機動戦士ガンダムSEED〜もう一人のコーディネーター〜   作:剣舞士

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SEED×ISですでに連載している小説がありますが、それはDESTINYからのストーリーとなりますので、本作はSEED時からのストーリーとして再構成して連載いたします。




偽りの平和

コズミック・イラ………。

今は無き『西暦』にかわる紀元とも呼ぶべきものだろうか。

『再開発戦争』もしくは、『第三次世界大戦』が勃発した世界において、社会や国家間の枠組みが一から組み直され、再編成された世界。

その中で統一紀元を作るにあたって、『コズミック・イラ』……通称『C.E.』と付けられたのだ。

そして、C.E.70年。

C.E.に変わって70年がたった今……。

またしても人類は大きな戦争を抱えていた。

 

ナチュラル……そしてコーディネーターと呼ばれる二つの人種……。

それが、この世界での戦争の原因だ。

人のありのままの状態で生まれてきた人種……それが『ナチュラル』。

そして生まれてくる前、受精卵の状態で遺伝子改造を施された状態で生まれてきた……人為的な人種、それが『コーディネーター』と呼ばれている。

いま地球圏では、コーディネーターとナチュラルによる戦争が勃発している。

数で勝る『ナチュラル』擁する地球連合軍と、少数精鋭ながらその連合軍に対抗する『コーディネーター』擁するザフト。

その両者間での戦闘は切迫していき、ついに地球軍は、ザフト軍の拠点であり多くのコーディネーターが居住する『プラント』と呼ばれる居住コロニーの一つ農業用プラント『ユニウスセブン』へと核攻撃を行った。

 

C.E.70年 2月14日

『血のバレンタイン事件』と呼ばれたその出来事をきっかけに、地球軍とプラントの間の軋轢は深まり、その戦争は泥沼と化していった……。

当初、物量で圧倒的に勝る地球軍の勝利を信じ得なかったが、ザフト軍の新型機動兵器『モビルスーツ』によって、その戦局は膠着状態へと移行する。

その膠着状態が、すでに11ヶ月が過ぎようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーブ連合首長国。

プラント、地球連合軍と二大陣営に分かれて行われている戦争の中で、地球の一国家として存在する国。

その特徴は島国であること……そして、この混迷極まる世界において、『中立』を掲げる数少ない国でもある。

それにより、国家の理念は『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』だ。

その理念を守り通すのであれば、コーディネーターでもナチュラルでも受け入れるという国。

世界ではオーブのことを『平和の国』と呼ぶ者もいる様だが、実際、争いに巻き込まれたくないと、移住をしてくる者たちも多く、コーディネーターとナチュラル、双方の人種が共に暮らしている。

それは、地球にある本国のみならず、宇宙空間に建設されたコロニーにおいてもそうだ。

そしてそのオーブが所有する中立コロニー……資源衛生コロニー《ヘリオポリス》内部では、多くの民間人が過ごしていた。

C.E.71年。

今日も《ヘリオポリス》内は平穏に満ちていた。

コロニー内は基本的に気象の急激な変化はない……元より人工物であるため、たまに雨などを人工的に降らせているくらいはあるが、地球のように突発的に天気が変わるなんて事はない。

気温や湿度もほどよく、人が生活しやすい環境が整っているのだ。

この《ヘリオポリス》は、オーブが所有する数少ないコロニーの一つだ。

通常の住宅街もあれば、日常に必要となる消耗品や雑貨なんかを取り扱うお店、飲食店にファッションを取り扱う店、あとは学校などもあり、老若男女問わず、多くの人々が平和な日常を享受している。

そんな日常を過ごすある一人の少年が、その麗かな日に屋根付きのベンチで手元にある資料を見ながらPCを操作している。

そのPCの画面には、資料に載っていたデータの解析結果を打ち込んだ文字列と同時に、リアルタイムで流れているニュース番組の画像が映し出されていた。

 

 

 

 「おーい!キラァ〜!!」

 

 「ん……」

 

 

 

 

茶髪の切りそろえた髪に、アメジスト色の瞳。

幼く見えるその顔は、とても優しそうな雰囲気のある少年だった。

彼の名はキラ・ヤマト。

16歳の学生だ。

そんなキラの名を呼び、近づいてくる一組の男女が……。

 

 

 

 「トール、ミリアリア……!」

 

 「こんな所にいたのかぁ、キラ」

 

 「探していたのよぉー」

 

 

 

茶髪で屈託のない笑顔が特徴的な明るい少年。

キラの友人であり、同じサークルに通う同級生のトール・ケーニヒだ。

そして、その後ろからやってきた女の子は、トールの恋人である茶髪でその側に毛が跳ねているのが特徴的な少女、ミリアリア・ハウだ。

ミリアリアも同じスクールの同級生であり、サークルこそ違うが利発で友好的な性格なためキラともいい友人として接してくれる優しい少女だ。

 

 

 

 「探してたって、ボクを?」

 

 「おう、カトウ教授がお前のこと探してたぞぉ〜」

 

 「ええ〜っ?!またぁ?!」

 

 「教授が『キラを見つけたら引っ張って来い』だってさ。なに?何か手伝わされてるの?」

 

 「もうぅ〜……昨日渡された分だって、まだ終わってないのにぃ〜!」

 

 

 

トールとミリアリアの要件を聞いた途端、キラは気落ちして、うんざりしたような表情を浮かべる。

 

 

 

 「もう……自分の研究なのに、なんで僕ばっかり……」

 

 「お前だけじゃねぇーぞ、キラ」

 

 「ぁっ……」

 

 

 

そこに、別の少年の声が聞こえた。

声のする方へと視線を向けると、ちょうどトール達がきた方角とは逆になる通路から、二人の男女が歩いてきていた。

二人とも黒に染まった髪。

一人は短髪の少年で、もう一人は長い髪をポニーテールに結った少女だった。

 

 

 

 「あっ、一夏!箒!」

 

 「よっ、トール、ミリィ。それにキラも!」

 

 「やぁ、ミリィ、トールにキラも、こんにちは」

 

 

先頭を歩く少年は、からと同じような切りそろえた黒髪。

飄々とした雰囲気ながらもキラ同様に優しい性格をしている少年……名を織斑一夏という。

その後ろから来た少女は、艶やかな長い黒髪が特徴で、とても真面目そうな雰囲気がする少女。

一夏の幼馴染である篠ノ之箒だ。

 

 

 

 「やぁ、一夏、箒。一夏、もしかして君も?」

 

 「あぁ、この間カトウ教授にプログラムデータ渡されたんだよ、それも二つも……」

 

 

少年、一夏は右肩にかけてあったバックの中をゴソゴソと漁り、中から二つのフロッピーディスクを取り出した。

題名はないが、間違いなくカトウ教授に渡されたディスクである事がわかる。

 

 

 

 「僕だけじゃなくて、一夏にも頼んでたなんて……」

 

 「あぁ、マジで大変だったよぉ……。休日も返上でデータの解析さ。俺はどこの社畜だってぇの」

 

 「うへぇ……」

 

 「そう言っているが、その解析には私も手伝わされたんだがなぁ〜」

 

 「うぅっ……!」

 

 

 

キラと一夏が自分たちのサークルの講師に対する愚痴をこぼしていると、隣からキツめの鋭い視線が一夏の横顔に刺さる。

 

 

 「いやぁ〜、それは……」

 

 「急に呼び出されてみれば、終わらないから手伝ってほしいと泣きつきおって」

 

 「ぐぅ……!」

 

 「週末に用事が入ってなかったから良かったものの、あれがなければ、お前も今頃キラと同じように唸っていたではないか」

 

 「いやぁ〜そのぉ〜……ホント、箒さんには感謝してます、マジで……!」

 

 「ほほぉ〜?ならば報酬を貰いたいものだな」

 

 「ほ、報酬?」

 

 「『@クルーズ』の限定ケーキ」

 

 「………」

 

 「今度の週末奢ってもらおうか?」

 

 「えっと………」

 

 

 

ニコリと微笑む箒。

しかし、目元は全然笑っておらず、お願いしているような口調ではあるが、本人の後ろには、恐怖の権化であるような鬼のような影が見え隠れしている。

もうむしろ命令のような状態だ。

 

 

 

 「いや、その……ちょっと手元にお金が……」

 

 「ほう?では、カトウ教授からそのデータ解析でもらっているバイト代はどこに消えているのかな〜?」

 

 「………」

 

 「ん〜?」

 

 

 

微笑む顔の状態で迫りくる箒。

一夏の顔からは冷や汗が流れて、答えづらそうにしている。

しかし、このまま針の筵となるのは嫌なのか、両手を上げて降参のポーズを取る。

 

 

 

 「はい、わかりました……好きなの奢ります」

 

 「よしっ……!」

 

 

 

小さくガッツポーズを決める箒。

それを見たミリアリアも参戦してきた。

 

 

 

 「えぇ〜!いいなぁ〜!ねぇ、一夏、私にも奢ってよ〜!」

 

