タキオンが元トレーナーのために孤島の学園で謎を解く 作:首狩兎計画
「やぁやぁ、警備員くん。少し、話をお聞かせ願えるかい?」
声を張らなくても聞こえる程度まで距離を詰めてから、タキオンはそう声をかけた。
警備員の後藤は、タキオンの声掛けが意外だったのか、目をぱちくりと瞬かせた。
黒髪をオールバックにしているせいで眼光は必要以上に鋭く見えるが、そんな間の抜けた所作をすると一気に雰囲気が和らぎ、まるでマスコットキャラクターのような印象を抱かせる。
「これは、五十嵐さん。そちらは見学のお客様で?」
「突然すみません、後藤さん。こちら、今回の脅迫状の調査をお願いしたアグネスタキオンさん、エアシャカールさん、テイエムオペラオーさんです」
「おや。よく、理事と主任が許しましたね」
ぴしり、と五十嵐の顔が強張るのを、タキオンはたしかに見た。
「あぁ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はこの学園で警備をしています、後藤と申します。……といっても、法的に必要だから居るだけの存在ですが。実際の警備はドローンたちで事足りていますから、どちらかというと日々訓練をしたり……まぁ、まったり過ごしたりという感じですがね」
へらり、と笑ってみせた後藤に、タキオンは「ところで」と口火を切った。
「警備員もいるのに、わざわざ外部の私たちを呼んだ理由はなんなのだね、五十嵐くん。警察に相談することをためらったとしても、調査ならば彼にも可能なように思えるが?」
「そっ、それは……」
五十嵐は気拙そうに視線を地面へと落としてしまった。
対する後藤の方は、小さく笑っている。
「五十嵐さん、どうか、気を遣わないでください。……タキオンさん、でしたね。先ほど言った通り、我々は法規上配備されているというだけの、部外者にすぎません。常に余所者扱いをされているため、情報も碌に降りては来ませんよ。こんな状態で調査など無謀だと、五十嵐さんも考えられたのでしょう」
「なるほど。これは、悪いことを聞いてしまったな」
さすがに五十嵐も本人を目の前にして、彼は余所者扱いをされているから調査が難しいのだ、と言い出せなかったのだろう。
元々余所者扱いされていた人間が調査のために話を聞くのと、調査をするために連れて来られた余所者が話を聞くのとでは、話を聞かれる側の気の持ちようも異なるに違いない。
「ですので残念ながら、私は調査にご協力できるほどの話はなにひとつ持っておりませんが……代わりに。この学園の『怪異』なんてご興味ありませんか?」
「怪異?」
タキオンは怪異を信じていない。
理由は明白。
根拠がないからだ。
思わず鼻白んだタキオンに構うことなく、後藤は勝手に話を進めた。
「ここ一年ほどなのですが。……『消えるウマ娘』、という怪異が起きているのですよ」
「消えるウマ娘?」
「えぇ。消灯時間後に、夜な夜なグラウンドを走るウマ娘が目撃されています。もちろん消灯後という時間の関係で、目撃する確率が高いのは私のようなスタッフですが……、ここにいる部下のマクレーンやナイトデュークも目撃しています」
後藤が手で示したのは、先ほどまで訓練をしていたふたりのウマ娘だ。
生徒だとばかり思っていたけれど、後藤の部下となると、スタッフ寄りのウマ娘らしい。
どうやら後藤は、部下の訓練を見守っていたようだ。
変態扱いしてすまなかったな、とタキオンは内心で一度だけ後藤に謝っておいた。
「くだらねェ。単純に、夜にベッドを抜け出した生徒がいた、とかいうオチだろ?」
「もちろん、私たちもその可能性を考えました。でも、おかしいんですよ。追跡しても、すぐに見失ってしまうんです。まるで煙のように……最初からそこにいなかったかのように、姿が消えてしまうんです。……ほら、まるで怪談噺のようでしょう?」
「面白いことを言うじゃないか。この学園はドローンやブレスレットがある。監視できない場所はない……なんて都市伝説まであるくらいだ、夜のグラウンドくらい、お手の物じゃないのかい?」
「それがですねぇ。奇妙なことに、どの警備システムにも引っかからないのです」
「……なに?」
「ドローンに映像も残っていませんし、もちろん、記録にも残っていません。本当に、なにもいなかったかのように」
