身内戦……からのアカバ・ユウイチの乱入を受け、惨敗を喫したアスノ。
ユウイチが去った『鎚頭』の店内の製作ブースの席で、四人は話し合っていた。
「やっぱり凄い人だね、アカバさん」
開幕一番そう言ったのはショウコ。
「もしさっき選ばれたのがアスくんじゃなくてあたしだったとしても、多分同じような結果で負けてたと思う」
「俺も同感だわ。つか、アスノじゃなきゃあそこまで戦えるとは思えねぇ」
ショウコの言葉に便乗するのはソウジ。
「私だったら最初の射撃に反応出来たかどうか……」
カンナも然り。
「僕の実力云々はともかく、今の僕達じゃアカバさんのチームはおろか、アカバさん一人にだって勝てない」
例えこの四人とユウイチが一人でバトルしたとしても、結果は変わらないだろう。
アスノは、自分の手に握るガンダ厶AGE-Iを見下ろす。
敗北による負の感情に押し潰されたのではない。
むしろ逆――ユウイチとのバトルに負けたことが、彼の心に火を点けたと言ってもいい。
「(目の前で見たからわかる。アカバ・ユウイチさんの、あのドムの完成度!あれは、一週間や二週間で出来るものじゃない……!)」
あのドムソヴィニオンと対峙して勝てるガンプラなど果たしてあるものか。
いいや、作らねばならない。
選手権の優勝には、彼を打ち破る必要があるのだ。
彼だけではない。彼とチームを組んでいる者らや、それ以外のチーム。
それら全てを打倒して勝ち抜いていくためには。
「あの人の相手をするのに恥ずかしくないガンプラを作るのはもちろん、僕達一人一人の操縦技術もそう、あとはチーム戦だから、連携も取れるようにならなきゃ」
当たり前のことだ。
だが、当たり前のことだからこそ、それを主軸にしなければならない。
「ってかそもそも俺ら、最後の一人がまだいねぇんだよなぁ」
ソウジがそれをこぼした。
そう。
まだアスノ達は、ユウイチと同じ土俵に立つどころか、回しを腰にすることすら出来ないのだ。
「ねぇアスくん、ミカ姉さんってガンプラバトル出来たっけ?」
ショウコは、アスノの姉であるミカの名を挙げた。
が、当のアスノは「うぅん」と首を振る。
「ガンプラバトルどころか、ガンプラだって作ったことないよ」
「そっかぁ……」
弟が弟なら、姉も姉……と言うショウコの淡い期待はそもそも論外だった。
「アスノさん、お姉さんがいるのですか?」
ふとカンナが、アスノの家族構成について訊ねた。
それに答えるのはソウジ。
「そっか、ツキシマはまだ知らないんだったか。アスノな、姉さんと二人で暮らしてんだよ」
「付け加えると、両親は有給休暇中で半年くらい家を空けてる。だから、今は僕と姉さんだけ」
「そうなのですか」
ふむむ、と頷くカンナ。
「とまぁ、ウチの姉さんはガンプラ関連ではアテになりませんということで」
あと一人、と来るとなかなか人材は見つからないものである。
「焦らなくてもいずれ……なんて悠長に構えてたら絶対に間に合わないし、早くなんとかしないと」
どうしたものかとショウコも眉間を寄せる。
暫し、沈黙。
店内のBGMや物音だけがこの場を包み込む。
ふと、店の自動ドアが開けられて、お客が一人入ってくる。
浅黒い肌に銀色の髪と言う、東洋人には見られない容姿の青年。
彼はまっすぐにカウンターへ向かい、名瀬さんへ話しかける。
「おぅ、お前さんか」
「どうも名瀬店長。本日もお日柄よく……そうそう、取り置きのHGの『ザクIスナイパータイプ【ヨンム・カークス機】』、受け取りに来ました」
世辞を交えた挨拶をしつつ、来店の用件を持ち込む青年。
「はいよ、ちょっと待ってろよ」
名瀬さんはバックルームに首を伸ばすと、「アミダー、『ジュゲ厶』の取り置き品を出してくれ」と声をかける。
程なくして、バックルームからアミダ姐さんが、ザクIスナイパータイプ【ヨンム・カークス機】のパッケージを手にカウンターへやってきた。