 「えぇっ?!いやぁ〜、ミリィはさ、トール君がいるじゃないか〜……あはは……」

 

 「ちょっ?!おい、一夏!!」

 

 「ほらぁ、トールも今度デートしたいとか言ってたろ?」

 

 「いや、それはそうだけどさぁ〜!」

 

 

 

ワイワイガヤガヤと青春の風を吹かせる一同。

そんな様子を微笑ましく見ているキラ。

しかし、そんな雰囲気を振り払うように、ニュース番組の速報が流れた。

 

 

 

 『きゃあああっーーー!!』

 

 『急いでっ!こっちだ!』

 

 『こっちに避難をっ!速く速く!!』

 

 「っ……キラ、この声って……」

 

 「なんか新しいニュースか?」

 

 「うん……カオシュンだってさ」

 

 

 

 

トールや一夏たちが、キラの周りに集まってPC端末を覗き込む。

キラは端末を操作して、ニュース映像の画像を大きくする。

 

 

 

 『ただいまカオシュンの主街区から約7キロ離れた地点では、今もなお激しい戦闘の音が鳴り響いています!!』

 

 

 

現地を取材しているリポーターの表情は険しく、その声色も緊迫した様子を物語っていた。

映像には、リポーターの遥か後ろに二体のMSが映し出されている。

ザフト軍の主力MS『ジン』だ。

その映像を見た途端、全員の表情が険しくなった。

 

 

 

 「うっへぇ〜!先週でこれじゃあ、今頃はもう陥ちちゃってんじゃないの、カオシュン」

 

 「カオシュンなんて、本島から結構近いわよね……大丈夫かしら、オーブ本島は」

 

 「大丈夫大丈夫。なんたって、オーブは中立なんだぜ?戦争に関わること自体が無いに等しいって!」

 

 

 

恋人であるミリアリアを不安にさせまいと、トールは気丈に振る舞う。

しかし、その隣では一夏と箒の表情は暗くなっていた。

 

 

 

 「カオシュンと言ったら……」

 

 「あぁ、たしかマスドライバー施設があったはず……だな。ザフトはそこを狙っているわけか……」

 

 「だろうな。地球の方から宇宙へと向かう道を閉ざしたいんだろう……結構前に、ビクトリア湖にも攻撃仕掛けてなかったけ?」

 

 「あぁ、今だに膠着状態は続いているらしいがな……」

 

 

 

二人の言葉を受け、トールとミリアリアが何かを察したように言う。

 

 

 

 「あぁ、そっか……二人のお姉さん達って……」

 

 「オーブ軍に所属しているんだっけ?」

 

 「あぁ、私の姉さんは……まぁ、軍人というよりは科学者だからな。まぁ、軍事的な関わりもあるから、違いはないとは思うけど……」

 

 「千冬姉も軍人であるけど、今じゃあ国防本部勤めだから、前線に立つことは無いよ」

 

 

 

箒の姉・篠ノ之束は、その天才っぷりをフルに活用して、科学者兼技術者としての役職についている。

日々なんらかの研究をして、不眠不休で何かを研究しているマッドサイエンスだ。

一夏の姉・織斑千冬は、正式な軍人としてオーブ軍に入隊し、それなりの戦闘訓練なども受けて優秀な成績を収めているようで、国防本部に自分の役職を持っている。

 

 

 

 「でも、軍がらみの仕事ってさぁ〜、いろいろと大変そうだよなぁ〜」

 

 「一夏は卒業したら、そのまま本島に帰るのか?」

 

 「ん?あぁ、まあな。可能なら、モルゲンレーテの工廠勤務がいいけどな」

 

 「そういや、技術屋志望だっけ?」

 

 「あぁ……。給料もそうだけど、手当ても中々だし。手に職を持つのも良いかなぁ〜って」

 

 「真面目だねぇ〜一夏は」

 

 「そう言うトールはどうなの?何か考えてるの?」

 

 「いやぁ〜……まぁ、ね。色々と……」

 

 「ミリィ……それをトールに聞くのは、ちょっとかわいそうだと思うぞ?」

 

 「なっ?!どう言う意味だよっ、一夏!?」

 

 

 

和気あいあいと談笑する面々は、戦争という言葉自体を意識しているものの、平和の国である中立国オーブでの生活がその不安を紛らわせている。

自分たちとは縁遠いものだと、どこかで思っている。

しかし、そんな考えが、なんの保証もされていない日常だと、彼らはすぐに気づくことになるだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

ベンチで談笑をしていた面々は、タクシー乗り場へと向かい、無人タクシーの到着を待つことに。

そこから自分たちの専攻している工学教室のカトウゼミへと向かうのだ。

タクシー乗り場へとちょうど着いたその時だった……キラ達の目の前で、同い年くらいの少女三人がキャッキャキャッキャと大声で話しているのを目撃する。

 

 

 

 「ぁ……!」

 

 

 

その少女達の姿を目視して、キラが息を飲む。

彼の視線には、赤髪の少女の姿があった。

綺麗に整った顔立ちをした少女で、まるでモデルのような印象を受ける。

 

 

 

 「あれ?ミリアリア!」

 

 「はぁーい♪」

 

 「ねぇねぇ!ミリアリアなら知ってるんじゃなぁ〜い?」

 

 「ん?なになに、どうしたの?」

 

 「ちょ、ちょっと!やめなさいっばぁ……!」

 

 

 

赤髪の少女と話していた別の少女二人が、ミリアリアの方へと詰め寄り、何かを問いただす。

 

 

 

 「フレイってば、サイ・アーガイルに手紙もらったんだってぇ!」

 

 「ええっ?!うっそぉ〜!」

 

 「ぇえ……!」

 

 「ほう……サイがねぇ……」

 

 「手紙とはまた古風だな」

 

 

少女二人のタレコミに、キラとミリアリアは驚き、一夏と箒はその手紙を渡した人物の事を思い出す。

サイ・アーガイルは、一夏や箒、キラ達と同じカトウ教授のサークル生……つまりはサークル仲間であり、同級生というわけだ。

 

 

 

 「なのにフレイったら『なんでもないのー』って言うのよ?」

 

 「も、もう!本当に何でもないんだってばあっ!!」

 

 

 

学園生活を送っていれば、どこにでもありそうな光景だ。

フレイと呼ばれている赤髪の少女。

本名をフレイ・アルスター。

その容姿や言動から、多くの異性から好意を寄せられている……簡単に言えば、スクールのマドンナ的存在なのだ。

そんな時、後ろからやってきた人影が三つ。

 

 

 「んっ、んん!」

 

 「ぁ……」

 

 「っと……」

 

 「乗らないのなら、先によろしい?」

 

 「あ……はい!」

 

 「すみません……」

 

 「お騒がせしました」

 

 

 

後ろからやってきていたのは、黒髪の女性一人と青髪に、クリーム色の髪をした男性二人だ。

女性の方はサングラスをかけており、キャリアウーマンの様な雰囲気を感じる。

後ろの二人も、同業者……あるいは女性の部下だろうか?

とにかく三人は、キラたちの間を抜けて、タクシーへと乗り込んだ。

 

 

 

 「っもう!知らないから!」

 

 「あっはは♪」

 

 「ごめんてぇ〜!フレイィ〜、機嫌直してよぉ〜!」

 

 「だったら、なんか奢んなさいよぉー!」

 

 「そう言えば、港近くの商業施設に、美味しいケーキを出すカフェができたって言ってなかった?」

 

 「あぁー!あそこねぇ〜!私も行ってみたかったのぉー!」

 

 

 

ガールズトーク全開のまま、フレイたち三人もタクシーに乗り、そのままショッピングへと向かった。

そんな彼女たちを見送って、次はキラたちの番になったのだが……。

キラはなんだか落ち着かない雰囲気だった。

その姿を察したのか、トールが唆す。

 

 

 

 「サイが手紙をねぇ〜」

 

 「えっ……あぁ……」

 

 「たしか、フレイとサイは知り合いだったけ?」

 

 「うん。親同士が仲良いって話だよ?」

 

 「しっかし、フレイ・アルスターとは……これはかなりの強敵だよ、キラ・ヤマト君♪」

 

 「ふふふっ♪」

 

 「ぼ、僕は別に……っ!」

 

 「なんだ、キラはフレイの事が好きなのか?」

 

 「いやっ、だから違うってば!」

 

 「一夏、そんな風に聞くな……デリカシーがないぞ?」

 

 「いやでも、たしかにフレイは可愛い子だよなぁ〜。れっきとしたお嬢様って感じの子だよな」

 

 「むっ……」

 

 

 

フレイに対する評価は、男子の間では概ね高い。

容姿端麗で、父親が大西洋連邦の事務次官を務めているため、お嬢様然とした立ち振る舞いも、その人気の一因だ。

キラが憧れるのも無理ないし、一夏がそう評価するのも間違いではない。

しかし、それはそれで面白くないと、箒の心が燃えていた。

 

 

 

 「ふんっ……!」

 

 「あいたたっ?!!な、何するんだよ、箒っ?!」

 

 「ふんっ!どうせ私は、あの子のように上品ではないさ!」

 

 「な、何を怒っているんだよ?」

 

 「知らんっ!とっとと乗れ!」

 

 

 

いきなり脇腹を捻ってきたかと思いきや、今度はドカッ、とお尻を蹴ってくる始末……。

勢いに押されてそのままタクシーに乗ってしまったが、トールにミリアリアは我関せずを通して、キラはキラでオロオロとしているが、特に助け舟はない。

いや、うん……まぁ、わかってたけどね?

