「……おぉ!カズマではないか!ほうほう、装備を新調すると、いっぱしの冒険者の貫禄が出るのう♪なかなかの益荒男ぶりじゃ」
「……そうね、一般の冒険者に紛れられるようになって、余計厄介になったかもしれないわ」
たまもはともかく、エルの言いようは要するに今までは一般人に忌避されるような不審者だったと言っているような物ではないだろうか。
因みに俺の今身に着けている装備は、こちらの世界の服の上から皮の胸当てと関節部に金属製の部分鎧を身に着けている感じだ。
服に関しては、ジャージよりも耐久性が高く、仮に破損しても補充が効く現地産の者の方が良いだろうとイリアスにアドバイスを受け、エンリカの服とかいう服を何着か購入していた。
現地の服としては肌触りもいいのだが、地味な色合いだからか性能の割には安めに購入できた。
魔法を使うなら片手は開けていた方が良いということだったので、盾は装備せず魔法戦士スタイルだ。
さて、こうして装備を整えると、世知辛いことを知っている冒険にも出てみたくなるというものだ。
「……冒険に出たいという顔ね。なら、ジャイアントードが繁殖期に入っているからそれを……」
「「ジャイアントトードはやめましょう(るのじゃ!)」」
提案しようとしたエルの言葉を、イリアスとたまもは強い口調で否定した。
「……大丈夫、私があなたたちを守る。たとえ食べられても、内部から粘液を全部吸収して倒してあげる。仮にあなた達が捕まっても、すぐに救い出す」
……目があらぬ方向を見ているエルは、妙な威圧感をもって二人に語り掛けていた。……これ、場合によってはこいつ自身が粘液まみれの二人を見たいだけだな?
「と、とりあえず、今回は俺の装備の試運転だ。ぎりぎりの戦いよりは、少しづつ慣らしていきたいし、簡単に達成できるクエストがいいな」
「……。そうね、ジャイアントトードは今度にしましょうか」
俺の意見に理があると判断したのか、エルは威圧感を収めて俺に同意した……俺がいない間に勝手にジャイアントトード討伐に二人を誘わないよな?
なるべく監視に着くことを内心で決めていると、いつの間にかエルとたまもが依頼を見に行ったのかいなくなっていた。そんなわけで一人になった俺に、イリアスが訳知り顔で目を向けて来た。
「カズマ、確かに、慎重になるのは大切です。ですが、慎重になりすぎるのも問題ですよ。一度チャンスを逃せば取り返しのつかないことなどいくらでもあるのですから。
カズマ。あなたには私が付いています。それに、タマモや、エルベェもいるのです。魔王軍四……、いえ魔王軍に挑もうとする仲間たちなのですから、カエルはともかく、もう少し高い依頼を望んでも良いのではないですか?」
……。
「ん?私の顔に何かついていますか?」
「ああ、いや。お前ってさ、普段はともかく、戦闘の時って大して役に立ってないよな、と思って」
それを聞いて、イリアスは目を見開き、口を大きく開けた。
「…………は?」
そして、それはそれは間抜けな声を出した。しかし、その目はすぐに吊り上がり、俺を軽蔑の目で見つめて来た。
「今、なんと言いましたか?」
「えっ、と」
「な・ん・と言いましたか?」
俺に詰め寄るイリアスは、なんというか、完全にゲームのラスボスが放つような威圧感を発し、俺を見下す目線でこちらを見つめていた。
「そ、そのだな、さっきのは、ちょっと口が滑ったというか。ほら、イリアスって頭もいいし、人生相談とかもしてるじゃないか。だけど実際、戦闘の場面じゃまだ功績がないのも事実だろ?だから、イリアスを全否定してるわけじゃなくてだな……」
「弁明はそれで終わりですか?」
ガチ目に切れているイリアスだが、その様子を見ていると俺もなんだか腹が立ってきた。
