夏の陽射しを照り返し、プリズムの輝きを放つ海峡を跨ぐ大橋を、一車の白いリムジンが駆ける。
「何ていうか……こんな贅沢が許されていいんだろうか」
そのリムジンの、座り心地が良すぎて逆に違和感しかしないシートに背中を預けながら、アスノは誰と言わずそう呟く。
「くー、かー、くーかー……」
アスノとは逆に、座り心地に早くも適応して居眠りをしているのはソウジ。
「うーん、カンナちゃんがお嬢様なのは知ってたけど、まさかこれほどとは思わないよねぇ……」
アスノに同調するように苦笑するのはショウコ。
「わ、私としては、タクシー代わりのつもりでご用意させたのですが……」
しれっととんでもないことを言うのはカンナ。
「いい眺めだ……夏が来たって感じだ」
現実逃避か素で言っているのか、ぼんやりと海峡を眺めながらぼやくのはジュゲム。
少しだけ前に遡る――
一学期の終業式を終えて。
チーム・エストレージャの五人は、兼ねてより予定していた夏合宿を実行しようとしていた。
合宿ということで、それをどこで行うのかという話になったのだが、そこでカンナが案を示した。
「私の別荘はいかがでしょうか。旅費交通費などもかかりませんし、出迎えは私の方で車を出しましょう」
これを聞いて、アスノ、ショウコ、ソウジの三人は絶句した。
別荘があるだけでも驚愕モノだが、しかも利用するに当たって料金は取らないという。
「……もしかして、どこか既に予約を入れていたのでしょうか?」
絶句した三人を見て、カンナは恐る恐る訊ねて来た。
「……あの、ツキシマさん?何ていうか、いいの?」
いち早く正気を取り戻した(?)アスノが、本当にそこを利用してもいいのかと。
「訳アリ物件ではありませんよ。ちゃんと土地の所有権の元に管理しておりますので」
そういう問題じゃない、と三人は言外に声を揃えた。
「ま、まぁ、いんじゃね?どっか適当な近場の宿でも取ろうかと思ってたけど、連れて行ってくれるんなら、ありがたく行こうじゃねぇか」
次に正気を取り戻した(?)ソウジは、素直にその厚意に甘えさせてもらえばいいという。
「え、えーと……あたし、パーティドレスとか無いし、何なら社交ダンスとか出来ないんだけど……」
どこへ行くのか勘違いしているのか、ショウコは思い切り的外れな心配をしている。
「服装は私服で構いませんし、社交ダンスは……必要であれば、練習の場もありますよ?」
ガンプラに社交ダンスは必要ないかもしれないが、カンナも的を外した回答をする。
「あの、皆さん?選手権に向けた夏合宿をするのですよね?」
何か間違ってないかと、カンナは懸念する。
紆余曲折はあったものの、ともかくはカンナが招待する別荘での二泊三日の夏合宿が仮定、ジュゲムとの予定も擦り合わせた上で決定された。
その上でカンナは、"特別講師"も一人招待したという。
それは一体誰なのかと三人が訊くと、カンナは「それは当日までの秘密ですが、アスノさんもご存知の方ですよ」と答えた。
もしやアカバ・ユウイチのことではないかと期待した三人だが、それならアスノだけでなく、ソウジもショウコも知っているはずであり、「アスノさんもご存知の方」には当てはまらない。
特別講師とは、一体誰なのか。
蒼海学園の校門前からリムジンに揺られる(実際は揺れなどまるで感じなかったが)こと二時間ほど。
「ここが、ツキシマ家の別荘になります」
カンナが率先して先頭に立ち、それを見せる。
白磁のような大理石の壁に、景観のために配置されたのだろう植木。
プレジデントハウス……とまではいかないが、それに類するものがあるほどの、巨大な屋敷。
「「「………………」」」
案の定というべきか、幼馴染み三人はまたも絶句し、
「ほほー、これまた立派な別荘だ」
ジュゲムは抑揚なく感嘆する。
「さぁ、早速中へ。"特別講師"の方もお待ちになられているはずです」
カンナの案内に従い、四人は玄関ロビーを潜る。
寝室は女子二人と、男子二人、加えてジュゲムと特別講師のための三箇所をキープ済みである。
それぞれの寝室に荷物を置き、ガンプラ製作のための諸々を手に、この別荘の『工作室』へ向かう。
カンナが別荘に滞在中は、そこでガンプラを作っているという。
そこへ案内されたアスノ達。
カンナがドアを開けると……
「やぁ!待っていたよ、チーム・エストレージャのみんな!」
やたらとテンションの高い若い男性――以前にガンプラ製作体験会の司会進行を努めていた――ナルカミ・ハヤテがサムズアップを決めて待ってくれていた。
「ハ、ハヤテ教官!?」
真っ先に反応したのはアスノ。
なるほど、確かにカンナとアスノだけが知っていて、ソウジとショウコは知らない相手だ。