「ふぅン。天下のニグラス学園でそんなことが……。たしかに、それが本当なら立派な『怪異』だな」
「でしょう? もちろん、スタッフ側が見ただけであれば話題作りなんてこともあり得るでしょうが、ベッドを抜け出した生徒も何人か見ているんですよ」
「ほうほう。それは興味深い話だな」
「しかも、この島の建物はかつて大戦時、陸軍が訓練施設として使用していたものでしてね。もしかしたら、そこで亡くなった霊が彷徨っているのでは……と生徒たちの間で噂になっているんですよ」
「ふむ、孤島の学園を彷徨う亡霊か……」
生徒たちが目撃する姿なき怪異。
タキオンたちが調べている事と関係しているとは思えないが、頭の片隅に留めておくべきだろう。
シャカールもさりげなくスマートフォンで後藤との会話を記録している。
「あぁ、そういえば。あの時、生徒たちを見つけて叱ったのはあなたでしたね、五十嵐さん。普段とは違う厳しい叱責に驚いたので、よく覚えていますよ。五十嵐さんもご覧になったのではありませんか? この『怪異』を」
タキオンは五十嵐を見た。
五十嵐は少しだけ硬い表情をしているようにも見える。
「生徒たちはそう訴えていましたが、私は見ていません。防犯カメラにも映っていないようでしたし、風で揺れた木かなにかを見間違えたんでしょう。他愛もない怪談話だと考えています。……後藤さんもですよ。おかしな話で生徒の不安と好奇心を煽るのはやめてください。明らかに最近、ベッドを抜け出す生徒が多くなっています」
「あぁ、申し訳ありません。ついつい。……嘘は吐けない性分ですので」
どの口が物をいうのだろう。
タキオンは思わずこみあげた笑いを、なんとか呑みこんだ。
先ほどからなにやら思惑があって話をコントロールしている様子の後藤は、タキオンから見ると明らかな狸だ。
「とにかく! そのような与太話は今回の事件とはなんの関係もありませんし、外部の方にまでそのような根の葉もない話を浸透させないでください」
「はいはい、わかりました。……あぁ、そういえば。これは調査にも関係すると思うのですが」
そう口火を切って、後藤はニッコリと……それはもう、わざとらしいほどニッコリと笑みを浮かべてみせた。
幼子が残酷さも理解せずに小さな虫を捻り潰そうとするかのような、そんな笑顔だ。
「理事と主任の対立は、まだ続いているのですか?」
ひゅっ、と息を呑む音が響いた。
五十嵐は表情を強張らせたまま、誰がそんなことを、と嘯いた。
誰がどう見ても、動揺していることは疑いようもない声で、表情で、態度で。
いったいどうやって相手を欺こうと思ったのだろうか。
「事実無根の噂ですよ、そんなもの」
タキオンは少しだけ、違和感を覚えた。
記憶の中の五十嵐はいつだって、余裕綽々の態度だった。
タキオンよりも年上なのもあって、少しくらいの悪戯は笑って流せるだけの余裕もあったし、こんな風に動揺する姿は酷く珍しく映ったのだ。
「対立の噂、ってどういうことだ?」
シャカールの問いかけに答えたのは、五十嵐の方だった。
「理事と主任が、学園の利権を巡って対立している、という噂があるんです。もちろん、事実無根の噂ですが」
「いえいえ、根も葉もない、なんて言葉はたしかにありますが、火のない所に、なんて言葉もあります。かなり具体的な噂だったので、私としては信憑性があると思っているのですがね」
「どんな噂なんだい?」
タキオンが後藤に先を促すと、さすがにタキオンが促しているのを遮ることはできないと思ったのか、五十嵐は反論せずに黙りこんだ。
「どこでもあるような、利権争いの話ですがね。先ほど五十嵐さんが言われたように、理事と主任が学園の利権を巡って対立していて、脅迫状もどちらかじゃないか……なんて話が出ているんですよ。あくまで噂ですが、五十嵐さんは理事側の派閥、主任側の派閥には副主任がついていて、人事や予算でたびたび衝突している、とね」
「ククッ……それは興味深い話だな。まさかの呼びだした側が犯人だった、というパターンかい」
「そうですね。探偵ものの漫画では、稀にあるパターンですがね。……元々囁かれていた噂ではあるんですが、近々理事が組織改革を考えている、なんて噂が立ってからは、一気に広がりましたね。そこで主任を解任するらしい、なんて噂とセットで」
