ガンダムビルダーズハイ   作:さくらおにぎり

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 ※今回はバトルシーンにて、AIユニットとバトルすることになります。
 その際に登場する名前は、Pixivのみに投稿している小説作品のキャラクターも含まれます。


7話 試練は過去からやって来る

 アスノとカンナのデート(?)を終えて、週明け月曜日。

 いつも通りに朝のひと時を過ごしたアスノは、あることを脳裏に浮かべながら投稿していた。

 

 それは昨日の、夕暮れの電車の中で座る、何かを決意して告げようとした、カンナの真剣な顔。

 

「(ツキシマさんは、僕のことが……いや、そもそも僕は、あそこでもし告白されたとしたら、何て答えたんだろう?)」

 

 素直に気持ちを受け入れたのか、急過ぎると拒絶したのか、返事を待ってほしいと煙に巻いたのか、有耶無耶なままにしたのか……

 しかし全てはあとの祭りだ、昨日のことを今日考えても、都合のいいことばかりが思い浮かび、そんな自分に自己嫌悪したくなる。

 

「なーに朝からシケてそうな雰囲気出してんだ、よっ!」

 

「ノブッシ!?」

 

 意識がぼんやりとしていた後ろから、ソウジの声と背中を叩かれた衝撃と驚愕に、アスノは思わずネオジャパンの軍用MSの名をこぼす。

 

「……ノブッシ?」

 

 何故そこでノブッシなのかと、ソウジは瞬きを繰り返す。

 

「あ、ぁ?あぁ、おはようソウジ」

 

「はよっす。朝からどうしたんだ?」

 

 隣につくソウジは、様子のおかしいアスノにどうしたのかと尋ねる。

 

「えーと……」

 

 アスノ自身、これを言うべきか迷った。

 

 もし今ここで「ツキシマさんって僕のことが好きなんだろうか?」とソウジに相談したらどう答えられるか。

 

 十中八九、「お前寝ぼけてんじゃね?」と真顔で言われるだけだろうな、と即座に結論が出た。

 

「その、ツキシマさんって、ライジングガンダムが好きなのかなって」

 

 結局、そんな風に誤魔化した。

 

「いや、それを俺に訊かれてもな。まぁ、GPVSにも使ってるくらいだし、好きなんじゃねぇか?」

 

 それは遠回しに「ツキシマはお前のことが好きなんじゃねぇか?」と言われたような気がしなくもないが、この場合は"好き"の方向とベクトルが異なる。

 

「そ、そっか」

 

「なんか変なこと訊く奴だな、お前……」

 

 呆れるソウジだが、ともかく誤魔化しには成功した模様。

 そろそろすれば、ショウコと、その次にカンナとも合流出来る頃合いだ。

 

「ってか話は変わるけどよ、もう六月ってことは、そろそろ梅雨の時期なんだよなぁ」

 

 こんだけ晴れてるのに雨とか有り得ねー、とソウジは空を仰いでぼやく。

 

「今日の天気予報でも、夕方からは雨みたいだしね」

 

「夕立がそのまま雨になるってか?降る前に帰っておきてぇな」

 

「僕は折りたたみ傘があるから、降っても大丈夫だけど……」

 

「マジかよ用意周到過ぎかよ」

 

 他愛のない話を続けながら、ショウコと、その後に続くカンナとの合流を待つ二人であった。

 

 

 

 見た目だけなら普段と何も変わらない、授業の光景。

 アスノも、いつもならまともに授業を受けているのだが、今日はそうもいかなかった。

 

「(今朝に会ったときも、何事も無かったかのようだし……やっぱり昨日のあの時、ツキシマさんは僕に告白するつもりじゃなかったのか?)」

 

 シャーペンの進む手は滞り、教師の声も耳を掠めるだけ。

 

「………………」

 

 考えても考えても、自分にとって都合のいい解釈ばかりが頭に浮かぶばかりだ。

 ふとアスノは、無意識に視線を左に向け――

 

 カンナと目があった。

 

 その彼女はニコリと微笑みを返すだけ。

 

「!」

 

 アスノは慌てて視線を前に戻す。

 幸い、教師の目は黒板に向いていたようで、彼のカンナの覗き見はバレなかった模様。

 

 

 

 昼休み。

 さていつもの四人でミーティングとは名ばかりの集まりと洒落込むところであったが。

 

「アスノ、ちょっと付き合えよ」

 

 購買部から戻ってきたソウジが、アスノにそう声をかけた。

 

「え、いいけど。ショウコとツキシマさんはいいの?」

 

 アスノの視線が、女子二人に向けられる。

 その二人も、急にどうしたのかと、男子二人を見比べている。

 

「たまには男同士で話さなきゃならねぇこともあんだよ」

 

 いいから来いよ、と半ばソウジに引き摺られるように歩かされるアスノ。

 

「うわ、引っ張るなよ……ごめん二人ともー!」

 

 アスノは引かれながらも女子二人に軽く手を振る。

 何があったのかと、カンナとショウコは顔を合わせるだけだった。

 

 

 

 中庭のベンチの、一番端まで連れて来られたアスノ。

 ソウジが座るのを見て、彼も隣に座る。

 

「それで、男同士で話さなきゃならないことって?」

 