 

 

 

 

 「はぁ……呑気なものだな……流石は『平和な国』、か……」

 

 「は?」

 

 

先に出発したタクシーに乗っていた、女性と男性二名。

後部座席に乗っていた女性は、キラたちの様子を見た後、ため息混じりに毒づいた。

助手席側に乗っている青髪の男性が振り向き、何の事かと問うような視線をつける。

女性の方はサングラスをとって、流れゆく景色を見ながら呟いた。

 

 

 

 「あれくらいの歳で、もう前線に出ている者もいると言うのにな……」

 

 「まぁ、ここは中立国ですし、あれくらいが当然なのでは?」

 

 「ふん……そんな中立を貫いている国も、案外一枚岩ではないらしい……彼らのおかげで、我々は最新鋭の機体を開発できたのだからな」

 

 「ハサク家……でしたか。かの一族の当主もコーディネーターですしね……ここまでうまく事を運べたことが奇跡に近いですよ」

 

 「あぁ……。このまま何も起こらないでもらいたいものだな……」

 

 

 

 

タクシーはそのままモルゲンレーテ社が所有する格納庫区画へと入っていった。

 

 

 

 

 

 「だからさぁ〜!そんなに気になるなら、お前が直接聞いてみればいいじゃん!」

 

 「いや、だから別に僕は……」

 

 「サイの事だし、変に隠したりはしないと思うぜ?それに、そんな状態じゃあ、これから先、サイと顔合わせた時が気まずいじゃん!」

 

 「それは……」

 

 「ふっふーん……なんなら、俺からサイに聞いてみてもいいぜ?」

 

 「もう、しつこいぞっ、トール……!」

 

 「なんだよぉー」

 

 「まぁまぁ、トール。キラも嫌がってるだろう?」

 

 「ちぇー」

 

 

 

一方、キラたちの乗ったタクシーも、モルゲンレーテ社に隣接する施設へと入っていく。

ここはキラたちが専攻しているサークルである、カトウ教授のゼミがある場所なのだ。

すでにメンバーが何人か来ているかもしれないので、あまり遅くなるわけにはいかない。

タクシーはそのままゲートを通過する。

ゲートの上部に設置されたカメラが、乗車している面々の顔を写していき、登録情報を照合するのだ。

 

 

 

 「加藤ゼミの学生たち、5名確認」

 

 「了解。警戒は怠るなよ」

 

 「はっ」

 

 

 

メインゲートの監視網が、少しばかり強化されている。

データや映像を監視する管制官の者たちの口調も中々に緊張感を漂わせていた。

そんなことも知らずに、キラ達はいつものように、いつもの時間に、いつもと同じように施設内に入っていく。

この時、ここで起こる悲惨な出来事を、彼らは予想していなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリオポリス宇宙港。

そこに一隻の宇宙艦が入港する。

円筒を上下から押しつぶしたような独特の形をした旧式輸送艦『マルセイユⅢ世級』。

今の主力戦艦とは異なり、生活拠点の多い船として未だに所有している組織も多い。

最も、中には偽装任務のために使われるケースも少なくはないが……。

 

 

 

 「ふぅ……本艦の着艦を確認。なんとか無事終えられたようだな……これでこの艦の仕事もようやく終わりだ。貴様も護衛の任、御苦労だったな」

 

 「ふふ……航路何ごともなく、幸いでありました。周辺にザフト艦の動きは?」

 

 「二隻トレースしていたが、なに、港に入ってしまえば、ザフトも手は出さんよ」

 

 「はは……中立国、でありますか。呑気なものですなぁ」

 

 

 

そのマルセイユⅢ世級のブリッジで話しているのは、艦長席に座る髭面の男性と金髪を短く整えた色男。

髭面の男性は作業服のようなものを着て入るが、その頭には地球連合軍の軍帽をかぶっていた。

付き添いで来たであろう色男も、作業服を着ているがれっきとした地球連合軍の軍人である。

連合とザフトは戦争状態にあるゆえ、今こうして中立国オーブのコロニーに顔を見せている場合ではないかもしれないが、彼らは彼らで、重要な機密任務を行なっているのだ。

 

 

 「まぉ、その中立国であるがゆえに、今回の任務も無事終えることができたわけだがな……。

 オーブも中立とは言え、地球の一国家というわけだ」

 

 「なるほど……」

 

 「それでは艦長」

 

 「我々は着任の挨拶に」

 

 「うむ、ここまで御苦労であったな。武運を祈る」

 

 

 

艦長に近づく五人の男達。

同じ作業服を着ているが、彼らも軍人だ。

今回この艦が担っていた任務は、この五人の軍人たちをヘリオポリスに極秘裏に移送すること。

それが無事完了したことに、安堵している。

五人の男達はブリッジを後にし、退艦の準備を進める。

そんな彼らを見て、色男は艦長に尋ねた。

 

 

 

 「上陸は、本当に彼らだけで良かったので?」

 

 「心配するな。ヒヨッコ達とは言え『G』のパイロットに選ばれた優秀なトップガン達だ。

 彼らだけで充分だろうさ」

 

 「はぁ……」

 

 「そんな事より、貴様などがチョロチョロしている方がかえって目立つぞ?」

 

 「ぁ、はは……それもそうですかねぇー。ヘリオポリス……強いては中立国は、戦争の話題とか上がらないでしょう?」

 

 「おいおい……あの『グリマルディ戦線』を生き残った男の名前くらいは、流石に知っていると思うぞ?なぁ、ムウ・ラ・フラガ大尉?」

 

 「はっはは……それはまぁ、光栄ではありますがね……」

 

 

 

色男は意味ありげな笑みを浮かべる。

C.E.70年5月3日。

その日、地球の周りを回っている衛星『月』で行われた連合とザフトの戦闘。

月の領有権をかけた戦線で、グリマルディ・クレーター境界に繰り広げた。

故についた名称が『グリマルディ戦線』だ。

その結果は、連合側の本拠地であったエンデュミオン・クレーターに、ザフト軍が主力MSの『ジン』とその強化改修型である『ジンハイマニューバ』で侵攻。

連合側も機動兵器であるMA『メビウス・ゼロ』を投入して、徹底抗戦を図ったが、防衛線にて第3艦隊が全滅。

施設の破棄と破壊を兼ねて、サイクロップスを暴走させ、連合はザフト軍を壊滅させた。

これによってザフト軍は月から手を引き、月は完全に連合側の領有となりはしたが、サイクロップスの暴走による友軍の壊滅もまた事実。

そこで、唯一生き残っており、なおかつ単機でMS『ジン』を五機落としたパイロット、ムウ・ラ・フラガを《エンデュミオンの鷹》と祭り上げ、戦意高揚のプロパガンダに仕立て上げたのだ。

そんな色男、ムウはその戦線での事実を知る者として、前線から左遷され、こんな極秘任務を行なっているわけだ。

 

 

 

 「しかし、これでザフトに対抗しうる兵器ができたところで、戦争が終わるのですかね……」

 

 「だがやらねばなるまいよ……奴らコーディネーターが仕掛けてくる限り、我々の戦争は終わらんからな」

 

 「まぁ、ですよね……」

 

 

 

一抹の不安は残るものの、なんとか任務は達成……。

しかし、追ってきていたザフト側も、このまま見過ごすわけはなかった。

ヘリオポリスからある程度離れた位置にある衛星の影に隠れたザフト戦艦ナスカ級戦艦《ヴェサリウス》。

そのブリッジにいる白服を着たザフト隊員は、無重力によって浮いた体を滑らせながら、艦長席に座る黒服の隊員に話す。

 

 

 

 「そう難しい顔をするなアデス」

 

 「はっ……し、しかし、隊長。評議会からの返答を待ってからでも遅くはないのではーー」

 

 「遅いな。私の勘がそう告げている」

 

 

 

ブリッジ内に浮遊している写真を手に取り、その内の一枚を副長であるフレデリック・アデスに投げた。

そこに写っていたものは……“ザフト側でも見たことのないMS”の写真だった。

 

 

 

 「ここでコレを見逃せばその対価……我らの命で支払うことになるぞ」

 

 

 

アデスにそう言った白服の隊長。

顔には白い仮面が付けられており、獅子を思わせるような癖のある金髪をしている。

《仮面の男》……ザフト内でもそう呼ばれている凄腕MSパイロットであり、小隊を預かる隊長だ。

その名はラウ・ル・クルーゼ。

ザフト軍の中でもその名を轟かせる曲者が、見つめる先に、偽りの平和を享受しているヘリオポリスの姿があった。

 