「久しぶりだね、イチハラ君。覚えていてくれて光栄だ」
「も、もしかして、ツキシマさんに呼ばれた特別講師って言うのは……ハヤテ教官のことですか?」
「もちろんだ!ビルドでもバトルでも、君達のために力を尽くそう!」
屈託のない爽やかな笑みで頷くハヤテ。
「アスノ、知ってんのか?」
ハヤテとは初対面であろうソウジは「こいつ誰?」という顔をしながらアスノに素性を訊ねる。
「うん、前にツキシマさんと出掛けてた時に、知り合った人なんだ。子ども向けのガンプラ製作体験会の時に人手不足で困ってたとこに、僕とツキシマさんがその場に居合わせたから」
「いやぁ、あの時は本当に助かったよ。今回は、前の恩返しも兼ねているからね」
おっと失礼、とハヤテは襟を正す。
「改めて、今回君達の特別講師として招待された、ナルカミ・ハヤテだ。みんな、よろしくね!」
「よろしくお願いします、ハヤテ教官!」
「よ、よろしくお願いします……」
カンナは元気よく、アスノは腰引き気味に挨拶を返す。
ソウジとショウコも互いに顔を見合わせて、とりあえずは挨拶だ。
「えー、俺はキタオオジ・ソウジっす。よろしくお願いします」
「あたしはコニシ・ショウコです。よろしくお願いしまーす」
最後にジュゲムだが、彼は少し反応が違った。
「ナルカミ・ハヤテと聞くと……あなたは確か、去年の冬の選手権の準優勝チーム、『月影』のリーダーでは?」
「おぉ、俺のことを知ってくれていたか。そう言えば君は確か……」
「オレはジュゲムです。よろしくお願いします、ナルカミ教官」
ハヤテはジュゲムのことを思い出そうとしたが、それよりも先にジュゲムは遮るように自己紹介をした。
「ジュゲム?はて、そんな名前だったか……うーん、まぁいいか」
半年前の事なのでうろ覚えなのもやむ無しとして、ハヤテは本題に移る。
「それじゃぁ早速、レッツ・ビルドと行こうか!俺も自分のガンプラを作るけど、何か手伝ってほしいことがあるなら、いつでも言っていいからね」
そう言ってハヤテが指す先は、広々とした長テーブルに椅子がいくつかに、エアブラシとそれら塗装ブースが壁に並んだ、まさに万全の構えの製作スペース。
「はい教官、早速質問いいですか?」
真っ先に挙手したのはショウコ。
「何かな、コニシさん」
「選手権の準優勝チームのリーダーなんですよね?どんなガンプラか、見せてくれますか?」
「もちろんだ。ちょっと待ってくれよ……」
ハヤテは踵を返し、自分の荷物からケースを取り出してくる。
「これが俺のガンプラ、黒影丸だ」
ケースを開いたハヤテに、ソウジもショウコの横から覗く。
「おっ、佐助デルタガンダム……じゃねぇな、才蔵デルタカイの方っすか?」
「その通り。ベースは才蔵の方だけど、一部パーツは佐助のものや、荀彧ストライクノワールを組み込んで製作しているよ」
ハヤテの説明を聞きつつも、ショウコはその完成度に目を見張る。
「おぉ……パッと見はほぼ真っ黒なのに、ところどころの微妙な塗り分けがすごい……!」
「ワールドヒーローズ系は塗り分け地獄だからね……苦労したんだよ、これ」
ソウジとショウコが、ハヤテと会話している間。
「ではアスノさん、始めましょうか」
「うん」
カンナとアスノは製作スペースに移動していく。
ジュゲムも自身のダーティワーカーに手を付けるつもりらしく、製作スペースへ移る。
各々が製作を開始して一時間ほどが過ぎた。
アスノはAGE-Iの全面強化改修し、
カンナはライジングガンダムに別キットのパーツを組み込んで根本的な強化を図り、
ソウジはガンダムアスタロトブルームをどう改造していくかの試行錯誤を繰り返し、
ショウコはカンナと同様に、プリンセスルージュに別キットを組み込んでおり、
ジュゲムは緻密にダーティワーカーのリペイントやウェザリングを行っており、
ハヤテはマイナーな機体である『スペルビアジンクス』をスクラッチしつつ作っている。
「ねぇカンナちゃん」
ふとショウコは、カンナに話しかける。
「何でしょうか?」
「GPVSする時は、どこでするの?」
完成したガンプラの試運転、あるいは普通にバトルをする時、それはどこでするのかとショウコは訊ねた。
恐らくは近くのアミューズメントスポットでするのだろうと思っていたショウコであったが、
「この別荘で出来ますよ」
予想外な答えが帰ってきた。
「「「ゑっ」」」
またしてもアスノ、ソウジ、カンナの三人の声が重なる。
「へぇ、家庭用の筐体があるのか」
ジュゲムは驚かずに頷いている。
「バトルをしたい時も、ここで出来るんだよ。俺も最初は驚いたけどね」
ハヤテは苦笑しつつも抜かりなくスペルビアジンクスのパーツを作っていく。