 連れて来られた理由であるそれを問い掛けるアスノ。

 

「そうだな……」

 

 ソウジは言葉を選ぶような間をおいてから、話し始める。

 

「ショウコとツキシマ」

 

「え?」

 

 いきなり女子二人の名前が出てきて、アスノはなおのことその意図が読めずに困惑する。

 

「もし、その二人から同時にコクられたら、お前ならどっちを選ぶよ?」

 

「と、突拍子無さすぎだよ……え、えぇ?何その、究極の選択」

 

「茶化すなよ。こっちは真面目に訊いてんだ」

 

 ソウジは声音こそいつも通りだったが、付き合いの長いアスノは、その声音から『いつもと違う』ことを感じ取っている。

 

「ショウコとツキシマさん、「どっちを恋人にしたいか?」って質問……で、合ってるよね?」

 

 念のために確認して、それに黙って頷くソウジ。

 

「んー……」

 

 難解。

 二択しかない選択肢で、この先の運命を決めかねない……そんな予感があった。

 ソウジも急かしたりはしない、ただ待っている。

 

「正直……今ここでどっちかハッキリ決めるって言うのは無理だよ。例えの理想論でも」

 

「……そうか」

 

 アスノの答えはどちらでもなかった。

 けれどソウジはそこで不満を見せることなく頷いた。

 

「そういう、ソウジは?」

 

 自分が答えたのだからそっちも答えろ、とアスノは言う。

 

「……秘密だ」

 

「何だよそれ?」

 

 ソウジのことだからはっきりした答えが来ると――どっちかは分からなかったが――思っていただけに、この答えは拍子抜けだ。

 

「秘密は秘密だ。男同士でも言えねぇことはある」

 

「そういう言い方、ズルいと思うんだけど?」

 

「ほっとけ。お前だって似たようなもんだろうが」

 

「……」

 

 そう言われると返せない。

 結局この話題の結論は、どちらも有耶無耶にするしか無かった。

 

 

 

 放課後は、四人の都合を擦り合わせつつ、ジュゲムもオンラインで参加してくれるとのことで、今日はGPVSに最近追加されたという新たなモードを試してみることになった。

 

「で、その新しいモードって言うのは?」

 

 ショウコは、公式サイトを見ているソウジにそれを訊ねる。

 

「っとな、過去にGPVSで優秀な結果を残したバトラーのデータをコピーした、AIと戦える機能らしいな」

 

 尤も、データを元にしたAIなので、その当時のバトラーには及ばないらしいが。

 

「ということは、アカバさんのデータもあるのかな?」

 

 アスノは、擬似的にとはいえあのドムソヴィニオンと戦えるのではないかと期待する。

 

「先行実装版だから、その辺は実際に見てみねぇと分からねぇな」

 

 いつもの『鎚頭』の看板が見えてきた。

 

 

 

 名瀬さんとアミダ姐さんに挨拶をしたら、早速バトルブースを使わせてもらい、RINEでジュゲムとも連絡を取りつつ、オンラインモードで新機能『黒歴史モード』という項目を選択する。

 

 アスノ達四人と、ジュゲムとが同期し、通信が繫がる。

 

「あーあー、こちらジュゲム。通信状態、良好なり」

 

「よーし、繋がったな。んじゃ、早速やってみますか」

 

 ジュゲムとの通信状態を確認してから、ソウジは黒歴史モードを設定していく。

 

 誰のAIと戦うかを設定することも出来るようだが、残念ながらアカバ・ユウイチのデータは項目に無かった。

 よって、ランダムで決めることになる。

 

 ・Arima hibiki

 

 ・Aria fon arcanecie asuna

 

 ・Minazuki sumer

 

 ・Ichinose yui

 

 ・Oyama koudai

 

 以上の五名と戦うことになるが、アスノ達にとってはいずれも知らない名前だ。

 

 ランダムフィールドセレクトは『アイランド・イーズ』を選択。

 原典作品は『0083』からで、地球へのコロニー落としを目論むデラーズ・フリート、それを阻止すべく迎え撃つ連邦軍という構図だが、さらにデラーズ・フリートを裏切ったシーマ・ガラハウにより、混沌とした戦場となっていく。

 

 GPVS上では、地球を背景としたシンプルな宇宙空間での戦闘になる。

 

 出撃準備完了、オールグリーンを確認。

 

「イチハラ・アスノ、ガンダムAGE-I、行きます!」

 

「ツキシマ・カンナ、ライジングガンダム、参ります!」

 

「キタオオジ・ソウジ、ガンダムアスタロトブルーム、行っとくか!」

 

「コニシ・ショウコ、プリンセスルージュ、レッツゴー!」

 

「ジュゲム、ダーティワーカー、仕事の時間だ」

 

 一斉にリニアカタパルトに打ち出される、チーム・エストレージャの面々。

 

 

 

 出撃してすぐに、ジュゲムはセンサー範囲を広げて索敵する。

 

「さてさて、まずは何を仕掛けてくるか……」

 

 彼がそう呟いた瞬間、アラートが鳴り響き――直後、彼方から一筋のビームが放たれてくる。

 先頭に位置するソウジのガンダムアスタロトブルームは、それを躱す。

 一拍を置いて、今度は一対の砲弾が飛来するが、ソウジはこれも回避。

 