「おぉ、これこれ。UC系ジオン残党のガンプラは人気過ぎて、再販してもすぐ無くなるから困るんですよ」
ジュゲムと言うらしい青年はスマートフォンの電子マネー決済で会計を完了させ、満足そうにそのキットを受け取る。
「そうだジュゲム、良けりゃでいいんだが、ちと相談に乗ってやってくれねぇか?」
「相談?名瀬店長がオレに相談とは、珍しいこともあるもんですね?」
「いやいや、相談相手は俺じゃなくて……」
ふと名瀬さんは、アスノ達四人へ視線を向けた。
「あそこの中坊どもだ」
「え?」
中坊どもと言われて、アスノが反応する。
そこで初めて、ジュゲムの視線が彼らに向けられる。
「男女四人が集まって何をしてるのかと思いきや……それで、相談と言うのは?」
「そこはあいつらから聞いてくれや」
それだけ言うと、名瀬さんはカウンターの奥へ引っ込んでしまう。
やれやれと呟きつつ、銀髪を軽く掻きながらジュゲムはアスノ達の元へ歩み寄る。
「えぇと……」
降って湧いた突然の珍客に、アスノは戸惑うが。
「名瀬店長から相談を受けてやれと言われて来たが……あ、オレはジュゲムだ。寿(ことぶき)が限り無いって書いて、ジュゲムと読む」
「変わったお名前ですね?」
カンナがジュゲムの(恐らく)名字に反応する。
「フルネームは物凄く長いみたいに言われるが、ジュゲムだ。それで、その相談とやらは、オレが聞いて解決出来るもんかね?」
名前に関する話題はここまで。
早速ショウコが切り込んでいく。
「あの、あたし達GPVSの選手権の5on5に出場しようと思ってるんですけど、どうしても一人足りないんです。それで、ジュゲム……さんでしたっけ」
「ふむ。オレに、その最後の一人になってくれと。そういう話か……」
なるほどな、と頷くジュゲムは視線を明後日の方向に向けて、
「……こいつは使える」
ふと、口の中で何かを呟いた。
「え?今なんて……」
何を言ったのか聞き取れず、アスノは思わず訊き返す。
「あぁ、いいぞ。選手権に出たいから、仲間に入ってくれってことだろう?」
「ホントですかっ!」
仲間になると聞いて、ショウコは真っ先に飛び付いた。
「良かったですね、ショウコさん」
カンナも嬉しそうに喜ぶ。
「え?いや、なんか……えっと、いいんですか?」
話がうまく行き過ぎてないかと、アスノは躊躇いがちに「本当に自分達のチームに加入してくれるのか?」と再確認を取る。
「んー?オレの腕じゃ信用ならないかな?」
意地悪そうな笑みを見せるジュゲム。
「そ、そう言うわけじゃ……」
そうではないとアスノは言おうとするが、
「あぁそうだな。信用ならねぇな」
この空気を叩き切るようにそう発したのは、ソウジだった。
「ほぉ?」
否定されるような言葉を聞いて、ジュゲムはソウジへ興味を向ける。
「アスノもショウコも、お人好し過ぎにもほどがあんだろ。虎の子の残り一人だぞ?そう簡単に決めていいわけねぇだろうが」
「なんでよソウくん、せっかくあたし達のチームに入ってくれるって言ってるのに……」
ショウコは口を尖らせるが、ソウジの考えは変わらなかった。
「俺らは選手権の優勝目指してんだ。見も知りもしねぇ奴をホイホイ受け入れて、それで上手くやれるってのか?」
「そう睨むなよ、怖いじゃないか」
ソウジは敵意を剥き出しにする一方で、ジュゲムは飄々とした態度を崩さない。
「ま、君の言うことも分かるさ。ようは、選手権を勝ち抜ける実力があれば、信用してもらえるんだろう?」
「そうとは言ってねぇ」
「実力の問題ではないと?」
すると、フッとジュゲムの目が細まり、口元が歪な弧を描く。
「……なら、ここでオレの仲間入りの話はおしまいだ。『仲良しごっこ』がしたいなら、他を当たってくれたまえよ」
「ぁんだとテメェ!!」