「あ、でも今、僕達は自分のガンプラに手を付けてる最中だし……予備のガンプラとかも持ってきてないな」
バトルしようにも、バトルに使えるガンプラを持ってきていない、とアスノは言うが。
「でしたら、ここで飾っているガンプラを貸し出しましょうか」
別荘にまでガンプラを飾っているというカンナ。
「何から何まで……なんか、肩身が狭ぇ」
万全過ぎる体勢に、ソウジは態度を萎縮させる。
「うん、なんか……庶民でごめんなさいみたいな」
ショウコも、ソウジと同じように気後れしている。
「ここにいる面子なら、合わせて六人か。ツキシマちゃん、筐体は何台あるかな?」
冷静に受け止めているのはジュゲム。
「さすがに六台も無いので、3on3は出来ませんが、四台あるので、2on2は可能ですよ」
「ふむ。それなら交代しつつになるね」
筐体の数を教えるカンナに、同じく冷静に頷くハヤテ。
さて六人中の四人、誰がバトルするのかと言うと。
「僕は今ちょっと手を離したくないし、一旦パス」
「私も今は製作に集中したいので……」
アスノとカンナは作業中なのでパス。
「となると、俺とショウコの二人か?」
そうなると残された四人は必然的に、ソウジ、ショウコ、ジュゲム、ハヤテの四人。
「チーム分けはどうするの?また前みたいに、グッパーで決める?」
組合せはどうするのかとショウコは案を挙げるが、
「ふむ、ならここはオレがナルカミ教官と組もう。いいですね、教官?」
ジュゲムはハヤテと組むと進言。
「もちろんだ。よろしく頼むよ、ジュゲム君」
ハヤテもそれに了承したことによって、
ソウジ&ショウコVSジュゲム&ハヤテ
の2on2バトルになる。
「ガンプラとGPVSの筐体は、隣のショールームにありますので、どれでもお好きなものをどうぞ。あ、壊さないでくださいね?」
カンナが隣室のショールームを指し、バトルに臨む四人はそちらへ移動する。
アスノとカンナは二人で製作に集中だ。
ショールームのガラスケースにずらりと並ぶガンプラ群。
「おぉー、どれも綺麗に仕上がってるね。さすがカンナちゃん」
ショウコはどれにしようかと目移りさせている。
「んじゃー俺は……これにすっか」
ソウジはガラス戸を開けて、その中から重MS『ディランザ』を選んだ。
『水星の魔女』に登場するジェターク社の量産型MSで、派手なマゼンタピンクカラーに長大なビームパルチザンを装備した、グエル・ジェタークの専用機だ。
「じゃぁあたしは……F91!」
ショウコは『ガンダムF91』を選んだ。
設定全長15m級の機体が、重厚なフォルムを持つディランザと並ぶと、いかにサイズ差があるかが分かる。
「ディランザとF91、か。ならオレは……おっ、ガブスレイがあるじゃないか」
ジュゲムが選んだのは『ガブスレイ』
『Z』に登場するティターンズの可変MSだ。
「ジュゲム君はガブスレイか。よーし、それじゃぁ俺はラヴファントムで行こうかな」
最後に、ハヤテが『ガンダムラヴファントム』を選んだ。
こちらは『ガンダムビルドダイバーズ』に登場する、ストライクフリーダムガンダムがベースの格闘機だ。
筐体の電源を入れて立ち上げ、オフラインの2on2バトルを選択。
ランダムフィールドセレクトは『アーティ・ジブラルタル』
原典作品は『V』からで、宇宙世紀におけるマスドライバーを保有する中立地であったが、一方的な武力制圧を試みるベスパと、それを阻止せんとするリガ・ミリティアとの戦いが繰り広げられる。
障害物として、フィールド中央を大きく横切るマスドライバーが配置されており、破壊してもペナルティはない。
「キタオオジ・ソウジ、ディランザ、行っとくか!」
「コニシ・ショウコ、ガンダムF91、レッツゴー!」
『ジュゲム、ガブスレイ、仕事の時間だ』
『ナルカミ・ハヤテ、ガンダムラヴファントム、行くぞぉぉぉぉぉッ!!』
ソウジのディランザと、ショウコのガンダムF91が到達し、索敵開始。
「重い機体の割に、反応は悪くねぇな」
ディランザ自体、初めて操縦するソウジだが、その操作性に難を示すこともなく、早くも順応しつつある。
ディランザは重量級の機体でありながら、機動性も標準レベルを維持しつつ、操縦性も容易であることから、多くのジェターク寮生が本機を使用しているという。
「いかにも強そうなのに、第一話でキレイに負けてから一切出てきてないよね、そのディランザ」
ガンダムF91の武装を確認しつつも、ショウコはその派手なブレードアンテナと、それに添えられた(卑猥な形状と囁かれている)羽根飾りを見やる。
「活躍面じゃいいとこ無しのダリルバルデよりはマシじゃねぇか?デザインはダリルバルデの方が好きなんだけどなぁ」
