ガンダムビルダーズハイ   作:さくらおにぎり

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6話 デート!?デート?デート!!

 チーム・ブルーローズとのバトルを経た、その日の晩。

 

 スマートフォンでガンプラの投稿サイト『ガンプラグラム』を眺めていたアスノは、ふとRINEの着信に気付く。

 

「(ツキシマさんから?)」

 

 呟きを送ってきたのは、カンナだった。

 それも、グループの方ではなく、個人宛の。

 律儀な彼女のことだ、きっと今日のバトルのお疲れ様でしたを告げに来たのだろう、とアスノは気楽に構えつつ、トーク画面を開いた。

 だがその内容は、アスノの予想とは異なるものだった。

 

 カンナ『こんばんは、アスノさん。突然で申し訳ないのですが、明日の日曜日って予定はありますか?』

 

 アスノ『特にないよ。強いて言うなら、AGE-Iの改造をどうしようか考えるくらいかな』

 

 カンナ『つまり、実質フリーということでしょうか!』

 

 アスノ『まぁそうだけど、それがどうかしたの?』

 

 カンナ『でしたら明日葉』

 

 アスノ『明日葉?』

 

 カンナ『すみません、誤送信してしまいました。明日は、私と一緒にお出かけしませんか?』

 

 アスノ『お出かけ?いいけどどこに行くの?』

 

 カンナ『今日行ったところをゆっくり見て回る、というのはいかがでしょう?』

 

 アスノ『あぁなるほど。今日はゲーセンとケーキ屋しか行ってなかったから』

 

 カンナ『そのとおりです!』

 

 アスノ『分かった。じゃぁ、何時にどこで待ち合わせにする?』

 

 カンナ『十時に、現地の駅前でよろしいでしょうか?』

 

 アスノ『十時だね、OK』

 

 カンナ『ありがとうございます!では、また明日です。おやすみなさい」

 

 アスノ『また明日、おやすみ』

 

 最後に『おやすみなさい』のスタンプを互いに送信し合って、やり取りは終了。

 

 時刻はもうそろそろ日付が切り替わる頃。

 さて明日に備えてもう寝ようと思い――明日の予定を再々度確認する。

 

「…………………アレ?これって、もしかしなくてもデート?」

 

 休日に、男女が二人で、お出かけ。

 実際はそうではないが、傍から見る分には……

 

「(やばい、なんか緊張してきた……!?)」

 

 果たして今夜は眠れるのか、いやそれよりも明日はどうするべきなのか、アスノはベッドの中で悶々とし始めた。

 

 

 

 結局、眠りについたのは明け方頃で、目覚ましのアラームに叩き起されるように起きたアスノ。

 

「今日はアスくん、なんだか眠そうねぇ」

 

 いつもはミカの方が眠そうにしているのだが、今日に限っては逆だった。

 それでもちゃんと朝の家事をこなせるのは、生活習慣が為せる業か。

 

「うん……あぁそうだミカ姉。僕、今日はこれから出かけて、返ってくるのは多分夕方頃になると思う」

 

「そうなの?」

 

「そう。今日はツキシマさん……最近になってチームを組むことになった人と出掛けるんだけど」

 

「………………」

 

 そこまで聞いて、何故かミカは固まった。

 

「ミカ姉?もしもし、起きてる?」

 

 もしや目を開けたまま寝るという器用なことをやっているのかと思ったアスノだったが。

 

「……ア・ス・く・ん?」

 

「は、はいっ」

 

 不意に声のトーンを落として目を細めるミカに、アスノは思わず姿勢を正した。

 

「そう言う大事なことは、お姉ちゃんにもっと早く相談しなさい」

 

「いや、でも。その予定が決まったのって、昨夜だったし。そもそもその時間、ミカ姉寝てたじゃん?」

 

「そんなの起こしてくれたら良かったのよ。アスくんが女の子とデートするなんて聞いたら、眠気なんか吹き飛ぶのにー」

 

 ぶーぶー、とブーたれるミカ。

 

「それで、そのツキシマさんとは、何時にどこで待ち合わせ?」

 

「えぇと、昨日も行ったとこの現地駅前で、十時に待ち合わせ」

 

 待ち合わせ時間を聞き、現在時刻を比較するミカ。

 

「よーし、まだ十分間に合うわね。いいえ、間に合わせます」

 

 いつもの、のほほんとしたミカとはまるで別人のようにキリッと眦を鋭くする。

 

「アスくんの人生初デートのために、お姉ちゃん張り切っちゃうわよー」

 

「いや、なんでそこでミカ姉が張り切る必要があるのさ?」

 

「はいまずはヘアセットから。アスくんは黙って座ってなさい」

 

「アッハイ」

 

 こうなった我が家の長女は絶対に止まらない。

 弟としてそれを知っているアスノは、早々にあきらめて、ミカにされるがままを選択した。

 

 

 

 ヘアセットから始まり、服装のコーディネイトやポケットに仕込むハンカチのデザインまで、厳しい、それはもう大変厳しいチェックを無事にクリアした頃には、もう出なければならない時間もギリギリである。

 

「う〜〜〜〜〜んっ、カ・ン・ペ・キ!これならどこの女の子とデートになっても恥ずかしくない」

 

「ミ、ミカ姉っ、僕もう行くからっ」

 

「そうそう、今日は遅くなってもいいからねー」

 