「キャノンタイプがいるみてぇだな」

 

『ガンキャノン』か、あるいはそれら派生機がいるのだろうと読み取るソウジ。

 ビームと砲弾による狼煙が上がり――敵対反応が三つ、急速に近付いてくる。

 

 迫りくるは、『ソードインパルスガンダム』、『ガンダムアストレア』、第四形態の『ガンダムバルバトス』の三機。

 いずれも、近接戦闘で高い攻撃力を持つ機体だ。

 

 その内、ガンダムバルバトスはその場に留まり、背部のサブアームと連結された滑腔砲を展開、大口径の砲弾を発射してくる。

 先程の砲弾は、あの滑腔砲によるものかもしれない。

 

 ソードインパルスガンダムは、その特徴的なレーザー対艦刀『エクスカリバー』を両手に抜き放っての二刀流となり、ガンダムアストレアも右腕に備えた『プロトGNソード』を構えて突進してくる。

 

「インパルスはイチハラ君、アストレアはキタオオジ君でそれぞれマークだ。コニシちゃんはバルバトスを頼むよ。ツキシマちゃんはオレと後衛のキャノンともう一機を捕捉だ」

 

 戦況を読み取り、素早く指示を出すジュゲム。

 ガンダムアスタロトブルームはハンドガンを撃ちながらガンダムアストレアへ挑み、ガンダムAGE-Iはソードインパルスガンダムに攻撃を仕掛け、プリンセスルージュはガンダムバルバトスへ向かう。

 

 ライジングガンダムとダーティワーカーはそれらの間をすり抜けて、離れた位置にいるもう二機を補足する。

 

『ケルディムガンダム【GNHW/R】』と、『ガンキャノン』だ。

 

 狙撃機と砲撃機が並んで先制射撃を行ってきたらしい。

 捕捉されたと気付いたケルディムガンダムは、すぐにGNライフルビットとGNシールドビットをアサルトモードで展開、接近を阻むように弾幕を展開し、その隙間からガンキャノンがビームライフルと肩部キャノンを正確に撃ち込んでくる。

 

「こ、これでは近付けません……」

 

「んー、こりゃキツい。ケルディムのビットが止むまでは様子見だな」

 

 適度に撃ち返しつつ、弾幕をやり過ごすカンナとジュゲム。

 

 

 

「くっ、そっ!これじゃ反撃出来ないッ……!」

 

 ソードインパルスガンダムの、二刀のエクスカリバーによる暴風のような斬撃の前に、アスノは防戦一方だ。

 長大なレーザー対艦刀を荒々しく振り回し、時には連結させて勢いに任せた乱撃は息つく暇すら与えさせてくれない。

 ドッズライフルで狙い撃ちにしている暇などない、同じくビームサーベルを二丁抜いて、どうにか対抗するものの、向こうの反応速度は恐ろしく速い、まるで先読みでもしているかのようだ。

 そして、僅かでも隙を見せればエクスカリバーを突き込んでくる。

 とにかくイニシアティブを取り直さなければ、とアスノは思い切り操縦桿を引き倒してガンダムAGE-Iを急速後退させる。

 しかし対するソードインパルスガンダムは瞬時に反応、連結させたエクスカリバーを振りかぶって――それを回転させながら投げつけて来た。

 しかも、その上から高エネルギービームライフルを連続で撃ち込んでくる。

 ビームの火線が回転するビーム刃と衝突、まるで追い掛けるかのように追尾して襲い掛かる。

 

「なんて攻撃のし方だ!?」

 

 ビームコンフューズならまだしも、連結したエクスカリバーをビームライフルで射撃して敵機に誘導するなど、人間業ではない。

 

「うっ、うわっ……」

 

 アスノは咄嗟にシールドでエクスカリバーを防ごうとするものの、艦艇すら叩き斬る破壊力を誇るレーザー対艦刀だ、単なるシールドで防ぎきれるはずもなく、ガンダムAGE-Iはシールドもろとも左腕を失ってしまう。

 

 

 

 アスノが大苦戦している一方で、ソウジもまた大苦戦している。

 

「クソッタレっ、身軽過ぎんだろうが……ッ!」

 

 ガンダムアスタロトブルームはデモリッションナイフを叩き込もうと振りかぶるものの、ガンダムアストレアはひらりふわりと舞うように宇宙空間を機動し、掠りもしない。

 デモリッションナイフによる斬撃を諦めて、ハンドガンとナイフによる至近接戦闘に持ち込もうとすれば、プロトGNソードで斬り込んでくる。

 デモリッションナイフを使おうとすれば回避に徹し、ハンドガンとナイフではプロトGNソードに対応しきれない。

 

「バルバトスの太刀でも用意すりゃ良かったか……いや、無いもん強請りはナシだ!」

 

 ソウジはウェポンセレクターを回し、デモリッションナイフを一度背部に納め、ナイフ二丁によるインファイトを敢行する。

 ガンダムアストレアもプロトGNソードによる格闘戦を仕掛けてくる。

 ガギンガギンとナイフとプロトGNソードが打ち合うものの、質量の差によって打ち負けているのはガンダムアスタロトブルームの方だ。

 反撃に右のナイフを突きだすガンダムアスタロトブルームだが、ガンダムアストレアは首を捻るような動作でナイフの切っ先を躱し、即座に反撃のプロトGNソードが一閃。

 ガンダムアスタロトブルームは右腕を斬り落とされてしまう。

 