自分達が本気で目指している目標を侮蔑するような言い方に、ソウジのその腕はジュゲムの胸ぐらを掴んだ。
「ソウジ!」
「ソウくんっ、ちょっと落ち着いて……」
左右からアスノとショウコが抑えようとするが、それで体格の良いソウジは止められない。
「仲良しごっこだぁ!?俺らは本気でやってんだぞ!それをどの口が言ってやが……」
「そ れ さ」
胸ぐらを掴まれても全く動じないジュゲムは、堂々と曰う。
「自分達の力を過信し、気に入らなければ熱くなって頭に血が上る。だから大局を見失う。『鉄血のオルフェンズの二期の鉄華団と同じだ』」
「…………ッ」
ガンダム作品を用いた例えにソウジは言い返せずに、乱暴にジュゲムの胸ぐらから手を離す。
「『毒を食らわば皿まで』と言う諺を知ってるかい?オレと言う存在は毒だろうけど、得られる恩恵もそれに見合うぞ?」
ソウジを試す……と言うよりも挑発するような物言いだ。
「……その恩恵ってのは、必ず得られるもんなのか?」
「証拠になるかは分からないが、判断材料にはなるかな?」
するとジュゲムは自分のスマートフォンを取り出すと、GPVSのアプリのプロフィールデータを四人に見せた。
「バトラーランク……Sランク!?」
ショウコがランクを見て目を見開く。
F〜SSランクまである中で、二番目に高いランク。
相当な回数のバトルを勝ち抜いていなければ到達出来ない位だ。
「勝率も75.8%……これは、すごいですね」
カンナも興味深そうにデータを見通していく。
数字だけを見ても、この四人の誰よりも上なのは明白。
だが、ソウジはまだ否定的だ。
「これだけじゃ無理だ。味方におんぶだっこされてきただけかもしれねぇしな」
「ははっ、こりゃ手厳しい。なら、どうする?」
本当にオレを手放していいのか、とジュゲムはさらに挑発する。
その態度と物言いにまた頭に血が上りかけるソウジだが、一度長く息を吐き出して落ち着きを取り戻す。
そうして、バトルブースを指差した。
「バトルだ。俺とサシでやり合え」
「いいね、その方が分かりやすくていい。……だが今はダメだ」
「はぁ?」
「今日のところはガンプラを持ってきてないものでね。今週の日曜日はどうだろうか」
「チッ……分かった。なら次の日曜、ここの開店時間でどうよ」
「OK理解した」
ジュゲムは一度その場を離れ、カウンターの名瀬さんを呼ぶ。
「名瀬店長。今週の日曜日の十時頃、筐体を二つ予約してもらいたい」
「あいよ、日曜の十時だな。……あんま虐めてやんなよ?」
「ご心配なく。軽く慣らしてやるだけですよ」
名瀬さんからの予約許可をいただいてから、ジュゲムは去り際にソウジヘ目を向ける。
「では、今度の日曜日を楽しみにするとしよう。またね」
軽く手を振って、ジュゲムは『鎚頭』を退店する。
それを見送ってから、ソウジは舌打ちしながら鞄を引っ掴んだ。
「……今日は俺も帰るわ。じゃぁな」
それだけ言い残して、さっさと『鎚頭』を出ていってしまった。
彼を引き留めることなど、残された三人には出来なかった。
結局、三人だけになったのでは会話も弾むこともなく、残る三人も『鎚頭』を退店して、帰り道を並んで歩いていた。
「なんだか、変なことになっちゃったね」
ショウコは、努めて苦笑するように言った。
「キタオオジさん、どうしてあそこでジュゲムさんのことを「信用出来ない」と言ったのでしょう……?」
カンナは、ソウジの不可解な拒否を疑問に思っていた。
彼自身が言っていたように、アスノ達のチームはあと一人が足りなくて、売り込むような形とはいえ、ジュゲムがチームに加入すると言うのは朗報だったはずなのに。
けれど、ソウジの不信感をジュゲムは「仲良しごっこ」と言った。
「(ソウジは昔から排他的と言うか、自分達と違う存在が混ざるのを嫌っていたしなぁ……)」
アスノは、それを心中で呟いた。