「ちゃんと夕食時までには帰ってくるから!行ってきます!!」

 

 なんてことを言うのか、この姉は。

 全く……とぼやきながらも、アスノは最寄り駅へ急ぐ。

 

 

 

 昨日も乗った路線の各駅停車の電車に揺られること、三駅ほど。

 

 その途中、電車の窓ガラスに写る自分を見るアスノ。

 

「(パッと見はそんなに変わらないけど、何だか僕が僕じゃないみたいだ。さすがミカ姉……今日の夕飯はミカ姉の好きなものを作ってあげよう)」

 

 ミカに感謝しつつ、スマートフォンの現在時刻と、降車駅の到着予定時刻を照らし合わせても、待ち合わせ時間の十時には余裕で間に合う。むしろ、少しだけ待つくらいだろう。

 

 

 

 ……と、軽く考えつつ電車を降りたアスノであったが。

 

「あっ、アスノさーん!おはようございますー!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 既に、改札前でカンナが身を乗り出さん勢いでぶんぶんと手を振ってくれているではないか。

 それを見て、アスノは慌ててポケットから切符を取り出して改札に通した。

 

「お、おはよう。ツキシマさん、早いね……?」

 

 改札前では邪魔になるので、少し横へずれてから。

 

「はい!今日が楽しみで楽しみで、思わず三十分も早く来てしまいました!」

 

 ものすごく目をキラキラ輝かせてそう宣うカンナ。

 

「……そ、そんなに早くから待ってたの?」

 

「そうですよ。アスノさんが来るまでの三十分間、緊張してたんですからね?」

 

「ご、ごめん。そんなに早くから来てるとは思わなかった」

 

 どうやら少しばかり、カンナと言う女の子を甘く見すぎていたようだ。

 

「いえいえ、ちゃんと間に合わせ時間には間に合ってますから、アスノさんが謝ることはありませんよ」

 

 それにしても……、とカンナはアスノの頭から足先をじっくりと見つめる。

 

「えぇと、どこか変なところとかある?」

 

 ミカを疑うつもりはないが、もしやどこかやり過ぎたのかとアスノは不安になるが、

 

「そんなことありませんっ!」

 

 食い入るようにアスノの言葉を否定するカンナ。

 

「昨日と比べても、髪型や服装もしっかりしていて……いつもの自然な感じもいいですが、こうしてきちっとしているのも、新鮮です」

 

「あ、ありがとう」

 

 自分も何かカンナを褒めなければと、アスノは彼女の髪や服装を見て、必死に言葉を探り出す。

 

「そ、そう言えばツキシマさん、それって夏用の服だよね」

 

「そうですよ」

 

「昨日に着てた服とだいぶ違ってたから……に、似合ってるよ」

 

 アスノとしては、勇気を振り絞った褒め言葉だったが、

 

「ほふっ」

 

 何故か、カンナからはそんな声が漏れた。

 

「保父?」

 

「あ、あぁいぇっ、アスノさんに服を褒めてもらえるとは思っていなくて、思わず脳機能が停止していました……あ、ありがとうございます……」

 

「う、うん」

 

 こんな駅前の往来で、薄桃色の空気全開。

 周囲からは「てぇてぇ……」「リア充、自爆スイッチを押せ」「厚い本厚い本……」「やめろ……見るな……見せるな!!」などと温度差のある言葉を投げ掛けられており、アスノはさすがにまずいと判断する。

 

「さ、さっ、いつまでも駅前にいないで、早く行こうツキシマさんっ」

 

 そして無意識の内にカンナの手を取って先導していく。

 

「おぅふっ!?あ、あ、アスノさんをアスノさんにアスノさんがアスノさんのはわわわわわっ……」

 

 アスノに手を取られて、またもカンナが大変なことになっているのに気づくのは、この後だった。

 

 

 

 カンナを連れて駅前から離れたアスノは、人気が少ないところまで移動する。

 

 周囲の人数も疎らになったところでカンナの手を離そうとするが、

 

「……あの、ツキシマさん?」

 

「は、はい、何でしょう?」

 

「もう手を離しても大丈夫だよ?」

 

 アスノの視線の先が、自身の手と繋がれたカンナの手に向けられる。

 そのアスノの手を、カンナがガッチリ掴んで離さないのだ。

 

「ふぁっ、すすすっ、すみませんっ!」

 

 それに気付いて、カンナは慌てても手を離す。

 アスノがもう少し乙女心を理解出来るなら、彼女が気付くまでは優しく握ってあげていたものを……

 

「で、ではっ、モールに入りましょうっ、ぜひ入りましょう!」

 

「お、おぉー……!」

 

 顔を背けるようにしてモールへ足を向けるカンナに、アスノはなんとか合わせるのが精一杯だ。

 

 

 

 ショッピングモールに入館して、館内の案内板を前に、カンナはアスノに訊ねる。

 

「アスノさんは、どこか目当ての場所はありますか?」

 

「んー……僕は書店とか雑貨屋を見たら十分かな。基本はツキシマさんの好きにしてくれていいよ」

 

「いいのですか?でしたら、お言葉に甘えまして……」

 

 好きにしてくれていい、と言う自分の言葉を、アスノはちょっとだけ後悔することになる。

 

 

 

「アスノさん、これはいかがでしょうっ」

 

 試着室のカーテンを開けて、カンナはアスノにその姿を見せつける。

 