水星の魔女のストーリーの都合上の問題なのか、決闘で負けた機体は基本的に再登場しない。
それはさておくとして、前方より敵対反応が接近。
ノワールストライカーを改造したラヴストライカーを広げて飛行するハヤテのガンダムラヴファントムと、MA形態に変形したジュゲムのガブスレイ。
『先制攻撃をさせてもらう』
ハヤテは原典機由来のマルチロックオンシステムを起動し、ディランザとガンダムF91を同時にロックオンすると、
『当ぁたれぇぇぇぇぇーーーーーっ!!』
サイドスカートのレールガン『クスィフィアス3』と、ラヴストライカーの連装リニアガンを展開、さらには腹部のビーム砲である『カリドゥス』を含めたフルバーストを放つ。
カリドゥスで両機を分断し、二対の電磁加速砲が追い撃ちをかける、計算された攻撃だ。
『狙い撃つ』
ジュゲムのガブスレイもMS形態に変形し、フェダーインライフルを構え直すなり、ガンダ厶F91目掛けて連射する。
「っ、とっ、とっ!逃げ回りゃ死にはしないっと!」
ショウコは巧みに操縦感を振るって回避していく。
しかしジュゲムの射撃は、ショウコとソウジとの距離を引き離すためのものだ、早くも連携が取れる距離を失われてしまい、ショウコもまだそれに気づいていない。
「行くぜ!」
ソウジも攻撃を回避するなり、ディランザのビームパルチザンを出力し、十字槍のようなビーム刃を発振させ、ガンダムラヴファントムへ突進する。
対するガンダムラヴファントムもビームカマを構え直してディランザを迎え撃つ。
同じ濃いピンクと黒を基調とし、クリアグリーンのビーム刃の長物を扱う機体。
ビームパルチザンとビームカマが衝突、弾かれ合う。
ディランザは左脚を一步下げて重心を低く構え、素早くビームパルチザンを突きだす。
『なんのっ』
対し、ガンダムラヴファントムはラヴストライカーを翻してバック転、ビームパルチザンを躱し、着地と同時に跳躍し、急降下しながらビームカマを振り下ろす。
「なめんな!」
ディランザはビームパルチザンを薙ぎ払ってビームカマを弾き返すが、ガンダムラヴファントムは弾かれた勢いを逆利用して瞬時に体勢を立て直すと、
『そぉらそらそらそらそらそらァッ!!』
縦横無尽にビームカマを振るいながらもディランザへ肉迫する。
その乱撃を前に、ソウジは必死にビームパルチザンで防いでいくものの、防戦一方に傾く。
「クソッ、強ぇ!教官とか呼ばれてんのは伊達じゃねぇってかっ」
『いい反応だキタオオジ君!だが隙だらけだぞ!』
瞬間、振り上げられたビームカマがビームパルチザンを跳ね上げ、がら空きになったディランザのボディに、ラヴストライカーの連装リニアガンが撃ち込まれる。
「ぐおぉっ!?」
砲弾が炸裂、ディランザは吹き飛ばされる。
バイタルバートへの直撃、しかしディランザの重装甲が幸いしたか、損傷はしたものの撃墜はされなかった。
だが、ソウジが体勢を立て直そうとしている内に、ガンダムラヴファントムは明後日の方向――ショウコのいる方へ向かっている。
「やらせるかよ!」
ソウジはすぐにディランザを起き上がらせ、その後を追う。
ガンダムF91のビームライフルと、ガブスレイのフェダーインライフルが交錯する。
フェダーインライフルと肩部メガ粒子砲を掻い潜りつつ、ショウコは果敢に格闘戦を挑み、ビームサーベルを振るうものの、対するジュゲムは素早くウェポンセレクターを回し、フェダーインライフルの銃剣ビームサーベルを選択、フェダーインライフルの柄尻からビームサーベルが発振され、槍のようにして受ける。
一撃、二撃と打ち合い、ガンダムF91が三撃目を振るうべくビームサーベルを振り下ろそうとした時、不意にガブスレイは右脚を振り上げ――右脚だけをMA形態に変形させ、クローアームでガンダムF91の左腕を挟み込んだ。
「そっかっ、ガブスレイの脚って……!」
『バイアランカスタムにも採用されるくらいには強力らしいね』
メギメギメギメギと嫌な軋轢音を立てて、ビームシールドの展開も間に合わずに、ガンダムF91の左腕がクローアームに握り潰されていく。
「や、やばっ……!」
ショウコはすぐにコンソールを打ち込み、ガンダムF91の左肩から下を切り離してすぐに飛び下がる。
しかしそこで安堵する余裕は無かった。
ソウジの相手をしていたはずの、ハヤテのガンダムラヴファントムが上空からビームカマを片手に猛スピードで降って来ているのだ。
『覚悟はいいかい?』
ビームカマを振りかぶり――
『受けてみろぉっ、そぉりゃぁぁぁッ!』
なんとその間合いから投げつけて来た。
ビームブーメランのような光輪を描きつつ、高速回転するビームカマがガンダムF91に襲い掛かる。
「なっ、な、なんとーッ!?」
