ガンダムビルダーズハイ   作:さくらおにぎり

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8話 学期末の戦場

 梅雨入りを経て、七月。

 登校前の短時間、制服に着替えたアスノは、自分の勉強机に座っていた。

 

 手元にはルーブリーフとシャーペン、目の前に立つのは愛機ガンダムAGE-I。

 

 何をしているのかと言えば、夏の選手権に向けたガンプラの改造案を練っているのだ。

 

「(AGE-Iの基本性能を高めるのは当然で、それは僕の努力次第。問題は、チーム戦での連携力)」

 

 ガンダムAGE-Iはビーム兵器が中心の兵装群だが、実弾や物理攻撃なら、ソウジのガンダムアスタロトブルームが得意とする分野だ。

 長距離のビーム攻撃ならば、カンナのライジングガンダムのビームボウや、ジュゲムのダーティワーカーのビームスナイパーライフルで事足りるだろう。

 ショウコのプリンセスルージュはどちらかと言えば格闘戦の方が得意。

 そうなると、アスノに求められる役割は。

 

「(全体のバランス、だよな)」

 

 ビーム兵器を主体として、前後共にバランスの良い武装、どのような戦況にも即応可能な、器用貧乏ではない優れた汎用性。

 そう言った概念書き連ねて思い浮かべるのは、

 

「『アムロ・レイ』」

 

 "機動戦士ガンダム"において、原点にして起源、起源にして頂点、頂点にして最強であると"公式見解にて認定された"MSパイロット。

 戦略、戦術、戦況、敵対機、タイミング、搭乗機、いずれも問わずに、常に最大の戦果を挙げ続けてみせたその勇姿は、まさに最強に相応しい。

 アムロ・レイと聞いて真っ先に思い付くMSは、もちろんRX-78-2(ガンダム)。その次に浮かぶのはνガンダムだろう。

 そうして浮かび上がる構想や妄想、捏造されるIF設定などが次々にアスノの脳内を巡り――至ったのは。

 

「……『アムロ・レイがA.G.歴の世界に異世界転生したら、どのような"ガンダム"を生み出すのか』」

 

 きっとメカオタクとしての本領を発揮して、ガンダムAGE-1にコアファイターを搭載したり、ドッズライフルの代わりにハイパーバズーカやガンダムハンマーを搭載したり、時にはジェノアスキャノンに乗り込んでガフランを鹵獲したりするかもしれない。

 それと敵対するヴェイガンも真っ青である。

 

 そうなると、ガンダムAGE-2の簡易型(リ・ガズィのような機体)で三世代編のXラウンダーパイロット達を軽々撃退し、急ピッチで仕上げた専用ガンダムに乗って戦場を圧倒し、ゼハート・ガレットのガンダムレギルスRと壮絶な殴り合いを繰り広げ、崩壊するラ・グラミスを「俺のガンダムは伊達じゃない!!」と支え押し上げようとするなどなど……

 

「っと……」

 

 思わず妄想ばかりが先走ってしまった。

 

 それはともかくとして、アスノが目指すガンプラは、あくまでもバランス重視。

 前衛として身体を張ることも出来て、後衛として支援することも出来て、前後ともに卒なくこなせるスタイルにして、なおかつ一対一での戦いにも抜かりなく。

 

 武装にしてもそう。

 

 ドッズライフルの強化はもちろんとして、シールド内にミサイル、ビームサーベルが二丁。

 加えられるならバルカンとファンネルも搭載したいところだ。

 

 そこまで考えたところで、そろそろ登校時間に差し掛かる。

 

「っと、行くか」

 

 鞄を担いで、アスノは一度リビングへ。

 

「ミカ姉、行ってきまーす」

 

「はーい、いってらっしゃ~い」

 

 ミカに見送られて、アスノは玄関を出る。

 

 梅雨が明ければ、夏はすぐそこだ。

 その前触れとして、

 

「もう暑くなってきたな……」

 

 急激に上がりつつある気温に、アスノはぼやいた。

 

 

 