カンナの加入を喜ばしく思わなかったのも、恐らくそれだ。
尤も、カンナは同じ学園、同い年、ショウコのことも考慮すれば、まだ受け入れることが出来たのだろう。
だが、ジュゲムはどうだ。
詳しい年齢は分からないが、少なくとも高校生かその辺り。
自分達とは全く異なる存在だ。
ジュゲムも自分がアスノ達にとって異質な存在だと言うことは自覚していただろう。
そこでソウジが拒否を示すことで、「身内以外を加入させない」と読み取ったのだろう。
故に、「仲良しごっこ」と言う言葉が出たのかもしれない。
さらに不可解なのは、一度ソウジに拒否されても、皮肉を用いて自分を売り込んできたことだ。
ジュゲムはただチームに加入したいだけではない、何か別の目的があって近付いてきたのか。
「(何にせよ、喧嘩になるようなことは避けなくちゃ)」
今のアスノは、それで頭がいっぱいだった。
日曜日になるまでの数日間。
学園でのソウジは、表面上こそいつも通りだったが、アスノやショウコはそれが取り繕ったものだと言うことを知っている。
鬼気迫る。
そんな言葉が、今のソウジを表していた。
だが、放課後になるとすぐにどこかへ行ってしまっていた。
彼曰く、絶対に負けるわけにはいかないからと、一人でガンプラバトルの特訓をしていた。
そして、訪れた日曜日。
『鎚頭』の開店に合わせるように、アスノ達四人は集まっていた。
そこに、ジュゲムの姿もあった。
「おはよう」
「あんたに交わす挨拶はねぇ」
出会い頭にこれである。
「随分嫌われたもんだな」
なら早速始めようか、とジュゲムは一足先に入店し、筐体の方へ向かう。
ソウジも後を追おうとして、アスノに止められた。
「ソウジ、本当にいいの?」
「良いも悪いもねぇ。……黙って見てろ」
アスノの制止を振り切り、ソウジは筐体の前に立ち、ガンダムアスタロトブルームと自分のバナパスを読み込ませていく。
「(あんな怪しい奴に俺達のチームを乗っ取られてたまるか……あいつらは、俺が守る!)」
ソウジは、自分の怒りが義憤だと信じて疑っておらず――それがただの独り善がりと言うことに気付いていない。
怒りに満ちた彼の後ろ姿を、カンナは心配そうに見つめている。
「キタオオジさん、大丈夫でしようか……」
「大丈夫だよ、カンナちゃん」
だが、ショウコは構えずに事を見守る。
「どんな結果になっても、ソウくんなら受け入れるから」
その言葉には、確かな信頼が見えた。
ランダムバトルフィールドセレクトは、『ラサ基地』を選択。
原典は『第08MS小隊』からであり、シロー・アマダ達08小隊と、病院船であるケルゲレンを守るノリス・パッカードとの死闘を繰り広げた戦場だ。
そこかしこに廃ビルが立ち並ぶため、市街戦になる。
オールグリーンを確認、ソウジは操縦桿を握り直す。
「キタオオジ・ソウジ、ガンダムアスタロトブルーム……行っとくかッ」
『ジュゲム、『ダーティワーカー』、仕事の時間だ』
08小隊が展開する方向から出撃したガンダムアスタロトブルームは、ハンドガンを油断なく構えながら周囲の索敵を急ぐ。
ギリリと奥歯を軋ませて、ソウジはセンサーとモニターを食い入るように見比べる。
一歩一歩、慎重に廃ビルを潜り抜けていくが、敵機の姿は見えない。
「どこだ……どこに隠れてやがる」
来るならさっさと来い、とソウジは苛立ち、
その苛立ちが反応を鈍らせ、唐突なアラートに気付くのが遅れた。
「そ、ぐおぉッ!?」
そこかと言いかけて、モニターと操縦桿の激しい震動にソウジは顔を顰める。
その正体は、一筋のビーム。
ナノラミネートアーマーの恩恵と、ソウジが反射的に機体を挙動させたことで、直撃を避けることは出来たが、ガンダムアスタロトブルームの前面装甲が抉られた。
「クソがっ、狙撃かよ!」
コンソールが被弾のダメージを伝えてくるがソウジは、すぐにビームが放たれた方向に視界を向ける。
