僕が禁忌を犯すまでの五日間   作:なかみゅ

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第三話

二日目

 目が覚める。隣に人の気配がある。昨日の女の子が眠っていた。これは一体どういうことだろう? 

 鏡を見ると、見覚えのある少年が映った。

 女の子の目が覚めた。話してみたら、彼女はやっぱり昨日と同じ女の子だった。

 外に出て、見知った顔を見つけては話しかける。皆、昨日出会った人達だった。

 僕はますます困惑した。

 天地がひっくり返ってしまったような気持ちがした。

 明日には戻っているかもしれない。

 僕は昨日と同じように過ごした。

 

三日目

 目が覚める。何も変わっていない。

 不安だった。何日もこのままなのだろうか?

 昨日と同じように過ごしていたら、白衣の男性が、道の真ん中で何か大声で話していた。人だかりができている。遠くてよく聞き取れなかった。

 その人が一人になるのを待って話しかけてみた。

 自己紹介をしたら、彼は僕が会ったことのある人だった。何日か前に話した小さな少年が彼だった。

 彼は前と同じようによく分からないことをまくし立てた。

 君達は救われたのだ、とか、××××(機械の名前らしい。難しくて聞いた瞬間に忘れた)を停止させた、とか、オカルトの時代が終わるのだとか。

 何を言っているのか全然分からなかったけれど、一つだけ理解できることがあった。どうやら、僕らはもう今の体に閉じ込められて出られないらしい。

 僕は茫然とした心地で彼と別れた。

 どうすればいいのか分からなくて、とりあえず昨日と同じに過ごす。

 夜になって、隣の家の女の子と話をした。彼女も白衣の人の話を知っていた。あの時の人だかりの中にいたのだろう。

 彼女はもう子作りをしたくないと言っていた。

当然だ。だって、妊娠したら自分で産まなければいけない。

 それが始めから分かっていたら、誰も子どもを作ろうとなんてしないだろう。

 彼女の体が子どもを孕んだとして、その子を出産するのは彼女かもしれないけれど、僕かもしれない。あるいは他の誰かかもしれなくて、その確率の方がずっと高かった。

 新しい子どもの産まれることは、僕らの過ごす器の数を維持する為に必要だったから、皆進んで子作りをした。魅力的な異性と出会っても、一日が過ぎたら別れて永遠に会えないことがほとんどだったから、ほんの少し互いに好感がもてたら、僕らは簡単に体を重ねた。

 産みの苦しみはなるべくなら避けたいものだったけれど、事故や病気と同じに平等な確率で皆に巡って来るものだから仕方のないことだと割り切れた。

 今まではそうだった。

 これからは違う。

 百年後には、僕らは皆裸の魂になっているかもしれない。

新しい器の産まれることはもうないかもしれない。

 

四日目

 目が覚める。体を起こす気力がない。昨日と同じ二階建ての家。昨日と同じ街並み。隣の家にいるのも昨日と同じ女の子。なんだかつまらない。何もしたくない。

 もっと色んな風景が見たい。もっと別な人と話がしたい。今の体にも飽きてきた。

こんな町から飛び出したい。こんな体から飛び出したい。

 僕は家を出ると、無我夢中で駆けだした。走り続けて、へとへとになって、どれくらい進んだかなと辺りを見回したら、大して景色は変わっていなかった。

 僕は落胆した。とぼとぼと元の場所に歩き始めた。

 やっぱり駄目だ。こんなに重たい体を引きずっていてはどこへもいけない。

 

五日目

 目が覚める。僕は決めた。こんな器はもう壊してしまおう。そしたらきっと外に出られる。

 自分のでも、他人のでも、器を傷つけることは絶対の禁忌とされていた。明日その体を使うのは別の人だから。でも今となっては関係ない。どうせ僕は、この器が壊れるまでここにいなければいけないんだから。

 隣の家の女の子に話しておこうと思った。何も言わないでおいて、僕の器が壊れているのを見かけたらびっくりしてしまうかもしれない。

 女の子の家に行ったら、彼女はいなかった。

 一番近くにある高い建物の屋上へ行った。

 隣の家の女の子がいた。

 声をかける間もなく飛び降りてしまった。

 べしゃっ。

 潰れるような音がした。

 僕は少し寂しい気持ちがした。

 僕と同じことを考えていたのなら、言ってくれれば良かったのに。

 彼女の飛び降りたのと同じ所に立ってみた。

 周りの建物を見渡すと、屋上に立つ人影が沢山見えた。

 ぱらぱらと飛び降りてゆく。

 なんだ。僕の考えは誰にでも思いつくみたいだ。残念だった。

 地上を見下ろせば女の子が血塗れで倒れている。頭が割れるのは痛いだろうか?

 フォークでめった刺しにされるよりはきっと楽だろう。あれは本当に痛かった。

 僕は飛び降りた。

 

 僕らは裸の魂でいい。

 

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