「えぇと、ごめんツキシマさん。似合ってるのは似合ってるけど、さっきとどう違うのか分かりません……」

 

 アスノは、自分のファッションに関する眼力の弱さと、数刻前の自分の発言を後悔していた。

 

 カンナはその「好きにしていい」と言うアスノの言葉の通り、何店もあるブティックを片っ端から見て周り、一店につき数十分もかけて、何着も試着してはアスノに感想を求めるのだ。

 

「アスノさん、ジャーマングレー各種の見分けは出来るのに……」

 

 どう違うか分からないと言うアスノの回答に、カンナは眉の端を落とす。

 

「興味の有る無いの問題だと思う……」

 

 塗料と衣類とでは、比較しようがないのだが。

 仕方なく、カンナは試着室のカーテンを閉じる。元の服に着替えるのだろう。

 

「(こういうの、ミカ姉なら詳しいんだけどなぁ……)」

 

 だからといってミカに同行してもらうわけにはいかないくらいにはアスノも理解している。

 

 

 

 そのブティックを後にして、ちょうどお昼時の少し前頃の時間帯に差し掛かっていたので、早めの昼食も兼ねてどこかで食べようと言う事になった。

 

 実はミカから『デート代』と称したお小遣いをいくらかもらっているアスノは、少し"お高そう"なレストランにしようと考えたのだが、当のカンナが「ハンバーガーにしましょう」と目を輝かせて提案してきたので、断り切れずに駅近くのバーガーショップに並ぶことに(おかげで出来るだけ価格のあるオーダーは出来たが)。

 

 その上、カンナはテイクアウトによる持ち帰りを希望した。

 店内で食べなくていいのかとアスノは懸念したが……

 

「そういえば、こういう公園で座って飲み食いするって、小学校の遠足以来かもしれないな」

 

 ビルとビルの合間に点在するような場所にある公園に来ていた。

 その公園内のベンチに腰掛けて、先程テイクアウトしたものを食べましょう、というのがカンナの提案だった。

 

「たまにはお外で行儀を気にせず、食べたい物を思い切り食べたいと、常々思っておりまして……」

 

 そう言いながらも、カンナはテイクアウトの紙袋を開けて、ホルダーに乗せられたドリンクをベンチに置き、まだ十分温かい大きめのバーガーを取り出す。

 

「ツキシマさんって、家でも礼儀作法とかけっこう厳しいんだ?」

 

「そうなのですっ。小さい頃から、それはもう口うるさく叩き込まれまして……お上品な食べ方なんて、家族の前でする必要が果たしてあるのでしょうかっ!」

 

 ふんす、と憤りを頬をふくらませることで顕すカンナ。

 

「まぁ、家にいる時くらいは、普通に食べたいって気持ちは分かるよ。レストランとかだと周りの目もあるから、なんか緊張するしね」

 

「そう!まさにアスノさんの言う通りですっ!」

 

 包装紙を丁寧に解くカンナ。

 その包装紙の解き方ひとつでも、彼女の育ちの良さが染み付いているのを物語っていると言うべきなのか、いや今は余計なことは言うまい、とアスノも自分のバーガーを取り出す。

 

「というわけで、今日は思いっきりいかせてもらいます」

 

 いただきます。

 

 大きく口を開けて分厚いバーガーにかぶりつくカンナ。

 

「ん〜〜〜〜〜っ、もいひぃれふぅ♪」

 

 幸せそうに味わうカンナのその様子に、アスノもそれを見倣ってみる。

 少なくともカンナよりは食べ慣れているこのバーガーと向き合い、かぶりつく。

 これを食べる時は、ソウジやショウコと一緒に、他の利用客の喧騒の中で食べていたが、そよ風の中、静かな物音と、遠くから聞こえる子ども達のはしゃぐ声の中で食べると言うのは、

 

「うん、なんだかいつもより美味しい気がする」

 

「ですよね、ですよね!」

 

 アスノの素朴な反応に、カンナは嬉しそうに頷く。

 

 

 

 屋外での食事を終えた後は、二人にとってお待ちかねのガンプラの物色だ。

 モール内の家電製品店へと入ろうとして、

 

 ふとカンナはその足を止めて、明後日の方向に目を向けた。

 

「ツキシマさん?」

 

 どうしたのかとアスノも、カンナの視線の先を追う。

 

「……えぇっ、そりゃ困るよ!?もうすぐイベントが始まるのに……」

 

 その先には、若い男性がスマートフォンを耳にして何やら話し込んでいる。

 

 イベントと聞いて、アスノは店頭のポップに気付く。

 

 ポップには『ガンプラ製作体験 君もガンプラを作ってみよう!』と大きく主張している。

 イベントというのはこのことだろうか。

 

「う〜〜〜〜〜ん……分かった、なんとかするしかない。終わったらまた連絡するから……うん、分かった、じゃぁ」

 

 そう言って、スマートフォンでの通話を終えて、大きな溜息をつく。

 

「はぁ、参ったな……」

 

「あの、何かお困りでしょうか?」

 

 そこへ、物怖じせずにカンナが話し掛けに行く。

 

「ん?君は?」

 

 スマートフォンを懐にしまいつつ、男性はカンナに向き直る。

 

「ただの通りすがりです。先程、イベントで何か困っているのを聞いたところで。お手伝い出来ることがあればと」

 