 

 

 「地球軍の新型MS……運び出される前に、我々で奪取する……!」

 

 

 

 

コロニーの外で暗躍が動いている中、研究室にたどり着いたキラ達は、すでに中に入って作業をしていた面々とその顔を合わせる。

 

 

 「チィース」

 

 「わりぃ、遅くなった」

 

 

トール、一夏が軽く挨拶をして中に入ると、作業をしていた二人の少年が顔を見せた。

黒髪を短く整えてセンターで分けている少年、カズイ・バスカーク。

そしてPCを覗き込んでいた顔を横にずらして現したのは、色付きのメガネをかけた少年、サイ・アーガイル。

 

 

 

 「おお!キラ、やっと来たか!」

 

 

サイが待ちわびた……と言いたげな表情で言うと、先ほどのこともあって苦笑を浮かべるキラ。

しかしすぐに、その視線はサイから外される。

部屋に入った瞬間、左端の視界に人影を捉えたのだ。

その方へと視線を移すと、一人の人物が座っていた。

金髪の髪を肩くらいの長さまで伸ばしており、顔は帽子を目深く被っているため、ちゃんと確認は出来なかった。

 

 

 

 「誰?」

 

 「教授のお客さん。ここで待ってろって言われたんだって」

 

 

 

トールがガズイに確認するが、カズイも正確なことを聞かされていないのだろう。

そしてその教授本人もいないとなると、いよいよ確認のしようもない。

 

 

 

 「んで、教授は?」

 

 「待ってろって言ったんなら、もうすぐ戻るのか?」

 

 「さぁ?でも教授って、すごくテキトーだからさ……そう言って、今は無理だーとか言いそうじゃないかな」

 

 「まぁ、確かに……言われたら言われたで腹立つけどな」

 

 

 

キラのことも至急呼び出ししておいて、自分は研究室にいないのだから……。

教授はモルゲンレーテ社の仕事も引き受けているため、その仕事関係なのだろうとは思うが。

 

 

 

 「そうそう、キラに伝言だって……ほら、コレをキラに渡してくれって言われたよ……なんでも、追加分だってさ」

 

 

 

そう言ってサイが渡してきたのは、またしても同じ黒いフロッピーディスクだった。

それを見るなり、キラはまたしても不満気な表情を表した。

 

 

 

 「うへぇー」

 

 「なんなんだ、これ?どうせモルゲンレーテの仕事のことなんだろうけどさ」

 

 「興味ないよ。フレーム設置モジュールの改良……とにかく、プログラムの解析さ」

 

 「ふ〜ん。あ、ちなみに一夏の分もあるからな?」

 

 「はあっ?!」

 

 「ほい。これも追加だってさ」

 

 「う、嘘だろぉ………」

 

 

 

一夏は座っていたキャスター椅子の背もたれに全体重を預け、天井を見上げた。

体から力が抜け、持っていた荷物すらも地面に放り出してしまうほどに……。

サイから手渡されたのは同じ黒いフロッピーディスク。

今回は一枚だけだったが、それでも仕事の追加は嫌なものだ。

 

 

 

 「だから、どんだけ働かせんだよっ、あの教授は!」

 

 「教授、ここ最近一夏にも結構な手伝いさせてるよな?」

 

 「あぁ……俺の場合は、簡易的な人工知能……つまりはサポートAIのプログラミングだよ……。

 まぁ、将来モルゲンレーテに就職考えてるから、今のうちにできることはやりたいけどさぁ……」

 

 「教授も一夏に期待してるって事だろう」

 

 「絶対ウソだ!……自分の研究をタダで手伝える助手が出来たとしか思ってないと思うぞっ?!」

 

 「まぁ、キラも一夏も大変だろうけど、とりあえず、教授の伝言はちゃんと伝えたからな?」

 

 「「はぁ………」」

 

 

 

キラと一夏は揃ってため息を溢す。

一夏はディスクを見てから、横に座る箒の方へと視線を移す。

 

 

 

 「な、なぁ、箒さん?ちょっと相談がーーーー」

 

 「いやだ、断る」

 

 「おいっ?!まだ何も言ってないだろう?!」

 

 「お前が言いそうな事、私がわからないとでも思ったか?また手伝えと言うに決まっているだろう!

 私まで夜遅くPC画面と向き合ってやらされたんだ……あんなのはもうごめんだ」

 

 「たっ、頼むよっ!!箒さんの力が必要なんだって!!」

 

 「い・や・だ!」

 

 「ううっ……!」

 

 

完全に不機嫌になってそっぽを向く箒。

涙目ながらに訴える一夏だが、取りつく島もなく……そのまま肩を落として作業に入った。

キラはそのままディスクを片手にため息を吐く……その背後では、息を殺して近づいてくるトールの姿が……。

そして、キラの首に両腕を回してガッチリ固める。

 

 

 「のわぁっ?!!」

 

 「そんな事よりっ、手紙の方を聞けよっ……!」

 

 「ん?手紙?」

 

 

 

キラの耳元で言うトール。

そしてサイは『何の事だ?』と怪訝そう二人を見る。

 

 

 

 「なっ、何でもない!何でも!」

 

 「嘘つけっ!何でもなくないだろうがよ♪」

 

 「なんなんだ?」

 

 「な、何でもないってば!!本当に!!」

 

 

 

キラは必死に抵抗するも、トールがそれを許さない……というより、トールは何気にこの状況を楽しんでいるようにも見える。

サイはサイで何の事かがわからないため、悶々とした状況……その周りにいるカズイも「なになに?」と興味津々。

一夏と箒、ミリアリアは「やれやれ……」と言った具合に呆れている。

しかし、やはりみんな『手紙』というワードに敏感で、その事を必死に聞き出そうとする。

カズイはこっそりと一夏に近づいて、「手紙ってなに?」って聞くが、一夏も一夏でどう答えていいものかと困惑していた。

 

 

 

 「ええい!もう終わりだ終わり!さっさと作業を済ませないと、いつまで経っても作業が完成しないだろう!」

 

 「そうそう、だからやめたやめた!」

 

 「「「ハァーイ」」」

 

 

 

箒の一喝とミリアリアの促しに、一夏、トール、カズイが返事をする。

キラは安堵の表情を浮かべ、サイは相変わらず「ん?」と頭を捻っている。

いつもと変わらぬ風景……そしていつも過ごしている日常がそこにはあった。

しかしその裏で、その平和な日常に外部から入り込む輩が現れていることに、この時はまだ、誰も気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「センサー無効化成功。プロテクト解除、ハッチオープンする」

 

 

 

 

資源衛星コロニー《ヘリオポリス》の工場区近くの外層壁部。

そこに、赤と緑のパイロットスーツを纏った集団がいた。

赤色を着ているのが六人。

緑色も大体同じくらいの人数がいる。

その目の前にあるのは、隔壁で閉鎖されている入場口。

ハッチが開いていき、中の様子を伺うと、複数の赤いレーザーが辺りを覆い尽くしていた……これは、防犯・侵入防止のための措置だ。

宇宙空間では重力下と違い、慣性が働かないため、少し動いただけでセンサーに触れてしまうリスクが高まる。

いかに背部に空圧推進機を背負っているからと言って、すぐにブレーキはかけられない。

本来ならば、このまま侵入したところで、センサーに体が触れてしまってスクランブル警報が鳴るのだが、次の瞬間……複数本の照射されていたレーザーが悉く消えていった。

 

 

 

 「よし、いくぞ………!」

 

 

 

外部からのプロテクト解除。

それにより、侵入防止システムを無効化したのだ。

それに伴い、赤服と緑服の連中は音を殺してどんどん隔壁内に侵入していく。

長い通路を、背中に背負っている空圧推進機でどんどん進んでいき、やがてある場所へと出た。

そこで集団が目にしたのは、今まさに建設の最終段階とも言えるような雰囲気の工場区画で、その中心部には、今まで見たことのない一隻の戦艦が。

白と赤を基調とし、ザフト、連合のどちらにもない形をしている。

まるで二本の脚の様なものが見えるが、これも事前の情報通り……。

連合軍が中立国オーブの技術提供を受け、新型艦を新造しているという情報を、連中は耳にしたのだ。

そう、赤服と緑服の面々は、ザフト軍のMSパイロットたちだ。

赤服の一人が、手を動かしてなにやら仲間たちに合図をすると、それぞれが個別に散開していく。

ザフト軍パイロットたちの手には中型の機関銃と、緑服の者達は別の機材を持っていた。

赤服たちは指定された場所へと移動を開始……途中で緑服たちと一緒に工場区の内部にある機材をドンドン付けていく。

そう、爆弾だ。

それも軍事用に改良した高性能爆薬を搭載したもので、それを至る所に設置していく。

パイロット達の動きは俊敏で、無駄のない動きで爆弾をセットしていき、新造戦艦の周り爆弾だらけになっていた。

そして、中にいる整備員やその奥にいる地球軍の士官たち含め、それに気づいている者たちは一人もいなかった。

赤服と緑服の者たちは続いて別の場所へと移動する。

その間にも、刻一刻と時間が迫っていた。

そして、外にいる《ヴェサリウス》の方でも、時間を見計らって今か今かとその瞬間を待っていた。

《ヘリオポリス》内部は、未だに何の危機も感じていないほどに平和な日々を送っており、誰もこの後に起こるであろう悲劇を想像している者などいるはずもない。

そして、その時がやってきた。

 

 

 

 

 「時間だ」

 

 「ハッ!機関始動!微速前進!」

 

 

 

外にいる《ヴェサリウス》と《ガモフ》のザフト戦艦二隻が、動き始める。

そしてその姿を、当然《ヘリオポリス》の警備部隊が認識する。

 

 

 

 

ブーーーーッ!!ブーーーーッ!!ブーーーーッ!!