「こ、な、くそがぁっ……!」

 

 

 

 ショウコのプリンセスルージュは、ガンダムバルバトスの滑腔砲による砲撃を掻い潜って、接近戦に持ち込む。

 持ち込んだのはいいのだが、

 

「ひぇっ、ひぇっ、こわっ、ムリムリムリッ!」

 

 滑腔砲を手放すなりメイスを構え直すガンダムバルバトスは、まさに阿頼耶識システムと一体化したかのような、ヌルヌルとした有機的な挙動で襲い掛かってきたのだ。

 幸いといえば幸いなのか、メイスによる大振りな打撃は、プリンセスルージュには当たりにくい。

 

 が、それは幸いでも何でもなかった。

 

 ワルキューレサーベルを抜き放ってメイスの間合いの懐に潜り込もうと試みるショウコだが、ガンダムバルバトスの挙動反応は異常に早く、メイスが空振りしても即座に引き戻されてガードの体勢を取られてしまい、そうして弾き返されればその0.5秒後には再びメイスか、あるいは滑腔砲の砲弾が飛んでくる。

 

 マギアライフルによる射撃も、ガンダムバルバトスの機動性の前には当たることもなく、当たったところでビーム判定なので、ナノラミネートアーマーの特性に阻まれてまともなダメージにはならない。

 

 ガンダムバルバトスは宇宙という真空の世界をまるで泳ぐように立ち回り、獣のようにプリンセスルージュの隙を虎視眈々と狙っている。

 

 

 

 カンナとジュゲムの二人だが、こちらも大苦戦である。

 ようやくケルディムガンダムのビットによる弾幕が止んだと思えば、今度はガンキャノンが積極的に前に出て、ビームライフルと肩部キャノン砲を的確に使い分け、時には併用して、ライジングガンダムとダーティワーカーに反撃の隙を与えさせない。

 

「なんとか、接近戦に持ち込みたいところなのですが……!」

 

 ライジングガンダムはバルカンを速射しつつヒートナギナタを抜くものの、ビームライフルの射撃は正確で、肩部キャノン砲は一撃必殺の破壊力を連射してくる。

 かといってガンキャノンに気を取られれば、その奥に控えているケルディムガンダムに狙い撃ちにされる。

 

「さて、こりゃどうしたもんかね」

 

 ジュゲムは攻めあぐねているこの不利な戦況にぼやく。

 彼も隙あらば狙撃を行おうとしているものの、あくまでも汎用機を狙撃仕様に改造したダーティワーカーと、最初から狙撃を前提とした機体であるケルディムガンダムとでは、狙撃合戦になれば後者に軍配が上がる。

 

 

 

 結論から言えば。

 

 ガンダムAGE-Iはソードインパルスガンダムの連結したエクスカリバーに細切れにされ、

 

 ガンダムアスタロトブルームはまともに反撃出来ないままガンダムアストレアに真っ二つにされ、

 

 プリンセスルージュはほんの一瞬気を抜いた瞬間にはガンダムバルバトスに掴まれて首を引きちぎられ、

 

 ライジングガンダムは被弾して体勢を崩したその直後にガンキャノンの肩部キャノン砲に粉砕され、

 

 ダーティワーカーはガンキャノンとケルディムガンダムに挟撃されて身動きが取れなくって、

 

 全機とも撃墜、敗北する。

 

 

 

「っかー!クソ強ぇわコレ!」

 

 後頭部を搔きながら、ソウジは一度筐体から離れる。

 

「ほとんど何も出来なかったよ……」

 

「あたし途中から半分諦めてた……」

 

 アスノとショウコも気落ちしている。

 

「最近のAIは凄いのですね……」

 

『これでもオリジナルには及ばないんだ。当時がどれだけ桁違いなレベルだったか、よく分かるよ』

 

 カンナは技術の進歩に感嘆し、ジュゲムはスマートフォンの通話越しに何事も無さげに溜息をひとつ。

 

 製作ブースの椅子に座って一休みしていると、名瀬さんがカウンターから顔を覗かせた。

 

「リリースされた新モードはどうよ?」

 

「やべぇっすわ、兄貴」

 

 ソウジが溜息混じりに答えた。

 

「そんなにか?」

 

「ほっとんど何も出来ませんでしたからね……でも、このあとでもう一回行きますよ」

 

 ともかく、黒歴史モードの勝手は分かったので、次は負けるかとソウジは気持ちを切り替える。

 

 

 

 再度同じモードで、ランダムセレクト。

 

 ・Nakamura aoi

 

 ・Katsui tomoki

 

 ・Ashihara miyu

 

 ・Kusanagi tsurugi

 

 ・Sagimiya satsuki

 

 ランダムステージセレクトは『ベルリン市街地』

 