 カンナの申し出を聞いて、男性は考え込むように視線を泳がせ、

 

「……実は、これからここで行われるイベントで、小学生を対象にしたガンプラの製作体験会をするんだけど、トラブルに巻き込まれて欠員が出てしまったんだ」

 

 男性はカンナと、その隣りにいるアスノにも目を向ける。

 

「君達二人、ガンプラを作ったことは?」

 

「もちろんありますし、今も持ってます」

 

「僕もあります」

 

 アスノとカンナのその答えを聞いて、男性もう少しだけ考えて、バッと頭を下げた。

 

「すまないっ。せっかくのデート中なのに申し訳ないけど、どうかイベント進行を手伝ってほしい」

 

「で、デートッ!そそそ、そんな風に見られているのでしょうかっ、わた、私達……!」

 

 デートと言われて、カンナは頬を赤らめて狼狽えている。

 アスノも、カンナと恋人同士と思われて少し愉悦感を覚えるが、今はそれどころではないと思い直す。

 

「分かりました。それで、僕らは何をすればいいですか?」

 

「ありがとう、助かる!スタッフさん達への説明は、俺からしよう。君達には逐一指示するから、それに従ってほしい」

 

 早口で伝える男性は、自分の名前を名乗る。

 

「そうそう、俺は『ナルカミ・ハヤテ』。君達は?」

 

「僕は、イチハラ・アスノです」

 

「ツキシマ・カンナです、よろしくお願いします!」

 

「イチハラ君とツキシマさんだね。よしっ、早速だがまずは付いてきてくれ」

 

 男性――ハヤテのあとに付いていき、見かけた担当者に説明しつつ、スタッフオンリーのバックルームへ入室する。

 

 

 

 今回のガンプラ製作体験会だが、司会進行はハヤテが引き受けて、基本的には彼も一緒になってガンプラを作って見せ、参加者の子ども達もそれに合わせるのだが、ヘルプを頼まれた時にそこへ駆け付ける、と言うのが、アスノとカンナの役割だ。

 また、イベントの途中にちょっとした"ヒーローショー"が行われるとのことで、これに関しては慌てずにハヤテに同調してくれとのこと。

 単なるガンプラ製作体験会にヒーローショーとは何なのか、とアスノとカンナは疑問に思ったが、無茶なアドリブを強いるわけではない、と言うハヤテの言葉を信じる。

 

 予定時刻になり、体験会場には多くの小学生が集まる。

 小学生と言っても、そのほとんどは低学年だ。

 誰も誰もが期待の眼差しを向けてくる中、ハヤテは堂々と躍り出た。

 

「ガンプラ製作体験会に来てくれたみんな!こんにちはぁぁぁぁぁーッ!!」

 

 マイクも使わず、叫ぶように挨拶をしてみせるハヤテ。

 

「「「「こんにちはー!」」」」」

 

 対する参加者たちも皆揃って挨拶を返す。

 

「いいね!みんな元気いっぱいで俺は嬉しいぞ!そして、俺の名前はナルカミ・ハヤテだ!気軽にハヤテ教官と呼んでくれ!みんなよろしくねー!!」

 

「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」

 

 なんともテンションの高い体験会である。

 

「さぁっ、今日ここでみんなに作ってもらうのは、EGの『ガンダム』だ!みんな大好きRX-78だね!ちなみにRX-78っていうのは、ガンダムの型式番号だ!ちゃんと覚えておこうね!」

 

 ハヤテがそういうと、周りのスタッフ達がライトパッケージ版のEGのガンダムのキットを一人ひとりに手渡していく。

 

「よーし、みんなガンプラをもらったね?それじゃぁ早速作ってみよう!」

 

 

 

 ハヤテの説明を交えつつの組み立ては、EG特有の組立てやすさを抜きにしても、とても分かりやすいものだった。

 それでも間違ってしまったものは、ハヤテの他にパーツオープナーを片手に、アスノとカンナがサポートに回る。

 

「(僕もガンプラを初めて作った時は、四苦八苦してたなぁ)」

 

 拙い手付きでニッパーを握り、何度も組み間違えては親に取り外しをしてもらったりと、それはもう苦労したものだ。

 

「はいった!おねーちゃんありがとう!」

 

「ふふっ、どういたしまして♪」

 

 アスノの反対側には、カンナが優しくレクチャーしている。

 

 

 

 製作体験会が開催されて30分が経った頃。

 ハヤテがゆっくりと組み立ててみせたガンダムが完成し、参加者の小学生達も出来た出来たと嬉しそうに掲げてみせる。

 

「よーし!みんなよくやった!ガンプラはこんな感じに作るんだ!今日のガンプラは簡単に作れるキットだけど、中にはこれの三倍の時間はかかる難しいガンプラだってある!でも、慌てずにゆっくり、じっくりと組み立てていけば必ず出来上がる!今日覚えたことを忘れずに……」

 

 すると、突然このブース周辺の電灯が消灯した。

 

「ん、なんだ?急に電気が消えた?」

 

 ハヤテは分かりやすいほどにキョロキョロと見回しているが、どうやら予定していた"ヒーローショー"が始まったらしい、とアスノは読み取った。

 そして、

 

「ぐわははははは!」

 

「この店のガンプラは、ぜーんぶオレ達のモンだ!」

 