驚くよりも先にショウコの反射神経が上回る。
咄嗟、ビームサーベルをビームカマへ投げ付け、瞬時にウェポンセレクターを回し、背部の一対のバインダー――『ヴェスバー』を選択し、破壊力を高めたそれをビームサーベルに向けて放つ。
投げ付けたビームサーベルにヴェスバーのビームがぶつかり、そのメガ粒子の波動が拡散する――ビームコンフューズだ。
蛍光グリーンの障壁がビームカマを食い止め、弾き返す。
『ビーム……いやっ、ヴェスバーコンフューズか!考えたなコニシさん!』
跳ね返ってきたビームカマを取り戻すガンダムラヴファントム。
「ふぅ、危な……」
『だが、迂闊だね』
ビームカマを凌いで安堵する間はない、ヴェスバーでビームコンフューズを為している間にも、ガブスレイはガンダムF91の死角に回り込んでおり、フェダーインライフルをその背後に向けて放ち――
その直前に、ビームの十字槍が火線に割り込み、掻き消してしまう。
『おや?』
それはビームパルチザン――ソウジのディランザだ。
「ソウくん遅ーい!あたし今危なかったんだから!」
「無茶言うなって、ディランザは空飛べるほど速くねぇんだか、らっと!」
ビームパルチザンを引き、即座にビームライフルを撃ち返すディランザ、ガブスレイもその場を跳躍してビームを躱す。
「ビームシールド使えねぇんだろ、とっとと俺を盾にしろって!」
「言われなくてもそうしますー!」
ディランザはビームバルカンを速射しながらガブスレイへ突進し、その背後へ隠れるようにガンダムF91が続く。
『ふむ、仕切り直し』
ジュゲムはガブスレイを変形させ、ビームバルカンを躱しながら急速離脱、ガンダムラヴファントムの元へ急行する。
「待ちやがれ、逃がしゃしねぇよ!」
ディランザとガンダムF91はガブスレイの背面へ向けてビームライフルを撃つものの、その間にガンダムラヴファントムが割り込むと、ビームカマを高速回転させて即席のビームシールドのようにして防いでしまう。
『さぁ二人とも!形勢不利のようだが、ここからどう巻き返すのか、俺に見せてくれ!』
ビームカマを大きく構えてみせるハヤテ。
「いっちいち暑苦しい教官だな……!」
「ソウくん!あたし達のチームの底力、今こそ見せる時でしょ!ほら、突撃ー!」
ゲシゲシとディランザのリアスカートを蹴るガンダムF91。
「うっせぇ!分かってるってーの!」
文字通り尻を蹴られ、ソウジは操縦桿を押し出してディランザを加速させる。
向かってくる二機に、ガンダムラヴファントムはガブスレイの前に躍り出る。
ふと、ジュゲムはハヤテへ接触通信を行う。
『教官、"二人ジェットストリームアタック"です。分かりますね?』
『ん?よぉしっ、心得たぞっ!』
ジュゲムの言葉を汲み取ったハヤテ。
直進、再びディランザとガンダムラヴファントムが激突するかに思えたが。
ビームパルチザンとビームカマが衝突、しかしガンダムラヴファントムは即座に弾かれるように飛び下がり、
その背後から銃剣ビームサーベルを発振させたガブスレイが迫る。
「それくらい読めてらぁ!」
瞬時、ディランザはビームパルチザンを振るってフェダーインライフルを弾き返し、重心を入れ換えると同時にショルダーシールドのスパイクでガブスレイを吹き飛ばす。
「行けショウコ!」
「はーい!ジュゲムさん覚悟ー!」
さらにディランザを踏み台にしてガンダムF91が跳躍し、ビームライフルとヴェスバー二基を同時に展開、ガブスレイを撃ち抜かんとするが、
『ふむ、残念』
諦めたかのようなジュゲムの呟き。
だが、
『オレと教官の勝ちだ』
「ぁんだと?」
「えっ?」
瞬間、ディランザとガンダムF91の『真上から』、カリドゥスとクスィフィアス3、連装リニアガンが降り注ぎ、二機とも撃ち抜かれてしまった。
ディランザ、ガンダムF91、撃墜。
『Battle ended.』
「クッソー!そこで教官が来るとか聞いてねぇ!」
ソウジは悔しげに項垂れる。
「あれ、囮は教官じゃなくて、ジュゲムさんの方だったね」
ショウコは、最後に二人が仕掛けてきた攻撃の意図を察した。
最初に前衛たるガンダムラヴファントムが攻撃してみせ、時間差攻撃による本命をガブスレイだと思わせ、それすらも囮で、本命の本命はガンダムラヴファントムのフルバーストで二機同時撃破。
それこそが、ジュゲムとハヤテの狙いだったのだ。
「さすがはチーム・月影のリーダー、お見事です」
「いやいや、あの場で二人ジェットストリームアタックを思い付いたジュゲム君も素晴らしい!」
ジュゲムとハヤテは、互いの活躍を認めてハイタッチしている。
さて次はどうするかと思った時。
「よしっ、俄然燃えてきた。とっととガンプラ強化して特訓だ!」
