「どうやら、幹部対策には王都の方から上級冒険者が来るみたいだな。それまではまともな仕事ができないって感じみたいだ」
「なれば、うちの日課に付き合ってほしいのじゃ。うちは一日一回爆裂魔法を打つことを日課にしておるゆえの」
俺たちは、連れ立って町の外に出ていた。
今は魔王軍幹部におびえて魔物たちは姿を現さない。一方で、依頼がないため爆裂魔法を撃てず、たまもは悶々とした生活を送っており、この度俺に頼んできたということだ。ひとりで行けと言ったのだが、そうすると「うちが爆裂魔法を使った後に倒れた時、誰がうちを連れて帰るのじゃ?」と聞き返されてしまった。
なお、イリアスは金欠の為、建築の女神さまにジョブチェンジしている。最近はコロッケ屋のバイトも始めたらしい。
と、そんなことはともかく。
「なあ、ここら辺で良いんじゃないか?」
「ダメなのじゃ。町に近いとまた守衛さんに怒られてしまうのじゃ」
「……いま、また、っつったか?もしかして、前に怒られたことがあるのか?」
そう聞くと、たまもはこくりと頷いた。
呆れつつも、そう言えばこの世界に来てから自然に触れながら散策なんてしたことが無かったと思い返す。まあ、そもそも、魔物のはびこるこの世界で安全なピクニックなどできようはずもないので当たり前と言えば当たり前なのだが。
この際だ、と思いながら俺はたまもとのピクニックを楽しむことにしたのだった。
改めてみれば、この世界は近場の林であっても地球と比べて自然が豊かだ。青々とした木々を眺めていると、たまもが草を漕いで何かを拾っていた。
「……何してるんだ?」
「おぉ、カズマ、良いものを見つけたのでな。ちょっと寄り道じゃ」
そう言うたまもの手にはなにやら野草が握られていた。
「何だその草」
「わらびじゃ。帰ったら、わらび餅でも作るとしよう」
……なんかそんなことを言われると、見た目とか全部無視しておばあちゃん味を感じてしまうんだが。
「さて、そろそろ良いと思うんじゃが……おお!あれがよい!」
そう言うと、たまもは目をきらりと光らせて遠くを見つめた。
そこには大きな廃城が姿を見せていた。
「あれほどの大きさ、形。爆裂魔法を放てば、さぞ爽快であろう!それに……」
そう言って、たまもは目を細める。
「あのような場所に人は住むまい。もし住もうとするのなら、よっぽどの物好きか……くぅくぅ」
そして、すぐさま構えを取る。
「よく見ておるがよい!」
そう言って、たまもの扇に力が集まり、巨大な魔方陣が形成される。
「穿て!エクスプロージョン!」
そして、力が収束し、巨大な熱線が廃城に突き刺さったのだった。
こうして、
俺たちの爆裂魔法を放つための遠出、いうなれば爆裂散歩が始まったのだった。
それは爽やかな午後の昼下がり。
「エクスプロージョン!」
それは氷雨の降る朝。
「……プロ―ジョン!」
それは食事ごの腹ごなしに。
「……ジョン!」
そんなこんなで、何度もたまもの爆裂魔法を見続けている間に、俺はその日の爆裂魔法の良しあしが分かるほどになっていた。
「エクスプロージョン!」
今日も今日とてたまもの爆裂魔法が廃城へ突き刺さる。余波の爆風がこちらまでやってきて、俺の髪をかき上げてくる。
「おっ、今日は良いな。爆発の余波がズンっと腹の奥まで響く感じだ。ナイス爆裂!」
「ナイス爆裂、じゃ。カズマ、お主も爆裂魔法が何たるかを分かってきたようじゃのう♪どうじゃ、本当に爆裂魔法を習得する気はないか?」
「うーん。確かに爆裂魔法の威力は魅力的だけどな。ま、一通りスキルを覚えて、それでもポイントが余ったら、最後に取得するのはありかもな」