 それぞれザクⅡ、ドム、ゲルググの頭部を模した被り物をかぶった、『悪の怪人』が三人ほど現れ、売り場のガンプラを次々に買い物かごに詰め込んでいる。

 なんとも分かりやすい敵役である。

 

「待て!そこのお前達!そのガンプラをどうするつもりだ!」

 

 そこへハヤテが、特撮ヒーローばりのアクロバティックなアクションをキメながら駆け付ける。

 

「あぁん?なんだお前は!」

 

 ザクⅡ頭がやけにハキハキとした声で応じる。それに合わせてモノアイがチカチカと発光しているのも、細かい芸だ。

 

「俺はナルカミ・ハヤテだ!そんなにいっぺんに買ったら、他のお客さんが買えなくなるじゃないか!」

 

「うるせぇ!お前が誰だか知らねぇが、これはオレ達のモンだ!」

 

 今度はドム頭が強気で食ってかかって来る。

 

「ガンプラが欲しいのはお前達だけじゃない!欲しい気持ちは分かるが、何も全部買い占めることは無いはずだ!」

 

 ハヤテの"正義の味方"を見せ付ける言葉に、ゲルググ頭も応じる。

 

「偉そうなこと言いやがって!そんなに言うなら、ガンプラバトルでケリを付けてやろうじゃねぇか!」

 

 ゲルググ頭の指した先には、このブースのすぐ近くにあるGPVSの筐体。ちょうど、六人分用意されてスタンバイしている。

 

「望むところだ!俺が勝ったら、その自分勝手な買い占めを今すぐやめてもらう!」

 

「(いや、なんでそこでガンプラバトルで決めるんだ)」

 

 アスノは声にせずにツッコミを入れる。あくまでもこれは余興なので、そういう筋書きなのだ。

 

「いいぜ!その代わりオレ達が買ったら、お前はここから出て行きな!」

 

 ザクⅡ頭が条件を付け、ハヤテが「いいだろう!」と頷く。

 

 そして三人の悪の怪人は、それぞれ懐からガンプラを取り出し、見せつけるように突き出す。

 ザクⅡ頭が『ザクⅢ改』、ドム頭が『アルケーガンダム』、ゲルググ頭が『ガンダムキマリスヴィダール』のようで、いずれも丁寧に仕上げられているのが一目で分かる。

 

「クックックッ、オレ達のガンプラはしっかり塗装も改造もしているんだ!ここにいるガキどものガンプラなんかじゃぁ、太刀打ち出来ねぇな!」

 

「ぬっ、この完成度!?さすがに俺一人じゃ厳しいか……!」

 

 やや大袈裟に、一歩退いてみせるハヤテ。

 すると、スタッフがアスノとカンナの元へ駆け寄って、彼に耳打ちをする。

 

「ナルカミさんに味方してください」

 

「あ、はい」

 

 アスノが頷いたところで、カンナがつかつかとハヤテの元へ向かう。

 

「待ちなさい!このガンプラバトル、私も参戦させていただきます!無作為な買い占めは、このツキシマ・カンナが許しませんッ!」

 

 声にも真剣味を帯びさせて、力強い身振り手振りで演じるカンナ。ノリノリである。

 

「……なら、僕も一緒に戦うぞ!この店のガンプラは、僕達が守って見せる!」

 

 脳内に幼児向けのアンパンなヒーローを浮かべつつ、アスノも努めて熱血的に演技する。

 

「おぉっ、心強い!これで三対三だ!」

 

 ハヤテも腰のポーチから、そのガンプラを見せつけてみせる。

 全身を黒く染められ、銀色の差し色が加えられ、背中には複数の手裏剣を背負ったような外観。

 それは『才蔵ガンダムデルタカイ』をベースにしているらしい、SDガンダムの改造機だ。

 

「この俺のガンプラ、『黒影丸 』が!お前達の好きにはさせんぞ!」

 

 

 

 オフラインモードの3on3フリーバトルに設定され、アスノ、カンナ、ハヤテの三人は筐体に各々のガンプラを読み込ませていく。

 

 ランダムステージセレクトは『CGS基地郊外』を選択。

 原典は『鉄血のオルフェンズ』からで、ギャラルホルンのクランク・ゼントがグレイズ単騎で、火星のCGS(鉄華団の前身組織)に決闘を申し込む場面の再現なため、夕暮れの荒野のフィールドだ。

 

 オールグリーンを確認、出撃シークエンスが行われる。

 

「イチハラ・アスノ、ガンダムAGE-I、行きます!」

 

「ツキシマ・カンナ、ライジングガンダム、参ります!」

 

「ナルカミ・ハヤテ、黒影丸、行くぞォォォォォッ!!」

 

 

 

 再現されたリニアカタパルトに打ち出され、三機は火星の大地へ降り立つ。

 

 すぐにハヤテの方から、接触通信が行われる。

 

「向こうの三人は俺の知り合いだ。手加減して戦ってくれるから、遠慮なく倒してくれ」

 

 なるほど、このバトルも演技のひとつらしい。

 

「分かりました」

 

「お任せ下さいっ」

 

 打ち合わせを終えると、それを待っていたように、ザクⅢ改、アルケーガンダム、ガンダムキマリスヴィダールがゆっくりとした速度でやって来る。

 

「俺がザクⅢ改に回る。残る二つは君達に任せるよ」

 

 ハヤテはそう言い残して黒影丸を加速させて、ザクⅢ改へ向かう。

 それを見送りつつ、アスノはカンナと通信回線を合わせる。

 