 原点作品は『SEED DESTINY』からで、地球連合軍特殊部隊ファントムペインのエクステンデッド、ステラ・ルーシェが乗り込むデストロイガンダムが市街地を蹂躙し、それを食い止めるべくザフト軍のシン・アスカと、無属のキラ・ヤマトが出撃し、一時共闘することになる場面であり、GPVS上では焼き払われた市街戦になる。

 

 そうして再び出撃したチーム・エストレージャの五人であったが……

 

 

 

「またダメだった……」

 

 アスノはMFも真っ青な動きをするマスラオの徒手空拳に終始圧倒され、

 

「これ、ほんとに勝てんのかぁ!?」

 

 ソウジはバンシィ(EP.5)の勢い任せな格闘攻撃の前に競り負け、

 

「あーん!無理無理無理ぃ!」

 

 ショウコは執拗に死角に回り込んでくるガンダムデスサイズヘルに辟易し、

 

「い、一体どうすれば……!?」

 

 カンナはモンテーロの巧みな攻防に手も足も出せないままに撃墜され、

 

「やれやれ、そう上手くはいかないねぇ……」

 

 ジュゲムは搦め手を正面から突き破ってくるZガンダムに為す術もなく、

 

『Battle ended』

 

 先程と同じような結果で終わってしまった。

 

 

 

 それからもう何度か黒歴史モードでプレイするものの、一勝どころか一機も墜とせないまま、アスノ達の気力が尽きた。

 

「「「「………………」」」」

 

 この場にいないジュゲムを除く四人は、製作ブースの椅子に座って真っ白に燃え尽きていた。

 

「まぁまぁお前ら。今日勝てなかったくらいで落ち込むなよ」

 

 名瀬さんは燃え尽きたアスノ達を見て、苦笑する。

 とはいえ彼らの気持ちは早々すぐには切り替わらない。

 どうしたもんかと名瀬さんは思案し、踵を返してバックルームに声をかける。

 

「おーい、アミダー」

 

 するとすぐにアミダ姐さんが「なんだい?」と顔を出した。

 

「あいつら、AI相手に手も足も出なくて落ち込んでるみたいなんでな。ちょっと、"魅せて"やってくれねぇか」

 

「アタシはもう引退したんだけどねぇ……ま、若い子らに可能性を見せるくらいならいいか」

 

 そう言ってアミダ姐さんは顔を引っ込めて、すぐに出てきてはそのまま筐体に向かう。

 

「お前ら、モニター見てみな。『人間はAIごときに負けねぇ』ってのがよく分かるぞ」

 

 名瀬さんの言葉に、アスノ達は死んだ魚の目をしながらモニターに目を向ける。

 

 それは、暗礁宙域へ出撃する、ピンクの『百錬』。

 相対するのは、黒歴史モードのAI。

 

 ・Sakurai airi

 

 ・Itou ricca

 

 ・Shindou akira

 

 ・Ichinose mai

 

 ・Ameno habakiri

 

 ウイングガンダムゼロ、グリムゲルデ、ダブルオーライザー、ハンブラビ、ジンハイマニューバの五機が、一斉に百錬に襲い掛かる。

 

 可変機であるウイングガンダムゼロとハンブラビが、それぞれネオバードモードとMA形態へと変形性し、左右へ展開。

 

 バスターライフルと背部ビームライフルによる牽制射撃を、百錬はそれら火線と火線の間を最小限のアクションでやり過ごす。

 

 真っ先に切り込んでくるのはダブルオーライザーで、GNソードⅢによる格闘戦を持ち込み、その数歩後ろからグリムゲルデとジンハイマニューバがライフルで援護射撃を仕掛ける。

 

 対する百錬はなおも最小限でやり過ごす。

 

 ついにダブルオーライザーがGNソードⅢの間合いに踏み込んでくるが、振り抜かれるクリアグリーンの剣刃を百錬は掠めるか掠めないかの文字通り紙一重で躱すと、瞬時にリアスカートから片刃式ブレードを抜き放ち様にダブルオーライザーのボディを斬り裂いた。

 

 ダブルオーライザー、撃墜。

 

 ダブルオーライザーの撃墜を判断し、グリムゲルデはヴァルキュリアブレードをシールド裏から展開し、ジンハイマニューバは重斬刀を抜き放って、百錬の前後から迫り、さらにウイングガンダムゼロはバスターライフルを、ハンブラビはMS形態に変形して腕部ビームガンを連射して百錬をいやらしく釘付ける。

 

 ビームの雨を躱し、時に片刃式ブレードで斬り弾いていく百錬だが、そうこうしている内に後ろからグリムゲルデと、前からジンハイマニューバが迫る。

 

 百錬は突如前方のジンハイマニューバへ向けて加速、アサルトライフルを連射する。

 

 ジンハイマニューバは重斬刀を寝かせて構えてアサルトライフルの銃弾を的確に弾き返していくが、ガードの姿勢を取っているために咄嗟に反撃が出来ず、百錬はジンハイマニューバに肉迫、脚部を繰り出して重斬刀もろとも蹴り飛ばし――その蹴りつけた反動をそのままグリムゲルデが迫る方向へ急加速する。

 

 グリムゲルデはそのままヴァルキュリアブレードで斬り掛かるものの、その特殊合金の双剣は百錬の装甲を捉えることは叶わず――それどころ百錬は、ジェットストリームアタックを掻い潜ったアムロのガンダムのごとく、グリムゲルデを『踏み台にする』と、距離を取って腕部ビームガンを連射しているハンブラビとの間合いを一瞬で詰める。