「うんっ、早くガンプラ完成させて、もっとバトルの練習しなきゃだね!」
ディランザとガンダムF91をショーケース内に戻して、ソウジとショウコは工作室へ戻っていく。
「うんうん、二人ともやる気に満ちて何よりだ」
満足げに頷くジュゲム。
「あぁ、そう言えばジュゲム君。ひとつ思い出したことがあるんだ」
ふとハヤテは、思い出したことをジュゲムに話す。
「確か君、前はチーム・『ヘルハウンド』にいたと思うんだが……」
「人違いではありませんか?」
不意に、ジュゲムはどこか食い気味にそれを遮った。
「オレは今回チームを組んで大会に初出場の、ジュゲムです。あまり土足で人の中に入ると、ハマーン様に「俗物」と罵られますよ?」
「む?しかしあのEz8は……いや、分かった」
ジュゲムの様子から何かを悟ったハヤテは、それ以上の詮索は止めにした。
別荘地での合宿は、まさに至れり尽くせり。
食事やおやつは、一流シェフやパティシエが手掛けた最高品質の料理が提供され、浴場は大理石作りの大浴場が男女別。
寝室周りでも、シーツの交換や清掃は執事やメイド達の手によっていつの間にか行われている。
「俺、これから大人になって高級ホテルとかに泊まることがあっても、これ以上の環境は無いって断言出来る気がするわ……」
初日の晩、風呂上がりに、特上のベッドの上で寝転がりながらソウジはそうぼやいた。
「僕もそう思う……」
アスノも、この充実過ぎる待遇に、逆に疲れている。恐らくはショウコも同じように感じているだろう。
「アスノ、もう寝んのか?」
「いや、もうちょっとガンプラに手を入れてからにするよ」
そう言いつつ、アスノはガンダムAGE-Iの改造パーツの製作を継続する。
「そうか。んじゃ、俺ももうちょいやるか」
ソウジも、ガンダムアスタロトブルームの改造パーツを手にかけていく。
男子二人が眠りについたのは、日付も変わりかける頃だった。
夜明け。
時刻は6:30、アスノとソウジの部屋に、アスノのスマートフォンから通話の着信音とバイブが発される。
「ん、んん……?で、電話ぁ……?」
「おいアスノ、電話鳴ってんぞ」
アスノよりも先に起きていたらしいソウジは、アスノのスマートフォンを充電器から抜くと、彼に押し付ける。
通話の相手は、ショウコからだった。
「ふぁい、もしもしぃ……?」
『アスくんおっはよー!今日もいい天気だよー!』
『ショウコさん、あまり大声だとアスノさんの心臓に悪いですよ』
耳をつんざくようなショウコのモーニングコール。
「……ショウコ?朝からどうしたの……」
まだ寝ぼけ状態のアスノは、重い瞼を擦りながらショウコに何が起きたのかと訊ねる。
『ハヤテ教官が、外に出てラジオ体操するぞって』
「ラ、ラジオ体操……?」
「はぁ?なんでまたラジオ体操?夏休みの小学生か?」
その横から、ソウジも何故ラジオ体操なのかと耳を傾けている。
アスノは、ソウジにも聞かせるためにスピーカーモードに切り替える。
『ガンプラ作りもガンプラバトルも、健康な身体があってこそ、とのことです』
カンナがその理由を代弁してくれる。
『ほら、二人とも早く起きる!ジュゲムさんと教官、もうラジオ体操の準備出来てるから』
「わ、分かった、すぐ行くよ」
通話を終えたところで、アスノとソウジはすぐに身辺整理と洗顔を済ませて、屋敷の外へ急ぐ。
朝から蝉の群れが爆音のジャズを掻き鳴らす中、屋敷を出たすぐのところで、先に出ていた四人が待っていた。
「おはよう二人とも!待っていたよ!」
朝からテンション高くイキイキしているハヤテ。声量からして蝉に負けていない。
「おはようございます、ハヤテ教官」
「はよーごさいまっす」
アスノは礼儀正しく、ソウジは生返事でそれぞれ挨拶を返す。
「さぁ、早速ラジオ体操第一だ!ラジオ体操第一!!まずは両腕を上げて背伸びの運動!!」
ハキハキと、キビキビと、ラジカセも使わずに自分の声でラジオ体操の音頭を取る。
「「いーち、にーぃ、さーん、しーぃ!」」
女子二人は元気よく、
「「ごー、ろーく、しーち、はーち……」」
男子二人は気怠そうに、
「にー、に、さん、し!」
ジュゲムはごく普通に。
「イチハラ君とキタオオジ君!声が小さいぞぉ!ガンプラバトルは、気合と気迫と気持で勝負だ!次は上下運動!!」
朝のラジオ体操どころか、もはや体育の授業である。
「うーん、いい感じに汗をかいた。さぁ、シャワーを浴びたら、朝ごはんが俺達を待っているぞ!」
一体どれだけ強靭な声帯をしているのか、第一、第二まで音頭を取ったにも関わらず咳払いひとつしないハヤテ。
「な、なんでハヤテ教官、あんなに、元気なんだ……?」