そう言って、俺はたまもを抱きかかえる。たまもも特に何事もなく俺に身体を預けてくる。まあ、単純に俺を男としてみていないだけかもしれないが。
「……それにしても、たまも。お前めっちゃ軽いよな」
「なんじゃ?セクハラか?エル辺りに告げ口しても良いんじゃぞ?」
「ばっ!?やめろ!あいつ割と本気で怖いところあるんだよ!そうじゃなくて、あんだけ馬鹿食いしてるのに、すごい軽いんだなって思ってさ。それこそ犬か狐あたりの中型動物を抱えてる気分だ」
「んなっ!?」
驚愕するたまもの声と同時に、彼女のお尻からなにやらもりもりと何かが盛り上がってくる感触がする。俺は慌てて彼女を放り出した。
「痛っ!?」
「な、何するんだ!驚いたからって脱ぷ……ん?」
振り向いて抗議しようとした俺の目の前にいたのは、うまく木にもたれ掛かった、たまもっぽい見た目の狐耳の少女だった。
「……しもうた。お主が狐などというから、動揺してしまったではないか」
「え?いや、え?たまも……だよな?」
俺がそう言うと、たまもは木に寄りかかったまま頷いた。
「まあ、ばれてしまってはしょうがない。そうじゃ。うちは紅魔族のたまも。かくしてその正体は紅魔族の九尾たまもじゃ。紅魔族の女は実は皆狐なのじゃ。じゃが、村の掟で人里に降りるときは変化をせねばならんでの。こうして隠しておったのじゃが、先ほどの動揺で術がとけてしもうたわ。
術を掛けなおすにも魔力が回復してからでないといかんし……仕方ない。しばらくここで休ませてもらっても良いか?」
「あ、ああ。いや、まあいいんだけど。そうか……たまもって狐だったのか。もしかして、軽いのもそれが理由か?」
「うむ、うちら狐は身軽さを身上にしておるからのう。それに常に変化しておると力の消費も早い。うちなんかは熟練者じゃから維持に魔力は殆ど使わんがの。その代わり体力がいるのじゃ」
そう言ってくぅくぅ笑うたまもに、俺は気の抜けたように同じ木に寄りかかる。
「全く、びっくりしたよ」
そう言って地面に手を突くと、そこにあったつややかな尻尾が手に触れた。俺はなんとなくその尻尾を手で弄ぶ。
「ひゃ……!?」
「この尻尾、すごい滑らかだな。ずっと触っていたくなる」
「ちょ、やめ、やめるのじゃ!」
俺はじっくりと尻尾を撫で上げる。すべすべしていて、温かいその尻尾は天日干しした布団にも似た暖かなにおいと、極上の絹のような肌触りをしていた。しかも内部に肉があるからか程よく温かく、いくらでも触っていられる気分になる。
「尻尾……、尻尾……」
「い・い・か・げ・ん・に!せぬかっ!?」
頭に鈍い衝撃を感じたかと思うと、俺はそのまま意識を失ったのだった。
……気が付くと、俺はたまもに負ぶさられて歩いていた。
「おう、起きたの。全くあのような暴走は控えてほしいものじゃが」
そう言うとたまもは苦笑しながらも舌を出してこちらを振り向いた。
「今回のはうちも悪かった。故に不問にしよう。次があるかは……お主次第かのう?」
その言葉に、どことは言わないが熱いものが滾ってしまったのは仕方ないと思う。
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「緊急警報!緊急警報!冒険者の皆さんは、直ちに武装し、街の正門へ集まってください!」
もはやおなじみになった放送を聞き、俺はすぐさま武装を整え、急いで正門へ行こうとして……たまもに引き留められた。
「カズマ、そう急ぐでない。もちろんうかうかはしておられんがな」
そういうと、たまもが俺たちに深呼吸をするように促した。
「さて、うちの予想では、これから一世一代の大勝負となるじゃろう。心の準備はよいかの?」
そう言ってたまもを先頭に到着した街の正門で、俺たちはその威圧感に身構える。