 学生の本分は勉学である。

 それを体現するかのように待ち受けるのは。

 

「かーーーーーっ、期末テストとかやる気しねぇ……」

 

 頭を抱えて机に突っ伏すのはソウジ。

 

「ダメですよキタオオジさん。学生である以上は、ちゃんと勉強もしなければ」

 

 優等生的発言をするのはカンナ。

 

「期末テストって言っても、そこまで鬱屈するものかな……」

 

 アスノは、ソウジが何故頭を抱えるのかがあまりよく分かっていない。

 

「アスくんの成績が良いのは知ってるけど。カンナちゃん……は、一学期の中間にはいなかったんだっけ?」

 

 ショウコはカンナの成績を訊ねようとして、彼女が転入生であったことを思い出す。

 

「聖リーブラでの成績でしたら、確か全教科とも90点以上はとっていたはずですね」

 

 カンナはなんでもないことのように言うが、

 

「超お嬢様学校でそれはやべぇ……」

 

「ツキシマさん、すごい……」

 

「想像以上だね……」

 

 三者三様、カンナの秀才ぶりに戦慄する。

 

「そ、それほどのことでは……皆さんの成績はいかがでしょう?」

 

 今度はカンナが三人の成績を訊く番である。

 

「あたしは、普通くらい?アスくんは前の中間で、学年八位だったもんね?」

 

 ショウコは普通程度と言う。

 

「うん、「ちゃんと勉強もしなさい」って、ミカ姉にみっちり絞られたからね……」

 

 アスノは何だか遠い目になる。

 ミカは普段からのほほんとしているものの、その実、今通っている大学にはほぼトップの点数で入学すると言う才女でもある。

 その優秀な姉の手前もあって、アスノもこと勉強に関しては真面目に取り組んでいる。

 

 最後のソウジはというと……

 

「下手すりゃ夏休みは補習三昧だ……」

 

 とのこと。

 これはまずい、とアスノ、ショウコ、カンナは声を揃えた。

 

 夏休みはGPVSの選手権大会が控えているのだ。

 補習の日と、選手権の開催日が重なったらおしまいだ。

 そうでなくとも、夏休みの最初の方で"強化合宿"も考えている彼らとしては、補習は何としても回避しなければならない。

 

「勉強会をしましょう」

 

 すかさず、カンナがそう言った。

 

「そうだね、僕も賛成だ」

 

 アスノはカンナの提案を支持する。

 

「まぁ、あたしも補習受けたくないし」

 

 ショウコも然り。

 賛成多数にて、勉強会の実行は可決だ。

 

「お、お手柔らかにな、お手柔らかに……」

 

 本日より素敵な勉強地獄が始まり、そしてそれは逃れることも免れることも許されないことだと悟り、ソウジは恐怖に声を震わせる。

 

 

 

 テスト勉強期間中の休日とは、休日に非ず。

 

 アスノ達中学生四人は、市民会館に併設されている図書室に開館時間に合わせて入館していた。

 利用目的は、もちろん勉強のため。

 

 ソウジは「何も休日まで勉強漬けにしなくてもいいじゃねぇか……」と朝から憔悴しきったような顔をしているが、そこで容赦しないのがアスノ、カンナ、ショウコの三人である。

 

 図書室なら他の利用者も騒がず静かで、余計なものは何もない、ついでに冷房が程よく効いていて快適、つまりは集中して勉強するには持って来いの環境である。

 

「ではでは、早速始めましょう。キタオオジさん、分からないところはどこでしょうか?」

 

 カンナは数学の教科書を開いて、テスト範囲のページに合わせる。

 

「テスト範囲をイチからお願いします……」

 

「「「………………」」」

 

 どうやら、ソウジの勉強の苦手っぷりは筋金入りのようだ。

 

「じゃぁ……イチからみっちりやろうか?」

 

 目の笑っていない笑顔のアスノから死刑宣告が発された。

 女子二人もしかり。

 寒さのそれではない意味で震えながら、ソウジは地獄の勉強会に放り込まれた。

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 お昼時になって、ようやく図書室を出る。

 

