この素晴らしい世界にもんむすを!   作:邪魅魑

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EP11 イリアスは浄化した!

 俺たちは、町から少し離れた墓地で、無言の食事をとっていた。空気は最悪で、とにかく威厳と威圧感極振りの女神さまが何も言わずに焼いた肉を頬張り、そこから少し離れてたまもとエルが寄り添うようにしてこちらの様子をうかがっており、何の因果か激おこ女神さまの正面に俺が配置されていた。

 

「し、しかし、この肉はさすがじゃな、エル」

 

「……ええ、家から持ってきたのだけれど、喜んでくれて何よりよ」

 

 何とか会話の糸口を作ろうとしてくれたたまもだったが、俺もイリアスも話に乗ろうとしないので不発に終わった。

 

 と、皿の上の肉が無くなったイリアスが、伏していた眼を上げ、俺たちに語り掛けて来た。

 

「今回の依頼は、ゾンビメーカーの討伐。ゾンビを作り出す悪霊の類です。今宵はこれを討伐いたしましょう。私が相手するには役者不足な相手ですが、仕方ありません」

 

 そう言って目を墓地の方へと向け、その口の端をいびつに歪ませる。

 

「……まあ、実際は、相手にとって不足なし、と言ったところでしょうか?」

 

 そう言って笑うイリアスが見つめる先に、いつの間にか人の姿があった。……一人ではない。幾人もの異形が付き従うようにその女性の後をついて来ている。

 

「……ふむ、明らかにゾンビメーカーではないのう。というか、なんで依頼者はゾンビメーカーと間違えたんじゃ。あれ」

 

 明らかにやばい様子に、俺たちが身を隠しながら眺めていると、人影を照らすように墓地から青白い光を湛える魔法陣が出現した。

 

 その中で明らかになったのはあまりにもやばい見た目の人影だった。漆黒のローブに、顔にはとがったくちばしの仮面。ちょうどペスト医師を黒く塗りつぶしたような意匠は完全にボスの風格を漂わせていた。

 

「……ふふふ、あはははははははは!リッチーではないですか!消え去りなさい!『ターンアンデッド!』」

 

「うあっ!?」

 

 直後、イリアスが放った一撃で存外かわいい声がそのペストマスクからこぼれ出た。そして、そのタイミングで俺たちに気付いたペストマスクは、こちらを見つめながら言葉をかけて来る。

 

「君たちは、いったい……それよりもなぜいきなり……」

 

「その魔法も、ろくなものではないのでしょう!消して差し上げます!」

 

「!?まて、これはここの墓地の迷える魂を冥府へと送るものだ。決してやましいものでは……」

 

 それを聞いて、イリアスがぴたりと動きを止める。

 

「……分かってくれたか」

 

「『セイクリッド……」

 

「待て待て待て!」

 

 全く状況が把握できていないが、とりあえず相手が話し合いの姿勢を取っているため、俺は攻撃しようとしたイリアスの口を押えて魔法の発動を妨害した。

 

「落ち着け、この人は明らかにやばい見た目だがどうやら話は通じそうだ。どうするかは話を聞いてからでも……」

 

「危ない!よけてくれ!」

 

 イリアスの説得をしようとしていた俺に、金切り声が聞こえる。あたりを見回すと、先ほどイリアスが浄化したアンデッドの中で、鳥人だった者が空中からイリアス目がけて墜落してくるのが見えた。

 

 俺は思わずイリアスを突き飛ばし……そして、あまりの衝撃に、そのまま意識を手放した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 気が付くと、俺はどことも知れない光あふれる場所に立っていた。

 

「サトウカズマよ、目を見開くがよい」

 

「……いいっ!?」

 

 そして、目を見開くと目の前には異形が座っていた。俺と目が合っている場所。それは良い。上半身は色合いが青に近い褐色で、人間ではありえない色合いをしているものの、逆に言えばそれだけだ。

 しかし、下半身に目を向ければもはやそれは異形という一言で言い表すのがおこがましいほどに異常な姿が存在した。

 基本は蛇だろうか。人間を何人かまとめて捕食できそうなほどに大きな蛇の胴体から、ちろちろと触手や植物の蔓が見え隠れしている。

 