 

 ハンブラビはすぐにビームサーベルを抜き放って迎え撃とうとするものの、それよりも先に百錬がハンブラビの脇を潜り抜けて背後から組み付くと、バイタルバートにアサルトライフルを数発ゼロ距離射撃を行い、撃墜判定を食らわせる。

 

 ハンブラビ、撃墜。

 

 しかし百錬は撃墜したハンブラビを掴んだまま、追い縋ってきたグリムゲルデへ迫る。

 

 その側面からジンハイマニューバが27mm突撃機甲銃を連射してくるものの、百錬は掴んでいたハンブラビを盾にして銃弾を防いでいく。

 

 逆サイドからもウイングガンダムゼロがバスターライフルで百錬を狙い撃ちにしようとするが、百錬は被弾して爆散寸前のハンブラビをウイングガンダムゼロに向けて蹴り飛ばす。

 

 当然、ウイングガンダムゼロはバスターライフルを発射、ハンブラビを撃ち抜き、爆散によって一時的にウイングガンダムゼロの視界が奪われる。

 

 今度こそグリムゲルデのヴァルキュリアブレードは百錬を斬り裂かんと振り翳されるが、その寸前に百錬は左マニピュレーターに握っていた片刃式ブレードを投げナイフのようにスナップを効かせて投擲、それはグリムゲルデの頭部へ突き刺さる。

 

 メインカメラを破壊されて動きを止めたグリムゲルデだが、AIにとってそれは一瞬のことで、すぐに再行動しようとするものの、その"一瞬"はあまりにも致命的だった。

 

 刹那、百錬は左サイドスカートからナックルガードを引き出して左マニピュレーターに装着、グリムゲルデのバイタルバートに、スパークを迸らせたナックルをボディブロウのように叩き込み、粉砕した。

 

 グリムゲルデ、撃墜。

 

 ここまで三機が撃墜されたことによって、ジンハイマニューバはスラスターユニットを翻してウイングガンダムゼロと合流する。

 

 その間に、百錬はナックルガードを放棄し、グリムゲルデの頭部に突き刺さった片刃式ブレードを回収して、残るウイングガンダムゼロとジンハイマニューバに向き直る。

 

 一拍の間を置いて、ジンハイマニューバは27mm突撃機甲銃を連射しつつ百錬へ接近し、ウイングガンダムゼロは左右のバスターライフルを連結させて、ツインバスターライフルとして構える。

 

 対する百錬は、27mmの銃弾を躱す――のではなく、敢えて受けながらジンハイマニューバと真っ向から向かう。

 

 元より百錬と言うMSは、障害物との衝突が想定されるデブリベルトでの行動を前提としているため装甲が分厚く、多少の被弾は無視できるのだ。

 

 格闘戦の間合いに踏み込んでもジンハイマニューバは重斬刀を振るうことなく、すると不意に百錬の下方へと急速離脱した。

 

 ジンハイマニューバがいた位置の真後ろに、ツインバスターライフルを構えたウイングガンダムゼロが控えており、その二門の銃口は確かに百錬をロックオンしている。

 

 引き絞られるトリガー、吐き出されるは濁った金色をした破壊の閃光。

 

 コロニーひとつをたった一射で破壊するそれは、MS一機を撃破するにはあまりにオーバーキル。

 

 原作では、防御力に特化した機体であるメリクリウスのプラネイトディフェンサーを貫通して破壊するほどの破壊力だ、例えナノラミネートアーマーに守られた機体であろうとそれは変わらないだろう。

 

 されど、AIのその正確無比な射撃が、百錬の反応速度に追い付くことはなかった。

 

 ジンハイマニューバが下方へ急速離脱した時には、既に百錬は上方へと急上昇しており、最初からツインバスターライフルの射線上から離脱していたのだ。

 

 ツインバスターライフルを照射し、反動で隙を晒しているウイングガンダムゼロに素早く接近した百錬は、片刃式ブレードでボディを一閃する。

 

 ウイングガンダムゼロ、撃墜。

 

 残るはジンハイマニューバのみだが、ここまで酷使してきた片刃式ブレードはすっかり刃毀れして使い物になりそうになく、アサルトライフルの残弾やスラスターのガスも残り僅かだ。

 

 しかし百錬の闘志は、出撃してからのそれと比べても何一つ衰えておらず、命を燃やすがごとくスロットルを開き、アサルトライフルを撃ちまくる。

 

 銃弾が交錯し、双方のライフルが破壊される。

 

 ジンハイマニューバは重斬刀を両手で構え直して突撃、対する百錬はほぼ丸腰だ、まだもう片方のナックルガードはあるものの、この咄嗟ではすぐに使うことは出来ない。

 

 突き出される重斬刀はしかし、百錬には届かない。

 

 何故ならば、百錬はその剣刃を『白刃取り』しているのだから。

 

 白刃取りした状態から百錬はジンハイマニューバの腹部を蹴り飛ばし、ついでに重斬刀を奪い取り、瞬時に距離を詰めて一閃した。

 

 ジンハイマニューバ、撃墜。

 