「ツキシマさん、どっちとやる?」

 

「では、私がキマリスヴィダールを。アスノさんはアルケーをお願いします」

 

「了解」

 

 それぞれの相手にロックオンカーソルを合わせると、向こうもそれに合わせてきた。

 

『このオレのアルケーガンダムが、お前をぎっちょんぎっちょんにしてやるよ!』

 

 アルケーガンダムはGNバスターソードライフルを向けて、ビームを連射してくる。

 が、それらは散発的で狙いも甘く、ガンダムAGE-Iには当たらず足元に着弾、砂煙が巻きおこる。

 なるほど、攻撃そのものは大したこと無いが、派手に撃っているように見える。

 

「(遠慮なくやってくれと言ってたし……まぁ、倒すつもりでやろう)」

 

 アスノはガンダムAGE-Iのシールドを構えつつ砂煙を突破し、目視でアルケーガンダムの姿を捉えつつウェポンセレクターからドッズライフルを選択、素早く照準を合わせて射撃。

 するとアルケーガンダムも反応して回避はするものの、わざと左腕を撃ち抜かれるように動いた。

 

『ぐおぉっ、腕が一発でやられるとは、なんて火力してやがるんだ!?』

 

 肩口から左腕を失ったアルケーガンダムは、怯んだように後退る。

 

「仕留める!」

 

 アスノはウェポンセレクターを回し、ドッズライフルからビームサーベルに切り替える。

 サイドスカートからビームサーベルを抜き放ったガンダムAGE-Iは、アルケーガンダム目掛けて突撃する。

 斬りつけようと振り翳すガンダムAGE-Iに対し、アルケーガンダムはGNバスターソードのライフルモードを解除、本来のバスターソードに変形させて、ビームサーベルを受け、弾き返す。

 

『バカめ!こっちにもあるんだよ!』

 

 反撃のつもりか、アルケーガンダムは左脚の爪先からGNビームサーベルを発振させ、わざと一拍置いてから緩慢な動きで蹴り付けようとしてくる。

 

「遅い!」

 

 アスノも演技を合わせ、アルケーガンダムのGNビームサーベルをシールドで受け流してみせる。

 

『受け流しただと!?』

 

「行っけぇぇぇぇぇッ!」 

 

 受け流して即座に、ガンダムAGE-Iは再びビームサーベルを上段から振り下ろしながら斬り抜け、アルケーガンダムのボディを真っ二つに斬り裂いた。

 

『バカなぁぁぁぁぁ!?』

 

 背部のコアファイター諸とも斬り裂かれたアルケーガンダムは、疑似GN粒子を撒き散らしながら四散していった。

 

 アルケーガンダム、撃墜。

 

 

 

 同じ頃、カンナのライジングガンダムも、ガンダムキマリスヴィダールと交戦を開始していた。

 

『喰らえ!』

 

 ガンダムキマリスヴィダールは、ドリルランスを腰溜めに構えながら、やや速いくらいの速度のホバー機動でライジングガンダムへ突進する。

 対するライジングガンダムは、ビームガンとマシンキャノンを連射して迎え撃つが、ナノラミネートアーマーの恩恵に守られたガンダムキマリスヴィダールの突進は止まらない。

 

『そんなものが、このキマリスヴィダールに通じるかよ!』

 

 速度をそのままに、ライジングガンダムへ迫るガンダムキマリスヴィダール。

 ライジングガンダムはビームガンを捨て、ライジングシールドを腕部から切り離し、ビームボウの射出体勢に入る。

 が、まだビームの弦は引き絞らず、バルカン砲とマシンキャノンで牽制を続ける。

 ガンダムキマリスヴィダールのドリルランスがライジングガンダムを貫く、その寸前にカンナは操縦桿を跳ね上げてライジングガンダムを跳躍させ、ガンダムキマリスヴィダールの頭上を飛び越えるようにやり過ごす。

 

『なにィ!?』

 

 勢いを殺すために、ガンダムキマリスヴィダールはゆっくりと速度を落としながら振り返り――

 振り返った先には、既にライジングガンダムのビームボウの砲口から、ビームの矢が集束している。

 

「必殺必中ッ、ライジングアロー!!」

 

 引き絞られた指向性の粒子線が弾け、光速のビームの矢がガンダムキマリスヴィダール目掛けて放たれ、

 その一矢は、ナノラミネートアーマーすら貫通させてみせる。

 

『な、何故だぁぁぁぁぁ!?』

 

 コクピットブロックを射貫かれたガンダムキマリスヴィダールは、その場で膝を折り、火星の大地に横たわった。

 

 ガンダムキマリスヴィダール、撃墜。

 

 

 

 さらにもう一方では、ハヤテの黒影丸がザクⅢ改に挑みかかっていた。

 黒影丸の両手に握るのは『荀彧ストライクノワール』の武装を改造した双銃剣『無明閃 』。

 

「そぉりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃァ!」

 

 目にも止まらぬ二丁拳銃の連射が、ザクⅢ改にビーム弾の嵐を浴びせつける。

 

『クソォ、なめやがって!』

 

 ザクⅢ改もビームライフルを撃ち返すものの、黒影丸は距離を詰めながらも無明閃でビームを斬り弾いていく。

 

「そこだァッ!」

 