 そんな異形にたじろいでいると、そんな存在とは思えない柔和さで彼女が語り掛けて来た。

 

「サトウカズマよ。そなたはこの世界で精いっぱい生き、女神イリアスを救うために身を挺して……そして亡くなったのだ。

 短い人生ではあったが、そなたの人生は終わったのだ」

 

「……」

 

 そのフレーズに聞き覚えがあり、俺は思わず彼女をまじまじと見つめる。

 

「あの、間違ってたらすみません。もしかして貴方は、この世界の女神、様?」

 

「……ふむ、その通り。わらわこそありとあらゆるモンスター娘の祖にして、アリスフィーズの始祖。邪神アリスフィーズである」

 

 傲然と言ってのけるその姿は、なるほど、以前転生前に見たイリアス様の威厳とそん色ない神々しさを放っていた。

 

「さて、サトウカズマよ。わざわざこの世界に来たというのに、このような結果となってしまい、本当に申し訳ない。戦争のない国へと転生させるゆえ、そこで暮らすがよい」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 そう言って、ことを進めようとするアリスフィーズに、俺は慌てて待ったをかける。

 

「あいつらは、俺の仲間たちはどうなったんだよ!」

 

「……ふむ、イリアス達なら、問題はない。そなたがイリアスをかばった後、リッチーがリフレツィアを止めたようだ。あぁ、リフレツィアというのはあのハーピーの名前だ」

 

 それを聞いて、俺はほっと一息を吐く。

 

「よかった……って、よく考えると、アリスフィーズ……様、ってイリアスと敵対していたんだよな?それにしてはなんだかイリアスを敵視してる感じがないような気がするんだけど」

 

 そう言うと、アリスフィーズは薄く笑って顎をさすった。

 

「ふふ、それはそうだ。わらわは闇、彼奴は聖。相容れぬ存在故に交わらなんだ我らではあるが、唯一無二の同胞でもある。わらわたちというのは、本来日に照らされた影がその座を譲る様に、あるいは日の陰りと共に、影が夜を支配するように、交わらずともつぶし合うような類の関係ではないのだ。

 実際には、我が子らのために戦い、そして滅ぼし合ったわけだが……全く、不出来な妹に恵まれたものだ」

 

 そう言うアリスフィーズの顔は、この上なく嬉しそうに吊り上がっていた。

 

「尤も、そう言った風に考えられるようになったのも、封印されてここで転生の神として仕事を始めてからなのだがな。六祖封印は力の強い者こそを封印する呪縛。制約は多いが、転生の神としても問題なく仕事ができ、無聊を収めることができたのは幸いであった。

 それに、元の世界を再現し、我が血筋も平穏に暮らしておるのを見るのは……」

 

 そこで、言葉を止めたアリスフィーズが俺を見た途端。俺は言い知れぬ恐怖に全身を震わせた。

 

「そう言えば、お主、わらわの可愛い娘子の下着を公衆の面前で奪取してはいなかったか?」

 

 その一瞬で、俺はイリアスの言葉を思い出す。確か、盗賊のクリスのことをイリアスはアリスフィーズと呼んで!?

 

 そう認識した瞬間、バリン、という轟音が聞こえたかと思うと、俺はとんでもない力で引っ掴まれ、そしてそのまま空間に空いた穴に引きずりこまれてしまった。その時見得たのは、金色の髪だけだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 静寂に包まれる神の間にて、邪神アリスフィーズは、先ほどのことを反芻していた。

 

「……くっ、くくくく。まさか、世界全てを人質にしてわらわを封印したあのイリアスが、たった一人の人間のためにここまで来るとはな」

 

 そして、誰もいない空間で、邪神は上を見上げる。

 

「そなたは望まぬのだろうが、イリアス。そなたのもがく様わらわが見守ってやるとしよう」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 再び、目を見開くと、そこは先ほどの場所と似た空間だった。そして、そこには縮んでいないイリアスの姿があった。

 

「イリアス?」

 