『Battle ended』

 

 アミダ姐さんは、五対一と言う大幅なハンデを、涼しい顔で跳ね返してみせたのだ。

 

 

 

「「「「……」」」」

 

 アスノ達四人は、モニター越しに映るアミダ姐さんが駆るピンクの百錬を、惚けたように見つめていた。

 凄い、と言う言葉すら出てこない、圧倒的な操縦技術。

 彼女がその昔、GPVSのトップバトラーだったのは、伊達では無かったということを、思い知らされる。

 

「お疲れアミダ。調子はどうだったよ?」

 

 筐体から出てきたアミダ姐さんに調子を訊ねる名瀬さん。

 

「んー、あと23秒は早く行けたと思うんだけどねぇ。ライフルも壊されたし、アタシの腕も落ちたか」

 

 どこか不満げに鼻を鳴らすアミダ姐さん。

 これでなお腕が落ちた結果だと言うのなら、全盛期だった頃など想像もつかない。

 

「……とまぁ、人間やろうと思えば、AIなんざへのカッパってことだ」

 

 名瀬さんは、アミダ姐さんの戦いぶりを見せて、アスノ達にそう言った。

 

「お前らの目標の先にいるアカバも、これくらいは普通にやって退けるだろうよ」

 

「「「「…………」」」」

 

 少年少女達は顔を見合わせ。

 

「よしっ。ソウジ、もう一戦やろう!」

 

「おっしゃ!やってやろうじゃねぇか!」

 

「あたしも頑張るぞー!」

 

「ではでは私も奮起してみましょう!」

 

 意気消沈はどこへやら、瞳の輝きを取り戻したアスノ達は再び筐体へ繰り出す。

 

 その様子を眺めつつ、名瀬さんは「お元気なこって」と。アミダ姐さんは「若いんだよ」と相槌を打つ。

 

 

 

 もう一戦だけ黒歴史モードに挑んだアスノ達は、やはり勝利するには至れなかったものの、五機の内の二機を撃破することが出来た。

 それは大きいものではないが、確実な進歩だ。

 

 進歩を実感したところでそろそろ帰宅しようかと言う時だった。

 

 ドアの向こうには、土砂降りとはいかないものの、傘無しで歩くには勇気がいる、それくらいの量の雨が降っていた。

 

「あっ……夕立ち」

 

 黒歴史モードの攻略に夢中で、今朝の天気予報のことがすっかり抜け落ちていた。

 

「うーわマジかぁ」

 

 傘の無いソウジは頭を掻く。

 

「やば、あたし傘無いよ……」

 

 ショウコも青褪めている。

 カンナは「あー……」と呆然と雨雲を見上げる。

 

 さすがに『鎚頭』の閉店時間まで居座るわけにはいかず、そこまで待っても止みそうに無いだろう。

 

「しゃーねぇ、ここはいっちょ走りますか……じゃ、俺はここで!」

 

 ソウジはトントンと靴の爪先で床を鳴らすと、敢然と雨の中を駆け出した。

 

「ソウくんは元気だねぇ……アスくんも傘無い感じ?」

 

 ショウコはアスノに目を向ける。

 

「うぅん、僕は折り畳み傘があるから」

 

 そう言いつつ、アスノは鞄からコンパクトに丸められた傘を取り出してみせる。

 

「えーっ、アスくんズルーい!」

 

「ズルいとか言われても……ツキシマさんは?」

 

 カンナも傘が無いのかと思えば、彼女はスマートフォンを耳に当てて電話していた。

 

「……あ、もしもし、カンナです。今、ホビーショップの『鎚頭』にいるのですが、この雨でして……はい、はいそうです。お願いしますね。……はい、店内にいますから。……はーい、待ってます」

 

 通話終了。

 

「私は車が迎えに来ますから、大丈夫ですよ」

 

「な、なるほど」

 

「カンナちゃんのお嬢様っぷりを感じるね……」

 

 家内に使用人がいて、わざわざ自動車で迎えに来させると言う。

 一庶民では、裕福な家庭でなければその考えも及ばないだろう。

 

「ですからアスノさん、ショウコさんを送ってあげてください」

 

 今この場で傘を持っているのはアスノだけで、カンナは安全に帰ることが出来る。

 そうなれば、必然的にアスノがショウコを送るべきだろう。

 

「えっ、えぇと、カンナちゃん?その……いいの?」

 

 そこで、ショウコは躊躇った。

 本当は、カンナこそがアスノに送ってもらいたかったのでは無いのかと。

 しかし当のカンナはそれを意に介することなく。

 

「アスノさん。ちゃんとショウコさんをエスコートしてあげてくださいね?」

 

「あ、あぁうん」

 

 そして肝心のアスノも、ショウコの躊躇の意味に気付くはずもなく頷いている。

 

「行こっか、ショウコ」

 

「う、うん……ありがとう?」

 

 アスノは傘を広げ、ショウコもその中へ納まる。

 

「じゃぁまた明日ね、ツキシマさん」

 

「ば、ばいばーい」

 

「また明日です」

 

 帰りの挨拶を交わしてから、アスノとショウコは相合傘で雨中を往く。

 

 

 