「ん〜っ、勉強したねぇ」

 

 あっつーい、と日射しを浴びながらショウコは背伸びする。

 

「なかなか集中して出来たと思います」

 

 カンナは自販機で購入したお茶を啜る。

 

「まぁ、ほとんどソウジのために付き合ったようなものだけどね」

 

 アスノは苦笑しながら、自身の後方を見やる。

 

「」

 

 そこには、白目を剥きながら千鳥足で歩く、魂の抜けかかったソウジの姿が。

 

「ソウくーん、生きてるー?」

 

 ショウコがそう声をかけるものの、

 

「ぁあ……なんとかな、なんとか……なら、死ぬまで生きて、命令を果たしてやろうじゃねぇか……」

 

 火星軌道上からのダインスレイブの一斉射を受けて瀕死の昭弘・アルトランドと化したソウジだが、辛うじて生きているようだ。

 

「止まるんじゃねぇぞ、ですよ。お昼ごはんが済んだら、もう一度勉強です」

 

 それに合わせてか、オルガ・イツカの最期の命令を真似しつつも、再度の死刑宣告を告げるカンナ。

 

「ま、まだやんのかよ!?」

 

「当然です。キタオオジさんの夏休みを守るためならば、このツキシマ・カンナ、世界人口の1/4をビーム兵器で焼き払うことだって躊躇いません」

 

 天使(ハシュマル)だ、天使(ハシュマル)が舞い降りた。

 

 テスト勉強の厄祭戦を前に、ソウジは再び戦慄する。

 

 

 

 昼食後に再び市民会館の図書室へ赴き、またニ時間ほど集中してテスト勉強。

 

 それも済んだ頃には、まだ日も高いが夕方頃。

 

「……さすがに、詰め込み過ぎたでしょうか?」

 

 カンナは、自分の目の前に広がる光景を見てそう呟く。

 

「ソウくん記憶力はいいんだから、やろうと思えば勉強も普通に出来るの、にぃっ……」

 

 ショウコは、図書室のテーブルに突っ伏しているソウジを引き摺り起こそうとするものの、彼女一人ではさすがに動かせない。

 

「へっ……生きてりゃ良いことあるもんだな……いい土産話が、出来た……」

 

 先の昭弘の台詞の続きなのか、完全に力尽きたソウジから、そんな満足げな呟きがもれた。

 

「こらこら、テストが始まる前に死んでどうするのさ。身構えている時に死神は来ないものなんだか、らっ」

 

 ショウコの反対側から、ソウジを引き摺り起こそうとするアスノ。

 

 

 

 もうしばらくエクトプラズムを口から浮かべていたソウジだったが、閉館時間が近くなればさすがに自我を取り戻した。

 

「ま、まさか、明日もこれやるんじゃねぇだろうな……?」

 

 ソウジは恐る恐るそれを訊ねる。

 明日も朝からこの時間まで勉強漬けなのかと。

 

「いいえ、さすがに連日ではしませんよ」

 

 そう答えたのはカンナ。

 しかしその彼女はにっこりと聖女のような笑みを浮かべながら、ルーズリーフの束をソウジに差し出した。しかもけっこう分厚い。

 

「その代わり、宿題を用意しました。今日勉強した範囲の復習ですよ」

 

「はぁっ!?この上から宿題まであんのかよ!?」

 

 休日とは何だったのかとソウジは声を上裏返らせる。

 しかも、

 

「週明け月曜日の朝にチェックするからね、ソウジ」

 

「ちゃんと出来てたら、その日の学食はあたし達三人の奢りでいいけど……出来てなかったら、その逆だよ?」

 

「それって俺が三人分のランチ払うってかァ!?」

 

 宿題が出来ていればその日の昼食代が浮き、出来なければ三人分のランチ代を払うという、悪魔の契約を突き付けるアスノとショウコ。

 

 鬼かお前らは、とソウジは恨めしげに三人を睨むが、

 

 

 

「「「やってしまえばどうということはない」」」

 

 

 

「………………アッハイ」

 