そこにいたのは、デュラハンだった。しかもただのデュラハンではない。メデューサのように頭に大量の蛇を湛えた異形の姿をしたデュラハンだった。
そのデュラハンが、俺たちが来ると同時ぐらいのタイミングで、街の前の数多の冒険者に言葉を投げかけてくる。
「……私は、最近この街の近くの廃城に引っ越してきたものだが……」
そう言っているうちに、そのデュラハンはわなわなと体を震わせ、その声量を増していく。
「私の城に、何度も、何度も、何度も何度も何度も!爆裂魔法をぶっ放す頭のおかしい奴はどこのどいつよ!」
その言葉が響くと共に、一瞬で冒険者の目線がたまもに向けられた。そして、その目線を、たまもは一身に受け、嫣然と微笑んだ。
「ねえ、なんでこんな陰湿なことするの?ほんとに意味が分からないんだけど?いやがらせ?言いたいことがあるなら正々堂々言いに来なさいよ!」
ヒステリックに叫ぶデュラハンに、たまもは扇をパチンとたたんでデュラハンを指し示す。
「愚かよのう、そうしてまんまとおぬしはこのアクセルの街に単身でやってきてしもうたというわけじゃ。いくら初心者の街とは言え、この街の冒険者は多い。なれば、お主であってもたやすく討ち取れるとは思わんか?」
「!?」
「さあ!冒険者たち!町を守るために力を合わせるのじゃ!」
そう言って、たまもは先頭に立ってデュラハンに突撃する。二度の鋭い爪撃を剣で受け止められ、クルリと宙返りをしながら後方へと後退する。
「魔法使い!攻撃魔法を放て!」
そう言って自身も扇を構えて魔法詠唱の体制に入った。そんなことをすれば格好の的である。
だが、とたまもはほくそ笑んだ。これほどの冒険者がいれば、仮に一割であっても攻撃に参加すれば足止めになるはずだ。そして、爆裂魔法なら魔王軍幹部といえども大ダメージを与えられるはず。爆裂魔法の励起状態から冒険者の退避までの時間をとるのが少々難ありだが、遠距離攻撃を持っている冒険者で全力の妨害をすれば可能なはずだ。
「深紅の混交を望み給う!……」
「ライトオブ、セイバー!!」
そんな風に思っていたたまもだったが、一つ、大きな間違いを犯していた。たまもはこの街の冒険者なら、デュラハンに勝てると本気で信じていた。だから、半ば強制的にこの街の冒険者を戦闘に参加させる状況を作り出した。しかし、そんな状況で、しかも見た目幼女の元凶に指図されて、指示に従いたい者など要るだろうか。
だからこそ。放たれたのがたった一条のライトオブセイバーだったことは、仕方がないことだったのだろう。
「ふんっ!」
「無謬の理とな……ガハッ!?」
たった一条の魔法ではいくら威力が高くても目くらましにすらならない。デュラハンは何の抵抗もなくすり抜け、ボールのようにたまもの腹を蹴り抜いた。
たまもは、二度、三度と地面を跳ね、地面に力なく横たわった。
「おイタが過ぎたわね。クソガキ」
「あ……あ……」
何が起こったのか分からない、どうしていいかわからない。困惑と、焦燥を浮かべたたまもは、恐れと恐怖を抱いた目でデュラハンを見つめ、何とか逃げようと必死に体を動かした。
「残念だけど、あなたはもうおしまい!少しづつ身体を石にされる恐怖に身もだえながら死になさい!”石化の邪眼”‼」
「させない!」
デュラハンが邪眼を使う直前、たまもを庇うようにしてエルがその身を滑り込ませた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」
「エル!エル!?」
邪眼を受け、がくがくと震えたエルは、そのまま力なくたまもに寄りかかる様にして倒れてしまった。
「……。当初の予定とは少し違ってしまったけれど。まあいいかしらね。いや、むしろこちらの方が面白くなるかもしれないわね。