 

 

 

 

管制室に流れる警告音。

赤地に黄色い文字で映し出される『ALERT』の文字。

 

 

 

 「班長っ!」

 

 「わかっている!おい、さっさとアラート止まんかっ!」

 

 

 

管制官の一人が、背後から近づいてきた責任者に指示を伺う。

そして責任者である班長は、管制官の通信機を受け取り、接近してくる戦艦へと通信を始めた。

 

 

 

 「接近中のザフト艦に告げるっ!貴艦らの航路は、我が国の領域内へと侵入している!

 速やかに停船し、目的及び身分を明らかにされたし!」

 

 

 

班長と呼ばれている男性は、まるでマニュアルに書かれているかの様なセリフを通信機で叫んでいた。

しかし、当のザフト艦《ヴェサリウス》には、その通信の中にノイズが混じっており、所々で班長の声が聞こえづらくなっていた。

 

 

 

 「ザフト艦っ、速度を維持したまま、なおも接近してきます!!」

 

 「強力な電波干渉が、ザフト艦より発せられています!!これは、明らかな戦闘行為ですっ!!」

 

 「なっ……!?」

 

 

 

元々そのつもり。

と言いたそうに、ザフト艦《ヴェサリウス》はなんの反応もしないまま、ヘリオポリスへの接近を続ける。

そして、クルーゼが合図を出した瞬間、《ヴェサリウス》と《ガモフ》のカタパルトデッキが開いた。

《ヴェサリウス》の窪んだ船体の中心部が開き、《ガモフ》は船体下部にある卵型のパーツの先端部が開いていく。

そしてそこにMS《ジン》の姿が……。

 

 

 

 「工廠区を叩いたら一気に攻め落とすぞ」

 

 「ハッ!」

 

 「MS隊発進よーし!」

 

 「出撃させろっ!」

 

 

 

《ヴェサリウス》艦長フレドリック・アデスの号令と共に、両艦から次々と《ジン》が発進していく。

そしてその様子を《ヘリオポリス》の港に停泊していた地球軍側も察知していた。

 

 

 

 「敵はっ?!」

 

 「二隻だ!ナスカ及びローラシア級……強力な電波干渉の後にMSの発進も確認された!」

 

 「ちっ……!」

 

 

 

ヘリオポリスの港に停泊していたマルセイユⅢ世級戦艦のブリッジに、パイロットスーツを着たムウがやってきた。

艦長からの現状を確認した瞬間に、思わず舌打ちをしてしまった。

本来このコズミック・イラの世界で最強の兵器と言われているのが、ザフトの主力となっているMSだ。

対して地球軍側が主力としているのは、MA……武装戦闘機となる。

MSはMAをも超える機動力に、戦艦に匹敵する火力を持ち、戦車よりも強固な装甲を積んでいる……。

したがって、MSをMAが倒すには、MSが1機に対してMAが3〜5機は必要となる。

現状の戦力差は歴然だったのだ。

すでにMSが三機発進しており、マルセイユⅢ世級戦艦には、ムウの搭乗するMAを含め、三機のMAしかない。

 

 

 

 「ルークとゲイルは《メビウス》にて待機!まだ出すなよっ!」

 

 

 

 

オペレーターにそれだけ伝えて、ムウは自機へと向かった。

そして、この事態はヘリオポリス内部にいた地球軍の将兵たちにも伝わる。

 

 

 

 「わかっている!いざとなったら艦は発進させる!くそっ……!」

 

 

 

工廠内部にある詰所に集まっていた地球軍の士官と将兵たちは、ザフトからの攻撃という予想もしていなかった出来事に慌てふためいていた。

自軍が開発に至った、最新鋭のMS。

その情報が、ザフト側に漏れていたとしてもそれは仕方がないと踏んでいた……。

しかし、いま自分たちのいる場所は中立国『オーブ』が所有しているコロニーの中なのだ。

つまり、ザフトが攻撃しているのは『オーブ』という一国家ということになる。

ましてや、中立を宣言している国に対する攻撃は、宣戦布告ととられてもおかしくはない。

そんな状況下で攻撃を開始したためか、対応するオーブ側と地球軍側では、情報のやりとりが混雑していた。

 

 

 

 「対応はヘリオポリスに任せろっ!ラミアス大尉を呼び出せっ!!『G』の搬送を急がせいっ!」

 

 「ハッ!!」

 

 

 

その場のトップと思しき将兵が、即座に士官たち指示を出す。

その指示を受けた人物は、先ほどキラや一夏たちの前に割って入った黒髪の女性と青髪の男性であった。

二人は地球軍の軍服を身に纏い、真剣な眼差しで将兵に敬礼する。

女性の方はナタル・バジルール少尉……男性の方はアーノルド・ノイマン軍曹だ。

二人ともう一人の士官は、急いでその場から離れ、極秘開発されていた『G兵器』と呼ばれる物の確保へと動く。

一方、問題の『G兵器』が格納されているMSハンガーでは、複数名の整備班員が慌ただしく走り回っていた。

まさに蜘蛛の子を散らすとはこの事だろう。

そして、その中心で指示を発している女性が一人……。

 

 

 

 「《アークエンジェル》へっ!急いでっ!」

 

 

 

セミロングの茶髪で、他の作業員とは色違いの作業服を身につけている女性。

軍服を纏っていないが、彼女も立派な軍人だった。

名前はマリュー・ラミアス大尉。

いま慌てて搬送させている地球軍の最新鋭MS『G兵器』と呼ばれる機体の開発に携わった中心人物の一人だった。

そして外では、ヘリオポリスの警備隊がMAに搭乗して、侵攻してくるザフト軍に対して攻撃を始めていた。

しかし、MAといっても正規軍が持っているものではなく、作業用に使用する機体に、申し訳ない程度の武装を取り付けただけのもの。

そんなものと、軍用MSが対決しても勝負は目に見えている。

MAが機関銃を連射するが、MSはそれを容易く躱していき、お返しとばかりに手持ちのマシンガンを連射する。

その弾丸はMAの外装を難なく撃ち抜き、機体が爆散する。

その後から来たMSたちも、マシンガンを連射しながらヘリオポリスへと向かっていく。

 

 

 

 

 『フラガ大尉!』

 

 「船を出してください!港が制圧されます!」

 

 

 

一方、ヘリオポリスの港内ではマルセイユⅢ世艦の艦長が、MA隊の隊長であるムウに指示を仰いでいた。

ムウ自身もMAに乗り込み、発進準備を整える。

 

 

 

 「こちらも出る!」

 

 

 

隊長機のムウが発進準備を完了させ、同隊のパイロットであるルークとゲイルも発進準備を終わらせる。

そうして三機と、母艦であるマルセイユⅢ世艦が発進するのだった。

しかし、その直後……。

ヘリオポリス内部の工廠区では…………設置されていた爆弾が全て爆発してしまった。

爆発で飛び散る鉄屑が、人体を貫き、爆炎は人の肉体を焼き尽くした。

そして、アークエンジェルのすぐそばに位置する指令ブースにもその衝撃は轟き、強化ガラスでできていたであろう窓は木っ端微塵に吹き飛び、その中にいた将兵や士官たち諸共爆炎に飲み込まれた。

指令ブースにつながるシャフトにもその衝撃は伝わっていき、真っ黒な黒煙と衝撃波がシャフト内を駆け抜けた。

そして、戦艦一隻を沈める規模の爆発は、当然ヘリオポリス内部の都市部にも伝わり、それが地響きとなって全土を駆け抜けた。

 

 

 

 「きゃああっ?!」

 

 「な、なんだ?!」

 

 「隕石かっ?!」

 

 

 

