムAGE-Iは薄氷に叩きつけられ、その衝撃で薄氷が砕け、氷海へ沈み込む。

 

「あっ……う、動け!?動いてくれっ、AGE-I!?」

 

 アスノは機体を上昇させようとするが、今の踵落としで機体が甚大なダメージを受けてしまったせいで動けなくなってしまっていた。

 

 ガンダムAGE-Iは、そのまま海中へ――フィールドアウトしていった。

 その間際、ドムソヴィニオンのモノアイが「私に勝つのはまだ早いぞ」と告げているように見下ろしていた。

 

 ガンダムAGE-I、フィールドアウト。

 

 

 

 バトルが終了し、リザルト画面が流れる前で、アスノは呆然としていた。

 

 瞬殺、惨敗。

 控えめに言ってそうとしか言えない結果だった。

 

「これが、アカバさんの実力……」

 

 否、全力では無いだろう。

 実力の、恐らくほんの一部。

 本気の全力なら、ドムソヴィニオンの姿を観察する間もなく撃ち落とされていただろう。

 

 ふと、向かいの筐体にいた仮面の男――アカバ・ユウイチが、アスノを見ていた。

 

「ぁ……」

 

 テレビや雑誌の向こう側でしか見れなかった姿が今、自分の目の前にいる。

 何か言われたら何と答えればいいのか。

 頭が真っ白になりそうになるアスノに、ユウイチは

 

「未熟千万」

 

 その四文字を叩き付けた。

 

「…………え?」

 

 開口一番のそれに、アスノは目を見開く。

 

「君のAGE-I、確かに素晴らしい完成度だ。だが、どこか妥協したようにも見られるな」

 

 妥協。

 そう言われてアスノは思い当たる節を否定出来なかった。

 

「バトルもだ。敢えて競り負けて攻撃をやり過ごし、反撃に移ると言う機転の良さ。しかし、二手三手先を考えている相手に受け身技は通じんよ」

 

「……」

 

 一方的な指摘だが、アスノにそれを言い返せる材料も力も無い。

 

「君達は、今年の夏の選手権の優勝をめざしていると聞いた。開催まであと三ヶ月。全てを整えて来たまえ」

 

 ユウイチは仮面を外して、その素顔を見せた。

 

 強き意志を宿した碧眼をしていた。

 

「私は、君の挑戦を楽しみにしている」

 

 それだけを言い残して、ユウイチは踵を返してバトルブースを後にしていった。

 

 そのやり取りを見ていた他の三人は。

 

「やべぇ、何だあのカッコよさ……惚れるだろ」

 

 ソウジは興奮気味にユウイチが去っていた方向を見つめ、

 

「さすが……さすがと言うべきですね……っ」

 

 カンナは彼に声を掛けられてから終始緊張しており、

 

「あの人って、あんなに大人気無かったっけ?」

 

 ショウコだけはちょっと幻滅していた。

 

 我に返ったアスノは、慌てて筐体からガンダムAGE-Iを取り出した。

 

 妥協したようにも見られる。

 

 そうユウイチに言われた通りだと思った。

 

「選手権で優勝するには、あの人と、あのドムを超えなくちゃいけないんだな……」

 

 自分にそれが出来るだろうか。

 いや、やらなくてはならない。

 

 優勝を目指すと決めたからには、全てを出し切るつもりで挑まなければ。

 

 間近に見た、アカバ・ユウイチと言う強大な壁。

 

 それを超えていくためには。

 

 アスノは、改めて優勝への決意を新たにした――。

 

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