「勇者カズマ。あなたは先代ハーピークィーンに風穴を開けられ、情けなく死んでしまいましたね。

 全く情けない……と言いたいところですが、現状のあなたでは彼女に勝つ術はありません。徹底的に交戦を避けなければ生き残ることはできないでしょう。

 幸い、彼女は単体で存在するわけではありません。使い手も現状攻撃的ではありませんから、ひとまず彼女が止めるまで生き残るのが良いでしょう。

 さて、それでは勇者カズマ、行きなさい。私はあなたが魔王を倒してくれると信じていますよ」

 

 その言葉を聞き終えるとともに、俺は再び目の前が暗くなっていく感覚を味わったのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「危ない!よけてくれ!」

 

 気が付くと、俺はそんな声を聞いていた。俺は咄嗟にイリアスを押し倒し、ゴロゴロと更に転がり、その場から退避した。

 

 直後、ドスンという音がして、鳥人がこちらをにらみつけた次の瞬間、リッチーの女性がハーピーを制止する声を発した。

 

 どうやら、危機は去ったらしい。とほっとしていると、俺の天地が逆転した。気づけばイリアスが俺の上に馬のりになり、大粒の涙を浮かべながらこちらを見つめていた。

 

「何をしているのですか!この愚か者!馬鹿!アホ!カズマ!」

 

 そして、俺の胸にドンドンと拳を叩きつける。

 

「あなたがあのアリスフィーズの前にいると知った時、私がどう思ったか、分かっているのですか!カズマ!あなたは、あなたは……」

 

 まとまらない言葉をつぶやき続けるイリアスは、いつの間にか俺の胸に顔をうずめて泣きじゃくっていった。

 

「……ありがとう、イリアス。それと、ごめんな、心配かけて」

 

 そう言うと、イリアスが涙交じりの顔で俺に顔を向けて来た。

 

「許しません!そんな言葉だけじゃ許しませんから!」

 

 どうすればいいのか分からず、とりあえず俺はイリアスの頭を撫でてみた。

 

「……///」

 

 何も言ってこないから、正解だったのだろうか。

 

「そろそろいいだろうか」

 

 気が付けば目の前にあのペストマスクの女性が立っていた。俺とイリアスは慌てて跳ね起き、その人物に対峙する。そして、彼女は見た目の怪しさとは裏腹に、何とも優雅に礼を返した。

 

「私はラ・クロワ。生前はシロムと名乗っていたものだ。訳あって、現在はこんな体だが、人間に敵対する意図はない」

 

「ならば、ここにいる理由を聞かせてもらえるかの?」

 

 

 そう言うラ・クロワを名乗る人物に、たまもが問いかけ、その言葉に彼女は悩まし気にくちばしをさすった。

 

「ここにいる理由……と言っても、大したものではない。私はリッチー。死者の王だ。故に、死霊の声も聞こえる。ここの者はまともに埋葬もされぬ貧乏人の墓地でな。冥府へと向かいたくても向かえぬ者の魂が多くさまよっているのだ。

 そのようなものを打ち捨てるよりは、望む者を定期的に冥府へと送ってやろうと出張ってきているのさ」

 

「そうなのか……それは、素晴らしいと思うんだけどさ、なんかリッチーの仕事じゃないような気がするんだが……」

 

「ここのプリーストどもは拝金主義者だからね。金にならないこの墓地には寄り付かないよ」

 

 手を広げてそう言うラ・クロワはパチン、と手を合わせてイリアスに目線を向けた。

 

「そうだ!君、一つお願いを聞いてくれないか?」

 

 そう言うと、彼女は先ほどのハーピーに目を向ける。

 

「私はリッチーの性質からか、新鮮な死体があると私の意思の有無にかかわらず、勝手にアンデッドにしてしまってね。しかも生前の意志や力が強いと、除霊もできない存在を生み出してしまうんだ。

 死後、ここまで来るまでに、ハーピー、フェアリー、ラミア、スキュラ、エルフ、人魚と、アンデッドにしてしまって、しかも相応に強いものだから除霊もできなくてね。みんな冥府へと向かいたがっていたんだけど、私の力ではどうにもできなかったんだ。

 だけど、先ほどのターンアンデッドで、皆、逝けたようでね。だから、どうかこの子も。みんなのところに送ってほしい」

 

 そう言うと、ばつが悪そうに先ほどの鳥人、リフレツィアが進み出た。

 