ちょうど工業カレッジで作業中だったキラたちも、その衝撃にどよめく。

サイが言った通り、隕石の衝突ならば、まだ現実味があって良かったのかもしれない。

しかし、地揺れとなって襲う衝撃は、何度も何度も続いてくる。

流石におかしいと思ったその場いる面々は、何が起こっているのかを確かめるために、行動を開始したのだった。

その頃、コロニーの外では激しい戦闘が続いていた。

ムウ達連合軍のMAも発進して、連合のMAとザフトのMSとの戦闘へと変わっていく。

ヘリオポリスから発進した警備隊のMAは、全てがヴェサリウスの対空砲によって撃墜。

残っているのはムウ達の戦力のみとなった。

そして、これを機にザフトのMS《ジン》が、コロニー内部へと侵入する。

コロニーの入港口から侵入して、中にあるモルゲンレーテ社の工場へと向かった。

 

 

 

 

 

 「ふん……アレが例の新型か……クルーゼ隊長の言った通りだな」

 

 「突けば慌てて巣穴から出てくる……って?」

 

 「マヌケなものだ……ナチュラルなんて」

 

 

 

MS《ジン》が侵入してくるのとほぼ同時刻。

モルゲンレーテの工場区の近くにある小高い丘の端から、今まさに運び込まれようとしている機体の姿を確認したザフトの赤服パイロットと緑服の特殊隊員達。

赤服の一人、イザーク・ジュールが双眼鏡を使い、眼下で行われている光景を視認した。

ザフトでも見たことのない姿をしたMSが、戦用のハンガーで移動をしていた。

しかし、その足並みは遅く、敵が近くにいることすらも感知できていない様子だった。

その隣では褐色の肌をした少年、ディアッカ・エルスマンが手にしていた起爆装置をかざして、得意げに笑っている。

その他にも複数名のザフト軍人が、運び込まれている物を見下ろす。

目標は地球軍が開発した最新鋭のMS。

その全ての機体を奪取する事だ。

イザークは目標の発見した位置情報を即座に仲間のパイロット達に伝達。

その位置情報は、すでにコロニー内部に侵入していたジンのパイロット達にも伝わった。

 

 

 

 『お宝を見つけたようだぜぇ。セクターS、第37工場区!』

 

 「了解。さすがイザークだな、速かったじゃないか」

 

 

 

接近するジンの数は三機。

イザークからもらった情報により、運び込まれようとしている機体の方へと一直線に降りていく。

そして、その目標を補足した瞬間、ジン三機は手持ちのマシンガンを容赦なく発砲した。

 

 

 

 

 「ラミアス大尉っ、艦との通信が途絶……状況は混乱しています」

 

 「くっ……」

 

 

 

地上では機体を運び込むことで精一杯となり、直前に響いた衝撃波のことも、指令部の様子や母艦の状況なども、一切分かっていない状況だった。

そんな時、またしても爆発の音が近づく。

その場で作業をしていた作業員とマリュー達は、爆発の方へと視線を向ける。

そこには低空を飛行しながら、マシンガンを乱射し、トレーラーや車を次々に破壊していくMS《ジン》の姿があった。

 

 

 

 「伏せてっ!!」

 

 

 

弾幕から走って避けて、マリューたちは寸でのところで負傷を免れた。

しかし、状況が最悪の事態になっていることに気づかされ、マリューは怒りの表情を浮かべたまま、ジンを睨みつけた。

 

 

 

 「くっ、ザフトのっ……!X105と303を起動させるっ!一刻も速く、工区から出すわっ!」

 

 「はい!」

 

 

 

マリューともう一人の作業員が立ち上がり、そのままの勢いで工場区内へと走って行く。

その間に、ジン三機は次々に道なりに並んでいたトレーラーや装甲車を破壊して、完全に新型MSのハンガーな張り付いた。

地球軍側も、これに対抗しようと自走砲とレールガン装備の装甲車を走らせて、ジンを撃退しようとするが、全く歯が立たない。

そして、ジンの後を追うように空から赤と緑の人影が複数人降りてくる。

 

 

 

 

 「運べない部品と工場施設は全て破壊だ。ん?報告では五機あるはずだが……あとの二機はまだ中か?」

 

 

 

 

上空から降りてきている人影とは、先に潜入していたザフト軍パイロット達だった。

イザークが各自に指示を飛ばして、眼下に見えるMSを捉える。

しかし、外に運び出されているのは三機のMSしかない。

 

 

 

 

 「なら、そっちは俺とラスティの班で行こう。イザークたちはそっちの三機を」

 

 「オーケー任せよう。各自、機体に搭乗した後、すぐに自爆装置を解除しろよ」

 

 

 

流れるような動きで、ザフトパイロット達は地上へと降り立ち、持っていた軽機関銃を連射する。

対して連合側の作業員達も同じように銃で応戦するが、そもそもコーディネーターとナチュラル……身体機能などが明らかに違い、その中でも軍の育成機関を出て、エリートパイロットとして世に出た赤服の軍人達とは、練度も立ち回りも、何もかもが違いすぎるのだ。

そして突然の奇襲によって、連合側は状況混乱に陥り、こちらに応援を呼ぶ事はできない。

現状のまま、迎え撃つしか方法は取れない。

人数では勝っていたとしても、その作業員たちが次々に撃たれてはその場に倒れていく。

一人、また一人と流血を流して倒れて、息絶えてしまった。

ある者は手榴弾の爆発によって爆死……その爆発による衝撃で吹き飛ばされ、体を強く叩きつけられて行動不能に陥る者までいる。

ジンは僅かばかりの抵抗を見せる地球軍に対して攻撃を行い、辺りは騒然としている。

赤服のパイロットたちはそれぞれ一人ずつ機体に乗り込み、システムを奪取した。

一方その頃、工業カレッジのある建物内では、職員や生徒たちが一目散に逃げ回っていた。

非常用の通路へ出る扉を開くと、階段を使って地上へと走っていく人たちを見つけるサイ。

 

 

 

 「どうしたんですかっ?!」

 

 「しらんよ……!」

 

 「ザフトに攻撃されてるっ!」

 

 「「「「っ!!!?」」」」

 

 「MSがコロニー内に入って来てるんだよっ!」

 

 

 

職員の一人が発した言葉に、その場にいた全員が驚きをあらわにした。

オーブは中立国を宣言している国の一つ。

そしてここ《ヘリオポリス》は、中立国オーブのコロニーだ。

ここに侵攻するということは、オーブに対する攻撃ということになる。

にもかかわらず、ザフト軍は躊躇なく攻撃してきていることになるのだ。

自分たちの埒外の意識でいた『戦争』……それが今、現実になっている事にみんな不安を隠しきれずにいた。

 

 

 

 「とにかく速く、君たちも避難をっ!」

 

 「は、はい!」

 

 

 

職員の言葉に、サイ達はそのまま非常階段の方へと向かった。

しかし、その中を一人、別方向へと走っていく人影が一つ……。

 

 

 

 「っ?!ちょっと、君っ!」

 

 

 

キラがその人物に気づいて、後を追う。

その人物は、カトウ教授へ面会を求めてやってきた人物だった。

向かう先には、爆発による地響きと土煙が舞っている。

その人物を放っておく事もできず、キラはその後を追っていった。

 

 

 

 「キラっ?!」

 

 「大丈夫っ!すぐに戻るっ!」

 

 

 

未だに爆発が続いている地上。

トールがキラに声をかけるが、二人はそのまま行ってしまった。

 

 

 

 「トール、キラはっ?!」

 

 「あのお客さんを追っかけて行っちゃったんだよっ!」

 

 「くそっ……でももう、ここから引き返せない……あっちはキラに任せよう……僕たちも速く避難しよう!」

 

 「そ、そうだな……」

 

 

 

サイとトールが話し込んで、ようやく動こうとした矢先、カズイがある事に気づいた。

 

 

 

 「あれ?!」

 

 「どうした、カズイっ?」

 

 「一夏と箒がいないよっ?!」

 

 「ええっ?!」

 

 「あれっ?!さっきまで後から付いて来てたのにっ?!」

 

 

 

 

ミリアリアが後ろを振り向くが、そこに一夏と箒の姿はなかった。

 

 

 

 「あいつらまでっ……どこ行ったんだよっ!?」

 

 

 

 

サイが愚痴ると、またしても一際大きい揺れが襲ってきた。

非常階段から聞こえてくる悲鳴……。

逃げている職員達のものだろう……このままでは崩落するのも時間の問題だった。

 

 

 

 「ここは危ないっ……とにかく、僕たちだけでも避難をっ!」

 

 

 

サイの言葉に、残っていた三人は頷きあってそのまま非常階段を登っていく。

その行先には、まるで地獄絵のような光景が待っているとも知らずに……。

 

 

 

 

 

 

 

 「おいっ!ちょっと待ってって!そっちに行ったって……!」

 

 「離せっ、私は行かなければならないんだっ!」

 

 「そんなこと言っても、こっちには何もないよっ!」

 

 

 