 と、赤い彗星理論で丸め込まれてしまった。

 

 

 

 勉強会が終わった後にちょっとGPVSを……と思っていたソウジだが、三人から突き付けられた宿題の量を見て、そんな余裕は無いと即決する。

 

 さっさと終わらせなければ不必要な出費を強いられるので、それはなんとしてでも避けねばと、ソウジはその日の晩から宿題に手を付けようとして、

 

「」

 

 またしてもエクトプラズムが口から浮かびかけた。

 ページ数が多いのは当然として、内容の濃さも半端ではない。

 下手をすれば今日の勉強量を上回るレベルだ。

 

 ――ここからが本当の地獄だぞ――。

 

 ソウジの脳裏に、全身黒タイツのジャック・オ・ランタンが狂ったように踊る姿が視えた。

 

 

 

 ところ変わって。

 GPVSのホログラムが生成するフィールドは、『バイオ脳建造プラント』

 原典作品は『クロスボーン・ガンダム』の続編たる『スカルハート』に当たり、地球圏に潜伏していた木星帝国(ジュピターエンパイア)の残党が潜む極秘プラントで、その中で『アムロ・レイ』の戦闘データを反映したバイオ脳を搭載した『アマクサ』が試作されている。

 

 ミッション名『最終兵士』

 

 同様に『スカルハート』のタイトルのひとつで、トビア・アロナクス達の表向きの企業である『ブラックロー運送』に、木星じいさんと名乗る『グレイ・ストーク(ジュドー・アーシタ)』と言う男が「拐われたアムロ・レイを奪還してほしい」と依頼するところから始まるストーリーを再現したミッションだ。

 

 輸送艦『リトルグレイ』のカタパルトに立つのは、クロスボーンガンダムX1改・改(スカルハート)でも無ければ、『ガンプ』でもない、鮮やかな赤い機体――ドムソヴィニオン。

 

「アカバ・ユウイチ、ドムソヴィニオン、出るぞ」

 

 それを駆るのは仮面の男、アカバ・ユウイチ。

 ジャイアントバズを抱え、宇宙空間に赤い軌跡を残すかのように一直線に加速する。

 

 スクランブル発進してきた木星帝国の主力機『バタラ』や、MA『カングリジョ』が群れを成して迎え撃つものの、ドムソヴィニオンは澱みなくジャイアントバズを発射、発射、発射。

 360mm口径のロケット弾頭は、回避運動を取ろうとするバタラやカングリジョの群れを正確に捉え、吹き飛ばしていく。

 

 防衛網を容易く突破したドムソヴィニオンは、プラント内部へと突入する。

 

 その先に現れたるは、銀色に暗緑色の差し色を加えた、15m級のMSが標準の時代の中では大型機に分類される、全長18mほどの機体。

 クロスボーンガンダムに見られる、ホリゾンタルボディに似た胴体形状。

 木星帝国機特有のゴーグル状のフィルタの下にモノアイ、それを左右一対に備えたデュアルアイ。

 クワガタムシの頭角を思わせるシールドクローに、その表面には半月状に分割して備えられた棘付きの鉄球。

 

 木星帝国が、クロスボーンガンダムX2を基礎に開発した試作機、そしてそのバイオ脳にはアムロ・レイの戦闘データを刻み込ませたMS、アマクサだ。

 

「試させてもらうか、アムロ・レイの戦闘データのバイオ脳とやらを」

 

 ユウイチはそう呟くと、瞬時にドムソヴィニオンを加速させてアマクサへ迫る。

 対するアマクサの反応も早く、即座にビームライフルを放つ。

 ドムソヴィニオンはビームを躱しつつも接近していくが、アマクサの二射、三射と続け様に予測射撃されるビームを前に、躱すことは出来ても肉迫には至れない。

 

 ウモン・サモン、ヨナ、ジェラドと言う準エース級三人のフリント三機をわずか十七秒で撃破してみせた、その反応速度と攻撃の正確性はアムロ・レイに迫るものがある。

 

「であれば……ファンネル!」

 