そこに、ちょうどノリス・パッカードのグフカスタムが出現する場所に、ジュゲムのガンプラはいた。
『ガンダムEz8(イージーエイト)』をベースとしているが、カラーリングは目立たないダークグリーンのワントーン。
各部にバーニアやアポジモーターが追加されているのは、宇宙戦にも対応するためのものか。
然りとガンダムアスタロトブルームを狙っているのは、長銃身のスナイパーライフル。
表示されている機体名は『ダーティワーカー』
「ダーティワーカー……"汚れ仕事人"ってか?ナメた真似してんじゃねぇぞ!」
ガンダムアスタロトブルームはすぐさまハンドガンを連射して撃ち返すが、狙撃の距離でハンドガンの射程など届くはずもない。
ダーティワーカーはすぐにそこから降りて廃ビルの中へ隠れる。
「隠れたって位置が分かってりゃなぁ!」
ソウジは操縦桿を押し出してガンダムアスタロトブルームを加速させ、ダーティワーカーが身を隠しただろう路地裏へ回り込む。
予想通りそこにダーティワーカーは身を潜めていたが、
突如として廃ビルが爆発した。
「!?」
爆破されて細かくなった瓦礫が、ガンダムアスタロトブルームに降り注ぐ。
強引に突破しようとするソウジだが、ダーティワーカーは懐からハンドグレネードを転がしてくる。
このまま直進すればハンドグレネードを喰らう、そう見たソウジは慌てて路地裏から後退しようとするが、瓦礫の雨は次々に装甲を叩き、足元を埋め尽くしていく。
ハンドグレネードが炸裂する。
直撃こそ避けられたが、ガンダムアスタロトブルームは派手に吹き飛んで路地裏から追い出される。
「クッソッ!汚ぇ手使いやがって……!」
『汚い手と言うがな。そんな汚い手に引っ掛かる方が悪いんだろうさ』
そう言い残しつつ、ダーティワーカーはすぐにその場を離脱、再びソウジの視界から姿を晦ます。
吹き飛ばされてアスファルトを転がったガンダムアスタロトブルームを起き上がらせて、ソウジは状況把握を急ぐ。
「ヤツはどこにっ……」
慌ててレーダーを見てダーティワーカーの位置を確認しようとして、
すぐにまたアラート、の直後に彼方からのビームが放たれる。
「ぐっ……」
ソウジは操縦桿を捻り、咄嗟にガンダムアスタロトブルームの左肩装甲でビームを受ける。
ナノラミネートの塗膜を剥がされながらも、ビームから逃れる。
左肩装甲は歪に融解してしまっている。
ソウジは舌打ちしつつもコンソールを打ち込み、左肩装甲をパージする。
「コソコソしながらチマチマ遠くから……っ」
近付いて来やがれ、と言いかけてソウジは押し黙る。
激昂すればそれこそジュゲムの思うつぼだ。
一旦ガンダムアスタロトブルームを廃ビルの陰に移動させ、ソウジは深呼吸して心を落ち着かせる。
「スー……、フー……、っし」
幾分か冷静さが戻ってきたところで、改めてレーダーを見やる。
既に索敵範囲外へ移動したのか、赤色の敵対反応は見えない。
しかし問題ない、勝負が振り出しに戻っただけだ。
廃ビルの陰から様子を覗う。
どこに潜んでいるかは見えない。
あぁそう言えば、とソウジは思い出す。
『ガンダムビルドファイターズ』の劇中で、三代目メイジン(ユウキ・タツヤ)のケンプファーアメイジングが、レナート兄弟のジムスナイパーK9と対峙した時も、ちょうどこんな感じだったと。
一方、観戦モニターで両者の戦況を見ているアスノ、カンナ、ショウコの三人。
「ソウジが冷静になったな」
アスノは、ガンダムアスタロトブルームの挙動が落ち着くのを見て、いつものソウジに戻ったと確信する。
バトル開始から今までは、明らかに冷静さが無かった。
狙撃の距離でハンドガンを撃ち返そうとしたのも、普段のソウジなら有り得ないことだ、そんな距離から撃っても当たらないことを知っているのだから。
「ソウくんが落ち着いたのはいいけど、ジュゲムさんのEz8が一方的に撃ってくるって状況は変わんないよ」