五十嵐の顔は、これでもかというほどに強張っている。
それを横目でチラリと見て、それから後藤は肩を竦めて笑った。
「あくまで、噂ですけどね」
そんな雑な念押しで、後藤は話を切り上げた。
「なるほど、それならあの剣幕も納得がいくな」
恵那が犯人でもそうでなかったとしても、古城戸が用意した外部のもの、というだけで警戒せずにはいられなかったのだろう。
もちろん、後藤が雑に念を押した「あくまで噂」をどこまで信じるかにもよるけれど。
「ありがとう、後藤くん。また聞きたいことがあったら、君を頼るかもしれない」
「ええ、いつでもどうぞ。噂話くらいしか仕入れられないでしょうがね」
後藤に背を向けて、校舎の方へと歩きながら、タキオンは思わず「相当な狸だな」とこぼした。
遠くでは後藤の部下たちが訓練を止めて、立ち去るタキオンたちへ手を振っている。それに対してオペラオーも手を振って応える。
「いや、あれは狐だろ。敵味方関係なくペテンにかけるタイプだな。ああいうタイプには気を付けろよ。掌でコロコロ転がされちまうぞ」
シャカールの言葉に、タキオンはたしかに、と認識を塗り替えた。
敵だけでなく味方も躊躇なく罠にかけそうな狡猾な雰囲気は、狸よりも狐が近いだろう。
「残念だけど、これはもう転がされたあとかもね」
手を振り終え、オペラオーが肩を竦める。
あくまで噂、という皮をかぶった、恐らくは本当の話。
恐らく本当だろう、と思ってしまっている時点で、恐らくはもう、ペテンにかけられている。
「それで? 次はどこへ赴こうかね?」
オペラオーの問いかけに、タキオンは、ふぅン、と少し考えこんだ。
できれば研究施設でも話を聞きたいが、あの剣幕の恵那が出てくると時間がかかるだろう。
ならば、生徒への聴取を優先すべきだろうか。
さてどうしようか、と頭を悩ませていたタキオンの思考を遮るように、凄まじい破裂音が遠くから聞こえてきた。
最初はスターターピストルかと思ったが、遠くの空に見える黒煙とわずかに香る焦げた匂いに、ただならぬ事態だと確信する。
「なにごとだい?」
思考を中断させられたことに若干の不満を抱きながら、タキオンが呟くのと五十嵐の端末に連絡が入るのは同時だった。
『五十嵐です。状況は?』
急に、頭の中に響くように五十嵐の声がした。
五十嵐がタキオンたちにも聞こえるように通信を共有してくれたようだ。
ウマ娘は耳の位置が人とは違うため、頭の中で響くように音が聞こえると聞いてはいたが、なんとも奇妙な気分だ。
『警備のマクレーンです。敷地内上空を巡回中の試作ドローンが一機爆発。生徒一名が負傷し、貝淵さんが対応しております。後藤隊長は音緒副主任とドローンに関して協議中。間もなく我々も現場のスタッフと合流します』
先ほどの後藤の部下であろう、若い女性の声がする。
「おいおい、マジかよ……」
シャカールが小さく呟く。
普通に生活していて、爆発なんて言葉を聞く機会はそうそうない。
『ほぉ、あの位置からもう現地に着いているのか。なかなか優秀だね』
爆発より、マクレーン達の身体能力に興味を示すタキオン。
そんな彼女の横槍に、五十嵐が「邪魔をしないで」と言わんばかりに睨みつける。
『あっ、後藤隊長と話していた方々ですね。警備ウマ娘のマクレーンです。以後お見知り置きを』
警備という堅苦しいイメージとは違い、かなりフレンドリーなウマ娘のようだ。
『……マクレーン、現場には着いたの? 生徒の容体は? 貝淵さんが応答しないわ』
五十嵐が苛立ち気味に先を促す。
睨みつけられたタキオンも両手をあげて「もうしません」と降参する。
『失礼しました! ただいま現場に到着、貝淵さんと合流します』
『生徒の状況は?』
五十嵐の顔が強張る。
『軽い擦り傷はありますが、大きな外傷はありません。軽症です!』
『……そう、良かった』
生徒が無事であったと聞いて、五十嵐の強張った表情が和らぐ。
『あと、貝淵さんは慌てて現場に来たせいで、保健室に端末を忘れたそうです』
『ハァ……。次から気をつけるように伝えて』
『承知しました! 私はこれから生徒さんを保健室へ搬送します』
『お願いするわ。何かあればまた報告して。それと、外に出ている生徒たちは安全確認ができるまで寮で待機するよう指示を……』
『そこから先は私から報告します』
五十嵐の通信を遮るように後藤が割り込んできた。