 ドムソヴィニオンは、サザビーのバックパックを小型化したような背部ユニットから筒状の物体、ファンネルを一斉射出、それらは意志を持ったかのような有機的な機動を取りつつも、アマクサへ向けてビームを放つ。

 

 しかしアマクサは即座に対応し、ファンネルが放つ四方八方からのビームを躱しつつも、そのファンネルへ正確にビームライフルを撃ち込んで破壊する。

 

 けれどファンネルが撃ち落とされることはユウイチにとって予測の範疇だ、アムロが戦闘の最中にファンネルの軌道を完全に読み切って正確に撃ち落とすなど珍しいものではない(が、常人には到底不可能な神業に変わりない)。

 

 アマクサがファンネルに注意を向けている内に再加速、ビームサーベルを左マニピュレーターに抜き放って迫る。

 アマクサもビームライフルをその場に放棄し、ビームサーベルを抜いてドムソヴィニオンと鍔迫り合う。

 鍔迫り合い、弾かれ合い、一撃、二撃とビームサーベルが合し、三撃目が振るわれる寸前にドムソヴィニオンは急速後退してアマクサのビームサーベルを躱し、即座にジャイアントバズを発射する。

 

 即応、アマクサはビームサーベルを振るってジャイアントバズの弾頭を切り落として無力化、さらに返す刀のようにシールドから分割されたハイパーハンマーを連結、ドムソヴィニオンを叩き潰さんと振るわれる。

 

「フッ!」

 

 ユウイチは操縦桿を絶妙なタイミングで跳ね回す。

 それに合わせ、ドムソヴィニオンはその場で回転し――

 

 なんと『回し蹴りでハイパーハンマーを蹴り返した』。

 

 重厚な脚部による質量と、重力化で滑るようなホバーを可能にするほどのバーニア出力を持つドムならではの芸当だ。

 

 人体の重心移動と、バーニアの推進力を完全にシンクロさせ

る――MSのキックでハンマーを蹴り返すと言う尋常ならざる力業に、アマクサのバイオ脳は一瞬反応が遅れ――しかし寸前で反応し、ハンマーが直撃するギリギリでシールドを切り離して躱す。

 アマクサを通過したハイパーハンマーは、プラントの頑丈な隔壁を容易く粉砕する。

 

 スカルハート劇中でも、トビアはクロスボーンガンダムのシザーアンカーで、ハイパーハンマーのチェーンを掴み、スイングバイの要領でカウンターを叩き込むと言う『いかに優れたニュータイプでも初めて見る攻撃には反応が遅れる』ことを見極めた奇策を以て勝利を収めている。

 

 これを基に、ユウイチはハイパーハンマーを蹴り返してカウンターを行ったが、ギリギリで反応されてしまった。

 

 アマクサはハイパーハンマーを放棄すると、再びビームサーベルによる接近戦をしかけてくる。

 ドムソヴィニオンは残弾の無いジャイアントバズを捨てると、再びビームサーベルを構え直して真っ向から迎え撃つ。

 

 ビームサーベル同士による、乱撃の応酬。

 

 その最中に、二基だけ残っていたファンネルがアマクサの死角に回り込み――即座にアマクサは反応し、ビームサーベルでファンネルを叩き斬るが、

 

 一瞬でもファンネルに注意を向けたその隙を、ドムソヴィニオンは的確に突く。

 

 左胸部に内蔵された拡散ビーム砲――本来ならばジェネレーター出力不足の問題から目眩まし程度の効果しかないそれを、ユウイチは高密度に改造、強力なメガ粒子砲と化したそれを放つ。

 

 ファンネルへの攻撃と言うタイムラグを射し込まれたアマクサは、いかに強力な戦闘データを用いたバイオ脳と言えど反応速度に限度はあり――ボディを貫かれた。

 

 アマクサ、撃墜。

 

「ふむ、こんなところか」

 

 ミッションクリアを確認して、ユウイチは仮面を外す。

 

 彼が行っていたのは、テストプレイ。

 