ショウコがそう口にしたように、状況そのものに変化はない。むしろガンダムアスタロトブルームが被弾したせいで、ソウジの方が劣勢だ。
「そうでもないと思いますよ」
そう言ったのはカンナ。
「この市街地では、高所から隠れて狙撃出来るポイントは限られています。なら、そのポイントを警戒しながら進めば、キタオオジさんにも十分勝ちの目はあります」
戦場全体を俯瞰した視点だ。
高所からの狙撃は場所が限定的な上に、遮蔽物も多いため、ショウコが言うような「一方的に撃ってくる」ようなことは、思いの外起こり得ないものだ。
して、ソウジはどう動くのか。
三人は固唾を呑んで、彼の戦いを見守る。
ソウジはウェポンセレクターを回し、ハンドガンからロケットランチャーに切り替えた。
リアスカートからロケットランチャーを取り出し、空いたラッチにハンドガンを置く。
そうしてからコンソールのマップを開き、拡大する。
「(このラサ基地で狙撃出来そうな場所っつったら……ここと、ここと、ここか)」
およそ、三箇所。
この三つのどこかに、ダーティワーカーは潜んでいるはず。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……勝負と行こうじゃねぇかっ!」
ソウジは気合と共に操縦桿を押し倒し、ガンダムアスタロトブルームを走らせる。
まずは一つ目のポイントへ向けて、ロケットランチャーを発射。
「一つ目!」
放たれた砲弾は違わずにその高所に着弾、炸裂した。
反応はない、ハズレだ。
「二つ目ェ!」
次の狙撃地点へ立て続けにロケットランチャーを発射、これも途中で撃ち落とされることなく炸裂した。
ここもハズレ。
「なら……そこかよ!」
最後の狙撃地点にもロケットランチャーを発射、炸裂したが、ダーティワーカーが姿を現すことは無かった。
「……全部ハズレか?」
狙撃可能な位置にいないとすれば、ダーティワーカーはどこに身を潜めているのか。
ガンダムアスタロトブルームはロケットランチャーを油断なく構えつつ、慎重に進み始める。
すると不意に、廃ビルの隙間からアラートが反応し『銃弾が連射されてきた』
「っとそこか!」
ソウジは咄嗟にガンダムアスタロトブルームを跳躍させて銃弾を回避し、その方向へロケットランチャーを撃ち返す。
砲弾は廃ビルの隙間に飛び込み、炸裂すると同時に銃撃が止んだ。
「やったか?……いや、待てよ?」
ダーティワーカーの射撃と言えば、ビームのはずだ。
けれど先ほど襲い掛かってきたのは、実弾だった。
何かおかしいぞ、とソウジはその廃ビルの隙間を覗き込むと、
そこにあったのは、被弾したダーティワーカーでは無かった。
「武器だけ!?」
ロケットランチャーの爆破で破壊されたのだろう、シールドと100mmマシンガンの残骸だけ。
『そう、攻撃して見せれば食い付くだろう?』
同時に、背後から再びアラート。
反対側の廃ビルの陰から、敵対反応が出現した。
「しまっ……」
無防備を曝しているガンダムアスタロトブルームの背面へ、ビームが襲い掛かった。
反応してみせたソウジだが、
ハンドガンとロケットランチャーが、ビームに焼かれて爆散した。
ジュゲムは、巧妙にソウジのガンダムアスタロトブルームを翻弄していた。
最初は敢えて姿を見せ付けるように高所からの狙撃。
そうして追い掛けてきたところに罠を仕掛けて足止め、さらに射撃を撃ち込む。
ナノラミネートアーマーに阻まれるせいで思いの外粘っているが、次が決め手。
向こうが警戒して近付いてこないのをいい事に、100mmマシンガンとシールドを組み合わせた即席の砲台を作り上げて、自機はその反対サイドへ移動。
ガンダムアスタロトブルームは高所からの狙撃を気にしたのか、ロケットランチャーを三箇所ほど撃ち込んで炙り出そうとしてきたが、それは徒労に終わる。