アスノはぜーはーと息を切らしている。
「あ、朝から声出し過ぎて、むしろ頭痛ぇ……」
ソウジは早くもヘロヘロである。
「な、なかなかハードなラジオ体操でしたね……」
カンナも汗を拭っている。
「情けないぞー三人とも!あたしはまだまだ元気だね!」
「さてさて、極上の朝食を戴こうとするかね」
ショウコは元気いっぱいをアピールし、ジュゲムも平気な顔で屋敷に戻って行く。
朝食を終えたら、アスノは早速製作ブースを占拠してガンダムAGE-Iの改造を再開。
カンナもその右隣席に付いてライジングガンダムの改造。
ショウコはその反対、アスノの左隣についてプリンセスルージュの改造を進める。
ソウジもショウコの隣でガンダムアスタロトブルームの改造。
朝のラジオ体操のおかげもあってから、その進捗は著しいものだ。
ちなみにジュゲムとハヤテは、カンナのショーケースからガンプラを借りつつ、タイマンバトルに興じている。
午前中を緩やかに過ごし、昼食のあとも製作だ。
「アスノさん、SDのAGE-2のパーツも使うのですね?」
カンナは、アスノのスペースにあるBB戦士の『ガンダムAGE-2』のパッケージを見やる。
「うん。HGでもいいんだけど、SDの方がパーツの作りが簡単だから、モノにもよるけど改造しやすいんだ」
「なるほど……参考になります」
ふむふむと頷くカンナに、「そこまで大したことしてるわけじゃないんだけど」とアスノは苦笑する。
アスノとカンナが和気あいあいと話し合う、その隣。
「………………」
アスノの左隣でプリンセスルージュの改造パーツを製作しているショウコ。
しかしその進捗具合は、右隣にいる二人ほど進んでいない。
チラチラと、アスノとカンナの楽しそう様子を横目で見つつ、製作を続けているが、やはりすぐに手が止まってしまう。
「どうしたんだショウコ?さすがに疲れた?」
ふとアスノは、彼女の手が頻繁に止まっているのを見て、声をかける。
「え?……あー、うん、そうかも?」
ショウコは、咄嗟にそう言い繕った。
「なんかこう、上手くいかなくてさ」
ガサガサと孫尚香ストライクルージュのパッケージに、製作途中のパーツを放り込んで収納する。
「あたし、ちょっと気分転換しに行くね」
「え、ちょっ、ショウコ……」
足早に製作室を出ていくショウコを、アスノは止められなかった。
「さっきまで元気だったのに、急にどうしたんだ?」
「どこか具合が悪いのでしょうか……?」
もしや体調を崩しているのではないかと心配する二人だが、
「……別に体調不良ってことじゃねぇだろ。単に行き詰まってるだけじゃね」
その二人に視線を向けないままにそう言うのはソウジ。彼の手元にはHGIBOの『ガンダムヴィダール』のパッケージが置かれている。
晴れ渡っていたはずの空は、いつの間にか薄灰色の雲が覆いつつあった。
ショウコは一人屋敷を出て、近くの浜辺をなんとなしに歩いていた。
「はぁ……」
溜息、ひとつ。
「(分かってるのに。カンナちゃんはアスくんのことが好きで、アスくんもきっと……)」
なのに。
アスノの気遣いを受ける度に、その優しさが心を揺さぶる、期待してしまう。
あの夕立ちを思い出す。
期待して、諦めかけて、それでも期待してを繰り返して。
砂浜に座り込み、前髪を掻きむしる。
「(なんかあたし、すっごい女々しい……)」
こんなところで、こんなことをしていても、何もならないのに。
けれど、今は屋敷に戻りたい気分ではない。
不意に、冷たい滴が頭に触れる。
一滴……から、一気に冷雨が降り注ぐ。夕立ちだ。
「やばっ……!」
ショウコは慌てて砂浜を立ち上がろうとして、不意にその雨が遮られた。
「何やってんだ、ショウコ」
それは、傘をさしてやっているソウジだった。
「あっ、ソウくん……」
「こんなこったろうと思ったよ。アスノもツキシマも心配してんぞ、ほれ」
手を差し伸べるソウジに、ショウコは頭を振る。
「イヤ」
「は?いやって、お前……」
「今戻るの、すっごいイヤ」
「……」
大きく溜息をつくソウジは、ショウコの後ろに回り込むと、彼女を羽交い締めにして強引に立ち上がらせる。
「んじゃ屋敷じゃなくて、せめて雨凌げる場所に行くぞ」
「ん……」
近くにある、閉店した海の家に移動する。
ベンチに座る。
「……なんか飲むか?」
「いいよ、気ぃ遣わなくて」
財布を取り出そうとしたソウジだが、ショウコは遠慮した。
暫しの沈黙。
「……で、何があったよ?」
埒が明かないので、ソウジは何故ショウコが戻りたがらないのかを訊ねる。
「…………」
「『アスノとツキシマの仲の邪魔になるから』、か?」
意図したわけでは無いだろうが、ソウジはショウコの図星を突いた。