教授の客人は、一直線に工場区へと向かって走っていた。

しかし、その工場区には大した物も置いていないし、何かを開発しているとも聞いていない。

故にキラ達も、今は稼働していない施設だという認識しかなかったが……。

それでも客人はその方角へと進もうとする。

そんな客人の腕を掴んで、キラは静止を呼びかけた。

そんな時、後方から爆発が響いた。

振動が体を突き抜けて、爆発の衝撃と黒煙が廊下を覆う。

あまりの衝撃に二人は目を瞑り、後ろから迫りくる爆風と黒煙が襲う。

 

 

 「うわっ?!」

 

 「くうっ?!」

 

 

 

爆発の衝撃で、客人が被っていた帽子が吹き飛ぶ。

今まで目深に被っていたため、よく見えなかった顔が明らかになった。

黒煙が晴れていき、衝撃と爆風が止んだ瞬間、キラと客人は同時に目を開けた。

そこで見えたのは、凛々しくもあり、可愛らしい容姿を持った金髪の少女だった。

 

 

 

 「お……女の、子?」

 

 「っ……なんだと思っていたんだ、今まで」

 

 

 

思わず口に出してしまっていたか……。

キラの言葉に、少女はムッと表情をしかめた。

 

 

 

 「ぁあ! いや、だってさ……」

 

 「とにかく! お前はもう戻れ。私にはまだ、やらなければいけない事があるんだ」

 

 「戻れったってどこへっ?! もう戻れないよっ!」

 

 「っ……」

 

 

 

後ろを見れば、おそらく爆発の影響か、廊下が塞がっていた。

これではもう、戻ることすらできないだろう。

そして今もまだ爆発は続いている……。

いつ自分たちの頭上にある壁が崩れるかわからない状況だ。

キラは少女の腕を取り、そのまま駆け出す。

 

 

 

 「ええっと……とにかくこっちっ!」

 

 「おいっ、ちょ、離せこのバカっ!」

 

 「バ……っ?!」

 

 「こんな事になってはと……私はっ……!」

 

 

 

少女の言葉には悲痛な感情が混ざっていた。

少女の言葉の意味は分からなかったが、とにかく今はここから脱出して、シェルターへの避難が最優先だ。

 

 

 

 「泣いてちゃダメだよっ! 大丈夫だから……ほら、走ってっ!」

 

 

 

この状況で絶対なんて言葉はない。

しかしそれでも、大丈夫だと言い聞かせるしかなかった。

キラと少女は、廊下の突き当たりに向かって走る。

爆発の影響で、照明が落ちた暗い廊下を照らす光が見えて、キラは迷わずそちらへと走っていく。

光挿す場所へ、二人は入っていった。

 

 

 

 

 「えっ……」

 

 

 

 

二人が入った先は、モルゲンレーテの工場区。

本来、関係者以外の立ち入りはできないが、今は非常事態のため、シェルターを探していたと言えばどうとでもなる。

しかし、キラと少女の眼下には、驚くべきものが存在していた。

灰色の装甲体に、人間と同じ手足と二つ目や額のアンテナの様なブレードが特徴的な巨大な物体。

キラは知っている……目の前にある横たわった物体が、一体なんなのかを……。

しかし、それはキラがいままでに見たことのない“機体”だった。

 

 

 

 

 「これって……」

 

 「ぁぁ……」

 

 

 

呆然としているキラの横で、最悪の状況に直面したと言わんばかりに、力なく座り込む少女。

 

 

 

 「地球軍の“新型機動兵器”……っ、お父さまの裏切り者ぉぉーーッ!!!!」

 

 

 

新型機動兵器……そう、MS。

しかし、ザフトの開発した量産型MS《ジン》とは全く違う姿、全く違う装甲群。

キラと少女の眼下に見える機体は二つ。

その機体の周りには、作業服を着た整備員と思しき人たちと、赤も緑のザフト軍のパイロットスーツを着た人たち。

どちらも手に銃を取り、激しく撃ち合っていた。

そして、二体いる新型MSのうち一機の上からアサルトライフルを撃っていた女性整備員が、少女の叫び声に反応して、キラ達の方へと銃口を向けてくる。

 

 

 

 「っ、じょ、冗談じゃないっ!!」

 

 

 

キラが慌てて少女の腕を取り、再び走り出す。

その数秒後、二人の立っていた場所に銃弾が着弾する。

チュンッ! と弾丸が跳弾する際に聞こえる独特の金属音を聞きながら、二人は必死に走った。

 

 

 

 

 「子供?」

 

 「うおっ……!」

 

 「っ!」

 

 

 

撃った張本人である女性整備員……いや、地球軍士官マリュー・ラミアス大尉は、銃口を向けた状態で固まった。

自分たちが今いる工場区内は、本来ならば関係者以外の立ち入りは禁じている。

その中を、ヘリオポリスの住民とはいえ、なぜ子供がいるのか……という疑問を抱いたからだ。

しかし、そんな彼女の思考を即座に消し去る声。

仲間である士官が胸のあたりを撃たれて倒れたのだ。

マリューはすぐに持っていた銃で撃ち返す。

突然のことで混乱したが、今は目の前の敵を撃ち、ここにある二体のMSを動かす事が優先として、マリューは混乱する戦場で必死に抵抗していた。

その頃、工場区外の方ではすでにザフト軍による制圧が終了し、先に運び出されていた三機の新型MSがザフト軍パイロット達によって奪われてしまっていた。

 

 

 

 

 「ほう? すごいもんじゃないか。どうだ、ディアッカ?」

 

 『ナーブリング再構築。キャリブレーション良好……動ける……っ!』

 

 「ニコル?」

 

 『待ってくださいっ……もう少し……!』

 

 

 

三人の赤服ザフト兵がそれぞれの機体に乗り込み、自爆装置を解除した後、OSの簡易解析を終え、システムを起動させた。

三機の新型MSはハンガーから立ち上がり、その姿を表した。

皆、工場区内にいた二機のMSと同じ灰色の装甲をしており、頭部につけられたメインカメラもツインアイ型。

三機全てが立ち上がったところで、一番後ろにあった機体に乗り込んだディアッカが周囲を見回す。

 

 

 

 「アスランとラスティは? 遅いな」

 

 「ふん、奴なら大丈夫さ。とにかくこの三機、先に持ち帰る。クルーゼ隊長にお渡しするまで、壊すなよ」

 

 「「了解」」

 

 

 

三機は侵入してきたジン二機を連れ立って、その場から飛翔していった。

これで、地球軍が開発した新型MS五機の内、三機が奪われた。

GAT-X102 デュエル

GAT-X103 バスター

GAT-X207 ブリッツ

それが、奪われた機体の名称。

ジンと三機はすでに遥か彼方へと飛翔していき、港を通って宇宙へ飛び立ってしまった。

そして、残る二機が格納してある工場区内部では、ようやくシェルターを見つけたキラが、ドアの横にある呼び出しボタン押す。

 

 

 

 

 「あった! よかった、まだ残ってるシェルターがあった……!」

 

 「…………」

 

 「ほら、ここまで来ればもう安心だよ」

 

 

 

プーー!!

 

 

 

 『まだ誰かいるのかっ?!』

 

 「はいっ! 僕と友達の二人です! 開けてください!」

 

 『二人っ?! ……もうここはいっぱいなんだ!』

 

 「「っ?!」」

 

 『左ブロックの先に、37番シェルターがあるんだが、そこまでは行けないかっ?!』

 

 「っ……」

 

 

 

おそらくシェルター内で応答してくれているのは、コロニー管理者側の人間だろう。

言われた37番シェルターと方へ視線を向ける。

そこは今もなお銃声や爆発音が響いている激戦区画。

そんな所にまた戻らなくてはならないのは、正直言ってごめんであるが……。

 

 

 

 「なら、友達だけでもお願いします! 女の子なんです!」

 

 『っ……わかった! すまん!』

 

 

 

そういうと、シェルター行きのエレベーターの扉が開く。

中の室内灯が点灯して、そこに入る人物を待っていた。

 

 

 

 「入って」

 

 「え?」

 

 「ほら、君が乗るんだよ!」

 

 「ちょ、何をっーーーー私はっ!」

 

 「いいから乗れって! 大丈夫だから、さあっ!」

 

 

 

入ることを拒む少女を強引に押し込み、閉鎖のボタンを押すキラ。

 

 

 

 「待てっ、お前ーーーーーーーー」

 

 

 

扉が完全に閉まり、少女を乗せたエレベーターは下へと向かって発進した。

頭上にある電光灯は赤色に変わり、もう満員だということを知らせる。

キラは管理者側の人から教えてもらった37番シェルターの方へと走り出した。

キラの視界から見て左下に広がる光景は、もはや地獄の様だった。

もくもくと上がる黒煙に、硝煙と血の匂い。

パチパチッと音を立てて燃えている工場区内……作業車やトレーラーなどは爆発によって変形したり、燃えていたり、ひっくり返っていたり……。

そして何より、今もなお銃声が鳴り響いている。

よく見ると、先程自分たちを撃ってきた女性が、今もまだ手にしていたアサルトライフルで反撃しているのが見て取れた。

 

 

 

ババババババーーーー!!!!