そして近付いてきたところで仕掛けを動かし、100mmマシンガンで陽動。
それに気を取られている隙に背後へ回り込んで一発。爆発。
これで終わり……だが、レーダー反応はまだ消えていない。
次の瞬間には、爆煙を突き破りながら、デモリッションナイフを構えて突撃してくるガンダムアスタロトブルームがいた。
「……デモリッションナイフで防いだかな?」
冷静に、そう読み取った。
「まだ……まだやれんだよぉッ!!」
反応したものの回避は不可能だと悟ったソウジ。
そこで彼は、背面にマウントしているデモリッションナイフを盾にして直撃を防いだ。
ビームの拡散によってハンドガンとロケットランチャーが破壊されてしまい、その爆風がガンダムアスタロトブルームを吹き飛ばした。
が、まだ戦える。
ジョイントから吹き飛んだデモリッションナイフを拾い、爆煙を切り裂くように突撃する。
『そこまで被弾しながらも向かってくるとは……』
後先を考えてはいないが、射撃武器を失った以上、接近戦を仕掛けるチャンスは、もうここしかない。
ダーティワーカーの頭部からバルカンが速射され、ガンダムアスタロトブルームの装甲を叩くが、ソウジは怯まない。
「接近さえ、出来りゃぁ!」
無謀な突撃が功を奏したか、ダーティワーカーはバルカンの速射を止め、迎え撃つためか脚部からビームサーベルを抜いた。
これでようやく接近戦になる。
『被弾を厭わず接近を試みる。確かにオレにとっては、あまりしてほしくない戦法だ』
「覚悟しやがれっ!」
薙ぎ払われるデモリッションナイフ。
だが、ダーティワーカーの迎撃が不自然なほど緩慢なことに、ソウジは疑問に思うことが出来なかった。
『でもな』
肉厚の剣刃がダーティワーカーを叩き斬る寸前、そのダーティワーカーは急にガンダムアスタロトブルームへ向かって加速した。
そして、デモリッションナイフを振るおうとしているガンダムアスタロトブルームの脇下を潜り抜けた。
「はっ?」
『だからといって、白兵戦が不得手とは誰も言っていない』
デモリッションナイフを振り抜いたガンダムアスタロトブルームは今、完全なノーガードだ。
ダーティワーカーは逆にそこから組み付き、ビームサーベルをガンダムアスタロトブルームのバイタルバートを焼き潰し――たところでエネルギーを切った。
『さて、これで勝負あったと思うんだが、どうだ?』
しかもトドメを刺されることなく、情けをかけられた。
「…………」
ソウジは操縦桿から手を離してコンソールを打ち込み、、それに応じるようにガンダムアスタロトブルームはデモリッションナイフを手放した。
ガンダムアスタロトブルーム、リタイア。
勝敗が決し、ジュゲムの勝利に終わった。
これで、ジュゲムがソウジに実力を示すことが出来たわけだが、肝心のソウジがどのような判断を下すのか。
ジュゲムが先に筐体から離れて、ソウジを待つ。
だが、ソウジは筐体の前から離れずに、リザルト画面を睨むように見ている。
「ソウジ……」
アスノは不安だった。
ソウジは、負けたからと言って逆ギレして当たり散らすような男ではないと知っている。
知っているからこそ、彼がどう判断するのか読めなかった。
もう十数秒の間を置いてから、ソウジはガンダムアスタロトブルームを片手にジュゲムの前に立つ。
「で、オレの力は、君達の役に立てるだろうか?」
「………………」
やや沈黙。
その後に、ソウジは気まずそうに頭を掻く。
「わーったよ!あぁまで完璧にやられちまったんじゃ、文句なんか言えねぇっての!」
そして意を決したようにジュゲムに向き直る。
「……この間は悪かったな」
「気にしないでいい。オレも少し意地悪が過ぎたと思っていたからね」
ソウジの方から和解を持ちかけ、ジュゲムはそれを受け入れた。
「それと、……これからよろしく頼む」