 次のGPVSのアップデートの際に追加されるミッションが、ちゃんとクリア可能なものかを確かめるためだ。

 そうしてクリアしてみせて、このミッションの難易度は的確なものだと言うことを示す。

 

 プレイ動画のデータを開発部へと送信し、そしてまた次のテストプレイに勤しむ。

 

 

 

 ソウジがヒーコラ言いながら、カンナから与えられた宿題地獄に追われている一方で。

 

 そのカンナはスマートフォンを片手に、キョロキョロと住宅街を見回す。

 

「この辺りのはず……イチハラ……イチハラ……」

 

 ふと、目に入ったステンレスプレートに印字された『市原』の表札を見て、ホッと胸を撫で下ろす。

 一度深呼吸をしてから、インターホンを押し込む。

 

 ピンポーン、と言う電子音から数秒後に、

 

『はい、イチハラです』

 

 アスノのそれではない、女性の声が応じてきた。

 

「お忙しいところ失礼いたします。私、ツキシマ・カンナと申します。イチハラ・アスノさんはいらっしゃいますか?」

 

『ツキシマ……あぁ、アスくんの彼女さんね』

 

『ちょっ、ミカ姉!何言ってるのさ!?』

 

 インターホンのスピーカーから、当のアスノの声も混じってくる。

 

『あぁ、お待たせツキシマさん。今開けるから……』

 

「か、彼女さん……わた、私が、アスノさんの……あわわわわわっ……」

 

 

 

 何故カンナがイチハラ家を訪ねてきたのか。

 当然ながらそれは、テスト勉強のためである。

 

 だというのにミカは。

 

「お姉ちゃんこれから二、三時間くらい出掛けてくるから、『ごゆっくり』とどうぞ〜?」

 

 と、ニヤニヤしながら出掛けていった。

 

「全くミカ姉は……」

 

「ご、ごゆっくり……ごゆっくり……ッ!」

 

「ツキシマさん、気にしないでいいから。ほら、テスト勉強するんでしょ?」

 

「ハッ、私は一体何を……?」

 

 何の妄想を脳内に広げていたのかは知らないが、ともかく真面目に勉強しに来たのだから、二人はリビングのテーブルに着いて勉強道具を広げる。

 

「それで、どこがどうって?」

 

「えぇと、ここですね……」

 

 

 

 根は真面目な二人なので、いざ真面目に勉強しますとなれば、黙々と書き進めていく。

 

 少し休憩しましょうかとカンナが提案し、アスノはすぐに麦茶と軽く食べれるお菓子を用意する。

 

「それにしてもキタオオジさん、大丈夫でしょうか」

 

 ふとカンナは、ソウジのことを話題にした。

 

「大丈夫って?」

 

「ほら、昨日に宿題を出しましたよね。ちゃんとやってこなければ学食奢りというペナルティ付きの」

 

「あぁなるほど。ちゃんと出来るかどうか心配って?」

 

「そうです。さすがに出し過ぎたと思わなくもないのですが、赤点回避のためには、これくらいはしなければと……でも、大丈夫かなと」

 

 あの分厚い紙束、丸一日を費やせば出来るはずだが、カンナとしてはやはり不安なようだ。

 

「大丈夫だと思うよ。ソウジって夏休みの課題とかも、ギリギリになってからやり始めるタイプだけど、なんだかんだ言ってちゃんとやってくるから」

 

 だからきっと大丈夫、とアスノは言う。

 

「アスノさんがそう言うのなら、私も信じます」

 

 カンナも頷く。

 

「お話は変わるのですが……アスノさん、選手権に向けたガンプラ作りの進捗はいかがですか?」

 

「うーん、色々と考えてはいるんだけどね。前衛はソウジとショウコ、後衛はツキシマさんとジュゲムさんがいるから、僕の役目としては、その間を取り持つ役と言うか、バランス型というか……」

 

 そうだ、とアスノは提案する。

 

「ツキシマさん、僕の部屋、見てみる?」

 

「見てみたいですっ!」

 