「なんだよその言い方は!戦闘で役に立ってないのは事実じゃないか!それとも何か?お前は俺が見てないところで功績をあげたとでも言うのかよ!そんな証拠があるなら見せてほしいもんだな?おい!大体、事実言われて切れ散らかすとか、あんたは子どもかよ!女神って肩書は、子どもにつけられる称号なんですね!この駄女神が!」
「……」
言い切ってしまってから、やべっ、と思ったが、言ってしまったものはしょうがない。せめて逃げずに真正面からイリアスを見た。
「……え?」
そこには、一言も言葉を発さずに涙するイリアスの姿があった。顔は苦悩と絶望を煮詰めたかのように歪んでおり、しかしそれでも俺を見据えて歯を食いしばっていた。
そのまま、無言で相対する俺たち。その均衡は、依頼を探しに行っていたタマモたちが帰ってきたことで崩れてしまった。
「おまたせしたの……って、どういう状況じゃ、これ」
そう声を掛けられた途端、イリアスはバッと俺に背を向け、走り出してしまった。
「貴様……!いたいけな少女に何をした!」
激昂するエルの粘液にまみれながらも、俺はイリアスを目で追うことをやめることができなかった。
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「はぁぁ。やっちまったなぁ」
あの後、どうやら予想以上に呆然としている俺がやばい状況に見えたらしく、エルとたまもがイリアスのところに話を聞きに行ってくれた。その間、俺は頭を冷やしておけと酒場でお留守番だ。
俺は悪くない!と開き直ることはできなかった。きっと、俺はあいつの一番弱い所を攻撃してしまったのだ。まだ長い間関わったわけではないが、彼女が己自身が女神であることに何らかの思いがあることは日々の付き合いの中で理解しているはずだった。しかし、それを俺は無遠慮に踏みにじったのだ。
そうして突っ伏していると、ふと俺の上に誰かの影がかかっているのに気が付いた。
見上げると、そこには金髪碧眼、まさに女神を体現した女性が立っていた。
「イリアス……」
「カズマ、私は非常に怒っています。私の偉大さを知らず、あまつさえ駄女神と呼びならしたあなたに天罰を加えようと思うほどには……しかし、あなたの言うようにあなたの目に見える形で戦果を挙げたことは有りませんでした。
故に、寛容な私はその機会を与えましょう。
私の御業を、私の力を、愚かなるあなたにお見せいたしましょう。そして、私の偉大さを知った時、貴方を正式に、私の下僕といたしましょう」
そう言うと、イリアスは一枚の紙を俺に向かって投げ渡してきた。
「アンデッドの駆除依頼。ここで、私の実力のほんの一端をお見せいたしましょう」
それだけ言うと、イリアスはそのままギルドを出て行こうとする。俺はイリアスの手をつかみ、彼女を引き留めた。
「その、さっきはすまなかった。言い過ぎたよ、腹の虫がおさまらないって言うんなら、お前の好きなジャンボパフェでも何でも奢るからさ、だから……」
「話は、それで終わりですか?」
そう冷たく言い放つと、イリアスは俺の手を払いのけてさっさと行ってしまった。
「……取りつく島もなし、じゃな。一通りはイリアスから聞いておるが、本当に何を言ったんじゃ、お主は」
「もし貴様が追放されても、私があの子を守る。安心して」
ああ、それは……。
「もし、本当に俺が捨てられたら、その時はよろしく頼む……」
なんだかそんな言葉が出てしまうほど、俺は捨て鉢な気分になっているのだった。
というわけで、イリアス様の地雷を踏みぬきました。
イリアス様はルカ君ほどではないですが、カズマに執着をし始めています。ので、こんな感じになりました。
次回はウィズ役の登場回です。
変更箇所
・アンダーウェアをエンリカの服に確定
・ジャイアントトードの依頼を受けようとするクルセイダーの動機を変更
・女神様の依頼に対するコメントのニュアンスを若干軟化
・女神さまとの口喧嘩の内容を過激化
・依頼を受ける過程を大幅に変更