ぶっきらぼうに、そう言った。
「こちらこそ」
頷くジュゲム。
ここに、最後の一人が揃った。
アスノ、ソウジ、ショウコ、カンナ、ジュゲムの五人は、製作ブースの一角を占拠して、互いの自己紹介を行う。
自己紹介というよりは、中学生四人がジュゲムに質問する、と言う形が近いのだが。
「おぉぉぉぉぉっ、Ez8のカラーリングをジムスナイパーに似せて、武装も大型のスナイパーライフル……まるで08小隊劇中の意趣返しだ……!」
特にアスノは、ジュゲムの愛機であるダーティワーカーに釘付けだ。
劇中では、ガンダムEz8は友軍であるジムスナイパーに狙撃されて、機体の左半身を失うほどのダメージを負わされてしまうのだが、このダーティワーカーはそのシーンに対する意趣返しが込められているような色合いだ、とアスノは言う。
「ブルーディスティニーの2号機と3号機も、元々は陸戦型ガンダムがベースだからね。Ez8を宇宙にも対応させるのはそう難しくはないよ。さすがにハイモビリティとか、へビーアームドとかの、ギャザービート級の改造はしなかったけどね」
「バックパックはジムストライカーの高出力ランドセルにバーニアを追加して、宇宙戦にも対応……あ、よく見たら100mmマシンガンにも改造がされてる?これはすごいな……!」
アスノのコアな設定を引き出した上でのガンダムネタにもついていけるジュゲム。
そんな二人を遠巻きから見る三人は。
「あー、ありゃもうついていけねぇわ」
ソウジは呆れたように。
「あたしもちんぷんかんぷん……」
ショウコは苦笑するだけ。
「今日のアスノさん、なんだか輝いて見えます」
カンナは少し眩しそうにアスノを見つめている。
「ところで君達、チームを組む以上は、チーム名はどうするつもりなんだ?」
ふと、ジュゲムは四人にチーム名のことを訊ねた。
GPVSの選手権へのエントリーは、インターネットから必要項目を入力して送信、申請するのだが、その必要項目の中にはチーム名の入力も必須である。
「「「「………………」」」」
それを訊ねられたアスノ達は、それもまったく考えてなかったことに気付いて、四人とも沈黙した。
「どうしてもと言うならオレが決めてもいいが、出来れば君達が決めてくれよ?」
「うっせ、言われなくても分かってら」
ソウジは不機嫌そうに返す。
「んじゃー……『インフィニティ』はどうよ!」
「えぇー、『サイレントトリガー』の方がいいよ!」
早速、ソウジとショウコの意見がぶつかった。
この分だと、次に挙がりそうなのは『ミラーズ』になりそうだが。
「チーム名、チーム名かぁ……僕じゃこう言うセンスは無いしなぁ。ツキシマさんはどうかな」
アスノは早くも他に任せて、カンナの意見を求めた。
「そうですね……」
ギャーギャーとどっちがいいだの悪いだのと言い合っているソウジとショウコの前で、カンナは真剣に考える。
ジュゲムは事の推移を黙って見守っているだけ。
「でしたら……星を意味する『エストレージャ』はいかがでしょうか?」
カンナが挙げた意見に、言い合っていた二人もぴたりと止めて彼女に向き直る。
「星?」
何故星なのか、とアスノは訊ねると。
「星型って、五角形ですよね。ちょうど五人って数が合いますし、『五つでひとつ』と言う意味を込めてみました」
星って安直ですけど、とカンナは言うものの、
「僕は賛成だな」
アスノが一票。
「星か。シンプルで分かりやいし、悪くねぇな」
ソウジも一票。
「カンナちゃんセンスいいね!あたしも賛成ー!」
ショウコも一票。
「ならここはオレも便乗して一票、これで満場一致かな」
最後にジュゲムが一押しして、満場一致。
「で、では、私達五人は、チーム・『エストレージャ』として、出場しましょうっ!」
チーム・エストレージャ。
星の銘を関した凸凹チームが、今ここに誕生した――。