そこの頭のおかしい娘よ。今私は、この女に石化の呪いをかけた。これから一週間かけてこの女は自らの体が石になっていく恐怖にさいなまれ、そしてその後二週間、自我が失われる恐怖に襲われることになる。
呪いを解いてほしければ、私のところに来ると良い。……もし私を倒すことができれば、呪いは解ける。尤も、私を倒せるとは思えないけれど」
そう言ってしまうと、デュラハンは高笑いをしながら立ち去ってしまった。
「……あ、ああ、エル、エル」
何度かエルの体をゆすり、その体がいつもの透明感のある水色から、一部が固い灰色になっているのに気づき、たまもは立ち上がって歩き出した。
「おい、どこに行くんだよ」
俺が思わずそう聞くと、たまもは貼り付けたような笑みで振り返った。
「あの古城へ行ってくる。安心せい。あのいけ好かぬ女を張り倒してくるだけじゃ。すぐに戻る」
そう言って前を向いた瞬間、吐血して倒れ伏した。
「たまも!」
慌てて駆け寄ると、たまもは浅い息をして震えていた。明らかに状態が悪い。
「おい!誰かお願いだ!回復魔法を頼む!」
俺が慌ててあたりに叫ぶと同時、一帯に巨大な魔法のヴェールがかかった。
「オールメガヒール!そして、セイクリッドブレイクスペル!」
その影は空から急降下し、俺とたまも、そしてエルの前に降り立った。
「すみません、遅れました。魔物は去った後のようですね。エルに妙な呪いがかかっていたようですが……何とか解呪できたようです。空からちらりと見ましたが、今回襲来したのはキメラメデュラハンのようです。
……厄介な相手に目を付けられました」
そう言って、イリアスがもう姿が見えないキメラメデュラハンを見つめているのを見ながら、何とか誰も失わずに済んだことに嘆息するのだった。
たまもちゃんが幹部の城だと分かって爆裂した結果、ストーリーラインがすごい勢いで撓んでる……。
自分にはギャグは無理かもしれないと思い知らされながら書いていたり。
今回、デュラハン役の方が割とマイナーな方のモン娘になってしまった。分からない方はもう一度もんクエ終章をプレイするんだ!(パラ未登場キャラ)
どうでもいいけど、頭の中で
イリアスフィール・フォン・アインツベルン「やっちゃえバーサーカー!」
謎の鎧男「ウォォォォォ‼」
って小ネタが思い浮かんだけど、そもそも何ンリヒさんが鎧男になってる時点でイリアスと敵対関係だし、なんだかんだと考えた結果、そもそも出オチすぎて作品にも差し込めないという結論に至りました。
変更点
・アークウィザードが和菓子作りに通じている
・アークウィザードが廃城の主に気付いている。(知識面や知能面というよりは野生の勘に近いもの)
・アークウィザード及び紅魔族の女性を狐化(以前のあとがきの通り)
・カズマがアークウィザードに割かし直接的なセクハラを行う。
・アークウィザードがカズマを背負って帰る。
・カズマたちが正門に向かうのが少し遅れる(たまもがおおよそ察しているため)
・デュラハンのベルディアからキメラデュラハンに差し替え。
・デュラハンが町に来たことが実際にアークウィザードの作戦のうち。
・第一回目の接触で割とガチ目にバトルが始まる。
・クルセイダーにかけられた呪いを、死の呪いから進行が遅い石化の呪いに差し替え。(なお、クエ本編でキメラデュラハンが石化攻撃してこないのは内緒)
・アークウィザードが割とシャレにならないダメージを受ける。
・女神さまがそもそも現場におらず、遅れて登場する。
次回は全部原作にない回になるので、ちょっと反響が不安だったり。カズマの悪友と、ライトオブセイバーぶっ放した人が登場する予定です。