 アスノの部屋に入れると聞いてか、カンナは喰い気味に頷く。

 カンナの押しの強さにちょっと気後れしつつも、アスノはカンナを部屋に招いた。

 

 

 

「こ、ここが、アスノさんのお部屋……」

 

 カンナはキョロキョロと忙しなく部屋を見渡す。

 見渡して、部屋の一角――硝子張りのショーケースに飾られたガンプラの数々に視線が止まる。

 

「まぁ、お見せするほど大したものじゃないけど」

 

「すごいです……」

 

 カンナは眩しいものを見るように、ショーケースのガンプラ達を見つめる。

 

「いや、だからすごいものじゃなくて」

 

「………………」

 

 アスノはそれ以上何も言えなかった。

 彼が手掛けたガンプラ達を見るカンナが、宝物を見つけた幼子のように、真剣に輝いていたから。

 

「よく見たら……AGE系のガンプラが多いのですね?」

 

 ガンダムAGE-1 ノーマルを始めとして、キット化されていない機体まで見様見真似ながら再現したりと。

 特に、『ガンダムAGE-FX』『ガンダムAGE-2 ダークハウンド』『ガンダムAGE-1 フルグランサ』による、三世代の"トリプルガンダム"が力強いポージングで並ぶその空間が目立つ。

 

「ツキシマさん。どうして僕がAGE系のガンプラを中心に作ってるのか、分かるかな」

 

「えっ……ど、どうしてでしょう?」

 

「ヒントは、僕の名前」

 

「名前……名前……イチハラ・アスノ……、……あっ?」

 

 カンナは、その共通点に気付いた。

 

「フリット・"アスノ"、アセム・"アスノ"、キオ・"アスノ"……アスノさんの名前と同じ……」

 

「正解。自分と同じ名前の主人公だから、だよ」

 

 正確にはファミリーネームだけど、とアスノは照れくさそうに苦笑する。

 

「AGE-1を使ってるのも、イチハラの"イチ"……ONE(1)だから。アスノ家のイチ番目のガンダムってこと」

 

「何だか……運命的ですね」

 

「運命は大袈裟かもしれないけど、何かの巡り合わせみたいなものは、感じたかな」

 

「……巡り合わせ」

 

 そっと、カンナはショーケースのガラスに指先を添えた。

 

「私とアスノさんとが出逢えたのも、巡り合わせなのでしょうか?」

 

「そう、だと思う。去年の十一月、あそこで僕がツキシマさんのことに気付くことが出来たから、今こうして一緒に勉強したり、ガンプラバトルをやってる。気付かなかったら、ツキシマさんだって蒼海学園に転校しようと思わなかったと思うよ」

 

「はい……」

 

 しばし、ショーケースに触れる指先を見つめていたカンナだが、やがて意を決したようにアスノに振り返り――

 

「あの、アスノさ……、……っ」

 

 何かアスノに言おうとしたカンナだが、自分の視界に入った存在に、意識がそちらへ向けられる。

 

「ツキシマさん?どうし、……え」

 

 カンナが何を見ているのかと、アスノはその視線の先に続き、

 

 

【挿絵表示】

 

 

 半開きになったドアの隙間から、出掛けていたはずのミカが、ものすごく楽しそうに目を輝かせて覗いていた。

 

 

 

「な、何やってるの……ミカ姉……」

 

「あ、お気になさらず。続きをどうぞ〜?」

 

「いや、続きって何を……」

 

 ミカが一体何を期待しているのかを測りかねるアスノ。

 そんな様子を見てか、カンナはぷくぅぅぅぅぅと頬を膨らませている。

 

「アスノさんの、あんぽんたん」

 

「あ、あんぽんたんって……」

 

「さぁっ、休憩はおしまいです。きっちり勉強しますよっ」

 

 ぷぅぷぅ怒りながら、カンナはアスノの部屋を出てリビングへ戻っていく。

 

 僕が一体何をしたんだ、とアスノは困ったように戸惑う。

 

「ミカ姉が変なことしたから、ツキシマさんが怒っちゃったじゃないか」

 

「どちらかといえば、アスくんのせいだと思うけどね〜?」

 

