二九三九四四日目
目が覚める。鏡を見る。僕はとてもハンサムな男だ。こんな幸運は滅多にない。
意気揚々と外へ出る。古風な街が広がっている。可愛らしい女の子がいたので、話しかけてみる。
自己紹介をすると、彼女は女の子だった。彼女も僕の顔はかっこいいと思うらしい。
だから、僕は彼女と子作りをした。
ベッドの上で、僕達は「さようなら」と言い合って眠りについた。
二九三九四五日目
目が覚める。鏡を見る。僕はいかつい大男だった。
外へ出れば清々しい。広々とした畑がどこまでも続いていた。逞しい男達が沢山いる。
一人が言った。
「今日は皆で農作業かしら」
僕達は日暮れまで汗水流して働いた。
作業中だった。僕らのうちの一人が突然倒れた。皆と比べても背の高くて屈強そうな男だった。目が覚める所を見なかった。
時々あることだった。
二九三九四六日目
目が覚める。近くに鏡はなかった。声を出して見ると、高かった。服の中に手を入れたら女の子のようだった。
自分の姿が気になって、外へ出る。近くに池があった。水面を覗き込む。綺麗な顔があった。一昨日出会った子と同じくらいには可愛かった。
池の周りに黄色い小さな花が沢山咲いている。
僕は楽しい気持ちになって散策した。
男の子に出会った。
自己紹介をする。彼は男の子だった。僕も男の子だと言ったら、少し残念そうだった。
二九三九四七日目
目が覚める。上品な部屋だった。鏡を見ると、僕は精悍で紳士的な顔立ちだった。今は寝間着姿だ。でもクローゼットにはスーツやネクタイもある。
僕はいかにも気品あふれる紳士な身なりで外へ出る。
不思議なことを言う人に出会った。小さな少年だった。
自己紹介をすると、僕よりも年上らしい。
彼はなんだかよく分からないことをまくし立てた。
君達は破廉恥だとか、この世界は狂っている、とか、人類を救ってやらなければならない、とか。そうして哀れみの眼差しで僕を見る。
彼は何が言いたいのだろう?
二九三九四八日目
目が覚める。鏡を探そうとする。体がうまく動かない。声を出したらしわがれている。
周りには何人かの大人がいた。彼らのうちの二人が僕の世話をしてくれた。
僕は年老いた老婆らしい。
この器は寿命が近いということだった。
二九三九四九日目
目が覚める。大きな屋敷のようだった。すぐ傍で、女の人が倒れていた。血塗れだった。
力の強そうな男の人が座っていた。女の人を見下ろしている。片手に赤く濡れたフォークを握っていた。
身の竦む思いがした。
震える声で呼びかける。
自己紹介をしようよ。
男は言った。
「あうう」
それから、気持ちの悪いくらいに無邪気な笑みを浮かべて、一言。
「ふぉおく」
見せびらかすようにフォークを掲げた。
僕は恐ろしくなって駆け出した。
彼(?)はまだ言葉を覚えかけのようだった。遊んでいるつもりなのかもしれない。
男は四つん這いになって追いかけてきた。走っているのに、なぜかあまり距離をつけられない。鏡の前を通りかかった。僕は小さな子供だった。金の長い髪がたなびいていた。
男が僕の足首を掴んだ。僕は前にすっころぶ。慌てて上体を起こす。男に向き直る。男はご機嫌な顔でフォークをぶんぶんしている。
視界が滲む。僕は懇願する。やめてやめてやめて。機械みたいに何度も繰り返す。
男が僕のお腹にフォークを突き刺した。赤い液体が飛び散る。僕は甲高い悲鳴をあげた。
男にはそれが面白かったらしい。だあ、とか、うー、とか言ってはしゃいでいる。
男はフォークを引っこ抜くと、僕の体に何度も突き刺した。僕は痛い痛いと泣き叫んだ。沢山血が噴き出して、男の顔にも赤い点々がついている。
そのうち意識が朦朧としてきて、何も分からなくなった。