 雨の中、二人は黙々と歩く。

 普段は他愛もない話で盛り上がるはずなのに、今日に限っては互いに無言。

 アスノとしては、ショウコの方から話題を振ってくれるとばかり思っており、ショウコは何を話せばいいか分からずに戸惑うばかり。

 少なくとも、この場にソウジか、もしくはカンナがいればこうはならなかった。

 ソウジなら二人共通の話題を持ち込んで来るし、カンナならアスノをそっちのけで女子トークに勤しめるから。

 

 けれど、いざこうして二人きりで、それも相合傘と言う、否応なく物理的に距離を縮めなければならない状況では尚の事。

 

「(ど、どうしたんだろうショウコ……今日はめずらしく無言だ……)」

 

「(こ、これってチャンス?チャンスだよね?せっかくカンナちゃんが譲ってくれたんだし……でも、どうしよう……)」

 

 何か話さなくては、コニシ・ショウコらしくない。

 

 ガンプラの話……それは今じゃなくてもいいだろう。

 カンナの話……アスノを前にして話せるものか。

 天気の話……話すまでもなく雨である。

 

 ふとショウコは、隣り合っているアスノの目線の高さの違いに気づいた。

 中学二年生の春頃は同じくらい、どちらかといえばショウコの方が高かったはずだった。

 それが、いつの間にか追い越されている。

 

「アスくん、背、伸びたね」

 

「え?そ、そうかな?」

 

「ほんと。だって、もうあたしより高いじゃん」

 

「言われてみれば、確かに……」

 

 測るか、何かと比べなければ、身長の伸びなど自覚出来ないものだ。

 

「「…………」」

 

 しかしこの話では長続きしなかった。

 が、それがきっかけにアスノは話題を思い付いた。

 

「そ、そうだ。今日の昼休みに、ソウジと話してたことだったんだけどさ……」

 

「あ、うんうん。何かな?」

 

「なんて言ってたかな……確か、「もし、ツキシマとショウコから同時にコクられたら、お前ならどっちを選ぶよ?」だったかな?」

 

「(えっ)」

 

 ショウコは、自分の心臓がざわめくのを自覚した。

 そのソウジの問いかけに、アスノはなんと答えたのか。

 

「僕はその時、今ここでハッキリ決めるのは無理だよって答えたんだけどさ」

 

「……そ、そっかぁ」

 

 残念だったのか、安心したのか、どちらとも言えなかった。

 

「ソウジはどうなんだって訊き返したら、本人は「秘密だ」って言ってさ。そりゃズルいよって」

 

「アスくんもソウくんも、ヘタレさんだねー」

 

 でもさ、とショウコはアスノの顔を見上げた。

 

「……昼休みの時は無理だったなら、"今"は?」

 

「えっ……?」

 

「あたしと、カンナちゃん。二人一緒に告白されたら、どっち……?」

 

 アスノは、言葉に詰まった。

 

 

 ショウコのその顔が、真剣そのものだったから。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 カンナとショウコ、どちらを選べと問われたなら……

 

「ツキシマさんとショウコの、どっちって……そんなの、今だって答えられないよ」

 

 昼休みのソウジに対する答えと同じ、結論の先送り。

 

「そっか……そうだよね。アスくんって優しいから、簡単に決めたりしないよね」

 

 仕方ない仕方ない、とショウコは努めて、"らしく"笑顔を見せる。

 

 が、

 

「(あたしが目の前にいるのに、『先にカンナちゃんの名前を挙げる』んだ……)」

 

 少なくとも、今のアスノの心の中を占める割合が、ショウコよりもカンナの方が高いということ。

 

「ショウコ?まさか、どこか具合が悪いの?」

 

 それが顔に出ていたのか、アスノはそんな的外れな心配をしてきた。

 

「う……うぅんっ!全然平気!なんなら、雨の中でスキップだってしちゃ……ゃっ!?」

 

 スキップするフリをしようとした瞬間、濡れた地面に足を滑らせたショウコ。

 

「っと、危なっ!」

 

 アスノは咄嗟に空いている方の手で、ショウコの腰を掴むように支えてやる。

 

「っ……」

 

 その、アスノの手の優しさに気付いてしまう。

 まるでガラス細工に触れるような。

 カンナにしてやればいいものを、どうしてそれを自分にまで向けるのか。

 

「ショウコ、大丈夫?」

 

 なのに、アスノの顔はどこまでもいつも通り過ぎて。

 

「な……ナイスキャッチアスくんっ。さすがだね!」

 

 無理矢理笑顔を作って、ショウコはアスノの手から離れる。

 

「ここまででいいよっ、またね!」

 

 そして、そのままアスノの傘を飛び出していった。

 

「え?ちょ、ショウコ!?まだ……行っちゃったよ」

 

 まぁそう遠いものではないから大丈夫か、とアスノは気を取り直して歩き出す。

 

 

 

 もう、耐えられなかった。

 あれ以上アスノの近くにいたら、あらぬことを口走ってしまいそうだったから。

 

「(バカ……あたしのバカ……ッ!なんで、あんなこと訊いたりして……アスくんが困るだけじゃない……ッ!)」

 

 ショウコは自分を罵りながら走った。

 

 降り頻る雨で、溢れそうになる涙を誤魔化しながら。

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