『すでに理事長から同様の指示が下りております。現在、デューク達が対応中です。それと先ほど、音緒副主任から全ドローンの一斉点検の指示が出ました。数分後にはすべてのドローンがドックへ帰投します』
『……わかりました。私は一旦爆発現場へ向かいます。ドローン収容後の警備などの対応はのちほど相談しましょう』
会話を遮られたからか、少し不満げな表情の五十嵐。
『承知しました。いくつか警備案を策定しておきます。では、失礼いたします』
そんな五十嵐の態度に意を介した風も無く、そのまま通信を切る後藤。
『では、私もこれで。よいっしょ……』
マクレーンの通信も終わる。
五十嵐も通信を終えて「ふう……」と一息入れる。
「おかげで、次に向かうところが決まったようだね。事件に導かれるだなんて、まるで本当に探偵漫画じゃないか」
「あー、まさに“春の日や、あの世この世と馬車を駆り“だね!」
「おまえ、内容を理解した上で引用してるンだよな?」
軽口とは裏腹に、三人は空に浮かぶ黒煙を見つめながら、「これはすぐに帰れそうもないな」とこの事件が簡単には終われないことを予感するのであった。
[newpage]
12月12日13時10分
爆発現場は、なんの変哲もない訓練場の一角だった。
すでに、爆発したドローンも運び出され、被害者も保健室に運ばれたあと。
ここではろくな情報も得られないだろう。
五十嵐は現場へ向かう途中に別件で呼び出されたので、一時的に別行動をとっている。
タキオンたちは取り急ぎ、保健室で被害者に話を聞くことにした。
「なあ、あの爆発と依頼された件、繋がっていると思うか?」
爆発現場から遠ざかりながら、シャカールが疑問を口にする。
「それは調べてみないとなんとも。そもそも、情報が少ない私たちではそれすらも判断しようが無い」
端末に表示される矢印の案内に従い目的地へ移動するタキオンたち。
古城戸の居た部屋とは真逆の、近代的な内装。
床は木目調で、壁は純白の白。各部屋の扉に目を向ければ、そこがどのような部屋なのか、どのような講義や研究をしているか等の情報が自動的に端末に表示される。
なかにはタキオンやシャカールの興味を惹かれる内容もあり、概要だけでも読みたかったところだが……今は先を急ぐ。
そんなふたりの葛藤をオペラオーは側から面白そうに観察する。
校舎奥にある保健室に辿りついたタキオンは、なんの気負いもなくドアを開けた。
タキオンの眼前に広がったのは、消毒液の匂いがする、極々一般的な保健室だった。
これだけ近代的な学園なのだから保健室にもなにかと最新設備が取り揃えられているだろう、と思っていたのに、拍子抜けだ。
白衣姿の保険医は、椅子に座る女子生徒の足を診察しているらしく、タキオンたちには背を向けている。
派手なピンクの髪をサイドテールでまとめた保険医は、女子生徒の足にガーゼを当ててから、ひとつ頷いて立ち上がった。
しゃがんでいたせいで気付かなかったが、保険医は見上げるような長身だった。
けれど、線が細く、ひょろりと長い印象を受ける。
「よし。これで大丈夫よ。ただの擦り傷だから、トレーニングの影響も心配しなくていいわ」
「えっ?」
「はっ?」
「おぉっ!」
保険医の声を聴いた瞬間、タキオン、シャカール、オペラオーは同時に声をあげてしまった。
保険医が発したのは、明らかに男の声だったのだ。
「あらー? ごめんなさいねぇ、気付かなくて。どこか怪我でもしちゃったのかしら?」
彫の深い顔に施された化粧は顔立ちに合っていて、たしかに似合っている。
の、だけれど。
保険医は、明らかに男だった。
「いや、怪我はしていない。この学園で起こっている事故についての調査を手伝っていてね。事故の再発防止のためにも、被害にあった娘に話を聞ければ、と思ってきたのだが」
固まるタキオンとシャカールなど気にも留めずに、オペラオーが軽快に説明する。
自己紹介をした上で、タキオンとシャカールの紹介をしてくれるほどに彼女は冷静だった。
「そうなのね。タキオンちゃん、シャカールちゃん、オペラオーちゃんっていうのね。アタシは貝淵絵美里。この学園の保険医よ。といっても、まだ赴任して半年の新入りなんだけどね」
ぱちん、と飛ばしたウィンクが、あまりにも様になっていた。