「……ご要望なら、あなたも一緒にお送りしますよ」

 

 そう言うイリアスに、ラ・クロワは静かに頭を振った。

 

「魅力的な提案だが、遠慮しておくよ。私にはまだ、やることがあるのでね」

 

 

 ……結局、俺たちはリフレツィアを土に還し、ラ・クロワは見逃すことになった。

 ラ・クロワの強い意志に、俺たちが折れた形だ。

 

「カズマ……私は、役立たずなのでしょうか」

 

 帰り道、先に進んでいるたまもとエルを眺めながら、イリアスがつぶやいた。

 

「ん?」

 

「私がこの依頼を受けたのは、カズマ、あなたを見返すためです。私の実力を発揮し、こんなことができるのだと、あなたに証明したかった……。ですが、そのせいであなたを死なせてしまって……私は、本当に役立たずではないのかと、そう思ったのです」

 

 そんな言葉を聞いて、俺はイリアスのおでこにデコピンをする。

 

「!な、何をするのです!」

 

「難しいこと考えすぎだ。イリアス。ハーピーを浄化した時の、ラ・クロワの顔は見ただろ。戦闘ではあんまり役に立たなくても、お前は十分すごい奴だってのは、分かってるつもりさ。

……俺も悪かったよ。あんなこと言って」

 

 その言葉を聞いて、少し顔を赤くしながらイリアスがそっぽを向いた。

 

「そ、そこまで言うのなら今回だけは許しましょう。ええ、寛大な女神の心に感謝することですね」

 

「はいはい、ありがとさんっと、しかしこの世界、リッチーが普通に街に住んでるとか、意外過ぎるよな」

 

 なんと、ラ・クロワはこの街に店を構えて商売をしているらしい。リッチーと言えば、ダンジョンの奥で冒険者を待っているようなイメージだったが、本人曰く「研究目的でもないのにダンジョンなんて不便な場所に引きこもるわけないだろう?」と言われてしまった。おっしゃる通りだ。

 

 と、そんなことを考えていると、たまもがこちらに近づいてきた。

 

「のう、カズマなんとなく流れでここまで来てしまったが、うちら、ゾンビメーカー討伐しておらんよな?」

 

「あ、、、」

 

 討伐依頼、失敗。

 




 というわけで、仲直り回&神様関係の伏線回収回でした。
次回からまたこのすば路線に戻ります。(若干省略有り)
しかし、ドブ川様がきれいなドブ川様になってしまう。あの人反省させずにストーリが作れる才能があればなぁ……。
 アリスフィーズ様に関してはまだ詳細が出ていないのでイリアスに悪感情を持っていないという設定にしました。
 ふと考えると、アリスフィーズのモン娘に対応するのって、イリアスの天使なんですよね。
 そう考えると「なんか自分の被創造物でもないものに手を出したらガチギレして攻撃吹っ掛けて来たんだが。わけわからん」くらいのスタンスの可能性もあったのかな……とか。終章が出てない今のうちに書いちまおう。と思ってできたのが今回のアリスフィーズ様です。
 なお、今後カズマが死んだ場合はアリスのところじゃなくて反省会(六祖封印されたイリアスのところ)に直行します。
 多分細かく考えると封印されつつ同格のアリスがいるのに時を巻き戻すとかできるわけないような気もするけど、細かいことは気にしない。

 あ、イリアス様は聖魔術師で習得できるスキル+浄化系スキルを習得している設定です。

 因みに私事ですが、資料確認とこの作品書き始めてやりたくなったのでもんパラをやってるときに、おねだりが弾かれて初めて中章と前章が統合されていないことに気付きました。最低でも3回ループさせてるはずなのに……。

 まあ、エ○ゲーじゃなくてRPGメインで遊んでるからしょうがないね!

変更箇所
・食事後、すぐにリッチーと遭遇
・カズマ死亡(イリアス改心のためには激烈な刺激が必要との判断から)
・女神をエリスから初代アリスフィーズに変更
・クリスの正体が女神の地上での姿から女神の子孫に変更
・蘇生魔法を、反省会行きに変更
・リッチーの近くにいるゾンビを有象無象からシルク・ドゥ・クロワに変更。
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