 黒影丸は、両手の無明閃を頭上へ放り投げると、背部に備えている大型手裏剣『颶風刃』を手にして投擲、大気切り裂く六文字手裏剣はザクⅢ改のビームライフルを右腕ごと斬り裂く。

 

『ぐわぁっ!?』

 

 ビームライフルの爆発に仰け反るザクⅢ改。

 

『まだだ、まだ終わらんよ!』

 

 クワトロ・バジーナの名言を口走りつつ、ザクⅢ改は左マニピュレーターにビームサーベルを抜き放ち、黒影丸へ迫る。

 

「その粋や良し!ならば俺も全力で応えよう!」

 

 放り投げた無明閃をキャッチし、再び取る黒影丸。

 そしてハヤテはウェポンセレクターを回し『SP』と表示されたそれを選択した。

 

「これで決めてやるッ!」

 

 すると、黒影丸は無明閃を水平に構え、その場で高速回転を開始し――やがてそれは"黒い竜巻"となる。

 

『こ、この気迫は……何なんだ!?』

 

 ザクⅢ改は加速を停止して脚を止める。

 

「秘技・『無影旋風斬 』!!」

 

 黒い竜巻そのものとなった黒影丸はザクⅢ改へ突進、巻き込んでいく。

 

『がぁぁぁぁぁッ!?』

 

 ズタズタに斬り裂かれたザクⅢ改は天高く打ち上げられ、高速回転を終えた黒影丸は着地。

 

 カキンッ、と言う小気味よい音と共に無明閃が背部へ納められると、同時にザクⅢ改が派手に爆散していった。

 

 ザクⅢ改、撃墜。

 

『Battle ended』

 

[newpage]

 

 バトルが終了し、子ども達が歓声を上げて喜ぶ中、怪人達はその場で崩れ落ちた。

 

「な、何故だ……俺達はただ、欲しいガンプラを取られたく無かっただけなのに!」

 

 ザクⅡ頭が、悔しげに握り拳で床を叩く。

 

「それは、どういうことだ?」

 

 子ども達の声援に応えていたハヤテは、項垂れる怪人達の前に立つ。

 

「お前に分かるものか!ずっと欲しかったガンプラが、目の前で売り切れるのを見過ごすしか出来なかった、俺達の悔しさが!」

 

「やっと、やっと買えると思ったのに、またお預けだぞ!?」

 

「そうだ!ガンプラが欲しいのは、俺達だって同じだ!」

 

 怪人達は膝を着きながらも、ハヤテに自分達の思いを吐き出す(演技ではあるのだが)。

 

「……そうか。そうだったんだな」

 

 するとハヤテはザクⅡ頭の前で屈み込み、視線の高さを合わせる。

 

「その気持ちは、俺にもよく分かる。欲しくてたまらないガンプラが目の前で売り切れたら、そりゃあ悔しい。俺も、何度泣きそうになったことか……」

 

 だけどね、とザクⅡ頭の肩に手を置く。

 

「悔しいからって、腹いせに他の人達に迷惑をかけてもいいわけじゃない」

 

「でもよぉ!」

 

 

 

「ガンプラは、平等だ」

 

 

 

 ハヤテは強く、優しくそう言ってのける。

 

「今日ここで買えなかったら、また明日、別のお店に行けばいい。どこに行っても無いのなら、次の再販を辛抱強く待つんだ。悔しいのは、君達だけじゃない。悔しさを胸にしまい込んで、再販を待っているのは、みんな同じだ」

 

「ガンプラは、平等だ……」

 

 ドム頭がそれを反芻し、

 

「悔しいのは、みんな同じ……」

 

 ゲルググ頭も理解するように呟く。

 

「俺達は、やっちゃいけないことを、やろうとしていたんだな」

 

 ザクⅡ頭はモノアイを光らせると、立ち上がった。

 そして、子ども達の前で頭を下げた。

 

「みんな、ごめんな!」

 

 それに倣うように、ドム頭とゲルググ頭も頭を下げる。

 

「俺達が悪かった!」

 

「もう、こんなことは二度としない!」

 

 怪人三人が改心を見せたところで、ハヤテは大きく頷いた。

 

「よーしいいだろう!みんな!彼らを許してあげてもいいかな!?」

 

 そう問い掛ければ、「いいよー!」「ルール守れよー!」「顔見せてー!」と次々に、許す声が上がる。一部は何か違うが。

 

「「「みんなありがとー!」」」

 

 怪人達はもう一度頭を下げてから、買い物かごに詰め込んでいたガンプラを棚に戻し、それぞれひとつだけ手にしてレジへ持っていく。

 

「予想外のアクシデントだったけど、一件落着だ!さぁ、今日からみんなも、レッツ・ビルド!!」

 

 ハヤテのその言葉を締めくくりに、製作体験会は子ども達の声援に包まれて無事に閉幕を迎えた。

 

 

 

 スタッフオンリールームに連れてこられたアスノとカンナに、ハヤテは深く頭を下げた。

 

「君達のおかげで、イベントは無事に成功できた。本当にありがとう!」

 

「いえいえ、お役に立てたなら何よりです」

 

 カンナは笑顔で謙遜しつつ応じる。

 

「僕らも楽しかったですし、ガンプラを作っているみんなを見ていて、初心に帰っていました」

 

 アスノも頷く。

 

「そう言ってくれると助かるよ。……あぁ、そうだ」

 