タキオンは先ほど後藤を唯一の男性スタッフだと言いきることに躊躇した五十嵐を思い出し、「なるほど」と納得した。
タキオンは、女子生徒の足を見る。
ガーゼはほつれもなく、巻かれた包帯もキツすぎず緩すぎずのちょうどいい塩梅に見える。
たいした作業には見えないが、その実、生徒への細やかな配慮が行き届いた完璧な処置に、タキオンは内心で称賛を贈る。
強烈なキャラクターではあるが、保健医としての腕前は、信頼できるようだ。
「サーチルークちゃんに話を聞きに来たのよね。手当も終わったから、本人が問題なければ……」
「構いません」
被害者らしい、サーチルークと呼ばれた女子生徒は貝淵の言葉を遮るように声を発した。
「正直、話せることは少ないと思いますが、それでもよろしければ協力させていただきます」
躊躇いもなくそう言い切ってくれたサーチルークに謝辞を伝えて、タキオンはサーチルークへ質問を開始した。
[newpage]
12月12日14時0分
サーチルークが保健室を出てから、シャカールは今し方入力したスマートフォンのメモを見て、うーん、と小さく唸った。
「収穫はなし、だな」
被害者に話を聞けたという実は成ったが、そこから収穫へは残念ながら結びつかなかった。
何故なら今回の原因は、ドローンだ。
凶器というか犯人というか微妙なところであるが、ドローンはプログラムに書きこまれた動きをするだけの、人外のシステムである。
仮に、これが人為的だったとしても、近くに犯人が居た可能性は低い。
現にサーチルークは誰の姿も見ていなかった。
訓練していた場所もとくに彼女の指定というわけではなく、狙ったのがサーチルークなのか、場所なのか、はたまた無差別だったのかは定かではない。
彼女曰く、訓練をしていたら急に空中のドローンが爆発し、驚いた拍子に転倒してしまい、擦り傷を負った。
サーチルークの言葉をまとめると、それだけの話になってしまう。
そもそも、事故か事件かもまだ定かではないのだ。
単に、故障したドローンがいつものルートを飛んでいる最中に、回路に問題が起きて爆発した、なんて可能性もある。
「それにしても、理事と主任がよく、調査なんてさせる気になったわよねぇ。アタシ、びっくりしちゃったわ」
「はっーはっはっはっ! 受け入れられたわけじゃないな。主任殿には、開口一番に自分の縄張りに近寄るなと釘を刺されてしまったよ!」
外見とテンションの差異が気にならないらしいオペラオーに貝淵の相手を任せて、タキオンとシャカールは先ほどのサーチルークとのやり取りの中になにか情報はないか、とふたりでもう一度メモを読み返してみる。
「あぁ、ひとつ、気になった点があったわ。まぁ、これは調べればわかる話だけど」
「気になった点?」
貝淵と話していたオペラオーはもちろん、タキオンとシャカールもメモから顔をあげて貝淵を見た。
「サーチルークちゃんに直接の被害がなかったところを見るに、ドローンはいつもよりも高い飛行高度を飛んでたんじゃないかしら?」
「……高い場所?」
「えぇ。いつもの高度で飛行していたとしたら、あの程度では済まないわ。それに爆発したドローンって大型なのよ。破片の散らばり方を考えても、可能性は高いわね」
「……つまり」
重々しく口を開いたタキオンに構うことなく、貝淵は軽い口調で言葉を紡ぐ。
「誰かが意図的に、被害を軽くする目的で高度を上げた、と考えられ無いかしら?」
直前でセリフを掠め取られたタキオンは、思わずガックリと項垂れてしまう。
とん、と背中に感じるのは、シャカールの手の感触か。
「爆発したドローンの破片と部品は、今はドックに保管されているわ。理事が調査をお願いした子たちなら、入れてもらえるんじゃないかしら」
研究施設の近くにあるというドックに入れる可能性は、五分五分……いや、三分七分程度だろうか。
原因究明に恵那がいたら、敗率は百パーセントまで跳ね上がるだろう。
「……まぁ、とりあえず行ってみる、か」
タキオンがそういうと、シャカールとオペラオーも仕方がない、と頷いてくれた。
「副主任の音緒ちゃんなら、きっと悪いようにはしないわ。優しい子だもの」
いってらっしゃい、と手を振って送り出してくれる貝淵に手を振り返す。
タキオンたちは恵那に見つからないように、本物の不審者のようにコソコソと、件のドックへと向かった。