 意味深にニヤニヤしながらミカは「それじゃもう一回出掛けてくるね」と出て行った。

 

「ツキシマさんもミカ姉も、なんなんだ?」

 

 テスト勉強するか、とアスノは気持ちを切り替える。

 

 だからお前はアホなのだ。

 

 

 

 週明け月曜日。

 

 ソウジは死んだ魚の目をしながら、カンナから与えられた"宿題"を教室の机の上に叩き付けた。

 

「ど、どうだ、ちゃんとやって来たろ……?」

 

 それを受け取ると、アスノとカンナが二分割してすぐさま採点していく。

 

「……こっちの正答率は七割くらいだね」

 

「こちらは……ざっと六割ほどです。合格ですよ、キタオオジさん」

 

 合格。

 つまり、今日の学食は三人の奢りだ。

 

「や、やったぜフラン、ヘヘッ……」

 

 やったぜフラン砲(∀ガンダムの拡散ビーム砲)でターンXのウェポンプラットフォームを破壊した時のジョゼフ・ヨットのセリフを発するソウジ。

 さすれば。

 

「兄弟よォ、今、女の名前を呼ばなかったかい?」

 

 すると、ショウコが急に声にドスを聞かせつつ、足を組んで椅子に座り、両手を頭の後ろで組んで踏ん反り返った。

 

「期末テストでなぁ、たかが一科目が安全になっただけでテストが終わった気になっているというはなぁ、赤点ギリギリの学生が甘ったれている証拠なんだよォ」

 

「いや、ショウコ。ソウジもちゃんと頑張ってきたから、これ以上はよしとこうよ」

 

 ギム・ギンガナムのふてぶてしさ全開のセリフを発するショウコを、アスノは抑える。

 

「まぁそうだけどさ。テストは数学だけじゃないし、安心してもらうにはまだ早いかなーって」

 

「でしたら、各科目で宿題をご用意しましょうか?」

 

 懸念を述べるショウコに、カンナは第二の宿題の厄祭戦を提案する。

 

「や、やめろ!お前らは俺を夏休み前に殺すつもりかッ……!?」

 

「ソウジ。赤点だらけで選手権出場が出来なくなるか、赤点回避して死ぬか、どっちがいい?」

 

「どっちも選びたくねぇよその二択ゥ!?」

 

 

 

 そして運命の期末テストを迎え、採点、返却。

 

 放課後になって、カンナはアスノ達のやって来た。

 

「アスノさん、今回はいかがでしたか?」

 

「うん、中間テストの時よりは少し上がったかな」

 

 みんなでテスト勉強したしね、と言うアスノ。

 

「あたしも前よか上がった感じ」

 

 ショウコも成績が上がったらしい。

 

 一番の懸念材料であったソウジはというと……

 

「すげぇ……」

 

 その彼は、各教科の答案用紙を広げて持って来る。

 

「赤点回避どころか、入学以来最高の点数だ……!」

 

 それらは全て75点以上をキープしている。

 

「やったねソウくん!」

 

「さすがソウジだ、なんともないぜ!」

 

「おめでとうございます!」

 

 三者三様、ソウジの頑張りを喜ぶ。

 

「はーーーーーっ、あんだけやって赤点だったら、どうしようかと思ったわ……!」

 

 すっかり気の抜けたソウジは、崩れ落ちるように椅子に座り込む。

 

「けど、これで心置きなく選手権に臨めるってこったな!」

 

「選手権前の合宿も安心して出来ますね!」

 

 カンナがそう挙げたように、夏休みの上旬の間に、どこかしらで合宿を考えている。

 それをどこでするのかという話になりそうだが……

 

「いやっ、今はそれよりGPVSだ!十日間で溜まりに溜まった鬱憤晴らしだ!」

 

 行こうぜ、とソウジは我先に教室を飛び出していき、残る三人も慌ててあとを追う。

 

 後背の憂いは絶たれた。

 あとは、前を向いて進むだけだ。

 

 忘れられない夏は、もう目前だ――。

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