 するとハヤテは、自分の財布から千円札を四枚ほど抜き取ると、ニ枚ずつにして二人に差し出した。

 

「今日のお礼と、デートの邪魔をしたお詫びだ。受け取って欲しい」

 

「えぇっ、そんな、受け取れませんよ!?」

 

 いきなり現金を差し出されて、アスノは慌てて拒否しようとするものの、

 

「アスノさん、ハヤテ教官は厚意で受け取って欲しいと言っているのですから、ここはありがたく頂戴しましょう」

 

 意外にも冷静なカンナは、ハヤテに「ありがとうございます」と一礼してから、お札を受け取る。

 

「え、えーっと……じゃ、じゃぁ、ありがとうございます……」

 

 カンナに倣うように、アスノも腰を引かせながらお札を受け取る。

 

「っと、それじゃぁ俺はこれから身内に電話しないとならないから、またね!」

 

 

 

 予想外の収入を得ながらも、アスノとカンナはガンプラのコーナーを見て回り、それぞれが買いたいものを購入した頃には、もう夕暮れ時が近付いていた。

 時刻を確認しても、少なくともアスノはミカのためにも遅くなるわけにはいかない時間帯だ。

 

「そろそろ帰ろっか。ツキシマさんも、門限とがありそうだし」

 

「そう、ですね……」

 

 帰らなくてはならないと言われ、カンナは気を落とす。

 出来ることならもう少し……と言いたいところだが、中学生が夜遅くまで出歩いていいものではないだろう。

 

 

 

 ショッピングモールを後にして、今朝も乗ってきた電車に乗車する。

 この時間帯の乗客は疎らで、今いる車両にはアスノとカンナの二人しかいなかった。

 

「今日は、楽しかったよ。誘ってくれてありがとう、ツキシマさん」

 

「私も、今日はたくさん試着しましたし、普段は食べられないハンバーガーもいっぱい食べましたし、イベントのお手伝いもしましたし、とても楽しい一日でした」

 

 しかし、カンナの表情は先程から浮かないままだ。

 

「まだ……まだ、帰りたくないのに……」

 

 帰りたくないのに、と言われて「じゃぁこのまま夜遊びにでも行こっか」とはアスノも言えない。

 

「アスノさんに……まだ……、……のに……」

 

「ツキシマ、さん……?」

 

 ふと。

 

 アスノはこの光景に何故か既視感を覚えていた。

 そう、この夕闇に染まる電車の中を、いつか前に見たことがあった。

 

 そうだ、ちょうどこの時間帯、この席に女の子が泣いていて――

 

「………………あ」

 

 不思議と、その朧気な記憶の中にいた少女と、カンナの姿が重なった。

 

 あの時――ソウジとショウコとの三人でつるんでいた時に、泣きそうな顔をした少女がいて……

 

「もし、かして……ツキシマさんは、あの時の……」

 

「やっと……やっと、思い出してくれたんですね」

 

 そう言って、カンナはポケットに手を入れて、一枚のハンカチを取り出した。

 

「これは……僕が持ってたハンカチ?」

 

 こくりと頷いて、カンナは過去を紐解いた。

 

「半年前のちょうどこの時、私は親に反発して、無謀な家出をしていました。ですが、頭が冷えた時には全く知らない駅にいて、帰るに帰れなくなり、どうすればいいか分からずに泣いてしまい……その時私の目の前にいたのが、ショウコさんとキタオオジさんと一緒に楽しそうにしている、アスノさんでした。私に気付いたのはアスノさんだけで、何も言わずにこのハンカチを差し出してくれて、そのまま去っていったのです」

 

 何故アスノの名前を知っていたのかは、その時に三人の会話から聞き取っていた、ということらしい。

 

「いつか必ず……アスノさんが、あの日のことを思い出した時に、返そうと思っていました」

 

 取り出したそれをそっと差し出すカンナに、アスノは受け取った。

 

「やっと、今日やっと、返せる日が来ました」

 

 安堵に、両手を胸に添えるカンナ。

 安堵から、意を決したように瞳を開く。

 

「アスノさん。私は……」

 

 カンナが何かを伝えようとした、その刹那。

 

 甲高い金属音と、急な震動がそれを遮った。

 

『ご乗車のお客様、大変失礼致しました。踏切の非常停止ボタンを確認したため、やむを得ず急停車しました。再発車まで、今しばらくお待ちくださいませ』

 

 車掌のアナウンスが流れる。

 

 ――なんと、タイミングの悪いことか――

 

「……ふぅ、びっくりしてしまいましたね」

 

「う、うん……」

 

「…………」

 

「……」

 

 

 

 それから、二人の間で言葉が交わされることはなく、アスノの最寄り駅が近付いてきたため、彼はそこで降りる。

 

「じゃぁ、ツキシマさん。また明日、学園でね」

 

「はい、また明日です、アスノさん」

 

 互いに軽く手を振り合って、アスノは駅のホームから改札へ向かう。

 

「(もしかしてツキシマさんは、僕のことが……)」

 

 いいやそれは妄想が先走り過ぎだろう、と思い直す。

 それに今のは告白ではなく、もっと別のことを伝えたかったのかもしれない。

 

「っと、買い物にも行っておかないと……」

 

 敢えてそう声にして、アスノは近場のスーパーへ向かった。

 カンナがあの時、何を伝えようとしたのかは、考えないように。

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