「っ……人の心、読むなし」
「図星かよ。……アスノとツキシマが、そんなこと思うか?」
「そんなことない、と、思うけど……なんか、邪魔してる気になるの……あたしお邪魔虫だって、そう感じるの」
ショウコのその言葉の裏にある意味を汲み取れないほど、ソウジは鈍くないし、付き合いの長さもある。
「……告っちまえよ」
だから、ストレートに促した。胸に痛むもの感じながら。
けれどショウコは首を横に振る。
「ダメだよ……もうすぐ選手権だし、こんなことでギクシャクしてたら、カンナちゃんやジュゲムさんにも迷惑になる……」
彼女も分かっている。
今ここでアスノに好意を告白すれば、彼はその優しさ故に心の整理がつかなくなる。
そしてその告白の返事は、ショウコが聞きたくない内容だと言うことも。
ギチ、とソウジは苛立ちに奥歯を鳴らした。
「……なら、何も言わねぇまま、ずっとウジウジしてんのか?」
「ッ!」
ソウジのその言葉が、ショウコの心を逆撫でする。
「分かんないよっ!『誰かを好きになったことがない』ソウくんにっ、あたしの気持ちなんて!!」
「……っ」
誰かを好きになったことがない。
それは、額面以上の意味を以てソウジに突き刺さる。
「……悪い」
「うぅん……あたしもごめん……」
踏み込み過ぎた、とソウジは自分の発言を後悔した。
また、暫しの沈黙。
降り頻る雨音だけが二人を包む。
ややあって。
「…………いい加減、帰ろっか」
ふと、ショウコが立ち上がった。
空の明るさを見ても、そろそろ夕食時が近い頃で、さすがに屋敷にいる者らも心配するだろう。
「おぅ」
それを見てソウジも立ち、ショウコを傘の中に入れてやり、土砂降りの中を歩き出す。
――互いの心の靄は、晴れないままに。
雨が降ったため、塗装は後回しにしていたアスノは、全てのパーツを作り上げ、あとは晴れた日に塗装をするだけとなった。
カンナも同様で、午前中にパーツにサーフェイサーを吹き付けた状態で置いている。
「ショウコとソウジ、遅いなぁ……」
「もうすぐ夕ご飯ですが……どうしましょう、私達も探しに行きましょうか?」
「うーん、17時を過ぎても帰ってこなかったら、一度ソウジに電話してみよう。それで……」
アスノがそこまで言いかけたところで、ガチャリと玄関からドアが開けられた。
帰ってきたのは、ソウジとショウコの二人。
「たっだいまー!」
「ただいまーっと」
ショウコが元気よく、ソウジは気怠げにそれぞれ「ただいま」を告げる。
「あ、二人ともおかえり。どこいってたの?」
二人が変わらぬ姿で帰ってきたので、アスノはいつもの調子で訊ねると、
「逢い引きしてた」
しれっと、ソウジが爆弾発言をこぼした。
「んなわけないでしょっ!もう、バカソウくん!」
ベシベシとソウジの広い背中を叩くショウコ。
「……逢い引きでも合い挽きでもいいけど、もうすぐ夕食だよ」
微妙に訝しげに二人を睨むアスノ。
「はいはーい、ごはんの前に手洗いうがいだね」
「はいよー」
ショウコとソウジは回れ右をして、それぞれ充てがわれた部屋へ向かう。
残されたアスノとカンナは。
「さっきのソウジ、なんか変だったな……」
「え?私はどちらかというと、ショウコさんの方に違和感が……」
「……それってつまり、二人ともなんか変ってことだよね」
アスノはソウジの、カンナはショウコの、それぞれの異変を感じ取っていた。
夕食の後に入浴を予定していたが、ソウジだけは「途中になってるパーツの改造をやっておきたい」と、入浴を後回しにした。
ブルーのガンダムマーカーを片手に、細かい部分塗装を塗り込んでいるソウジ。
ふと、ドアがノックされる。
「ん、アスノか」
「残念、オレだよ」
アスノではなく、ジュゲムだった。
「なんだ、あんたか」
「入るよ」
ソウジの返事を待たずに、ジュゲムはドアを開けた。
「根を詰めたい気持ちも分かるけど、一度リフレッシュしたらどうだい」
「あぁ、ここだけやったらな……」
塗装に集中したいソウジは、ジュゲムに見向きもしない。
「コニシちゃんと何かあったのかい」
ズルッ、とマーカーがズレて、不必要な部分に塗ってしまうソウジ。
「……ちっ。別に、なんでもねぇよ」
舌打ちしてすぐにキムワイプを取り、不要な塗装部分を擦る。
「ならいいけど、出来ればそのギクシャク、選手権までには収めといてくれよ?」
「あんたはお気楽でいいよな、羨ましいぜ」
ソウジは一旦片付けて、入浴の準備をして部屋を出ようとする。
その、擦れ違う寸前に。
「そういう年頃なのは分かるけど、素直になった方が人生損しないものだよ」
「…………」
ジュゲムのその言葉に、ソウジは何も返さなかった。
――夕立ちは、未だ止みそうにない。