 

 

 

 「ぐおっ?!」

 

 「ラミアス……大尉ぃ………」

 

 「ハバナッ、ブライアンッ、早く起動させるんだッ!」

 

 

 

MSの左脚……ちょうど膝関節の付近で、装甲に隠れながら戦うマリュー。

しかしその後ろに、そのマリューを狙う人影が……。

緑のパイロットスーツを着たザフト軍パイロットが、手に持ったアサルトライフルの照準を、マリューの頭部を目標に狙っていた。

 

 

 

 「っ……危ないっ、後ろっ!!」

 

 「っーーーー!!!」

 

 

 

突然工場区内に響いた声。

それにギリギリ反応来たマリューは、体勢を入れ替えて即座に後方を振り返り、持っていたアサルトライフルを連射。

すぐに弾切れになってしまったが、残っていた数発がザフト兵に直撃し、ザフト兵はその場で倒れてしまった。

とりあえずの危機を脱したことに安堵しながら、マリューは視線を横に滑らせた。

そこには、先程自分が撃った子供が立っていた。

茶髪の切り揃えた髪に、黒い上着と鮮やかなライトグリーンのズボンを身を包んだ10代の少年・キラだった。

 

 

 

 「さっきの子? 何でーーーー」

 

 「ぐおっ?!」

 

 「っーーーー!!!」

 

 

 

アサルトライフルのマガジンを交換しながら、突然声を発した少年の行動に疑問を抱いたが、またしてもその思考を途中で遮られる。

一番近くで反撃していた味方が、別のザフト兵に撃たれたのだ。

マリューは持っていたアサルトライフルを捨て、代わりに腰に帯びていたハンドガンを抜く。

左に飛び込み、装甲から飛び出した瞬間に引き鉄を二回引く。

放たれた弾丸は確実にザフト兵の体を射抜き、ザフト兵はそのまま仰向けに倒れた。

敵を倒し、再び視線を後ろに向ける。

声を発したキラは、未だに上階の通路に佇んでおり、こちらを見ている。

故にこの時点で、マリューは一つの決断をした。

 

 

 

 

 「来いっ!!」

 

 「っ?!」

 

 

 

 

ただ一言。

『来い』と言ったのだ。

しかしキラは……。

 

 

 

 

 「左ブロックのシェルターに行きますっ! お構いなくっ!」

 

 「あそこはもうドアしか無いっ!!」

 

 「え……?」

 

 

 

 

キラは管理者に言われた通り、37番シェルターに向かおうとするが、マリューの言葉に気を取られ、その場に立ち止まった。

その瞬間、自分が行こうとしていたシェルターへの扉がある付近から、大音量の爆音が響いた。

 

 

 

 「うわっ?!」

 

 

 

爆発の威力によって生まれた衝撃が体を伝い、爆煙が流れてくる。

近くに爆発物が仕込まれていたのか、あるいは今もなお続いている外での攻撃による影響なのかはわからないが、これでキラは完全に退路を断たれたということになる。

 

 

 

 「くそっ……!」

 

 

 

通路を逆走して、先程の場所に戻るキラ。

 

 

 

 「急いでっ! こっちへ!」

 

 

 

左脚関節部の辺りから胸部へ向けて移動するマリュー。

キラが撃たれないように、援護をするために動いたのだろうが、当のキラ本人は、その場にあった手すりに両手で捕まると、体に勢いをつけてそのまま飛び出した。

 

 

 

 「えっ?!」

 

 

 

 

キラの行動に戸惑うマリュー。

それもそのはずだ。

キラのいた上階の通路から工場区内の敷地までの高さはゆうに10メートルを超えている。

おそらくMSの上を目掛けて飛び出したんだとしても、かなりの高さになる。その高さを躊躇なく飛び出した挙句、MSの肩の部分に着地。

体にかかる衝撃で立ち上がれずにそのまま倒れ込みはしたが、普通は着地してもどこかを強く打ち付ける筈……。

見たところキラの表情は変わらず、強く打ちつけたようにも見えなかった。

 

 

 

 

(あの高さから飛び込んで、ケガも無し……? どういう身体能力してるの?)

 

 

 

 

キラの行動にマリューが戸惑っている間に、銃撃戦は佳境に入っていた。

整備員の一人が、ハンガーの柱の影に隠れながら放った弾丸……その一発がザフト兵の……赤服のパイロットスーツを着た少年の眉間を撃ち抜いた。

 

 

 

 「ぐは……っ」

 

 「っ!? ラスティーーっ!!!!」

 

 

 

ラスティと呼ばれた少年は微動だにせず、かぶっていたヘルメットのフィルターを突き破った弾丸の跡が残っているのを確認したもう一人のザフト兵。

 

 

 

 「うわあぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!!!!」

 

 

 

工場区内の整備品の入ったコンテナの影に隠れていたもう一人のザフト兵は、コンテナから飛び出して叫びながら持っていたアサルトライフルを乱射した。

その弾丸が、仲間の命を奪った敵を撃ち抜く。

撃たれた整備員は呻き声をあげてそのまま倒れた。

これで残るのは一人だけ……。

 

 

 

 「ハバナッ!」

 

 

 

ダダダダダダーーーー!!!!

 

 

 

 「ぐっ、うぁっ!!?」

 

 

 

 

唯一の生き残りであるマリューは、残っていた仲間が撃たれた事に動揺した。

その一瞬の隙を突いて、ザフト兵はアサルトライフルを連射したのだ。

そして、その内の一発がマリューの左肩を射抜いた。

左肩に伝わる激痛と、流れ出る鮮血。

マリューはその場に蹲り、それを見たキラはマリューに駆け寄る。

そして、マリューにとどめを刺そうとしていたザフト兵は、なおもアサルトライフルの引き金を引くが、銃口から弾丸が出てこない。

弾が詰まったのかと思い、ザフト兵は銃身横のレバーを何度か引くが、反応がない……つまり、弾切れだったのだ。

ザフト兵はマリューにとどめを刺す為に、手にしていたアサルトライフルを捨てて、防弾ベストの中に仕込んでいたバタフライナイフを抜くと、背中に背負っていた推進器を噴かせて飛び上がる。

キラは倒れ込んだマリューの側に行き、傷の確認をする……そこにザフト兵が駆け込んでくる。

激しい銃撃戦が行われていた戦場で、どちらも神経を鋭敏にしていた。

キラは向かってくるザフト兵に視線を移し、ザフト兵も、息を荒げながらナイフを突き出そうと詰め寄った。

そして、その瞬間…………キラとザフト兵……二人の脳裏に蘇ったのは、幼い頃の記憶だった。

 

 

 

 

 「ぁ………!! アス、ラン……?」

 

 「っ………?! キラ……?」

 

 

 

 

立ち止まった二人の少年。

片や民間人、片やザフト軍のMSパイロット。

二人の視線と、言葉が交錯した瞬間……二人は立ち止まり、動けなくなった。

その瞬間に、外部からの爆発が発生。

工場区内へ爆炎と爆風が流れ込み、当たり一面を包み込んだ。

 

 

 

 

 「くっ………!」

 

 「っ?!」

 

 

 

ダンッ! ダンッ!

 

 

 

 

とどめを刺し損ねたザフト兵……アスラン・ザラは、座り込んでいたマリューが、自分に銃を向けている事に気づき、その場から飛び退く。

握られていたハンドガンからは二発の銃声が聞こえたが、どちらもアスランには命中せず、アスランは背中の推進器を使って、隣のMSハンガーへと移動していった。

 

 

 

 「ぁ……!」

 

 

 

飛んでいったアスランの方へと視線を移すキラ。

まるで信じられないものを見てしまったと言いたそうな表情……。

しかし、周りはすっかり爆炎に包まれてしまっている。

故にマリューが、キラをMSのコックピットへと突き飛ばした。

 

 

 

 「くっ!」

 

 「うわっ?!」

 

 「っ!」

 

 

 

 

キラをコックピットに放り込み、自分もコックピットへ入る。

ハッチを閉めて、機体を起動させた。

隣へ飛び移ったアスランもまた、残されていた機体へと乗り込む。

ハッチを閉めた瞬間、またしても爆発が起きた。

工場区内も、いつ崩落するかわからない状態。

マリューが乗り込んだ機体と、アスランが乗り込んだ機体はほぼ同時に機体のメインシステムを起動させた。

頭部のツインアイカメラが点灯し、重厚感のある装甲を積んだ機体は、ゆっくりと起き上がる。

機体の四肢を固定していたハンガーの固定用アームが軋んでいくが、それを無視してそのまま破壊する。

上体が起き上がり、背中にあるケーブルを引き抜く。

爆炎の中を立ち上がる二つの巨体。

この日、中立国オーブ連合首長国の所有コロニー《ヘリオポリス》で起きた事件は、膠着状態となっていたこの戦乱の世界に、大きな波紋を呼び起こす第一歩となってしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 





今回は一応生存報告と言う意味で投稿しました^_^

感想、ご意見、よろしくお願いします。
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